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**安い誤解  鉄は熱いうちに打て、という言葉がある。  これを、たこ焼きに喩えるならば、「たこ焼きは熱いうちに食え」と言い換えられるだろう。  要約すると、たこ焼きは、冷めたらまずいのである。そもそも、「焼き」と入っている物を冷ましてしまうと、それは「焼き」ではない。  いや、たこ焼きの場合、調理方法に「焼く」という工程が出てくる為に、もしかすると冷ましてからも「たこ焼き」に違いないかもしれない。  まあ、そのあたりはどうでもいい。大阪の連中だけが拘ればいいんじゃないか。  ――高槻鈴音は、たこ焼きを食べていた。  丁度、支給品がたこ焼きだったので、近くにあった八尾の別荘の炎を使って温め、腹ごしらえに喫する事にしたのだ。  何故、八尾の別荘は燃えていたか? ――それを説明すると長くなる。  長くなるうえに、『金田一少年の事件簿』という作品の主人公設定の根底に関わるレベルの描写ミスが関わって来る。  その為、この話はしない方が良いだろう。  とにかく、八尾の別荘は食べ物を温めるには充分な量の炎で燃え上がっていたので、鈴音はちょうど良いと思ってそこでたこ焼きを温め、その場を後にする形になった。  そして、今現在は、その辺りのエリアから少し離れた藤田時継氏の別荘に行って、八尾の別荘で温めたたこ焼きを食べている。  同じ別荘でも、八尾の別荘と藤田時継氏の別荘は、体感温度が大きく違っていた。  少なくとも、八尾の別荘は落ち着いてたこ焼きを食べるのに適していないし、藤田時継氏の別荘はそれに比べると適温である。  炎の中でたこ焼きを食べるか、それとも燃えていない普通の豪邸でたこ焼きを食べるかと言われれば、大抵の人は後者だろう。  その点、鈴音は多数派的思考の持ち主であると言える。 (武器が支給されているなんて言うから見てみたら、大した武器じゃないわね。  食べ物と飲み物が入っているだけじゃない)  そして、そんな多数派的――つまり常識的感覚の持ち主な鈴音は、思った。  殺し合いをしろと言われたが、普通に考えて、三日後に来る船があるのに殺し合いなんかする奴がいる筈がない、と。  多少生活に支障は出るものの、三日程度なら普通に待てば良いし、こんなのはちょっとしたハプニングだと思えば良い。  忙しいので早くここから逃げたい奴はいるかもしれない。だが、忙しいからといって人を殺すだろうか。  なんだかんだで衣食住は困らないし、のんびりしていれば三日などすぐに過ぎる。  五千万円の会員権? そんなもんこれから手に入る数十億の遺産に比べればゴミクズでしょ。  こんなリスクを犯してまで五千万円ぽっちを手に入れようとする奴は頭おかしい。  結論から言うと、殺し合いが起こる可能性はほぼない。  三日待てばいいのだ。 「ほふ……ほふ……」  そんなこんなで余裕を持っていた彼女だった。  実際に殺し合いが行われているかどうかはともかくとして、彼女にはかなりの余裕があった。  殺し合いの最中に、ふらふらと移動して真っ先にたこ焼きを食べるという行為も、まさしくその余裕が現れている行為に思える。  毒でも入っているのではないか、と疑いこそしたが、それならばここまで大がかりな事をする必要はないと推理した。  体育館に集めた時点で毒ガスでも使って一斉に殺してしまえばいいだけなのだ。それならば、毒入りのたこ焼きなど使う必要がない。  つまり、このたこ焼きは普通に食べられる筈だ。  ……ただ、一点だけ問題があった。  それは、たこ焼きの温度が高すぎた事である。何分、八尾の別荘はかなり派手に燃えていたのである。  そんな中で焼いたたこ焼きが熱くない筈はなかった。正真正銘の炎に突っ込んで焼き直せば、当然レンジで温めるよりも熱くなる。  鈴音は、一口目で思わず舌を火傷しそうになっていた。  考えてみれば、たこ焼きは実に矛盾した食い物である。  熱い方が美味いのに、熱すぎると食えない。  程よいバランスが要される不便な食べ物であるくせに、大阪をはじめとする日本中で今なお愛されている。  