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おねショタ」(2016/08/19 (金) 22:11:07) の最新版変更点

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**おねショタ 「はぁ……はぁ……」  神小路陸少年は、息を切らせて走っていた。  女性二名の物言わぬ死体の形を恐れながら、そしてその肉塊を作り上げたと思われる成人男性の人影に追われながら、ひたすら足を動かし、その場との距離を広めている。 (なんだよあいつ……!)  彼の内情は未知の恐怖で充満していた。  根本的に、小五の男子が一人こんな深夜に出歩く事は稀でもある。  余程の事情がない限りは床に就いているだろうし、まして外を出歩く事など早々ある筈はない。  加えて、その行きあたった街というのが奇妙で、誰もいないゴーストタウンであるのは勿論の事、悪意に満ちたラクガキのある民家にはある種のグロテスクがあった。  彼のようなまだ小さな子供にとっては、肉色のスプレーで刺々しく書かれたラクガキは、胸を締め付ける恐怖でもある。  そう、ああして辛辣な悪口が書かれているという事は、書いた誰かがいるという事なのだ。  ――それは、「悪い大人がどこかにいた」に違いないと思えた。  しかし、そんな悪い大人たちに立ち向かう力は子供にはなく、ただ一方的にひねりつぶされるだけの脆弱な存在でしかない。  悪い大人というのが、実際目の前に立った時、それがいかに弱い人間なのかさえ彼にはまだわからない。  彼にとっては、中学生も大人だし、高校生も大人だ。そして、大人は常に大きいのだ。  大人が道路に書き記された若者のラクガキを見る事と、子供がそれを見る事とでは、また敵の大きさが変わってしまう。  そして、そんな場所で死体を二つも見つけてしまった事や、そんな折に一人の成人男性を見つけてしまった事もまた、陸にとって大きな問題だった。  死体もまた誰かによって齎されたものであり、あの男性もまたそれを齎した物であるようだった。  そいつが追ってくるのである。 「はぁ……はぁ……」  そして、それは陸の今日までの短い人生で、鬼ごっこというゲームに最も本気をかけた瞬間だった。  物静かな陸だが、小学生相応に遊んだり、スポーツを楽しんだりもする。普段は、逃げたり追いかけたりの中で高揚する心があった。  女子をタッチすると、「ヘンタイ」と言われる。茉莉香あたりの使う卑怯な手でもある。  そこで、陸はどちらかといえば女子よりも男子を狙う事を考え、大抵は忍や金田一のように動きの鈍い奴を狙った(※注釈1)。  それから先の鬼ごっこは、動きが自分より遅い相手から逃げるだけでいくらか有利にゲームを運べる。  ――だが今は違う。絶対の不利だ。 (くそっ!)  物々しい声をあげて追いかけてくる奇妙な男に、陸は全力の逃避行を見せようとしているが、内心では殆ど諦めかけている。  成人男性と陸との間では、走力には大きな開きがある。  小学生が五十メートルの速度を計測した場合、学年で一番速い子でも、七秒台に差し掛かるくらいが限度だろう。  陸は別にスポーツ万能というわけでもない一般児童だ。サッカーや野球などの習い事をしているわけではなく、あくまで遊びの一貫としてそれらをやってみる程度である。  すると、平均的な速度である九秒程度か、あるいは細く身長も高い体格を考慮に入れて八秒台程度であると考えられる。  小学生が運動会とかでその場しのぎ的に走行速度を上げる方法として、「輪ゴムを八の字型にして親指と踵にかける」、「ゴルフボールを握って走る」という裏技もある。  あとは、アキレスの「俊足」を履くというのも、コーナーで差をつける場合には一つの手だ。  しかし、いずれの手段も手遅れだ。  どちらにせよ、それらを使ったところで、相当こざかしく動かなければ、限度は七秒台や八秒台相応の小学生だと思われる。  やはり無理だ。  では、矢森はどうか。  もし、一般的な成人男性が五十メートルを測れば、七秒台というのはほとんど平均的な速度で、下手をすると六秒台で走れるかもしれない。  何せ、走力を計測する競技になると、日本人の筋力構造では体重が軽いほど有利になる。  陸上選手などを見ても、日本人だと大抵は上半身の筋肉は最低限で、下半身も余分な脂肪はない。  ケンブリッジ飛鳥が増量してあれだけの速さで走る事が出来るのは、ジャマイカ人の父と日本人の母を持つハーフであるのが大前提で、純正の日本人ならばやはり軽量である方が有利なのは仕方がない。  ケンブリッジ飛鳥自身も、陸上部時代は華奢な身体を走らせていたのだから、彼にとってのかつての常識もまた「体重を増やし過ぎない」事であったに違いない。  やはり、そうした一部例外を除けば、体重は軽い方が走行時に余計な負担をかけずスピードを出せるという通説に従って良いだろう。  陸も細身の体型には違いなかったが、矢森もまた、見事なまでに細身である。  ましてや、陸をそのまま縦に引き延ばしたような外見の矢森は、足の長さが幼少陸よりも十センチほど上だった。  これが三十代、四十代ならばまだしも、矢森はまだ大学生である。体力が衰える前だと考えて良い。  どう考えても、陸と矢森は鬼ごっこをするには不適切な力量差を持つ相手であるという事だった。  こういう時こそ、矢森がチャネラー桜庭だったなら……と思わずにはいられない。  しかし、彼はチャネラー桜庭ではなく、矢森なのだ。  長々と説明したが、それは一体どういう事なのか。  この長い説明を読み上げる頃には、とうに陸は矢森に捕まっていてもおかしくはないという事である。 「野郎~~~~!!!」  ――が、矢森はバカだった。  大学生と小学生という圧倒的な体力差を埋めるレベルでバカだった。 ところで、矢森がバカであるという前提でこうして上二行を書いてしまったが、果たして矢森はバカなのか?  筆者は彼がバカであると考える。  彼のどこがバカなのか、いくつかの言葉を使って論じてみせよう。  まあ、もう基礎的な話は面倒なので、このロワの読者はすべからく『亡霊校舎の殺人』は読んでいる前提で話したい。  もうそんな説明は疲れたし、このロワを読む人はもういいだろう。  読む方も、既に金田一読んだお陰でとうに知ってる話を延々説明されるのは面倒だろう。もういい。  それでもよく読まないと知らないであろう事を全身全霊を以て伝えよう。  細かすぎて伝わらない金田一キャラの話をしようじゃないか。  さて、それを踏まえたうえで、亡霊校舎で矢森について着目すべき場面といえば、事件の動機となる火事場泥棒の際に「あのおっさん助けなくていいのか?」という提案をしている点である。  クズ被害者にしては、割と優し気に見えるというか、人として当たり前の提案をしたかのように見えるだろう。なので妙に印象に残る。  しかし、矢森雪雄という男は、その直後に鬼城や花泉の言葉に流されて、あっさりおっさんを助ける事を拒んでいる。  実は、その点において、矢森は余計にバカなのである。  そう――要するに、矢森という男には、「自分」という物がないのである。  他人の生命が関わる非常に重大な場面においても周囲の判断を求め、「あっ、みんな逃げるんだし俺もいーや」という感じで見捨てた。  ああいった場面で他人の決断に流されるという事がいかに愚かしい事か。ここが一番、バカなのである。  鬼城や花泉はいざという時の判断は、悪賢いという意味では出来ていたが、矢森は冷徹な判断をするでもなく、自分を通すわけでもなく、判断を他人に任せる結果に終わった。  最終判断に至るまでの過程では、確かに「助ける」という選択肢もあったし、実際残り二人が助けようとしたら助けただろう。  