**愛のままにわがままにこの二人は自分の都合しか考えない ◆7PJBZrstcc 一見凡庸に見える高校生、笹原卓は殺人鬼である。 それも過去にトラウマがあってそうなったのではなく、生まれた時からずっとそうだった生粋の殺人鬼である。 だから彼は一切の躊躇なく殺し合いに乗った。 いきなり起きた瞬間移動や、ヒューマが言った異能について多少は気にしつつも彼はこの殺し合い受け入れた。 「さてさて、俺の異能は何かな~」 楽しげな声色を浮かべながら卓はデイバッグを漁る。 そして最初に出てきたのは、1mほどの装飾のない赤色の棒だった。 「えぇ……」 それを見て卓のテンションは途端に下がる。 こっちは銃とかナイフみたいな武器が欲しいのであってこんな棒が欲しいんじゃない、と不満を思う卓。 だがしかし、赤色の棒に付いていた説明書きを見て卓は驚愕する。 その説明書きにはこう書かれていた。 『如意棒。ドラゴンボールの主人公、孫悟空が持っていた武器。 これを持った状態で伸びろ如意棒と唱える事で伸ばすことができる。ただしこの殺し合いの中では10メートル程が限度となっている』 「マジかよおい!?」 その説明書きの内容に思わず叫ぶ卓。 異能というファンタジーがあるから多少の事では驚かないつもりだったが、こうして漫画の中のアイテムが目の前にあるとなると流石に驚く。 「と、とりあえず使ってみるか」 そう言って卓は如意棒を構え、「伸びろ如意棒!」と唱える。 しかし如意棒は伸びることなくそのままだった。 「何だよ伸びねえじゃねーかクソが!!」 卓は叫びながら如意棒を叩きつける。 柄にもなく結構ワクワクしたというのに、その期待を裏切られたからか怒りは大きい。 だが卓の怒りはあっさり静まる事となる。 「ん?」 卓はふと人の気配を感じ、右を向く。 するとそこには1人でこちらに向かって歩いてくる少女の姿があった。 それを見て卓は思う、この苛立ちをぶつけようと。 「クックックッ、お前が(多分)この殺し合い最初の犠牲者だ―」 そんな事を小声で呟きながら卓は少女に近づく。 しかし少女の姿が良く見える位にまで近づいた時、卓は思わず足を止めてしまった。 その少女は顔立ちの整っているセーラー服を着ていた。 だが目の隈が目立ち、貧血気味なのか肌が不健康に白い。 そして何よりもその少女は片手剣を両手で持ち、不気味な笑顔を浮かべながら 「ダーリンダーリン何処にいるの? 大丈夫だよダーリンは私が絶対守ってあげるからね。 あぁでも心配、ダーリンって優しくてとってもカッコイイんだもの。人を殺すなんて絶対できないしもしかしたら他の泥棒猫がダーリンに恋しちゃうかも。 でも大丈夫よダーリン、私が代わりにいっぱい殺してダーリンを優勝させるからね。死ぬのはちょっと怖いけどダーリンの為なら我慢できるもん。 ダーリンダーリンダーリンダーリンダーリンダーリンダーリンダーリンダーリンダーリンダーリンダーリンダーリンダーリンダーリンダーリンダーリン……。あぁ……、愛してる」 と呟いているのだから。 それを見て殺人鬼は一言。 「何アレ超怖い」 ◆ 時は少し遡る。 一見しても普通にはちょっと見えない女子高生、月宮埜々香はストーカーである。 それも盗撮盗聴お手の物、隠蔽工作だって自信のあるストーカーである。 そんな埜々香は大好きなダーリン、天草士郎の写真を自室で眺めている所で殺し合いに呼ばれた。 最初は何が起きたのか分からなかった。自分の部屋にいたはずなのに気づけば違う場所にいるし、手に持っていたはずのダーリンの写真がいつの間にかなくなっていた。 だがそんな不安はすぐに吹き飛ぶ。 