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 ――1931、ルーラー・ミュウイチゴは無人のカフェで一人チラシの裏に独り言を書く――



『つまり、このたたかいにはいろんせかいのいろんなじだいの人がいるの』

 視線は参加者名簿に落としたままルーラーは文字を書いていく。

『上きゅうAI、かんりしゃ?は本の中のキャラを出すみたいなものっていって』
『このせんそうは二じそうさくみたいなものだって』

 無人のカフェ。誰もいないそこで誰かに語りかけていくように。

『いいわすれてたけどこえをだすのは大丈夫だとおもうよ NPCいないし、きょうかいの中は私のしかい共ゆう以外はへーきらしいから』
「あ、そうなんだ。じゃあ私たちは紙に書かなくていいんですね?」
『うん 私がみちゃうとれんらくようAIにもみようとおもえばみえるらしいからきをつけてね』

 誰もいないはずのカフェに黒鳥千代子の声が響く。しかしルーラーはそれを空耳と判断し独り言を続けていく。心なしかチラシと名簿の位置を変えると続けた。

「先に聞いておきたいんだけど、このパーティーの主催者はどうやって参加者を監視しているの。」
『NPCとしかい共ゆうしてるらしいよ 私もよくしらないけど』
「そのNPCを見分ける方法は?」
『、、、わかんない NPCみんなとそうしてるかも』

 なぜかアリス・マーガトロイドの声も聞こえた気がした。だがルーラーは空耳と判断した。あの二人は少し前に教会を出ていったからだ。教会の近くには彼女達のサーヴァントの魔力反応もあるし、風にのって声がここまで届いたのであろう。

「NPC全員?この街に何万人いるかわかって言っているの。」
『でも、でも、東京とかのよせんの時に何万人かかんしできるNPCをつくって、やってみたら、しょりおち?だけどできたから、人口の少ない冬木なら大丈夫って』
「しょりおち……?」
『よせんでかきゅうAIのえんしゅうはした から かきゅうAIとはあったことないけどすごく多いらしいよ』
「NPCもサーヴァントみたいなものなのかな?あ、ルーラーさんそのページは撮り終わったんで次のページお願いします。」

 決して参加者名簿から目を離さないようにしながらルーラーはチラシの裏に文字を書いている。もしかしたら名簿の書き取りをして覚えようとしているのかもしれない。なんと模範的なルーラーだろう。途中まるでスマホで写真を撮ったときの音の空耳が聞こえたりしたがだからなんだというのだ。ルーラーは次のページをめくる、攻略本のようなそれには全てのマスターとサーヴァントの情報が載っているのだ。

「アリスさん!これこれ、これがドラえもんだよ。キャスターのクラスなのかな。この赤いチェックはなに?」
『それ だつらくした印 よこのじかんはそのじかん』
「今日の6時11分……ずいぶんと正確ね」
『AIからメールでくるから、それをメモしたの サボるとかなりおこられる、、、』
「神戸ってドラえもんは金曜日にやってないのかなって思ったけどそんなはずないよね。そっかあ、サーヴァントだからなのかな?」
『、、、なんでチョコがドラえもん?知ってるの?』

 ルーラーは難しい顔をしながらとんとんとチラシの裏を叩くと別のチラシを取り出した。元のチラシはどこかへといってしまう。たぶん妖怪メモ隠しの仕業であろう。まったく困ったものである。ルーラーはじっと名簿のドラえもんを見た。これが同じ猫キャラとは到底思えない。

「みんな知ってるよ、だってドラえもんだもん。他には五代さんとか。なんか見たことあるなって思ったけどクウガの人だったんだ。おジャ魔女どれみの三十分前だっけ。シャープのほうだったかな。とにかく仮面ライダーだよ。」
『おかしい、、、本の中っていっても、たとえだとおもったんだけど ほんとに本の中から、、、』
「そもそもミュウイチゴっていうか桃宮いちごちゃん、ですよね?なかよしに連載されてたし土曜の朝にアニメもやってたよ。」
『え、私ってなかよしにれんさいされてたの?なかよし、カードキャプターさくらの?ほんとに?』
「私の筆箱東京ミュウミュウだもん。その……サインって貰えたりします?あ、この、自由帳しか今持ってないんですけどいいですかね?」
『サイン!、?ふてはこ??!!セーラームーンみたいなっ!?』
「私にもわかるように話してもらいたいのだけれど。」

 ルーラーの顔がにやける。まるで自分の読んでいる雑誌に自分が主人公の漫画が連載されていて、しかもそれがアニメ化していると知ったときのようだ。尻尾もふりっふりのぶんぶんである。だがなにかに気づいたかのように、ハッとした顔になった。それと共に尻尾も動きを止める。そしてしばらく難しい顔をして、一度目を閉じて、「よし」と一声出して。ルーラーはまた独り言を書き始めた。

