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「やっぱりサーヴァントって言われても急には実感わかないよな。」
「ですよね、軍曹殿。」
「喚ばれて飛び出てみたら目の前で代行殿死んでんだもん、それで一人だけいた女サーヴァント取り押さえたらやたら弱いし。おっぱいデカイだけかよあのランサー。」
「そうっすね軍曹殿。」
「つーわけで今からお前のケツに銃剣突っ込むわ。」
「なるほどです軍曹殿……え、それは……」
「てめぇ上官に生返事してんじゃねぇぞこの野郎。」
「いやケツはヤバイですって。てか軍曹殿さっきブリッツ中尉を女扱いしてませんでしたよね、首跳ねられますよ。」
「馬鹿野郎言葉の綾だ……さて。傾注!大将殿のお出ましだ!」

 手に手に銃を、手榴弾を、弾薬を、火砲を、その他雑多な装備を点検し手早く戦闘体勢を整えていた軍服姿の吸血鬼達が、軍曹殿と呼ばれていた男の声に反応して一斉に敬礼する。
 赤い目と牙をギラつかせる最後の大隊を前に、真田幸村は歩み出た。


 真田幸村の一喝の後、彼を中心として対カルナの対策が練られた。現在地下の共同溝を往く千手扉間を先頭にしたテレサ、アリシア・メルキオットの三騎は、その先遣隊である。そしてその策とは次のようなものだ。
 まず第一陣として隠密行動に自信のある三騎――情報は共有されていなかったが、彼女達はいずれも気配遮断のスキル持ちである――が先んじてカルナに接近、その動向を探る。
 次に第二陣として真田幸村、パピヨン、小野寺ユウスケ、そして最後の大隊から降下猟兵を中核とした軽装備の一個中隊、吸血鬼二百余名が別のルートでカルナに接近、半翼包囲後、会敵する。この際、カルナが第二陣の機動を察知した場合、またはホテルへの直接攻撃を試みた場合、第一陣の三騎でカルナを急襲し一時的に拘束する。
 そして第三陣の最後の大隊幹部並びに残余の吸血鬼とマスター達は、第一陣と第二陣がカルナの足留めをしている間にホテルを放棄、脱出する。目標は冬木市西部、深山町の翠屋。ここに退却し部隊を再編成、西側のサーヴァントを戦列に加え、新都に転進しカルナを倒しきる。
 ホテル内の力学を考慮した結果、第一陣はアリシアが、第二陣は幸村が、第三陣は最後の大隊のゾーリン・ブリッツ中尉が指揮を執ることで合意に達し、この急拵えの作戦は実行に移されることとなった。というか、勢いで幸村が推しきった。既にこの作戦が幸村により立案されたときには、カルナはホテルまで五分の距離にまで迫っており、つまりそれはいつでも敵の宝具がこちらに飛んでくるということである。公園とスーパーでのことを考えるとこのホテルごと蒸発されかねない状況であり、喉元に手をかけられているに等しい有り様であった。はっきりいってカルナがその気になれば即座に全滅するのだ、今こうしてなんの気まぐれか生かされているが、ならその間にできることはやらねばならない。幸村はそう判断すると全員を叱咤した。

「教授殿、ますたぁ達を脱出させるのにどれ程かかる?」
「本音を言えば一時間は欲しいですが、三十分あれば川にまで達せるでしょうな。ここから川までカルナの攻撃が届かないという前提ですが。」
「情けないことを言いますが、十五分でなんとかなりませぬか。」
「地下の共同溝が川へ直通していればできるかもしれませんがね、地図もなにもないので期待はしないで頂きますよ。」
「忝ない。」

 出撃準備を整えた吸血鬼達を確認しながら幸村は教授に礼を言った。正直に言えば十五分持たせられるかも怪しいが、泣き言は言っていられない。改めて腹に重いものが感じられるところに、伝令のシュレディンガー准尉が現れた。

「まずいよ、第一陣のおっぱいランサーがやられた。」
「なんとっ……!バラバラに打って出てくるのを待って一人ずつ倒していく気か!」

 ぎりと拳を握り締める。いつでもこちらを丸ごと潰せるのにそうしないのは炙り出して虱潰しにする腹か。ならば一刻も早くこちらも戦闘を開始しなければならない。でなければマスター達が退却する時間を稼ぐ間もなくサーヴァントが全滅してしまう。幸村はそう考えると吸血鬼達を急がせた。


「まさかこんなに早く私だけになるとはな。」
「ごめん……なさい……セイバー……」

 ところ変わって新都中心部、既に実体化を済ませてアリシアを小脇に抱えたテレサは走る。見るものに残像すら見せるダッシュとステップの併用で混乱するビル街を駆けていく。すぐ脇を熱線が通りすぎた。

