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新都・冬木中央公園 9:32 a.m

そこに在るのは古代の決闘にも近い、剣と剣のぶつかり合いだった。
時代錯誤も甚だしい、剣士同士の対決はしかし荒れ狂う災害にも等しい現象を引き起こしていた。
踏みしめる足は大地を砕き、互いの武装たる剣はぶつかり交わる度にハリケーンの如き暴風を生み出す。
互いに公園に倒れた人々を気に掛ける余裕などはない。
どちらのセイバーも市井の人々を犠牲にすることを善しとする英雄ではないが、自らの願いと天秤にかければ後者に針が傾くというもの。
まして彼らは生きた人間ですらないNPCに過ぎないのだから。


「そらっ」
「……くっ!」

この聖杯戦争にて現界を果たした二騎の剣の英霊、アルトリア・ペンドラゴンと微笑のテレサ。
どちらも最優の名に恥じない実力者同士の戦闘は、テレサが一歩優勢に進めていた。
妖気感知による高度な見切りは白兵戦において絶大なアドバンテージとして働く。
さらに妖気探知はアルトリアが持つ一つの強みを期せずして潰す役割を果たしていた。

(風王結界が通用していない!?)

アルトリアが有する宝具の一つ、風王結界(インビジブル・エア)。
大量の空気を剣の周囲に集め収束し、光の屈折率を変えて不可視とする対人宝具。
あまりにも有名な聖剣を秘匿することが主目的でがあるが、こと白兵戦で強力に作用する宝具であることも事実だった。
だが、この相手には風王結界による間合いの隠蔽が効いていない。明らかに初見から刀身の長さを見切っている。
何らかのスキル、もしくは宝具によるものか。だとすれば自分の真名も看破しているのか?それともそこまでには至っていないのか?


「お前、相当やるな。私とここまで打ち合える奴がいるなんてな」

軽口と同時に数十もの斬撃がほぼ同時にアルトリアを襲った。
高速剣。そこらの妖魔では反応さえできない絶技だが、アルトリアもまたセイバーの中にあって最高峰の剣士の一人。
明らかに致命とわかる箇所のみ剣で防ぎそれ以外は甲冑の護りを頼みに凌ぎ切った。
軽傷は免れなかったもののそれとて鞘の加護を頼むまでもなく持ち前の自己治癒のみで回復可能な程度の損害だ。

「今ので駄目か。ったくやりづらいったらないな」
「そちらこそ。初見でこうまで太刀筋を読まれるとは露とも思いはしなかった」

今のところ優勢気味に戦闘を進めているテレサだがそう余裕があるわけではない。
確かにアルトリアはテレサに回避ではなく剣による防御、打ち合いを強いるほどの技量の持ち主であるがそれだけならテレサはもっと優位に戦えている。
一歩分の有利に留まっているのはアルトリアが持つ未来予知に等しい直感に阻まれているが故だ。

妖気感知は相手の魔力の流れから動きを見切り確実に、的確な一手を差し込むことができるが当然弱点も抜け穴も限界もある。
アルトリアが持つ直感などはその筆頭。魔力云々ではない、天性の勘は妖気探知によって察知することはできない能力だ。
如何にテレサが先読みを働かせ仕留めようとしても必ずその直前で回避・防御されてしまっている。
それ故、技量と妖気探知によるアドバンテージがありながらテレサはどうしてもあと一手を詰め切れずにいた。


(あいつの剣、魔術による風で見えなくしてるが本命は不可視の剣じゃあない。
太刀筋が搦め手に頼って勝つタイプのそれじゃない。むしろ正々堂々力と技で戦うのがあいつ本来のスタイルだろう。
風の鞘で封印されてる宝具こそが切り札の筈。多分聖剣の類だろうが……)

自らの真名を看破されたのかと疑るアルトリアの思考に反して、テレサは風王結界で隠蔽された剣の刀身は把握できていても中身までが見えているわけではない。
妖気探知といえどそこまで万能というわけではなく、風王結界の魔力の流れを検知しそこから刀身の長さを割り出しているに過ぎない。
つまり厳密には不可視状態を打ち破ったわけではない。



一方でアルトリアもテレサの実力に舌を巻いていた。
あまりに正確すぎる先読みは自分の直感と同じく何某かのスキルによるものであろうが、それを差し引いても途轍もない力量の持ち主であることは疑いない。
自分の聖剣以上の重量はあるだろう大剣を細剣のように軽やかに、精緻に振るう業はどれほどの修練と実戦を積めば可能になるのか。
少なくとも自分よりも戦士としては優れていることは間違いない。



純粋な戦士たるテレサと違い、アルトリアは王であり騎士でもある。
これが王としての見識と器を問う闘いであればアルトリアが圧勝するに違いない。
しかしこと個人による戦闘となればより戦士としての純度が高いテレサに一日の長がある。
間合いの測り方、呼吸の読み方…そういったサーヴァントとしてのステータスに表れない部分においてテレサはアルトリアの一歩先を行くのだ。



「ならば―――」

アルトリアが纏っていた甲冑が飛散した。否、意図的にそうしたのだ。
剣を下段に構え、前傾姿勢を取る。あまりにもわかりやすい吶喊の構えだった。
テレサはその意図を即座に理解する。眼前の敵は魔力放出と呼ばれる、魔力によるジェット噴射で肉体や装具を強化するスキルを有している。
そして今、甲冑を消してまで魔力放出の出力を上げている。これが意味するものは―――


