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 **君がいるから・・
 
 
 
 ☆
 
 
 もしも、あたしに勇気があったなら。
 
 
 ☆
 
 「ん...」
 
 目を覚ました高森ますみは、まず己の身体の異変に気が付いた。
 
 (う、動けない...なんで...?)
 
 動けない―――正確に言えば、両手首だけが動かせない。
 拘束されているのか―――なぜ?
 それも、割りと自由なこんな不完全な恰好で?
 
 「お目覚めかしら?」
 
 声をかけられる。
 振り向けば、そこには蝋燭の灯りに照らされた美熟女―――五塔蘭が微笑みを浮かべ佇んでいた。
 
 「あ、あの...?」
 「運が悪かったわね。私よりあなたの方が早くに目覚めるなんて」
 
 困惑するまなみを余所に、蘭はますみの肌をなぞりあげる。
 
 「ひゃいっ!?」
 「いいわねえ~~~若いって」
 
 ぞくぞくと走る怖気と若干の快感を堪えつつ、現状を整理する。
 
 たしか、最初に気を失う前―――正確に言えば、九条章太郎という男がバトルロワイアルツアーとやらの説明をする前。
 烏丸奈緒子によって引き起こしてしまった事件を金田一が解決し、ますみも彼女に扇動されていたとはいえ罪を犯した償いをしていた。
 その後、一旦仮釈放され、小学校の同窓会に参加していた。
 そして、意識が遠のいたかと思えば、あのバトルロワイアルツアーの説明を受け、再び意識が遠のき、現在に至る。 
 
 
 (要はなに?このおばさんがあたしが眠ってる間に縛り上げたってこと?)
 
 「あ、あの...ふわぁ!」
 「肌なんかこんなにすべすべして...髪も黒々とつやつやして...」
 
 なぜこんなことをするのか、問いただそうとするますみの言葉は、下着ごしに身体中を弄る蘭の手つきに遮られる。
 
 「ほんと...あの子、美雪だったかしら。あの子にも負けないくらい若々しいわぁ」
 
 美雪。
 その名に、ますみの眉根がピクリと動く。
 もし、その美雪が自分の知る美雪であれば―――彼女も、この女にこうして?
 
 「美雪ちゃんを知ってるの!?」
 
 思わず食ってかかるますみだが、蘭はにこりと笑みを返すだけで言葉で答えない。
 その蘭の態度にますみの苛立ちは募っていく。
 
 ―――なんなのよこの色ボケババアは!?人を縛り上げたと思ったらセクハラ紛いに人の身体を弄ったりして!
 
 もともと男勝りな性格であるますみは思わず怒りと共にそう口にしかける。
 が、しかし。
 ますみは仮にも業界人である。
 ここで下手に逆らえば良い結果は生まないことはわかっていた。
 そのため、ここまでどうにか耐えていたのだが―――
 
 
 「その若さ...羨ましいわ...」
 
 蘭はますみの服の襟を掴み、そして
 
 「ほんと...憎ったらしいくらい...!」
 
 ビ リ ッ
 
 腕を振りおろし、一気に下腹部まで服を引き裂いた。 
 
 
 「きゃあっ!」
 
 思わず悲鳴をあげるますみに、蘭は相も変わらず笑みを浮かべている。
 ここで捕まっていたのが、原作通り七瀬美雪であれば蘭に為すがままにされていただろう。
 
 「なに...すんのよっ!」
 
 だが、ここで捕まっているのは高森ますみ。
 男勝りであり、且つ中学生時代は不良だったフダつきだ。
 そんな彼女がこうまでされて黙っていられるはずもない。
 
 拘束されていない自由な足での蹴りあげを放つ―――が。
 
 「でも私の若さと美しさを保つ方法が一つだけあるの」
 
 蘭は、ますみから一歩退くことで蹴りをあっさりと回避。
 そのまま、『若さと美しさを保つ方法』について解説を始める。
 
 「ハンガリーのエリザベート・バートリ夫人って知ってるかしら?彼女は自分の美しさのために"若い乙女の生血"を身体にそそいだのよ」
 
 ますみは、エリザベート・バートリー夫人など知らない。知ってる人の方が少ないだろう。
 だが、そんな彼女でも蘭の言いたいことはわかっていた。
 
 (この人は、あたしを殺すつもりだ)
 
 「な、なんで殺しなんか...そんなに優勝したいの!?」
 「いいえ。あんなチャチなものには興味が無いわ。私は三日後の船に乗せてもらって堂々と帰るつもりよ」
 「じゃあ、なんで...!」
 「若さを保ち
 
 傍からみれば、蘭はおほほほほ、と高笑いする創作にありがちなマダムだ。
 しかし、いまのますみにはそんなものは見えない。
 悪魔。
 眼前にいるのは、人の皮を被った醜き悪魔だ。 
 
 
 「さて。どこからがいいかしら...?」
 
 蘭の手が、再びますみの身体を蹂躙せんと伸ばされる。
 
 (やだ...)
 
