**ケロイド◆YlfcDuGY1. 参加者の一人である分目青司が会場の一部であるミカン畑にたどり着いたのはゲーム開始から30分ほど経った頃。 月明かりに照らされたそこでは驚くべき光景が広がっていた。 「なんだこれは……?」 そろそろ収穫期が近いのだろうか? 柑橘系独特の甘酸っぱい香りと多くの木に黄色く実った果実が目を引く場所であったが、その一部のミカンの木が、スライムのようにドロドロに溶けていた。 木に集っていたのであろう小さな幼虫なども溶けていた。 現実ではありえない、異様すぎる光景である。 「まさか、これが異能という奴なのか? 信じられないが……奴が言ったことは本当のようだな」 しかし現実ではありえない出来事を可能にする力を分目は知っていた。 ヒューマが言っていた“異能”の力である。 この殺し合いの主催者であるヒューマは全員に異能の力が与えられていると言っていた。 それが嘘でないからこそ、ミカンの木がドロドロになっているのだ。 漫画や何かでしかありえない出来事だが、それを目の当たりにした以上、異能を認めざる負えなかった。 「ん……? あれは人か?」 分目はミカン畑の中で、数十m先に人影があるのを発見する。 状況から察するに異能の力でミカンの木をいくつかスライムに変えた参加者だろう。 その参加者は何か闇夜で光るものを持っていた。 ……光っていたのはサブマシンガンの銃口だ。 「ッ!?」 銃口が自分に向けられていると知った分目は急いで銃撃から逃れられる場所を探そうとする。 しかし周りの木は全部溶けてしまっており、障害物にすることができない。 それに焦った分目は最後に参加者が殺し合いに乗っていない可能性にかけたが…… 「待ってくれ! 俺は殺し合いに乗ってな――」 例の参加者は聞く耳持たず、分目に向けた十数発発砲した。 そう、この参加者は殺し合いに乗っていたのである。 携行性と弾幕を張ることを優先的に開発されたサブマシンガンの命中率はさほど高くない。 その集弾性は距離が開けば開くほど低くなっていく。 実際、ほとんどの弾丸は数十m離れていた分目の横をすり抜け、もしくは近くの地面に当たるだけであった。 しかし、たった一発の銃弾だけは分目の顔面に直撃し、分目の体は仰向けにバタリと倒れた。 「痛ッ……マシンガンの反動はキツいって聞いてたけど、これほどなんて……」 たった今、分目を射殺した厚手のパーカーに分厚いマスクをかけ、少女の声を発する鈴宮ミカはサブマシンガンであるマイクロ・ウージーを持っていた手を振っていた。 非銃社会である日本生まれの彼女は銃なんて握ったことはなく、銃に慣れていない故に高反動のマシンガンは手をジンジンと痛めていた。 更に銃のリコイルの仕方もよくわからなかったので貴重な弾丸の大半は無駄になってしまった。 「けど……結果オーライだね」 弾丸の多くは確かに無駄になってしまったが、マグレ当たりで参加者の一人の殺害に成功した。 頭に直撃するのを確かに見た……分目が生きているとは到底考えられなかった。 「……悪く思わないでね。私はどうしても優勝しなきゃ、いけないんだから」 彼女の声はどこか震えていた。 殺人は初めてだったので、それをやってのけてしまった自分に恐怖していたのだ。 それでも彼女は立ち止まることはしなかった。 屍を作り出してでも優勝したい“理由”が彼女にはあったからだ。 マシンガンの銃声で他の参加者が近づいてくる危険がある。 優勝を目指す以上は他の参加者は全て敵。 参加者と正面からかち合わないためにも、さっさと殺した参加者から支給品を剥ぎ取ってこの場から立ち去る必要があった。 「よくもやってくれたなァ……」 「!!?」 鈴宮が倒れている分目に十m圏内まで近づいたところだった。 死んでいたと思われた分目が突然起き上がりだしたのだ。 その声は先程までの良い人そうな穏やかなものではなく、怒りを込めたドスの効いた口調になっていた。 「絶対に許さねえぞ……キリキリキリ」 いや起き上がったのは分目だったというべきか。 