「先読みされる前に斬ろうってか。勇敢だけど、そりゃ無謀だろ」
「どうかな。貴方が如何に優れた剣士(セイバー)であろうと、私はその技の悉くを踏み越えてみせよう」


踏み込み。アルトリアの姿が一瞬にして消滅した。
違う、常人はおろか視力を強化した魔術師ですら視認不可能の速さで文字通りのロケットスタートを切ったのだ。
最初の一歩のみで地は砕かれ、ソニックブームが発生し遠くの木々すら揺らす超音速。
ヒトの瞬きよりも尚速く、聖剣はテレサを捉え切り裂くであろう。―――その結末が相手に予期されていなければ、であるが。


一閃。アルトリアが聖剣を上段からテレサ目掛け振り下ろす直前、この未来を予知したかの如くテレサの大剣の切っ先がアルトリアの首筋を捉えていた。
竜の咆哮の如きアルトリアの力強い一撃とは対極に位置する微に入り細を穿つ静の斬撃。
愚かにも正面から力と速さのみで突破を試みたアルトリアは首を撥ねられ消滅する。


「っ!!」


だが、その定理を覆してこその英雄だ。
切っ先が首に触れ、血液が飛んだその瞬間テレサの眼前からアルトリアの姿が掻き消えた。
妖気探知ではなく、経験と本能から右側面に回り込み一度振り上げた剣を下段に据え、回転の要領で振るわれたアルトリアの剣を受け止めた。
魔力放出とは単純に肉体や武器を強化するだけのスキルではない。外付けのブースターとも呼べる。
アルトリアはこのスキルの応用、研ぎ澄まされた直感によって首を斬り落とされるその刹那に魔力放出でこれを回避、側面から強烈な一撃を加えたのだ。

反応が間に合ったとはいえ予想外の角度からの急襲を受けたテレサは数メートルほどのノックバックを余儀なくされる。
圧倒的な技量を誇るテレサから奪った貴重な隙を見逃すなど有り得ない。
アルトリアは一瞬で二十メートル以上を跳躍、そこから魔力放出による急速落下。さらに落下中にも自らの身体を回転させる。


「はあああああああああっ!!!」


魔力放出によって生まれるスピード、落下と回転のエネルギーをも加えられた一撃。
テレサは当然にこれを大剣で受けるも、あまりの威力に地面には極小規模のクレーターが生まれ腕の筋肉と骨が軋む。


「ぐっ……!」


テレサの顔が初めて苦悶に歪む。このままでは押し切られる。
テレサの双眸が黄金に変化した瞬間、大剣が辛うじて聖剣を押し返し隙を作らずしてアルトリアの攻撃を跳ね除けることに成功した。
紛れもない必殺の意気を込めた攻勢を凌がれたアルトリアだがそこには焦燥も屈辱もない。
むしろ得心がいったとばかりの不敵な笑みを浮かべていた。


「成る程。見えてきたぞ、白のセイバー。その力の源泉は魔の恩恵か」
「今の一瞬でそこまで見破るとはね。こいつは一本取られたかな」


テレサが使ったのは体内にある妖魔の力を解放する妖力解放。だが正確に言えば使ったのではなく、使わされたのだ。
確かにアルトリアは明確な必殺の意志を以って仕掛けたが、最初からこの程度の奇襲は凌がれて当然と理解していた。
アルトリアの真の狙いはテレサの真名、正体の一端を掴むこと。サーヴァントとしての手札を切らせれば上等と判断していたのだ。
これによりアルトリアはテレサが怪物の類の力を用いて戦う戦士であることを看破した。


「そろそろ全力を見せる時ではないか、白のセイバー。でなければその首が飛ぶことになるぞ」
「全力じゃないのはお互い様だろ。お前、そんな風の鞘をつけてない方がよっぽど強いはずだ」


一方でテレサもアルトリアの不可視の剣、正確には剣を覆っているのが凝縮された風であることを見抜いていた。
風、大気というものは自在に操ることができればその汎用性は極めて高い。
今、テレサの力の一端を見抜いた蒼銀の少女騎士は本来持つ風の力を剣、ひいては自らの真名の秘匿に用いている。
もし正体の秘匿をかなぐり捨て、全戦力を動員すればその戦闘力は格段に増すに違いない。
もとよりテレサは宝具を含めた総戦力という分野では圧倒的に劣っている側なのだ。

しかし相手の真の実力を警戒しているのはアルトリアも同じこと。
たった今見せた身体能力の多少の増幅がテレサの真価だなどとは微塵も思っていない。
あちらが潜在能力の全てを解放した場合、果たしてどれほどの脅威になるのか。

(負ける、とは思わない。しかし―――)
(―――ただで勝てる相手、じゃないだろうな)


両者ともが、相手を侮りがたい強敵と認識していた。
もっともその奥の心情は大いに異なる。アルトリアは強敵との戦いに闘争心を昂ぶらせ、テレサは面倒な敵に仕掛けてしまったと後悔の念を抱いていた。
さてどう切り抜けるか、という思考をテレサが巡らせた時、妖気探知の力がこちらに接敵するサーヴァントを検知した。


「残念なお知らせだぞ、一騎討ちの時間はおしまいだ」

新たに現れたのは、一言で言い表して黄金のサーヴァントだった。
白髪痩身の男で、何より二人の目を惹いたのは身を包む絢爛たる黄金の鎧と豪壮たる長大な槍だ。
まさしく槍兵(ランサー)、と呼ぶに相応しい。戦う前からその格と実力の高さを窺わせる風格があった。


