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真夏のエアコンの利いた図書館は夏休みということもあって少なからず利用する人間がいる。
特に夏休みの課題を終わらせるために小中高を問わず子供、学生たちが寄り集まって本を読んだり、勉強に励んでいた。
そんな彼らを横目に美遊・エーデルフェルトは端末を操作し調べものをしていた。
ただしその調べものは多くの学生が行うような夏休みの課題や本の検索ではなく、聖杯戦争に関わることだった。




     ▼  ▲




「第四号 変身者」

美遊が自らの従者について知るために検索ワードとして使用したのがこの語句だ。
ここから夢で見た「ユウスケ」なる名前に繋がれば良いのだが。
一瞬の後、端末の画面に検索結果が表示された。


五代雄介

小野寺ユウスケ


(…………どっち?)

果たしてこれはどういうことなのだろうか、と首を傾げる。
あるいは、並行世界(パラレルワールド)が絡んでいて、この二名のどちらもが第四号、ということなのか?
どちらにせよ候補が二つにまで絞られたのだから調査を厭う理由はどこにもない。まずは五代雄介から調べることにした。



(……違う)

曰く、2000の技を持つ冒険家。世界中を旅していた折に長野で未確認生命体ことグロンギと遭遇。
その場で身に着けた古代の変身ベルトたるアークルの力で戦士クウガへと変身、以後警視庁の一条薫らと共にグロンギとの戦いに身を投じることとなる。

他にも様々なことが書かれていたが、どうもこの五代雄介が自分のサーヴァントの真名とは考えにくい。
彼にとってかなり重要な位置づけであるはずのヤシロという名の女性が一切出てこなかったからだ、これはおかしい。
ならば、こちらの小野寺ユウスケだろうか?



「うん、きっとこれで間違いない」

小野寺ユウスケ。仮面ライダーディケイドこと門矢士が旅した世界の一つ“クウガの世界”における仮面ライダークウガ。
刑事・八代藍と共にグロンギと戦っていたが、門矢士と出会ったことで事態が急転。
究極の闇、ン・ガミオ・ゼダをディケイドと共に倒し、八代刑事との死別を経て門矢士の旅に同行することになる。
彼こそが美遊・エーデルフェルトに配されたバーサーカーと見てまず間違いない。

「彼が変身しているのはクウガ。なら、次はクウガについて調べれば」

そこからは多少の時間をかけながらも順調に検索が進んだ。取っ掛かりさえ掴めば後は芋づる式にクウガの持つ能力について知ることができた。
とりわけクウガの究極の力、アルティメットフォームと小野寺ユウスケのみがなれるライジングアルティメットについて知れたのは大きい。
これで今後の具体的な方針を立てられるというものだが、同時に解決すべき懸案の大きさも思い知ることになった。

「超常的な発火能力、三つの専用装備……バーサーカーは能力のほとんどを使えてない……?」

深夜の戦闘でバーサーカーは徒手空拳のみで戦っていた。それは最適だからそうしていたのではなく、能力を使えていないだけだったのではないだろうか?
実際調べた限りにおいても小野寺ユウスケは旅の間積極的に変身して戦うことは少なかったと記録されている。
さらに五代雄介が発現させた金の力なるクウガの中間強化的形態にも目覚めなかったようだ。
超感覚を制御できないこともあってアルティメットフォームが無から武器を生成し敵を発火で燃やせることを知らない可能性も有り得る。

「これは放っておけない……」

これは到底無視できない大問題だ。戦力が大幅に低下したまま戦い抜けると思うほど美遊は楽観的ではない。
とにかく出来ることをするしかない。今調べたことを持ってきたノートに事細かく書き留めておくことにした。
ページの印刷も考えたが誰の目があるかもわからない以上ドアで閉じられたこの個人用のブースで全て済ませるべきだ。




     ▼  ▲




「何だあれ!?」
「火事か?公園の方が燃えてるぞ!!」
「とにかく行ってみようぜ!」

手際よく要点をノートに書き留めた直後、俄かに館内が騒がしくなった。
まさかこんな朝から聖杯戦争をしようというマスターやサーヴァントがいたのだろうか?
ともかく、行ってみないことには始まらない。用件も済んだので美遊も外に出ることにした。