 アリシア達第一陣はステルス性の高さと同時にレーダー役としての高い能力をもつサーヴァント達で構成されている。そこでカルナの射程距離外を見極めた後にそれぞれ散開、実体化する運びになっていたが、まずその最初の段階で作戦は破綻した。簡単に言えば、カルナの索敵がホテルのサーヴァントの予想よりも遥かに高かったのだ。そしてもうひとつ、ホテル内部の情報が限定的とはいえカルナに漏れていたのだ。
 当人達以外は知らないことだが、実はホテル内の美遊とホテル外のカルナの間では、ホテル襲撃についてある程度のコンセンサスがあった。といっても、焦ってバーサーカーにルーラーを殺させたらついでにうっかりそばいにたセイバーのマスターも誤殺するは街が停電になるはで慌てていたために大した会話らしいものはできなかったが、それでも二点だけは取り決めた。即ち、「今日の午前二時にホテルに接近すること」と、「バーサーカーが実体化したらホテルを襲撃すること」、この二点である。ちなみに午前二時にしたことに特に理由はない。ただ単にスマホでメールするのに、はしっこにあって二文字打たなければならない「一」より真ん中にあって一文字の「二」の方がポケットのなかに入れた状態で打ちやすかっただけである。それはともかく、美遊としては深夜にカルナがホテルに接近することが重要であった。万が一、というか十中八九自分がバーサーカーに教会を襲わせたことは露見するだろう。なにせバーサーカーに教会を派手に消し飛ばさせてしまっている。バーサーカー並の感知能力があればこれに気づかぬはずはない。更にセイバーとキャスターに至っては教会から逃走するバーサーカーをバッチリと見ている。マスターを殺したこともあってセイバーはどう考えても自分を追及するだろう。そう考えた美遊はカルナに襲撃させることで場を混乱させようと計ったのだ。もっとも、メールしてから二時より一時の方が良かったとか、まあ万が一の時はバーサーカーを実体化させることで合図になるから大丈夫だとか色々考えたが、どういうわけか苦し紛れでついた「教会の近くで感知できないサーヴァントとカルナに襲われた」という言い訳が信用されてしまった――実はバーサーカーの持つモーフィングパワーでバーサーカーが発した教会周囲の魔力もまとめて消し飛んでいたためはからずも美遊の発言に信憑性が出ていた――ために全部まるっと杞憂になっていたのだが。
 さてそんな美遊だが、カルナ接近に際してある程度第一陣のサーヴァントがカルナに接近したであろうタイミングでバーサーカーを実体化されることを選んだ。カルナならば地下にいようとバーサーカーがホテルで実体化したことに気づくだろう。周囲にやたらとサーヴァントがいる状況は当初の想定外ではあったが、魔力の強大さで識別できるはずだ。そう踏んでカルナが第一陣の攻撃を受けるだろう前に実体化させることで合図を送った。あとはカルナの眼力でサーヴァントを見つけ出しレーザーぶっぱである。美遊本人もこれでまさかサーヴァントが仕留められるとはつゆほども思っていないかなり雑な計画であったが、これで第一陣は事実上壊滅することとなった。
 まず最初にアリシアが地上で実体化したところを狙われた。咄嗟に身体を捻ったことで心臓への直撃は避けたもののへその辺りで上下に分割されることとなる。扉間に至っては次の一撃でテレサでも感知できないレベルで消し飛ばされた。これで生きていれば大したものだが、それならばぜひ直ぐにでもこちらを援護してもらいたい、テレサはそう思った。

「空飛んで炎出してくる奴にろくなのいないな。」

 テレサは膝の力を抜くと地面を滑るように移動する。数瞬前まで首があった辺りをカルナの宝具が通りすぎていった。そのまま縦横無尽に走り続ける。一瞬でも足を止めたら、いや、足を止めようが止めまいがカルナの視界に入れば終わりである。戦闘が始まって十秒ほどでサーヴァントが二騎無力化されたのだ、第二陣到着まであと数分をテレサ一人で持たせなければならない。
 もちろんそれで勝てる可能性などゼロに等しいのはわかっているが。


「美遊殿!第一陣の様子は!」
『ランサーとアサシンは反応が感じられない。今はセイバーが一人で逃げ回ってるみたい。』
「真田幸村、こちらはあと一分といったところだ。」

 電話越しの声は非常に冷静に戦況を伝えてくる。慣れぬ携帯電話で話しながら幸村は隊列を組みつつある吸血鬼達を見た。
 ハイアットホテル地下ではホテル脱出に向けて着々と準備が進んでいた。既にマスター達と教授は、海軍出身の最後の大隊構成員と大尉と呼ばれた男に護衛され川を目指し西進を始めている。しかしだからといって、依然としてカルナの脅威に晒されていることになんら変わりない。それどころか第一陣が余りにも容易に崩壊したために余計ホテルの人間は危機感を感じていた。
 カルナの戦闘能力は直接対峙した幸村やテレサの予想よりも明らかに上であった。いくら相手が規格外の太陽神であろうとまさか第一陣の三騎が一分持たずに無力化されるなどとは想定できなかったのだが、現実は何が起こったのかわからぬままに今の有り様だ。まるで隕石かなにかにピンポイントに頭上目掛けて降られたかのような感覚である。そのせいで本来は第一陣と第二陣の合流をもって決戦を挑む予定が戦力を逐次投入する格好となってしまっていた。