その姿はいつの間にか消防士の制服姿から、心臓と眉間の部分が妖しく光る、灰と黒で彩られた悪魔のような姿に変貌していた。 「ば、化け物!」 「キリッ!!」 分目が生きていたことと怪人に変貌したことに驚いた鈴宮は震えた手のまま、マシンガンを分目に向けた。 しかし分目は彼女が銃弾を放つよりも早く、手から火炎放射に似た攻撃――獄炎弾を放つ。 「ひッ、ひいいいいいいいいい!!」 獄炎弾が放たれた瞬間、鈴宮は急に萎縮してその場にかがみ込んでしまった。 これが結果的には幸いだったと言うべきか、伏せたことによって直線的な攻撃である獄炎弾を躱すことに繋がった。 しかし火炎によって生じる煽り風によって鈴宮のパーカーがめくれ上がった。 「キリ?」 鈴宮の顔を分目が見るとそこには右側は美少女の美貌を持っていたが、もう片方の左側は火傷によって生じたと思われる大きなケロイドで醜くい顔があった。 それを見たとき、分目は一瞬だけ反撃を忘れて手を止めてしまう。 「く、来るな、見るなぁ!」 「キリィ!?」 分目が隙を見せたことを見計らって、鈴宮は一目散に逃げ出した。 その際に分目に向けた数発撃ち込む。 当てるために撃った弾丸ではないが、それでも数発の弾丸が分目の体に命中した。 それでも怪人と化した分目には効果は薄く、ダメージはそれほどは入っていない。 「キリキリーーーッ!!」 分目はまた攻撃された報復に、怒りを込めて獄炎弾をがむしゃらに放った。 だが攻撃の判断が少しばかり遅かったのか、逃げる鈴宮には一発も当たることなく、何本かのミカンの木を燃やしただけであった。 気づいた時には鈴宮は獄炎弾の射程圏外であった。 「キリ……」 そのまま分目は鈴宮を追撃しようとも考えたが、スライムのようになった木々を思い出して踏みとどまる。 彼女が引き起こしたと考えられる異能――銃弾ぐらいで死ななくなった自分でも、ミカンの木のように溶かされたら目も当てられない。 そう考えた分目は深追いは危険だと思い、追撃を止める。 鈴宮はその頃には闇夜に紛れて雲隠れしてしまった。 それからしばらくして溶かされていたミカンの木は元通りの木々に戻り、分目も敵がいなくなったことで戦意と興奮が薄れてきたためか、元の消防士の姿に戻った。 「これが俺の異能なのか……?」 戦闘が終わった後、分目はただただ己の力に圧倒されていた。 弾丸が自分の顔面に直撃する寸前、死を悟った分目だったが、それが異能を発現するためのスイッチになったのだろう。 自分が悪魔のような姿になったのだ。 姿だけでなく防御力も人間のそれを上回っていたのか、人間に戻った時に銃弾が当たった部分に多少の出血と腫れはあったが、負傷はせいぜい打撲レベルであった。 それだけでなく炎を腕から出すこともできた。 「あの姿は確か……ウルトラマンティガに出ていたキリエル人、もしくはキリエロイドだったか?」 キリエル人/炎魔戦士キリエロイド。 分目が怪人である時の姿から、自分がウルトラマンティガに登場する怪獣・宇宙人であるキリエル人になったことと考察する。 分目自体はサブカルチャーに疎い上、子供の時に見ていたと思われるウルトラマンティガの内容などほとんど覚えてはいない。 しかし、子供の頃、おもちゃ屋で売られていたキリエル人のソフビ人形はなぜか印象に残っていた。 たぶん、ウルトラマンのライバルのようなデザインが好きだったのだろう。 「ふふふ、しかしこれはチャンスだな」 燃えるミカンの木を背にして分目は怪しく笑う。 分目青司は正義感の強い優秀な消防士として知られ、表彰をいくつも貰った事もあるほど周囲からは高い評価を得ている。 しかし、その実態は自己顕示欲の強い独善的な性格の持ち主であり、彼が得た表彰というのも、自ら放火した家を消火するというマッチポンプ行為によって獲得したものである。 つまり彼は消防士であると同時に放火魔であるのだ。 そんな危険人物である分目は何を企んでいるのか? 