「っ………、すごい熱…!」

外に出た美遊を襲ったのは季節のせいだけではない熱気だった。また遠目からも公園が燃えているのがわかる。
何かが空へ舞い上がった。背中から八枚羽のような炎を噴射しているランサーと思しき黄金のサーヴァント。
見ただけで別格のサーヴァントとわかる存在感。それこそ八枚目のクラスカードの英霊が比較対象に挙がるほどに。
だが驚愕するべき事態はそれから起こった。ランサーが膨大な魔力を伴って投擲した槍と黄金の極大斬撃が衝突し、ランサーを吹き飛ばした。

「美遊様……!」
「今の光は…まさかセイバー!?」

漆黒と黄金の違いはあれど、あの宝具を美遊は嫌というほどよく知っている。セイバーのクラスカードは彼女自身使ったことがあるのだから。
約束された勝利の剣(エクスカリバー)。しかしクラスカードの英霊や自分が使った時以上の威力を発揮しているようにも見えるのは気のせいなのか?

ともあれ、これはチャンスだ。上手くすれば戦闘しているサーヴァントたちのマスターを特定できるかもしれない。
そう思い動き出した時、流星のようにしてセイバーがビルに飛翔し突っ込んでいくのが辛うじて見えた。
あのビルだ。あそこに誰かしらのマスターがいることは最早疑いない。迷わず美遊はビルの方角へと全速力で走った。




     ▼  ▲




「イリヤ!?」

ビルへ向かって走る美遊の目に映ったのは飛翔し離脱していくランサー。そしてランサーに抱えられた無二の親友の姿。
聖杯戦争が終わるまで会うことはないと思っていた。けれど聖杯戦争で出会ってしまったということは、つまり。

「まさかイリヤ様がマスターだとは……」
「そん、な……。じゃあ私は何のために……?」

急速に目の前が真っ暗になるような錯覚を覚えた。
聖杯戦争の勝者はただ一人。優勝を目指すということは即ちイリヤを殺さなければならないということ。
そんなことができるのか?いいや、できるわけがない。美遊が聖杯を目指すのは大切な人たちと生きるためだ。
その中核にはイリヤがいる。そうでなければならない。それなのに。

「美遊様、しっかりしてください!まだイリヤ様と決まったわけではありません!」
「う、うん…。そうだね、本当にイリヤだったのかどうか確かめないと……」

サファイア自身、かなり無理のあることを言っていると自覚している。しているが美遊が完全に戦意を失ってしまえばたちまち他のマスターに狩られてしまうだろう。
美遊もまだ立ち直ったわけではないが、このまま呆けたまま真実を確かめる機会を逃すことだけは有り得ない。
気を取り直し、再びランサーの去った方向へと走り始めた。



「美遊様、あそこです!」
「わかってる!」

いくら小学生としては抜群の健脚を誇る美遊でもキロ単位の距離を走り抜けるのは容易ではない。
時折線路沿いにあるビルの屋上から閃光が放たれる様子とビルの周囲を飛び回る人影が見える。間違いなくサーヴァント同士の戦闘だ。
急ぎはするが焦りは禁物。転身せず、魔術回路の駆動も抑え、バーサーカーも霊体化させたままとにかく急ぐ。

「なっ!?」

ビルが突然火柱に包まれ、消滅した。先ほどの宝具同士の衝突といい、本物のサーヴァント戦とはこうまで甚大な被害を出すものなのか。

「サファイア!!」
「わかっています、ここから先は危険地帯です、転身を!」

寂れたビルに近づいたせいだろう、人気も大分減ってきた。ここまで来ればもう転身を躊躇う理由はない。
魔法少女に転身すると更に加速してビル跡地に接近。ランサーがイリヤを抱えて飛翔していくのが見えた。

「待って!!」
「美遊様!?危険です!!」

跳躍。魔力の足場を作りながら、バーサーカーすら置き去りにしてランサーの元まで跳ぶ。
ランサーは何もしない。去ることも美遊に槍を向けることもなく、追いつかれるのをただ待っていた。

「美遊さんにサファイアちゃん!?どうしてここに……」
「なるほど、イリヤスフィールとルビーの知り合いか」

ルビーの驚いた声がする。どうやらイリヤは気絶していてルビーの機能で強制的にステッキを握らせた状態にしているようだ。
聖杯戦争が終わるまで会うこともないと思っていた親友が目の前にいる。名状し難い様々な感情が去来しているのが自分でもわかる。
だがまずは目の前にいる全てを見通すような双眸のランサーに話を聞いてもらい、そして彼から話を聞く必要がある。

