「ブラックアイドル地獄変」の編集履歴(バックアップ)一覧に戻る

ブラックアイドル地獄変 - (2017/09/23 (土) 09:18:30) のソース

この殺し合いにおいて二度目の殺害を行ったブッチャーマン。
(KENGOは異能の力で蘇生したことを彼は知らないが)
異能の力を借りて青年と少女による二人組の内、少女(の肉体を持つ潮)の方を殺害し、逃げた青年(ゆたか)を負うか思考していたが、少し考えた結果、男は追わないことを選択した。

追わないと自分の所在や異能が他の参加者に伝わるかもしれないが、まだ自分はヒューマによって与えられた異能になれておらず、深追いして自分を殺せる異能を持つ人間に殺される危険がある。
流石のブッチャーマンと言えど猫科動物ほど闇夜で目が利くわけではないので、思わぬ闇討ちを受ける危険がある。
正面からの殺し合いならまだしも、奇襲を仕掛けられることだけはどうしても避けたい。
それよりは人が集まりそうな集落を探索し、見知らぬこの地の土地勘を備え、隠れる場所や罠を張れるポイントを覚えた方が良い。
あの青年が仲間を連れてきたら、逆に待ち伏せと罠で餌食にし、集落方面に逃げなかったことを後悔させてやるべきだろう。

それに少女と青年は何やら自分や自分たちの異能を知っている素振りを見せていた。
しかし、青年と喋る杖は闘争ではなく逃走を選んだ。
この逃走は奴らの異能では自分の異能(触手)を打ち破れないことを知っているということの証左ではないか?
後で殺せるかもしれない相手と思えばますます後回しで良い気がしてくる。
まだ殺し合いは始まったばかりだというのに、深追いで不用意に消耗したくはない。
あの男が自分の知らない内に他の参加者に殺されて肉が手に入らなくなるのは勿体無いし気がかりだったが、食に困らない生活を手に入れる大望のために目先の肉と欲望は我慢するべし。
それがブッチャーマンの答えであった。

食人に狂ってはいるが、この冷静さこそが彼が都市伝説として警察に見つけられない所以であった。



画してブッチャーマンは集落を目指すことに決めたが、その前に自分が主催者に与えられた異能の練習をする。
せっかく与えられた武器なので存分に扱えるよう練習するに越したことはないだろう。

さっそくブッチャーマンは先刻少女を殺した時に使用した液状の筋肉……赫子・鱗赫を出す。
出し方は非常に簡単で、出ろと頭の中で念じたら腰の皮膚をぶち破って(不思議と痛みもなく、赫子による傷も直ぐに治る)ぶわりと触手が顔を出した。
Rc細胞でできた武器である赫子の出し方がわかったことで、足元に転がっているゆたかの遺体でさっそく練習する。
触手で首が折れて糸の切れたマリオネットになった少女の遺体に対して、四肢の骨や肉をボキボキブチブチと砕き潰していく。

……なるほど。
初めて使う異能だからということもあるために手先ほどの精密さは期待できないが、それでも捕まえたり潰したりする力はある。
少なくともろくに鍛えていない一般人なら殺すのは容易い。

ただ不満があるとしたら得物の長さに限界があるというべきか、一定以上はどうしても伸びない。
これだと自分より足の速い参加者には逃げられ、銃のような飛び道具には対抗できない。
そういった奴らに対抗するためにももう少しぐらい長くならないものか……

そう、ブッチャーマンが願った時、そのちょっとした願いを神は叶えたのか?