しかし、彼の場合、おっさんを助けるという行為も、「なんかやばそうだから」くらいの感覚なのである。  つまるところ、彼は「なんで死にかけのおっさんを助けなきゃいけないのか」がわかっていないし、それを当然の事として理解するだけの知能もないのだ。  提案しただけマシか。そんな事はない。やらなきゃ同じである。  あれは良い事をしようとしたのではなく、「なんかそうした方がよさげな空気だから提案した」でしかない。  バカは、「なんか○○っぽいから」という感じで、理由を突き詰める能力が欠如し、常に最後の決断を他人にゆだねるのである。  そう考えると、彼はあの瞬間、善人としての判断をしたのではなく、バカとしての判断をして、それをあっさり覆してしまったと言えよう。  じゃあ、別にいい奴じゃないじゃん。  つまり矢森はバカ。  卒業証書取りに行って死んだおっさんもバカだが、矢森もめっちゃバカ(※注釈2)。  さて、改めて考えると、矢森の服装も、そんな彼のバカ性を表象しているように見えてくる。  彼はその名に沿って、「ヤモリ」が描かれている服を身に纏っているが、何故こんな服を着ているのか。  あのシャツを気にした読者は少なくない。何せ、矢森がヤモリを着ているのだ。初見で吹き出してもまったくおかしくない。どんな神経をしてたらあんなダサい恰好が出来るのか。  では、仮説の一つとして、「自らあんな服を着たのではなく、女の子にでも『矢森くん、このヤモリの服着てみたら?w』と冗談を言われて、真に受けたのではないか」という説を挙げたい。  そもそも大前提として、あの服は明らかにお調子者しか着ない服だ(この前提に異論を唱えたい者は自分のファッションセンスが変じゃないか友達に訊いておいた方が良いと思うんだ)。  しかし、矢森は言う程お調子者かというと、普段は結構沈黙を決め込んでいるタイプでもあるので、別にお調子者という程でもないだろう。  ぶっちゃけコミュ障だと思う。大学デビューなんじゃないかアイツ。  キョロ充とかそう呼ばれているタイプのやつで、多分グループで嫌われる事とか外れる事を結構気にしてる。  実際、身内と赤熊(いわば店員みたいなもん)にしか絡まないあたり、幅広い交友関係を構築するのが苦手で、知りあいとばかり話して心を満足させるタイプなんじゃないか。  それが悪いとは言わないが、彼の場合、「自分はイケてますよ」みたいな感じで調子に乗るのでなんか腹立つ。  閑話休題。  そういえば、本人も、初登場時に「なんか人増えてね? 赤熊サーン」と言っていた。  この場面、「実は彼はあの服を初対面に見せるのが超恥ずかしかったから、人が増える事を気にしたのではないか」とも解釈できる。  矢森はそれだけ周囲の反応にデリケートで、かつ、自分の服装についても気にしていたのではないだろうか。  流石に、初対面の相手に「矢森雪雄です」と自己紹介している時に、ヤモリのシャツを着ているのは恥ずかしい。  仮にもし、その恰好を突っ込まれれば幸いだが、突っ込まれなかったらただのアホである。とんでもないお調子者だと思われてしまう。  そして、最後まで金田一や明智や美雪や剣持はあの恰好に突っ込んではくれなかった。  この後、矢森が金田一たちとろくに絡まないのも、あの服に突っ込まなかったから妙な溝ができて絡みづらくなってしまったというのが最大の原因のように思う。  しかも、それでいて、当人は「チッ、ノリ悪い奴らだな、この服になんか突っ込めよ」と逆恨みしてそうで嫌(こういう奴が生理的に受け付けない)。  それから、更に問題となるのは、その後の描写である。  他の容疑者たちは二日目も同じデザインの服を着ているのに、矢森だけは入浴後のタイミングであのヤモリシャツを脱いで普通の白地シャツに変えているのである(ただし、第3話には前後で白シャツを着ているにも関わらずヤモリ服らしき服を着用している描写がある、これはミスと思われる)。  全員同じ服を着っぱなしなのにも関わらず(それもどうかと思うが)、矢森だけ着替えているのはあまりにも不自然だ。  奴はなぜ着替えたのか。  普段流されっぱなしのくせに、全員が二日続けて同じ服を着ている異様な状況の中、一人だけさらっと着替えているのは何故なのか。  おかしくはないか。  結論を言おう。  ――やっぱり恥ずかしかったからに違いない。  ここで、風呂に入る前のやり取りを思い出してみるべきではなかろうか。  矢森は、「風呂はさっさと済ませて軽く校内探検でもすっかな」と言った後、花泉に「抜け駆けすんなよ! 矢森」と返されていた。  このやり取りを普通に解釈するなら、「速やかに風呂を済ませてお宝を探そうとしている」となるだろう。  実際、そういう風に読んだ人が圧倒的多数だと思われる。  だが、こうしてあのファッションセンスを恥ずかしがっている前提で考え、矢森が風呂あがりを境に着替えたのを見た時、ある仮説が浮かぶのである。  ――あれは「風呂をすぐ出て宝探しをしたかったから」ではなく、「さっさと着替えたかったから」だったんじゃないか。  つまり、あんな服を選んで着て行って、「初対面の奴らに遭遇して慌てて着替える」という不測の事態への対応に奔走する羽目になったのだ。  それこそが、矢森のバカさなのではないか。   やっぱり彼はバカである(※注釈3)。  他にも、犯人の恐るべきトリックへの引っかかりっぷりも、他人の言葉を真に受ける彼のバカさが伝わって来る。  カップ麺の上に地図広げて写真撮る行為の怪しさに気づけよバカと。「ん?なんでカップ麺の上に地図置いたのw」くらいのツッコミでもえぎの天然キャラを弄るくらいは出来たんじゃないだろうか。  幸いというか、「男湯に来い」みたいな手紙は真に受けずに引っかからなかったようだが、流石に指示の発信者に応じて判断を変えるくらいの事は出来るようだ。  あと、大好きなもえぎに対して「早くしてくれ!こっちはハラへってんだ」、「オイオイ泣きたいのはこっちだって同じだぜ!」などと暴言みたいなのを浴びせているのも変。  こんなんでもえぎに好かれると思ってたのかバカ。  何気に火事場泥棒提案してるものの、リュック一つで中学校乗り込むのもバカだし、実際見つかっているのもバカ。  クズというかバカなんじゃないだろうか。  いや、もっと言えば、バカすぎた結果がクズなんじゃないだろうか。  こんなにバカだからこのロワでも、成人女性を二人も殺した犯人が小学生の男の子だという発想に至ってしまったんだろうね。  矢森がバカという意見に異論がある方は感想の際に指摘をば。  ――ところで、話題が逸れに逸れた結果、この「陸を追う」という状況で、彼がバカだった事がどう災いしたのか……などという部分がおざなりになってしまったが、結局彼はどうなったのか。  彼は洗剤で滑ってこけたのである。  アスファルトの上の洗剤ってそんなにこけやすいか?  まあ、洗剤抜きにも濡れてれば滑りやすくこけやすい。  何より、彼はあの死に方からして、足元が弱点でかつ、水も弱点なのだ。  つまり、矢森は多少の水で滑ってこけてもおかしくない。QED。 「いててて……」  矢森は、転んだ悔しさをかみしめながら、立ち上がった。  転んだ時の悔しさは半端なものではない。転ぶと悔しいのだ。一人でも走ってて転ぶと惨めになるのだ。とにかく悔しいのだ。わかれ。  で、転んだ彼には、擦り傷が出来ており、若干足が痛んで走力が落ちていた。  受け身を取れないままアスファルトに思い切り転んだのだから、まあ無理もない話だろう。  そうなると、もう成人男性平均レベルの走力は期待できず、追跡者としての能力は大きく損なわれる事になってしまったわけだ。  起き上がるのがだるかったが、彼は必死に起き上がった。  仕方がないのは仕方ない。たとえもえぎの仇であっても、もう追うのは諦めるべきに違いなかった。  