そういう話は置いといて、こういう時、何が欲しいかと問われれば、当然水だ。  水を以て、舌を冷やす。その行為に走るのが人間として当然の心理である。  しかし、彼女はまだ知る由もなかった。  ――これがこのバトルロワイアルに仕掛けられた思わぬ心理トリックであるという事に。 「あつつ……」  デイパックから出てきたのは、子供ものの水筒のようだ。  その辺のデザインは拘らない事にする。子供向けだろうが大人向けだろうが構わない。  とにかく、冷やせればいいのだ。舌も冷やしたいし、たこ焼きも冷やしたい。  冷やしてから飲み込みたい。  だが、悲しい事に、口をつけようとしても、水は出てこなかった。 「あへ? ひふはいっへはいほはひら(あれ? 水入ってないのかしら)……」  確認の為、鈴音は水筒の蓋を開ける。  中に水が入っていないか、慌てて確認したのである。  舌の中を転がるたこ焼きがこれほどアツアツな現状、冷静な判断はできない。  水筒の重みで水が入っているか確認するという最低限の行動はできなかった。  そのときである――。  チク 「きゃっ」  水筒からなんかが出てきた。  飛んでる。  なんだ。  ――なんだ、この黄色と、黒の……。 (エッ?)  ……そう、それは。  なんと、スズメバチだった。  鈴音が今右手に感じた、「チク」という刺激。  それは、このスズメバチに刺されたという事であった。  そして、それと同時に、彼女は急激に呼吸が苦しくなるのを感じていた。 (く……苦し……い……息が……)  ――「アナフィラキシーショック」。  短期間に複数回蜂に刺される時に起きるアレルギーショック。  吐き気やめまい、呼吸困難に陥り死に至ることもある。 (あ……あたし死ぬの……?  そ……そんな! これからって時に……)  そう、不幸にも、彼女の支給品はスズメバチが入った水筒だった。  かつて、これは神小路陸の水筒だったのだ。  ――この中には、月江茉莉香が入れたスズメバチが入っていてもおかしくはない。  だが、まさかこれからたこ焼きを食べようと言う時に、まさかスズメバチに刺されるなんて。 (あたしは何も悪いことなんてしてないわ!  待ってただけよ……! ただ待って――)  普通に三日間、助けを待つだけ。  そんな無害極まりない行為もまた、殺し合いの場では不適応だった。  よーするに、バトルロワイアルは厳しいのだ。  よくパロロワファンが「ロワはうまくいかない」と言うが、もはやバトルロワイアル自体がそういう事象を惹きつけるのである。  中村青司が作った館で人が死にまくるように、不思議な力学が働いて勝手に人が死ぬ。  夜見山で起こる災厄のように人が死ぬ。  そして、金田一少年の事件簿で金田一が行った先で必ず事件が起こるように、人が死ぬ。  バトルロワイアルと名前がついた時点で、こんなガバガバルールでも、とにかく都合良く都合の悪い話が発生して人が死ぬのである。    そう――こんな風に。 「!」  高槻鈴音は――溺死のように、限りなく苦しい中で、意識を途絶した。  それからもう二度と起き上がる事はなかった。 &color(red){【高槻鈴音@妖刀毒蜂殺人事件 死亡】} ◆  ……それから、また、ほんの少し時間が経った。  たまたま一人で行動していて、藤田時継氏の別荘に辿りついた海峰学は、高槻鈴音の遺体を発見する事になった。  若い女性の遺体を見かけた彼のショックは計り知れなかっただろう。  なんと恐ろしい事だろう。  こうして立ち寄った場所で、早速人が死んでいるのを目にするなんて。 「クッ……死んでる」  誰かに殺されたのだろうか――彼女の口から、たこ焼きが吐き出され、遺体の近くに転がっていた。  既に何度か咀嚼された痕があるのを見るに、それは誰かに毒殺された証であるように見えた。  誰がこんなひどい事を?  あんなグダグダなルールで、殺し合う者が本当にいるとは――海峰は信じたくなかった。  殺さなくても生きていける中、それでも誰かを殺そうという奴がいるのだ。  そういえば、近くを歩いていた時は八尾の別荘が燃えていた。  あれも誰かが火をつけたと考えれば説明がつく。 (殺し合いは始まっているのか……?)  海峰は、恐ろしさのあまり震えていた。  彼はまだ、自分が裏切りに遭う事も、誰かを殺そうとする事も知らない――中学三年生の少年だったからだ。  彼はしばらく、その場から動けなかった。 【一日目/黎明/藤田時継氏の別荘@怪盗紳士からの挑戦状】 【海峰学@血溜之間殺人事件】 [状態]健康 [装備] [所持品]基本支給品一式×2、ランダム支給品1~2 [思考・行動] 基本:殺し合いには乗らない。 1:この場から動けない。 2:不動高校とかいうクソ高校、遂に島流しに遭ったか……。 [備考] ※参戦時期は、中学三年生の時(不動高校生ではないです)。  まだ星くんとお母さん以外のキャラと知りあいになっていません。 ※不動高校がリゾート島にある事について、「遂に島流しに遭った」と解釈しています。 ※参戦時期の都合で、お母さんは死んでおらず、星くんはまだ友人です。 ◆  ……更に、その光景を窓から見ているひとりの少女がいた。  彼女は、インフルエンザで休んだ不動高校囲碁部の部員。  インフルエンザで休んだ不動高校囲碁部の部員は、不動高校囲碁部の部員で、インフルエンザで休んだ生徒だった。  開桜学院との対局をインフルで欠席し、金田一や美雪を呼びよせる切欠になった人物。  登場こそしないが、こいつがいなければ血溜之間の事件は解決できなかった可能性が高い何気に重要なキャラである。  しかし、本当に登場していないので、実際のところ、囲碁部である事とインフルエンザである事以外、なんだかわからない人物だ。  ただ、小角部長と同じ部にこれ以上男子がいると羨ましくて殺したくなるし、海峰が逮捕された後は小角部長と二人きりで囲碁している男子がいると思うと余計に死ねと思ってしまうので、一応女性という設定にしておく。  そうであってほしい。 (海峰くん……あんな恐ろしい事を……!!)  インフルは、偶々、海峰が倒れている女性に近寄っているのを見ていた。  休めるような建物をずっと探していたのだ。  途中で死にそうになったが、なんとか頑張った。休みながらとはいえ、何時間もインフルのまま歩くのはさぞ大変だっただろう。  しかし、その果てに彼女が対面する事になったのは、ぐったりとした女性と、その近くで何かしている海峰である。  それを見て、悲鳴をかみ殺した。  それからは、ひたすらその場から逃げようとしていた。  インフルでクラクラする頭のまま、体全体を動かして走り出すのは、かなり大変だったが、なんとか耐えた。  頭がシェイクされる上に、通常以上に発汗し、すぐにバテてしまう。  しかし、ある程度は逃げきれた。  たどり着いた先は、八尾の別荘のあるあたりである。  彼女は何故、知りあいである海峰を置いて、その場から逃げ出してしまったのか。 (まさか、海峰くんが――人を殺すなんて!!)  そう、そこには、一つの誤解が生じていたのである。  海峰が、人を殺している――と、彼女は勘違いしたのだ。  普通ならそんな誤解はしない。よく見て判断できるからである。  しかし、インフルは、インフルなのである。  インフルで朦朧としていた彼女の頭は、海峰が鈴音の遺体に触れている光景に別の解釈を生じさせたとしても全くおかしくない。  判断能力はかなり低くなってきている。  そうした不幸もあって、残念ながら、海峰は、部員の一人に誤解されてしまった。  いや、海峰はまだ不動高校に入学していない時期の参戦なので、部員の一人に誤解されたという言い方は不適切かもしれない。  全く見ず知らずの赤の他人に誤解されてしまったのだ。  しかも、現時点で友人の星くんと、その同行者の茉莉香や綾花にも誤解されている。  小角部長と同じ部にいる時点で、殺されても文句言えない部分があるが、まあまだ小角部長と関係ないので多少可哀想。    インフルは、逃げ続けようとしたが――頭がふらふらになり、八尾の別荘の前で倒れた。 【一日目/黎明/八尾の別荘@魔犬の森の殺人】 ※常に燃えています。燃え尽きる事もなければ、燃え広がる事もなく、鎮火する事さえありません。  ドラゴンボールの牛魔王が出てきた山(名前ド忘れした)みたいな感じになっています。 