同じ海人なのに白神はイケメン、怖い顔で犯人の陸は大差ない
大雪が降りかう電脳山荘周辺。
視界はまだなんとか信頼できる、だがこんな天気ではまずは屋根のある場所へと足を運ぶのが人間の心理であろう。
「嗚呼、うぜぇうぜぇうぜぇ」
ネガティブな言葉を発しながらアラサーな男鯖木海人は雪の粒に当てられていた。
腸が煮え返る思いでその顔は怒りに満ちていた。
◆
香山三郎が謎の不審死を遂げた瞬間この男はドキドキ感がMAX状態であった。
「リアル祟りキターッ」
と大声を出して大喜びしていたのは60人いれどこの男だけだろう(他の登場人物がまだ誰なのかわからない為もう1人か2人くらいなら居るかもしれない)。
だが九条は告げた。
『バトルロワイアル』と……。
しかも観客のつもりでいた鯖木は自分の参加者であることを理解した瞬間地獄に叩き付けられた。
因果応報である。
◆
「観月旅行者って言ってやがったか」
おぼろげな記憶を思い出す。
確かちょっと前に悲恋湖がどうこうって問題になったニュースで関わっていた様な気がする。
「俺は炎上のプロだかんな。旅行会社にエンペラー(笑)だかなんだかしれねーがこんなバトルロワイアルなんてシステム一瞬で潰してやるぜ」
己が屈強な立場に置かれようが我流を突き進む男であった。
「早くネットの繋がる環境に辿り着いて掲示板に書き込めば俺の勝利よ。そしたら俺はバトルロワイアルを終わらせた英雄だ。くっくっく」
趣味パソコンの男(無職)はネットに書き込んだ自分の姿を思い浮かべ嫌らしく気持ち悪く笑っている。
「ちっ、まずは屋根だ屋根」
当然パソコンもスマホも取り上げられている。
自分のデイパックもこの雪の中で開ける気にならずまだ未確認状態。
数十分辺りをぐるぐる周りようやく1つの小屋が見つかった。
ようやく一息付けそうである。
「よし」
ガッツポーズをしながら彼は電脳山荘に入り込む。
そこは<僧正>が事件時に使っていたコテージであった。
彼は油断していた。
――大雪の中でも殺意の目を向けていた者の視線に。
そんなことには気づいていない鯖木はコテージの中で支給品の確認をしていた。
「『双子姉妹探偵』……んじゃこりゃ……」
ミステリー小説が中から出てきた。
「あの九条とかいう奴の口ぶりじゃあ武器とか言ってじゃねーかよ!」
もう1つの支給品は『S・K』の文字が掘られたキーホルダーである。
「俺のイニシャルは逆だっての」
名前ではなく苗字が先なのだろうか?
いや、まず鯖木の持ち物ではない。
「ちっ、まあいいや。ネットさえ繋がれば」
一応デイパックを持ち歩きコテージを物色する。
すると見つけたのだ、念願のパソコンを。
「ラッキーって、大丈夫かこれ?」
ついぞ見かけなくなった現在のパソコンよりも大きく、重たいブラウン管パソコンである。
不安を抱きながらもそれの電源を付ける鯖木。
「げえ、95なんてOS使えんのかよ」
電脳山荘殺人事件の発行日は1996年、この時はまだバリバリ現役だったパソコンのOSもいまや骨董品だ。
だがまだXPユーザーも少ないながらいるのだ、95ぐらいなら動きそうな気もする。
「クソッ」
だが当然パスワードが邪魔をする。
パソコンに詳しい者であればこんなぼろいパソコンのセキュリティなど造作もなく外せる。
しかし、それも機械に頼らなくてはならない。
スキルはあるのに道具がなければどうしようもない。
例えるならネジをドライバーで回して締結するのは子供でも可能だが、ドライバーがなければプロレスラーでも不可能なのだ。
つまり、このドライバーのない状態が現在の鯖木を指す。
誰かこのパソコンの持ち主さえ入れば、いや道具だけでもあれば十分だ。
炎上させるだけ、日頃の行いで現在の状態を引っくり返せるのに歯がゆい感情が彼をイライラさせる。
『トントン』
とノック音が聞こえた。
「空耳か?」
呟いた後もそれを否定する様にまたノック音が響く。
おそるおそる入口に近付く。
深夜という時間帯に明かりを付けているのだから居留守は通じない。
「お、おい何者だ?」
なるべく強気な声で相手を脅す感じで声を掛けた。
『な、中に入れてください。ここら一辺に全然コテージがないのよ!』
年のいった女性の弱弱しい声が返ってきた。
怖そうな野郎でもなく怯えた女の声に鯖木はほっと息を付く。
「あんた名は?」
『…………多岐川かほるよ』
「……ん?」
つい最近その名前を聞いた、否見つけた気がした。
いつだ、このバトルロワイアルより前か?
