ビンビンビンビンビンビンビンビンビンビン



チクッ……



あ・あ・あ・あ・あ・あ・あ!(あああ↑↑↑)
アーイク……



ちーん。



     スズメバチには気を付けよう!(♪陽気なBGM)



【ゆうさく 死亡】
【薬師寺天膳 死亡】
【ハードゴア・アリス 死亡】

【スズメバチ 赤首輪参加者殺害成功により脱出】








ふざけんな!(声だけ迫真)
はーい、(本編)よーいスタート(棒読み)



 ◇◇◇

薬師寺天膳に能力への過信がなかったとは言い難い。
彼が生まれながらに持っていたのは死を覆す能力だ。
老いることもなく、どんな傷でも死ぬこともない。いや、実際には死ぬが、死後時間が経過すれば傷はふさがり、心臓は再び鼓動を刻み始める。
そんな体質で百数十年も生きれば、自然、自身を狙う危険への警戒心は薄れてしまう。
更に、彼がこの殺し合いに巻き込まれる直前の状況も悪かった。
伊賀・甲賀の両門争闘の禁が破られ、戦闘も熾烈を極め、天膳自身が何度も死に、そして蘇って敵を殺した。
そんな最中から呼ばれたものだから、自然、天膳は自身の能力への驕りを抱いていた。
いきなり集められ殺し合えなどと言われてもトボけた話にしか聞こえない。なにせ天膳は死なないのだから。

    ビンビンビンビンビンビンビンビンビンビン……

それが、天膳が目を覚まして聞いた最初の音だった。
それは羽音のようだった。そして人の声であるようにも聞こえた。
ただでさえ視界の限られた森の中。薄暗い森の中。音の主の姿は見えない。だが、近づいてきているのははっきりと分かる。
方向も分かるが、やけに音の位置が低い。子供か、あるいは女人か。

    ビンビンビンビンビンビンビンビンビンビン……

音はだんだんと距離を詰めてきている。その進行は緩やかながら淀みはない。あちらには天膳の姿が見えているようだ。
迎撃しようにも相手の姿もわからず、手元に武器がない。ならばどうするか。
普通の人物ならば逃げるか迎撃の策を練るかだろうが、天膳にはもう一つの選択肢が残されている。
相手の姿を見た上で殺され、その後復活して相手に強襲をかける。
薬師寺天膳にとってのスタンダードな戦法であり、これまで誰もが対応できなかった奇策だ。

    ビンビンビンビンビンビンビンビンビンビン……

木立を突っ切り音の主が現れた瞬間、天膳はその細い目をカッと見開いた。
羽音の正体はヒトの頭ほどの大きさの人面の蜂らしき生き物。
甲賀卍谷に地虫十兵衛という四肢のない芋虫のような体をした忍者が居たが、アレを芋虫とするならこいつは地虫十兵衛が糸を吐いて蛹になって羽化したような、まさにそんな姿だ。
どう見ても忍者ではない、子供でも、女人でもなく、まして人でもない。すわ化性の類かと奇襲の策も忘れて反射的に身構えても遅い。蜂は既に天膳の懐まで忍び込み、鈎爪のような針から毒液を滴らせている。

    チクッ……

ゆっくりと、針が天膳の左胸の、丁度乳首の位置に突き刺さる。途端に全身から血の気が引いていく。
まず視界から光が消え、消えた視覚の代わりに聴覚が鋭敏になったように呼吸の音だけがどんどん大きく脳の内側で反響しはじめた。
そして全身に回る血は氷のように冷え渡り、熱を奪われた体は制御を失いただ木偶の坊みたいにどうと倒れた。
地面から吸い上げられていく熱が体の芯に残っていた命すらも巻き込み、心の臓まで冷やしきり。
だが、そんな異様な死の際においてもまだ、天膳は自身の優位を疑わなかった。
敵の姿は見た。技も覚えた。これで蘇ったならば今度は確実に勝利を収められる。
それどころか、自身の絶え絶え続く呼吸の向こうで、さてあの蜂をどういたぶってやろうか、あるいはあれを使いこなし甲賀に奇襲をかけようか、なんて考えていた。
薬師寺天膳の命運は、この過信によって決したという他ないだろう。



