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 のび太の目はとっくに赤く腫れ上がり開くには痛みを伴うほどになっていた。それは怪我によるものではない。もっと言えば、その体に怪我らしき怪我はない。全身に打撲こそあれど、端から見ればわからないだろう。精々目に見える外傷は擦り傷程度だろうか。


 のび太は動かなかった。気絶しているのか眠っているのか放心しているのか。そのどれでもありどれでもないのかもしれない。マシン油の匂いを頭のどこかで感じながらもダンゴムシのように体を丸め、目から止めどなく流れた涙がシャツをしとどに塗らし、咽ぶ。まるで死後硬直したように微動だにせずに、夏の暑さとは対称的なガレージの冷たい床に倒れ込んだまま。この一人の少年は既に死んでいる、どのような手出しも無意味だ。そんな考えを見たものに抱かせるような、生気なき姿。


 のび太の中にある感情は暴風雨の性質とアスファルトの性質とを持っていた。怒りや悲しみと単に表現することはできないなにかが、粘り気を持って荒れ狂う。凝り固まりながらまるで無秩序に心が常に揺さぶられ続ける。絶望、悲哀、憤怒、喪失感、無力感、その他言葉にしようのないわけのわからない気持ちのオンパレード、脳内ニューロンを行き交うパルスは直線ドリフトを極めながら掟破りの急静動を繰り返す。逃避も直視も許されない、それだけで人一人殺し得るシナプスの明滅が、のび太を蝕み続けていた。それは最後の輝きだ。人間が人間でなくなるときの。その輝きが切れかかった蛍光灯のように明滅する度に、閉じた目の視界のすみに青い体がちらつく。のび太の元にある日現れ、共に笑い共に泣き、時に喧嘩した、そのタヌキのような猫型ロボットが。ひたすらにそれが現れては消えた。



「う~~~んッ……」

 ナノカ・フランカは大きく伸びをすると、ふぅ、と息を吐いた。
 ベタつく日本の夏はナノカの作業着(といっても普段の制服なのだが)を汗でしっとりと濡らして肌に張り付いている。汗止めに巻いていたタオルで首回りを雑に拭くと、作業台から立ち上がりバタバタと扇いだ。

 時間にすれば六時間ほど、ナノカは作業台から動かなかった。その為か下半身を中心に倦怠感と鈍痛がある。特に腰回りが酷い。ストレッチが必要だ。そして何より、この暑さだ。一応ガレージにも冷房はあるものの広さを考えればいまいちその役目は果たせているとはいえない。扇風機もあるのだが……

「ちょっと作りすぎたかな……?」

 そう呟きながら向けた目線の先には、鈍い光を返す銃弾が隊列を組むかのごとくに並んでいた。
 ガンパウダーを扱っている時に扇風機など向けられないだろう。


 予選中にした用意の殆どが失われはしたが、さすがにマスターの経験までは没収しないことに聖杯はしたらしい。ならばナノカとしてはそれまでの蓄積されたノウハウを活用して再び体勢を整えるまでだ。
 幸い、最も重要なノウハウである日本の現代知識はある程度押さえてある。銃刀法や爆発物取締法など、今後最も色々とお世話になるであろう法律の知識は一通り学び、それらを犯さない『発明』の構想もある。とは言え、まだ実用化できたわけではないし初日から戦闘がないとも限らない、そこでまずは銃弾を作っていたのだ。
 といっても少々作りすぎたかもしれない、元から持っていた分と合わせれば千発近くある。これだけの数になると重さもあるしかさ張る。良い保存方法を見つけないと……


「ナノカ、あと十五分程だと。」
「はーい。」

 ナノカがこめかみをつっつきながら考えていると、一匹の黒豹が人語を話ながらガレージへと入ってきた。スラッシュ。ナノカのサーヴァントであるアーチャーの、そのまたサーヴァントのような存在、というのが説明としては正しいだろう。立場としては、ライダー・少佐が呼び出す『戦鬼の徒』に近い。その黒豹が背中に服を載せてのそりとナノカに近づくと「メシまでにシャワーを浴びておけ」と渋い声で言った。

「しかし、毎度毎度良く汚す。年頃の娘とは思えんな。」
「あ!それセクハラ。」
「何がセクハラだ。だいたい、こんなキツい匂いの場所に良くいられるものだ……」

 そう言うと、スラッシュはガレージの奥を見る。扇風機の集中砲火を受ける一人の少年ーーのび太をじいと見ると、「アイツは見ておく」と不満そうに言った。

「なるべく早く起きてもらいたいものだがな。」
「……やっぱり、病院に連れてった方が良かったのかも……」
「どんな人間かわからないのにか?子供とはいえ、マスターだぞ。」
「ん~~~……」