『チョコ、この聖杯戦争から脱出したいんでしょ?私も。』
『私さ、イヤだったんだ、ルーラー。でも、ルーラーがいないとたくさんの人が死ぬことになるって。変だよね、自分達で集めておいて。こんなの殺し合いと一緒なのに。でも、誰にも相談できなかった。』
『私のやってることってさ、誰かを守ることじゃなかったんだよ。私が働くと、それだけ人が死んでくんだって、思うのは、間違ってるのかな?って。』
『だからどうせなら、守るために戦いたいなって。戦うのだってイヤだけど、でも、どうしてもっていうなら、戦いを止めるために。それに、正義の味方がカッコ悪いとこ見せられないからね。』
『みんなを守るヒーローなら、ファンの期待にはこたえなきゃ!』
『って、ちょっと恥ずかしいかな。』
『だから、私はこの聖杯から逃げ出したい、止めたい、終わらせたい!そのために協力してほしいの。』
『……この聖杯戦争にはね、必勝法があるから。』

 そう一気に書き終わると、ルーラーは流れるに任せていた涙を拭った。誰にも見られることのない涙だ。この独り言を始めてから、いやもっと前から、ずっと流れていた涙を拭った。ぎゅうっと誰かに抱き締められる感覚がして、この場にチョコがいなくて良かったと思う。自分のことを思ってくれるファンの前で、カッコ悪い泣き顔なんて見せられないから。もちろんそれに他意はない。ルーラーは公正なのだ。だからルーラーは、みんなのために行動する。

『この聖杯戦争のルールは、「最後の主従になったら優勝」なんだ。いちおうパンフレットに書いてあったらしいから知ってると思うけど、記憶を無くすのが残ってたりいきなり予選に巻き込まれた人もいるらしいから、それで、改めて覚えておいてね』
『でね。この一ヶ月ずっと考えてたんだ。なんとかこのルールを変えられないかって。だけれどダメだったんだ。だからなんか抜け穴とかないかなって探してたら一つあったの。』
『参加者には知らされてないけど、主従ってつまり令呪を持ったマスターとサーヴァントの組み合わせなんだって。そもそも令呪は、召喚したサーヴァントと主従である証で、オリジナルの令呪とは違ってるんだって。』
『……このオリジナルって言葉の意味がわからなかったけど、たぶんこの聖杯戦争は、元となった聖杯戦争があるんだろうなあ。私冬木なんて街知らないもん。淡路島にこんな観光名所あったら少しぐらい聞いたことあるはずなのにね。ていうことは、たぶんどこかの冬木って街がある世界で聖杯戦争をしてたんじゃないかな。』
『脱線しちゃった。で、ようするに、マスターが令呪を全部使うと主従にカウントされなくなるの。てことはさ、参加者が誰か一人以外みんな令呪を使いきれば、それで「最後の主従」ができるんじゃないかなって思うんだけど……』
『ルール上はこれで優勝できるはずなの。そうすれば……街のはしっこにあるお寺の地下のどうくつに聖杯が現れるはずらしいから、それでみんながここから出られるように願えば、大丈夫だと思う。』
『もっと頭のいい人なら、スゴい作戦を思いつくんだろうけど、私じゃこれが限界。』
『でも、この方法なら安全にみんな脱出できると思う。何人か反発しそうな人もいるけど、どういうわけかそういう参加者は知り合いが多いの。説得できるかもしれない。』
『あとはみんながみんなを信頼できれば、成功するはずだよ。』

 書き終わると、桃宮いちごはなにかを待つように目を閉じて息を吐いた。言いたいことは色々ある。やりたいことも色々ある。だがそれが自分にはできない。だから、誰かに託す。ルーラーとしての振舞いが強制されているとしても、できる範囲でできることはして見せる。この聖杯戦争に巻き込まれた一人の人間として、ヒーローとして、ちょっと格好つけてみる。それが彼女のファンサービス、自分のことを応援する期待には応えねばならない。
 少しして、「わかったよ、いちごちゃん」という空耳が聞こえた気がした。

「あの……アリスさんは……?」
「そう……そんなうまい話はないと思うわ。」
「アリスさん!」
「でも、考えてみる価値はある。」
「じゃあ……」
「一枚噛ませて貰う。でも……驚いた、主催側から接触してくるなんてね。貴女達も一枚岩って訳じゃなさそうね。」
『私も、詳しいことはわからない。たしか上級AIが三人いて、下級AIがいっぱいいるらしいけど、それぐらいしか。連絡もほとんどメールだし。ほんと、なんで私ルーラーなんてやってるんだろう。』
「ルーラーがいる必要性があった……若しくは、ルーラーが反抗するのも織り込み済み……まあ、考えてもわかるとは思えない。とにかく、貴女が知る情報は全て話して貰うわ。」
『もちろんいいよ。でも長くなるよ?さすがにあなたたちがここにいることを誤魔化すのは難しいと思う。ここにいるってことは、NPCの目にうつらないってことだから、注意されちゃうかもしれない。』