 ――実際は美遊がもたらした情報には多少の誤りがあるのだが、テレサと扉間の二人から分断されている彼らには知りようのないことである。

 ともかく、幸村は第二陣の出撃を急がせる。不幸中の幸いか、カルナの位置はもはやホテルと目の鼻の先だ。戦闘隊形をとった一個中隊を見ると檄を飛ばした。


 僅かな隙を見つけたテレサは右手に抱えたアリシアの上半身と左手に抱えたアリシアの下半身を空中に浮かべる。熱線で身体の断面は美しく切断されていた。そしてそこは高温によってこんがりと炭化している。

「ちょっとくすぐったいぞ。」
「え――」

 抜刀。
 その後納刀。
 アリシアが辛うじてその気配をつかんだ時には、アリシアはテレサのクレイモアをその身に受けた後である。

「今……切らなかった?」
「そろそろくっついて貰わないと面倒なんだよ。」

 そう言うとテレサは血が噴き出そうとする断面を慎重にくっつける。そのまま断面がずれないように慎重にアリシアを物陰に横たえると――一気に距離をとった。

『アリシア!生きてるのか!返事してくれよ!!』

 自分から遠ざかるテレサを見ながら、その姿を見送ることしかできないアリシアの脳内に念話が響く。その声になんとか応えて意識を保つことしかアリシアにできることはなかった。


「あのランサーは置いてきたか。」
「ああ。手加減してくれて礼を言うよ。」
「買い被られたものだな。」
「素直じゃな――おっと!」

 アリシアを置いてきてから一分程経ったころ、ホテル近くのビルに陣取り眼光による狙撃という名の砲撃をしてくるカルナに対し、テレサは逃走をやめ闘争を開始していた。
 第二陣到着までまだ数分ある、そして戦場を離脱しようにもカルナと一対一を強いられる恐れがある。この詰みに近い戦況で生き残るには、道は一つしかない。即ち、近接戦闘による一騎討ちである。
 テレサにとってカルナの一番の厄介な能力は、今も自身目掛けて飛んでくるレーザーだ。ランサーなんだから槍使えよどっちかって言うとランチャーじゃないかなどと愚痴りたくなるほど、その遠距離戦の能力は高い。だが翻って、近接戦闘ならば勝機はあると判断していた。前情報通りカルナは手傷を負っている。あのレーザー頼りの戦法は確かに有効だが、彼が本気ならば公園の時のように極太レーザーで都市区画ごとバラバラに吹き飛ばせるはずだ。だがそれを怪我で出来なくなっていると仮定すれば、あのやたら飛んでくるレーザーだけしか脅威がないとすれば、懐に飛び込めば1か2%ぐらいは生き残る目があるだろう。

(まあそれができないからこうなってるんだけどな。)

 霊体化する間もなくビルの窓ガラスをぶち破り、壁や天井を大剣で斬り開きながらスーパーボールのように駆け回る、もとい逃げ回る。カルナまで道一つぶん、といった距離まで接近したところで、あちらの制圧能力とこちらの回避能力が釣り合ってしまっていた。近いぶん適当な狙いでもぶち当たりかねないためここから先は確立の世界である。それも先のかなり都合の良い仮定に乗っ取ってのものでありなんら保証はない。まあ要するに端的に言えばお先真っ暗といったところだ。

(幸村達はあと一……いや、二三分はかかるな。ランサーは、まあ、生きていればいっか。)

 この状況を打開するには正直テレサだけではどうにもならないというのが率直な見立てである。であれば新たな変数が、つまるところ援軍があれば良いのだが、どうにもあと少しの間は期待できなさそうだ。
 幸村達第二陣は漸く隊列を組み始めたところである。ホテルの地下の妖気を見るにそう考えて間違いなかろう。一人当たりの戦力が、いわゆる『クレイモア』で言うところの四十番台だと仮定しても援軍として戦列に加わるには人数的にどうしてもそれぐらいはかかるはずと思っておいた方が良い。
 アリシアに至っては身体が真っ二つにされていたのだ、戦力としては到底期待できない。いちおうあの状況でも喋れる生命力に賭けて、断面を『キレイにして』くっつけたておいたが、あれで治るのはそれこそ深淵のものぐらいである。後はカルナよろしくレーザーの一つでも撃てればテレサとしては拍手を送りたいぐらいには彼女について期待していなかった。ぶっちゃけ足手纏いだから置いてきたし。
 あとちょっとの間存在を忘れてたがアサシンは死んだのか死んでないのかどっちなんだ、とか思いながら前転、その勢いで跳躍、天井をぶち抜いてくるりと反転、次の天井を蹴破らないように慎重に力を調整して横への力を加えて自由落下、膝を抱え込んで身体を丸める。五秒とかからない一連の動きで五発のレーザーが飛んできた。もう自分がいったい何と戦っているのかすらなんだかテレサにはわからなくなってきた。

(第三陣なんて言ってるけどクロノ達と合流するよりアイツらのサーヴァントを増援に向かせるよう頼んだ方が良かったよな。)

 力任せに床を蹴破り階下へ身を投げた所に飛んでくるレーザーを天井に大剣を突き刺してつり輪の要領で回避しながら心中で愚痴る。続く一発を床に身体を投げ出すことでかわすとそのまま四足歩行と見まごう前傾でぬるりぬるりと避けていった。