「あなたは、私に槍を向けないんですか…?」
「その必要がない。お前たちには何の敵意も害意もない。
イリヤスフィールは良き友人を持ったようだな。友とは得難いものだ」

怜悧な印象とは裏腹に言葉は穏やかだった。あるいは彼の言う通り、自分がイリヤに何の敵意も抱いていないからなのだろうか。

「とにかく、ここはすぐに人が集まってきます。
私の家がここから近いから、そこに来てください。信じてくれるなら、ですけど」
「そうか。では好意に甘えることにしよう。いや、人から何かを施されるのは何時以来だったか」




     ▼  ▲




黄金の鎧が目立つランサーには一度霊体化してもらい、美遊がイリヤを抱きかかえて空を跳び、窓から自宅に入った。
もしもの時を考えて鍵を開けておいて正解だった。閉めていたら割ってでも入るしかないところだった。
頭を強く打ったのか未だ目を覚まさないイリヤをベッドに寝かせ、美遊とサファイアはランサーとルビーから話を聞くことにした。

「それで姉さんにランサーさん、一体何があったんですか?」
「ええ、取り敢えずかいつまんで話しますけど……」



先ほどまでの出来事をルビーと、時折ランサーが注釈を加えながら話した。
二体のセイバーの戦闘に割って入って優勢に戦っていたもののビルに隠れていたイリヤを発見され撤退を余儀なくされたこと。
その後バーサーカー、キャスター、アサシンに続けざまに襲われ、辛くも退けることに成功したこと。
そしてアサシンはイリヤに変装していたということ。

「イリヤに変装…?どういうこと?」
「確かに解せませんね。事前にイリヤ様を尾行して姿を確認していたと仮定しても殺す対象に変装する必要などあるものでしょうか?」
「それは私にも…。はっきりしているのはアサシンは他人に寸分違わず変装するスキルなり宝具なりを持っている、ということぐらいですね」
「そして現状我らは少なくとも四騎のサーヴァントから敵視されている。彼らが合力して攻め寄せてくればオレでも次は凌げん」

そう、現状イリヤとランサーは限りなく詰みに近い状況に追い込まれている。
ランサーには及ばないとはいえ紛れもなく一流の格と実力を備えた二人のセイバー、魔術に依らないスキルを備え自由自在に転移を操るキャスター、他人への変化能力を持ったアサシン。
全員が高い実力とマスターであるイリヤを狙うことを躊躇しない精神性を持っており、彼らのマスターまでが出張ってくれば敵は八人にもなる。
しかもそれとて「彼らに他の同盟者が一人もいなければ」という前提に立った場合の話であって、潜在的にはさらに多くのマスターから敵視されているかもしれないのだ。
このまま座して待っていれば美遊とバーサーカーがイリヤに味方したとて到底次の敵襲は防ぎ切れるものではないことは明白だ。
マスターが隠れたところで諜報に長けたキャスターとアサシンが敵にいる時点でさしたる意味はない。

おもむろに美遊がイスから立ち上がり、鞄から先ほどのノートを取り出した。
そして変身していない、生身の姿を晒したバーサーカーにノートを見せた。

「美遊さん?一体何を……」
「誰が相手でも、どれだけ多くの敵がいたとしても、イリヤが殺されることは阻止する」
「バーサーカーのマスターよ、それは問題の先送りに過ぎない。聖杯戦争のルール上、最後には必ずイリヤスフィールと殺し合うことになる」
「それでも!私はイリヤに死んでほしくない!
先延ばしなのはわかってる。でも守りたいの……友達、だから」

美遊の傍らでバーサーカーはクウガの力について書かれたページを食い入るように見ていた。
バーサーカーと言えど常に割り振られたランク通りの狂化スキルを発揮しているわけではない。少なくとも小野寺ユウスケの場合は美遊の意思によって狂化の段階を抑えることができる。
変身せず、狂化を抑えた状態ならば会話や複雑な思考は困難でもある程度の意思疎通や文字を理解する程度のことは可能だ。
この事実を理解していたからこそ美遊は図書館で調べた内容をノートに書き留めておいたのだった。

「バーサーカー、貴方は本来これだけの事が出来る力がある。わかる?」

こくり、とバーサーカーは頷いた。狂化しきっていない今なら、頭の中でならノートの内容を諳んじることもできる。
しかしいざ変身してしまえば上手く能力を扱えるかはバーサーカー自身にさえわからない。
今でさえアルティメットフォームの超感覚とパワーを使いこなせていないというのに。
だが美遊もそれはわかっている。迷わず令呪を翳した。