「何だ、ランサーってのは横槍を入れるのが得意なクラスなのか?」
「それはオレの預かり知らぬことだが、一騎討ちを邪魔した非礼は詫びよう。
だが聖杯戦争とは得てしてそういうものだろう。これは誇りある英霊同士の決闘ではなく生存競争なのだからな」
「違いない。それでランサー、貴方もまた聖杯の恩寵を求めてここに現れたと考えて良いのか?」
「聖杯を必要としているのはオレではなく我が主だ。我が主人は臆病だが生存の意志と聖杯に掛ける願いは明白。
そしてオレは主に仕え主の願いを果たすための槍として此処に在るだけだ」

ランサーが構えを取る。威圧感が数倍にも膨れ上がった。
されど、それで怖気づくようならテレサもアルトリアも英雄になどなっていない。


「なるほどね。だけど決着が付く前に割って入ったのは失敗なんじゃないか?」
「ランサー、貴方が真に勝利を狙うなら私達がより消耗するのを待つべきだった」

しかし、その一方で二人のセイバーは敢えて割って入ったランサーの潜在能力の高さも本能的に感じていた。
アイコンタクト。それだけで互いが互いに同じことを考えていると理解した。
一対一対一よりも、一時であれ二対一に持ち込み少ない労力で一騎を確実に落とす方が得策であると。


「二人がかりでオレを確実に倒そうという腹か。
それもまた一つの戦の形だな。オレはそれでも一向に構わんぞ」


まるで気負うこともなく、客観的事実を言うかのような態度だ。
お前達二人を同時に相手取ったところで自分が敗北することなど有り得ないという絶対の自負の表れだった。
こうまで挑発されては、正当英雄たるアルトリアは当然、格別誇りを抱いているわけでもないテレサであっても看過はできない。
少なくともこの男の鼻っ柱はへし折ってやろうという意気を抱かせる効果はあった。

開戦は一瞬だった。
名乗りを上げることもなくテレサが瞬時に間合いを詰めて斬りかかる。
高速剣。相手を侮ることなく全力で振るった七十を越える超高速の斬撃。
サーヴァントでさえ容易く細切れに変えるテレサの強襲はしかし、それと同数のランサーの刺突によっていとも容易く迎撃された。
どころか一発ごとの威力に優るランサーがテレサを押し返してのけた。

「こいつ……!」


その神域の技量に慄然とせざるを得ない。
同じ剣という武器で同等の技巧を行使して高速剣を相殺した、というならまだわかる。
だが槍というものはリーチに秀でる反面剣に比べ取り回しに劣る武器であるはずなのだ。
刺突となれば引き戻しのタイムロスによって手数を生み出すのは大英雄クラスの実力者でもない限り困難だ。
ましてランサーが持つ槍は穂先だけで優に一メートルを超えるテレサの大剣(クレイモア)以上の重量武器。
にも関わらず後出しの刺突でテレサと同等の手数を生み出し、その全てがAランクに相当する威力などどれほどの武錬を積めば可能となるのか。


「はあああっ!!」

僅かに遅れて斬り込んできたアルトリアの剛剣を薙ぎ払いで弾き、続く連撃で剣の間合いまで近寄らせない。


「なるほど、見えぬ剣とは厄介だな。だがそれも一度きり、次はないぞ」
「何っ!?」

ランサーがさらにアルトリアへと踏み出し槍衾を繰り出した。
全てが急所狙い、全てが高威力の連撃を前にしてはアルトリアも防ぎ切ることはできず瞬時に傷が刻まれていく。
魔力で編まれた高密度の甲冑などまるで存在していないかのように割り、砕き、抉っていく。

それでも、アルトリアは負傷を顧みず前身し続ける。
鎧を砕かれ下のドレスが血まみれになりながらもランサーを射程に捉え反撃を加える。
だがランサーは頭部に振るわれた剣を紙一重で回避、逆に短く持った槍の袈裟切りでアルトリアを切り裂いた。


「がはっ……!」
「一度きり、と言ったはずだが。猪突猛進も過ぎれば命取りだぞ」

ランサーは風王結界によって隠蔽された刀身を僅か一合で看破していた。
ディルムッド・オディナや微笑のテレサですら自らの宝具を用いなければ破れなかったそれを、眼力のみで見抜いてみせた。
膝から崩れ落ちるアルトリアの頭部を貫こうとするランサー。
しかし一瞬の隙に背後に回り込んだテレサによってその動きは阻止された。奇襲同然に放たれた高速剣がランサーに次々と命中した。


(効いてない!?こいつ鎧だけじゃなく肉体まで硬いのか!?
いや違う!肉体と鎧が一体化してるのか!)


超高速で放たれた無数の斬撃はランサーの鎧と身体の両方に命中していた。
だが鎧に当たった攻撃は当然のように弾かれ肉体への攻撃も直撃であるにも関わらずかすり傷同然のダメージしか与えられない。
それどころかランサーの反撃によってテレサの方が全身に無数の傷を刻まれる羽目になった。
如何な優れた先読みの使い手でも攻撃の際に生まれた隙を突かれては回避はままならない。
敵の動きがわかったところで身体の反応が追いつかなければ意味はないのだ。


「それではオレは倒せんぞ、妖魔の力を宿す戦士(クレイモア)よ」
「ちっ、この金ピカが……!」


今やテレサは妖力解放を三十パーセントまで解放し風貌は妖魔のそれに近づきつつあった。
だがそれほどの力を解放して尚ランサーからこれ以上の傷を受けないよう回避と防御に専念するしかない。
テレサの攻撃はまともなダメージにすらならず、逆にランサーは被弾を顧みずにテレサを一方的に攻め立てることができるからだ。
既にテレサが与えたかすり傷同然のダメージすら戦闘を行いながらの自然治癒で完全に復元されてしまっている。


