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 名前の由来に反して冬でも比較的温暖な冬木だが、夏となればやはり暑い。
 バブル期には集客を見込んで地方でも指折りの大型プールが新都に造られたほどだ。赤字続きで市の財政を傾けたりもしたが、それでも需要はあるため九十年代に民営化してからは客足は好調である。ローカルテレビではバラエティー番組のロケ地としても度々登場しインディーズバンドのPVにも出てきたことから知名度も高い。街の主要なレジャースポットといえるだろう。

 そのプールからも歩きでいける距離にあるとある一軒家では、住人がプールの夢を見ていた。もっとも、夢見るといっても玄関先で酔っぱらいのようにねっころがり、額に汗を浮かべるという、どう見ても安眠とは程遠い状況だ。何せ気温は三十度を越えている。南中した太陽はレーザーのような強烈な日光を冬木の街に直角に照射していた。

 やはり寝苦しいのだろう、全身に汗をかいた住人は寝返りをうった。年令はまだ小学校に上がったばかりか。乱雑にはだけた服からは玉のような汗をかいた肌が見える。この熱中症のようになっている幼女が聖杯戦争の参加者、マスターの一人である高遠いおりである。



 いおりは聖杯戦争での初陣を辛うじて勝利で飾った。

 無差別に人を襲う凶悪なバーサーカー・サイト。圧倒的な力を持ち恐るべきマスターを持つバーサーカー・ヘラクレス。どちらも彼(女)のサーヴァントであるランサー・アリシアより歴然と格上の相手である。それら二騎のサーヴァントと連戦をして奇跡的な勝利をおさめた。

 しかし払った代償も大きかった。ランサーはまさしく満身創痍であり、魔力の消耗も激しい。加えて彼女の情報も他の主従に流れてしまっている。それがこれからの戦いにどう響いてくるかははっきりとはしないが、マイナスになるのは間違いないだろう。
 そしていおり本人にも大きな影響があった。既にその手からは令呪が一画失われている。それはつまり、切り札を一つ失ったことに他ならない。聖杯戦争が最長一ヶ月のスパンで行われることを考えれば、初日の数時間で一画失ったことはこれから執れる戦略戦術の幅が大きく狭まったと言って語弊はないだろう。

 だが一番の問題は、やはり魔力の消費だ。ランサーの燃費は良い方ではあるし召喚の際の魔力や令呪による魔力もある。しかし、それでも宝具を使えば消耗は避けられない。そしていおりには、少しの消耗でも大きな問題となった。いおりは魔力を持たないからだ。

 そもそも、いおりの体は本来の物ではない。いおりがまだ彼、男子高校生であったときには、もしかしたら魔術回路はあったのかもしれない。
 だがいまやその体の大部分は作り物だ。それも科学技術の産物足る生体部品によってだ。そこに魔術の要素が入る隙間などあるだろうか。

 故に、いおりはごくわずか、聖杯によって供給される量しか純粋に魔力としてランサーに渡せない。それを越えて魔力を供給しようとするならばそれは自分の心体を犠牲にする以外に道はない。そして今まさにいおりはその身を知らぬ内にすり減らしていたのだが、幸いにもいおりは目覚めようとしていた。

(なんだ……気持ち悪い……)
「ーーーー」
(……あれ、『暑い』って言った……つもりで、声が……)

 それは暑さのおかげだった。ビル風に吹きさらされる屋上に薄着で居たときとは違い、日光の照りつける昼間となれば直射日光を受けずとも体感温度は上昇する。まして風のない室内となれば外気よりも温度は上がる。エアコンのない締め切った家はまさしく蒸し風呂でありそこは人を死に至らせる環境なのだ。その環境の変化は子供の体になったいおりには甚大なものであり短い人生経験からでもこのままでは生命の危機が致命的なものになると脳が判断したのである。
 しかし、その判断は英断ではあったがやや遅かった。魔力の減少による体調の悪化というのは経験がないからか、体の消耗はかなり大きい。何より喉が声を出せないまでに乾ききっていた。