 ルーラーは、むう、と難しい顔をまたする。視線をうろうろとテーブルの上にさ迷わせると困った顔でメモ書きを続けた。

『チョコって双子とかいないよね。どういうわけか同じ人が二人に分裂してたし、今から分裂とかできないかな?』
「貴女馬鹿なの?」
『ちょっと!しんらつじゃない!?』
「分身ならできると思うよ。」
「……え、嘘?」
『ほんと?』
「できるよ、ほらリストにも書いてあるし。」
『あ。』
「なんとなく嫌な予感がするわ……」
「ぐう……その、ちょっとおかしくなるけど、でもパッと見ならわかんないと思うよ。」
『今できる?』
「うん、じゃあやってみるね。」

 某所で黒鳥千代子が呪文を唱える。ややあって、魔力の集結と共に黒いゴスロリを着た一人の人間が現れた。

「あ、できた。」
「なんか……うん……」
『どんな感じ?』
「どう、そっくりだろ?」
「パッと見た感じは……ちょっと顔立ちとか口調に違和感があるかな。」
『うわー、すごい見てみたい。』
「なんだよなんだよ~私に興味あるのか~?ナハハ。」
「この黒魔法ってどこか変な感じになるから、できれば人前に出したくないんだよね……じゃあえっと、分身の方の私は教会に残ってミュウイチゴから話を聞いて、それで、私のスマホでアリスさんのスマホに連絡して。アリスさんもそれでいいですかね?」
「かまわないわ。」
「私もそれでいいぜ。でもさ、残るの私で良いのか?教会って主催側の場所なんだから、一番安全じゃないの?本体が残った方が良くないか?」
「う……言われてみれば。」
『でもバレない?』
「じゃあ語尾に「だぜ」とか付けないようにして、部屋の隅でじっとしておくよ。あ、それとアリスさん、令呪って書けるかな?分身の私には令呪無いみたいなんだぜ。」
「本当だ!よく気づいたね、分身の私。」
「全体的に分身の方が賢いのね。」
「あと語尾を変えてキャラ付けできなくなったときのことを考えて私にも名前がほしいな。ほら、真名知られると呪われたりするかもしれないじゃん?でさ、黒鳥苺とかどうかな?愛称はみゅうで。あと確かめたいことあるから本屋に行きたいかな。」
「分身の私スゴいしゃべるな!?」
『チョー見たい、声だけ聞いてると独り言言ってるみたいでおもしろいよ。スゴい気になる。』



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 ――2327、小野寺ユウスケは涙を見せずにホテルから教会を目指して移動を始める――



「ルキウゲ・ルキウゲ・ゲットーネ!」

 冬木ハイアットホテル最上階。その一室で美遊・エーデルフェルトは、黒鳥苺と名乗ったゴスロリ少女がサイコロを転がすのを見ていた。テーブルに転がる五つのそれは、一つまた一つと赤い丸を上にして止まる。五つ全てが1を出すと一堂から歓声が上がった。

「どうよ、これが黒魔法です。」
「スゲエ!やってることほとんど手品だけどそれはともかくスゲエ!」
「魔法少女って実在したんだな……あっと、魔女っ子だっけ?」
「そこはやっぱり「黒魔女さん」って呼んでほしいかな。」
「そんなハイカラさんみたいな感じでいいの?」

 やいのやいのとやる高遠と色丞を尻目に、美遊は冷静に目の前で起きた現象を分析する。今の魔術は確かにともすれば手品にも見えるものだ。だがその実、彼女にもなにが起こっているのかわからなかった。これが単に魔力で賽の目を動かしたというのならばわかる。だが、魔力の動きは苺――みゅうと呼んでほしいと初めに言われたが自分の名前と被るのでイヤだ――一人で完結していたように感じた。となると、因果を操作したのだろうか?しかしそれでは、彼女一人でゲイボルグのようなことをしていることになる。それともクロのようなタイプか。
 考える美遊のことなどつゆしらず、黒鳥苺は他の人たちにも挨拶してくると言って部屋を出ていき、高遠と色丞はテレビのニュースを話の種に会話を始めていた。どのテレビ局も、今日一日で起きた冬木の様々な惨状を現地からのレポートやあるいは空撮で取り上げている。その中には美遊がバーサーカーにやらせたものもあった。「こんなことになってんのにルーラーは何やってんだよ」とか「ルーラーって本当にいるのか?」などと話す二人を置いて美遊も部屋を出た。

