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日常のオワリ 物語のハジマリ - (2016/10/31 (月) 22:12:35) のソース

**日常のオワリ 物語のハジマリ ◆YlfcDuGY1.

僕の名前は郷音ツボミ。
明るく前向きになれる歌とエロかっこいい踊り、爽やかなエクボが売りのボーイッシュ系売れっ子アイドル「ごーね!☆」で通ってる女の子だよ♪

僕は数年前に蒸発したパパを探すために健気に歌い続けてる。
日本のどこかにいるパパに歌が届くように、できれば帰ってきて欲しいからどうしてもトップのアイドルの地位が必要だった。
大好きなパパ……僕はあなたのために必死で歌ってるよ、早く会いたいよ……



それで大舞台で歌い続けるために僕は、なんでもやってるよ。
死に物狂いの練習? くだらないバラエティ番組の参加?
ノンノン。それらも確かにやってるけど、それだけじゃないよ。

邪魔な奴に冷たい言葉や熱い拳を使って大人しくしてもらったり。
お金が欲しい人にお金をあげて色々手伝ってもらったり。
重役のオッサンと一緒に寝て仕事をたくさんもらったり。
会社の人や狂信的なファンの奴らに手伝ってもらって仕事をスムーズにしてもらったりもしているよ。
あ、自信過剰でもなんでもなく、歌やダンスに関しては実力だからね?
歌とダンスだけでは届かない部分を補ってるだけだし、他にもやってる人はいっぱいいるでしょ。たぶん。

で、この前は、僕の対抗株だった実力派アイドルの井上快夢さんがあまりにも邪魔だったから、狂信的なファンをけしかけてビルの屋上から真っ逆さま落ちてもらったよ。
例のファンにはお仕事のご褒美に抱いておいたよ……できれば都合が悪くなる前にこいつも近々消しておきたいけどね。
ペシャンコになった快夢さんには悪いけど、これもパパのためだからね。
そしてライバルも消えて晴れ晴れした気分で歌うために舞台裏からステージに行こうとした瞬間――ステージの照明より遥かに眩しい光が僕を飲み込んだ…… 


目を開けると僕はやたら広く薄暗い空間、その空間の冷たい床に転がっていた。
何事かとすぐに体を起こす。
だんだん脳も起き上がってきて鮮明になっていく感覚の中で、この空間には雑多に人がいることがわかった。

高校生が数人、小中学生ぐらいの小さな子もいる。
どっかのスーツ姿のお偉いさんやおまわりさんに消防士さん。
汚らしい浮浪者もいればおじいちゃんも。
人間だけじゃなくて檻に入れられた虎までいるし。
ってあれは、アイドルのKENGOさんじゃないの!?
あっちはハリウッドスターのレオポルド・ガーネットじゃん!
あ、グズのユーリちゃんまでいる。やっほー、元気してた?(棒)。
なんて考えつつ、僕は周囲の人達を冷静に観察した。
差異こそあるけど、みんな戸惑っている様子だ。
よく見るとみんな同じ機械でできてそうな首輪をつけている。

首輪……?
自分の首元に触れると、みんなと同じ首輪を僕もつけていることがわかった。
窮屈でなんか気持ち悪いなあ……飼い犬プレイは枕でもしたことないよ。
だけどこの首輪、引っ張っても簡単には外れてくれない。
どっかに外すための仕組みとかあるのかな? などと思いつつ、僕は首輪を指で調べようとした。
その時だった。

「そこのオレンジの衣装の女! 首輪を弄るな!!」

オレンジの衣装と言えば、僕が着ているステージ衣装のことだ。
どこからともなく聞こえてきた男の声に大声で注意された。
それにしても売れっ子アイドル相手にずいぶん態度がデカくてムカつくなあ……なんて考える前に、一箇所に向けてスポットライトが照らされた。
僕や他の人の視線が照らされたステージとその上に乗る灰色のローブを深々と着込んだ男に集中する。
ライトが眩しすぎるせいで男の顔がローブの影で隠れてよく見えない。


「全員起きたようだな。
俺の名前は……ナオ=ヒューマ。
ちょっと俺の暇つぶしに付き合ってもらうために、お前達には集まってもらった」

ヒューマという男は尊大な態度で僕達みんなに話しかける。
この時点で何人かの人に苛立ちを募らせてる様子だ。
僕だってその一人だよ……ったく、もうすぐ大事なライブが始まるって時に。