(戦力の逐次投入がーとか、そもそもクロノ以外は見捨てそうとか、あ、これ考え出したらきりないな――アチッ。)

 マントの真ん中をレーザーがぱっくりと穴を開けていたのをテレサは窓を突き破りついでにもう一つ窓を突き破って隣のビルを転げ回っている時に気づくが、でも今そんなことはどうだって良いのだ、重要なことではない。遮蔽物にもならない障害物の多い室内をめんどくさくなって壁から壁に走ることで回避運動を取りながら、テレサはホテルの地下へと意識の一部を向ける。待ちに待った援軍は漸く動き出したようだ。テレサの予想よりも行軍スピードが早いのは嬉しい誤算だがそれで息切れしないか少し心配になる。まあ肉の盾が増えるのは大歓迎ではあるが。だがしかし依然としてこちらはあのレーザーの雨の脅威のもとにある以上結局は逃げ回るしかないのだが。

(て、なにいってんだ。)

 前言撤回。テレサはレーザーを掠める覚悟を決めてカルナとの距離を詰めにかかる。だがレーザーは来なかった。正確には、第二陣が動き出してからレーザーは止んでいた。それは数秒のインターバルであった。だがその数秒があれば奴には充分だということはテレサにはわかっていたはずなのに。

「やられた……!」

 力任せにクレイモアを投擲するも僅かに身動ぎさせるしかない。カルナの目は第二陣へと向けられている。次の瞬間、桁違いの光線がホテルの地下目掛けて照射された。『梵天よ、地を覆え(ブラフマーストラ)』ではなく、『梵天よ、我を呪え(ブラフマーストラ・クンダーラ)』、その一閃がホテルをゆっくりと倒壊させていくのをテレサは見送った。


「なんだ……何が……!」

 コンクリとアスファルト、そして土砂を上へと掘り進め、ぬっ、と腕が突き出される。薄く堆積した瓦礫を吹き飛ばしながら土中から現れた真田幸村は、全身を隈無く火傷しながら周囲を見渡した。
 張り付いていた瞼を強引に見開いてなんとか視界を確保する。先頭を進んでいたバーサーカーは黒い鎧姿のまま瓦礫にもたれ掛かり、その後ろにいたはずのキャスターは片腕を失い身体の一部を炭化させた姿で横たわっているのが見えた。
 後ろを振り返る。土砂に覆われたとはいえ、二百の兵がそこにいた筈だ。数秒、もしくは実は数分前かもしれないが、幸村の後ろには確かにいたはずである。だがそこには鉄屑と化した装備と幾らかの炭と幾ばくかの灰が風に巻かれて光となって消えていくのしか見えなかった。

「まさか、全滅だというのかっ!!」

 幸村は吼えた。まさか一撃で、一撃でやられるなど。あってはならない。
 だがゆっくりとこちらに向かって倒壊してくる冬木ハイアットホテルはそんな幸村達を待ってはくれない。幸いにも、離脱したとはいえ第三陣の方向ではないが、自分達の頭上に倒れ込んでくる。猶予はなかった。

「……っ!ともかく、せいばぁ殿と合流せねば。」

 一瞬後ろを振り返って、生存者が見つけられないのを認めて、幸村はキャスターとバーサーカーを抱えて走り出す。まもなくその姿は粉塵と化したビルに巻き込まれ見えなくなった。


「もうちょっと手加減ってものをしてくれないか?」
「悪いが全力で行かせてもらう。」
「いやホント無理。」

 片腕一本に背中の炎をバーニアのように吹かして戦うカルナに、テレサは徒手空拳で食らいつく。カルナの本気の一撃を境に戦いは第二ラウンドへと突入していた。
 カルナの魔力放出による炎と眼からのブラフマーストラ、それを妖気探知とフットワークで死角へと回り込みかわす。そうして放たれる突きや蹴りを、あるいは槍で、あるいは炎で、あるいはその身体で弾き牽制しカウンターを仕掛ける。と、距離をとり宝具の発射を試みるカルナにテレサが追い縋る。暴風の様に新都を無茶苦茶に荒らし回る二人の戦いは、いつしかホテルから駅前へと場所を移してきた。

 すっかりボロボロになったマントを翻しながら、テレサは常にカルナの槍の間合いの内へ内へと潜り込み続ける。残念ながらカルナの近接戦闘能力はテレサの想像以上であった。しかも槍が破損しているとはいえその分短くなったことで取り回しが良くなってしまっている。大してテレサは得物の大剣をぶん投げて来てしまった。今頃ホテルの瓦礫の下だろう。とてもではないが取りに行く余裕も探しに行く時間もない。

「あー、あれだ、夏だし炎出すのはやめないか。こういうの地球温暖化って言うらしいぞ。」
「地球温暖化の原因は化石燃料を大量に使用したことによる二酸化炭素の増加だ。安心して死んでいけ。」
「お前のその知識絶対聖杯戦争に必要ないだろ。」