【インフルエンザで休んだ不動高校囲碁部の部員@血溜之間殺人事件】 [状態]気絶、インフルエンザ、疲労(極大) [装備] [所持品]基本支給品一式、ランダム支給品1~2 [思考・行動] 基本:三日待つ。できればその間にインフルを治したい。 0:この場から逃げる。 1:海峰が人を殺していた事がショック。 2:海峰が人を殺した事を一刻も早く多くの人に知らせなければならない。 [備考] ※参戦時期は、風邪を引いた後。 ※仮名は「挟間ヒカル」です。不動高校二年生です。女の子です。  ウィキペで調べた適当な囲碁用語と、進藤ヒカルを組み合わせました(『血溜之間』の登場人物は囲碁用語+棋士の名前が多いので)。 ※とても早とちりな性格なので、海峰が高槻さんを殺したと誤解しています。 ※とても噂好きな性格なので、海峰が高槻さんを殺した話を色んな人にばらします。 ※それはそれとして、インフルエンザなので結構インフルの症状が出ますし、場合によっては感染します。  下手すると体育館で説明聞いた時点でインフルエンザに感染した奴がいるかもしれません。 ※次の回で適当な相手に拾われ、その相手に海峰の悪評を広める展開にしていただけると幸いです。 ◆ 【高槻鈴音に関する備考】 ※支給品は、スズメバチの入った水筒@狐火流し殺人事件と、千家の焼いていたたこ焼き@誰が女神を殺したか?でした。  その場に放置されていますが、誰かが手を付ける事はないと思います。 |011:[[月と星が瞬く夜に咲く花]]|時系列|013:[[meet again]]| |011:[[月と星が瞬く夜に咲く花]]|投下順|013:[[meet again]]| |&color(cyan){GAME START}|高槻鈴音|&color(red){GAME OVER}| |&color(cyan){GAME START}|海峰学|| |&color(cyan){GAME START}|インフルエンザで休んだ不動高校囲碁部の部員||
**安い誤解  鉄は熱いうちに打て、という言葉がある。  これを、たこ焼きに喩えるならば、「たこ焼きは熱いうちに食え」と言い換えられるだろう。  要約すると、たこ焼きは、冷めたらまずいのである。そもそも、「焼き」と入っている物を冷ましてしまうと、それは「焼き」ではない。  いや、たこ焼きの場合、調理方法に「焼く」という工程が出てくる為に、もしかすると冷ましてからも「たこ焼き」に違いないかもしれない。  まあ、そのあたりはどうでもいい。大阪の連中だけが拘ればいいんじゃないか。  ――高槻鈴音は、たこ焼きを食べていた。  丁度、支給品がたこ焼きだったので、近くにあった八尾の別荘の炎を使って温め、腹ごしらえに喫する事にしたのだ。  何故、八尾の別荘は燃えていたか? ――それを説明すると長くなる。  長くなるうえに、『金田一少年の事件簿』という作品の主人公設定の根底に関わるレベルの描写ミスが関わって来る。  その為、この話はしない方が良いだろう。  とにかく、八尾の別荘は食べ物を温めるには充分な量の炎で燃え上がっていたので、鈴音はちょうど良いと思ってそこでたこ焼きを温め、その場を後にする形になった。  そして、今現在は、その辺りのエリアから少し離れた藤田時継氏の別荘に行って、八尾の別荘で温めたたこ焼きを食べている。  同じ別荘でも、八尾の別荘と藤田時継氏の別荘は、体感温度が大きく違っていた。  少なくとも、八尾の別荘は落ち着いてたこ焼きを食べるのに適していないし、藤田時継氏の別荘はそれに比べると適温である。  炎の中でたこ焼きを食べるか、それとも燃えていない普通の豪邸でたこ焼きを食べるかと言われれば、大抵の人は後者だろう。  その点、鈴音は多数派的思考の持ち主であると言える。 (武器が支給されているなんて言うから見てみたら、大した武器じゃないわね。  食べ物と飲み物が入っているだけじゃない)  そして、そんな多数派的――つまり常識的感覚の持ち主な鈴音は、思った。  殺し合いをしろと言われたが、普通に考えて、三日後に来る船があるのに殺し合いなんかする奴がいる筈がない、と。  