殺し合いの優勝だろうか? (優勝……優勝すれば生きて家に返すことや願いを叶えるだとのたくっていたが、そもそもナオ・ヒューマが約束を守る保証がどこにもない。 願いを叶えることに関しては殺し合いを盛り上げるためのでっち上げの可能性も十分に有り得る) 分目は主催者であるナオ・ヒューマへの不信感から優勝の路線は踏まなかった。 ならば主催に抗うということになるが…… (殺し合いを、ナオ・ヒューマを打破した方が得だろう。 もし、こんな30人以上は巻き込まれている歴史的大事件を解決して多くの人々を救ったとあらば、俺は英雄として持て囃されるだろうな。 ニュースにも出て一躍時の人、国民栄誉賞、歴史の教科書にも乗れるかもしれないな……ふふふ) 彼の路線は主催に抗うものであったが、その動機は実績目当てで自己顕示欲を満たすための極めて独善的なものであった。 (まあ、ヒューマの願いを叶えるという話も嘘じゃないかもしれないが、だったらヒューマに叶えてもらう必要はねえ。 生きていく上で欲しいものはいくらでもでるだろうし、消えて欲しい人間もいっぱい現れるだろうから……どうせなら願いを叶える方法を奪って、俺が好きな時に好きなだけ叶えちまえばいい) 分目は名誉欲に飽き足らず、ヒューマの願いを叶える方法を奪って、自分に使うつもりであった。 もちろんこれは先ほど自分で考えていた通り、でっち上げの可能性や奪えるものではない可能性も十分にあったため、オマケ程度の考えだが、もし奪えるものだったら彼はヒューマから迷いなく奪っていくだろう。 「さて、これからが忙しいぞ。 まずは正義の消防士さんとして民間人を保護しなきゃならんしな。 殺し合いに乗った奴は……まあ、殺しても正当防衛でなんとかなるか」 未だに燃え盛るミカン畑を背に分目は歩みだした。 その胸に野望を燃やしながら。 一方、分目から少し離れた地点では一人の少女がいた。 キリエロイドと化した分目から無事に逃げおおせた鈴宮ミカである。 彼女は荒い深呼吸をしていた。 「スゥ、ハー、スゥ、ハー……スゥ……もう大丈夫……」 やや過呼吸気味だった深呼吸は収まったようだ。 顔面左側の火傷痕、死んだような目。 そんな今の彼女からは想像もつかないが、かつては活発な美少女であった。 しかし火事により肉親を亡くし、自身も顔から足にかけての左半身に大きな火傷を負ってしまってから彼女の人生は狂い始めた。 まず体の大半にできた火傷によって将来的にまともな職には付けないだろう、他者との交流についても気持ち悪がられて避けられるか蔑まされるか上辺だけの心配されるかのどれかしかない。 それだけでなく両親の生命保険が自分の知らない内に8割程親戚間で分配されていたことを知ってしまう。 親戚としては両親の代わりに育てているのだからこれくらい当然だという態度だったが、それにより彼女は人間不信に陥ってしまった。 それでも少しでもまともに生きられるように奨学金で高校に通い続けるが、周囲の奇異の視線に耐えられなくなり、幾度も自殺を試みて自殺を考え、何度も手首に切り傷を作ったことか。 先ほど分目の放った炎を見たとき、自分の何もかもを奪った火事を思い出して一時的にパニックになってしまったのだ。 「でもこんな暗い人生も、もう終わるんだ……」 彼女の死んだような魚の目にギラギラと光が宿る。 彼女は優勝を目指していた。 そして参加者最後の一人になり、優勝した暁には主催者であるヒューマに願うのだ。 「あの日の火事をなかったことにして、この火傷や母さんと父さんの死をなかったことにするんだ」 人生を狂わせ、自分から人なりの幸せを奪った火事。 それをなかったことにすれば両親は生き返り、コンプレックスである火傷痕も消える。 彼女にとってこの殺し合いは、幸せを取り戻すための最後のチャンスに感じられたのだ。 「そのためなら何を犠牲にしてでも、優勝してやるよ」 仮に親戚が参加していようとも容赦なく殺す気である。 人間不信に陥っている彼女には信頼できる人間は亡くなった両親だけであり、全部敵に見えていた。 さて、立派な野望を抱いていた鈴宮だが、彼女はまだ16歳。 