 今さらだが、やり過ぎた、と思った。まさかバーサーカーがあんな大きなクレーターを造るとは想定外だった。あれとランサーの映像で日本のマスコミは持ちきりである。それどころか冬木に住む外国人にも被害が出ていたため外国のメディアや外交官までこの街に来ている。やらせた彼女は知らないことだか震災と同レベルに捉えられているのだ。凄まじいレベルで大事になっていた。

『ルーラーは動くと思う?』
『動くでしょう。』
『だよね。』

 言葉少なにサファイアと念話すると美遊は自分に割り当てられた部屋へと足早に歩む。表情にこそ出さないものの内心では冷や汗が止まらなかった。
 自分でもわかる。度を越してやり過ぎた。こんな状況でルーラーが動かないなどあり得ないだろう。これですら動かないならルーラーというクラスの存在意義がない。といっても美遊自身ルーラーを見たことはないが、それでも、いわゆる常識的に考えて働くべきシチュエーションではなかろうか。それではいったいなぜルーラーの動きが見えないのかという話になるが、美遊にはうまい理由は思いつかなかった。規模が大きくて調査が難航しているとかだったらまず容疑者を問い詰めにくるだろうし、バーサーカーとランサーのどちらの居場所がわからないなどというのは不自然であるし、まさかルーラーがサボタージュしているというのは無いだろうし、そうなるともうどこかのタイミングで決定的ななにかをしてくるぐらいしか考えられなかった。

『ルーラーが動くとすれば、日付の変わった時、かな。』

 どこかで動くとすれば、やはり一日の終わりであり始まりである零時だろうか。というかそれ以外の時間に当てがない。

『討ちますか?』
『ん……待って。』

 やられる前にやるか。物騒な考えの算段を彼女達がたて始めようとしたところで、一人の男と出くわした。ブロックの氷の入ったビニール袋を提げた真田幸村だ。美遊の表情が僅かに変わる。一瞬足を止めるも、直ぐに足を早め彼に近づいた。

「相談したいことがある。」


「という訳なのだが、あさしん、どう思う?」
「教会にカルナか……」

 少しして、美遊は幸村とアサシンの二人と話していた。教会の方にランサーらしき反応をバーサーカーが見つけたらしい。彼女が幸村に話したのはこうだ。
 美遊は自分のサーヴァントがバーサーカーであることを利用することとしたのだ。意志疎通に困難があることを理由にあやふやな情報でも追及されにくくするという魂胆である。そしてこの情報を名目にバーサーカーを現地に偵察に向かわせる。それが彼女の現在の目標だ。
 バーサーカーの能力をしても冬木には何ヵ所か観察が困難な場所がある。今現在はルーラーの所在はわかっていないが、となればそれらのどこかにいると見てよいだろう。そうなると情報的にも怪しいのは教会である。もしもを考えて送り込んでおきたいのだ。
 そしてこのためには、絶対にアサシンの了解を取っておきたかった。同じ感知タイプとして、どの程度その能力があるのかを知っておきたい。ここで嘘と疑われるようならリスクを考えて中止しておくのが吉だろう。
 美遊とアサシンが無表情に見つめ合う。少々の間があってアサシンは口を開いた。

「こちらは特に感知できなかったが、そういうことならば儂が教会まで偵察に行こう。」

 乗ってきた。美遊は口が緩まないように奥歯を噛み締めた。

「わかった。他の人達には私から言っておく。ライダーの部屋はどこだっけ。」
「左手の向かいだ。そっちはやっておく。お主は最上階の連中を頼めるか。」
「まかせて。」

 会話を済ませると部屋を出てゆっくりと歩く。これでいい。アサシンは少なくともこちらを泳がせる程度には疑っていない。そして自分から教会へ向かうと言ってくれたのもグッドだ。他の主従からすれば気配を消せるアサシンを自由にさせたいとは思わないはずであり、それならばバーサーカーを向かわせようとするだろう。ましてや相手はあのランサーとなれば、手負いのランサー達やろくなステータスを持たないライダーが出向くはずがない。セイバーもキャスターもいない今、消去法でバーサーカー以外の選択肢はないも同然なのだ。

 数分後、さっきの最上階に二騎のランサーとライダーのサーヴァントである教授、色丞とアサシン、そして美遊達主従が集まった。やはり美遊の予想通り、バーサーカーが教会へ向かうことを提案され、そうなることとなった。提案した教授はカルナとの遭遇戦の可能性を考慮してとのことだが美遊からすればどうでもよい。ようはバーサーカーを教会へ向かわせられれば良いのだ。

