アサシン・千手扉間はランサー達と別れてからマスターである九重りんの元へ向かっていた。

 彼としては、ランサー達の話に耳を傾ける、もとい盗み聞きをすることも考えた。だが、まがりになりにも同盟相手にそのようなことをするのは今後のことを考えれば得策ではない、それにあの二人からは有用な情報は聞き出せそうにない、そう判断してマスターの元に一度顔を出すことを選択した。まだ起きてはいないと思うが寝顔からだけでもだいたいの体調は察せられる。それにもし起きていれば軽くランサー達のことを説明しておける。
 もっとも、アサシンが部屋に戻るのはその為だけではない。そこにはあるアサシンの懸念があった。

(……みな寝ておるか。)

 部屋の前で立ち止まる。本当は霊体化することも考えていたのだが、アサシンの懸念が当たっていればそれは致命的な隙となる。

「!」

 微かな音を立てて扉を開く。その音が部屋の中のものに聞こえるかどうかというほどの速さでアサシンは彼のマスターの脇に現れた。
 静かに風が起こる。カーテンが揺れる。「杞憂だったか」という声をアサシンが発したのはそれらが収まってからだ。



 「起きたらすぐ横に顔があるの嫌なんだけど」というのが九重りんが目覚めて最初に言った言葉だ。アサシンが部屋に戻り霊体化して気配感知をし始めて数分後、目を擦りながらマスターが目覚めるのをまじまじと見ていたアサシンにかけた言葉だ。
 「悪かったな」と事務的にアサシンは謝る。

「謝る気ないでしょ。」
「謝っているだろ。」
「ウソつき絶対謝る気ないでしょ。」
「なぜ俺が謝る必要がある。」
「開き直ったわね……」

 密やかになされた二人の口論を聞くものはいない。そもそも二人ともまじめに口論をする気などない。これは悪態をつきあうという二人なりのコミュニケーションなのだ。

「で、何があったの。」
 もう二人は数日以上の共同生活を送っている。お互いある程度馴れたものだ、だからか『本題』に入るべくりんから話を振った。
 アサシンは窓の外に目を向けて話始める。

「時系列に沿って話そう。」
「冬木大橋という橋がある。この空間の東西を繋ぐ巨大な橋だ。そこで戦闘があった。」
「下手人はイリヤスフィール・フォン・アインツベルンという幼女とバーサーカー。白髪の幼女と鉛色の巨人の主従だ。」
「バーサーカーの主従は赤と青、二組のランサーに襲いかかった。俺がそれに介入した。」

 ここまではいいか、と言いたげにアサシンはりんに視線を向けた。
 「わざわざ手を出す必要があったの?」と聞くマスターにアサシンは「もう一人、いる」とだけ言うと、今度は部屋の名かを歩き始める。

「戦闘の起こる前、マスターの少年が病院に運ばれてきた。その少年は橋で何かにあったらしい。」
「そこで俺は橋を調べた。そして橋にいた人間から情報を得ようとしたが、聞き出せそうな人間はランサー達しかいなかった。」
「情報を得るためにはランサー達に助太刀するしかなかった。」

 アサシンが沈黙する。伺う。りんは「続けて」と一言だけ言った。アサシンは再び歩き始める。

「俺はランサー達と共にバーサーカーと戦った。」
「その結果、バーサーカー達を見失ったがとりあえず退けた。」
「だがランサー達はボロボロだった。赤いランサーは病院に向かった。」

「それってつまり。」
 りんは理解した。
「今この病院には二騎のサーヴァントと三人のマスターがいる。」
 アサシンは告げた。

 りんが苦い顔になったのは言うまでもない。



 「じゃあ、要するに」と女子トイレでりんはアサシンに話しかけた。
 あのあと直ぐに看護婦の見回りがあり、相部屋の患者達が起き出してしまったため二人は場所を移したのだ。

 ーー余談だが、アサシンが女子トイレに入る際それはそれはそれは不機嫌な仏頂面だったのだが霊体化していたためりんは見ることはできなかった。もし彼女が見ていれば一日中アサシンをその事でいじっていただろうがそれはまた別の話であるーー。