 ◇◇◇

ハードゴア・アリスが真っ先に考えたのは、当然スノーホワイトのことだった。
彼女が呼ばれているのが分かっていて黙っていられるアリスではない。まず最優先として、彼女を保護しなければならない。
僥倖が一つあった。湖を覗き込み確認したアリスの首元で鈍く光る拘束具は、血よりも深い赤色だということだ。
アリスは『殺される側』として選ばれた。アリスを殺せば殺した人物はこの殺し合いから脱出が出来る。
アリスがスノーホワイトを見つければそれだけで彼女を救う条件は整う。
自身の命を捨てることに躊躇はない。そもそもあの日死ぬはずだったアリスを救ってくれたのはスノーホワイトだ。
彼女を救うために命を差し出せと言われれば、アリスは喜んで差し出す。当然のことだ。
急務はスノーホワイトとの再会だったが、それに関しても策の打ちようはある。
スノーホワイトの魔法「困った人の心の声が聞こえるよ」を利用して、アリスの位置を知らせればいい。
会場中を走り回りながら「スノーホワイトに会えなければ困る」と強く念じ続けていれば、会うことも容易いはずだ。
スノーホワイトが変身していない可能性もあるが、命を狙われる状況下で身体能力が数段優れ睡眠や食事が必要なくなる魔法少女の姿を取らないとは考えづらい。
ならばあとはアリスの行動次第だ。アリスは強くスノーホワイトを案じながら、森の木立の群れを縫うように駆け出した。

駆け出してしばらく、アリスの目に横たわる男の姿が飛び込んできた。
遠巻きに様子を確認する。魔法少女の聴覚でも呼吸音は確認できず、また視覚を用いても身じろぎどころかまぶたの痙攣すら見て取れない。肌の色も土気色を通り越して灰色だ。
近寄り、脈を確認する。触れた肌は土のようにひんやりとしており、命の火のぬくもりをもう感じさせない。
殺し合いの開幕を告げられてからまだ数十分も経っていないのに、もう殺した人間と、殺されてしまった人間が生まれたらしい。
人の気配はもうしないことから下手人はアリスと入れ違いで去っていったのだろう。
死体の損傷を確認する。左胸に太めのアイスピックを刺されたような傷が残っている。それ以外に特に目立った損傷は見られないことを見ると、心臓を直接攻撃されたか、あるいは毒物か。
右手を大きく振り上げて、死体の胸に叩きつける。肋骨をへし折り、肉をかき分け、心臓を掴み、そのまま引きずり出す。
体に残っていた血が口の壊れた水鉄砲のようにあちこちに飛び散り、アリスが乱暴に引きずりだしたせいで切れた大きな血管からもどろりとした褐色の半固形がこぼれ落ちる。
嫌悪感はない。とっくの昔に、マジカロイド44の体を貫いた時に、そんなもの捨ててしまった。
ただ、アリスを動かしていたのは不明な敵の攻撃手段の解明であり、自身がこれから遭遇する可能性の最も高いであろう敵への警戒だった。
引きずり出した心臓を眺める。損傷はない。ということは毒物で間違いなさそうだ。
それを確認し、心臓を詰め直す。アリスが腕を抜くのに従い花が咲いたみたいにひっくり返っていた肋骨がもう一度無理やり元の形に押し戻される。
魔法少女は毒物への耐性がある。魔法の毒物ならまだしも、通常の毒物ならば効果は薄い。
仮にこれからアリスが走り、この男を殺した襲撃者と遭遇し交戦することになったとしても致命打にはなりえないということだ。
それは同時に、同じ相手にスノーホワイトが襲われたとしても、生き残れる可能性は高いということだ。


