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すべてが終わる前に、明かりが帰る前に




「はい、あなた」

栞さんが、仕事帰りで腹ペコの俺に白米をよそってくれる。

俺の隣には、彼女との子供―――ひとり息子が行儀よく座り、家族三人で食卓を囲んでいた。

あの奇妙なバトルロワイアルツアーでの三日間、俺と栞さんは恐怖を憶えつつも互いに励まし合い生き延びた。
思ったよりも犠牲者は少なく、優勝者も決まらなかったため得点を巡る争いにも発展せず。
多くの生存者はこれまで通りの、または俺のように少し変わった生活に戻っていった。
だから、これは多くの参加者にとってのハッピーエンドという奴なのだろう。

「......」

だが、それでいいのか。
栞さんに許され、俺は過去に犯した罪を清算したといえるのか。

「あなた?」

栞さんが俺の様子に気が付いたのか、顔を覗き込んでくる。

「どうかしたの?」
「...俺は、本当にこれでよかったのかな」

同じ生還者として、つい本音を漏らしてしまう。

「栞さん。きみは俺を許してくれた。でも...きみの兄さんは、あいつは、俺を許してくれるはずがないんだ」

つい箸を握る手に力が籠ってしまう。このままへし折れそうなくらいだ。

「岳人だけじゃない。俺は、両親やきみも不幸にしてきた。そんな俺が、こんな...幸せに...!」

俺はなにを言っているのか。
決して不幸になりたいわけじゃない。
けれど、このままではいけない―――そんなふうに思ってしまう。

「...きみは、まだ自分を許せてないんだよ」

しばらく間をおいて、俺の子供が口を開いた。

「蒼介くん。俺は、きみを許さない」
「おまえ...なにを...?」

俺は子供に手を伸ばし―――気が付く。
彼の声が、顔が、彼自身の存在がまるで別の者に変わっていくことに。

「でも、きみが夏美を幸せにしてくれるなら、俺のことを忘れずに時折思い出して弁護士として頑張ってくれるなら。俺はそれでもいいと思ったよ」
「あ、あぁ...」

俺はわかった。
俺の子供が、なにに、誰に変わっていくのかを。

「きみは...ああ、そんな...!」
「でも、肝心のきみが納得していないなら駄目だ。きみがこの人生を幸せだと思ってくれていても、納得していないなら駄目だ」

俺の子供―――いや、『彼』は言った。
悲しいくらい優しげな微笑みを浮かべて―――『彼』は俺の手にそっと掌を重ねた。

「だから...もし、きみが『納得』していないなら、最後まで戦ってくれ。きみが弁護士を目指した本当の理由と共に」

『彼』―――岳人のその言葉を最後に、俺の偽りの幸せは消え失せた。



「うっ...」

冬部蒼介は目を覚ます。
彼の隣には、葉崎栞―――自分がイジメ殺してしまった青桐岳人の妹―――が眠っている。
別に殺した比喩とかではなく、普通にスースーと寝息を立てて眠っているのだ。
ここはどこだ―――周囲を見回し、これまでのことを思い出す。

俺は葉崎栞に刺されることで罪を償い、彼女に疑いをかけぬよう桜を己の傷口に刺して後は死を待つのみだったはずだ。
ところが、目を覚ませば傷はすっかり消えており、あの九条とかいう男から珍妙な殺し合いツアーの説明を受け、再び眠りにつかされた。

目を覚ませばそこは樹海で、暗闇のために視界もきかず、このまま突っ立っていても仕方ないのであてもなくさまよっていた。
傷は塞がっていたものの、出血はそのままだったようで、貧血気味になりながらもやがて初めて参加者に遭遇。
その参加者は紛れもなく葉崎栞―――俺がその命をもってして償おうとした少女だった。
あの事件のこともあってお互いに気まずい空気が流れ、俺がどうにか声をかけようとしたその時、彼女は深々と頭をさげ謝罪の言葉を涙とともに吐き出した。

突然のことに俺も動揺してしまい、それ以上に混乱する彼女を落ち着けるためにも俺は近くにあった物置らしき場所に避難。
彼女から大まかな説明を聞いている内に貧血で気絶。次第に彼女も泣き疲れてしまい眠りについた。

事の顛末はこんな感じだった。


(...まあ、流石にあんな目立つ防空壕に三日間二人っきりなんて都合がよすぎるよな)