多少生活に支障は出るものの、三日程度なら普通に待てば良いし、こんなのはちょっとしたハプニングだと思えば良い。  忙しいので早くここから逃げたい奴はいるかもしれない。だが、忙しいからといって人を殺すだろうか。  なんだかんだで衣食住は困らないし、のんびりしていれば三日などすぐに過ぎる。  五千万円の会員権? そんなもんこれから手に入る数十億の遺産に比べればゴミクズでしょ。  こんなリスクを犯してまで五千万円ぽっちを手に入れようとする奴は頭おかしい。  結論から言うと、殺し合いが起こる可能性はほぼない。  三日待てばいいのだ。 「ほふ……ほふ……」  そんなこんなで余裕を持っていた彼女だった。  実際に殺し合いが行われているかどうかはともかくとして、彼女にはかなりの余裕があった。  殺し合いの最中に、ふらふらと移動して真っ先にたこ焼きを食べるという行為も、まさしくその余裕が現れている行為に思える。  毒でも入っているのではないか、と疑いこそしたが、それならばここまで大がかりな事をする必要はないと推理した。  体育館に集めた時点で毒ガスでも使って一斉に殺してしまえばいいだけなのだ。それならば、毒入りのたこ焼きなど使う必要がない。  つまり、このたこ焼きは普通に食べられる筈だ。  ……ただ、一点だけ問題があった。  それは、たこ焼きの温度が高すぎた事である。何分、八尾の別荘はかなり派手に燃えていたのである。  そんな中で焼いたたこ焼きが熱くない筈はなかった。正真正銘の炎に突っ込んで焼き直せば、当然レンジで温めるよりも熱くなる。  鈴音は、一口目で思わず舌を火傷しそうになっていた。  考えてみれば、たこ焼きは実に矛盾した食い物である。  熱い方が美味いのに、熱すぎると食えない。  程よいバランスが要される不便な食べ物であるくせに、大阪をはじめとする日本中で今なお愛されている。  そういう話は置いといて、こういう時、何が欲しいかと問われれば、当然水だ。  水を以て、舌を冷やす。その行為に走るのが人間として当然の心理である。  しかし、彼女はまだ知る由もなかった。  ――これがこのバトルロワイアルに仕掛けられた思わぬ心理トリックであるという事に。 「あつつ……」  デイパックから出てきたのは、子供ものの水筒のようだ。  その辺のデザインは拘らない事にする。子供向けだろうが大人向けだろうが構わない。  とにかく、冷やせればいいのだ。舌も冷やしたいし、たこ焼きも冷やしたい。  冷やしてから飲み込みたい。  だが、悲しい事に、口をつけようとしても、水は出てこなかった。 「あへ? ひふはいっへはいほはひら(あれ? 水入ってないのかしら)……」  確認の為、鈴音は水筒の蓋を開ける。  中に水が入っていないか、慌てて確認したのである。  舌の中を転がるたこ焼きがこれほどアツアツな現状、冷静な判断はできない。  水筒の重みで水が入っているか確認するという最低限の行動はできなかった。  そのときである――。  チク 「きゃっ」  水筒からなんかが出てきた。  飛んでる。  なんだ。  ――なんだ、この黄色と、黒の……。 (エッ?)  ……そう、それは。  なんと、スズメバチだった。  鈴音が今右手に感じた、「チク」という刺激。  それは、このスズメバチに刺されたという事であった。  そして、それと同時に、彼女は急激に呼吸が苦しくなるのを感じていた。 (く……苦し……い……息が……)  ――「アナフィラキシーショック」。  短期間に複数回蜂に刺される時に起きるアレルギーショック。  吐き気やめまい、呼吸困難に陥り死に至ることもある。 (あ……あたし死ぬの……?  そ……そんな! これからって時に……)  そう、不幸にも、彼女の支給品はスズメバチが入った水筒だった。  かつて、これは神小路陸の水筒だったのだ。  ――この中には、月江茉莉香が入れたスズメバチが入っていてもおかしくはない。  だが、まさかこれからたこ焼きを食べようと言う時に、まさかスズメバチに刺されるなんて。 (あたしは何も悪いことなんてしてないわ!  待ってただけよ……! ただ待って――)  普通に三日間、助けを待つだけ。  