違う、本当にさっきだ。
デイパックからその名前を見つけた。
『双子姉妹探偵 著書多岐川かほる』
「この小説の作者か?」
最近の小説家はパソコンを使うのが多いらしく、レトロに文章を文字にして書き込む人も滅法減った世の中だ。
漫画家でさえすでにデジタルな者が多い時代だ。
なら、それなりにパソコンを扱える人という図が出来る。
運が良ければこのパソコンの使用者の可能性もなきにしにあらず。
これは利用出来る者だと腹のそこでクツクツと嗤う鯖木。
「ほらよ、入り……なっ!?」
出入り口を開けた鯖木の目に映ったのは冷酷な目で狩りをする中年の女性であった。
その手には一丁の猟銃を構えていて……。
◆
「あ、あれは坂東!?」
大雪の中彼女の悪い視界に入ったのはメガネを掛けた老け顔の男だった。
そう、何故か当麻とリチャードを始末してあと一人となった時に何故かこの島に連れられていた。
クローズドサークルからクローズドサークルに移動させられた謎の体験を彼女は経験したのである。
だが、運よく彼女は最後のターゲットの坂東を発見したのだ。
――それがちょっと似ているだけの赤の他人ということも知らずに。
それさえ済めばこころ起きなく島から脱出に集中することが出来る。
彼がコテージに入り込むのを確認する。
彼が明かりを付けたのを確認し、その明かりを光源とし窓に近付き支給品を漁る。
そこで見つけた武器は1つ、猟銃だ。
これさえあればあいつを撃ちさえすれば……。
失敗しても鈍器にはなるだろう。
弾が込められているのを確認し、彼女はコテージの入口を叩く。
彼は彼女の記憶通りオドオドとしている態度なのに強気でいるのがわかるあからさまな奴であった。
狭山恭二の敵、20年に続く恨みを果たすこの日が計画はずれてしまったが訪れたのだ。
「ほらよ、入り……なっ!?」
老け顔の男と目があった瞬間引き金を弾く。
そこら一帯に銃声が響くが、雪の影響でどこまで響いたのか……。
◆
あ……ありのまま今起こった事を話すぜ!
『おれは撃たれて死んだと思ったらいつのまにか相手のがくたばっていた』
な……何を言っているのかわからねーと思うがおれもなにされたかわからなかった……。
頭がどうにかなりそうだった……。
催眠術だとか超スピードだとかそんなチャチなもんじゃあ断じてねえ。
もっと恐ろしいものの片鱗を味わったぜ……。
◆
鯖木の視界に広がるのは中年女が血まみれで倒れ伏した姿であった。
息を確認するまでもない、もうピクリともしない。
彼女の持った銃弾は鉛の込められた猟銃である。
仙田猿彦の死因にもなった自滅用のあれである。
「お、俺を殺そうとして自滅とかだっせ!」
彼女の遺体にげらげら笑いながら蹴りを入れていく。
「は、はは。俺いまリアル死体蹴りしてんじゃん、ははは」
狂った笑いを上げながら蹴る、蹴る、蹴る――。
「た、多岐川かほる、お前も炎上してやるからな!」
ミステリー小説家、人を殺そうとしてミステリーな死を遂げる。
もっと、面白い触れ込みに出来ないだろうか。
「どいつもこいつも死ねばいいのに……」
パソコンまたはスマホがあれば手が動いていたはずなのに。
とにかくこんな人が死んでいる場所にずっといちゃあいけない。
ネット環境のあるところへ逃げ切らなければ――。
【多岐川かほる@蝋人形城殺人事件 死亡】
【一日目/深夜/電脳山荘<僧正>のコテージ@電脳山荘殺人事件】
【鯖木海人@雪鬼伝説殺人事件】
[状態]怒り
[装備] なし
[所持品]基本支給品一式、双子姉妹探偵@蝋人形城殺人事件、S・Kのイニシャルキーホルダー@悲恋湖伝説殺人事件
[思考・行動]
基本:『災厄の皇帝(エンペラー)』及び観月旅行者及び小説家多岐川かほるの炎上。
0:炎上させこのロワイアルを終わらせる。
1:ネット環境のある場所へ行く。
2:この95のPC持っていくかどうか……。
[備考]
※参戦時期は、雪鬼伝説殺人事件に巻き込まれる前。
※OS95のPCを持っていくかどうかは後の書き手さんにお任せします。
※多岐川かほるの死体は電脳山荘<僧正>のコテージに転がっています。
※鉛の詰めてあった銃@飛騨からくり屋敷殺人事件は電脳山荘<僧正>のコテージに落ちています。
最終更新:2016年08月19日 20:27