しかし、矢森はバカだった。 (ヤロ~~~!!)  半ば足を引きずるような形で、矢森は陸を追いかけようとしたのである。  数分で退く痛みかもしれないが、全力で駆け抜ける事を体は拒んでいる。  一瞬ズキッと痛む体を押してまで、場違いな復讐に燃える根性は矢森にはない。  もう駄目である。  これだけ長い文章を連ねておきながら、前回の話の終わりから五秒くらいしか経っていないが、もうこの時点でこんな感じという時点で彼は駄目だ。  もう陸を追えない。前回から僅か五秒でこのザマである。  この話の序盤の陸の心境や、走行速度に関する解説はなんだったんだというくらいに、矢森は価値がなくなった。  もうこの話自体が「前回の五秒後に矢森が転ぶ」というだけの部分にこれだけの文章を費やしてしまった。  この話の総量をざっと見っところ、だいたいここまで五秒のペースだと、この話は終わるまでに十五秒程度の話にしかならない可能性がある。  そんな事はいけない。  ここからペースを早めよう。猥雑で冗長で説明的で急場しのぎで思いつきだらけのロワはもうたくさんだ。  結論を言ってしまおう。  とにかく、追跡者としての価値がなくなった彼に待ち受けている運命は――  ばきゅーんっ!!  ――追われる側としての末路、のみだったのだ。 ◆ 「え」  矢森の腹に、鉛の弾丸が貫通していた。  あまりに一瞬の出来事だった故か、矢森もそれを感知できなかった。  先に多少クリーンヒットしてしまった転倒ダメージがあり、そこでアドレナリン放出祭だったせいか、何故か思ったほどの痛みもない。  しかし、体が横にそれた感覚が確かにあり、何かが真横から自分の体を貫通したのを彼は理解した。  というか、確実に銃声が聞こえたのもあるし、実際、何かが自分の体をすっぽり通って抜けて行ったような感じはしたのだ。 「な……」  脇腹に手をやった。  手を目の前にやってみると、その手は血に濡れていた。 「なんじゃこりゃあっ!!」  ここで、『太陽にほえろ!』に関する豆知識をば。  この「なんじゃこりゃあ」という台詞でおなじみ、ジーパン刑事こと柴田純。演じたのは松田優作である。  この台詞が登場するのは、第111話『ジーパン・シンコその愛と死』で、助けた犯人に撃たれてジーパンが殉職してしまう場面である。  そのあまりに皮肉な結末と、ヒーロー性と裏腹な人間らしく、醜く、弱い死に方が衝撃を与えたという事で、あの最期をよく知っている人は多いだろう。  かなり多くのバラエティやフィクションでパロディされており、日本人なら元ネタのドラマもどこかしらでタイトルを聞いた事はあるはずだと思われる。  で、この台詞は、本来は、「なんじゃあこりゃあ」という感じのアクセントの置き方なのを知っているだろうか(活字だとわかりづらいが)。  この訛りは、実は演じた松田優作の故郷・山口県の方言がかなり入っているのである。  大抵パロられる時、その「なんじゃこりゃあ」がかなり原典とアクセントの置き方が違ってしまっているのが個人的に気になるし、山口県民はその辺りがかなり気になるらしい。  もうこの話はいいや。  どさりと倒れた矢森は、その男の顔を見た。  影になって見えなかったが、そこには男がいた。 「あ、あんた……一体……」 ◆ 【読者への挑戦状】  ここで、予約内容をもう一度振り返ってみましょう。  今回、事前に予約されたキャラは、五名。  神小路陸、矢森雪雄、ノーブル由良間、鐘本あかり、甲田征作です。  陸と矢森の二名は、既に登場しているので除外されます。  これは自殺でもなければ、陸が銃を持っていたというケースでもありません。  先ほど、矢森の視点で「男の顔を見た」とあるので、あかりも除外される形になります。  そうすると、犯人はノーブル由良間か甲田征作という事になります。  犯人は二分の一。  このうち、大抵は意外な方が犯人です。  犯人は、ノーブル由良間でしょうか?  それとも、甲田征作でしょうか?   ――――健闘を祈る。  ヒント:手がかりがないので、この犯人を当てる方法はあてずっぽうしかない。 ◆  解答編。  甲田征作でした。  甲田征作は、猟銃を構え、鬼神の如き眼差しで矢森を見下ろしていた。 「この日本にはまだ医者のいない山村や離島がいっぱいある。  そんな無医村に一つでも多く病院を開業するのが私の罪ほろぼしなんだ。  しかし、そのためにはお金がいるんだよ。  ――莫大な資金がね……!」  動機を説明しながら、甲田は矢森に近寄り、遂に矢森を見下ろせる距離まで近づいていたのだ。  そんな甲田の顔色を見た矢森は、血の気が引く想いであった。  薄い目の男が、感情のない開眼を示している光景を見上げて、血の気が引かない方がおかしい。 「あんた、そのために殺し合いに!」 「ああ! そうでなければわざわざ人殺しなんて……」  このリゾート島の会員権で手に入る五千万円は、言うまでもなく大金である。  勿論、金の為とはいえ人殺しはよくない。  よくないが、金が手に入る→病院つくる→大助かり。  無医村医療の為、仕方ない犠牲である。  これはもう仕方ない。  甲田さんはもう、何百人殺しても心を痛めないだろう。 「ひっ……!!」  矢森は、僅かな体力で這うようにして逃げようとしたが、甲田はそんな彼の背中を足で踏み潰すように押した。  四つん這いだった矢森も、今の一撃に衝撃を受け、ぺちゃんこのうつ伏せ状態になる。 「げふっ」 「チッ」  だが、それでは狙いが定めにくいと思ったのか、甲田は更に、彼を蹂躙するかのように、甲田は矢森を足蹴にして、うつ伏せの体勢から仰向けへと転がした。  矢森の視界には、おっさんが猟銃を構えて自分の体に片足を乗せている光景が映し出された。  それは、矢森にとって過去に感じた事がないほどの恐怖だった。  あまりの出来事に、矢森は助けを乞う為の言葉すら出てこなかった。  そして、そのおっさんは矢森に向けて語りかけ、矢森はそれをただ聞くだけなのである。 「もういいんだヤモリシャツくん……君が死ねば済む事なんだ」  その声は、やたら静かだった。  甲田は、言いながら矢森の口に猟銃の銃口を突っ込んだ。  それから、銃を持つ手が震えるのは、矢森の歯がガタガタと震えているからに違いなかった。  甲田は、それから数秒数えた後、その引き金を引いた。  ばひぇーんっっっ!!  大きな音がそこに響き渡り、彼はこの場にある三番目の死体となった。 「"カルネアデスの板"だよ……」  甲田は、それだけ言って、またどこかへと姿を消していった。  次に甲田に殺されるのは、この話を見ているあなたかもしれません。  ほら、よく見てください。  あなたの後ろに甲田さんが……。 &color(red){【矢森雪雄@亡霊校舎の殺人 死亡】} 【一日目/黎明/香取家周辺@幽霊客船殺人事件】 【甲田征作@悲恋湖伝説殺人事件】 [状態]健康、精神不安定、六角村症候群 [装備]大広間に並べられていた猟銃@秘宝島殺人事件 [所持品]基本支給品一式、ランダム支給品0~1 [思考・行動] 基本:無医村に病院を開業する為に殺し合いに乗る。 1:過ぎてしまった事をいくら悩んでも仕方ない。それより未来に向けて努力をしよう。  (略:殺しちゃっても、まあ後々がんばればいいよね) 2:ええどうもスミマせん――……  (略:罪の意識はそこそこあるかもしれない) [備考] ※参戦時期は、「闘いたまえ」とか金田一を激励したあたり。 ※さっきまで六角村にいたのと、香山が二度死んだのと、九条がなんやかんやで裏切ったのとが原因なのか、頭がいかれました。 ※大広間に並べられていた猟銃は八つあるので、八人までなら支給していいんじゃないかと思いますがいかがでしょう。 ◆  一方、逃げていた神小路陸は、逃げまくった結果、へんな村へと来ていた。  ここまでだいたい十分。  矢森がこけるまでに五秒。そこからここまで十分。  小説の文章のバランスとはどこまでも奇妙である。しかし、人間の体感時間も不思議な物である。  たとえば、小学生の過ごす一ヶ月と、大人が過ごす一ヶ月は、もう明らかに別物だ。  又聞きだしソースもないのであんまり真に受けないで欲しいが、人間が八十年生きた場合、感覚的な折り返しは十八歳程度だとか。  陸はまだ折り返す前、矢森はもう折り返した後だったのかもしれない。  まあ、五秒が短すぎるだけで、十分もそんなに長い時間ではない。  先程までの町並みから、ポケモンGOが出来そうにないこのド田舎の村みたいなところまで、走ってもそんなに時間がかからなかった方だと言えよう。  さすがリゾート島である。 (逃げ切った……のか?)  陸が辿りついた場所は、崖になっていたので、陸も流石に足を止めて、背後を一度見た。  誰かが追ってくる気配はない。  どうやら、奇跡的にも逃げ切ったらしい。  肩で息をしながら、陸は休もうとしていた。 「!」  しかし、そんな陸だったが、前方の崖の下を見た瞬間、稲妻のような衝撃が走った。。  そこで陸が見た物とは―――― 「『ダビデの星だ』……!」 . ダビデの星の形をした村であった。  それを見た陸は、思わず仰々しい顔でその衝撃を口に出してしまったのである。  すると、どこからか女性の声が訊き返した。 「ダビデ?」 「ああ……ダビデはヘブライ人――つまり古代イスラエル人の王だ。  この村の形は そのダビデ王の紋章の形そのものだぜ。  名づけるなら、その形をそのまま村の名前にした『六角村』ってところだな(大正解)。  俺に支給されたペンダント(新事実)も頭にもう一つ三角がつけば『ダビデの星』になる」  陸はやたら詳しい解説を始める。  六角村に入ると、ある者はダビデの星の解説を始めたくなり、ある者はその解説を聞きたくなってしまうのだ。  それもまた人情。  六角村には不思議な力がある。  解説を聞いていた人は、思わず聞き返してしまった。 「へ~~~っ。  でもなぜそんなものがこんなリゾート島に?」 「さあね……。  でも青森県にある『戸来村』(現・新郷村)の村名も『ヘブライ』がなまったものと言われてるんだ。  その村にはヘブライ語らしい民謡も伝わっているそうだぜ。  だから、ここはもしかすると青森県なのかもしれないな(不正解)」 「へぇ~~~~~」 「って……。ん?」  陸はそこまで解説したところで、聞き手がいる事に気づいた。  六角村のあまりのダビデ力(ちから)に圧された陸は、小学生らしからぬ博識を披露してしまっていたが、それにしても解説の聞き役に全く気付かなかったのである。  そこにいたのは、なんだかどことなく見覚えのある顔つきの女性だった。   「え、陸……?」  先に話しかけてきたのは、その女性の方だった。  金髪のふわふわしたショートヘアーで、それに合ったようなふわふわした天然系の雰囲気の女子高生。  彼女の名は、鐘本あかり。  狐火流しの女性陣の中で一番闇が浅く、陸にとって縁のある少女が――六年だけ、大人になった姿であった(タイトルはこれで回収、おねショタ好きが繋いでくれたら嬉しい)。 【一日目/黎明/六角村@異人館村殺人事件】 【神小路陸@狐火流し殺人事件】 [状態]異人館村症候群 [装備]なし [所持品]基本支給品一式、ランダム支給品0~1、若葉のペンダント@異人館村殺人事件 [思考・行動] 基本:殺し合いには乗らない。 1:あかり……? [備考] ※参戦時期は、あかりに靴ひもを貸さなかった直後。 ※この陸はショタなので母親は生存しています。 ※ヤモリ柄の服を着た男性のことを2人殺害した犯人ではないかと思っています。 ※陸の靴ひもを貸さなかったスニーカーは元々履いていたものなのでランダム支給品には含まれません。 【鐘本あかり@狐火流し殺人事件】 [状態]異人館村症候群 [装備]なし [所持品]基本支給品一式、ランダム支給品1~2 [思考・行動] 基本:殺し合いには乗らない。 1:陸だよね……? [備考] ※参戦時期は、第3話終了くらい。 ※陸を見て、「陸だなあ」と思っています。 【異人館村症候群】 ※六角村の大麻のせいで起こる風土病で、発症すると多少頭がおかしくなる場合があります。  金田一少年の場合は、異人館村に来て間もなくしてダビデの星を解説し始めたり、人形を裁断し始めたりなどの奇行が始りました。  他にも、殺人術を習い始めたり、変な袋を被ったり、屋根に上って無意味に十字架を細工したり、エリザベートしたり、「エリザベート・バートリ夫人」「エデンのリンゴ」「ソドムとゴモラ」などのそれっぽい文学用語を引用してインテリぶったりしてしまいます。  とにかく、ここに入ると、登場人物の設定や方向性が固まっていないかのような空気になってしまいます。  六角村出身でなければ、外に出ると治ります(出身者は手遅れの場合が多いです)。 ※島田荘司のトリックの引用は、ネタバレになるので控えてください。   ◆  その頃、ノーブル由良間は、人形と一緒に木にぶら下がっていた(※注釈4)。 【一日目/黎明/六角村@異人館村殺人事件】 【ノーブル由良間@魔術列車殺人事件】 [状態]健康、宙ぶらりん [装備]生きたマリオネット@魔術列車殺人事件 [所持品]基本支給品一式 [思考・行動] 基本:殺し合いには乗らない。 1:助けて。 2:ブラをスる。 [備考] ※参戦時期は、団長が逝ったあたり。 ※生きたマリオネットとロープで繋がれており、シーソートリックみたいな感じでぶら下がっています。  人形が70kg、由良間が60kgなので、10kg以上の物がないと宙ぶらりん状態からどうにもなりません。  初期位置で既に宙ぶらりんでした。自らこうなったわけではありません。 ※既に三時間ほどこのままなのでそろそろきついと思われます。 ※高遠が180cm前後の身長なのに50kgとか言われてますけど、よくよく考えると由良間もあの身長であの体重は軽すぎる気がします。  我々は、高遠の体重がヤバすぎて由良間も結構細いのを気にしなくなる心理トリックに引っかかっていたのではないでしょうか。 ※「ノーブル由良間」で検索すると、腐女子のみなさんが考えた「由良高(由良間×高遠)」という変なBLカップリングが出てきます。  あんな出番のくせにpixivで人気すぎる気がします。 ※まあ、それは置いといて、実際、団長が死んだ後の態度はどうかと思うものの、とんでもなく悪い奴ってほどでもないただのタカビーな人だと思います。  近宮の件も、彼は本当に事故だと思っていたようですし、たまにゆるい顔になった時が結構可愛いのでそんな悪い奴じゃないと思います。 ◆ 【本編注釈】 (注釈1)ここに記されている内容は、基本的には原作にはない描写であり、殆どオリジナルや想像の物である。 (注釈2)お前らせめてヘルメットしろよ。 (注釈3)服装に関しては、シャツに大きく「Ping Pong(卓球)」と書いてある鶴野冬華も、二日目に着替えるべきだったのではないかと思う。 (注釈4)なんで由良間を予約してしまったのか、私にもわかりません。 |022:[[鏡よ鏡]]|時系列|026:[[次は頭のおかしくない人を書く]]| |024:[[Boo Bee MAGIC]]|投下順|026:[[次は頭のおかしくない人を書く]]| |015:[[アンジャッシュ]]|矢森雪雄|&color(red){GAME OVER}| |015:[[アンジャッシュ]]|神小路陸|| |&color(cyan){GAME START}|鐘元あかり|| |&color(cyan){GAME START}|甲田征作|| |&color(cyan){GAME START}|ノーブル由良間|027:[[理由など無くても死ぬときには死ぬ]]|