 言葉と共に顔目掛けて放たれたブラフマーストラを首を九十度曲げてかわす。お返しに放った金的に膝のカウンターが来るのを読むと軌道を変えて首への廻し蹴りにする。喉仏を僅かに掠めた感覚と共に膝を受け止めた両手が痺れた。

 この距離だとレーザーより炎が厄介だとテレサはラッシュを続けながら思う。あの炎のせいで関節技とほとんどの投げ技が封じられている。別に効くとは思ってはいないが、やはりメインが剣の自分が打撃オンリーでは到底勝ち目がない。やっぱりクレイモア投げなきゃ良かったなと後悔しながらもカルナが仕掛けてきた足払いに宙返りしながら肋目掛けて蹴りを合わせた。

 さてここで選択肢である。今の追い詰めらた展開を打開にするには大きく分けて三つのイベントのどれかが起これば良い。
 その1、〈カルナが帰ってくれる〉。ないとは思うがあり得るなら九割方これだろう。なんか事情があってなんか帰ることになった、というかなってほしい。
 その2、〈第三陣がクロノ達と間桐達を増援に寄越してくれる〉。五代雄介とアリスのアーチャー以外は太刀打ちできるだろう。できればカルナの宝具を押し返したという安藤も来てもらいたい。これならおよそ存在する全てのサーヴァントがカルナに攻撃することになるのだ、さすがに勝てると思いたいが、まあ先程の選択肢を除いたなかで九割程の可能性か。最良の選択肢だがまず不可能。
 そしてその3、〈やられていった奴らが奇跡の復活〉。たぶん1%ぐらいの可能性しかない。しかも三つの選択肢のなかで最も頼りにならない。はっきりいってレーザー数発で沈むような連中だ。アイツらが倍いたところで一分で全滅させられるのが二分で全滅させられるぐらいしか影響はないと考えると、みもふたもない言い方をしてしまえばいてもいなくても同じである。まあそれでもどさくさに紛れて自分一人落ち延びる目は出てくるだけ今より遥かにマシではあるのだが。

 さてこの中からどれを選ぶか?

(選択肢もなにもないんだけどな。どれもちょっと都合が良すぎる。さて、あとどのくらい持たせられるか……)

「せいばぁ殿ぉぉ!!うおおおおおおおおおおおおお!!!」

「3か……」

 3だった。

 これにはテレサ、微笑を崩して苦笑である。だが「受け取れえええええ!!」という烈迫の気合いと共に投げられたものを見て今度は失笑した。
 まずクレイモアである。確かに投げた方向的にはホテルの方だったがアイツ拾ってたのか。
 「■■■■■■■■■■■■■■■■■!!!???」と、日本刀である。彼女は真名を知らないがデルフリンガーである。拾った彼女と幸村以外には忘れられているかもしれないが大分前にバーサーカーのサイトがカルナと戦った際になんやかんやあってテレサが拾ったアレである。
 それがもう笑えない勢いで翔んでくる。ランサーだけあって投げるのも上手いんだななどと感心してしまうが、明らかに受け取れられないスピードでテレサ目掛けて突っ込んできていた。アイツはあれだ、カルナに突き刺してそれを受け取らせる気だ、と一人納得しながらテレサ自身もよくわからない身体の動きで紙一重に二刀をかわすと、それを槍で弾いたカルナの顔面、蹴りをいれてあらぬ方向に飛んでいきかけていた剣と刀を手にした。

(殺す気か。)

 二刀流で斬りかかりカルナを押し込めながら文句の一つも言おうとしたが、あいにくこちらも息が上がってきている。それに漸く形勢逆転の好機が訪れたのだ、ここで押しきらねば、と思ったところで後ろから妖力が膨れ上がるのを感じ、咄嗟に跳んだ。

(なんだあのでっかい独楽……)

 千載一遇の好機を思わぬ奇襲で逃すはめになった元凶へと視線を向ける。今度こそ文句の一つも言ってやろうと思い直したところにそれは目に入ってきた。

 独楽である。

 本当にコマである。

 コマとしか言いようがない。

 テレサさん、困惑。

「うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおぉぉぉぉっっ!!!」

 雄叫びと共に真田幸村は一つの赤いコマとしてカルナへの攻撃を開始した。

 ――さてここでいい加減何が起こっているのかわからなくなってきたので整理しよう。なぜ幸村がコマになっているかについてだ。まず幸村の武器は槍である。この事は真田幸村という戦国武将を知っていれば誰もがわかるだろう。そして槍というのは剣よりも遥かに多彩な用途がある。これは槍術の経験がある方ならばわかると思うが、突きや払いといったもの以外に棒であることをいかした活用法もあるのだ。さて棒といえばポールダンスである。これはポールダンスの経験がある方なら理解できると思うが、ポールダンスは全身の筋肉の総合運動だ。戦国武将が本気でポールダンスをすればもうそれは一大事であろう。以上のことに異論はないだろうが、だがそれでなんで幸村がコマになるのかという疑問を抱く人もいるだろう。確かにその指摘はもっともである。人はコマではない。

 だがここに一つの例外がある。

 類いまれなる槍術と超人的筋力、それによる遠心力と障害物への抵抗が可能になったとき。
 槍を用いた蹴り技は回転数を増す。
 一回転が二回転に。二回転に三回転に。
 そしてその加速する回転を自立が可能なほどに昇華されたとき。
 人は、一つの独楽となる。