何故ならダーリン、天草士郎がそこにいたから。 すぐに駆け寄ろうと思ったが、その前にナオ=ヒューマと名乗る変な男が現れて自分たちを殺し合いの為に呼んだと告げる。 埜々香としてはそんな戯言気にも留めなかったのだが、靴を投げつけた人が爆発して死んだのを見て流石にちょっとだけ驚く。 その後ナオ=ヒューマは、異能やどんな願いも叶えると言っていたが埜々香にとってはどうでもいい事だった。 そして殺し合いが始まった。 埜々香にとって異能や願いなんてダーリンに比べたら全部些細なことである。 彼女にとってダーリンこそが一番であり、ダーリンへの愛が全てだ。 だから彼女の行動は早い。 手早くデイバッグを確認し、武器になりそうなものと地図を取り出すとあてもなく歩きはじめる。 最初は人の気配がしなかったものの少し歩くと 「マジかよおい!?」 という叫び声が聞こえた。 埜々香はその声が聞こえた方に向かって進む。するとそこには赤い棒に当たり散らす少年の姿があった。 その少年がこちらに気付いたのかこっちに赤い棒を持って向かってきている。 これはチャンスだ、ダーリンを守るために他の人を殺せるチャンスだ。 そう思い片手剣を強く握る。 だが何故か手が震え始めてしまう。 それも必然、何故なら月宮埜々香にとって人を殺そうと思うこと自体生まれて初めてなのだから。 彼女にも一般人と比べると薄い物の殺人への忌避感が無い訳では無い。 こんなんじゃだめ、そう思った埜々香は言葉を口にすることにした。 言葉で自分を奮い立たせれば、きっとあの少年を殺せるはずだから。 「ダーリンダーリン何処にいるの? 大丈夫だよダーリンは私が絶対守ってあげるからね。 あぁでも心配、ダーリンって優しくてとってもカッコイイんだもの。人を殺すなんて絶対できないしもしかしたら他の泥棒猫がダーリンに恋しちゃうかも。 でも大丈夫よダーリン、私が代わりにいっぱい殺してダーリンを優勝させるからね。死ぬのはちょっと怖いけどダーリンの為なら我慢できるもん。 ダーリンダーリンダーリンダーリンダーリンダーリンダーリンダーリンダーリンダーリンダーリンダーリンダーリンダーリンダーリンダーリンダーリン……。あぁ……、愛してる」 こうつぶやいた後、埜々香の中から殺人への忌避感は消えた。 埜々香の天草士郎への愛によってかき消された。 そうなればもう躊躇する理由は無い。 埜々香はいつの間にか近くに来ており、何故か茫然としている少年に向かって剣を振り下ろした。 ◆ 「うおおおおおお!?」 自分が殺すつもりの少女、月宮埜々香に片手剣で斬られそうな極限状況に、笹原卓は持っている如意棒を動かして剣を受け止める。 「……何で殺されてくれないの?」 剣を受け止められたことが不満な埜々香は目の前の卓に問う。 早く死ね、あなたに時間を取ったらダーリンが危ないじゃないの。そんな情念が目に見える。 だが卓はそんなものに怯まない。毅然とこう言い返した。 「何で殺されないかって? 決まってる、それは俺がこの殺し合いを楽しむため! 日常だとこっそりやらなくちゃいけない俺の趣味である殺人を、大っぴらにやるためだ!!」 「……え?」 卓の回答があまりにも想像を超えていて埜々香は一瞬思考が止まる。 その隙を見逃さず卓は如意棒を彼女に振るう。 「きゃっ!」 その攻撃を喰らい地面に倒れる埜々香。 卓は彼女に如意棒を突きつけて一言 「形勢逆転だな」 「くっ……!」 「後ろに『殺せ!』とかつけたりしない?」 「……何で?」 「いや、流れ的に」 軽くとぼけた会話をしつつ卓は埜々香を見る。 