あの防空壕で過ごした三日間は夢だったのだろう。あんな都合の良い出来事、夢に決まってる。
冬部はそう結論付けた。

状況を整理したところで冬部はこれからの方針を考える。

自分はもちろん、あの様子では栞も優勝には興味が無いだろう。
また、自分は死んでも構わないが、栞は絶対に死なせるわけにはいかない。
そこで優勝を目指さない自分達がとるべき行動は二つ。
争いを望まない参加者と合流すること。そして、三日間無事に過ごせる場所を探すことだ。
さて、いつ栞を起こそうかと冬部がタイミングを測っていた時だ。

『――――――――――!』

耳に届いた悲鳴。
あの甲高い声は、子供だろうか。

(まさか、殺し合いに乗った奴に襲われて――――!!)

このまま隠れて見殺しにするわけにはいかない。
かといって、危険人物のもとに栞を連れて行き危険に晒すわけにはいかない。

「栞さん、起きてくれ」

そこで、冬部が選択したのは、自分一人が現場へ向かうことだった。

突如起こされ、状況がつかめない栞の肩を掴み冬部は説明と共にこれからの行動を指示する。

「いいかい。さっきこの近くで子供の悲鳴があがった。俺はそこへ向かい、その子供を救けに行ってくる」
「だ、ダメよそんな...危険だわ!」
「見捨てることはできないんだ。...それで、もし俺が20分以内に戻ってこなければ、きみはどこか遠くへ逃げてくれ」
「...わ、わかったわ」

渋々と頷く栞を物置に待機させ、冬部は貧血で覚束ない足取りで悲鳴のもとへと向かう。

(頼む、間に合ってくれよ...!)





(ますみお姉ちゃん...!)

少女は走る。ただ走る。
自分を逃がしてくれた、遊んでくれると約束したあの人を救うため、ひたすらに我武者羅に走る。
だが、未だに希望は見えない。
進んでも進んでも森、森、森。

自分がちゃんとあの場から離れられているのかもわからない。

どれほど走っただろうか。

やがてるりは森を抜け、道路へと到着する。
よかった、ようやく抜けられたのか。そんな安堵すらする暇もない。
例え足が潰れようとも、救けを見つけるまで足を止めてはいけない。

よろよろとした足取りで、それでもるりは進む―――


「おっと」

カーブの影で隠れていた青年の膝にぶつかり、るりは尻もちをついてしまう。

「どうしたのきみ?そんなに慌ててさ」

青年は控えめに見ても整った顔立ちであり、その爽やかな笑みからは、人見知りのケがあるるりからしても良い印象しか受けない。

「おい、多間木。なんか見つけたのか?」

次いで後方から現れたのは、どこか冷たい目をしたロン毛の青年と、ジャージ姿の目付きの悪い女性。
多間木と呼ばれた青年以外は、どこからどう見ても悪人面である。

「古谷...いや、なんか女の子がぶつかってきてさ。大丈夫かな~、お嬢ちゃん」
「ハンッ、イイヒトぶってんじゃないわよ」
「人聞きの悪いこと言うなよ海堂」

意地わるく鼻を鳴らす海堂に、多間木は困ったような笑みを見せる。
多間木以外は少し怖い雰囲気を漂わせているが、少なくとも先程のおばさんのような気味悪さは感じなかった。

「あ、あのっ!」

だから、ようやく出会えた希望にるりは賭ける。

「ますみお姉ちゃんを助けて!」

決して縋り付いてはいけない泥船に乗り合わせてしまったことにも気づかずに。




「なあ、連城さん。これって子供の足跡だよな?」

その頃の獄門塾付近の森の中。
そこに参加者の調査をしに来た警官Bと連城の二人は、子供の足跡らしきものを発見する。

「......」
「とりあえず追おう。子供なら保護しないといけないしな」

連城の返事を聞かず、警官Bは足跡を追っていく。
まあ、返事も何も、覆面被ったままほとんど言葉を発さないような奴なのでこの対応は間違ってはいない。警官Bが悪いわけではないのだ。

数分程歩くと、途中で足跡は薄くなり、追跡は困難となってしまった。

「ちっ、これじゃあ見失ったも同然じゃないか」

警官Bは、舌打ちと共に溜め息をつく。
そんな己の無力感に苛立つ警官Bの肩を叩き、連城が指を西方へと向けて指を指す。

「なんだ?...あれは物置か?」

連城は頷き、物置へと足を進める。
もしかしたらなにか見つかるかもしれない。そう思ったからだろうか。
警官Bとしても、道具はあるにこしたことはない。
そのため連城に続き、物置へと向かう。

そして、連城が扉を開けたその時だ。

「きゃああああああ――――――!!」

!?