(なんだ……なんか力が……これ……抜ける……)
(……そうか!ランサー……アリシアに魔力……渡してるから……)
(ちょっとまてこれどうやって止めるんだ?!ヤバい、めちゃくちゃ気持ち悪い……熱か?声が出ない……)

「ランサー……頼む、起きて……起きてくれ……」

 かすれた声をいおりは絞り出すもそれは余りにか細い。アリシアの立てる寝息にかき消されるほどの声では望んだ結果など得られない。

「ていうかなんで霊体化しないで寝てんだ……おーいランサー、アリシアー、アリシアさーん!?」

 いおりは強行手段に出た。くらつく頭と体を気合いで動かすとランサーを揺さぶる。しかし起きない。相手はサーヴァントである。

(くそッ!このままじゃ死ぬ!体が干物みたいになっていってる……イヤだ、こんな死にかた……なんだよこのしょっぱい死にかた……小学生助けてトラックに引かれて生き返ったと思ったら小学生になってて干物みたいになって死ぬって……もう小学生関係ないじゃん……)
「ぅ、ぅうおおぉっ!アリシア起きろ!」
「痛あああぁぁッ?!??!」

 ついにいおりは拳を降り下ろした。それは狙い済ましたようにアリシアの折れた肋に突き刺さる。小学生の手でもわかる嫌な感触とアリシアの絶叫を感じながらぐったりといおりは倒れ伏した。



「はい、というわけでこうなりました……」
 誰に言うともなくいおりは夏の暑さでぬるま湯となった湯槽に浸かって呟いた。風呂の蓋には1.5lのジュースのペットボトルが置かれシュワシュワと音を立てている。それは未開封のものだったのだが既に半分ほどの量にまで減っていた。

 あれからマスターの惨状に驚いたランサーによって介抱されたのだが、あいにく召喚されて日の浅いランサーに現代文明の利器は些か難しく、「とりあえず冷たい物と水浴び」ということでこのようなスタイルになったのだ。

「いやぁ、ゆっくり体冷やすって意味ではあってるかもしれないなわりかし。」

 そう言うとぐったりと首の力を抜いて背中を預ける。浮き上がった足をチャプチャプとしながらぼんやりと天井を見上げた。

「寝すぎたからかな……ぜんぜん眠くならない……動きたくないけど。」

 ポツンとしばらくして呟く。頭の中では色々な光景がフラッシュバックしているが、いちいち考える気にはならない。「あの白い子生きてるかなー」とか「明日の昼かー」などと時々口にするも深く考えを巡らせようとは思わなかった。
 いおりは頭の中の歯車がギシギシと音を立てているような気がした。錆び付いて動く度に金属の粉がこぼれ砕ける光景がフラッシュバックの合間合間に覗く。

「あー……今日は早く寝……付けないな、どうすっかなー……」

 ちゃぽんと頭まで水面に沈めるといおりは湯槽から上がった。



「お、涼しい。」
「あ、マスター!じゃなくて……イオリ。」

 水風呂から上がったいおりは涼やかなリビングに驚きの声を上げた。先ほどはエアコンがなんなのかよくわかっていないような感じであったのに今や部屋はキンキンに冷えている。

「その……大丈夫?病院で見てもらったほうがいいと思う。魔力とかそういうのはわかるとは思わないけど、それでも……」
「あー大丈夫!ちょっと日射病?みたいになったけど、体冷やして水分補給したから。」

 心配そうに声をかけるランサーに軽く手を振りいおりは返事をした。ひらひらと手をさせてランサーに笑みを向ける。確かに体調は悪いし正直病院に行こうかとも思ったがランサーに余計な心配はかけたくなかったし外に出る気にもなれなかった。それよりも、といおりは鼻をひくつかせる。入ってきたときから胃袋を刺激する何か良い匂いが漂っていた。