多少は整っているものの、卓には埜々香が貞○にしか見えないせいで少し怖い。 だがそんな様子はおくびにも見せず、卓は埜々香に話しかける。 「まあ殺してもいいんだけど、殺さない方が面白そうだからいくつか質問に答えて、頼みを聞いてくれる解放してやるよ」 「私の処女はダーリンの物よ!」 「いや正直今の俺、性欲より殺人衝動の方が強いからお前に欲情なんかこれっぽっちもしてないんだけど」 「ならいいわ」 「いいのかよ!?」 あまりのセメント対応に思わず驚く卓。 殺人衝動とか色々衝撃的なこと言ったんだけどなー、と思いつつ卓は話を進める。 「まず最初、お前の名前は?」 「月宮埜々香」 「オッケー月宮。次の質問だけど、お前なんで殺し合いに乗ったんだ?」 「ダーリンを守るためよ」 「……ダーリン?」 「そうダーリン! 格好よくて優しくて赤い長髪が似合うイケメンでキリスト教を信じている私のダーリン! 得意なことはフルートの演奏でとっても上手なの! あとアニメや特撮が好きなちょっと子供っぽい所もあるんだけど、自分を偽らずオープンに生きるって素敵よね!!」 「いやダーリンはともかくお前はもうちょっと隠せ」 「いつも首から十字架を掛けてるんだけど、それは亡くなったお義母様の形見らしいの。 それでいてお義父様を尊敬していて義妹とも仲がいいのよ。家族を大切にするなんて素晴らしいでしょ! きっと私の事も大切にしてくれるはずよ!!」 「聞けよ人の話。後全部に義の字つけんな、お前の家族じゃねえだろ」 「そのうちなるわ」 「なんなんだコイツ」 いい加減イライラしてきたので無理やり話を進める事にした。 これが最後の質問だ、と前置きし埜々香に問う。 「何でお前、反撃してこないんだ?」 その質問に埜々香は唖然とする。だが卓はずっと疑問だった。 倒れているとはいえまだ剣を奪っておらず、如意棒を突き付けているとはいえいくらでも反撃する隙はあった筈だ。 にも拘わらず無抵抗に質問に答えている、これが卓には理解できない。 一方埜々香は唖然としていたが平静を取り戻しこう言った。 「簡単よ。ここで貴方に反撃して殺せたとしても私は多分ダメージを受けるわ」 「そうだな」 「参加者が私とダーリンとあなただけだったら何が何でも殺すけど、そうじゃないでしょ」 「俺が見た限りあの会場には40人くらいいたな」 「だからよ。私はダーリンを守らなきゃいけないの。ここで死んだら誰がダーリンを守るの? 私はダーリンを守る。その為ならどんな事でもするわ。泥にまみれても這いつくばることになってもね」 「成程気に入った、殺し合いの場じゃなかったら友達になりたいくらいイカレてるなお前。LINEのID交換しようぜ」 「覚えてないわよ」 「俺もだ。まあそれはそれとして」 「……何?」 そこで卓は如意棒を突き付けるのをやめて埜々香に言う。 「その剣とこの如意棒、交換してくれ」 「……いいけど」 予想外の頼みにちょっと驚きつつ、埜々香と卓は互いの武器を交換する。 如意棒を軽く振り回しながら埜々香は質問する。 「何で交換するの?」 その質問に同じく剣を振り回し「あ、これ片手剣か」と言いながらも卓は答える。 「いや、なんかその棒『伸びろ如意棒』って言ったら伸びるって説明書きに書いてたのに伸びないからさ」 「ええ……? 伸びなきゃただの棒じゃないの」 「酷い話だろ?」 「……そうね」 そう言いながらもちょっと気になったのか、如意棒を卓に向けないようにしながら構え小さく「伸びろ如意棒」という。 すると如意棒はグングン伸びていき、10m位になった所で止まる。 それを見ていた卓は叫ぶ。 「何でだよぉぉぉおおお! 