「バーサーカー、クウガの力を制御して使いこなして」

令呪の光が赤く輝く。
これが咄嗟に考案した令呪の使い方。令呪とは具体的、瞬間的な命令であるほど効果を発揮するが過ぎれば効果が限定的になってしまう。
無論曖昧過ぎれば効果は薄い。その意味で美遊が考えた命令内容は匙加減をよく見極めたものではあった。
本来持っている能力を過不足なく扱えるようにするという命令ならばサーヴァントに無理な負荷や反動をかけることもない。
更に言えばバーサーカーは超感覚を制御し使いこなそうという意思は持っている。つまり命令内容とバーサーカーの意思は合一されており、更に高い効果が見込める。

バーサーカーとのラインを通じて美遊は使った令呪に確かな手応えを感じていた。
今までよりレイラインが淀みなく、澄み渡っている。これならば深夜に敗北を喫したセイバーやランサーにももう遅れは取るまい。
バーサーカーも美遊の戦意に応じるように黒いオーラを纏ってクウガ・アルティメットフォームへと変身を遂げた。
その挙動には最早一片の淀みもない。究極の名を冠する戦士がここに完全な復活を遂げたのだ。

「美遊さん、どうするつもりですか?」
「セイバーやアサシンたちが連携して攻めてくる前に各個撃破する。それしかイリヤを守る方法はない」
「確かに、一理はある。特にキャスターとアサシンは連携に難を抱えていたようだ。
オレを引きつけておくつもりだったであろうキャスターと敢えてイリヤスフィールに変装したアサシン。恐らく彼らの思惑はそれぞれ別のところにある。共に行動しているとは思えん。
無制限に魔力の供給を受けられるオレやバーサーカーと違いあちらの魔力は有限だ。消耗している今、強襲するのは悪くない手だろう」

ランサーのお墨付きを得るまでもなく美遊は今、ここでバーサーカーを動かしキャスターとアサシンを潰す決意を固めた。
如何に令呪で本来の力を発揮できるようにしたとはいえ、実戦で一度も試さないまま三騎士にぶつけるのは過信というもの。
故にこそ、純粋な戦闘力でセイバーには劣るキャスター、アサシンに狙いを定めた。

「行って」

深夜の時と同じく、バーサーカーがベランダから外へ跳躍した。違うのは、その身体、形状を空中で変化させ飛行していること。
ファイナルフォームライド・アルティメットクウガゴウラム。自力での変形が可能な小野寺ユウスケのみに許された能力だ。
一切の迷いなく、バーサーカーが空を自在に駆けていく。
アサシン・千手扉間、キャスター・兵部京介が目論んだ包囲計画の、崩壊の序曲だった。




     ▼  ▲




本来、この早期にイリヤスフィール・フォン・アインツベルンと美遊・エーデルフェルトが合流することは有り得ないはずだった。
騎士王と最強の戦士(クレイモア)との交戦の後、カルナは上空から新都を離脱しイリヤの自宅がある深山町へと向かっていたからだ。
途中でバーサーカー・サイトに遭遇したものの、彼との戦闘時間はごく僅かであり、美遊がその僅かの時間のうちに追いつくことはできないはずだった。
その定理が覆ったのは、兵部京介と千手扉間がイリヤを仕留めるため更なる戦闘を仕掛けたからに他ならない。

英霊カルナは確かにこの聖杯戦争において最強と呼んでも過言ではないほどの、桁外れの戦闘力を持つ破格のサーヴァントだ。
故にこそ、その図抜けた力を危惧したキャスター、アサシンら四騎のサーヴァントは協調を図りカルナとそのマスターたるイリヤを早期に排除しようとした。
さらに襲撃が失敗に終わることをも見越してメディアにカルナの姿を流すことによってまだ見ぬ他陣営にカルナを警戒させようと目論んだ。その並外れた実力を見ればどんなマスターであれ危機感を覚えカルナを排除するに違いない、という予測を立てて。
決して誤った予測ではない。強大な敵を団結して打倒することも間違っていない。どちらもバトルロワイアルにおいて否定するべくもない、一面の真理である。