 これぞ真田幸村の宝具、大紅蓮脚。その加速する速度は、かの奥州筆頭伊達政宗の駆る騎馬よりも早くそして蹴散らすほど。これが幸村が馬を駆らぬ理由である。ライダーとしての適正も持つ幸村がなぜランサーとして召喚されたか、それがわかるであろう。

 猛然とカルナ目掛けて突っ込む幸村は、アスファルトを蹴散らしコンクリートを砕き進路上の一切合切を粉微塵にし肉薄する。ブラフマーストラで迎撃を試みたカルナだが、その視線は迫る剣の為にあらぬ方へ向くことなった。「よそ見するなよ」と、刀を振るうテレサの迎撃が最優先である。デルフリンガーがテレサの手に渡ったことにより、カルナは攻めの魔力放出をやめた。あれに炎をやれば喰われることは一度刃を交えたカルナがよく知っている。そして今のカルナに鎧はない。公園の時のように背中で受ければ今度は先にランサーをそうしたように身体を二つに分かたれるだろう。故に二刀の連撃を槍をもって打ち払う。袈裟、逆袈裟、胴、脛、小手、逆袈裟、脛、脛、袈裟、胴、小手、面、まるで元から二刀流であったかのように振るわれるそれを、壊れかけの槍一つで迎え撃ち、押し返す。それは数秒でテレサの首を獲っただろう。だからそれはどうしようもない隙であった。

「来るか。」
「行くさ。」
「参る!!」

 それだけで宝具に数えて良いレベルの炎がカルナから幸村へと、燃え盛る焔の竜巻の幸村がカルナへとそれぞれぶち当たった。


「全く、槍から炎出すやつはなんでこうやることが下品なんだ……蝶サイアク!」

 一方その頃、二騎のランサーがベイブレードの如く火花を散らすのを遠目に見ながら蝶人パピヨンは無人となったビルの給湯室で顔を洗っていた。片腕になった為かダメージが残っているのかはたまた両方か、すっかり辺りは水浸しになっている。ついでにうがいと洗髪で砂まみれになった体を頭部だけでも清めるとパピヨンマスクが乾いたのを確認して徐に身につけた。

「よし!」

 本当は今すぐにでもシャワーを浴びたいところではあるが、さすがに給湯室でシンクに身を沈めるのは貧乏臭いのでやめておく。そんなことを考えながら核金を取り出しつつ念話を送った。

『こっちはセイバーとバーサーカー、それと幸村が戦える。バーサーカーはまだ気絶中だ。あとの二人は知らん。』
『パピ!パピヨン?!突然してくるなよ!!』
『なんだ馬鹿みたいに騒いで。馬鹿が誤魔化せてないぞ。』
『悪い、その……大変だったんだ……』

 パピヨンは表情を変えなかったがコーヒーを入れようと沸かしていたヤカンに伸ばした手が一瞬止まった。そう長い付き合いでもないが、その反応は色丞狂介らしからぬものであったからだ。『お前が話すと長くなるから結論から言え』と聞きながら、手は安物のインスタントコーヒーの粉をグラスへ落としていく。温いお湯では溶けそうになさそうで不満げに鼻をならした。
 実は、と念話されるのを聞きながらコーヒーを啜る。案の定溶けていない。泥水を飲んでいる気分になって適当に床に放り投げた。

「アサシンか。」

 念話を手短に終えるとパピヨンはカルナ達を見る。どうやらこの十数分の間に更に面倒な事態が起こったようだ。さてここでどうするべきか。第三陣へ合流を目指すか、それともカルナ撃破を優先するか。
 少し考えて、パピヨンはそのどちらでもない方向へと移動を開始した。体から流れるお湯が点々とその後を追っていくのを見る人間はいなかった。


 炎と炎、槍と槍、そのぶち当たった同一存在のダービーは僅かな間の拮抗を経て片方が吹き飛ばされることで呆気なくけりがつく。屋上から地面へと撃墜され片膝をついていたのは、カルナだった。
 はっ、と大きく息を吐く。テレサが息が上がってきていたようにカルナもまた疲弊していた。それはつまりカルナとホテルのサーヴァントがようやく同じ土俵に立ったということであり。

「次で決めさせてもらう。」

 存在しないはずの勝機が生まれた瞬間だった。
 一瞬でカルナに殺到したテレサに驚くも幸村も続く。二騎でかからねばこの蜘蛛の糸が切れてしまうことは二人ともよく理解していた。そしてカルナも。
 目に魔力を集め、突貫、フェイントを交えてセイバーに仕掛けたカウンターはすんでのところでかわされる。刹那の交錯の後のポジション争い、三次元の動きのセイバーが優勢、挟まれる。危険。しかし回避不可。よって攻勢。後方の幸村が魔力を再び迸らせる。数秒でやられる、のでその前にセイバーを討たんとカルナは槍を振るう。だがその槍が如く弾かれる。これは知っている。公園で一度凌いだ。高速剣という名は知らずとも、槍が折れていようとも、問題はない。剣を折れば子細ない。
 ――その時、セイバーは優しく笑った。
 訂正。極めて危険なり。