鱗赫が腰に引っ込んだかと思えば、今度は尾てい骨の辺りから蠍の尾のような触手が現れ、槍のように少女の死体の腹を穿った。
更に死体から尾を引き抜いたブッチャーマンは明らかに鱗赫よりは長いソレを使ってやや離れた位置の木を刺す。
射程が一気に伸びた武器の存在を知り、ブッチャーマンは確かにマスクの下で笑みを浮かべていた。

この蠍のような長い尾の正体は尾赫というものである。
鱗赫よりは攻撃性や再生力に劣る引き換えに強度や射程、汎用性が高いのだ。



ちなみに彼の能力の元である東京喰種に登場する亜人である喰種(グール)は、羽赫、甲赫、鱗赫、尾赫といった赫子を基本的に一人につき一種類しか持てず、その例外のグールですら「二種持ち」までしか登場していない。
しかしパラレル作品であるゲーム「JAIL」の主人公は四種類の赫子を使用することができ、ナオ=ヒューマは一種ではつまらないと思ったのか、この主人公のようにブッチャーマンに四種全てを扱える赫包を肉体改造の際に宛てがったようだ。
そんなことはテレビを見ず、漫画を読まず、ゲームもやらないので「東京喰種」という作品を知らない社会のはぐれものであるブッチャーマンは知る由もないが、未だ隠された能力である羽赫、甲赫の存在を直感的に悟っている。
残念ながら「スイッチの入れ方」がわからない能力……盾になるほど硬い装甲やガス状の翼などが想像できなかったため、この練習ではそれ以上の能力を引き出せることはできなかった。
だが短い練習時間で尾赫存在を知り、赫子の動かし方のコツを覚えて武器として利用できるようになったことは、ブッチャーマンにとってはプラスであろう。

喰人鬼の練習台にされて顔面を残してグチャグチャになった少女の遺体。
ブッチャーマンはその遺体から無事な臓器である肝臓を取り出し、喰らって元々薄汚れている服とマスクを更に血で濡らす。
赫子を使うことによってRc細胞を使ったせいで、妙に腹が減っている。
ブッチャーマンは周囲に誰もいないことを確認して、マスクの口の部分だけ開けて少し癖のある肝臓を咀嚼する。
若くピチピチし、おそらく栄養バランスの取れた旨い物を食べてきたであろう臓器は非常に美味しかった。
また、今の彼は人間ではなく、人間を主食にする喰種であるため、なおさら人肉は旨く感じたのだった。

人肉の旨さ故にこのまま食事に耽っていたい気もするが、食事をしている内に他の参加者に襲われる危険もあったので肝臓一つまでで我慢をした。
腹八分で食事を打ち切り、ブッチャーマンはゆたかのディパックを他の参加者に見つけられないように遺体から離れた場所に埋めた後にD-10を後にする。

――食事に一生困らないパラダイスへ向かうために、次なる獲物を求めて喰種はマスクの下で赤い瞳を輝かせる。



 ◆

観光協会施設内。
行動を共にすることになったツボミと英雄は、夜が明けるまで施設の内部に篭ることになった。
土地勘のない場所で夜道を出歩くのは危険であるし、闇討ちの危険もあるからだ。
それに四方を壁で囲まれた建物の中にいれば、狙撃される心配もあまりないだろう。
夜が明けて太陽が昇り、視界が確保される時間になるまでは下手に出歩くべきではないというのが二人の中で一致した。
朝になったら周囲の状況を見て施設に籠城し続けるか、移動をするかを決めた方が無難であろうと二人で決めたのだった。


「――とにかく行動するのは朝まで待ちましょうってことですね」
「ああ、そうですね」

施設の内部で怯えていたツボミは河野に会ってしばらく経つと、安心したのか精神的に持ち直し、テレビでよく見せるエクボを英雄に向けていた。
そんなツボミの様子を殺し合いに乗っていない大人がいたことで、緊張がほぐれたのだろうと英雄は判断する。
……実際に怯えていたのはツボミの演技なのであるが、英雄には知る由もなかった。
ツボミの演技力が秀でていることもあるし、まさかこんな場所で生き別れの娘とバッタリ出くわすとは思わなかったので、ヒモである英雄の女の嘘を見抜く勘が鈍くなっていたこともある。