しかし言い換えるならば、それらは真理の一面に過ぎない、ということでもある。
扉間の立てた策は「映像、あるいはカルナの戦闘を見た全てのマスター、サーヴァントが一人の例外もなくカルナ排除に動くこと」を前提として成り立っている。
もっと言えば、全ての陣営が自分たちではなくカルナだけを警戒する、という前提だ。つまるところ彼らの策とは、扉間及び病院にいるサーヴァントにとって都合の悪い紛れが一切入り込まない、という前提なしには成立し得ないものだったのだ。

そんな彼らの致命的な穴を抱えた策はたった一人の少女の我が儘によって、当然の如くして崩れ去った。
確かにカルナの戦闘能力を一度見れば多くの者は警戒心ないし危機感を抱くだろう。しかしそれは、カルナを相手に立ち回ったキャスターやアサシンが警戒されないことと同義ではない。
まだ見ぬ陣営の性質や能力如何によっては、キャスターやアサシンの方が警戒され、排除対象となり得るということに兵部や扉間は気づけなかった。自分たちのスキル、宝具がどれほど脅威と捉えられるのか考えもしなかった。
何よりも、カルナの側に加勢する陣営が現れるということを想定することができなかった。

美遊というイリヤの友人の存在を事前に想定しろ、というのは酷な話ではあるだろう。しかしながらカルナ、イリヤの存在を利用しようとする者が出ることを予め想定することは可能だった筈なのだ。
何故一流のアサシンでありキャスターであるはずの彼らが有り得ざる見落としをしてしまったのか。結局のところ、答えはカルナの存在に帰結する。
カルナはあまりにも強大な脅威でありすぎた。ある種、太陽の強烈な日差しのような存在感を放っていた。
強烈に過ぎる光に目を奪われるあまり、その光を取り除かんと躍起になるあまりキャスターらは足元への注意が疎かになってしまった。本来持っていたはずの見識を曇らせてしまった。
結果、友人の窮地を救わんとする一人の少女の存在を見落としてしまったのだった。

あくまで結果論ではあるが、この早期にイリヤとカルナの排除に動き、そして仕留め損なったという事実は兵部や病院にいる同盟軍の状況をより悪化させる結果に終わった。
本来なら凄まじき戦士とも呼称されるクウガ・アルティメットフォームに変身する小野寺ユウスケが自らの超感覚、武装を扱いこなせるようになるのはもっとずっと先になるはずだった。
そうはならなかったのは言うまでもなく美遊が令呪の使用に訴えたからであり、美遊がこの早期に令呪の使用に踏み切ったのはイリヤを取り巻く状況があまりに悪いことをカルナ、ルビーを通じて知ってしまったからに他ならない。
もし何か別のきっかけでイリヤと美遊が合流を果たしたとしても、四以上の陣営から敵視されているという極端に劣悪な状況を知ってさえいなければこの令呪は使われなかっただろう。本来美遊にはそうそう令呪を切らないだけの慎重さがある。

奇襲性、というものが重大な要素(ファクター)となる聖杯戦争において知っていることと知らないこと、知られていることと知られていないことの間には天と地の差が存在する。
二人のセイバーとカルナの戦闘直後の時点では兵部や扉間の存在はイリヤ、カルナには露見していなかった。
もし兵部、扉間らが一方的にカルナの陣営の存在を知っているというアドバンテージを活かすことができていたなら。長期的な視野を持って策謀を駆使して、曲がりなりにもカルナに抗し得たセイバーや、扉間が以前に相対したバーサーカー・ヘラクレスを動かすことを考えていたならば、この破綻は避けられただろう。
しかし今となっては全てが過ぎ去ったIFでしかない。情報のアドバンテージを軽んじた彼らの策は美遊の存在を知らなかったというディスアドバンテージをきっかけとして崩壊する。



     ▼  ▲




ゴウラムへと姿を変じたバーサーカーは迷わずまっすぐに兵部京介と天沢勇子のいる天沢宅へと向かっていた。
何故バーサーカーだけが一方的にキャスターを捕捉できるのか。答えは簡単、今のバーサーカーにはその卓越した超感覚によってキャスターの姿が視えているからに他ならない。
障害物があろうと、ジャミングや結界の類を施していようと一切関係なく、気配遮断のスキルすらも意味はなく、マスターとサーヴァントを繋ぐレイラインを含めた全てをバーサーカーの五感は明瞭に捉えていた。

先ほど美遊がランサーとキャスターらが戦闘を行っていたビルに走って行っていた時もバーサーカーは遠目にキャスターの姿を視認していた。
サーヴァントは実体化なしに現世に干渉することはできないが、霊体となっていても現世を視認することなら可能なのだ。
後は単純な話。クウガに変身してから先ほど視た男を探せば良い。それだけでバーサーカーには事足りる。