 ますみは、迫りくる悪魔の手になにも出来ない。
 ただ恐怖に身を震わせるだけだ。
 
 (あたしは、こんなところで死にたくない...!)
 
 まだやらなければならないことは山ほどある。
 自分の罪を隠すために犯してしまった罪の贖罪。
 償い終えた時に恩人である君沢先生へ報いること。
 そして、いつだってますみを救ってくれた大切な『彼』と今度こそ胸を張って会うこと。
 
 まだ何も成し遂げていないというのに、自分の命はこんなよくわからないおばさんに絶たれてしまうのか。
 
 (助けて...)
 
 目を瞑り、いもしない救世主に縋ってしまう。
 だが、極限にまで追い詰められた人間にできることなど、精々祈ることくらいだ。
 
 (助けて...はじめちゃん...!)
 
 彼女が望む『彼』は、この会場にはいない。
 故に、都合の良い奇跡など起きない。
 だから。
 
 「うっ!」
 !?
 
 
 起きるとすれば、それは『必然』か『偶然』だけだ。 
 
 
 ☆
 
 あの人は、泣いてるあたしに手を差し伸べてくれた。
 
 あの人は、あたしにとっての光だった。
 
 
 ☆
 
 (こわい...)
 
 片目が緑色の少女―――斑目るりは、物陰から部屋の様子を窺っていた。
 九条章太郎の説明の後、獄門塾のとある無人の一室で目を覚ました彼女は幼いながらも努めて冷静に状況を整理していた。
 そんな折だった。
 しばらく待機していると、階下から物音が聞こえたので、るりはおそるおそる音の出所を確認しに向かった。
 
 その先で行われていたのは、熟女による凌辱。
 母に対して憎き"あの男"がやっていたのと酷似していた。
 
 違う点があるとすれば―――あの女は、捉えている女性を殺そうとしている点だろうか。
 
 (に、逃げないと)
 
 捉えられている人は可哀想だとは思う。
 しかし、彼女はるりの家族、ましてや知り合いなどではない。
 非力な少女の力ではなにもできはしない。あの女がこちらに気が付く前に逃げるのが最も賢い選択だろう。
 
 (...でも。あのお兄ちゃんは)
 
 ここに連れてこられる前の最後に会った人の姿を思い出す。
 彼は、見ず知らずの自分を身体を張って助けてくれた。
 相談しにいけば、一緒に遊んでくれると笑顔で約束してくれた。
 
 きっと、お母さんのことを相談すれば、あの人は力になってくれるだろう。
 
 (あのお兄ちゃんだったら...!)
 
 その"もし"がよぎった時、るりの足は自然と進んでいた。
 あの恐ろしい光景から逃げるのではなく、向き合う方へと。
 手に持った護身武器を構え、憎むべき悪魔へと一気に駆け出した。 
 
 ☆
 
 よほど"お楽しみ"に夢中になっていたのか、蘭はるりの接近への反応が遅れてしまう。
 るりが蘭の腹部に突き立てたのはスタンガン。
 大の大人でもしばらくは動けなくなる代物だ。
 
 「うっ!」
 
 蘭は悲鳴をあげ、その場に蹲る。
 
 「え...?」
 
 ますみは、予想外の出来事に目を白黒させた。
 突如現れた少女がスタンガンで変態熟女を攻撃したのだ。
 それを瞬時に理解しろというのは無茶な話だ。
 
 るりは、ますみの両手を縛り上げていた布を側に備え付けてあった蝋燭で焼き、ますみを解放する。
 
 「あなた、なんで...?」
 
 ますみの問いに、なにかを答えようとするるり―――その背後で、蘭がゆらりと立ち上がる。
 
 「ッ...あんたなんか!」
 
 ますみはとっさにるりを引き寄せ、蘭の顎を蹴りあげる。
 仮にも元ヤンの彼女の蹴りだ。そんじょそこらの女子高生のものよりは強烈なそれを受け、蘭は地面に倒れてしまった。
 
