夏は暑い。
 八月ともなれば日本は亜熱帯とかす、などと言うものもいるほど暑い。なにせ地球温暖化だ。この半世紀でどれだけ真夏日が増えたか。
 暑いと人は涼を水へと求める。文明開化前の冬木ならともかく、今の工業化の進んだ冬木では海に入ることはできない。そこで冬木市はプールを作った。今では県でも有数のスポットだ。

 さて、そんな入水には適さない冬木の海だが曲がりなりにも水辺ならばいくらかは涼しいものだ。げんにその場にいる者達は暑い思いをしていなかった。役一名など不本意な海水浴で低体温症を引き起こしているほどだ。その役一名ことイリヤスフィール・フォン・アインツベルンは、間桐慎二の言った言葉に疑問符を頭の上に浮かべた。

「シンジ、だったかしら?」

 声を幾分震わせながら、イリヤは問うた。それにシンジこと間桐慎二は視線で言葉の先を促す。

「オリジナルの聖杯戦争って、どういうこと?」
「そうだよ!それってこの殺しあいが何度も起きてるってことなのか!?」

 イリヤにつられるように、色丞狂介も声をあげた。彼からしても、このようなものがいくつもあるという点は驚きに値する。
 一方この場に四人いるマスターでアリス・マーガロイドだけは沈黙を貫いていた。彼女にももちろん思うところはあるし多少の驚きもあったが、聖杯戦争に種類があるというのは予想の範囲内であった。それに、彼女の疑問はこの二人が代わりに聞いて、答えはペラペラと少年が話すだろう、そう考えてあえて何も言おうとはしない。

 そして皆の視線を一身に集めるなか、やれやれといった感じでシンジは話し始めた。

「そもそも聖杯戦争ていうのは願いを叶えるアイテムの奪い合いのことだ。」
「魔法のランプっていうおとぎ話は知ってるだろ?ああいう使うと願いが叶うものを全部まとめて聖杯ていうんだ。」
「そんなことを聞いてるんじゃないわ、そんなの聖杯戦争の常識じゃない!私が聞いてるのはこのーー」
「ちょっと待った!それ常識なの?聖杯戦争てみんな知ってるものなの?」
「あなたは黙っててキョウスケ!」
「な、なんだよ、えーとーー」
「イリヤ!イリヤスフィール・フォン・アインツベルンよ、それでシンジ、これが冬木の聖杯戦争のパクりってどういうことなの?」
「ちょっと待て今アインツベルンて言ったか?御三家の一つじゃないか!」
「アインツベルンてそんな有名なの?」
「ええそうよでも私は今そんなことを聞いてるんじゃないの早く質問に答えてもらえる?」
「それが人にものを頼む態度か!?御三家ならそんぐらい自分でわかるだろ。」
「へー、淑女(レディ)にそういう態度をとるのね、マキリは。」
「何がレディだ小学生はノーカン、アウトオブ眼中なんだよ。」
「言葉が古いのよワカメ頭!」
「ワカメじゃないウェーブだ!」
「どうみてもワカメじゃない!」
「ウェーブて言ってるだろ!このオシャレさもわからないからガキなんだよ!」
「ダサいのよ!キョウスケ、あなたもそう思うでしょ!」
「おい狂介お前からも言えこのオシャレさを!」
「そうだぞ狂介はっきり言ってやれ。」
「キャスター?!便乗はズルいだろ!!」
『マスター、これは止めた方が良いのでしょうか……?』
『そろそろ収集がつかなくなりそうだし、そうね。』

 今まで一言も話さなかったアリスはパン、と手を叩く。言い争う三人のマスターの目線が集まる。

「なにか、聞こえないかしら?」



 冬木市の警察が有能か無能かは評価が分かれる。
 冬木大橋での無差別通り魔殺人及び爆破テロという未曾有の事態に直面して、冬木市の市境に検問を張り早速現場付近での捜査を数百人規模で行っているというのは有能と言えるだろうし、変質者の通報があったにも関わらず小一時間目撃された港に来なかったのは無能と言える。
 だがともかく、一応警察は来た。サイレンを鳴らしてパトカーが向かってくる以上、キャスター達は離れなければならない。なにせ通報にある不審者とはまさしくキャスターのことだからだ。そしてその被害者とされているのはそのマスターである。

「御三家なら金持ってるだろうけどガキに払わせるのもあれだからおごってやるよ。」
「せいぜい10ユーロぐらいで威張らないでくれるあ・り・が・と・う。」
「で、何処にいくんだ慎二?橋は通行止めらしいけど。」
「教会だ。あそこは中立地帯のはずだ。そこなら落ち着けて話せるだろう?」
「言峰教会ね。」