「話しかけようとした相手が襲われてたから助けた。」
「そうしたらその助けた相手が病院に来た。しかも私たちがここにいることもバレた。」
「そういうことね。」

 多分に非難が含まれた声でアサシンをなじるりん。アサシンはそれに顔だけ実体化して反論しようして「それ気持ち悪いからやめて」と言われまた憮然とした仏頂面になる。ややあって全身を実体化させながら「得るものはあった」と言った。

「赤いランサー達とは現在同盟の交渉中だ。奴らは傷を負い戦力としては見込めんが囮にはなる。それにあの程度ならいつでも殺せる。」
「青いランサー達とも会合の場をもうけた。明日の昼に会うことになっている。」
「そして無防備なマスターを一人補足している。これは大きな強みだ。人質にも同盟相手にもなり得る。」
「でも私たちが病院にいるってバレたんでしょ?」
「バレてはいない。たまたま俺が病院で奴らと再会しただけだ。マスターの情報はやつらには何一つ渡していない。」

 畳み掛けるアサシンに、りんは黙った。彼女は頭も口も子供とは思えないほど回るが、それが英霊に通じるかと言えばNOだ。それにりんはアサシンがいなければ、とてもではないが聖杯戦争を戦い抜くことなどできはしない。

 大人げなく説き伏せたアサシンにせめてもの抵抗として「陰険と」一つ呟く。
 「言われなれている」とアサシンはにべもなく返した。

「この件で俺から言うべきことは以上だ。質問は?」
「ないない。任せればいいんでしょ。」

 りんはなげやりに返事をする。アサシンと話すと疲れるのだ。ただでさえ気が滅入る殺しあいの場で余計なストレスを抱え込みたくないというのが本音だった。

 ふん、とアサシンは鼻をならす。彼のマスターのこのような態度は今に始まったことではない。普段の彼ならば気にかけることはなかった。
 だが今のアサシンは一つ、大きな懸念がある。その事が、いつもならここで終わる会話を少し長いものにした。

「これは別件だがーー。」

 アサシンが脈絡なく話始める。いつもどうり仏頂面して霊体化すると思っていたりんは少し不審に思ったが、さりとてそれはわざわざ口に出して指摘するほどのものでもない。目で早く言えというメッセージを込めながらじいっと見る。

「お前がもし死んで。」
「お前が愛し、お前を愛するものが。」
「お前を生き返らせるために何十人もの人間を殺す。」

「その時お前は喜べるか?」


 気がつけば、りんはアサシンの首を絞めていた。
 りんは頭の血管、全身の筋肉、骨の髄の隅々に途方もなく熱い何かを覚えた。そのどろどろとした煮えたぎる何かが、アサシンを殺さねばならぬという命令を下していた。

「喜ぶ。」
「喜ぶに決まっている。」
「そんなに愛されてるんだから。」
「喜ばないなんてウソだ自分のためにそこまでしてくれるんだから。」
「世界中の誰よりも一番愛して愛されて愛して愛されてるんだから幸せなんだ。」

 誰が言っているのかはりんにはわからない。声が聞こえてもそれが誰のものか認識できない。ただ文の情報のみを咀嚼する。
 それはアサシンの不意打ちで脳のいくつかの部分が機能していないためか。突然りんのことを揺さぶる言葉が心に脳震盪のように響いたからか。

「!」

 呼吸ができなくなる。視界がうねる。まるで水中にいるかのようだ。心臓のトルク。熱を持ちオーバーヒート寸前のそれ。体中捻れるようにひたすらアサシンの首を絞める絞め続ける。

 どれ程そうしていただろうか。
 九重りんは全身をぐっしょりと濡らしてブツンと気絶した。



 「喜ぶか」と一人アサシンは呟く。今は再び医者に変化し、ある場所へと向かっていた。

 本当は、アサシンはあんなことを言うつもりはなかった。
 彼が言いたかったのは、影分身の持続時間が短くなっているということだ。
 先程残りの二体の影分身が消滅した。それを他のサーヴァントの攻撃によるものである可能性を考え、併せて警告しようと思っていたのだ。
 しかし、気がつけばあんなことを言っていた。否、理由はわかっている。アサシンの記憶がそう言わせたのだ。
 アサシンの影分身は、その経験を術者にフィードバックする。だからだろう。