サブマシンガンで武装しているとはいえ、戦いの素人である彼女は40名以上いる参加者を相手にするには無茶に思えるだろう。 それなのに優勝への自信の根拠はなんなのだろうか? それは彼女の隣に立つ“何か”にあった。 「この悪霊の力を使いこなせば、きっと優勝できる……ハズ」 悪霊――鈴宮がそのように称した物体の名前はスタンド“ビタミンC”である。 道化師とも悪魔ともとれる姿に肩から下が無数の腕に覆われている奇怪なスタンドだが、これこそ鈴宮がヒューマの肉体改造によって与えられた異能である。 その能力は、本体があらかじめ付けておいた指紋に触れた人間を、ビニールか熱したチーズのように軟らかくして溶かしてしまうというもの。 先ほど、ミカン畑の一部の木が溶けていたのは、鈴宮がこの能力の実験を行っていたためである。 彼女はジョジョリオンは読んだことがないため、スタンドやビタミンCのことはわからなかったためであるが、実験によってビタミンCの大体の能力を把握した。 実験により石などの非生物には効果がないことや指紋で作った結界の外には効果がないことを理解した。 後者の結界の外である射程外に対応できるようにするためにサブマシンガンが支給されたのだろう。 この異能を先の分目には直接使うことはなかったものの、事前に実験を行っていたことで溶けたミカンの木が彼の目に入り、追撃を振り切ることはできた。 いくら銃弾を弾く防御力を持っていても、溶かされれば意味がなくなるからだ。 「さっきは遅れを取ったけど、今度こそ殺してやる」 先程は突発的な遭遇戦に加えて準備が足りず、キリエロイドに変身して炎を操った分目の力に驚いてしまい、無様に逃げるしかなかったが、次はこうはいかないと心に誓った。 能力の使い方や銃の使い方もだんだんわかってきた。 態勢を整え次第、次の襲撃を結構するつもりである。 「絶対に取り戻してやる、私の幸せを!」 そして鈴宮ミカはミカン畑を後にした。 彼女の心もまた、分目と同じく、それでいて違う野望で燃えていた。 【一日目・1時00分/・E-8 ミカン畑】 ※ミカン畑の一部が現在も炎上中です 【分目青司@キリエル人の力@ウルトラマンティガ】 [状態]:ダメージ(小)、疲労(小) [装備]:なし [道具]:基本支給品一式、不明支給品×1~3 [思考・行動] 基本方針:殺し合いを「俺が」打破して名声を得る、もしくは願いを叶える力を奪う 1:一先ず、他の参加者を保護する 2:殺し合いに乗っている者は可能なら殺す 3:特に火傷の女(鈴宮ミカ)は特に注意する [備考] ※自分の異能がキリエル人の力であると知りました ウルトラマンティガ放送時の記憶が曖昧なので今のところ使うことができると思っている能力はキリエロイドへの変身と獄炎弾のみです ※鈴宮ミカの能力を生物を柔らかくする能力だと知りました(指紋による結界はまだ見ていません) ※分目がどこに向かったのかは次の書き手氏にお任せします 【鈴宮ミカ@ビタミンC/田最環@ジョジョリオン】 [状態]:疲労(小)、精神疲労(小) [装備]:マイクロ・ウージー(8/32) [道具]:基本支給品一式、不明支給品×0~2(本人確認済み) [思考・行動] 基本方針:優勝して家族との幸せな日々を取り戻す 1:体制が立て直り次第、他の参加者を襲撃する 2:火は大嫌いだ……! [備考] ※自分の異能(スタンドの作った指紋による結界に触れた生物を柔らかくする)を自覚しました ※分目青司の異能の一部(キリエロイドへの変身、獄炎弾)を知りました ※彼女がどの方角に逃げたのか、次の書き手氏にお任せします |[[セイギトアクイ]]|時系列順|[[超人誕生 光と影]]| |[[セイギトアクイ]]|投下順|[[超人誕生 光と影]]| |&color(blue){GAME START}|分目青司|[[秩序・狂と混沌たち]]| |&color(blue){GAME START}|鈴宮ミカ|[[あの素晴らしい愛をもう一度]]|