**おねショタ 「はぁ……はぁ……」  神小路陸少年は、息を切らせて走っていた。  女性二名の物言わぬ死体の形を恐れながら、そしてその肉塊を作り上げたと思われる成人男性の人影に追われながら、ひたすら足を動かし、その場との距離を広めている。 (なんだよあいつ……!)  彼の内情は未知の恐怖で充満していた。  根本的に、小五の男子が一人こんな深夜に出歩く事は稀でもある。  余程の事情がない限りは床に就いているだろうし、まして外を出歩く事など早々ある筈はない。  加えて、その行きあたった街というのが奇妙で、誰もいないゴーストタウンであるのは勿論の事、悪意に満ちたラクガキのある民家にはある種のグロテスクがあった。  彼のようなまだ小さな子供にとっては、肉色のスプレーで刺々しく書かれたラクガキは、胸を締め付ける恐怖でもある。  そう、ああして辛辣な悪口が書かれているという事は、書いた誰かがいるという事なのだ。  ――それは、「悪い大人がどこかにいた」に違いないと思えた。  しかし、そんな悪い大人たちに立ち向かう力は子供にはなく、ただ一方的にひねりつぶされるだけの脆弱な存在でしかない。  悪い大人というのが、実際目の前に立った時、それがいかに弱い人間なのかさえ彼にはまだわからない。  彼にとっては、中学生も大人だし、高校生も大人だ。そして、大人は常に大きいのだ。  大人が道路に書き記された若者のラクガキを見る事と、子供がそれを見る事とでは、また敵の大きさが変わってしまう。  そして、そんな場所で死体を二つも見つけてしまった事や、そんな折に一人の成人男性を見つけてしまった事もまた、陸にとって大きな問題だった。  死体もまた誰かによって齎されたものであり、あの男性もまたそれを齎した物であるようだった。  そいつが追ってくるのである。 「はぁ……はぁ……」  そして、それは陸の今日までの短い人生で、鬼ごっこというゲームに最も本気をかけた瞬間だった。  物静かな陸だが、小学生相応に遊んだり、スポーツを楽しんだりもする。普段は、逃げたり追いかけたりの中で高揚する心があった。  女子をタッチすると、「ヘンタイ」と言われる。茉莉香あたりの使う卑怯な手でもある。  そこで、陸はどちらかといえば女子よりも男子を狙う事を考え、大抵は忍や金田一のように動きの鈍い奴を狙った(※注釈1)。  それから先の鬼ごっこは、動きが自分より遅い相手から逃げるだけでいくらか有利にゲームを運べる。  ――だが今は違う。絶対の不利だ。 (くそっ!)  物々しい声をあげて追いかけてくる奇妙な男に、陸は全力の逃避行を見せようとしているが、内心では殆ど諦めかけている。  成人男性と陸との間では、走力には大きな開きがある。  小学生が五十メートルの速度を計測した場合、学年で一番速い子でも、七秒台に差し掛かるくらいが限度だろう。  陸は別にスポーツ万能というわけでもない一般児童だ。サッカーや野球などの習い事をしているわけではなく、あくまで遊びの一貫としてそれらをやってみる程度である。  すると、平均的な速度である九秒程度か、あるいは細く身長も高い体格を考慮に入れて八秒台程度であると考えられる。  小学生が運動会とかでその場しのぎ的に走行速度を上げる方法として、「輪ゴムを八の字型にして親指と踵にかける」、「ゴルフボールを握って走る」という裏技もある。  あとは、アキレスの「俊足」を履くというのも、コーナーで差をつける場合には一つの手だ。  しかし、いずれの手段も手遅れだ。  どちらにせよ、それらを使ったところで、相当こざかしく動かなければ、限度は七秒台や八秒台相応の小学生だと思われる。  やはり無理だ。  では、矢森はどうか。  もし、一般的な成人男性が五十メートルを測れば、七秒台というのはほとんど平均的な速度で、下手をすると六秒台で走れるかもしれない。  何せ、走力を計測する競技になると、日本人の筋力構造では体重が軽いほど有利になる。  陸上選手などを見ても、日本人だと大抵は上半身の筋肉は最低限で、下半身も余分な脂肪はない。  ケンブリッジ飛鳥が増量してあれだけの速さで走る事が出来るのは、ジャマイカ人の父と日本人の母を持つハーフであるのが大前提で、純正の日本人ならばやはり軽量である方が有利なのは仕方がない。  ケンブリッジ飛鳥自身も、陸上部時代は華奢な身体を走らせていたのだから、彼にとってのかつての常識もまた「体重を増やし過ぎない」事であったに違いない。  やはり、そうした一部例外を除けば、体重は軽い方が走行時に余計な負担をかけずスピードを出せるという通説に従って良いだろう。  陸も細身の体型には違いなかったが、矢森もまた、見事なまでに細身である。  ましてや、陸をそのまま縦に引き延ばしたような外見の矢森は、足の長さが幼少陸よりも十センチほど上だった。  これが三十代、四十代ならばまだしも、矢森はまだ大学生である。体力が衰える前だと考えて良い。  どう考えても、陸と矢森は鬼ごっこをするには不適切な力量差を持つ相手であるという事だった。  こういう時こそ、矢森がチャネラー桜庭だったなら……と思わずにはいられない。  しかし、彼はチャネラー桜庭ではなく、矢森なのだ。  長々と説明したが、それは一体どういう事なのか。  この長い説明を読み上げる頃には、とうに陸は矢森に捕まっていてもおかしくはないという事である。 「野郎~~~~!!!」  ――が、矢森はバカだった。  大学生と小学生という圧倒的な体力差を埋めるレベルでバカだった。 ところで、矢森がバカであるという前提でこうして上二行を書いてしまったが、果たして矢森はバカなのか?  筆者は彼がバカであると考える。  彼のどこがバカなのか、いくつかの言葉を使って論じてみせよう。  まあ、もう基礎的な話は面倒なので、このロワの読者はすべからく『亡霊校舎の殺人』は読んでいる前提で話したい。  もうそんな説明は疲れたし、このロワを読む人はもういいだろう。  読む方も、既に金田一読んだお陰でとうに知ってる話を延々説明されるのは面倒だろう。もういい。  それでもよく読まないと知らないであろう事を全身全霊を以て伝えよう。  細かすぎて伝わらない金田一キャラの話をしようじゃないか。  さて、それを踏まえたうえで、亡霊校舎で矢森について着目すべき場面といえば、事件の動機となる火事場泥棒の際に「あのおっさん助けなくていいのか?」という提案をしている点である。  クズ被害者にしては、割と優し気に見えるというか、人として当たり前の提案をしたかのように見えるだろう。なので妙に印象に残る。  しかし、矢森雪雄という男は、その直後に鬼城や花泉の言葉に流されて、あっさりおっさんを助ける事を拒んでいる。  実は、その点において、矢森は余計にバカなのである。  そう――要するに、矢森という男には、「自分」という物がないのである。  他人の生命が関わる非常に重大な場面においても周囲の判断を求め、「あっ、みんな逃げるんだし俺もいーや」という感じで見捨てた。  ああいった場面で他人の決断に流されるという事がいかに愚かしい事か。ここが一番、バカなのである。  鬼城や花泉はいざという時の判断は、悪賢いという意味では出来ていたが、矢森は冷徹な判断をするでもなく、自分を通すわけでもなく、判断を他人に任せる結果に終わった。  最終判断に至るまでの過程では、確かに「助ける」という選択肢もあったし、実際残り二人が助けようとしたら助けただろう。  しかし、彼の場合、おっさんを助けるという行為も、「なんかやばそうだから」くらいの感覚なのである。  つまるところ、彼は「なんで死にかけのおっさんを助けなきゃいけないのか」がわかっていないし、それを当然の事として理解するだけの知能もないのだ。  