それでも、ランサーが鎧の性能に頼るだけの怪物でしかないのであればまだ戦いようはあった。
だがランサーは神域の槍術を操る大英雄であり、その技の鋭さ、巧みさは並の英傑とは段どころか桁が違う。
さらに途轍もない精度の眼力によってテレサの妖気探知による先読みの領域に追随してきている。
無論先読みの精度ではまだテレサが上回っているが明確なアドバンテージとして機能しないほど両者の見切りの技術の差は小さいものとなっていた。


「くっ……!」


ランサーが一瞬のうちに繰り出した合計七十八の槍撃。
全てが神速、全てがAランクの威力、全てが急所狙いの武技をテレサはよく防ぎきった。
だがテレサ自身よりも手にした大剣の方が軋みを上げていた。
単純な物理攻撃に対しては無類の頑強さを発揮する戦士(クレイモア)の武装もランサーの神槍ほどの業物を相手にしてはいつまでもは保たない。


(これじゃあ、全然保たない……!)
「風よ――――――!」

突如、ランサーの猛攻が止んだ。
いつの間にか傷と鎧を修復し、戦線復帰したアルトリアが聖剣から解き放たれた風を一点に収束させていた。
表出する黄金の剣。間違いない、あれこそは星が鍛えし神造兵装、数多の聖剣というカテゴリーの中でも究極の一―――!



「風王鉄槌(ストライク・エア)――――――!!」


ランサーごとテレサを巻き込まんばかりの勢いで風の砲撃が唸りを上げて猛進する。
否、テレサを気遣っていては到底この怪物的な強さを誇るランサーへの命中などは望めないからこその判断だった。
テレサとランサーの反応は二者二様。テレサは射線上から退避しランサーはその場に留まった。
ランサーの全身と神槍から炎が噴出する。このスキルをテレサは既に見たことがある。
炎を纏った神槍がまるで熱したナイフでバターを切るかのように、並のサーヴァントならば肉塊に変えるほどの威力の暴風を切り裂いた。


「魔力放出か……!」


真田幸村も使用した炎の魔力放出。両方をその眼で見たテレサだからこそわかる。
同じスキルでも真田幸村のそれとは質も出力も錬度も、いや、階梯そのものが違うとすら感じられる。
真田幸村を火を操る術を得た人間とするならば、この黄金のランサーは生まれながらに太陽さながらの炎を宿す者。
恐らく、この両者の魔力放出には明確な上下関係がある。

だがこの程度で屈するようならアルトリアもテレサも英霊になどなっていない。
同時にランサーの前後に回り込み挟撃を仕掛ける。ただでさえ凄まじい強さのランサーがさらに奥の手を出した以上バラバラに戦っていては到底勝ち目などない。
だが同時に攻撃を仕掛けようとしたその時、アルトリアの直感が、テレサの感知能力が全霊で警鐘を鳴らした。



「炎(アグニ)よ」


太陽の下にあって尚眩く、ランサーの身体が輝きを発した。
これまでのサーヴァント戦の余波に晒されて尚辛うじて原型を保っていた木々が、柵が、遊具が、鉄柱が悉く焼け落ち、瞬きのうちに溶けるか、あるいは炭になった。
地上全てを焼き尽くすのではないかと思うほどの焔はしかし、決してランサー自身を冒すことはない。
地に立つその姿は炎神アグニが降臨したのではないかと錯覚させるに足る、神々しさすら感じる優雅さだった。


「くそ、滅茶苦茶だなあいつ」
「近づくことすらできないとは……」


並のサーヴァントならばいざ知らず、テレサとアルトリアはランサーの発火を回避できないほど愚鈍ではない。
しかし迂闊な攻めを見せれば即時にあの炎が発せられる。この事実はあまりにも脅威的だった。
直撃を受ければ軽装のテレサは当然、アルトリアであっても蒸発させられるほどの熱量だ。
消耗を抑えて確実にこのランサーを倒そうなど、とんでもない思い上がりでしかなかった。
現実はどうだ。倒すどころか白兵戦で圧倒され、そもそも近づくことすらままならない。

アルトリアは今こそ決断した。撃つしかない、己の信じる最強の聖剣を。
どちらにせよ風王鉄槌を解放した時点で真名は露見している。無論それはこちらの失策というよりもランサーの武勲と呼ぶべきものではあるだろうが。
ならばランサーだけでもここで討ち取る。それがどれほど困難であろうと、数多のNPCを犠牲にしようとも。
あの黄金の槍兵こそが此度の聖杯戦争最大の難敵であると今やアルトリアは疑いもなく確信していた。

不意に、ランサーが跳躍した。違う、これは跳躍ではなく飛翔と呼ぶべき行為だ。
魔力放出によるものか、背中から八枚羽の翼のように炎を噴出させ空中に滞空している。
その業にアルトリアは瞠目せざるを得ない。同じ系統のスキルを持つ彼女でも精々が空中での方向転換しかできない。
自在に空を飛行するなどどれほどの修練を積めば可能となるというのか。
魔力が満ちる。投擲の態勢に入ったランサーが神槍に夥しいまでの魔力を充填している。