「さっそくだがお前達には最後の一人になるまで殺し合いをしてもらう」

はっ……?
この人何言ってるの?
てゆーか、今の台詞どっかで聞いたことあるけど……確か、かなり古い映画の……

「――“バトル・ロワイアル”。
原作者・高見広春による学生同士の殺し合いを描いたディストピア小説。
深作欣二による実写映画化、田口雅之による漫画化もされた。
今の台詞が“教官”、もしくは映画でのビートたけし演じる“キタノ”が言った台詞の真似だろうと思った奴は正解だ」

バトルロワイアル……そんな映画あったね。
たぶん僕がまだヨチヨチ歩きしてた頃の映画なんじゃないのかな?
……ということはこれはバトルロワイアルをパロッた企画なのかな? と僕はこれをどこかのTV局が仕掛けたドッキリ系の番組だと考えた。
ドッキリ番組だったら空気を読まねば……と思う一方、バトルロワイアルはネタとしては相当古くて若い視聴者は知らないかもしれないし、そもそも番組一つのためにハリウッドスターを呼び込むなんて視聴率取れても大赤字になるんじゃ……レオポルドもスケジュールカツカツだろうによく日本に来れたね。
そんな呑気な考えはすぐにヒューマに打ち砕かれた。

「言っとくがこれはドッキリとかじゃないぞ。本当に殺し合いをしてもらうからな」

その言葉が放たれた瞬間、場はドッと騒然となった。
本当の殺し合いという、あまりに荒唐無稽なヒューマの言葉に「冗談だろう」と笑う者、呆れて何も言わなくなる者、怒鳴りつける者もいた。
「嘘はそれぐらいにしなさいよ」と妄言を吐くヒューマの頭に向けて履いていた靴を投げつけた者もいた。


直後、バンッ、という何かが弾ける音がして、僕の足元にコロコロ何か一つの斑点がついた白いモノが転がっていた。 

――これ、眼球だ!!

流石の僕もいつものエクボを忘れて、戦慄した。
さらに例の破裂音を辿ると、首から上が綺麗になくなった体が断面から噴水のように赤い鮮血を周囲に撒き散らしていた。
足元にはピンク色の物体や赤い液体による海ができあがっていて、首がなくなった遺体は重力に従って、血肉の海に沈んだ。
映画などで使うスプラッタ人形かとも思ったけど、この空間を包み込む血なまぐさい匂いはどう考えても……一人の人間が本当に死んだという事実に悲鳴や怒号が上がった。

「五十嵐椿……IQ180でありながら平穏無事を嫌い混沌を好んでいる性格で殺し合いをかき乱してくれると思ったが、その荒事を望む性格が仇になったな。
正直誰を“見せしめ”にするかギリギリまで悩んでいたが、そっちから“立候補”してくれて助かったよ」

首がなくなって死んだ五十嵐という名前の女性の足をよく見ると、片足の靴がないことに気づく。
彼女はヒューマに喧嘩を売り、靴を投げつけたがために見せしめにされたのだ。
運が悪かったのか、ボタンをたった一つ掛け間違えたのが致命傷に繋がってしまったのか。


&color(red){【五十嵐椿 死亡】}


「バトルロワイアルを知ってるのならわかるだろうが、お前達全員の首には爆薬の入った首輪がついている。
主催者である俺に逆らったりすると爆発する。
わかったら静かに俺の説明を」
「ナオ=ヒューマ! 貴様ぁ!」

五十嵐を殺害後、油断でもしていたのかヒューマは後ろから中年男性の警察官に羽交い締めにされた。
中年の警察官は誰にでもわかりやすいぐらい正義感を燃やしていた。
目の前で無辜の女性を殺されて気が立ったのだろう。

「……おい、俺の話を聞いてたのか。俺に逆らえば首輪が爆発するんだぞ?」
「やりたければやればどうだ? この距離だとおまえもただじゃすまないがな!」

首輪に詰まっているのは人の頭一つ簡単に粉砕する爆弾だ。
今、警察官の頭を爆破すればほとんどゼロ距離にいるヒューマもただじゃすまない。

「なるほど、考えたな……だが!」
「ッ!?」

ヒューマはどこからか取り出した拳銃で背後にいる警察官に向けて背面撃ちをする。
警察官は避ける暇もなく一発の銃弾が額に命中した。
仮に防弾チョッキを着込んでいても頭は守れない以上、これは死んだな……と僕だけじゃなく誰もがそう思っただろう。

「なにッこれは……!?」
「「!?」」

警察官はたたらを踏んだだけで生きていた。
額は特に出血もなく、潰れた鉛玉がポロリと落ちた。
周囲だけでなく、撃たれた本人さえ面食らっていた。
これに関してヒューマは解説する。

「古い作品で子供で知っている奴はいないだろうが、平井和正と桑田二郎が原作のSF漫画“8マン”。
警視の東ジョー、おまえにはサイボーグである8マンのボディを再現して移植した」
「移植しただと? うわッ!」