 あのあと四人のマスターは、一度場所を移して仕切り直すことにした。
 慎二と狂介は港から離れる必要があったし、アリスもイリヤも慎二から聖杯戦争について聞き出さなくてはならない。

 四人の思惑が合わさった結果、全員で同じタクシーに乗るという展開になったのだ。これは、それぞれのマスターへの危害をもっとも減らそうとしたためである。港では、直径10メートル程の円の中のエリアに四人のマスターがいた。このとき、どのサーヴァントも他のマスターを攻撃することはできない。彼らの攻撃では自らのマスターも巻き込みかねないからだ。そして距離をとろうとするマスターは、その真意に関わらず他の主従から巻き添えを食らわないために距離をとったという警戒を招いてしまう。このようにどのマスターも他のマスターから離れられないという状況が狭いタクシーへの乗車を選ばせた。

 因みに、席順はアリスが助手席、慎二が右、狂介が左、イリヤが真ん中である。もちろんこれを決めるにも二三分かかった。「なんで私が座り心地の悪い真ん中なの」とか「びしょ濡れのお前の横に座るこっちの事情も考えろ」とかタクシー運転手を困惑させながら険悪な雰囲気を終始醸し出していた。
 付け加えると、サーヴァントの内、赤城とパピヨンは屋根やボンネットに腰かけることになった。パピヨンはともかく赤城は陸上での機動力には難がある。均衡を崩すような真似を避けるためにアリスは赤城をタクシーに乗せたかったのだが生憎そのスペースはない。というわけでフロントガラスを背もたれにボンネットに腰かけたパピヨンの後ろ、屋根に乗せることにした。このとき赤城がパピヨンとは対照的な凄く切ない顔をしていたのだがフドウを除いてそれを知るものはいない。

「それじゃあ、出発かしら。」

 後部座席に振り向くとアリスは全員の顔を見渡す。ようやく一時の平和が訪れたことを確認した。


 タクシーは、ゆっくりと走り出した。



【新都、港近くのタクシー/2014年8月1日(金)0638】

【アリス・マーガロイド@東方Project】
[状態]
健康。
[残存令呪]
3画
[思考・状況]
基本行動方針
幻想郷に戻ることを第一とする。
1.オリジナルの聖杯戦争?
2.とりあえず色丞狂介、間桐慎二、イリヤスフィール・フォン・アインツベルンと行動を共にする。
3.定期的に赤城の宝具で偵察。
4.できれば冬木大橋を直接調べたい。
5.人形を作りたいけど時間が……
6.聖杯戦争という魔法に興味。結界かあ……
[備考]
●予選中から引き継いだものがあるかは未確定です。
●バーサーカー(ヘラクレス)、キャスター(パピヨン)、キャスター(フドウ)のステータスを確認しました。
●タクシーの助手席に座っています。

【赤城@艦隊これくしょん】
[状態]
筋力(20)/D、
耐久(150)/A++、
敏捷(20)/D、
魔力(10)/E、
幸運(30)/C、
宝具(30)/E+++
霊体化、魔力消費(小)、タクシーの屋根に搭乗中。
[思考・状況]
基本行動方針
マスターを助ける。今度は失敗しない。
1.警戒を厳に、もしもの時は壁役に。
2.定期的に宝具で偵察し必要なら制空権を確保する。
3.魔力を補給したいが今は黙ってる。


【イリヤスフィール・フォン・アインツベルン@Fate/stay night】
[状態]
全身ずぶ濡れ、磯臭い、低体温症、頭痛、その他程度不明の怪我(全て治癒中)。
[装備]
特別製令呪。
[残存令呪]
3画
[思考・状況]
基本行動方針
全員倒して優勝する。
1.オリジナルの聖杯戦争?
2.とりあえずシンジとキョウスケとアリスと行動を共にする。
3.なんなら同盟を組んでもいい。
[備考]
●第五次聖杯戦争途中からの参戦です。
●ランサー(幸村)、ランサー(アリシア)、アサシン(扉間)のステータス、一部スキルを視認しました。
●少なくともバーサーカー(サイト)とは遭遇しなかったようです。
●自宅はアインツベルン城に設定されていますが本人が認識できているとは限りません。
●バーサーカーと共に冬木大橋から落とされました。怪我の有無や魔力消費は不明です。
●アサシン(千手扉間)がハサンではない可能性に気づきました。
●アーチャー(赤城)、キャスター(パピヨン)、キャスター(フドウ)のステータスを確認しました。
●タクシーの中央後部座席に座っています。