そんな無害極まりない行為もまた、殺し合いの場では不適応だった。  よーするに、バトルロワイアルは厳しいのだ。  よくパロロワファンが「ロワはうまくいかない」と言うが、もはやバトルロワイアル自体がそういう事象を惹きつけるのである。  中村青司が作った館で人が死にまくるように、不思議な力学が働いて勝手に人が死ぬ。  夜見山で起こる災厄のように人が死ぬ。  そして、金田一少年の事件簿で金田一が行った先で必ず事件が起こるように、人が死ぬ。  バトルロワイアルと名前がついた時点で、こんなガバガバルールでも、とにかく都合良く都合の悪い話が発生して人が死ぬのである。    そう――こんな風に。 「!」  高槻鈴音は――溺死のように、限りなく苦しい中で、意識を途絶した。  それからもう二度と起き上がる事はなかった。 &color(red){【高槻鈴音@妖刀毒蜂殺人事件 死亡】} ◆  ……それから、また、ほんの少し時間が経った。  たまたま一人で行動していて、藤田時継氏の別荘に辿りついた海峰学は、高槻鈴音の遺体を発見する事になった。  若い女性の遺体を見かけた彼のショックは計り知れなかっただろう。  なんと恐ろしい事だろう。  こうして立ち寄った場所で、早速人が死んでいるのを目にするなんて。 「クッ……死んでる」  誰かに殺されたのだろうか――彼女の口から、たこ焼きが吐き出され、遺体の近くに転がっていた。  既に何度か咀嚼された痕があるのを見るに、それは誰かに毒殺された証であるように見えた。  誰がこんなひどい事を?  あんなグダグダなルールで、殺し合う者が本当にいるとは――海峰は信じたくなかった。  殺さなくても生きていける中、それでも誰かを殺そうという奴がいるのだ。  そういえば、近くを歩いていた時は八尾の別荘が燃えていた。  あれも誰かが火をつけたと考えれば説明がつく。 (殺し合いは始まっているのか……?)  海峰は、恐ろしさのあまり震えていた。  彼はまだ、自分が裏切りに遭う事も、誰かを殺そうとする事も知らない――中学三年生の少年だったからだ。  彼はしばらく、その場から動けなかった。 【一日目/黎明/藤田時継氏の別荘@怪盗紳士からの挑戦状】 【海峰学@血溜之間殺人事件】 [状態]健康 [装備] [所持品]基本支給品一式×2、ランダム支給品1~2 [思考・行動] 基本:殺し合いには乗らない。 1:この場から動けない。 2:不動高校とかいうクソ高校、遂に島流しに遭ったか……。 [備考] ※参戦時期は、中学三年生の時(不動高校生ではないです)。  まだ星くんとお母さん以外のキャラと知りあいになっていません。 ※不動高校がリゾート島にある事について、「遂に島流しに遭った」と解釈しています。 ※参戦時期の都合で、お母さんは死んでおらず、星くんはまだ友人です。 ◆  ……更に、その光景を窓から見ているひとりの少女がいた。  彼女は、インフルエンザで休んだ不動高校囲碁部の部員。  インフルエンザで休んだ不動高校囲碁部の部員は、不動高校囲碁部の部員で、インフルエンザで休んだ生徒だった。  開桜学院との対局をインフルで欠席し、金田一や美雪を呼びよせる切欠になった人物。  登場こそしないが、こいつがいなければ血溜之間の事件は解決できなかった可能性が高い何気に重要なキャラである。  しかし、本当に登場していないので、実際のところ、囲碁部である事とインフルエンザである事以外、なんだかわからない人物だ。  ただ、小角部長と同じ部にこれ以上男子がいると羨ましくて殺したくなるし、海峰が逮捕された後は小角部長と二人きりで囲碁している男子がいると思うと余計に死ねと思ってしまうので、一応女性という設定にしておく。  そうであってほしい。 (海峰くん……あんな恐ろしい事を……!!)  インフルは、偶々、海峰が倒れている女性に近寄っているのを見ていた。  休めるような建物をずっと探していたのだ。  途中で死にそうになったが、なんとか頑張った。休みながらとはいえ、何時間もインフルのまま歩くのはさぞ大変だっただろう。  