トクッ、トクッ、トクッ。

グラスに注がれるワインの音が大気に染み込む。

「驚いたよ。まさか、わたし以外にも"人間ではない者"が存在していたなんてね」

額にハートの装飾、身体には黄色い服を身に纏った男はそうひとりごちながら、グラスへとワインをゆっくりと注いでいく。
彼の名前はDIO。
かつては人間だったが、"石仮面"の力により人間を辞め吸血鬼と化した男である。

「君たちもどうかな?」

 三つのグラスにワインを注ぎ終え、DIOはグラスの細いステム(脚)を摘み眼前の二人に差し出す。

 白くてムチムチとした肉づきの良い体をした坊主頭の男は、隣に立つ白髪の男へ伺いを立てるようにチラチラと視線を送る。

「ふむ。ではお言葉に甘えようか」

そうワインを受け取った、赤い目をした白髪のこの男の名は雅。見ての通り吸血鬼だ。

「今日もいっぱい飲むぞ~」

雅がワインを受け取るのに便乗して男もまたワインを受け取る。
彼の名はMUR大先輩。MURの読み方は『ムラ』ではなく『ミウラ』なので注意しよう。

グラスを手にした三人は、それぞれにワインを嗜み始める。

「ほう。中々のモノじゃないか。これはいいワインだな」
「そうだろう?私も気に入っている」

二人の吸血鬼は、グラスを揺すり、中のワインを渦巻状に回し香りを楽しむ。
一般的なワインの楽しみ方ではあるが、二人がそれを行えばどこかの貴族の催しにすら見えるほど気品に溢れていた。



一方で。

ゴクリ。

香りを楽しむなどなんのその。
まるでジョッキに注がれたビールを平らげるかのように一気に飲みこむMUR大先輩。
プハーッ、と大きな息に加え、バンッ、と音が鳴る程に力強くテーブルにグラスを置く様などもはや煽っているようにしか見えない。


「......」
「......」
「いいゾ~、これ」

吸血鬼二人の冷めた視線などお構いなしにご満悦な大先輩。
しかし、おかわりのためにDIOへと顔を向ければ、彼からの視線に気が付き流石に場違いなことをしていたと自覚する大先輩。
思わずバツの悪い子犬のように身を縮めてしまった。恐いからね、仕方ないね。

「あっ、そうだ(唐突)。オイDIOォ、お前さっき人間じゃないって言ってたよなぁ」

空気を変えるようにDIOへと問い詰めるMUR大先輩。

そんなMUR大先輩の問いをさらりと受け流すようにDIOは雅へと視線を移す。

「君たちも人間にはない特別な能力を持っているようだが...非常に興味を惹かれるよ。ひとつ、私に聞かせてくれると嬉しいのだが」

うぞぞ、とDIOの髪がざわめくような錯覚を二人は覚える。
実際に彼がなにかをしていた訳ではない。
だが、身に纏うオーラのように髪や服の一部がざわめき、DIOを一際大きなものに見せていた。

「いいだろう。私も他の赤い首輪の参加者には興味がある」

だが、雅は憶することなく。どころか、笑みさえ浮かべてDIOに応えた。
それもそのはず。彼は、吸血鬼の中でも更に異質な存在。
拒否反応を起こす筈の同種の血を幾多も受け入れてきた最強にして至高の吸血鬼。
自らが頂点であることを自負している彼に恐れる者などあるはずもない。

側の椅子に腰を落ち着けつつ、二人の吸血鬼は飲みかけのワイングラスを手で弄ぶ。

「私は吸血鬼だ。彼岸島という島の吸血鬼達の長を務めている」

ピクリ、とDIOの眉が動くと共に、ワインの表面が微かに揺れた。

「吸血鬼達...といったか。伝承では希少な生物として扱われやすいが、そんなに大勢いるものなのか?」
「ああ。私は、あの島の人間の半数以上を吸血鬼にした。頗るいい気持ちだったよ」
「なぜそんなことを?」
「私は人間が嫌いだ。だから滅ぼしたい。それだけだ」
「...そうか」
「それで、お前はなんだ?―――いや、語るまでも無いか」
「?」
「匂うのだよ。私と同じ、他者の血を喰らうことで満たされる眷族の匂いがな」
「...ほう」

DIOと雅は、不敵な笑みを交わし合いつつワインを呷る。

「きみの察しの通り、私は吸血鬼だ。人間を超越し、この力を手に入れることが出来た」
「なるほど。もと人間か。人間をやめた気分はどうだった?」

瞬間、ある種のプレッシャーにもにた妙な緊張感が空間を包んだ。
雅は愛も変わらず薄ら笑いを浮かべているが、DIOからは笑みが消え険しい顔つきとなっている。

「...この殺し合いでは関係ないことだと思うが」
「これは失礼した。興味が湧くと口が軽くなってしまうのは私の癖だ」


雅の謝罪と共にそれはすぐに収束したが、まだ微かに場に残る重圧は並の者なら息苦しくなるだろう。
一瞬の間をおき、「それで」とDIOは視線をMUR大先輩に移す。

「きみはどんな能力を持っているのかな」

MUR大先輩の目が泳ぎ始める。マイケル・フェルプスも真っ青の速さである。
眼前の二人は吸血鬼という妙な生物だというふざけた存在らしい。
それが嘘にせよホントにせよ、ただものではないのは確かだ。
それに比べ、自分はただホモビに出演しただけの男優の一人である。
「口元のホクロがセクシー...エロイッ」という適当にもほどがある選考基準でKMRと野獣先輩と共に抜擢されただけだ。
当然ながら、出演していたビデオのタイトルである迫真空手など会得していないし、そもそも迫真空手がなんなのかさえわからない。
とどのつまり、ただのホモである。
そんな彼にこの吸血鬼共が満足できるものなどある筈が無い。
なにかこの場を誤魔化せるものはないか。考えること3秒。