 セイバーの高速剣のスピードも威力も上がっている。カルナはそれを理解した。先程のが5とすればこれは20か。剣を折れるのも厭わず振るってくる。ヒビの入ったクレイモアをこれでもかと縦横に振るう。そしてセイバーの手が止まる。だが斬撃の雨はやまない。セイバーは逆手に持った日本刀――デルフリンガーを振るっていた。剣が持たぬのならば二本用意すればいということか。理に敵っている。早さもつい今のの倍だ。カウンターを試みるのは諦めざるをえない。
「烈火!」
 後方から幸村の刺突。対処不能。故に槍を僅かに持ちかえる。セイバーの剣を払う際の槍の引き戻し、それをもって幸村の槍を凌ぐ。急所以外ならゼロに等しい。
「三連高速剣、なんてな。」
「大・烈・火ァ!!」
 砕けたデルフリンガーの柄を顔面目掛けて放り投げたのを最後に再び利き手での高速剣が始まる。更に倍する速度、腕が異形へとなる。化生の力に飲まれるのも覚悟の上か。そして後方の幸村からは、カルナの魔力放出に比較しうる爆炎。カルナは知らぬことだが令呪の後押しを受けての宝具、熱血大噴火は、ごく短い時間とはいえ幸村をカルナと同等の次元に引き上げる。ここに技量で食らい付いたテレサと、力で食らい付いた幸村に挟まるカルナという構図が生まれた。
(見誤ったか。)
 カルナは我が身の不出来を噛み締めブラフマーストラを放つ。確実にセイバーに当てるために随分と時間を必要とした。そのせいで今の自分は十や二十では済まぬ刀傷を負っていた。心臓と頭にだけはなんとか防いだが、満身創痍である。
 吹き出る血返吐を飲み下しながら身体の大部分を消滅したセイバーを視界から遠ざけていく。直ぐにでも幸村に向かわねばもう持たない。討ち取られる。その微笑みを目に焼き付けながらもう一撃宝具を放とうとし、その目を青い光に焼かれた。

(――あのときのランサーか。)

 目から脳、そして後頭部へと抜けていく光を感じながら残った目が人影をとらえた。青い槍を抱えた女と淀んだ目の男。どちらも先程致命傷を与えたはずの者達だ。それこそ、カルナ自身でも死を覚悟するほどの。


「我が魂ぃぃ――」

「顔向け……」

「――たぎってそうろおおおおおおおおおおおおおおおおおう!!!!!」

「……できんな。」


 赤虎絶翔天覇絶槍日輪天墜、赤く閃いた槍さばきに削られた皮と骨と肉が弾け飛び、露になった心臓に幸村の拳と蹴りがめり込んだ。



 ■  ■   ■    ■     ■      ■       ■        



「ここは……ぐっ!」

 自分が固いなにかに抱かれていることと、血で張り付いた喉の息苦しさから、真田幸村は意識を取り戻した。
 気がついた時には、石造りの天井が見える。なんだこれは、なにが起こっている。状況を探るために首を動かそうにも、身体は微塵も動いてくれない。まとわりつくような倦怠感と疲労感と、最近覚えた魔力不足の感覚が強まるばかりだった。

「お早いお目覚めで真田の大将殿。」
「貴殿は、ぞうりん、殿……それに、ばぁさぁかぁ殿……?しかし、なぜ本隊の殿軍の将である貴殿が……?」

 突然かけられた声に目を向けようとするも、やはり身体が動かない。疲労困憊、全身から力が抜けている。なんとか声と気配だけで判断するも、幸村の頭には疑問符ばかり浮かんでいた。
 最後の大隊の戦鬼の徒が一人、ゾーリン・ブリッツ中尉。大鎌を携え顔の半分に奇怪な刺青をしたその女は第三陣の指揮を執っていたはずだ。幸村はそう何度も話したことはない。精々、ホテル丸ごと暗示をかけられる女丈夫ぐらいの認識である。故にそんな彼女が何をもって今こうして自分に話しかけているのかの判断材料がなかった。
 困惑を深める幸村を余所に、ゾーリンは幸村の視界に現れると、幸村の周りを歩く。そこで始めて、幸村は自分が仰向けになっていることを知る。不思議な重圧感で気づかぬほどに弛んでいたか、と幸村が自戒するのなどお構い無しに話始めた。

「二個中隊にサーヴァント四騎を失っておいてカルナ討伐に失敗、あたら多くの兵を失った背任。」
「カルナと内通し枢軸同盟を襲撃させた外患誘致。」
「ホテルを爆破しマスター四人サーヴァント二騎を暗殺した内乱。」
「以上三件により、マスター・日野茜とランサー・真田幸村を拘束する。」