「それでは美遊殿、ばぁさぁかぁ殿、御願い致す。」
「うん。あと、帰りにかき氷機も買ってくるね。」

 バーサーカーを動かす段になってかしこまってきた幸村にそう耳打ちすると、幸村はさらにかしこまった。美遊がさっき幸村に話しかけたのはアサシンと親しいという理由だけでもタイミングよく廻り合ったからだけでもない。この『かき氷』が使えると踏んだからであった。
 実はバーサーカーのマスターである日野茜は黒鳥苺がマジックを披露した少し前からベッドルームに籠っていたのだが、彼女はそれを見逃していなかった。幸村からは仮眠との説明を受けたが、彼女の具合が悪いことは察せられた。もちろん弱味を見せないために本当のことは言わないだろうが、そんなマスターを持つ彼が氷など持っていたらこれはもう熱なりなんなりを疑うほかない。そこで話し掛けたところ、幸村はしどろもどろになりながらかき氷を作ると言い出した。ではその嘘に一つ乗ってあげようではないか、というのが美遊の謀略である。これで彼は多少なりとも自分に話を合わせるだろう……そのあたり下手そうではあるが。

「行って、バーサーカー。」

 とにかくこれでバーサーカーを教会へ向かわせられる。少しでもルーラーが余計なことをしたら殺せる状況に一歩近づいた。



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 ――0001、アリシア・メルキオットはホテルの地下の基盤のコンクリートの上で吸血鬼達に取り押さえられる――



「なんだよこれからようやく1939年だってのに。てかそれだけならランサーだけで良かっただろ。」
「まあ待ちたまえ、独ソ戦マルチは逃げないよ。それに、君は着いてきただろう?」

 通常であればホテルの宿泊客はおろか従業員でさえも立ち入ることが無いであろうホテルの地下の基盤部分。コンクリの床と柱と所々にある耐震装備が目立つそこに、ランサーのサーヴァントのアリシア・メルキオットとそのマスターのいおりはライダー達により呼び出されていた。


 美遊がバーサーカーを教会へ向かわせることを、たまり場となっているあの部屋で聞き、それを与えられた部屋にいるいおりへと伝えに行って少ししてからのことだ、ライダーからここへと呼ばれたのは。といってもアリシア本人はイマイチ状況が読めていない。

「なんだ……?」

 そう部屋に備え付けられたパソコンに向かって呟いたいおりの声に反応して、アリシアも画面を除きこんでそのメッセージを見つけたからだ。

「話がある……か。HoIの話って訳じゃなさそうだな。」

 いおりは、パソコンを使ってライダーとのボードゲームに興じていた。アリシアにはそれが卓上演習に近いものとしか認識はできなかったが、どうやらそれには郵便の機能もあるようだ。画面の端にライダーからと思わしき文字が書かれている。こんなゲームにまで手紙を書けるようにするとは世界は大きく変わったものだ、などと我ながら田舎者っぽい感想だなあなんて思いながら、その文字に込められた意味を理解しようとした。
 文章の内容はなんてことのない、ロビーに降りてきて准尉と合流して、一緒に来てほしいと言ったものだ。ただ気になるところは、あの場で伝えずゲームを介して伝えたことである。

「秘密外交ってわけか。」

 いおりはそう言うと、「OK」とだけ返した。画面が切り替わる。どうやら、ゲームは終わったらしい。

「いいの?」
「まあ……もしもの時は頼りにしてる。」

 そう言うといおりは側に置いておいた鍵をポケットへと捩じ込んだのだ。


 そして今、アリシアは人知れぬ地下でライダー達と対面している。頭の中に聞き覚えの無い少女の声を聞きながら、待つ。いおりは先程伝令として上階へと向かった。ここにいるのは自分を除いてライダー本人と教授、そして准尉。そういえばこの三人をいっぺんに見るのは初めてだったな、とぼんやり思ったところで、ライダーは話始めた。

「さて、本題だ。」

 そして徐に拳銃を取り出してアリシアが止める間もなく。

 一発の銃弾を自分の腹へと放った。

「――そうか、令呪か。」

 二発目の銃弾がライダーの心臓を抉る。誰も、動けない。

「なるほど、これは最高に――」

 三発目の銃弾がライダーの頭蓋に突き刺さり。

「気にくわない。」

 そしてライダーの腕光と共にが降り下ろされて。

 そこに奇跡が起きた。

 怪しい光と共に現れるサーヴァント。響く軍靴の音。たちこめる異様な気配。倒れる少佐。誰かの叫び声。ざわめき。広まる。唖然とするアリシアにはお構いなしに、呼び出された吸血鬼達に一斉にかかられて取り押さえられる。身体中の骨が折れる音を聞きながらただただ困惑するばかりであった。



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 ――――0003、千手扉間は予想外の爆風に戸惑う――



(行ったか。)

 割り当てられた三十三階、スイートの一室。座禅を組み神経を集中させていたアサシン・千手扉間は、ホテルから霊体化して離れていくバーサーカーのチャクラを感じ取ると更に意識を集中させた。

