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(失敗だったな。)

 心の中でそう呟くと、キャスター・兵部京介は霊体化をといた。

(これであの二組に僕は悪印象を持たれただろう。とくにあのワカメ頭のほうはしつこいタイプかな。)

 その姿は彼が色丞、間桐の二組の主従を置いて逃げ出したときと同様に金髪に赤い服。孫悟空を思わせる姿だ。
 雑居ビルの非常階段に現れた彼は、錆の浮いた踊り場から足を階下へと進める。金属音と鉄の臭いを感じながら。

(一応、火種は蒔いた。)
(マスター達にはそれぞれ別のクラス名を見せた。だが。)
(できたのはそれだけ。孫悟空が嘘だってこともサーヴァントにはバレてる可能性が高い。クラス名の齟齬が起きても影響はないか。)
「もう少し、うまく振る舞えると思ったが……嘘はつくものじゃないな。」

 足音が金属の甲高い音からコンクリートの低い音に変わる。階段のあったビルの一階は蕎麦屋だった。さすがに日も出ていない早朝なので開店はしていないが、微かに物音が聞こえてくる。仕込みのためか、職人は起きているのだろう。

(夜明けが近いな。)

 兵部はその姿をマラソンランナー風に変えた。やはり、孫悟空では目立ちすぎる。自身が発する魔力を極力抑え、ランニングを初めようとした。

『キャスター。』
(ここでボスからのお呼び出しか)

 キャスターの脳内に声が響いた。彼のマスターのイサコのそのボーイッシュな声は、普段なら耳に心地のよいものだろうが、今のキャスターには自分への非難の意志が多分に含まれているように思えた。

(いたずらをして叱られる子供の気分だ。)

 今までマスターが黙っていたのも、ここで声をかけたのも、自分の行動の評価をし、それを下すためだろう。自分の不甲斐なさをなじるか、失望を伝えられるか。悪い想像ばかりが頭を巡るが、期待させておいてあれでは仕方ないとキャスターには思えた。

(最低限度の仕事はしたつもりだけど、任せろなんて言ってあれじゃあね。)
『キャスター。』

 脳内に再び声が響く。これが電話なら居留守が使えるが念話ならそうはいかない。

(逃げられないな。)

 軽く意を決すると、キャスターは念話に応えた。



「で、ここが冬木大橋か。」

 数分後、キャスターは冬木大橋の上空数百メートルにいた。
 彼のマスターから伝えられたのは二つ。

 ーー一つ、冬木大橋を偵察すること。
 ーー二つ、軽食を買ってくること。

(顔を合わせたくないから遠ざけてる、てことかと思ったけど。)
『次は橋の下を見て。』
『了解。』
(その割には声をかけてくるし声色も普通なんだよね。)

 キャスターは橋のすぐ下へテレポートする。もちろん、霊体化している彼に気づくものはいない。現場に船で近づく消防士らしき姿を尻目に、橋の断面へと近づく。

(まあ、この状況だし、そういう私情よりも戦争を勝ち抜くために情報を集めるのを優先する、ていうことだと思っといたほうが精神衛生上良さそうだ。)

 ぼんやり考えながら実体化した(もっともその姿を捉えるのは困難だ)キャスターは断面を仔細に見ていく。視覚を共有している以上、余所見も出来ない、などと頭の片隅で思いながら一方の断面を見終わるともう一方の断面へと向かう。

(問題はなさそうかな。ちょっとペースが早いかなって思ったけどマスターなら気にせず言うだろうし。)
(視覚を共有するって、でも問題あるよな。)
(サーヴァントが何を見てるかをマスターはわかるってことか、プライバシーなんてないな。ある意味刑務所より不自由だ。)

 とりとめもなく考えながらも、視線だけはしっかりと向け続ける。
 少しして、『ここはもういい』と念話が送られてきた。調査はこれで終わったようだ。

 『何かコンビニで買ってくるよ』と念話を送ると『頼んだ』とだけ短く返ってきた。

(……センスが問われるな。)