何でお前が使ったら伸びるんだよ!!」 叫びながら卓の右手が伸びている如意棒を掴むと、如意棒は途端に元の長さに戻る。 卓は埜々香から如意棒をひったくると、狂ったように叫び続ける。 「伸びろ如意棒! 伸びろ如意棒!! 伸ーびーろ―――!!!」 それを傍から見ていた埜々香はある事に気づく。 「ねえ、あなたが右手で触れた途端に如意棒が元の大きさに戻ったんだけど」 「右手?」 それを聞き、卓は右手を放し左手だけで如意棒を持ち「伸びろ如意棒」と言う。 すると如意棒はさっきと同じようにグングン伸びていき、10m位になった所で止まる。 そして右手で如意棒に触れると元の大きさに戻った。 「あーはい、そういう事ねうん」 「何だかよく分からないけど、私もう行っていい?」 「おう、何処にでも行けよメンヘラ女。お前が生きてる間はなるだけダーリンっぽい奴は殺さないからさ」 「そう。じゃあね腐れ殺人鬼」 そう言って埜々香は去って行った。 それを見送ることもなく、卓は自分の右手を見ながらこう思った。 俺の異能幻想殺しかよぉぉぉおおおお!!! 強いよ!? 能力的には強いよ!? 殺し合いでは結構優位に立てると思うよ!? でもこんなもん貰っても俺どうしろってんだよ!? 日常生活で何一つ役に立たねえよ!? 俺学園都市にも通ってないし魔術師とも戦ってないし!! 優勝賞品でくれてやるとかヒューマ言ってたけど、要らねえよ!? というかあの主催者、俺の異能を分からせるために如意棒支給しやがったな!? 何その回りくどさ、ジュ○ル星人かあいつは!? そんな気を回すくらいなら素直に紙にでも書いとけ!! そもそも如意棒って異能の内に入るのかよ!? 「ハァ……ハァ……」 一通り内心で憤ったことで、卓は落ち着きを取り戻す。 そして出発支度を整えようとした所で、ある重要な事に気づいた。 それは―― 「あ、俺月宮に自分の名前名乗ってねえ」 【一日目・1時00分/F-5】 【月宮埜々香@ペテルギウス・ロマネコンティの怠惰の権能と憑依能力/Re:ゼロから始まる異世界生活】 [状態]:健康 [装備]:如意棒@ドラゴンボール [道具]:基本支給品、不明支給品(0~2) [思考・行動] 基本方針: どんな手を使ってでもダーリンを守る 1:ダーリンダーリンダーリン、何処にいるの? 2:あの殺人鬼、なるだけ早く死んでほしいな [備考] ※天草士郎の参加を把握しています ※笹原卓の名前を知りません 【笹原卓@幻想殺し/とある魔術の禁書目録】 [状態]:健康 [装備]:片手剣 [道具]:基本支給品、不明支給品(0~2) [思考・行動] 基本方針:楽しく気ままに人殺し 1:幻想殺しか……、強いけどさぁ…… 2:月宮のダーリンっぽい奴(赤毛のイケメン)はなるだけ殺さない [備考] ※自身の異能について把握しました 【如意棒@ドラゴンボール】 ドラゴンボールの主人公、孫悟空が持っていた武器。 これを持った状態で伸びろ如意棒と唱える事で伸ばすことができる。ただし本ロワでは10メートル程が限度となっている また、本ロワでは自在に伸び縮みすることは異能の部類に入るので無効化能力で打ち消すことができるようになっている。 |[[その始まりは喜劇]]|時系列順|[[「幸福な」少女とウソつきの話]]| |[[その始まりは喜劇]]|投下順|[[「幸福な」少女とウソつきの話]]| |&color(blue){GAME START}|月宮埜々香|[[恋は渾沌の隷也]]| |&color(blue){GAME START}|笹原卓|[[さあここに築いて見せろ 天に届く死体(ヒト)の山を]]|