 「行こう!」
 
 これを好機と見たますみは、るりの手を引いたまま全力疾走で部屋を後にする。
 残されたのは、呻きつつ仰向けに転がる蘭と二人分のデイバックだけだった。 
 
 
 ☆
 
 どれほど走っただろうか。
 気が付けば、真っ暗闇の森の中だった。
 息を切らしながら膝に手をつくますみとるりは、追手がないことを確認して木陰に身を潜める。
 
 「こ、これでしばらくは安全なはず...」
 「......」
 「助けてくれてありがとうね。...でも、なんであたしを助けてくれたの?」
 「......」
 
 るりは、顔をあげつつも、しかしますみからは視線を逸らしつつポツリと呟いた。
 
 「お母さんも...あいつにあんなことされてたの」
 「え?」
 「あたしの父親のフリしてるあいつは、いつもいつもお母さんにひどいことばっかりしてた」
 
 徐々に、ますみへと視線を合わせつつ、るりは己の身の上を語っていく。
 
 「だから、あたしはあいつが大嫌いだった。でも、止められなかった」
 「怖かったの。あたしが止めようとしたら、お母さんはもっとひどいことされちゃうかもって...ううん。本当は、あたしがお母さんみたいなことをされるのが怖かったのかもしれない」
 「でも、あのお兄ちゃんは自分が傷ついてもあたしを庇ってくれた。あたしの所為で怪我したのに、それでも明日遊んでくれるって約束してくれた」
 「もしもお兄ちゃんみたいになれたら、お母さんをあいつから助けられるかもしれない。そう思ったら...」
 
 いまにも泣き出しそうになるるりの境遇に、ますみは同情の念を抱く。
 このどうみても小学生程度であろう彼女の身の回りには、どうやらとても大きな"苦しみ"が渦巻いているらしい。
 ますみ自身、小学生の内から親戚をたらいまわしにされていることから、親に対して、特に出て行ってしまった母についてはあまりいい思い出はない。しかし、それでも両親をあいつ呼ばわりするほどではなかった。
 同時に。
 るりが犯罪を犯してしまうのではと一抹の不安がよぎる。
 愛情と怒り。
 それが原因で烏丸奈緒子も犯罪に走ってしまった。
 これほどまでに父を憎んでいるとすれば、彼女が成長した後に父を殺してしまう可能性も否定できない。
 
 既に犯罪を侵してしまった者として、彼女にそんなことはさせたくない。
 
 「...よし、わかった。このツアーから帰ったら、お母さんはあたしがなんとかしてあげる」 
 
 
 唐突な提案に、るりは思わず顔をあげる。
 
 「あなたはあたしを助けてくれたでしょ。だったら、今度はあたしが助ける番よ」
 「で、でも、どうやって?」
 「そ、それは...」
 
 勢いで言ってしまったが、なにも思いつかない。
 彼女の複雑な家庭についてなにも知らないのだから当然だ。
 
 けれど。
 
 小さいころからますみを何度も救ってくれた彼なら。
 金田一はじめなら、なにか良い考えを思いつくかもしれない。
 
 「―――あたしの友達に、金田一はじめっていう頭のいい男の子がいるの。はじめちゃんにかかれば、どんな難事件もあっという間に解決しちゃうんだから!」
 「金田一...お兄ちゃん?」
 「へ?」
 「あたしを助けてくれたお兄ちゃんも、金田一はじめって名前だったの」
 「!そうなんだ」
 
 彼女の語った"お兄ちゃん"の像が、ますみの金田一はじめの姿とピタリと重なる。
 なるほど、彼ならそんなことを言うだろうな、とますみは納得する。
 
 「そっか...変わってないんだね、はじめちゃん。あたしもね、はじめちゃんに助けられたの」
 「お姉さんも?」
 「うん。はじめちゃんは、今までも色んな人の悩みや苦しみを解決してくれたの。だからあなたの苦しみだってきっとくれる!...って、あたしが力になるって言ったのに、いきなりはじめちゃんに頼るなんてかっこ悪いね」
 「ううん、そんなことないよ。ありがとう、お姉ちゃん」
 