 アサシンは消えた影分身の記憶を辿り足を動かし、足を止めた。扉だ。
 その扉を開けば、そこはもう死者の領域だ。
 アサシンは、千手扉間は踏みいる。

「橋へ行ったのは無駄足だったか。」

 扉間は進む。この部屋に入ったばかりなのだろう、その少年まで近づくのに時間はかからない。

「なるほど、確かにこういった設備ならば鮮度も保てよう。」

 扉間の手にクナイが現れる。ザン、という音と共に少年の手が抉られる。抉りとった肉塊はすぐさま扉間が出した巻物へと封じられる。手から血は流れない。それを見て、扉間は手をかざす。どこからか何かがより集まり、一見抉られたようには見えないように傷を隠した。
 ちらりと横に目を向ける。名札があった。

「喜べ少年……いや。」

 扉間は合掌した。彼にも、死者を悼む気持ちはある。

「三谷亘、お前には生き返る機会が与えられるだろう。」

 アサシンが霊安室から出ていく。ワタルが聖杯戦争に出た痕跡はアサシンが剥ぎ取った令呪付の肉塊として残せた。



 それが彼に許された最大限の幸運だった。



【新都・病院/2014年8月1日(金)0608】

【九重りん@こどものじかん】
[状態]
精神的ショック(大)、手足に火傷(ほぼ完治)、気絶、びしょ濡れ、???
[残存令呪]
3画
[思考・状況]
基本行動方針
聖杯戦争で優勝を目指す。
0.???
1 入院して他のマスターから見つからないようにしておく。
2 アサシンへ(千手扉間)の魔力供給がつらい。
[備考]
●予選で入院期間が長かったためか引き続き入院しています。
入院期間を延ばすには扉間が医師に幻術をかける必要があります。

【アサシン(千手扉間)@NARUTO】
[状態]
筋力(30)/C、
耐久(30)/C、
敏捷(100)/A+、
魔力(10)/B、
幸運(10)/E、
宝具(??)/EX
実体化、宝具使用不可、魔力を四分割したため戦闘になると2ターン目からステータスダウン、避雷針の術の発動条件を満たしているため敏捷が+分アップ、医者っぽい姿に変化、三谷亘の令呪二画付の肉塊を所持(巻物に封印済み)。
[思考・状況]
基本行動方針
聖杯を用いて木の葉に恒久的な発展と平和を。
1.まずは一人。
2.同盟を結べそうだがランサー(幸村)のマスター(アカネ)が聖杯戦争をわかってないっぽいんでとりあえず保留。七時になったら合流。
3.マスター(凛)が他の組に見つからないように警戒している……ランサーのせいで無理そうだが。
4.三つの問題はもはや後回しでよいだろう。
5.魂喰いの罪を擦り付ける相手は慎重に選定する
6.穢土転生の準備を進める。
7.他の組の情報収集に務める。同時にランサー達を何とか隠ぺいしたいがたぶん無理。
8.女ランサー(アリシア)との明日正午の冬木ホテルでの接触を検討し、場合によっては殺す。
9.バーサーカー(ヘラクレス)は現在は泳がせる。
10.逃げたサーヴァント(サイト)が気になる。
11.聖杯を入手できなかった場合のことを考え、聖杯を託すに足る者を探す。まずはランサーのマスター(日野茜)。
12.マスター(凛)の願いにうちはの影を感じて……?
[備考]
●予選期間中に他の組の情報を入手していたかもしれません。
ただし情報を持っていてもサーヴァントの真名は含まれません。
●影分身が魂喰いを行ないましたが、戦闘でほぼ使いきりました。その罪はバーサーカー(サイト)に擦り付けられるものと判断しています。
●ランサー(アリシア)の真名を悟ったかどうかは後の書き手さんにお任せします。
●バーサーカー(ヘラクレス)に半端な攻撃(Bランク以下?)は通用しないことを悟りました。
●バーサーカーの石斧に飛雷針の術のマーキングをしました。
●聖杯戦争への認識を改めました。普段より方針が変更しやすくなっています。
●ランサー・真田幸村とフワッとした停戦協定を結びました。ランサーのマスターがヒノアカネだと認識しました。
●九重りんへの印象が悪化しました。



【三谷亘@ブレイブ・ストーリー         死亡】
最終更新:2016年08月05日 05:07