突如、女性の悲鳴が響き渡りペットボトルやらチョークやら様々なものが連城へと向けて投擲される。
明らかに恐怖し錯乱している。それほど怖い目にでもあったのか。
そう思った警官Bは、連城の前へと進み出て、女性を落ち着かせるために手帳を見せる。

「安心してください、私は警察です。よければ事情をお聞きしたいのですが...」
「え...警察?」

警察。それは法に従い悪を捕える正義の味方である。
それを認識した彼女―――葉崎栞は、どうにか気持ちを落ち着かせて現状を告白することにした。

ちなみに、なぜ彼女はモノを投げつけたか。
隠れていたところに突如不気味な覆面男が扉を開けてきたら誰だってそうするでしょ。




るりは語った。
ますみと共に変なおばさんに襲われたこと、そしていまはますみが足止めをしてくれていることを。

「げぇ~、マジかよ」

多間木は殊更に嫌悪の表情を醸し出す。
ボウガン片手に女の子を色々な意味で狙い撃ってくる熟女など想像もしたくないだろう。
多間木の反応は決して間違っていない。

「どーするよ」
「決まってんでしょ」

るりは、目を瞑り祈る。
どうか、彼らがますみの助けになってくれることを。

「んなヤバイ奴がいるならさっさと逃げるのよ」

海堂の言葉に続き、多間木と古谷も荷物を纏めていつでも出発できる準備をする。

「ま、待って!」

るりは、一番近かった多間木の足に縋り付く。
わかっている。
誰しもが他人のために命を賭けられるわけではないことは。
けれど、ここで彼らと別れてしまえば、ますみはもう助からないかもしれない。
そのため、なんとしても手助けして貰わねばならない。
そのるりの焦りが彼らに縋り付くことになってしまう。

だがそれが逆に彼らの逆鱗に触れた。

「しつけーんだよ、ガキが!」

多間木の突如の豹変。
これには思わずるりも驚き息を詰まらせてしまう。

「どうして俺たちがテメェのツレを助けなきゃならねえんだ、ああ!?んなもん警察にでも頼みやがれ!」

しがみつく手は、しかし振り払われ足元に唾を吐きかけられる。
その様を見て、古谷も海堂もニタニタと笑みを浮かべている。
恐い。さっきまで大人しかった人たちが、いまはあのおばさんみたいに見えてくる。
でも、ここで逃げたらますみは助からない。だから。

「お願い、るり、なんでもするから!だから...!」
「しつけーって言ってんだよ、なんべんいわせりゃわかんだよ!」
「多間木」

怒りの激をとばす多間木を押しやり、古谷がるりの前に立ちはだかる。

「こういった生意気な手合いはな...」

瞬間。
るりの腹部に古谷の爪先がメリ込み、あまりの激痛にるりは蹲る。

「こうしちまうのが一番だ」

古谷はしゃがみ込み、蹲るるりの髪を掴み上げる。

「おいガキ。これでもまだ俺たちに頼みたいか、あ?」
「おねが...い...ますみ、おねちゃんを...」
「しぶといガキだ」

古谷は拳を握りしめ、るりの顔へと向けて振り下ろす―――が。

「ちょっと待ちなよ」

海堂の制止の言葉により、古谷の拳は止まる。

「殴るのも悪くないけど、どうせならもっと面白いゲームにしない?」

彼女が手に持つのは、手ごろなサイズのビデオカメラ。
それをまわしながら、海堂は笑みを浮かべつつるりへと歩み寄る。

「ねえ、さっきなんでもするって言ったよね?」
「え...」
「だったらさ、当然、こういうのも覚悟できてるんだよねぇ!」

海堂はるりの帯を解き、着物をはだけさせる。


「きゃあああああ!」
「ハンッ、ガキの癖に一丁前に恥ずかしがっちゃってさ!」

思わず両手で着物を掴むるりを海堂は鼻で笑う。

「お、おい...?」
「アッタマワリーわね。ここに玩具があって、ビデオカメラ持ってたらやることは一つでしょ」
「...ああ、そういうことか」

海堂の言葉に、多間木と古谷は邪悪な笑みを浮かべ、るりを取り押さえようとする。

「小学生のヌードっつーのは売れるのか?」
「さぁねえ。けど、マニアな奴には人気あるっしょ...まあ、そういうわけだから、あんまり見えるところを殴らないでよね」
「ハッ、良い趣味してるぜ」

迫りくる凶悪な男と女たちの魔の手。

(いや...)