【バーサーカー(ヘラクレス)@Fate/stay night】
[状態]
筋力(50)/A+、
耐久(50)/A、
敏捷(50)/A、
魔力(50)/A、
幸運(40)/B、
宝具(50)/A、
霊体化、不明、狂化スキル低下中。
[思考・状況]
基本行動方針
イリヤを守り抜く、敵は屠る。
[備考]
●イリヤと共に冬木大橋から落とされましたが少し流されたあと這い上がっできました。


【間桐慎二@Fate/stay night 】
[状態]
疲労(小)、精神的疲労(中)。
[残存令呪]
3画
[思考・状況]
基本行動方針
聖杯を手に入れる。何を願うかは後から決める。
1.とりあえず狂介とアリスとイリヤと共に教会へ。
2.なんだか段々大所帯になってきたな……
3.ライダー(孫悟空)は許さない。
4.間桐家で陣地作成を行う。
5.会場と冬木市の差異に興味。
[備考]
●孫悟空のクラスとステータスを確認しました。
クラス・ライダー、筋力B耐久B敏捷B+魔力D幸運A
このステータスは全てキャスター(兵部京介)のヒュプノによる幻覚です。
●キャスター(パピヨン)、バーサーカー(ヘラクレス)、アーチャー(赤城)のステータスを確認しました。
●この聖杯戦争を『冬木の聖杯戦争を魔術で再現した冬木とは別の聖杯戦争』だと認識しています。
●タクシーの右後部座席に座っています。

【キャスター(フドウ)@聖闘士星矢Ω】
[状態]
筋力(30)/C、
耐久(40)/B、
敏捷(60)/C+、
魔力(100)/A+、
幸運(50)/A、
宝具(50)/A
霊体化。
[思考・状況]
基本行動方針
マスター・慎二を見定める。今のまま聖杯を手にするならば━━
1.成り行きにここまで任せてきたが……
2.今は慎二に従い、見定める。
3.求めるなら仏の道を説くというのも。
4.色丞狂介、か……
[備考]
●慎二への好感度が予選期間で更に下がりました。ただ、見捨てたわけではありません。
●狂介に興味を持ちました。
●孫悟空が孫悟空でないことを見破っています。


【色丞狂介@究極!!変態仮面】
[状態]
疲労(小)、精神的疲労(中)、ハンバーガー所持。
[残存令呪]
1画
[思考・状況]
基本行動方針
聖杯戦争を止める。悪人をお仕置きする。
1.オリジナルの聖杯戦争?
2. とりあえず狂介とアリスとイリヤと行動を共にする……イリヤはずぶ濡れだけど大丈夫かな?
3.ランサーだけあって逃げ足は早いんだな……
4.帰ったら家で陣地作成したり核金作ったりしてもらう。
5.下北沢のサーヴァント(サイト)を警戒。冬木大橋も気になるからこのあと寄ってみる?
[備考]
●核金×2、愛子ちゃんのパンティ所持。
●予選期間中にサイトの魂食いの情報を得ました。東京会場でニャースを見た場合、サイトの姿や声を知る可能性があります。
●孫悟空のクラスとステータスを確認しました。
クラス・ランサー、筋力C耐久C敏捷A+魔力B幸運C
このステータスは全てキャスター(兵部京介)のヒュプノによる幻覚です。
●キャスター(フドウ)、バーサーカー(ヘラクレス)、アーチャー(赤城)のステータスを確認しました。
●タクシーの左後部座席に座っています。

【キャスター(パピヨン)@武装錬金】
[状態]
筋力(20)/D、
耐久(30)/C-、
敏捷(30)/C、
魔力(40)/B、
幸運(50)/A、
宝具(40)/B
霊体化。
[思考・状況]
基本行動方針
せっかくなんで聖杯戦争を楽しむ。
1.……ここまで影が薄いとは……
2.帰ったら家で特殊核金を制作。今日はパピヨンパークは無理か?
3.冬木市の名物は麻婆豆腐‥‥?
[備考]
●予選期間中にサイトの魂食いの情報を得ました。東京会場でニュースを見た場合、サイトの姿や声を知る可能性があります。
●気分で実体化したりします。
●孫悟空が孫悟空でないことを見破っています。
●マスターが補導されたのを孫悟空による罠と考えています。
●ビッグマックとハッピーセットは狂介に押し付けました。
●タクシーのフロントガラスを背もたれにしてボンネットに座っています。
最終更新:2016年08月05日 05:22