必要な情報を得、そのかわりに損傷の激しくなった男の死体を見下ろす。
死者を冒涜するような行為をスノーホワイトは喜ばないだろうが、それも生き残るためならば仕方がない。
スノーホワイトを汚さないためなら、アリスはどれだけだって汚れても構わない。
不意に、男の首に巻き付いているものに目を奪われる。アリスとは違い、鈍色の首輪だ。
首輪は爆発すると言っていた。上手く使えば目くらましの武器くらいにはなる。
それに、もし首輪を破壊あるいは分解できれば、主催者の強制力はなくなり、スノーホワイトだけでなくアリスも、ついでに他の魔法少女や参加者たちも脱出することが出来るかもしれない。
まさに夢のような話だ。絶対に叶わない、遠い夢のような、綺麗な結末の話だ。
でも、きっとスノーホワイトはそういう解決策を望む。あるいはそういう解決策を望む人物がこの島内に、彼女以外にも居るかもしれない。
首輪を解除出来る能力を持つ人物、首輪を無効化する案のある人物、そういった人物と出会う可能性だってないわけではないのだ。
そういった人物と出会った時のために、首輪を手元に置いておくのは悪くないように思える。
アリスだって出来ることならば困っている人を救いたい。スノーホワイトとは違いこちらはあくまで出来ることならば、だが。

手刀を振るい、首を切り落とす。漫画や映画みたいに勢い良く血が吹き出すなんてことはなく、心臓の時と同じように、ただ褐色の血がこぽこぽこぼれて大地を濡らした。
邪魔な頭は側に転がし、片手で首の肉を締め上げ、片手で首にピタリと張り付いている首輪を剥がす。
剥ぎ取った瞬間に地面が揺れた。

「あ、あ」

不意の声。どこからか。声の主に目を向ける。
死体の首が転がるだけ。
続いてばたばた動く音。音の正体を探す。
死体の体が横たわるだけ。
音はどこから。死体から。男の死体からだ。
いや、本当に死体なのか。男の体は、男の頭は、まるで陸に上げられた魚のように、まさに必死に動いていた。

「あ、あ、あ、あ、あ、あ、あ、あ」

切り飛ばし放り投げた頭は餌を求める金魚みたいにパクパク口を開閉させている。長い髪を振り乱し、七つの穴から血を吹き、涎を飛ばし、泡を吐きながら苦しんでいる。
体の方ももんどりうち、見えていないだろうにアリスに向けて手を伸ばし、何かを掴もうと必死で手を降っている。
まるで糸を掴むみたいに、両手を空に向けて伸ばしてもがき、立ち上がれもしないのに足をばたつかせている。
再び顔の方を見れば人面疽のようなものが顔を駆けずり周って首の切断面までたどり着いていたが、何も出来ずにぶちゃりと潰れて膿汁みたいな物を吐き出した。
それが男の最後の悪あがきだった。


「伊―――」

最後に何かを伝えようとして、男の体は大きく跳ね、口からは吐けるはずのない血を吐き散らし、そのまま動かなくなった。
一部始終を見終えて、アリスはもう動かない死体を見下ろしやや考えた。
死亡は確認した。どころか心臓を引きずり出し首を切断した。なのに首輪を抜くと動き出し、そして死んだ。
頭を抱えたくなるような話だが、幸いにもアリスにはこの現象について一つの心当たりが合った。
心当たり、それは他ならぬアリスの魔法。「どんなケガでも治る」……有り体に言うなら不死の力だ。
冗談みたいな話だが、ハードゴア・アリスは例えひき肉にされても死なない。数十秒もあれば今の姿に戻ることが出来る。
そんな殺し合いに最も向かない人物を殺し合いの場におくなんてという疑問が数瞬頭をよぎったのだがなるほど、不死を阻害するからくりがあったならばアリスも殺し合いに巻き込める。
この男はアリス同様不死あるいは蘇生が可能な能力者で死んだように見えて蘇生能力を発動している最中だった。
だが、首輪を奪われた瞬間その能力の発動が阻害され、結果的に不死者が死んだ。血反吐を吐き、体を波打たせながら絶命した。
これはアリスにとっても他人事ではない。
もしもアリスがケガの再生中に首輪を奪われれば、その時点で魔法の効果が消えて死んでしまう、ということだ。
首輪の爆発も同じだ。首輪がなければ再生が出来ないと言うならば、首輪が爆発すれば首の大きな傷を再生できずに死ぬ。
そっと自身の首輪を撫でる。首から離れないように食い込むくらいにピッタリと張り付いた異物から感じる息苦しさが、少しだけ強くなる。
適当な武器を見つけたら頭を切り落として抜いてしまおうかとも思っていたが、そういうことならば放っておいたほうがいいだろう。