天沢宅まで距離にして数百メートルというところまで接近したところで徐に変形を解除。空中でキックの構えを取った。
Aランクの対軍宝具にも勝るとも劣らない威力の乗せられたライダーキック。そこに落下のエネルギーまでもが加えられた一撃を繰り出す。
着弾。轟音。誰が予想しよう、たった一人のヒトガタが放った蹴りで住宅一つが丸ごと壊滅しようなどと。
対侵入者用に備え付けられていたトラップやセンサーの類も上空からの、常軌を逸した衝撃の前にはあまりに無力であった。
白昼堂々、空からの奇襲。まっとうなサーヴァントであればこれだけでマスター諸共粉砕されているだろう。
だがバーサーカーにはわかる。手応えがない。倒すべき敵は未だ存命している、と。



―――これは一体どういうことだ。
突如として自分たちの拠点の一つを粉砕した敵を見据えながらキャスターはそう思考する。
バーサーカーのライダーキックが直撃する寸前、敵の気配を察知したキャスターは咄嗟に勇子を抱えて瞬間移動(テレポーテーション)し難を逃れていた。
透視、遠方視の能力を備えていることは間違いない。奴の攻撃は明らかにキャスターへの直撃コースを辿っていた。

勇子は敵サーヴァントの姿を一目見ただけでその禍々しい容姿と殺気に充てられ失神してしまった。
相手が並レベルのサーヴァントならこうはならなかったろうが、目の前にいる四本角の怪物はステータス透視能力を持たない兵部からしても圧倒的な力を持つ存在であるとわかる。
そんな文字通りの化け物を見てしまったのだ。なけなしの勇気や闘志を一瞬にして砕かれるのは全く以って仕方のないことだ。

問題は何故全く関わりのないサーヴァントがピンポイントで自分たちを狙って奇襲してきたのか、という点だ。
無論聖杯戦争であるならば何時如何なる時でも敵の襲撃はあって然るべきではあるのだが何故このタイミングなのか。
ちょうどこれから病院にいるサーヴァントらとの同盟を継続し、黄金のランサー主従を追いつめていこうとしていたこの瞬間に敵襲とは何か作為を感じずにはいられない。


(まさか……既にあの子には同盟相手がいたのか?だとすれば迂闊だったか……)


考えてみれば自分やアサシンはランサーとそのマスターが単独でいるところを襲撃したが、単独でいたからと言って絶対に味方がいないと断言はできない。
どこかに組んだ相手がいたのなら今こうして目の前のサーヴァントの奇襲を受けたことにも一応の説明がつく。
仕掛けるにせよ、もっとランサーのマスターについて調べてからにするべきだったかもしれない。

(まあいいさ。拠点ならまだあるし、逃げるだけならこっちは自由自在だからね)

キャスターたる兵部と勇子は既に複数の拠点を用意している。他のクラスのサーヴァントではそうそう真似できない、キャスター故の特権。
少なからず魔力を消費している身で能力が未知数のサーヴァントと正面から事を構えるほどキャスターは愚かではない。即座に逃げる算段であるし、逃げた後に態勢を立て直すことなどは造作もないことだ。

とはいえあちらは既に万全の態勢に移行している。瞬間移動をするにしても、無策で行うのはさすがに不味い。何か隙を作る必要がある。
先ほどランサーにしたようなサイコ・キノを全開にした全霊の攻撃はできない。正確には不可能ではないが今それをやってしまうと魔力が続かない。
故にここは小手調べに徹する。念動力(サイコキネシス)で近くで乗り捨てられていた大型トラックと乗用車を浮遊、加速させ四本角へと高速で発射。

本来神秘、魔力を伴わない攻撃手段はサーヴァントに対して有効打とならない。しかし何事にも例外はある。
念動力によってキャスターの魔力が通されたトラックと乗用車は、今この時に限りサーヴァントをも圧し潰し圧殺する質量兵器としての役割を果たす。
そこらのサーヴァントなら何らかのスキルなり宝具なりを使わなければ脱し得ない窮地。だがバーサーカーはそこらのサーヴァントとは次元が違う。