「宝具……!」


ランサーはここで決着を着けるつもりか。
この聖剣をその眼で見た上で宝具による勝負を挑むとは自信の程が窺える。
しかしこれはアルトリアにとっていかにも好都合。まさか敵の方から空高く飛翔してくれるとは望外の幸運だ。
この状況ならばNPCへの被害を出さずに自らも宝具を解放することができる。
単に宝具を防ぐだけならば隠し持った鞘の展開を行い然る後カウンターを仕掛けるべきだろう。だがその策は現実的とはいえない。
相手の宝具の性質、隙の大きさを見極めずしてのカウンターは未来予知に等しい直感を持つアルトリアでも不可能だ。
ならば打つ手は一つ。聖剣の真名解放による宝具の打ち合いに賭けるしかない。
聖剣に光が集う。数多の聖剣の頂点に立つ究極の一がその真の力を解き放とうとしていた。



「約束された(エクス――――――」

「梵天よ(ブラフマーストラ―――」



聖杯戦争の華とも呼べる英雄たちの宝具同士の激突。
それが今、この聖杯戦争でも最上位クラスの宝具を持つ大英雄同士によって実現する。
神話の再現が今ここに――――――



「――――――勝利の剣(カリバー)!!」

「――――――我を呪え(クンダーラ)!!」



太陽の炎熱と星の極光が激突する。
片や戦場に散った全ての兵の希望を集め形にした究極の大斬撃たる対城宝具。
片やバラシュラーマが授けし秘奥にして戦術核兵器の炸裂にも等しい火力とエネルギー量を内包する対国宝具。
大気が裂け、大地は削れ、余波を受けた建造物が硝子細工のように消滅していく。サーヴァントたるテレサですら両の足で踏ん張るのがやっとの有り様だ。
世界に名を馳せる名剣も絢爛たる防具も持たない彼女にこの勝負に立ち入る権利は与えられていない。

数瞬の拮抗の後、星の聖剣が太陽の灼熱を押し込みはじめた。
そして炎を突き破った極光はランサーをも呑み込み光条が空を貫いた。
紛れもない騎士王アルトリア・ペンドラゴンの勝利だ。だが―――


(駄目だ、浅い!)
(奴はまだ生きてる!)


アルトリアは聖剣の担い手としての手応えから、テレサは研ぎ澄まされた感知力からランサーが消滅していないことを悟っていた。
確かにエクスカリバーはランサーの黄金の鎧にも並ぶ切り札を貫き勝利した。
だが威力を相殺されすぎた。本来の威力の実に八割以上を削ぎ落とされたエクスカリバーではランサーの命脈までを断ち切るには至らなかった。



一瞬の躊躇もなくテレサが走り出した。妖力解放を五十パーセントまで解放し、身体を妖魔のそれに変えながら、ただ全力で。
ランサーへの追撃?違う、そんな無駄な真似はしない。そもそもテレサでは空を飛ぶ相手に攻撃する手段は限られる。
狙う目標はただ一つ、この妖気感知によって捉えていたランサーのマスターだ。

何故ランサーのマスターの位置を明瞭に感知しながら今まで手を出さなかったのか、それにはいくつかの理由がある。
まずランサー自身の存在。最速の英霊に恥じぬ敏捷性を持つこのサーヴァントを出し抜いてマスターを殺すことは困難を極めた。
次いで位置関係。ランサーのマスターはテレサでも移動には一手間かかる高所にいるため、その一手間の間にランサーに追いつかれこちらが殺される可能性があった。
さらに言えば、現在は共闘している騎士王が絶対にこちらの背を狙わないという確証もなかった。

だが今、この瞬間だけは別だ。
致命傷でこそないだろうが、宝具の撃ち合いに敗れた以上そのダメージは深いはずだ。それこそ戦闘続行にも支障をきたすほどに。
だが、それでもあのランサーが“彼の不死身の大英雄”ならば万が一が有り得る。
今しかない。速やかにマスターを抹殺しランサーの命脈も断たなければならない。

音を置き去りにして地を駆ける。先ほどの撃ち合いの余波を免れていた高層ビルを当然のように駆けのぼった。
果たしてビルの屋上、その隅にはフリルをあしらった可愛らしい容姿と服装の、銀髪赤眼の少女がいた。


「ひっ……!」
「――――――」


千代子と同年代の少女だった。こんなマスターがいることを予想していないわけではなかった。
出来ることなら人間は殺したくはない。ましてこんな少女を斬ったとなればクレアは悲しむだろう。
それでもこうすると決めた。こんな瞬間が訪れると理解した上で召喚に応じたのだ。


「悪いな」


せめて痛みを感じないよう、速やかに首を切り落としてやろう。
所詮自分が敵のマスターに対してしてやれることなどその程度なのだから。



「悪いが、オレのマスターをやらせるわけにはいかん」
「!?」


感傷に浸っていたせいで気づくのが遅れたのか。
恐るべき速さで空から超高速で舞い降りたランサーが戦線に復帰していた。


「お前…不死身にもほどってもんがあるだろ!」

確かにランサーはその肉体に深い傷を負っていた。
だが減衰されていたとはいえ最強に近い宝具を受けながらその動きと技の冴えには一切の陰りがない。
魔力放出を凝縮した、太陽の灼熱を帯びた槍の一撃がいとも容易くテレサの大剣を粉砕した。
終わった。そう確信したテレサだったがとどめは刺されなかった。