 美遊からカルナ察知の相談をされて以来、扉間はバーサーカー主従の動きに注意を払っていた。扉間には半ば確信があったのだ、美遊達がなにか仕掛ける気であると。
 きっかけは、美遊の嘘である。扉間は自分の感知には自信がある。もし自分が霊体化して更に気配を消していても勘づけるレベルで、このホテルに来てからは気を張っていた。このホテルの人間がカルナと通じている可能性がある以上、それは当然の備えであり、特にカルナのチャクラは細心の注意を持って捜索していた。故に、教会にカルナがいたなどというのは嘘とわかる。
 だが問題は、なぜ美遊が嘘をついたかだ。教会へバーサーカーを向かわせることが目的か、それは前段階で真の目的は別にあるのか。そもそもバーサーカーの感知の方法もわからぬ以上単なる誤認というのもあり得る。そして自分が橋で戦ったバーサーカーのマスターに成り済ましたように、誰かがカルナに成り済ましている可能性もあった。そしてその場合は、対カルナで共闘できる可能性も……
 それらもろもろを考えた結果、扉間はバーサーカーを教会へ向かわせることとした。一応美遊の手前自分が行くとは言ったが、もちろんその気もなければそうなるとも思っていない。今のホテルにいるサーヴァントで二人しかいない感知能力持ちの片方が、もう片方で気配も消せる方を外に行かせようとすれば、警戒されるに決まっている。これではいそうですかと行かせよとする人間はよほどの馬鹿か狂人だ――もっともあのライダーなら進んで自分を行かせかねないという一抹の不安はあったが。

 ともかく無事バーサーカーが教会へ向かうこととなり、扉間はそれを監視する展開となった。ここまでは扉間が読んでいた展開である。だがその事に安堵する間もなく、絶体絶命の苦境に立たされることになるなど、このあと三十分も経たずにそうなるなど、全く予想だにしていなかったのだ。



(来客か。この感じ、セイバーのマスターの黒鳥苺だったな。)

 バーサーカーは教会まで一キロほどの距離で接近を止めると、徘徊を始めていた。周囲を捜索しているのだろう、とその動きの理由を考察しているところに、扉間の網に一つの反応。部屋の玄関とも言える扉が開き、黒鳥苺が入ってきたのだ。扉間は知らぬことだが、黒鳥苺はホテルにいち早く溶け込もうと他のマスター、特に同年代のマスターを中心に挨拶回りをしていた。同じ学年の美遊に聖杯戦争への覚悟と精神年齢と教養から軽くあしらわれた彼女は、ついで年の近そうな扉間のマスターの九重りんの所へ来たのだ。ちなみに黒鳥苺は黒鳥千代子の分身である。

「よう九重!ここのえだっけ?まあいいや、遊びに来たぜ!」

 一声で、(あ、こいつ馬鹿だ)と内心で思ったが、集中を乱してはいかぬと扉間はバーサーカーへ注目する。「りんって名前の人と今日はよく会うな~。実はさ、私深山町の方から来たじゃんそれでそっちにも遠坂凜って人がいて――」などと捲し立てる声が聞こえたが、扉間はそのチャクラだけに集中する。次第に声は気にならなくなっていった。気配感知の網はバーサーカーに偏重しているが美遊やみゅう(改めて考えるとなんでこんな愛称で被るんだ)やりんの気配を押さえておく程度は造作ない。心を読むまでには至らぬがそれでもその所作は壁を隔てていようともわかるものだ。


 故に、隣の部屋から鈍い音がしたとき、扉間は一瞬何が起こったのかわからなかった。


「なんだ、マスター、何があった?」


 音がして一秒と経たずに駆けつけた、はずだ。しかしその場の光景は扉間の予想とは違っていた。あるはずのものがいない。解!と幻術を解いてみても状況は変わらない。故に聞いてしまう。

「黒鳥苺……みゅうはどうした?」

 あの少女のチャクラは常に感知していた。故に、あの音の前後に特に目立ったなにかをしたとは考えられない。立ち振舞いも精々下忍程度のあれが室内に隠れていたところで火影たる自分が見逃すはずもない。しかし瞬身なり口寄せなりをしたとも思えない。ではなぜ、なぜ黒鳥苺は消えたのか?
 今いる部屋を含めた付近に焦点を当てて感知していく。しかし気配のけの字もない。そこでりんから話を聞き出そうとして、ようやく異変に気づいた。

 りんは、固まっていた。物理的にだけではない。ともすればこの距離でも感じ取れなくなってしまいそうなほどに、気配が静止していた。
 扉間は、この目をしたものを知っていた。戦災孤児の目だ。心が死んでいる。まるで幻術にでもかけられたかのようであった。何があったか聞き出そうとして幻術をかけようにも、これではうまく決まらない、とりんの頭に手を置きチャクラを流し込みながら思った。