「……ところで、河野さんの異能ってなんですか?」
「ん?」

ある程度行動方針(と言っても朝まで篭城するだけだが)が決まった後に、ふとツボミは異能について触れるのだった。
英雄を駒にして利用する以上、相手がどんな異能を持っているか知っておく必要があるというのがツボミの判断であった。

「実は僕はまだ自分の能力がわからないんです。
いつの間にか首に付けられていたこのペンダントが怪しい感じがするんですが、使い方がさっぱりで……河野さんの能力を見れば何かヒントが掴めるんじゃないかと思いまして」

ツボミが自分の能力を知らないのは嘘ではない。
集音マイクに似ているペンダントが能力のキーなのはわかっているが、発動の仕方まではイマイチピンとこない。
英雄の変身を見れば彼の異能を知ると同時に、自分の異能もわかるのではないかと判断したのだ。
同時に後に裏切る時に相手の手の内を知っていれば対処しやすくなる算段のために、ツボミは自然な展開を装って英雄の異能を知ろうとしている。
一方の英雄は特にツボミを怪しむ様子はなく、自分の異能について実際に見せてみることにした。

「……わかった、教えましょう。
ここに来るまでの間に自分の能力を使って「変身」していて、能力をだいたい把握しているんだ」
「変身??」

英雄は施設に入るまでの約一時間以内の間に自分の能力を使って変身し、能力を把握した。
同時に殺し合いも異能の話も嘘ではないと英雄に自覚させたのだった。

「だが正直、ウルトラマンや仮面ライダーみたいなカッコいい姿ではない。
人によっては気持ち悪かったり怖かったり感じる姿かもしれないが、そこは了承して欲しい」
「大丈夫ですよ、河野さんは殺し合いに乗ってないから怖いとは思いませんよ」
「ああ、それでは見ててください、自分の……変身!」

了承の意味を含めたツボミのエクボを見た時、英雄の姿は変わった。
衣服は消えて体色は白と灰色が中心となり、体型も河野の元の肉体と比べるとマッシブに。
体格は人間より一回りほど大きくなり、いちおう人型を保っている体にアンバランスに大きいオウムに似た頭を持つ奇っ怪な姿をしていた。
元の英雄とは面影が全くない変身が目の前で行われたことにツボミは驚愕する。

「これって……」
『怖いかい? 少なくとも女の子が好きそうなデザインじゃないだろうがね』

鳥人によく似た異形と化した英雄を前にツボミは、驚愕の後に……エクボを見せた。

「それってガッツ星人じゃないですかー!」
『んん? ツボミさんは知っているのかい?』
「昔、パ……お父さんと一緒にレンタルビデオ屋で借りてきたウルトラセブンでこんな怪獣を見たことがあるんですよ。懐かしい~」
『そうかい?』

そういえば昔、ツボミと一緒にビデオ屋で借りたウルトラセブンのビデオを一緒にこの娘と見たことがあったか?
……あの時は無性にガッツ星人にやられて磔にされたウルトラセブンを見たくなったんだ。
そんな父親の後暗い欲求など知らずにこの娘はテレビの中のヒーローと怪獣を見て無邪気に笑っていたな。
と、英雄は片隅に追いやっていた記憶の欠片を思い出す。

「内容はほとんどうろ覚えですけど、一度はセブンをギリギリまで追い詰めるも、最終的に負けてセブンに逆襲されたUFOの中で慌てふためく姿が可愛くて印象的でした」
『そ、そうなのかい?』

磔にされるセブンが印象に残った英雄に対して、ツボミは話のラスト周辺の狼狽するガッツ星人の方が印象に残ったらしい。
父と娘、同じ話を視聴していても記憶に残るものは違うのだ。


「河野さんもセブンを見ていたんですか?」
『いえ、あんまり……』

セブンを見ていないというのは英雄の嘘である。
これはセブンを見ていないと主張することでツボミに親子の接点を悟らせないためである。

「そうなんですか?
世代的には河野さんぐらいの世代がセブンの流行った時期だと思ったんですが」
『あ、あんまりウルトラマンに興味を持てなかったんですよ。親も厳しくてね』
「ふ~ん、そうですか」