 キャスターはバレないようにため息を吐くとまた霊体化した。



 がさり。
 一人でテレビのニュースを見ていたイサコのそのホテルの一室に、ビニール袋の独特な音が聞こえた。「早かったな」と言って首を後ろに向けるより早く彼女のサーヴァントは向かいのソファへとテレポートする。

「こんなことで待たせないよ。」
「そう。」

 軽く返事を返す。適当におにぎりを掴んで取り出すとイサコは、はむ、と食べ始めた。

(あれが、サーヴァントか。)

 パリパリとした海苔の音とテレビのアナウンサーの声が部屋に響く。一定のテンポで食べ進めながら、イサコはうちへうちへと、意識を向ける。

(変態とイケメン、確かにどっちも、普通じゃない。そしてどちらもキャスター。)

 すっ、と目の前にお茶のペットボトルが差し出された。その事に数秒たって気づくと「ん」と生返事をして受け取る。
 500mmをあおりながらも意識は更にうちへと潜る。

(そして、あれが)

 あおったお茶がみるみる減ると気圧でペットボトルがへこんだ。それを気にせず、飲み下す。

(私が、ーーすべき、敵。)

 「ぷは」と息を吐き、大きく吸う。頭に浮かび離れないのは、二人の青年の姿。彼女が始めて遭遇した、自分以外のマスター。
 テレビの番組が変わったのか、部屋に響くアナウンサーの声が変わった。トップニュースは、冬木大橋の崩落。誰かがスマホでとったのか、少々画質の荒い映像で橋の崩落の瞬間が画面にテロップつきで映し出される。

「そして、聖杯戦争はもうはじまってる!」

 気圧によるへこみから解放されたペットボトルはイサコの小さな手で握りつぶされた。



「叱られるとか考えてた自分がバカらしいな。」
「?それはどういう意味?」
「いいや、深い意味とかはないよ。」

 キャスターは手にしたサンドウィッチを一口食べて、飲み込むと「ただ、マスターのほうが本気でこの聖杯戦争を考えていると思ってね」とだけいった。それ以上の言葉をイサコが目で求めても、視線に気づいていません、というそぶりだ。

(誉め言葉、なのか?)

 カップの巨大なティラミスをハイペースでパクつきながらイサコは言葉の意味を考えようとして、やめた。そんなことはどうだっていいことであり、重要なことは他にある。

「キャスター。」
「……これからのことかい?」

 イサコ同様に巨大なプリンを食べようとカップの蓋を開けたキャスターは、その視線からマスターの意思を察した。
 プラスチックのスプーンでプリンの表面を三当分すると「長期的な方針は三つある」と話を続けていく。

「プランA、ひたすら隠れる。」
「一ヶ月もあるんだ、そのうち嫌でもサーヴァントは表に出てくる。一日目から橋が落ちるほどの戦いが起きるくらいなんだから間抜けはどんどん炙り出されていく。」
「その場合、私たちは何が必要になる。」
「絶対条件は僕達以外の全てのキャスターの脱落。防御を固められれば、戦力が互角でも負けるのは我慢できずに手を出したほう。」
「プランBは。」
「Bは同盟。今の僕達の二番目位の優先順位のものだ。何人サーヴァントがいるのかは知らないけど、一人より二人、二人より三人だ。」
「問題はどの程度まで相手を信用するか、こちらの情報をどこまで出さずに相手から情報を聞き出すか、そんなところ?」
「正解。そして一番の問題点は何が問題になるかが事前に予想できないこと。想定外の事態は必ず起こるものだからね。」
「最後のCは?」
「Cは、キャスターのC、キャスターらしく、僕のヒュプノを最大限に利用する。」
「前に言ってた、街全体を催眠に嵌めるってことか?それはーー」
「違う違う、それはあくまでもできることさ、やることとは違う。それに催眠なんてものは少人数だからこそ効果を発揮するものさ。さすがに他のマスターを催眠にかけられる保証がない以上、街全体にかけるのは悪手だよ。」
「だったら、いや……人数をしぼる、一定の人間だけ?この方針の目的は情報収集と操作、それであってる?」
「主なところはね。序盤の動きとしても悪くないだろ?」
「情報収集……なるほど。」