これからなにをされるか―――そんなことはわからない。
けれど、このまま彼らのいう事を聞いていても、ますみの助けには向かってくれないだろう。

(あたしは、ますみお姉ちゃんを助けるの...だから...!)

だったら―――もういい。
こうまでして邪魔するつもりなら、もうこんな奴らには頼まない。

るりは、隠し持っていたスタンガンで古谷と多間木の腕に電流を流す。

「ぐっ!」
「あがっ!?」

腕を抑えてもがく悶える男たちを尻目に、るりは元来た道を引き返す。


「...っのガキ!」

怒りを露わにする多間木が、次いで古谷、最後に撮影しながら海堂が後を追う。

追ってきた。狙い通りだ。
るりは、もう多間木たちに助けを求めなかった。
断るだけならいざ知らず、邪魔までしてくるのだ。だったらこちらも手段を択ばない。
だから、多間木たちをあのおばさんにぶつけ、同士討ちさせる。

敵の敵は味方―――なんて言葉があるが、るりはそれをやってのけようとした。

ただ、誤算は走りつかれたいまの自分の体力の無さ、そしてほとんど万全である多間木たちとの速度の差だ。

ほどなくして、るりは再び捕まり、今度こそ下着姿に剥かれてしまう。

結局、彼女一人では運命を変えられなかった。
るりはこの三人に玩具にされ、ますみも救えず、悲惨な人生を送ることになる。
それが、るりの運命だった。

故に。

「なにをしている、おまえたち!」

もしも運命を変えられるとしたら、それは第三者の介入だろう。



悲鳴を聞きつけ、辿りついた先には、三人の男女に押さえつけられ囲まれている女児という異様な光景だった。

(クソッ...)

冬部はまるで悪夢を見ているようだった。
いま眼前で行われているのはまさにイジメ。
冬部も加担していた最低の行いだ。
それも、男二人に女一人という人数比まで同じとくれば、まるであの時の自分達のように見えて仕方ない。

「その子を...放せッ!」

冬部は力づくでるりから古谷たちを引きはがそうとする。が、貧血気味ではロクに力が入らず、突き飛ばされればあっさりと倒れてしまう。
立ち上がっては転ばされ、立ち上がっては転ばされ。
その姿はまさに親父狩りにあうサラリーマンそのものだった。

「なんだぁ、このよわっちいおっさんは」
「もしかしてロリコン?性癖キッモイわね」

ヒャヒャヒャ、と邪悪で歪んだ笑みを浮かべる三人に、冬部は歯ぎしりをする。
こんなやつらに勝てない悔しさではない。
自分と同じ道を歩もうとしている彼らに怒りを抱いてだ。

(チクショウ...)

冬部は、岳人を死なせ、両親までも死なせてしまった時、心から決めた。
自分と同じ過ちを犯す人間をこれ以上増やしたくない、加害者も被害者も必ず減らして見せると。
彼が弁護士になったのもそのためだ。

「...お前達がなにをしようとしてるのか、わかってるのか」
「は?」
「お前達のやっていることは、お前達だけの問題じゃないんだ...!」


だから冬部は訴える。
心から声を絞り出し、彼らの、『かつての自分達』の凶行を止めるために。



冬部は語った。
かつて自分達が犯した罪、そしてそれが招いた被害の全てを。

「イジメは、加害者と被害者だけの問題じゃない...お互いの家族まで不幸にする最悪な行いなんだ。だから、もう止めるんだ...!」

息を切らしながら、冬部は言葉を終える。
苦しい。
当然だ。
貧血による疲労のみならず、自分の過去の傷口を抉っているのだから。

やがて。
海堂がふらふらと冬部へと歩みよる。
彼女は小刻みに身体を震わせていた。

「そ...そんなことがあるなんて...」
「...本当なんだ。俺も、岳人の妹も、全てを失った。きみたちが思っているほど、イジメは軽いことじゃないんだ」
「あ...あたし...!」