接点を必死に隠そうとしている英雄に対し、ツボミは特に何かに気づくことはなかった。
英雄がどのような幼少期を過ごしたのかは興味はなく、知りたいのはどんな異能を持っているかであるからだ。

「でもまあ、ガッツ星人は確かビームを出したり、瞬間移動能力を持っていたり……あ、分身もできた覚えがありますね」
『そうなのか。まあ見てくれからして人間よりは幾分強そうですが』

元々持っている怪獣ガッツ星人の知識を始めて聞くように振る舞いつつ、英雄はツボミから異能の話を聞いた。
もっとも、ツボミはガッツ星人に関してはうろ覚えのにわか知識しか持っていないのだが。
そうして異能がわかったところで、英雄は光と共に元の人間の姿に戻った。

「自分の異能はこの通りですけど、君の異能のヒントにはなったかな?」
「う~ん、それは……」

日常ではまずあり得なかった出来事が英雄によって目の前で起こり、ナオ=ヒューマが言った通りに異能はペテンでもなく本当に存在することが目の前で証明されたからだ。
ともすれば一人につき一つの異能が与えられているのは嘘ではないのだろう。
だが、ツボミには自分の異能の発動の仕方すらわからなかった。

「河野さんはどうやって今の変身ができたんですか?」
「頭の中にあるスイッチを押すように、強く念じてみたらガッツ星人になっていた。
ちょうどナオ=ヒューマが言ったように、直感を信じてみたんだ」
「念じる……直感か…… フンッ! セイッ! 変身ッ!! ……ダメか」

英雄に言われた通り、ツボミは異能発動のキーと思わしきペンダントを手に持って念じてみたが、何も起きない。
変身したり、瞬間移動したり、ビームが出ることもなかった。

(だけど、何かヒントがあるはず……このペンダントが鍵であることは僕の“直感”が告げてるんだ。
どこかに異能のヒントがあるはずなんだ!)

この殺し合いを生き抜くツールになるであろう異能をひたすらに探すツボミ。
そこで彼女の脳裏に主催の言葉が蘇る。



――能力発動のキーにどうしても一定の道具が必要な者は専用の品を特別に支給した。


(! そうだ、支給品!)

ツボミはディパックを開けて、中で未だに眠っている支給品に手を伸ばす。
地図などの基本支給品に紛れて中から現れたのは一枚の音楽CDとイヤホン付きのラジカセ。
支給品はこれだけで、他の参加者ならば殺傷力の低い鈍器代わりにしかならないラジカセと娯楽にしかならない音楽CDはハズレ支給品にしか見えなかっただろう。
だが、ツボミにとってはこれらが銃火器や刃物よりもずっと有用な武器になることを後に知ることになる。

英雄に見守られつつ、さっそくラジカセに音楽CDを入れ、耳にイヤホンをつけて視聴するツボミ。
再生された音楽の最初の一節が流れた時、ツボミはそれを復唱した。



「Balwisyall Nescell gungnir tron ♪」


瞬間、ツボミの体を光が包みこんだ。
眩い光、それも一瞬だったので英雄の目には写らなかったが、その一瞬の間にツボミの纏っていたステージ衣装はオレンジと黒を基調にした戦闘向けのボディスーツに変わり、四肢には手甲や具足、白いコート、頭部にはヘッドフォンを模したヘッドギアが追加される。
その姿は光が収まることで、英雄の目と施設にある最寄りの鏡を確認することでツボミの目にも入った。

「なにこれ? 魔法少女ってヤツ?」

鏡で自分の姿を確認するツボミ。
なんか体のラインが丸分かりでエロいデザインだな。大きいお友達が喜ぶね。この衣装だと貧乳が際立ってしまう。などとあまり意味のない感想を頭で浮かべつつも、この衣装について覚えていることを思い出す。