 イサコは食べ終わったティラミスをテーブルに放ると寝室へと向かった。と思えばすぐにポーチを持って戻ってくる。

「キャスター。」

 イサコはポーチの中身から紙束をテーブルへと広げた。

「どこに潜り込む気?」

 広げられた紙束ーーキャスターが用意した名刺から、キャスターは一枚のカードを指し示した。

「聖杯戦争で再現された日本に縦割り行政があるかは不安だったけど、そういう不都合なところはしっかり再現されてるのは予選でわかった大きな収穫かな。色んなところに潜り込んだ甲斐があったよ。」
「警察、と最初は考えてたんだけど、鉢合わせるかもしれないからね。似たよう動きのできる事故調ーーこれにしたよ。」
「ITARDA。交通事故総合分析センター。いわゆる天下り先の一つの公益財団法人だ。」



【新都、冬木ハイアットホテル最上階/2014年8月1日(金)0500】


【天沢勇子@電脳コイル】
[状態]
健康、満腹、百万程度の現金と偽造された身分証明書と名刺の束、覚悟未完了、それでもこの聖杯戦争を逃げずに戦う。
[残存令呪]
3画
[思考・状況]
基本行動方針
優勝してお兄ちゃんを生き返らせる。
1.キャスターを役所に潜り込ませる……?
2.キャスターの行動中は家で陣地作成の続きを行う。
3.家の陣地作成が終わったあとはホテルや他の場所で陣地作成。
4.さっきのマスター達(色丞組、間桐組)は……とりあえず同盟はできそうにないか……
5.同盟相手を探す(三騎士、バーサーカー、ライダー、アサシンの順で妥協するかも)。
[備考]
●所持金一万円。
●キャスターの給料で購入したもののうちスマホは引き継げましたが、それ以外はキャスターが持っていたためか全て持ち込めませんでした。
●自宅は深山町にあり、そこにセンサーを張り巡らせました。家への出入りを察知できます。
●予選の時に新聞やテレビや掲示板を見てそれなりに調査したようですがなんの成果も得られなかったようです。
●冬木ハイアットホテル最上階をキャスターに借りさせ、一室を簡素な拠点化しました。
●キャスターへの信頼を深めつつあります。

【キャスター(兵部京介)@The Unlimited 兵部京介】
[状態]
筋力(30)/C、
耐久(30)/C、
敏捷(150)/A++、
魔力(50)/A、
幸運(20)/D、
宝具(40)/B
健康。
[思考・状況]
基本行動方針
マスターの安全第一。まずは安全な拠点作り。
1.この三択、どれがいい?
2.マスターの安全第一。危険なら即撤退。
3.調査後家で陣地作成の続きを行う。
4.家の陣地作成が終わったあとはホテルや他の場所で陣地作成。
5.さっきのマスター達(色丞組、間桐組)とはなるべく会わないようにしないと……キャスターなら同盟を組む意味ないしね。
6.同盟相手を探す(バーサーカー、ライダー、アサシン、ランサー、アーチャー、セイバーの順で妥協するかも)。
[備考]
●自宅は深山町にあり、そこに陣地を作成しました。内部での行動は外部から察知できず、また一部の場所が迷路のようになったとか。
●予選では出版社でサラリーマンとして働いていたようです。少なくともその会社に他の組はいなかったようです。
●冬木ハイアットホテル最上階を借りて、一室を簡素な拠点化しました。
●イサコへの好感度が上がりました。