海堂は顔を俯けつつ、冬部へと抱き着く。

「お、おい...?」
「冬部さん...」

海堂の冬部を抱きしめる力が強くなり、海堂は未だに身体を震わせている。
よかった、伝わったのか。
仮に、彼女が今までも同じようなことをしていても、後悔する気持ちがあるならまだ間に合う。
被害者に謝り、罪をつぐな






「アンタ、あったまワリーわね」


ドス。
冬部の背に激痛と灼熱が走る。

冬部の背には、海堂が握り隠していたボールペンが突き刺さっていた。



―――ボールペンが身体に突き刺さるという格闘漫画でもめったに見られない光景を理解し難い・許し難い人もいるかもしれない。
そんな方は金田一少年の事件簿の単行本の一つ『錬金術殺人殺人事件(下)』に同時収録されている事件、高度1万メートルの殺人を一読することをお勧めする。


「ぁ...が...ッ!?」
「ハンッ、なに今さら偽善者ぶってんのさ。所詮あんたも同じ穴のムジナの癖に」


倒れる冬部に追い打ちをかけるように、海堂は彼の頭を踏みつける。
次いで古谷も冬部の掌をぐりぐりと踏みつける。

「くだらねえ綺麗ごとばかり吐きやがって。要はあれだろ?あんた、不様にもマトモな後処理ができなかった負け犬ってことだ」
「キャハハ、言えてる」

何が可笑しいのか、古谷と海堂は互いに笑い合い、ついでと言わんばかりに冬部を蹴り、踏みつけ痛めつける。

「そーそー、それに、そん時は未成年だったんだろ?バレたところで誰かを主犯にして押し付ければよかったじゃん。そうすりゃ年少にちょこっと入るだけで済んだのによ。やっぱバカと金の無い奴は駄目だね~」

多間木ははケタケタと笑いながら、るりを抑え込み下着を剥ごうとする。

「おい、海堂。そっちのおっさんのリンチは譲るからさ、ビデオカメラ貸してくれよ」
「なぁに、あんたもこのおっさんみたいにロリコンなわけ?」
「ちげぇよ。けどどうせならやってみたいだろ、JSのハメ撮りってやつ。中々できることじゃないし、何事も経験よ経験」
「ハッ、人のこと言えないじゃん」

海堂はビデオカメラを放り渡し、多間木は受け取りビデオ撮影を始める。

「やだ、やだぁ!」
「暴れんなって。じゃないとまた痛い目に遭っちゃうぞ~?」

(コイツラ...!)

冬部は、痛みを与え続けられる身体に耐えつつ怒りに手を震わせる。
おそらく彼らは既にイジメかそれに近いモノを加害者として経験しているのだろう。
だが、その態度がこれか?
反省の色が無いどころかまるで玩具のように人の尊厳を、命を弄び、踏みにじる。
これが人間のやることなのか。これが―――!!

「があああぁぁぁぁああ!!」

荒ぶる怒りの感情に任せて冬部が吼える。


―――火事場の馬鹿力、というものをご存じだろうか。
土壇場になって限界以上の力を引きだせるというアレだ。
過去の金田一少年の事件簿においても、短時間で女手一つで氷の橋を作ってみせた雪夜叉や、常人よりは鍛え上げられているであろう剣持警部を暗殺者の如く一撃で殴り倒したファントムの花嫁などがいい例だ。
これは所謂犯人補正という奴かもしれないが、ここはバトルロワイアルという全員が被害者であり加害者にも成り得る場である。
となれば、冬部がその補正を使えたとしてもなんら不思議ではない。


冬部は海堂と古谷を跳ねのけ、多間木を突き飛ばし、るりを救出する。
痛む腹部と貧血から苛まれる頭痛と吐き気に苦しみながらも、冬部はるりを抱きかかえて走り出した。
だが、僅かに走っただけで覚束ない足取りになり、ドサリと前のめりに倒れ込んでるりを落としてしまう。

限界だ。
もう、これ以上自分の力で動くことはできない。
せめて、この畜生どもから彼女だけでも逃がさなければ―――

「に...げろ...」

絞り出した声は、ひどく弱弱しいものだった。
だが、冬部にはもうどうすることもできない。
この少女の、物置に残してきた栞の安否を心配しながら息絶えるだけだ。
しかし。
眼を瞑ろうとした冬部の視界に入るのは、少女の背中。
彼女は、多間木たちから冬部を庇うように立ち塞がっていた。

「な...ぜ...」

冬部は知らない。
るりが、ここに至るまでに既にますみという新たにできた"友達"を置いてきてしまったことを。
そんな彼女が、自分を助けてくれた冬部を見殺しにするなど、出来る筈もなかった。

やがて、追いついた三人に囲まれたるりは、突き出したスタンガンもあっさり躱され取り押さえられてしまう。
五党蘭に敵わなかったるりが、彼ら三人に敵う道理はない。

冬部は最期の力で立ち上がろうとする―――が、現実は非常だ。
二度も火事場の馬鹿力は起こらない。
冬部に出来るのは、幼気な少女があの薄汚い野獣どもに蹂躙されるのを見届けることだけだ。

(誰か...彼女を助けてくれ...!)