「あー、これ、どっかで見たことあると思ったらシンフォギアのアレじゃないですか」
「知っているのかい?」
「ええ、声優もやる歌手もやるアイドルでは大御所な水樹奈々さんが主題歌を歌っていることで有名な魔法少女ものですよ。
何期もやってるからそれなりに人気だと思います。
もっとも、僕はアニメは見てないから内容はさっぱりですけど」

自分と同じアイドルである水樹奈々がテーマソングを歌っていることから、ツボミはシンフォギアのことも少しだけ知っていた。
と言っても、シンフォギアがバトルアニメでこれが主人公の変身する姿であることぐらいしか知らないのだが。
ついでにアニメやヒモをさせてくれないアイドルには特に興味がない英雄にはシンフォギアと言われても全くピンとこなかった。

「でも、まあ、バトルものアニメってことはそれなりに強いってことかな?」

杖ではなく、手甲や具足を着けた見てくれからしてビームやら魔法で戦うタイプの魔法少女ではなく、空手で戦うタイプだと思ったツボミは試しに施設の壁を殴ってみたツボミ。
アイドルを始める前は空手を習っていた彼女は一般人のそれと比べると格段に早い突きを放つが、壁はヒビ一つ入らず、少々の汚れ傷と壁に金属をぶつけた程度の音しかしなかった。
殴った腕が手甲のおかげでそんなに痛めたり痺れたりしなかったことぐらいしか変身のメリットがなかった。
これではちょっと硬いだけのコスプレに過ぎない。

「あれれ? 全然弱いんだけど……」
「……ツボミさん、歌で変身できるなら能力を引き出すのも歌なんじゃないですかね?」
「歌……」

英雄の鶴の一声により、変身の時に外れたラジカセのイヤホンを耳につけるツボミ。
イヤホンをつけ直して再生すると「撃槍・ガングニール」という曲が耳の中に入る。
そして歌を復唱するように口ずさむと、どういうわけか力が漲るような感覚を覚え、もう一度施設の壁を殴ってみた。

「――ぶっ飛べこのエナジーよ! ♪」

するとどうだろうか、先ほどとは比べ物にならないほどの重い音と振動を立てて、コンクリートでできた壁に拳大のクレーターができたではないか。

「って、うわ、すごい!」
「やっぱりツボミさんの異能は歌で引き出すものだったか」

今度は歌わずに壁を殴って見るも、結果は最初と同じで壁に些細な傷がつくだけであった。
そうしてツボミと英雄は確信する。
ツボミに渡された異能とは、歌を力にする魔法少女である、と。

「ありがとうー! 河野さーん!」
「うおッ!?」

唐突に英雄に抱きつくツボミ。
テレビで視聴者に見せるエクボが顔に近づき、驚く英雄。

「河野さんがいなきゃ、僕は死ぬまで異能に気付けなかったかもしれないよ」
「いや、自分は何も……」
「そんなことない、河野さんのおかげだよ!」

吐息が唇に当たるぐらいの近さにある娘の顔。
それと本人は気づいてないかもしれないが、彼女の小さいながらも弾力のある胸が自分の胴体に、柔らかい太ももが股間に当たってしまっている。
これが他の女なら英雄も欲情していたかもしれないが、別れた女の子供とはいえ自分の血を引いてるため、一線を超えてはならないという最低限の理性あるいは本能が働き、近すぎる彼女の肩を掴んでグイと放した。


「わ、わかったから落ち着いてくれ!」
「あ、ごめんなさい……自分に魔法みたいな力が宿ったことと、生き残るための力ができたかもしれないと思うと嬉しくて、少し馴れ馴れしすぎました?」
「いや、そうじゃないが……自分が仮に善人を装った悪漢だったらどうするのかと。
油断したところをナイフで刺されたり、衣装を剥かれて乱暴されたらどうする。
君の感謝の気持ちは嬉しいが、この場はもう少し慎重に行動した方が良いだろう」
「すいません、ごめんなさい……」