受け止めた。大質量に僅かに押されながらも両の腕でトラックと乗用車を真正面から受け止めた。
ここまではキャスターの想像の範疇を出ない。驚きはここから。バーサーカーがトラックと乗用車を接合させると瞬時に二台の車がその形を変えた。
生まれたのは砲台ともバズーカとも思える未知の大型兵器。迷わずバーサーカーがその発射口をキャスターへと向けた。



小野寺ユウスケがいた世界とは異なるクウガの世界で、試作型のアークルを身に着けた女がいた。
女が変身した、心の闇に支配されたもう一人の凄まじき戦士はモーフィングパワーで東京タワーを「怒りの塔」とも呼べる巨大ビーム砲台「鋼の蕾」へと変貌させた。
今バーサーカーが行ったのはそれに近しい。作り出したものは言うなればミニチュア版鋼の蕾とも言える大口径ビームバズーカ。
腹部の霊石アマダムから無限大のエネルギーが担いだ砲台へと注ぎ込まれる。この鋼の蕾から発射された砲撃は並のサーヴァントが持つ対軍宝具すら凌ぐ威力になるであろう。


(大した大道芸だけど、そんな大味な攻撃、当たらなきゃ意味ないよ)



しかしキャスターは余裕を保ったまま内心でほくそ笑む。彼にはマスターを抱えたまま瞬間移動を行うという、絶大なアドバンテージがある。
超が語頭につくほどの一流魔術師のサーヴァントであっても自らが構築した陣地でしか使えない転移を兵部京介は何処であろうと自在に扱いこなす。
無論仕掛けが割れれば対策される類の超能力ではあるが、まさか一度見た程度で対処できるはずがない。事実黄金のランサーでさえ時間を掛けなければ目を慣らすことさえできなかったのだから。

発射口に光が集まり、今にも砲撃が放たれようとした瞬間、キャスターは瞬間移動で未遠川上空まで移動した。相手のリアクションを確認しつつ次の行動を選ぶためだ。
全く以って非の打ちどころのない、最適な行動。守るべきマスターが気絶し、自らも消耗し、令呪の援護も受けられない身でありながら兵部は最適解を選び続けている。



―――ただ、一つ。問題があったとするならば。
既に盤面が詰んでいたことに、兵部自身が最後まで気づけなかったことだけか。



「―――は?」



状況を理解する暇は刹那も与えられなかった。
回避したはずの鋼の蕾から放たれた蒼白い光条が急速に視界を埋め尽くしていく……。それが兵部京介がこの世界で最期に知覚した光景だった。
光が天沢勇子の幼い肉体を、兵部京介の仮初の肉体を細胞レベルまで焼き尽くし、存在の痕跡そのものを消し去った。



クウガ・ペガサスフォームは数キロ先の僅かな音さえ鮮明に拾い上げるほどの超越的感覚を持つ。
仮面ライダーディケイドこと門矢士はこの力を使い、カブトの世界のワームが操るクロックアップをすら打ち破ったことがある。
そしてアルティメットフォームの超感覚の性能はペガサスの優に数十倍。その他の追随を許さぬ知覚が捉えるものは魔力の波長だけではない。
敵の筋肉や血管の動き、大気を流れる粒子、魔力の流れ等を微細に感知することで英霊でさえ不可能なほどの先読みを働かせることができる。

一対一の喧嘩において、相手が「右ストレートで殴りかかってくる」ことが予備動作に入った瞬間からわかっていれば当然圧倒的な優位が得られ、容易にカウンターを取れる。
今バーサーカーが行ったのはまさにそれだ。バーサーカーはキャスターが瞬間移動を行う寸前には転移先をコンマ一ミリのズレもなく看破していたのだ。
後は簡単だ。キャスターが瞬間移動を終えたその瞬間に命中するようタイミングを合わせて方向転換し発射した。

無論瞬間移動が初見であれば今のバーサーカーであっても見切れはしなかった。
しかし先ほどライダーキックが回避された際に、バーサーカーの超感覚は兵部の瞬間移動の性質を余さず読み取っていた。そうである以上、当然二度目は通用しない。
「バーサーカーと相対する」、「一度でも瞬間移動を見せる」、「マスターである勇子が令呪を使えない」。この三つの条件を満たした時点でキャスターは何をしようと敗北・消滅を運命付けられていたのだ。
とはいえそれはキャスターが弱兵であることを意味しない。兵部はキャスターとしても指折りの実力者の一人だ。
しかし相性の優劣は兵部の実力を以ってしても如何ともし難かった。反則的な見切りの性能、超能力攻撃の無効化、極めて堅固なアーマーを併せ持つクウガ・アルティメットフォームはまさしく兵部京介の天敵だった。