冬部の瞳から涙が毀れ落ちる。

そんな冬部の願いが届いたのだろうか。

ガサリ、と音がしたかと思えば、道脇から現れるのは警官と謎の覆面男。

彼らは、三人を殴り飛ばしるりを救いだす。
るりは気を失っているようだが、命に別状はないようだ。
その光景を見た冬部は、思わず安堵の涙を流してしまう。

「冬部さん!」

彼らの後から現れた栞は倒れる冬部に声をかける。
だが、冬部はもう答えることすらできない。
このままではまずい。
彼の容態を見て危険だと悟った警官Bは三人へと向き直る。

「栞さん、連城さん!あんたたちはその子達を連れて逃げてくれ!俺がコイツラを食い止める!」

相手は三人。ならば片方が残り、片方が怪我人たちを逃がすのが道理である。
そして、怪我人を護衛するならば強い方がつくのも定石だ。
連城はこくりと頷くとすぐさま冬部を背負い、栞にるりを抱きかかえさせる。


「お、おい、警官だぜ。どうするよ」
「慌てるな多間木。ここは殺し合いだ。警官の一人や二人、殺したところで誰も気にかけねえよ」
「そーそー、三人に勝てる訳ないでしょ」

古谷は、ゴキゴキと拳を鳴らし、これ見よがしに強さをアピールする。

(流石に死ぬかもな...)

警官Bは、去っていく二人を横目で見て、冷や汗と共に死を覚悟する。
だが、か弱き市民を護って散るなら警官冥利に尽きるというものだ。

(無事でいてくれよ、連城さん、栞さん!)

警官Bは、己の職務を果たすべく、舌打ちと共に悪鬼どもへと殴りかかった。


『なに今さら偽善者ぶってんのさ。所詮あんたも同じ穴のムジナの癖に』
『くだらねえ綺麗ごとばかり吐きやがって。要はあれだろ?あんた、不様にもマトモな後処理ができなかった負け犬ってことだ』
『そーそー、それに、そん時は未成年だったんだろ?バレたところで誰かを主犯にして押し付ければよかったじゃん。そうすりゃ年少にちょこっと入るだけで済んだのによ。やっぱバカと金の無い奴は駄目だね~』

朦朧とする意識の中、冬部の脳裏にはあの三人の言葉がぐるぐると渦巻いていた。

冬部個人としても、彼らの言動は許せない。
しかし、こうも思う。
もしも、両親が自殺していなかったら。
もしも、自分が彼らのように上手くイジメのことを隠蔽したとしたら。
もしも、主犯を絵東や斧田に仕立て上げていたとしたら。

自分も彼らと同じ道を歩んでいたのではないか。
自分のしてきた償いは、罪から逃れるためのただの自己満足にしか過ぎないのではないか、と。
この期に及んで、彼という人間は己の安否よりも、そんな"IF"に苦しんでいるのだった。

(なあ、岳人。俺のしてきたことは...全部、偽物だったのかな)
『僕にはわからないよ』

今わの際に冬部が言葉を交わすのは、自らが殺した『被害者』。
もちろん、彼は既に死んでいる。
そのため、いま話しているのは彼の魂かもしれないし、冬部の頭の中の幻想かもしれない。
それを冬部自身が確認する術はないが、いまとなってはもうどちらでもよかった。

(...岳人。俺は、やっぱり死んで正解だったのかな)

もしも一皮向けば奴らのような畜生と同類だというのなら、やはり死んでしまえと思う。
ならば。
栞の罪を被る形で死のうとしたあの時の決意は、やはり間違っていなかったのだろうか。