「見たけりゃ見せてやるよ(震え声)」

MUR大先輩は立ち上がりパンツをずりおろす。
露わになるのは一際巨大な男の勲章。
みとけよみとけよ~と、後輩である野獣先輩の応援を脳内で再生しつつ、MUR大先輩はまるで変質者のように吸血鬼たちの前でぶらぶらとソレを揺らし始めた。

「ホラ、見ろよ見ろよ」
「では、互いに持つ情報を交換するとしようか」
「うむ」

まるでMUR大先輩とのやりとりは無かったかのように目を背ける吸血鬼たち。
どうやらいまので満足して貰えたらしい。やったぜ。
二人からの冷めた視線が少し気にかかったが、今この場を凌げただけでも彼はご満悦だった。



おおまかな情報交換を終えた三人は、同盟を組むわけでもなく争う訳でもなく、その場で解散した。

DIOは思った。
あの雅という男は気に入らないと。
奴と話している最中、ずっと浮かべていた笑み。
間違いない。あの男はこのDIOを見下していた。

彼岸島の吸血鬼の統率者だかなんだか知らないが、このDIOを見下すなど言語道断。

だが、あそこで怒りに身を任せて手を出せば、自分が下であるのを認めることになるためこちらの敗北となる。
そのため、DIOはあの場は穏便に済ませ、彼らと別れたのだ。

それに、雅の語った人間を全て吸血鬼にするという夢も相容れない要因となった。
人間を全て吸血鬼にするなど愚かしいにもほどがある。
それほどまでに同種が欲しい、寂しいというのか。
くだらない。まったくもってくだらない。
頂点に立つ者は常に一人。孤独を恐れてなにが王か。




雅は思った。
あの男、DIOとは相容れないと。
もと人間でありながら、この雅を敬うことのない隠しきれないプライドの高さ。
そういった輩は見ている分には面白いが、いつかは必ず牙を剥く。
無論負けるつもりはないが、ああいった手合いはすぐに潰すよりも泳がせていた方が面白い。
そう。この雅への復讐を糧に生きるあの男、宮本明のように。

雅としてはこの興味深い催しはできれば楽しみたい。人外である赤い首輪の参加者からは色々と話を聞いてみたいし、自分と同じく招かれた明にも興味がある。
奴の絶望の顔をもう一度拝むため、脱出が出来る算段が整っても奴が現れるまでは待ってやろうとまで思うほどにだ。
そのため、彼はこうして一所に留まらず、あの火種になるであろう男にも手を出さずに別れたのだ。

それに、DIOの頂点たるスタンスもまた相容れない要因となった。
聞けば、彼は優秀な人間をスカウトし雇っているらしい。
吸血鬼でありながらなぜ人間と馴れ合おうというのか。
劣った種族の中でしか己の器を見いだせないというのなら滑稽だ。まったくもって滑稽だ。
同じ種族の中で頂点に立ってこそ、王たる資格があるというのに。




MUR大先輩は思った。

怖かった。スゴイ怖かった。
主体性の無い自分がよくもまあ生き延びれたものだと思う。いや、主体性が無いがゆえにほぼ空気で終われたのか。
いまとなってはわからないがそんなことはどうでもいい。

これから自分が便乗すべき道はどこか。MUR大先輩の不安は治まらない。






三者三様の想いで、交わることなき道へと進む。
もし彼らの道が再び交わるとすれば、それはいずれかの道が朱に染まるときだろう。

【G-7/民家/一日目/深夜】
※三人はそれぞれいずれかの方角へバラバラに向かっています。


【DIO@ジョジョの奇妙な冒険】 
[状態]:健康
[装備]:
[道具]:基本支給品。DIOのワイン@ジョジョの奇妙な冒険、不明支給品0~1
[思考・行動] 
基本方針:生き残る。そのためには手段は択ばない。 
0:主催者は必ず殺す。
1:空条承太郎には一応警戒しておく。
2:不要・邪魔な参加者は効率よく殺す。
3:あのデブは放っておく。生理的に相手にしたくない。

※参戦時期は原作27巻でヌケサクを殺した直後。
※DIOの持っているワインは原作26巻でヴァニラが首を刎ねた時にDIOが持っていたワインです。
※宮本明・空条承太郎の情報を共有しました。


【雅@彼岸島】 
[状態]:健康
[装備]: 
[道具]:不明支給品1~2
[思考・行動] 
 基本方針:この状況を愉しむ。
0:主催者に興味はあるが、いずれにせよ殺す。
1:明が自分の目の前に現れるまでは脱出(他の赤首輪の参加者の殺害も含む)しない
2:他の赤首輪の参加者に興味。だが、自分が一番上であることは証明しておきたい。
3:あのMURとかいう男はよくわからん。

※参戦時期は日本本土出発前です。
※宮本明・空条承太郎の情報を共有しました。


【MUR大先輩@真夏の夜の淫夢】 
[状態]:健康
[装備]:Tシャツ
[道具]:基本支給品、不明支給品1~2
[思考・行動] 
基本方針: 脱出か優勝の有利な方に便乗する。手段は択ばない。
0:この怖い二人から離れる。
1:野獣先輩と合流できればしたい。
2:とにかく自分の安全第一。

※宮本明・空条承太郎の情報を共有しました。



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GAME START DIO 勝利へのV
朱、交わって
MUR大先輩 不穏の前触れ
最終更新:2017年11月07日 00:30