 るりの笑顔に、ますみは思わず照れくさくなり頬をかく。
 なんだ、この子、こんな笑顔もできるんだ。
 
 「よし。とにもかくにも、ここから脱出しなくちゃ。えっと...」
 「るり。斑目るり」
 「るりちゃんね。あたしは高森ますみ。よろしくね!」
 「よろしく、ますみお姉ちゃん」
 
 互いに微笑みを浮かべ、握手を交わす二人。
 同じ光を求めた二人の事件簿は、まだ始まったばかり―――
 
 
 
 【一日目/深夜/獄門塾敷地内】
 
 
 【斑目るり@黒死蝶殺人事件】
 [状態]疲労(中)
 [装備]速水玲香を気絶させた時に安岡真奈美が使用したスタンガン@速水玲香殺人事件、
 [所持品]基本支給品一式
 [思考・行動]
 基本:脱出して金田一お兄ちゃんと遊ぶ。
 0:ますみお姉ちゃんと一緒に行動する。
 ※参戦時期は金田一と遊ぶ約束をした後。
 
 
 【高森ますみ@仏蘭西銀貨殺人事件】
 [状態]疲労(大)、ほぼ半裸(下着)
 [装備]なし
 [所持品]基本支給品一式
 [思考・行動]
 基本:脱出する。
 0:るりちゃんの力になる。 
 
 
 
 
 
 
 
 
 「いいわねえ、若いって」
 
 !? 
 
 
 
 ますみの左肩に、次いで右脚に灼熱が走る。
 たちまちそれは激痛に変わり、ますみはたまらず悲鳴を上げてしまう。
 
 矢だ。
 前方から放たれた矢がますみの肩と足を貫いたのだ。
 
 「安心したら足を止めて、つい口が軽くなる...ほんと...若い子ってわかりやすい...」
 「な、なんで...!」
 
 姿を現したのは、ボーガンを携えた五塔蘭。
 完全に撒いたはずのあの悪魔のような女だった。
 
 (ずっと背後には注意していたはず...なのに、なんで!?)
 
 「あなたたちの足跡、馬鹿正直に真っ直ぐ進んでいたもの。だから先回りさせてもらっただけよ」
 
 そう言う彼女の身体は、ひどく濡れていた(性的な意味ではない)。
 なぜか。簡単だ。
 彼女は、ますみを捕えていた獄門塾からこの付近まで、流れる川を泳いで来たからだ。
 泳ぐといっても、この川は非常に流れが早く、ただ浮かんでいるだけでもかなり流されてしまう。
 更に言えば、人一人の手を引き走るというのは存外体力を消耗するものだ。
 ましてやここは森。足場の悪さも相まって、更に二人の疲労は増しており、二人は体感ほどには獄門塾から離れていなかった。
 その結果、蘭は走りつかれた二人に比べ少ない疲労で先回りすることができたのだ。
 
 「それにしても...あなたたちは随分とオイタがすぎたわね」
 
 蘭は再びボーガンに矢を装填し、発射。
 今度はますみの腹部に刺さった。
 
 「ッ!!」
 「あなたはそこでしばらく寝ていなさいな。この子の次に可愛がってあげるわ」
 
 倒れたますみに微笑みかけながら、蘭はじりじりと距離を詰め寄る。
 身体を苛む声を出せない程の激痛で動けないますみは勿論、るりもまた蛇に睨まれた蛙のごとく動くことが出来なかった。
 
 (ここまで...なの...?)
 
 今度こそ逃げ場はない。
 るりのような救けなど都合よくは現れない。
 自分はるり諸共あの女に嬲り殺されるのが運命だ。
 
 (ごめん―――)
 
 絶望に支配されたますみは、目蓋を閉じ全てを投げ出した。 
 
 
 「―――たすけて」
 
 声が聞こえた。
 泣きそうになりながら、助けを求めるるりの声が。
 
 でも。
 あたしはこの様で、もう動けない。
 ごめんね、るりちゃん。
 あたしじゃ、どうしようも―――
 
 「助けて、金田一お兄ちゃん!」
 
 ―――お前を陥れた真犯人「葬送銀貨」は、必ず俺が捕まえてみせる!ジッチャンの、名に懸けて!
 
 るりの叫びと共に、ますみの英雄(ヒーロー)の顔が脳裏を過る。
 
 (はじめ、ちゃん...?)
 