提案しただけマシか。そんな事はない。やらなきゃ同じである。  あれは良い事をしようとしたのではなく、「なんかそうした方がよさげな空気だから提案した」でしかない。  バカは、「なんか○○っぽいから」という感じで、理由を突き詰める能力が欠如し、常に最後の決断を他人にゆだねるのである。  そう考えると、彼はあの瞬間、善人としての判断をしたのではなく、バカとしての判断をして、それをあっさり覆してしまったと言えよう。  じゃあ、別にいい奴じゃないじゃん。  つまり矢森はバカ。  卒業証書取りに行って死んだおっさんもバカだが、矢森もめっちゃバカ(※注釈2)。  さて、改めて考えると、矢森の服装も、そんな彼のバカ性を表象しているように見えてくる。  彼はその名に沿って、「ヤモリ」が描かれている服を身に纏っているが、何故こんな服を着ているのか。  あのシャツを気にした読者は少なくない。何せ、矢森がヤモリを着ているのだ。初見で吹き出してもまったくおかしくない。どんな神経をしてたらあんなダサい恰好が出来るのか。  では、仮説の一つとして、「自らあんな服を着たのではなく、女の子にでも『矢森くん、このヤモリの服着てみたら?w』と冗談を言われて、真に受けたのではないか」という説を挙げたい。  そもそも大前提として、あの服は明らかにお調子者しか着ない服だ(この前提に異論を唱えたい者は自分のファッションセンスが変じゃないか友達に訊いておいた方が良いと思うんだ)。  しかし、矢森は言う程お調子者かというと、普段は結構沈黙を決め込んでいるタイプでもあるので、別にお調子者という程でもないだろう。  ぶっちゃけコミュ障だと思う。大学デビューなんじゃないかアイツ。  キョロ充とかそう呼ばれているタイプのやつで、多分グループで嫌われる事とか外れる事を結構気にしてる。  実際、身内と赤熊(いわば店員みたいなもん)にしか絡まないあたり、幅広い交友関係を構築するのが苦手で、知りあいとばかり話して心を満足させるタイプなんじゃないか。  それが悪いとは言わないが、彼の場合、「自分はイケてますよ」みたいな感じで調子に乗るのでなんか腹立つ。  閑話休題。  そういえば、本人も、初登場時に「なんか人増えてね? 赤熊サーン」と言っていた。  この場面、「実は彼はあの服を初対面に見せるのが超恥ずかしかったから、人が増える事を気にしたのではないか」とも解釈できる。  矢森はそれだけ周囲の反応にデリケートで、かつ、自分の服装についても気にしていたのではないだろうか。  流石に、初対面の相手に「矢森雪雄です」と自己紹介している時に、ヤモリのシャツを着ているのは恥ずかしい。  仮にもし、その恰好を突っ込まれれば幸いだが、突っ込まれなかったらただのアホである。とんでもないお調子者だと思われてしまう。  そして、最後まで金田一や明智や美雪や剣持はあの恰好に突っ込んではくれなかった。  この後、矢森が金田一たちとろくに絡まないのも、あの服に突っ込まなかったから妙な溝ができて絡みづらくなってしまったというのが最大の原因のように思う。  しかも、それでいて、当人は「チッ、ノリ悪い奴らだな、この服になんか突っ込めよ」と逆恨みしてそうで嫌(こういう奴が生理的に受け付けない)。  それから、更に問題となるのは、その後の描写である。  他の容疑者たちは二日目も同じデザインの服を着ているのに、矢森だけは入浴後のタイミングであのヤモリシャツを脱いで普通の白地シャツに変えているのである(ただし、第3話には前後で白シャツを着ているにも関わらずヤモリ服らしき服を着用している描写がある、これはミスと思われる)。  全員同じ服を着っぱなしなのにも関わらず(それもどうかと思うが)、矢森だけ着替えているのはあまりにも不自然だ。  奴はなぜ着替えたのか。  普段流されっぱなしのくせに、全員が二日続けて同じ服を着ている異様な状況の中、一人だけさらっと着替えているのは何故なのか。  おかしくはないか。  結論を言おう。  ――やっぱり恥ずかしかったからに違いない。  ここで、風呂に入る前のやり取りを思い出してみるべきではなかろうか。  矢森は、「風呂はさっさと済ませて軽く校内探検でもすっかな」と言った後、花泉に「抜け駆けすんなよ! 矢森」と返されていた。  このやり取りを普通に解釈するなら、「速やかに風呂を済ませてお宝を探そうとしている」となるだろう。  実際、そういう風に読んだ人が圧倒的多数だと思われる。  だが、こうしてあのファッションセンスを恥ずかしがっている前提で考え、矢森が風呂あがりを境に着替えたのを見た時、ある仮説が浮かぶのである。  ――あれは「風呂をすぐ出て宝探しをしたかったから」ではなく、「さっさと着替えたかったから」だったんじゃないか。  つまり、あんな服を選んで着て行って、「初対面の奴らに遭遇して慌てて着替える」という不測の事態への対応に奔走する羽目になったのだ。  それこそが、矢森のバカさなのではないか。   やっぱり彼はバカである(※注釈3)。  他にも、犯人の恐るべきトリックへの引っかかりっぷりも、他人の言葉を真に受ける彼のバカさが伝わって来る。  カップ麺の上に地図広げて写真撮る行為の怪しさに気づけよバカと。「ん?なんでカップ麺の上に地図置いたのw」くらいのツッコミでもえぎの天然キャラを弄るくらいは出来たんじゃないだろうか。  幸いというか、「男湯に来い」みたいな手紙は真に受けずに引っかからなかったようだが、流石に指示の発信者に応じて判断を変えるくらいの事は出来るようだ。  あと、大好きなもえぎに対して「早くしてくれ!こっちはハラへってんだ」、「オイオイ泣きたいのはこっちだって同じだぜ!」などと暴言みたいなのを浴びせているのも変。  こんなんでもえぎに好かれると思ってたのかバカ。  何気に火事場泥棒提案してるものの、リュック一つで中学校乗り込むのもバカだし、実際見つかっているのもバカ。  クズというかバカなんじゃないだろうか。  いや、もっと言えば、バカすぎた結果がクズなんじゃないだろうか。  こんなにバカだからこのロワでも、成人女性を二人も殺した犯人が小学生の男の子だという発想に至ってしまったんだろうね。  矢森がバカという意見に異論がある方は感想の際に指摘をば。  ――ところで、話題が逸れに逸れた結果、この「陸を追う」という状況で、彼がバカだった事がどう災いしたのか……などという部分がおざなりになってしまったが、結局彼はどうなったのか。  彼は洗剤で滑ってこけたのである。  アスファルトの上の洗剤ってそんなにこけやすいか?  まあ、洗剤抜きにも濡れてれば滑りやすくこけやすい。  何より、彼はあの死に方からして、足元が弱点でかつ、水も弱点なのだ。  つまり、矢森は多少の水で滑ってこけてもおかしくない。QED。 「いててて……」  矢森は、転んだ悔しさをかみしめながら、立ち上がった。  転んだ時の悔しさは半端なものではない。転ぶと悔しいのだ。一人でも走ってて転ぶと惨めになるのだ。とにかく悔しいのだ。わかれ。  で、転んだ彼には、擦り傷が出来ており、若干足が痛んで走力が落ちていた。  受け身を取れないままアスファルトに思い切り転んだのだから、まあ無理もない話だろう。  そうなると、もう成人男性平均レベルの走力は期待できず、追跡者としての能力は大きく損なわれる事になってしまったわけだ。  起き上がるのがだるかったが、彼は必死に起き上がった。  仕方がないのは仕方ない。たとえもえぎの仇であっても、もう追うのは諦めるべきに違いなかった。  しかし、矢森はバカだった。 (ヤロ~~~!!)  半ば足を引きずるような形で、矢森は陸を追いかけようとしたのである。  数分で退く痛みかもしれないが、全力で駆け抜ける事を体は拒んでいる。  