「…………は?」


 冷や水を浴びせられた気がした。


「ぞうりん殿……?」
「いやぁ驚いたよなあ~まさか真田幸村が犯人とは思わなかったよな~。」

 どこにいたのか吸血鬼達のあからさまな驚きの声が上がる。だがそんなものは耳に入らない。聞こえた言葉がわからない。

「日本の芸能人は子供だろうと容赦ないな。なかなかできることじゃないよやっぱすげえよクールジャパン。」
「ぞうりん殿ォ!!」

 食って掛かろうとするも、身体が動いてくれない。動け、と叱咤しても地面に縫いつけられたかのようだ。

 そう思って、そこで初めて、自分が地面に縫いつけられていたことに気づいた。

 腹の傷口に、深々と大鎌が突き刺さっている。そしてその傷口も、足も、胴も、腕も、コンクリートで固められている。端から見れば顔以外全て床と一体化した幸村の姿がそこにあった。

「なんだこれは、どういうことだ!」
「さっき言っただろ拘束するって。あ、霊体化すんなよ。お前のマスターの首が飛ぶ。」
「ますたぁに何をした!なぜ我らがそんなことを!」
「落ち着けよ。お前のマスターにはなにもしてない。本当になにもな。」


 噛んで含めるようにいったゾーリンのその言葉に、幸村は愕然とした。

「ますたぁは!ますたぁは無事か!」
「何度も同じこと言わせんじゃねえよ、なにもしてないつってんだろ。」
「では、ではますたぁの治療は!」
「治療もなにも、くも膜下出血だっけ?頭開けなきゃできないだろ?」

 幸村は拳を握ろうとした。だがコンクリに塗り込められた身体ではそれも叶わなかった。

「安心しろよ、犯人が見つかったら病院だろうがどこだろうが好きに行けばいい。この街で手術できる病院が残ってるかは知らないけどよ。」

 ゾーリンの嘲笑に返す拳もなく、幸村は慟哭した。


 あのとき、あの爆発のとき、日野茜は脳に甚大なダメージを負っていた。とっさにマイケルが庇ったことで即死は免れたものの、背中など背部への大火傷と頭部を中心とする全身の強打は、その生命維持に支障を来すものだ。ましてや茜は一日ほど前にも頭部を挫傷している。あの時は病院の検査ではさしたる異常が見つからなかったが、本来は丸一日安静にした上で精密検査の必要がある怪我であった。しかし、爆弾騒ぎでそれができなかったのに加えてスーパーで令呪まで使っている。彼女と同等かそれ以上に頑強なナノカですら昏倒したその膨大な魔力の影響が、なぜ彼女には気絶程度で済む道理があろうか。ダメージのあった身体に魔力を流せば、内出血の一つや二つ負って当然なのである。そしてそんな脳出血をしている人間が爆発に巻き込まれればどうなるか。更にそのあとまた令呪を使えばどうなるか。彼女の頭の中の爆弾は火にくべられたも同然である。


「ぞうりん殿ォ!!ますたぁと!ますたぁと合わせて頂く!!!」
「許すわけないだろ?じゃなかったらお前埋めねえだろ。」

 爆発の後、茜を診察した教授からくも膜下出血のリスクについて説明されたときから、ずっと幸村の頭には茜の容体が急変しないかという不安と懸念が占めていた。しかしその危惧がこのタイミングで実現してしまうとは。いやもちろん幸村があれだけ魔力を使えば当然なのだが、しかしまさか、こんな展開になるとは。

「んで、どうすんだ大将。認めんのか認めねえのか。」
「ぬっ!?ぐぅうぅぅ!!」

 ぼうとする頭が痛みで強制的に覚醒させられる。幸村の視界の端に大鎌が見えた。そして傷口が抉られる感覚。

「無駄に頑丈だな……宝具か?」
「認め、ぬっ!?某も!ますたぁも!誓っ、て!裏切って、いない!」
「そうか。」
「わかっているはずだ!このような真似をしても、下手人が笑うのみ!らいだぁ殿も望まれるはずだあっ!!」
「そうか。」

 返答代わりに抉られる感覚が強まる。そして同時に口をなにかで覆われる感覚。鼻の中にコンクリが流れ込んできた。

「霊体化すんなよ。すればその時点でお前もマスターも殺す。」
「てか……なんか勘違いしてませんかぁ?お前言う『らいだぁ殿』はこういうの大好きなんだよ。」
「知ったような口きかれたら困るよなあ!お前ら!」

 ゾーリンの声に合わせて吸血鬼達の歓声が沸く。その声も途中からくぐもったものに変わった。

(どこで、間違えた。)

 自問自答。体内でマグマのように熱がうねる。しかし行き場がない。どこに向かえばいい。どこに向かえばこんなことにならなかった。自責が重りのように身体を縛り、そのまま歓声の水底に意識が沈んで行こうとしたとき――

『わたしが……』

 ――幸村が待ち望んでいた者の声が聞こえた。

『わたしが……やりました。』

 スピーカーを通して、少し変わった感じの、日野茜の声が、その空間に反響した。

『わたしが……わたしが、ホテルにバクダンをしかけて……カルナに、ジョウホウをながして……りんちゃんをころしました……』

 何故だ。

 何故だなぜだなぜだナゼだナゼだナゼだナゼダナゼダナゼダナゼダ。

「なぜだああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっっ!!!!」

 コンクリートの空間に幸村の大音声が響いた。



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