「はあああああああっ!!」


魔力放出と風による二重の加速を以って流星の如く飛来したアルトリアの、ランサーのマスターを狙った一撃。
それを迎撃するために、ランサーも魔力放出を全開にし遠心力を加えた渾身の薙ぎ払いを振るった。
激突する聖剣と神槍が発する破滅的なまでの魔力の奔流が物理法則を容赦なく蹂躙し、ビルのコンクリート床が抉れ割れ、下の階が露出した。


「きゃああああっ!」

ランサーのマスターの華奢な身体が吹き飛び柵に激突。そのまま動かなくなった。

『イリヤさん!?イリヤさん!?』
「何っ!?」


アルトリアの眼が驚愕に見開かれる。
記憶にあるよりも大きくなっているものの、あの少女は衛宮切嗣とアイリスフィールの娘であるイリヤスフィール。
第四次聖杯戦争の折、日本に来る前に会ったことのある少女だ。
しかし、そうだとしてもマスターとして戦場に出てきた以上、容赦をするわけにはいかないしそもそもそんな余裕はない。
どうにかしてランサーを突破し、彼女を斬り伏せねばならないという至上命題には何の変化もない。

幸い、この状況はマスターを狙う絶好のチャンスだ。
マスターがすぐ近くにいて、しかも気絶しているとなれば先ほどのような自分の周囲に熱波を放つような技は使えまい。
テレサとアルトリア、そのどちらかがランサーを突破してマスターの少女まで辿り着けばそれで良い。

三騎のサーヴァントが全くの同時に地を蹴った。全員が雪の少女へと殺到した。
背中を晒し、槍を消してマスターを抱き上げたランサー。当然のように背中には聖剣が振るわれ、テレサは折れた剣で斬りかかった。
しかしその程度ではランサーの命を絶つには到底足りない。跳躍すると再び炎の翼を出し滞空した。


「見事だ、騎士の王にクレイモア最強の戦士よ。己の誇りと矜持を曲げてもサーヴァントとしての勝利を獲るその執念、感服する他ない。
これは紛れもなくオレの敗走であり、お前達の勝利だ」
「…なあ、お前それ嫌味か何かで言ってんのか?」
「?特に他意はないが。そも聖杯戦争とはサーヴァントの生命線たるマスターを如何に護るかの戦いでもある。
お前達二人を自ら同時に相手にし、挙句マスターを窮地に晒したオレに圧倒的な非がある」


あ、こいつ嫌味とかじゃなく全部天然で言ってるだけだ。テレサはそう確信した。
しかしこれは確かに損な性分だろう。まさに伝承で語られている通りだ。言いたいことはもう少しオブラートに包めばいいだろうに。
マスターを炎に晒さないよう、慎重に飛び去っていく“施しの英雄”の背を見つめながらそんなことを考えた。



「辛くも撃退はできた…といったところですか」
「ああ、ものすごく強引に、ほとんど見逃されるに近い形で、だけどな。
で、どうする?私の剣はこの通りだが、続きをやるか?
もっとも、こっちもただでやられてやるつもりはないけどな」


ひらひらと手首を動かしながら折れた剣を見せつける。
強大過ぎるサーヴァントとの戦闘で両者とも疲弊しているがより致命的なのはテレサであろう。
何しろセイバーの生命線たる剣が折られている。普通ならここで確実に脱落させようと考えるだろう。
だがアルトリアは静かに首を横に振った。

「いいえ、そんな真似をすれば彼のランサー…カルナの陣営に利するだけのことです。
これは一般論ですが、単独で打ち破ることが難しいサーヴァントを確認した時に取り得る手段は限られる
そういう意味で、貴方は手を組む相手に恵まれていると思いますが」
「?何だそりゃ。お前、何か勘違いしてないか?
もし病院にいる連中のことを指しているなら私は無関係だぞ」
「…そうでしたか。どうやら私は誤解していたようだ。しかし、ならばこそ」
「ああ、考えられる手なんて一つしかない。ま、結局はマスター次第なんだが」


黄金の鎧に耳輪による不死性、自分たちを圧倒する実力、そしてブラフマーストラ…ランサーの真名を確定するには十分な要素が出揃っていた。
その上で、アルトリアとテレサはランサー陣営を倒すまでは共闘を続けるべきと判断していた。
既に互いにその実力は認めるところであり、当面の協力者としては申し分なしと考えていた。


(どうも私も勘違いしてたみたいだな、こいつは病院の連中とは繋がってない。
恐らく病院にいた奴らは静観に徹してたんだろうな)

アルトリアの言動からテレサは既に彼女が病院にいるマスターたちとは無関係であると確信していた。
援護の当てがあったのなら必要に迫られたとはいえ序盤から宝具を切るわけがない。
そして騎士王のネームバリューからすれば虚偽の言動という可能性もないと考えていいだろう。

「とはいっても私達だけじゃ手が足りない、悔しいけどな。
ランサーと正面から戦うのに必要なのはあいつの馬鹿みたいな火力に耐えられる宝具を持った戦士だ。私でもお前でも駄目だ。
そいつを上手く引き入れて、無防備なランサーにその聖剣を直撃させてやれば活路も見えてくる」
「まるで雲を掴むような話だ」
「けど、やらなきゃランサーが優勝するだけだ」
「ええ、そのためにもまずはマスターを説得しなければ。
願わくば、次も貴方とは味方として会いたいものだ」


二人同時に、反対の方向へと跳躍し去って行った。
既にビルと公園、いや公園跡地には既に野次馬が集まり始めている以上長居は無用だ。


(凛には叱責されることも覚悟しなければなりませんね)