 悩むナノカに「食ってからでも考えればいい」と言うと、スラッシュはその場に伏せる。背中の着替えを早くとれという言外のメッセージを態度で示しながら。

「……この匂いは、カレー?」
「それと味噌汁。」

 着替えを手にガレージから出たナノカの鼻を香ばしい香りが包む。背中にかけられた言葉に適当に答えを返しながら、ナノカは風呂場へと向かった。



「「いただきまーす。」」

 皿に盛られたカレーと同じように湯気を髪から立てながらナノカはスプーンを口に運んだ。

「おお……!おいしい、私が前作ったレシピのカレーより味にコクと深みがある。バター?隠し味に使ってます?」
「はい、それにニンニクと生姜も少し。長丁場なら体力のつくものをと思って。」
「なるほど、それにしてもちょっと量が多い気が……」
「まだ六人前あります……何かある前に作れるうちに作っておこうと思ったんですけど……」
「何かある前、ですか。」

 アーチャーは口の中のカレーを飲み込むと麦茶に口をつけた。

「あれからこの辺りを偵察したんですが、特に怪しい所はありませんでした。少なくとも、線路の海側のこっちの方には。」

 アーチャーの目はガレージへと向いていた。あれからというのは、謎の少年が現れてからのことだ。

「この家を見て回ったあと、簡単なトラップを何ヵ所か仕掛けておいたんです。鳴子っていう、古典的なブービートラップなんですけど、触れると音がするようになってる。」
「ガレージは特に侵入が容易なので念入りに仕掛けておきました。それにスラッシュに警戒しててもらってました。」
「それなのに。」
「気がつけばガレージに、知らない人間が、しかもマスターで、しかもしかも気絶している。」

 「妙ですね」とナノカは頷いた。

「こんなの空を飛ぶか瞬間移動てもしない限りムリなはずなんです。しかも隠密に。」
「そうまでして侵入してきたのに、ガレージで気絶するっていうのもお粗末すぎます。」

 「六時間くらい気にしてたんですけど」とナノカは話を引き取った。

「その間本当になんにも動かないんです。」
「まほろさんがあの子の応急手当してたときもそのあと私が弾を作っている時も全然動かないんです。本当に死んだみたいに。」

 う~ん、と二人はうなり声を挙げた。
 彼女たちからすれば、突然自分達の拠点に他のマスターが現れ、しかも気絶している、という状況だ。これでは訳がわからない。
 なんとなく怪我の状況から、他の主従との戦いに破れて宝具かなにかでマスターだけ逃げてきたのではないかと想像したりもしていたが、それだけ追い詰められているなら令呪を使わないのはおかしい気もする。

 その他にも二人はあーだこーだと少年について推測を話し合うが、どれも正解には程遠そうだ。そうこうしているうちにすっかり昼食を食べきってしまった。


『来てくれ。』


 スラッシュからの連絡が来たのは、そんな昼食の皿を片付け始めた頃のことだ。
 すぐさまナノカはガレージを隙間から伺う、奥の方でなにかが動いた気がした。アーチャーもいつの間にか後ろに張っている。

『奴が起きる。』

 二人が感じていた謎は、以外にもあっさりと解かれそうだった。



【新都線路北側、某町工場兼一軒家/2014年8月1日(金)1224】

【アーチャー(安藤まほろ)@まほろまてぃっく】
[状態]
筋力(40)/B
耐久(28)/D
敏捷(50)/A
魔力(41)/B
幸運(150)/A++
宝具(40)/B
満腹、魔力上昇(微)、微細な改造?
[思考・状況]
基本行動方針
マスター第一。
1.謎の少年(のび太)に接触する。
2.今後についてマスターと話し合う。
[備考]
●自宅内のガレージを中心に鳴子を仕掛けました。

【スラッシュ@まほろまてぃっく】
[状態]
健康。
[思考・状況]
1.謎の少年(のび太)を監視する。

【ナノカ・フランカ@蒼い海のトリスティア】
[状態]
満腹、風呂上がり。
[残存令呪]
3画
[思考・状況]
基本行動方針
家に帰るのが第一、聖杯の調査が第二。
1.謎の少年(のび太)に接触する。
2.今後についてアーチャーと話したりいろいろ「用意」したい。
[備考]
●予選より装備が充実しました。
●ドグラノフ、及びその弾薬千発を自宅ガレージ内に所持しています。

【野比のび太@ドラえもん】
[状態]
目覚め?、軽傷、ひみつ道具破損
[残存令呪]
3画
[思考・状況]
基本行動方針
聖杯戦争を止めて家に帰る。
1.???
[備考]
ドラえもんの四次元ポケットを持っています。