 そうだ。きっと、彼ならばこの状況でも決して諦めない。
 最期まで生きるため、救うために知恵を振り絞る。
 けれど、ますみは金田一はじめではない。
 どうあがいても、犯罪者である自分はヒーローにはなれない。
 
 (でも...)
 
 だから諦めるのか。
 しょうがなかったで済ませるのか。
 それで―――はじめちゃんに、胸を張って向き合えるのか。
 
 (そんなの、できるわけがない) 
 
 
 
 「あら?」
 
 倒れたますみの傍を通り過ぎようとした蘭は、右足に違和感を憶える。
 目を向ければ、ますみの右手が掴んでいた。
 
 「...はぁ」
 
 蘭は溜め息をつき、ますみの手を振り払おうと足を振る。
 しかし、ますみは離さない。
 歯を食いしばり、動かされる度に走る激痛に耐えている。
 あまりのしつこさに、蘭のこめかみに青筋が奔る。
 
 「この、いい加減に―――ッ!」
 
 ますみの息の根を止めるためにボウガンを向けたその時。
 蘭は、迫りくるるりの気配に気が付く。
 ますみを救うために、るりが手に持つのはスタンガン。
 先程同様、蘭の身体に電流が―――
 
 「やっぱり若いって単純ねえ」
 
 流れなかった。
 先程は彼女の存在を認識していないうえでの不意打ちだったために不覚をとったが、いまは違う。
 スタンガンが蘭の身体に触れる寸前に、るりの手は蘭の空いた左手に抑えられていた。
 所詮は子供の力である。
 体重約47㎏の美雪を引きずる程度の力しかない蘭でも、突き飛ばすのは容易だ。
 
 これ以上スタンガンを受けてはたまらないと、蘭はますみへ向けていたボーガンをるりへと向ける。
 
 その隙をつき、ますみが―――気が飛びそうになる程の激痛に耐えながら―――蘭の横っ面を殴り飛ばす。
 倒れた蘭に追い打ちをかけるように、ますみもまた肘を突出し倒れ込む。
 ますみのひじ打ちは、蘭の鼻柱に当たり、蘭の鼻からはどくどくと不様に血が溢れだす。
 だが、ますみもこれ以上追撃をかけることも出来ず、ふらふらと立ち上がり、るりに手をひかれるまま木陰に身を隠した。 
 
 「はぁっ、はぁっ...」
 
 ますみは、絶え間なく身体を走る激痛と荒ぶる呼吸を抑えることができず、木に背を預ける。
 心配そうに覗き込むるりの頭に手を載せ、無理やり笑顔をつくって見せる。
 
 「だい、じょうぶ、るりちゃん」
 「うん...ますみお姉ちゃんが、助けてくれたから...」
 「そっか...よかった。約束、守れたみたいね」
 
 ますみは、一旦るりから視線を離し、木陰から蘭の様子を窺う。
 彼女もまた、ますみやるりの反撃を警戒し、一旦木陰に身を潜めてこちらの様子を窺っていた。
 
 あの女が警戒してくれたのはこれ以上ない幸運だろう。
 おかげで、るりと言葉を交わす時間ができたのだから。
 
 「...るりちゃん、よく聞いて。あたしは、あいつをここで喰いとめる―――だから、あなたは逃げて」
 「...!...嫌...お姉ちゃん、死んじゃうよ...!」
 「だいじょうぶ。お姉さんは、あんなおばさんになんか負けないから!...ただ、誰か連れてきてくれると助かるかな、なんて...」
 
 たはは、と笑みをこぼしつつ、ますみはどうにかるりをこの場から離れさせようとする。
 
 「あたしが誰かを連れて来れば、ますみお姉ちゃんは死なないの?」
 「もちろん。あたしはこんなところで死んでられないの」
 「本当に死なない?」
 「本当だって。約束する」
 「絶対...絶対だからね!」
 「るりちゃんも、気をつけてね」
 
 るりの言葉に熱がこもっていくのがわかる。
 ますみから見ても、るりは大人びている―――というか、賢い子だということはわかる。
 だからこそ、るりはここでますみを置いていくことの意味がわかっていた。
 わかっていたからこそ、二人で留まる・逃走する選択肢を選べなかった。ますみが時間を稼いでいる間にるりが助けになる人物を探し出す選択こそが最善の道だとわかってしまった。
 