余裕のない状況であったとはいえ、裁量を委ねられていたとはいえ今回はかなり独断で事を運んでしまった。
しかし過ぎたことを悔やんでも仕方ない。せめて誠心誠意謝罪しつつ事情を説明するしかない。
イリヤスフィールに関しては……割り切る以外にない。

「良かった、無事でしたか」


戦闘の余波で大分流れていたものの乗ってきたハヤブサは無事発見できた。
さすがに車体は無傷というわけにはいかなかったもののエンジンはかかるし動かすのも問題ないと直感でわかる。
とにかく一度の戦闘で消耗しすぎた。病院を諦めて遠坂邸に帰還するべくバイクを走らせた。



【新都・冬木中央公園跡地、外れ/2014年8月1日(金)1002】
【セイバー(アルトリア・ペンドラゴン)@Fate/stay night】
[状態]
筋力(50)/A、
耐久(40)/B、
敏捷(40)/B、
魔力(100)/A+、
幸運(100)/A+、
宝具(??)/EX、
健康、実体化、魔力消費(中)、ハヤブサに搭乗中
[思考・状況]
基本行動方針
聖杯の力で王の選定をやり直す
1:この状態で病院の調査は危険すぎる、一度帰還しなければ…
2:凛に独断専行を謝罪し、対ランサー(カルナ)の同盟相手としてセイバー(テレサ)を推薦する
3:ハヤブサの性能に満足
4:何故冬木が会場に……?
[備考]
●第四次聖杯戦争の記憶を引き継いでいます。
●スズキGSX1300Rハヤブサを乗りこなせるようになっています。
騎乗スキルの低下を第四次聖杯戦争での経験とバイクの知識を深めることで補っているようです。
●スズキGSX1300Rハヤブサは小破していますが走行に影響はないようです。

【セイバー(テレサ)@クレイモア】
[状態]
筋力(40)/B+、
耐久(40)/B、
敏捷(80)/B+、
魔力(50)/A+、
幸運(20)/D、
宝具(40)/B、
実体化、ダメージ(小)、魔力消費(中)、気配遮断、剣が折れた
[思考・状況]
基本行動方針
当面、諜報活動に専念し戦闘は最低限に抑える
1:さすがにこの消耗で病院に向かうのは危険だな……
2:金ぴかのランサー(カルナ)に最大限警戒、チョコにセイバー(アルトリア)との同盟を進言する
3:チョコの軽さを注意、ルーラーを色んな意味で警戒。
4:赤いランサーの真名を調べたいけど━━
5:バーサーカーの索敵能力は警戒しておく
6:ランサーは何でわざわざ真名を名乗ったんだ?
7:これからどうするか……
[備考]
●赤いランサー(真田幸村)の真名と魔力とある程度の戦法、黒いバーサーカー(小野寺ユウスケ)の魔力とある程度の戦法を確認しましたがマスターではないのでステータス等は確認できていません。
●バーサーカー(小野寺ユウスケ)のベルト(霊石アマダム)が弱点部位だと何となく理解しました。
●冬木大橋付近と自宅付近と病院付近で妖気探知していた結果、リップバーン・ライダー(五代雄介)・クロノ・バーサーカー(サイト)・ランサー(アリシア)・バーサーカー(ヘラクレス)・ルーラー(ミュウイチゴ)、アーチャー(ワイルド・ドッグ)、アサシン(千手扉間)、キャスター(兵部京介)、セイバー(アルトリア)の魔力を把握しました。またおぼろげながら周囲にいた人間の気配も感じました。
●妖気探知の範囲で現時点までに上記以外のサーヴァント・マスターの情報はありません。また霊体化中は妖気探知の能力が低下します。
●予選時にどの程度他のチームの情報を得ていたかは後の書き手さんにお任せします。
●数値に表れない程度に幸運が上昇した可能性があります。気のせいかもしれません。
●病院に赤いランサー(真田幸村)がいると考えています。
●大剣が壊れましたが、量産品故に魔力で修復可能です。
ただし短時間で修復するには多大な魔力が必要になります。









その日のことを今でも覚えている。
ある日突然わたしの家にやって来たステッキと綺麗な女の人。
魔法少女だとかクラスカードだとかライバルの魔法少女だとかわたしに隠されていた力だとか。
本当に、短い間に色んなことがあった。痛いことも苦しいことも怖いこともあって逃げ出したこともあった。
だけど、友達が増えた。知り合いも増えた。

遠坂凛。いきなりわたしに奴隷(サーヴァント)になれ、なんて言った魔術師。
かなり強引で、ルヴィアさんとは犬猿の仲。
今回もいきなりわたしに聖杯戦争のマスターになれ、だなんて言ってきた。
わりと怒りっぽくて滅茶苦茶で、だけどやっぱり優しい人。
わたしの日常に突然やって来た、どっちかと言えば非日常寄りの人。
だけど―――


―――わたしは、この人に死んでほしくなかったんだと思う。







7月20日 博多会場某所 1:17 a.m

その日は、雨が降っていた。
雨が全てを洗い流していく。道路に流れた鮮血でさえも。


「リンさん!リンさん!!」


白い髪を濡らした少女の悲痛な叫び声が木霊する。
傍らには黄金のサーヴァントと、そして下半身がミンチよりも酷く醜く潰された黒髪の少女。
黒髪の少女、遠坂凛の傍にサーヴァントはいない。
若草色の槍兵は巌の如き鉛の巨人に傷一つつけられず、それでも最期まで主を守ろうと奮戦し当然のように散った。