(…よし、キャスターは倒せた。次はアサシン。何としても見つけ出さないと。
ありがとうバーサーカー、一度戻ってきて)



視界共有で状況の一部始終を見届けていた美遊が念話で指示を飛ばす。バーサーカーは素直に頷き再び変形し空を舞い、深山町を後にした。
ここに、対カルナを目的に掲げた四者同盟。その一角が潰えた。


【天沢勇子@電脳コイル 死亡】
【キャスター(兵部京介)@The Unlimited 兵部京介 脱落】

【未遠川上空/2014年8月1日(金)1049】
【バーサーカー(小野寺ユウスケ)@仮面ライダーディケイド】
[状態]
筋力(100)/A+、
耐久(50)/A、
敏捷(50)/A、
魔力(50)/A、
幸運(30)/C、
宝具(??)/EX、
健康、アルティメットクウガゴウラムに変身中
[思考・状況]
基本行動方針
美遊を守り、命令に従う
1:蝉菜マンションに戻る
[備考]
●美遊の令呪により超感覚の制御が可能になりました。以降常にフルスペックを発揮可能です。
●各種ライジング武装、超自然発火が使用可能になりました。
●少なくとも魔力放出スキルによるダメージは無効化できません。


【新都、蝉菜マンション/2014年8月1日(金)1049】
【美遊・エーデルフェルト@Fate/kaleid liner プリズマ☆イリヤ】
[状態]
私服、びっくり、頭痛(無視できる程度)
[装備]
カレイドサファイア@Fate/kaleid liner プリズマ☆イリヤ
[残存令呪]
3画
[思考・状況]
基本行動方針
月の聖杯の力で自分の世界を救う
1:誰が相手であろうと、絶対にイリヤは殺させない
2:キャスターは倒せた。次はアサシン……
3:夏休み……
[備考]
●予選期間中に視界共有を修得しました。
しかしバーサーカーの千里眼が強力すぎるため長時間継続して視界共有を行うと激しい頭痛に見舞われます。
また美遊が視界共有によって取得できる情報は視覚の一部のみです。バーサーカーには見えているものが美遊には見えないということが起こり得ます。
●セイバー(テレサ)の基本ステータス、ランサー(真田幸村)の基本ステータス、一部スキルを確認しました。
●月海原学園初等部の生徒という立場が与えられています。
●自宅は蝉菜マンション、両親は海外出張中という設定になっています。
また、定期的に生活費が振り込まれ、家政婦のNPCが来るようです。
●バーサーカー(小野寺ユウスケ)の能力及び来歴について詳細に把握しました。
五代雄介についても記録をメモしていますが五代が参加しているとは思っていません。
●冬木市の地方紙に真田幸村の名前と一二行のインタビュー記事が乗っています。他の新聞にも載っているかもしれません。

【イリヤスフィール・フォン・アインツベルン@Fate/kareid liner プリズマ☆イリヤ】
[状態]
ダメージ(小・回復中)、髪がちょっと短くなった、私服
[残存令呪]
3画
[思考・状況]
基本行動方針
聖杯戦争に優勝してリンさんを生き返らせる
0:………
1:わたしと同じ顔と名前のバーサーカーのマスター…?
2:ランサーさんから離れすぎないようにする
[備考]
●自宅は深山町にあるアインツベルン家(一軒家)です
●変身は現在は解除されています
●ランサー(カルナ)から「日輪よ、具足となれ」を貸与されています

【ランサー(カルナ)@Fate/Apocrypha】
[状態]
筋力B(40)
耐久C(30)
敏捷A(50)
魔力B(40)
幸運A+(30)
宝具EX(?)
ダメージ(中・回復中)、魔力消費(微・回復中)
[思考・状況]
基本行動方針
イリヤスフィールを聖杯へと導く
1:キャスター(兵部京介)は討たれたか……
2:美遊との同盟を継続するかはイリヤスフィールに委ねる
[備考]
●セイバー(アルトリア)、セイバー(テレサ)の真名を把握しました
●バーサーカー(サイト)の真名を把握しました。
●キャスター(兵部京介)の真名に迫る情報を入手しました。
●アサシン(千手扉間)の情報を入手しました。
●「日輪よ、具足となれ」をイリヤに貸与しているためダメージの回復が遅れています。
返却されれば瞬時に回復するでしょう。