『...きみがそれで納得するなら、それでいいよ』

岳人は、目を瞑り肯定する。
やはりそうなのか。
俺も奴らと同じ、最低な悪党なんだな。


『けれど、きみがいくら偽物だと思おうとも、きみの償いや弁護士になった理由は間違っていないと思うんだ』

岳人は目を開け笑顔を浮かべる。

『それに、環境が影響した結果とはいえ、きみはあいつらとは違う。その証拠に、ホラ』

岳人が指を刺すと、そこには涙目になりながら冬部に声をかけ続ける栞の姿が見えた。

『夏美...いや、葉崎栞がきみのために涙を流している。それ以上の理由がいるかい?』

(...いいや)

冬部は、呼びかける栞ににこりと笑いかけ、『だいじょうぶ』と口を動かす。
それを見てホッとした様子の栞を見た途端、冬部の身体は奇妙な心地よさに包まれた。

きっと、これは自己満足の結果にすぎないのだろう。

しかし、それでも。

僅かな一時でも彼女を安心させられた―――その充足感に包まれ、次第に目蓋も落ちていく。
冬部は、最期に浮かべたその笑顔のまま、静かに意識を手放した。



【冬部蒼介@吸血桜殺人事件 死亡確認】
※参戦時期は栞に刺させた後に自分の腹部に木の枝を突き刺して意識を手放している最中でした。
※加賀谷が小金井に突き刺したボールペン@高度1万メートルの殺人 は冬部の背中に刺さったままです。
※死因は失血死です。


【一日目/黎明/獄門塾敷地内】

【斑目るり@黒死蝶殺人事件】
[状態]疲労(絶大)、精神的ダメージ(絶大)、激しい怒り、五塔・多間木・古谷・海堂への憎しみ(大)、下着姿、気絶
[装備]速水玲香を気絶させた時に安岡真奈美が使用したスタンガン@速水玲香殺人事件
[所持品]基本支給品一式
[思考・行動]
基本:脱出して金田一お兄ちゃんと遊ぶ
0:......
1:ますみおねえちゃんを救けに行く。
2:あいつら(多間木・古谷・海堂)は許さない。

※参戦時期は金田一と遊ぶ約束をした後。



【葉崎栞@吸血桜殺人事件】
[状態]疲労(中)、精神的ダメージ(中)
[装備]
[所持品]基本支給品一式×2、不明支給品1~2、冬部の不明支給品1~2(武器の類ではない)
[思考・行動]
基本:三日目まで生き残りたい。
0:冬部さんと最後まで生き抜く。

※参戦時期は金田一に全ての事情を聞かされたあと
※冬部の死に気が付いていません。


【連城久彦@異人館村殺人事件】
[状態]疲労(大)、六星への憎しみ。
[装備]高遠が使ったトリックナイフ@露西亜人形殺人事件
[所持品]基本支給品一式、不明支給品0~1
[思考・行動]
基本:若葉の仇をとる。それ以外はたぶん殺さない。
0:若葉の仇(六星)を見つけ次第殺す。
1:若葉の仇を探し出す。
2:とりあえず落ち着ける場所で冬部とかいう男を休ませる。


[備考]
※参戦時期は六星にナイフを刺す直前
※六星を見つけ次第殺しにかかります。
※冬部の死に気が付いていません。


一方の警官Bと多間木、古谷、海堂ら三人組だが、彼らの勝負など誰も興味がないと思うので割愛させていただく。
結論だけ述べよう。
警官Bは勝利した。
特に重傷を負うことも無く、舌打ちしながら殴りかかってたらあっさりと勝てた。
当然だ。
なにせ、三人とはいえその面子が、目付きが悪いだけの女の海堂、喧嘩は毒島に頼りっきりの多間木、深町のような気弱な少年さえ集団で虐めていた古谷だ。
そんな『喧嘩なんて急所狙えばヨユーっしょ』な考えの彼らが、鍛え上げられた警官、ましてやその中でも屈指の腕前と噂される彼に敵うはずもない。
とりあえず気絶させておこうと考えたところで、多間木は煙玉を使い三人で逃走。そのまま背を向けて走り去って行った。
不意をつかずに即座に逃げ出すあたり、やはり素人である。
これがあの六星竜一ならばまず間違いなく警官Bは殺されていただろう。

(とりあえず、あいつらを追う前に連城さんたちと合流しなくちゃな)

彼らが逃げた先に六星のような強者がいないとも限らない。
ならば、彼らの身の安全を保障する意味も込めて早めに合流するべきだろう。
これ見よがしに死亡フラグを立てておいてほぼ無傷で合流するのは恥ずかしい気もするが、いまはそんなことを言っている場合ではない。
こうして警官Bは、先に逃がした市民たちと合流することにした。