一瞬ズキッと痛む体を押してまで、場違いな復讐に燃える根性は矢森にはない。  もう駄目である。  これだけ長い文章を連ねておきながら、前回の話の終わりから五秒くらいしか経っていないが、もうこの時点でこんな感じという時点で彼は駄目だ。  もう陸を追えない。前回から僅か五秒でこのザマである。  この話の序盤の陸の心境や、走行速度に関する解説はなんだったんだというくらいに、矢森は価値がなくなった。  もうこの話自体が「前回の五秒後に矢森が転ぶ」というだけの部分にこれだけの文章を費やしてしまった。  この話の総量をざっと見っところ、だいたいここまで五秒のペースだと、この話は終わるまでに十五秒程度の話にしかならない可能性がある。  そんな事はいけない。  ここからペースを早めよう。猥雑で冗長で説明的で急場しのぎで思いつきだらけのロワはもうたくさんだ。  結論を言ってしまおう。  とにかく、追跡者としての価値がなくなった彼に待ち受けている運命は――  ばきゅーんっ!!  ――追われる側としての末路、のみだったのだ。 ◆ 「え」  矢森の腹に、鉛の弾丸が貫通していた。  あまりに一瞬の出来事だった故か、矢森もそれを感知できなかった。  先に多少クリーンヒットしてしまった転倒ダメージがあり、そこでアドレナリン放出祭だったせいか、何故か思ったほどの痛みもない。  しかし、体が横にそれた感覚が確かにあり、何かが真横から自分の体を貫通したのを彼は理解した。  というか、確実に銃声が聞こえたのもあるし、実際、何かが自分の体をすっぽり通って抜けて行ったような感じはしたのだ。 「な……」  脇腹に手をやった。  手を目の前にやってみると、その手は血に濡れていた。 「なんじゃこりゃあっ!!」  ここで、『太陽にほえろ!』に関する豆知識をば。  この「なんじゃこりゃあ」という台詞でおなじみ、ジーパン刑事こと柴田純。演じたのは松田優作である。  この台詞が登場するのは、第111話『ジーパン・シンコその愛と死』で、助けた犯人に撃たれてジーパンが殉職してしまう場面である。  そのあまりに皮肉な結末と、ヒーロー性と裏腹な人間らしく、醜く、弱い死に方が衝撃を与えたという事で、あの最期をよく知っている人は多いだろう。  かなり多くのバラエティやフィクションでパロディされており、日本人なら元ネタのドラマもどこかしらでタイトルを聞いた事はあるはずだと思われる。  で、この台詞は、本来は、「なんじゃあこりゃあ」という感じのアクセントの置き方なのを知っているだろうか(活字だとわかりづらいが)。  この訛りは、実は演じた松田優作の故郷・山口県の方言がかなり入っているのである。  大抵パロられる時、その「なんじゃこりゃあ」がかなり原典とアクセントの置き方が違ってしまっているのが個人的に気になるし、山口県民はその辺りがかなり気になるらしい。  もうこの話はいいや。  どさりと倒れた矢森は、その男の顔を見た。  影になって見えなかったが、そこには男がいた。 「あ、あんた……一体……」 ◆ 【読者への挑戦状】  ここで、予約内容をもう一度振り返ってみましょう。  今回、事前に予約されたキャラは、五名。  神小路陸、矢森雪雄、ノーブル由良間、鐘本あかり、甲田征作です。  陸と矢森の二名は、既に登場しているので除外されます。  これは自殺でもなければ、陸が銃を持っていたというケースでもありません。  先ほど、矢森の視点で「男の顔を見た」とあるので、あかりも除外される形になります。  そうすると、犯人はノーブル由良間か甲田征作という事になります。  犯人は二分の一。  このうち、大抵は意外な方が犯人です。  犯人は、ノーブル由良間でしょうか?  それとも、甲田征作でしょうか?   ――――健闘を祈る。  ヒント:手がかりがないので、この犯人を当てる方法はあてずっぽうしかない。 ◆  解答編。  甲田征作でした。  甲田征作は、猟銃を構え、鬼神の如き眼差しで矢森を見下ろしていた。 「この日本にはまだ医者のいない山村や離島がいっぱいある。  そんな無医村に一つでも多く病院を開業するのが私の罪ほろぼしなんだ。  しかし、そのためにはお金がいるんだよ。  ――莫大な資金がね……!」  動機を説明しながら、甲田は矢森に近寄り、遂に矢森を見下ろせる距離まで近づいていたのだ。  そんな甲田の顔色を見た矢森は、血の気が引く想いであった。  薄い目の男が、感情のない開眼を示している光景を見上げて、血の気が引かない方がおかしい。 「あんた、そのために殺し合いに!」 「ああ! そうでなければわざわざ人殺しなんて……」  このリゾート島の会員権で手に入る五千万円は、言うまでもなく大金である。  勿論、金の為とはいえ人殺しはよくない。  よくないが、金が手に入る→病院つくる→大助かり。  無医村医療の為、仕方ない犠牲である。  これはもう仕方ない。  甲田さんはもう、何百人殺しても心を痛めないだろう。 「ひっ……!!」  矢森は、僅かな体力で這うようにして逃げようとしたが、甲田はそんな彼の背中を足で踏み潰すように押した。  四つん這いだった矢森も、今の一撃に衝撃を受け、ぺちゃんこのうつ伏せ状態になる。 「げふっ」 「チッ」  だが、それでは狙いが定めにくいと思ったのか、甲田は更に、彼を蹂躙するかのように、甲田は矢森を足蹴にして、うつ伏せの体勢から仰向けへと転がした。  矢森の視界には、おっさんが猟銃を構えて自分の体に片足を乗せている光景が映し出された。  それは、矢森にとって過去に感じた事がないほどの恐怖だった。  あまりの出来事に、矢森は助けを乞う為の言葉すら出てこなかった。  そして、そのおっさんは矢森に向けて語りかけ、矢森はそれをただ聞くだけなのである。 「もういいんだヤモリシャツくん……君が死ねば済む事なんだ」  その声は、やたら静かだった。  甲田は、言いながら矢森の口に猟銃の銃口を突っ込んだ。  それから、銃を持つ手が震えるのは、矢森の歯がガタガタと震えているからに違いなかった。  甲田は、それから数秒数えた後、その引き金を引いた。  ばひぇーんっっっ!!  大きな音がそこに響き渡り、彼はこの場にある三番目の死体となった。 「"カルネアデスの板"だよ……」  甲田は、それだけ言って、またどこかへと姿を消していった。  次に甲田に殺されるのは、この話を見ているあなたかもしれません。  ほら、よく見てください。  あなたの後ろに甲田さんが……。 &color(red){【矢森雪雄@亡霊校舎の殺人 死亡】} 【一日目/黎明/香取家周辺@幽霊客船殺人事件】 【甲田征作@悲恋湖伝説殺人事件】 [状態]健康、精神不安定、六角村症候群 [装備]大広間に並べられていた猟銃@秘宝島殺人事件 [所持品]基本支給品一式、ランダム支給品0~1 [思考・行動] 基本:無医村に病院を開業する為に殺し合いに乗る。 1:過ぎてしまった事をいくら悩んでも仕方ない。それより未来に向けて努力をしよう。  (略:殺しちゃっても、まあ後々がんばればいいよね) 2:ええどうもスミマせん――……  (略:罪の意識はそこそこあるかもしれない) [備考] ※参戦時期は、「闘いたまえ」とか金田一を激励したあたり。 ※さっきまで六角村にいたのと、香山が二度死んだのと、九条がなんやかんやで裏切ったのとが原因なのか、頭がいかれました。 ※大広間に並べられていた猟銃は八つあるので、八人までなら支給していいんじゃないかと思いますがいかがでしょう。 ◆  一方、逃げていた神小路陸は、逃げまくった結果、へんな村へと来ていた。  ここまでだいたい十分。  矢森がこけるまでに五秒。そこからここまで十分。  小説の文章のバランスとはどこまでも奇妙である。しかし、人間の体感時間も不思議な物である。  