ヒューマは東に向きなおり、続けて数発発砲した。
しかし、着ていたスーツこそ穴が開きこそすれ、金属がぶつかり合う音がするだけで怪我は全くなかった。

「8マンはハイマンガンスチール製の体を持っている。
要は硬い装甲で覆われていて、こんな豆鉄砲では傷もつかない」

ヒューマは一頻り発砲した後、つい先ほど死んだ五十嵐の死体にも三発ほど撃ち込まれた。
こちらは命中と同時にグチャグチャと嫌な音を立て、肩から右手が外れて損壊した。
どうやら東に移植されたサイボーグの体が嘘ではないという証明と、あの拳銃が玩具でないことをわからせるために死体撃ちをしたらしい。

「この男だけじゃない。
お前達の肉体も寝ている間に改造させてもらった。
全員がそれぞれ違う個性を持った異能力を使えるようにな」

肉体改造? 違う個性を持った異能力? 頭の理解が追いつかないよ。
少なくとも今の人類の技術でできることじゃないはずだ。

「話はそれで終わりか、人殺しめ!!
何が何だかよくわからんが、おまえは必ずこの手で逮捕してやる!!」

東は迷うことなく、ヒューマに再度掴みかかろうとする。
自分の体に銃弾が効かないとわかった以上、何も恐れるものはないという様子だ。
まだヒューマには首輪爆破という手段があるが、それよりも早く掴みかかるつもりなんだろう。
固めてしまえば東の勝利であり、僕達は殺し合いなんてしなくて済むハズだった。


しかし、次の瞬間、東の胸にはぽっかりと大きな風穴が空いていた。 


「なッ……?」
「悪いが、俺も異能者だ。
少なくとも力を使いこなせていないおまえを一撃で倒せるぐらいの力は持っている」

ほんの一瞬の出来事で何か起こったのかわからなかったけど、金属が砕けるような音と共に、東の体がえぐられたのだ。いったいどんな手品(異能?)を使ったというのか?
風穴からは血なのかオイルなのかわからない赤黒い粘性を帯びた液と、金属片が吐き出される。
そして東はヒューマの前に倒れた。

「強い正義感からの行動かもしれんが、
次の機会を伺う程度には冷静であるべきだったな。
……もう聞こえていないか」

東ジョーの眼には光が消えており、既に物言わぬ屍……いや、ジャンクになったというべきか。


&color(red){【東ジョー@エイトマン/エイトマン 死亡】}


「お前達、もう静かにして俺の話を聞け。俺だってこれ以上は殺したくはない。
……せっかくの暇つぶしのために集めた玩具が減るのは面白くないからな」

五十嵐と東。二人の生贄により、ようやく全員がヒューマの言葉に耳を傾ける。
辺りはしんと静まり返っていた……厳密には完全に静かになったわけじゃなく、目の前で起きた惨劇に対して、大声を上げない程度のすすり泣きや嗚咽を漏らしている人もいたけど、それぐらいはヒューマは許容してくれるらしい。
僕はと言うと、別にパパが死んだわけでもないから泣きもしなかったけど、いつもの営業スマイルができる心の余裕はなく、ただ冷や汗を流して話を静聴していたことだけ加えておく。


「ルール説明に入るぞ。一度しか言わないからよく聞け。
殺し合いと言ってもやるのはこんな狭い場所じゃない。
お前達には沖木島……原作でも殺し合いの舞台となった島を会場に殺し合いをしてもらい、最後に生き残った一人が優勝者となる。
優勝者は家に帰してやるし、願いがあるなら一つだけ何でも叶えてやろう」

優勝者には願いを叶えるだって……?

「死者蘇生、記憶消去、大金や地位、身近な人間関係の修正、暗殺、障碍や不治の病の治療、俺とサシで戦うなんてのもありだぜ」

タイマンは言わずもがな。富や名声、暗殺とかはそれなりの財力権力があれば現実でもできそうだけど、他は普通ならありえない。
だけど今までの非現実的な出来事を見せつけられてきたせいで不思議と信じられる気がしていた。
優勝すればパパにも……

「ただし、お前達全員の首には首輪がはめ込んである。
爆破の条件は無理矢理首輪を外そうとしたり、禁止エリアに入った場合。
24時間連続で死者が出ない場合。
それから俺にあからさまな反抗をした時は爆破される。
ああ、俺に対する暴言や殺し合いに乗らないって宣言ぐらいは良いぞ。
どうせ口だけじゃ俺に反抗はできやしないからな」