【一日目/黎明/獄門塾敷地内】


【六星に瞬殺された警官B(腕を折られた方)@異人館村殺人事件】
[状態]疲労(中)
[装備]
[所持品]基本支給品一式、不明支給品1~2
[思考・行動]
基本:殺し合いを止める
0:連城たちと合流する。
1:六星竜一がいればこんどこそ止めてみせる。
2:あのクソガキ共(多間木、海堂、古谷)は必ず逮捕する。

[備考]
※参戦時期は六星に腕を折られる寸前。
※どんなキャラかわからなくなったら、基本舌打ちしながら殴りかかる人だという認識で大丈夫です。



「はぁっ、はぁっ...」

煙玉を使い逃走した三人は、木陰に座り込みひとまずの休憩をとる。

「冗談じゃねー、あの警官強すぎるだろ」
「ふん...正攻法で無理なら奇襲かトリックでも使って殺せばいいのさ」
「賛成ィー。あたしらのゲームを知っちゃったんだもの。生かしておくわけにはいかないっしょ」

三人は、なんの反省もなくケタケタと笑いながら警官B及びあの覆面男たちの殺害計画を練り始める。


さて。

『首つり学園殺人事件』『獄門塾殺人事件』『剣持警部の殺人』の三作品を呼んだことのある方ならばここで一つの疑問が生まれると思う。
『なんでこいつらこんな仲良く行動してんの?』と。疑問に思わないなら別にいい。

彼らが共に行動する理由―――それを語るにはおそらくそれ相応の文字数がかかることだろう。

果たしてそれは語られるのか、それとも語られずに流されるのか、檜山爆弾が投下されるのが先か。

彼らの行きつく果てはわからないが、これだけは言っておこう。

彼ら三人は"同じ穴のムジナ"である、と。


【一日目/黎明/獄門塾敷地内】


【チーム:同じ穴のムジナ】


【多間木匠@剣持警部の殺人】
[状態]疲労(大)、腕にスタンガンのダメージ、警官Bに殴られたダメージ(大)
[装備]煙玉@高度一万メートルの殺人
[所持品]基本支給品一式、不明支給品0~1
[思考・行動]
基本:好きにやる
0:いーよねー、「バトロワ」ってヤツは!犯罪するならやっぱ殺し合いでってかー?
1:とりあえず古谷、海堂とつるんで行動する。
2:魚崎がいれば合流する。
3:毒島や湖森弁護士がいれば利用する。

※参戦時期は魚崎死亡前


【古谷直樹@首つり学園殺人事件】
[状態]疲労(大)、腕にスタンガンのダメージ、警官Bに殴られたダメージ(大)
[装備]
[所持品]基本支給品一式、不明支給品1~2
[思考・行動]
基本:好きにやる
0:誰が死のうと知ったこっちゃねえ。負け犬は死ぬ、ただそれだけのことさ。
1:とりあえず多間木、海堂とつるんで行動する
2:室井、仁藤がいれば利用する。

※参戦時期は室井が宮園の花壇を踏み荒らしたあたり


【海堂瞳@獄門塾殺人事件】
[状態]疲労(大)、警官Bに殴られたダメージ(中)
[装備]佐木竜二のビデオカメラ@金田一少年の殺人
[所持品]基本支給品一式
[思考・行動]
基本:好きにやる
0:こんなものゲームよ。そう、ただのゲーム
1:とりあえず多間木、古谷とつるんで行動する
2:元のメンバー(鯨木、絵波、近衛、霧沢、茂呂井)よりこいつらの方が気が合うから優先するのはこっちにする。いたらいたで利用する。

※参戦時期は茂呂井死亡前




018:if 時系列 019:生きる術は理屈じゃなく身体で覚えたい
019:生きる術は理屈じゃなく身体で覚えたい 投下順 021:霧と雲が混ざりあって……
018:if 冬部蒼介 GAME OVER
018:if 葉崎栞 034:産声
005:君がいるから・・ 斑目るり 034:産声
GAME START 海堂瞳
GAME START 多間木匠
GAME START 古谷直樹
013:meet again 六星に瞬殺された警官B 028:Q.なぜ八尾の別荘は燃えていたか?
013:meet again 連城久彦 034:産声
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