「ラ、アリシアって料理できたのか。」
「主婦だったからね。これ……冷蔵庫でしょ?あんまり食材が無かったから大したものは作れなかったけど、卵のリゾットを……」
「おー、美味しそう!」

 いおりとしてはそこまで長風呂していた気はないのだが、あれから一時間以上たっていた。その間に手際よくランサーは慣れぬキッチンと家電、そして食材に悪戦苦闘しつつ調理を済ませていた。それが、今フライパンから皿へと移される。

 卵のリゾット。
 スライスチーズは細かく切られていた。トマトソースがしつこすぎないように煮込まれ、玉ねぎとベーコンが赤く黄色い波の中に浮かんでいる。ふわりと香るのは牛乳と醤油だ。あまり同時に使われることのなにこの二つの液体だが、ランサーはたんぱく質と塩分という面だけではなく味わいの相乗効果にも目を向けていた。
 ことん、といおりの前に置かれたそれは消耗した体が栄養を補給すべく早急に接種しようとつばを大量に供給する。
 「いただきます!」と叫ぶといおりはれんげを手にがっついていた。熱い。粘度を持ったそれが舌にまとわりつき、灼く。それをジュースで飲み下す。すぐにれんげを口に運ぶ。反復運動は終わらない。れんげは皿と口とをリゾットを乗せあるいは乗せるために行き交う。

(そんなに食べられるなら、大丈夫かな。)

 ランサーは黙っていおりの首にかかるタオルで額の汗と水滴を吹いていく。現在のいおりはパンツ一枚にタオルを引っかけているという有り様だ。頭も乾かさずに出てきたのだろうが、このままでは風邪を引いてしまう。
 せめて服を着てから食べたら、と言おうとして、やめる。わしゃわしゃと頭を拭いても何事もないようにいおりは食べ進める。
 それを見て苦笑しながらランサーは頭を撫でた。



【新都・高遠いおりの自宅/2014年8月1日(金)1309】

【高遠いおり@一年生になっちゃったら】
[状態]
魔力消費(極大)、衰弱(小)、当分寝なくていい。
[残存霊呪]
2画
[思考・状況]
基本行動方針
死にたくないし死なせたくない。
1.食う。
2.サーヴァントってスゴすぎるだろ‥‥
3.バーサーカーのマスター(イリヤ)が心配。
4.あの娘たち(茜と幸村)は逃げ切れたよな?
5.明日の正午、冬木ホテルに言ってアサシンと話す?
[備考]
●所持金はほぼなし。あっても幼稚園児レベル。
●ランサーの名前がアリシア・メルキオットであること以外は世界大戦の英雄だということしか知りません。もちろん出身世界が違うことには気づいてません。
●ランサー(幸村)、バーサーカー(サイト)、アサシン(扉間)、バーサーカー(ヘラクレス)のステータスと一部スキル、宝具を確認しました。


【アリシア・メルキオット@戦場のヴァルキュリア】
[状態]
筋力(5)/E、
耐久(5)/E+、
敏捷(10)/D+、
魔力(10)/C+、
幸運(50)/A、
宝具(40)/B
全身の至るところを骨折・打撲、魔力消費(大)、魔力不足によりステータス低下、魔力供給がほぼストップ。
[思考・状況]
基本行動方針
まだ良くイオリのことを知らないけれど、マスターを生きて元の世界に帰す。
1.今はこのまま……
2.もっとイオリ(マスター)のことを知りたい。
3.できればランサー(幸村)とそのマスター(茜)にもう一度会って同盟を組みたい。
4.アサシン(千手扉間)とも話をしたい。
5.バーサーカー(ヘラクレス)とそのマスター(イリヤ)の安否が気にならなくもない。
[備考]
●マスターの本名が高遠いおりだと思っています。また六歳の女の子だと思っています。
●バーサーカー(ヘラクレス)に半端な攻撃(Bランク以下?)は通用しないことを悟りました。
●傷を若干治癒しました。
●現代の家電が使えるようになりました。