「イリヤ、スフィール…?良かった、あんたは本物…みたいね」
「リンさん、しっかりして!!ルビー、ランサーさん、何とかして!リンさんを助けてよ!!」
『イリヤさん、それは…』
「不可能だ、致命傷に加えサーヴァント消滅によるマスターの消去が既に七割以上に達している。
こうまで消去が進行していては、最早オレでも救えん」


白い少女、イリヤスフィール・フォン・アインツベルンの祈りは届かない、決して。
彼女達が駆けつけた時には全てが決していた。動くのが遅すぎた。


「聞き、なさい。あんたはこれから、一人で聖杯戦争を生きなきゃいけない」
「嫌!!嫌だよリンさん!一人にしないで!!」
「お願いだから、聞いて…!これ、が…最後、だから……」

どこにそんな力が残っているのか、イリヤの腕を強く掴んで、血を吐きながら鬼気迫る形相だ。
幼いイリヤを一時黙らせるには十分な効果があった。


「わたしたちは、あんたと同じ顔と名前の、バーサーカーを連れた奴らにやられた、わ。
あんたと美遊で封印したクラスカードにいたバーサーカーが正規の英霊になった奴、と思って間違い、ない」
「わたしと、同じ名前と顔……?」
「そいつがあんたの偽物なのか、並行世界、のど、同一人物…なのかどうかはわからない。
だけど…気をつけなさい。あいつらは……ぜ、ぜったい、に本選に上がってくる。
いい?ルビーと、ランサーの言うことをよく聞いて、優勝、しなさい。自分、が…い、生き残ることだけ考えなさい」


凛の首が弱々しく動く。視線はランサーを向いていた。


「この子をお願い、英霊カルナ。施しの英雄。
本当なら、こんな…ことに巻き込むべきじゃなかった、この子を、元の…にち、じょうに帰してあげて」
「そうか、自らの生命の危機に関わると知ってオレを召喚する触媒をイリヤスフィールに託したのか。
乞われたならば力を尽くそう。元よりこの身は彼女を護るためにある槍だ」
『リンさん、私は……』
「もう…いいわよ、ルビー。もとはと言えばわたしが、私闘にあんたを…使ったのが悪かったんだから」


遠坂凛の肉体は既にその九割が形を失っていた。
もう、残された時間はほとんどない。


「リンさん、嫌だよ…!一人にしないで!置いて行かないで……」
「わたしの、ことなんてもう忘れなさい。元々あ、んたの日常にわたしはいなかった、んだから。
…約束して。必ず生きて帰って、元の生活に戻るって。なんなら、こん、な…殺し合いの記憶なんて聖杯にでも、願って消してもらいなさい。
あんたは、本当は魔術なんかに関わる……はずじゃなかったん――――――」


消えた。遠坂凛を構成していた最後の一片が。
泣いた。声が枯れるまで、泣き続けた。一生分は泣いたのではないかというほどに。
やがて、静かに従者である黄金の英雄に訪ねた。


「ランサーさんは…本当にわたしを守ってくれるの?
他の人たちを全部倒して、優勝するまで……?」
「無論だ。求められた以上はこの命在る限り君を庇護し続ける。
命令とあらば呵責なき殺戮も実行しよう。命令は君自身の意志によって行われるもの…と言いたいところだが今回は事情が事情だ。
望まず、魔術師たちの都合でこの戦争に駆り出された幼子よ。これから散っていく全ての命に対して罪悪感を持つ必要はない。
人命が失われるという事実に耐えられるほどに君の精神は強く成熟していない」

微塵の躊躇も衒いもなく、厳粛な面持ちのままランサーは答えた。
子供という存在は大人が思う以上に嘘や欺瞞に敏感だ。けれどイリヤから見てランサーの言には嘘の類が一切感じられなかった。
この人は絶対にわたしを裏切らない。何の疑いもなくそう思うことができた。

「なら…お願いします。わたしを聖杯まで連れて行って。
…わたしは、リンさんを生き返らせたい。やっぱりリンさんがいなくなるなんて嫌だよ…!」
「承知した。仰せとあらば応えよう。
我が槍の暴威を以って血路を拓き君を聖杯の頂へ連れて行こう」



これが聖杯戦争のマスターとして、イリヤが踏み出した第一歩。
雨の中で生まれた、幼く純粋で、そして切実な願いだった。


【遠坂凛@Fate/kareid liner プリズマ☆イリヤ 博多会場にて死亡確認】




【新都上空/2014年8月1日(金)1002】
【イリヤスフィール・フォン・アインツベルン@Fate/kareid liner プリズマ☆イリヤ】
[状態]
ダメージ(中・回復中)、気絶、魔法少女に変身中
[残存令呪]
3画
[思考・状況]
基本行動方針
聖杯戦争に優勝してリンさんを生き返らせる
0:………
1:わたしと同じ顔と名前のバーサーカーのマスター…?
2:ランサーさんから離れすぎないようにする
[備考]
●自宅は深山町にあるアインツベルン家(一軒家)です

【ランサー(カルナ)@Fate/Apocrypha】
[状態]
筋力B(40)
耐久C(30)
敏捷A(50)
魔力B(40)
幸運A+(30)
宝具EX(?)
ダメージ(中・回復中)、飛行中
[思考・状況]
基本行動方針
イリヤスフィールを聖杯へと導く
1:さて、どこへ向かおうか……
[備考]
●セイバー(アルトリア)、セイバー(テレサ)の真名を把握しました
●現在飛行中ですが、高度によっては通行人に目撃される可能性があります


[全体備考]
●新都冬木中央公園が壊滅しました