命を燃やし尽くした元不死の男の出来の悪いダンスを見終わったあと、アリスは男のものと思われる荷物から必要なものだけを抜き取って、死体の横を通り過ぎ、ここにたどり着くまでと同じように駆け出した。
死体のことなんてもう頭のどこにもない。
アリスが首輪を奪ったせいで彼が死んだという事実に対する後悔も懺悔もない。
あるのは、「スノーホワイトと会えないと困る」という強い心の声だけだ。

【薬師寺天膳@バジリスク~甲賀忍法帖~ 死亡】


【G-7/森の中/深夜】

【ハードゴア・アリス(鳩田亜子)@魔法少女育成計画】
[状態]健康
[装備]なし
[道具]基本支給品×2、ランダム支給品2~4、薬師寺天膳の首輪
[行動方針]
基本方針:スノーホワイトを探し、自身の命と引き換えに彼女を脱出させる。
1.「スノーホワイトに会えないと困る」という強い感情を持ちながら会場を回る。
2.襲撃者は迎撃する。ただしスノーホワイトとの遭遇優先のため深追いはしない。
3.可能ならば自身も脱出……? 他者の脱出をサポート……?

※蘇生制限を知りました。致命傷を受けても蘇生自体は行えますが蘇生中に首輪を失えば絶命するものだと捉えています。
 あるいは、首輪の爆発も死ぬと考察しています。


 ◇◇◇

下手人は空をゆく。
人の顔をした巨大なスズメバチ。名前はない。
彼のことを呼ぶならば、もっともゆうさくを刺し殺したスズメバチとか、一般的なスズメバチと区別するためスズメバチくんとか呼ぶほかない。
彼に与えられた使命は一つ。ゆうさくを刺し、スズメバチの危険性を動画の視聴者に理解させ、注意を喚起すること。
薬師寺天膳を刺したのに特に理由はない。飛行の軌道に入っていた。それだけだ。
彼はすべての障害を排し、使命を遂行する。

 ◇◇◇

一方、スズメバチから遠く離れた場所で、ゆうさくは一人確信していた。
ここにもスズメバチが存在しており、自分の命を狙っているということを。

「不安感じるんでしたよね?」

ゆうさくの右手はせわしなく左腕と左の乳首をまさぐり、不安を解消しようとしていた。
だけども気持ちよくなるだけで、不安が消えることはなかった。
ゆうさくにとって、スズメバチとの遭遇は絶対に避けなければならない事態である。
殺し合いも十分危険だが、ゆうさくにとっては殺し合い以上の危険を孕んでいるのがスズメバチだ。
なにせやつは絶対にゆうさくを見つけ出し、絶対にゆうさくを刺し、刺されればゆうさくは絶対に死ぬ。殺し合いは万に一つは生き残れる可能性もあるが、スズメバチと遭遇してしまえばゆうさくの命はそこまでなのだ。
さて、如何にしてスズメバチを撃退するか。それを考えなければならない。
幸か不幸か、ゆうさくはまだ気づいていなかった。
自身の首輪が、他者にとって脱出の権利になる赤い首輪であることを。
スズメバチだけでなく、見る人が見たならゆうさくは瞬時に殺害の標的となることを。

【F-6/森の外/深夜】

【スズメバチ@真夏の夜の淫夢派生シリーズ】
【状態】健康
【道具】なし
【行動方針】
基本:注意喚起のためにゆうさくを刺す。邪魔者も刺す。
1.ビンビンビンビンビンビンビンビンビンビン……
2.チクッ……

※刺した相手を必ず殺せます。
※相手がゆうさくでない場合、邪魔をしなければ刺しません。


【F-3/平野/深夜】

【ゆうさく@真夏の夜の淫夢派生シリーズ】
【状態】不安
【道具】基本支給品、ランダム支給品1~2
【行動方針】
基本:不安感じるんでしたよね?
1.スズメバチ対策をする。
2.殺し合いについてはそれから考える。






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最終更新:2018年01月20日 15:06