たとえば、小学生の過ごす一ヶ月と、大人が過ごす一ヶ月は、もう明らかに別物だ。  又聞きだしソースもないのであんまり真に受けないで欲しいが、人間が八十年生きた場合、感覚的な折り返しは十八歳程度だとか。  陸はまだ折り返す前、矢森はもう折り返した後だったのかもしれない。  まあ、五秒が短すぎるだけで、十分もそんなに長い時間ではない。  先程までの町並みから、ポケモンGOが出来そうにないこのド田舎の村みたいなところまで、走ってもそんなに時間がかからなかった方だと言えよう。  さすがリゾート島である。 (逃げ切った……のか?)  陸が辿りついた場所は、崖になっていたので、陸も流石に足を止めて、背後を一度見た。  誰かが追ってくる気配はない。  どうやら、奇跡的にも逃げ切ったらしい。  肩で息をしながら、陸は休もうとしていた。 「!」  しかし、そんな陸だったが、前方の崖の下を見た瞬間、稲妻のような衝撃が走った。。  そこで陸が見た物とは―――― 「『ダビデの星だ』……!」 . ダビデの星の形をした村であった。  それを見た陸は、思わず仰々しい顔でその衝撃を口に出してしまったのである。  すると、どこからか女性の声が訊き返した。 「ダビデ?」 「ああ……ダビデはヘブライ人――つまり古代イスラエル人の王だ。  この村の形は そのダビデ王の紋章の形そのものだぜ。  名づけるなら、その形をそのまま村の名前にした『六角村』ってところだな(大正解)。  俺に支給されたペンダント(新事実)も頭にもう一つ三角がつけば『ダビデの星』になる」  陸はやたら詳しい解説を始める。  六角村に入ると、ある者はダビデの星の解説を始めたくなり、ある者はその解説を聞きたくなってしまうのだ。  それもまた人情。  六角村には不思議な力がある。  解説を聞いていた人は、思わず聞き返してしまった。 「へ~~~っ。  でもなぜそんなものがこんなリゾート島に?」 「さあね……。  でも青森県にある『戸来村』(現・新郷村)の村名も『ヘブライ』がなまったものと言われてるんだ。  その村にはヘブライ語らしい民謡も伝わっているそうだぜ。  だから、ここはもしかすると青森県なのかもしれないな(不正解)」 「へぇ~~~~~」 「って……。ん?」  陸はそこまで解説したところで、聞き手がいる事に気づいた。  六角村のあまりのダビデ力(ちから)に圧された陸は、小学生らしからぬ博識を披露してしまっていたが、それにしても解説の聞き役に全く気付かなかったのである。  そこにいたのは、なんだかどことなく見覚えのある顔つきの女性だった。   「え、陸……?」  先に話しかけてきたのは、その女性の方だった。  金髪のふわふわしたショートヘアーで、それに合ったようなふわふわした天然系の雰囲気の女子高生。  彼女の名は、鐘本あかり。  狐火流しの女性陣の中で一番闇が浅く、陸にとって縁のある少女が――六年だけ、大人になった姿であった(タイトルはこれで回収、おねショタ好きが繋いでくれたら嬉しい)。 【一日目/黎明/六角村@異人館村殺人事件】 【神小路陸@狐火流し殺人事件】 [状態]異人館村症候群 [装備]なし [所持品]基本支給品一式、ランダム支給品0~1、若葉のペンダント@異人館村殺人事件 [思考・行動] 基本:殺し合いには乗らない。 1:あかり……? [備考] ※参戦時期は、あかりに靴ひもを貸さなかった直後。 ※この陸はショタなので母親は生存しています。 ※ヤモリ柄の服を着た男性のことを2人殺害した犯人ではないかと思っています。 ※陸の靴ひもを貸さなかったスニーカーは元々履いていたものなのでランダム支給品には含まれません。 【鐘本あかり@狐火流し殺人事件】 [状態]異人館村症候群 [装備]なし [所持品]基本支給品一式、ランダム支給品1~2 [思考・行動] 基本:殺し合いには乗らない。 1:陸だよね……? [備考] ※参戦時期は、第3話終了くらい。 ※陸を見て、「陸だなあ」と思っています。 【異人館村症候群】 ※六角村の大麻のせいで起こる風土病で、発症すると多少頭がおかしくなる場合があります。  金田一少年の場合は、異人館村に来て間もなくしてダビデの星を解説し始めたり、人形を裁断し始めたりなどの奇行が始りました。  他にも、殺人術を習い始めたり、変な袋を被ったり、屋根に上って無意味に十字架を細工したり、エリザベートしたり、「エリザベート・バートリ夫人」「エデンのリンゴ」「ソドムとゴモラ」などのそれっぽい文学用語を引用してインテリぶったりしてしまいます。  とにかく、ここに入ると、登場人物の設定や方向性が固まっていないかのような空気になってしまいます。  六角村出身でなければ、外に出ると治ります(出身者は手遅れの場合が多いです)。 ※島田荘司のトリックの引用は、ネタバレになるので控えてください。   ◆  その頃、ノーブル由良間は、人形と一緒に木にぶら下がっていた(※注釈4)。 【一日目/黎明/六角村@異人館村殺人事件】 【ノーブル由良間@魔術列車殺人事件】 [状態]健康、宙ぶらりん [装備]生きたマリオネット@魔術列車殺人事件 [所持品]基本支給品一式 [思考・行動] 基本:殺し合いには乗らない。 1:助けて。 2:ブラをスる。 [備考] ※参戦時期は、団長が逝ったあたり。 ※生きたマリオネットとロープで繋がれており、シーソートリックみたいな感じでぶら下がっています。  人形が70kg、由良間が60kgなので、10kg以上の物がないと宙ぶらりん状態からどうにもなりません。  初期位置で既に宙ぶらりんでした。自らこうなったわけではありません。 ※既に三時間ほどこのままなのでそろそろきついと思われます。 ※高遠が180cm前後の身長なのに50kgとか言われてますけど、よくよく考えると由良間もあの身長であの体重は軽すぎる気がします。  我々は、高遠の体重がヤバすぎて由良間も結構細いのを気にしなくなる心理トリックに引っかかっていたのではないでしょうか。 ※「ノーブル由良間」で検索すると、腐女子のみなさんが考えた「由良高(由良間×高遠)」という変なBLカップリングが出てきます。  あんな出番のくせにpixivで人気すぎる気がします。 ※まあ、それは置いといて、実際、団長が死んだ後の態度はどうかと思うものの、とんでもなく悪い奴ってほどでもないただのタカビーな人だと思います。  近宮の件も、彼は本当に事故だと思っていたようですし、たまにゆるい顔になった時が結構可愛いのでそんな悪い奴じゃないと思います。 ◆ 【本編注釈】 (注釈1)ここに記されている内容は、基本的には原作にはない描写であり、殆どオリジナルや想像の物である。 (注釈2)お前らせめてヘルメットしろよ。 (注釈3)服装に関しては、シャツに大きく「Ping Pong(卓球)」と書いてある鶴野冬華も、二日目に着替えるべきだったのではないかと思う。 (注釈4)なんで由良間を予約してしまったのか、私にもわかりません。 |022:[[鏡よ鏡]]|時系列|026:[[次は頭のおかしくない人を書く]]| |024:[[Boo Bee MAGIC]]|投下順|026:[[次は頭のおかしくない人を書く]]| |015:[[アンジャッシュ]]|矢森雪雄|&color(red){GAME OVER}| |015:[[アンジャッシュ]]|神小路陸|| |&color(cyan){GAME START}|鐘本あかり|| |&color(cyan){GAME START}|甲田征作|| |&color(cyan){GAME START}|ノーブル由良間|027:[[理由など無くても死ぬときには死ぬ]]|

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