しかし、その果てに彼女が対面する事になったのは、ぐったりとした女性と、その近くで何かしている海峰である。  それを見て、悲鳴をかみ殺した。  それからは、ひたすらその場から逃げようとしていた。  インフルでクラクラする頭のまま、体全体を動かして走り出すのは、かなり大変だったが、なんとか耐えた。  頭がシェイクされる上に、通常以上に発汗し、すぐにバテてしまう。  しかし、ある程度は逃げきれた。  たどり着いた先は、八尾の別荘のあるあたりである。  彼女は何故、知りあいである海峰を置いて、その場から逃げ出してしまったのか。 (まさか、海峰くんが――人を殺すなんて!!)  そう、そこには、一つの誤解が生じていたのである。  海峰が、人を殺している――と、彼女は勘違いしたのだ。  普通ならそんな誤解はしない。よく見て判断できるからである。  しかし、インフルは、インフルなのである。  インフルで朦朧としていた彼女の頭は、海峰が鈴音の遺体に触れている光景に別の解釈を生じさせたとしても全くおかしくない。  判断能力はかなり低くなってきている。  そうした不幸もあって、残念ながら、海峰は、部員の一人に誤解されてしまった。  いや、海峰はまだ不動高校に入学していない時期の参戦なので、部員の一人に誤解されたという言い方は不適切かもしれない。  全く見ず知らずの赤の他人に誤解されてしまったのだ。  しかも、現時点で友人の星くんと、その同行者の茉莉香や綾花にも誤解されている。  小角部長と同じ部にいる時点で、殺されても文句言えない部分があるが、まあまだ小角部長と関係ないので多少可哀想。    インフルは、逃げ続けようとしたが――頭がふらふらになり、八尾の別荘の前で倒れた。 【一日目/黎明/八尾の別荘@魔犬の森の殺人】 ※常に燃えています。燃え尽きる事もなければ、燃え広がる事もなく、鎮火する事さえありません。  ドラゴンボールの牛魔王が出てきた山(名前ド忘れした)みたいな感じになっています。 【インフルエンザで休んだ不動高校囲碁部の部員@血溜之間殺人事件】 [状態]気絶、インフルエンザ、疲労(極大) [装備] [所持品]基本支給品一式、ランダム支給品1~2 [思考・行動] 基本:三日待つ。できればその間にインフルを治したい。 0:この場から逃げる。 1:海峰が人を殺していた事がショック。 2:海峰が人を殺した事を一刻も早く多くの人に知らせなければならない。 [備考] ※参戦時期は、風邪を引いた後。 ※仮名は「挟間ヒカル」です。不動高校二年生です。女の子です。  ウィキペで調べた適当な囲碁用語と、進藤ヒカルを組み合わせました(『血溜之間』の登場人物は囲碁用語+棋士の名前が多いので)。 ※とても早とちりな性格なので、海峰が高槻さんを殺したと誤解しています。 ※とても噂好きな性格なので、海峰が高槻さんを殺した話を色んな人にばらします。 ※それはそれとして、インフルエンザなので結構インフルの症状が出ますし、場合によっては感染します。  下手すると体育館で説明聞いた時点でインフルエンザに感染した奴がいるかもしれません。 ※次の回で適当な相手に拾われ、その相手に海峰の悪評を広める展開にしていただけると幸いです。 ◆ 【高槻鈴音に関する備考】 ※支給品は、スズメバチの入った水筒@狐火流し殺人事件と、千家の焼いていたたこ焼き@誰が女神を殺したか?でした。  その場に放置されていますが、誰かが手を付ける事はないと思います。 |011:[[月と星が瞬く夜に咲く花]]|時系列|013:[[meet again]]| |011:[[月と星が瞬く夜に咲く花]]|投下順|013:[[meet again]]| |&color(cyan){GAME START}|高槻鈴音|&color(red){GAME OVER}| |&color(cyan){GAME START}|海峰学|| |&color(cyan){GAME START}|インフルエンザで休んだ不動高校囲碁部の部員|028:[[Q.なぜ八尾の別荘は燃えていたか?]]|

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