「消えた。」

 ポツリと、唐突にりんは声を発した。その姿は傀儡のようであった。「そうか」と扉間は返した。

「どうしたら消えた。」
「突き飛ばしたら消えた。」
「なぜ突き飛ばした?」
「お母さんのことを悪く言われたから。」

 「そうか」と扉間は言うと。りんに顔を洗うように指示を出す。こくん、と頷き素直に化粧室へと向かうため部屋から出ていったのを確認して、扉間は頭を抱えた。

 端的に言ってもう終わりである。

 恐らく子供のけんかのようなことが起こったのだろうが、状況と結果が最悪だ。おもいっきり仲間割れである、反逆である裏切り者である。というか結局黒鳥苺はどこに行ったのか。まさか分身だったという幸運な展開だろうか。その場合、黒鳥苺は死んでおらず、りんが殺そうとしたという情報だけが本体へ行く。じゃあやっぱり本人で最後の力を使って扉間にもわからぬ方法で逃げたという可能性もあるが、それもそんなやべー奴を敵に回したということで、つまりもうダメダメって感じである。
 というか、キャスターや教授の陣地中で殺ってしまった以上、隠しようも誤魔化しようもないのではないか?という嫌な発想が浮かぶ。それよりも、セイバーにはもうバレているのではないかという恐れもある。

 顔を洗って戻ってきたりんを適当にタオルで拭き、頭の中に響く自称ルーラーの声を聞きながら、扉間、迷走。
 色々考えたがどうにもにっちもさっちもいかない。そうこうしている間にセイバーはホテルに戻りつつある。一秒ごとに生き残れる可能性が潰えていくのを感じ、明らかにテンパった表情を浮かべる扉間だが事態を打開する名案など何も思い浮かばない。

 そしてついには、扉間の視界は真っ暗になった。



(ようは全員殺せばよいのだ!!)



 ここで扉間、逆転の発想。誤魔化せないのなら、殺せばよい。殺っちゃったことはしかたない、殺り遂げようという発想である。

(黒暗行の術を使う手間が省けた。)

 この時の扉間は知らぬことだが、彼が監視していたバーサーカーが教会を消し飛ばした余波で起きた停電は、彼に活路を与えた。音も立てずに速やかに走り出す。第一の標的は、向かいの部屋のライダーのマスター。まずはこいつを殺す。チャクラの感じからして子供なので殺すのは簡単だ。そしてこいつを殺すと連鎖的にライダーが死にそのサーヴァントの教授も死ぬだろう。これでまず一つ陣地を無力感する。
 停電に戸惑う幼女を見つけると一気にチャクラを流し込み幻術を仕掛ける。目撃者は皆殺す気なのだ、この際全力で行く。令呪を使ってライダーを自害させるように指示すると簡単に従った。それでいい。これでまず一組。次は色丞と美遊だ、と移動を開始しようとしたところで、アサシンははたと気づいた。目の前には、令呪のショックで昏倒した幼女。もったいない、そう思った。

(マスター同士ならNPCよりは良いだろう。囮役には最適だ。)

 口寄せ・穢土転生。使うのならば、今でなければいつだというのだ。
 甦らせるは、三谷亘。棺桶からふらりと現れたそれの頭に起爆札をぶちこむと黙って部屋から出てエレベーターを探してそちらに向かうよう指示を出す。これでよい。幸いにも色丞と美遊は一団となって行動している。日野茜やマイケルも行動を共にしているようだが、この際めんどくさいので全員死んでもらうことにしよう。ついでにエレベーター近くにいる高遠も殺せると良いのだが、まあそれは天に祈るしかない。

「――問題ない。俺の言う通りにすれば、なにもな。」

 部屋を出てから十五秒後、扉間はりんのもとへと戻っていた。セイバー、キャスター、バーサーカーはいずれもこちらに戻りつつあるが、問題ない。あと一分でそいつらのマスターを皆殺しにする。穢土転生による爆弾にはなれているのだ、それが子供であるからといってしくじるような真似はしない。爆破のタイミングに合わせて水遁で防ぎ、りんを連れて脱出する。これが考えうるなかでは最上とは言えぬがほどほどの良策である。

 扉間はりんを連れてエレベーターへと向かう。さすがに、自分達だけ行かないのは怪しまれるだろう。少しは爆発に巻き込まれる必要がある。それに、少し冷静になるとホテルを駆け上がってくる大勢のチャクラが気になった。状況的には、ライダーの置き土産か。無駄な足掻きだが厄介だ。
 そうこうしているうちに、穢土転生で甦らせた三谷亘がその場に近づいてきた。うっかり令呪のついた腕を置いてきてしまい少しもったいない気もしたが、しかたない。あの令呪で雷管代わりとしよう。多少爆破の威力が強まるが、まあ誤差である。

「サーヴァントではないようだが……離れていろ。」

 そう言うとしれっと距離をとる。これでよい。ついでに手負いの幸村も殺しておこう。そう思い、密やかにチャクラを練り。

(子供でやるのは久々だが――喝!)