ああ、さっきの首輪を弄るなってそういうことだったのね。
あのまま取ろうとしたら危うく五十嵐さんより先に死ぬところだったってわけか。危ない危ない。

「全員には生き残るために最低限必要になる地図や食料と言ったツールや、殺し合うための武器や道具をランダムに入ったディパックを支給する。
名簿だけ演出のためにゲーム開始から6時間経たないと文字が浮き出ない特殊な紙を使っている。
ひょっとしたら知り合いがいるかもしれないから、それを知るためにも敵を殺して生き延びるんだな。
また、6時間毎に定時放送を行う。
そこではさっき言った禁止エリアとそれまでに死んだ死亡者を発表する。
放送のやり直しなんてしないから、絶対に聞き飛ばすなよ」

参加者はだれが出ているか知るには最初の放送まで生き延びなきゃならない、放送の時はメモ必須だね。
そう考えていると、ヒューマが改まってみんなに言った。 


「さて、ここからがこの殺し合いの面白いところだ。
さっき殺した東ジョーのように俺はこの場にいる全員に、一人につき何らかの能力が使えるように肉体改造を施した。
一部例外を除いて見た目は変わってないが、全員が何らかの力を手にしている。
一見ガキにしか見えない奴も大人を余裕でバラバラにできるぐらいの能力を持ったいるんだ。
能力を使いこなせばガキだけじゃなく、肉体的にハンデを持ってる奴でも優勝できる可能性は大いにある。
だから簡単には諦めるなよ、つまらないからな」

彼の言ってることが本当なら僕にも異能が備わっていることになる。
どういう能力なんだろうか?
漫画やアニメのキャラみたいに色々できるのだろうか?

「能力は様々だ、火や水を扱ったり、ヒーローや怪人に変身できる者や、中には赤いマスクの変態野郎が扱うような俺でもよくわからないものがある。
能力についてはある程度は無意識で直感的に使えるものや、常時発動しているものもある。
能力発動のキーにどうしても一定の道具が必要な者は専用の品を特別に支給した。
後は能力の応用の仕方や弱点だが、それくらいは自分で探せ。
ヒントになりそうなものは会場にある施設などに隠れているが、場合によっては知ってる奴に聞いた方が早いだろうな」

あれ? じゃあ能力次第ではこの窮屈な首輪を外すこともできるんじゃ?

「言っておくが能力を使って首輪を外せると思うなよ?
その手の対策は既に考えついていて、能力ではどうやっても外れることはない。
火や爆発で死なない能力者は爆薬の代わりに猛毒を仕込んでいる。
下手な真似はするなよ」

チッ、読まれてたか。

「優勝者は特別報酬としてその能力を進呈する。会場の外でも好きなだけ使うがいい。
逆に気に入らないようなら取り払って元の体に戻してやろう。
ちなみにさっき言った、願いを一つ叶える報酬には含まれない。あくまでオマケだ。
そして最後に、この殺し合いで起きたことは世に露出することはない。
だからここで何人殺そうが、どんな汚い手を使おうが、法の手は届かないし経歴は傷つかない。
アフターケアはちゃんとしてやるから安心して殺しあえ」

それだけ言うと、ヒューマは、両手を振り上げた。
そしてこの場にいた何人かの参加者が白い光に包まれる。

「さあ、そろそろ時間だ。
これより会場である沖木島に転送する。
何もかもに飽きを覚えてきた俺を……楽しませてくれよ!」

僕は眩い光に包まれる中で、殺し合いの主催者ナオ=ヒューマがローブの下で笑っていたのが確かに見えた……

そして僕らは殺し合いの舞台である沖木島へと転送されるのだった。








こうして僕は事件に巻き込まれた。
殺し合いを強要された挙句、逆らえば首輪がドカン。生き延びたければ素直に主催者に従って、最後の一人になるまで殺し合うしかないらしい。
報酬は日常への帰還と願いを一つ叶えてくれる。

しかもヒューマによると僕らには一人ひとりに現実じゃありえない魔法や奇跡のような能力が備わってるらしい。

まるでB級ものの映画みたいだね!
そんな映画みたいな事態に巻き込まれた僕はどうするのかって?


それはもちろん、決まってるじゃないか☆――








&color(red){【版権異能授与バトルロワイアル――開幕】}

|[[オープニング]]|時系列順|[[相性-たった二人の生存協定-]]|
|[[オープニング]]|投下順|[[GOD&DEVIL]]|

|[[オープニング]]|ナオ=ヒューマ||
|&color(blue){GAME START}|郷音ツボミ||
|&color(blue){GAME START}|五十嵐椿|&color(red){GAME OVER}|
|&color(blue){GAME START}|東ジョー|&color(red){GAME OVER}|