 「絶対、お兄ちゃんとお姉ちゃんの3人で遊ぶから!」
 「うん。あたしも楽しみに待ってるよ」
 
 その言葉を最後に、るりはとうとう背中を向けて駆けだした。
 ますみを救う、一縷の望みにかけて。
 
 
 
 【一日目/深夜/獄門塾敷地内】
 
 
 【斑目るり@黒死蝶殺人事件】
 [状態]疲労(中)、精神的ダメージ(大)
 [装備]速水玲香を気絶させた時に安岡真奈美が使用したスタンガン@速水玲香殺人事件
 [所持品]基本支給品一式
 [思考・行動]
 基本:脱出して金田一お兄ちゃんと遊ぶ。
 0:ここから離れて、ますみお姉ちゃんの力になってくれる人を急いで探す。
 
 
 [備考]
 ※参戦時期は金田一と遊ぶ約束をした後。 
 
 
 
 
 「やってくれるじゃない...!」
 
 痺れを切らした蘭が木陰から姿を現す。
 もはや彼女の微笑みの仮面は崩れ、醜悪なほどに歪んだ憎悪が浮かび上がっていた。
 
 このまま木陰に身を潜めてあの女が通り過ぎるのを祈ることもできたが―――やめた。
 あえて姿を見せ、逃げていくるりに気取られないように蘭の注意を引く。
 
 「ニタニタ笑ってるよりそっちの方が似合ってるわよ、おばさま」
 
 蘭の平手が奔り、パァン、と気持ちのいい音が鳴る。
 しかしますみは最後の意地で倒れそうになる身体を持ち直し、挑発するように笑みを浮かべる。
 
 挑発とは相手の怒りを誘発する行為であり、冷静さを失わせる意味を持つ。
 彼―――金田一はじめなら、きっとこうして時間を稼ぐだろう。
 
 
 「傷ついたあたしに逃げ場なんてない...そんな風に思ってないかしら」
 「?」
 「あたしを甘く見てるんじゃない?色ボケしたおばさん!!」
 
 
 そのますみの言動は、彼女の狙い通り蘭の怒りを買うことになった。
 蘭はボウガンの矢を振り上げ、そして―――
 
 
 ☆
 
 
 もしも、あたしに勇気があったなら。
 きっと、多くの人を不幸にすることはなかっただろう。
 
 あの人は、泣いてるあたしに手を差し伸べてくれた。
 いつだって助けてくれた。
 あの人は、あたしにとっての光だった。
 
 けれど。
 光は眩しすぎて、いつもどこか遠くの世界だって感じてて。
 あたしはあのひとと向き合っちゃいけないと思ってた。
 
 
 ねえ、はじめちゃん。
 
 あたし、あなたに失望されるようなことばかりしてきたかもしれないけど。
 
 今度こそ、あなたに正面から向き合えるかな。
 
 
 
 
 &color(red){【高森ますみ@仏蘭西銀貨殺人事件 死亡】}
 
 
 
 【一日目/深夜/獄門塾敷地内】
 
 
 
 
 【五塔蘭@異人館村殺人事件】
 [状態]スタンガンとますみの蹴りのダメージ、鼻血、怒り、ずぶ濡れ、全裸
 [装備]布施光彦のボウガン@オペラ座館殺人事件、矢(1/5)、いつも来ている服
 [所持品]基本支給品一式×2、ますみの不明支給品
 [思考・行動]
 基本:美しさを保つために若い女の子を狩る(性的な意味ではない)
 0:若い乙女の生き血を身体にそそぐ。
 1:ますみの血を身体にそそぐ
 
 [備考]
 ※参戦時期は美雪を拉致した後
 ※優勝を目指しているわけではありませんが、若い女の子は積極的に狩りにいくスタンスです。
 
 
 
  
-|003:[[同じ海人なのに白神はイケメン、怖い顔で犯人の陸は大差ない]]|時系列|006:[[職員会議]]|
+|004:[[尾ノ上死す]]|時系列|006:[[職員会議]]|
 |004:[[尾ノ上死す]]|投下順|006:[[職員会議]]|
 |&color(cyan){GAME START}|高森ますみ|&color(red){GAME OVER}|
 |&color(cyan){GAME START}|五塔蘭|016:[[六角村]]|
 |&color(cyan){GAME START}|斑目るり|020:[[すべてが終わる前に、明かりが帰る前に]]|