 そして扉間の計画通り、ホテルに爆炎が起こった。

(水遁・水障壁!!)

 吹き飛ぶ人間達には目もくれず、襲い来る熱風を水遁で防ぐ。だがチャクラが足りない。幻術と穢土転生で既に空だ。しかも爆風が予想より明らかにデカイ。

(ぬ、ぬかった!)

 あわてて近くを流れる水道管から水を引っ張ってきてなんとか誤魔化す。既に連れていたりんが衝撃で気絶しているが、まあ誤差である。なんとか炎を耐えきり、生き残っている連中をどうするかと考えながら息を吐く。とにかく、第一目標は達成されたのだ。あとはどさくさに紛れて逃げようがとどめを刺そうが自由である。そう思って足を一歩踏み出し、ホテルに爆炎が起こった。

(なぜ二回も――ぐおおおお!」

 とっさにりんを水牢の術で覆いながら、扉間、再度混乱。窓の外を一人の人間が落下するのに気づく余裕は全くない。

(やりやがったな……何が同盟だ!)

 毒づきながら落下していくその男。すっかり影が薄くなっていた、アーチャーのワイルド・ドッグ。二度目の爆破は彼のものであった。
 彼の代名詞とも言える爆破スキルは、マスターがいなくなってはじめて使える。彼としてはマスターを謀殺するような輩と同じ場所にいたいなどとは全く思わない。故に、いつものスイッチでいつも通り爆破して逃げることにしたのだ。もちろん扉間はそんなことは知らないが。


 爆破の衝撃から立ち直った頃には、周囲をサーヴァントの集団に囲まれている。扉間は両手を上げて床に伏せるしかない。冷たい床の感触が印象的であった。



 ■  ■   ■    ■     ■      ■       ■        



 ――0149、九重りんは自らに油を駆け火をつける――



「だから!なんで私が犯人なんですか!!」
「偶然病院で爆弾騒ぎに巻き込まれてまた偶然ホテルで爆破事件があったから。」
「割りと良く爆弾って見つかるじゃないですか!冤罪ですよ!!」
「偶然も二つ続けば必然。もう言い逃れはできない。」


 そして現在、第三陣のマスター達の犯人探しは佳境に入っていた。
 というか、色丞や高遠といったまともなマスターは、みなカルナ戦で令呪を使いぶっ倒れている。かくいう日野茜も先程ついに令呪を使い、やはり立っていられない状況だ。だがそれだけではない、脳出血でろれつも怪しくなってきておる。

「なぜなら、あなたと一緒にいた九重りんがさっき死んだから。」

 美遊の言葉に、茜は張り上げていた反論の声を止める。その様子を見て、美遊はここでけりをつけることを決めた。

 つい数分前のことだ、九重りんが焼身自殺を試みたのは。というか美遊がやらせたといえばやらせたのかもしれない。アサシンが犯人ということにできないかと思い、サファイアを用いて彼女に暗示をかけて火事の一つも起こさせようとしていたら突発的に自身に火をつけたのだ。いくらサファイアの暗示とはいえそんなお気楽に人一人殺せるものでないことは美遊もわかっていたためドン引きしているが、こうなったらもう茜に罪を擦り付けるしかない。りんが焼身自殺しようとしたそのとき、近くにいて動けたのは茜と美遊しかいなかったので、どうあがいてもこの二人が凄まじく怪しい状況であった。

 美遊は唾を飲む。先程、カルナ撃破と教授から知らされた。これはヤバイ。かなりヤバイ。そう思い焦って暗示をかけようとしたらああなったのでどうしようもないのだが、やはりヤバイ。ここでなんとか彼女を犯人にしたい。

「貴女は彼女の仲間だったはず。なら、自殺の兆候もわかったはず。それなのに貴女は止めなかった。これは、紛れもなく、殺人。」
「そ、それは!それは……」
「貴女を犯人です。」

 無茶苦茶言ってるな、と美遊もサファイアもなんなら周りにいる吸血鬼もみんな思ってるが、誰も指摘しない。これで落ちるようならまあそれはそれでよいのだ。彼女を犯人扱いすることで真犯人の反応を見たいと言うのが教授達の考えだが、美遊からすればそんなことはどうでもよい。ここで仕留めないと自分用ヤバイのだ。

 かくしてホテルの同盟は一気に空中分解する。日野茜の病状が悪化し危篤状態となったのはこれから少ししてのことである。