父親が娘にするように(実際に親子だが)、軽い説教をする英雄。
ツボミもわかってくれたのか、しおらしくなったのだった。



その後、ツボミは変身を解き、二人は建物の窓越しに外を見張る形で西と東に別れた。
他の参加者、特に殺し合いに乗った者を警戒するための布陣である。
できれば女の子であるツボミには無茶をさせずに夜が明けるまでゆっくりさせたいと英雄が気を使おうとしていたが、人気があるほどハードになるスケジュールをこなすアイドルには1日・2日寝ない程度は大丈夫だとツボミは言った。
そもそもアイドルは歌やダンスなどで意外と体力を使う仕事であり、体格からして運動をやっていなさそうな英雄よりは体力があると自信があった。


ツボミが西側、英雄が東側に別れてからは特に会話を交わすことなく、時間が過ぎていく。
ツボミは窓から外を見張りつつ、片耳にはイヤホンをつけてラジカセから音楽を聞く。
もうひとつの耳で物音を聞くために片耳は空けているとはいえ、音楽を聞いている以上は集中力が下がってしまい、危険な行為である。
しかし歌を力にする装者の性質上、CDの中にある歌の歌詞やリズムを暗記するのは急務であり、異能を生かすための措置であった。
とりあえず一曲でもしっかり覚えないと、異能を練習することさえできない。

そんな中でツボミは支給された飲料水入りペットボトルを飲みながら東側を見守る英雄の背中をチラリと見る。

(ふぅ~、しかしあのオジサン、意外とガード硬いなあ。
僕のお色気攻撃が全然通じなかったよ)

実は先程の、自分の異能がわかった後に喜んで抱きついたのは演技であり、英雄を篭絡するための手段であったのだ。
顔が触れかけたのも、胸や太ももを当てたのも偶然を装った演技である。
それで熱狂的なファン共のように手篭めにできれば御の字。
いきなりそこまで行かなくとも、最低でも庇護欲を刺激させたり、欲情させたりできれば後で使いようがあるというものだろう。
ところが事はそこまで上手く運ばなかったらしい。

(太ももを股間に当てるついでに勃起を確かめたけど、勃っている様子はなし。
視線も唇や胸や尻じゃなくてあくまで瞳だけを見ていた……少なくとも欲情はしていないね。
あ~あ、チョロイ奴だったらあれだけでイチコロだったんだけどなあ。
まあ、あのオジサンは家族もいそうだし、もし家族に優しい人ならストイックになろうとするだろうし、何より殺し合いという異常事態に巻き込まれたら性欲どころじゃないかもしれないけど)

どうせ優勝するその時までに殺す相手とはいえ、英雄を生き残るためのツールとして手駒にしておきたいツボミ。
特にガッツ星人の能力である分身や瞬間移動はいざという時の逃走などに色々使えそうだ。
ラジカセのイヤホンから流れる曲「撃槍・ガングニール」を暗記しつつ、次なる生存戦略を考えるツボミであった。

「……ん? あれは?」

事態が動いたのは時刻が深夜2時を回る前だろうか。


 ◆



「近場で火事?」
「うん、ミカン畑の当たりから出火しているのを見ました。
……殺し合いに乗った危険な人がいるのかもしれません」

ツボミは地図上のE-8にあるミカン畑から燃え上がる炎を発見したのだ。
そして危険を知らせるために英雄と合流し、今後どうするかについて話し合おうとしている。

「ミカン畑とこの観光協会はエリアが隣あっている。
今は大丈夫でも、2・3時間もすれば延焼して火が燃え移るかもしれないか……」
「それに僕の異能は端的に言えば歌って戦うこと。
歌う以上、火災で発生した有害なガスを吸うことになって戦えなくなっちゃいます」

火災は人間に取って危険であるし、何より歌えない状況こそがツボミの異能を殺すことに繋がってしまう。

「幸い、少し南下すれば診療所や集落がある。篭城先をそっちに変えよう」
「畑に火をつけた人がいるかもしれないし、ここから移動するのは正直不安ですけど、この施設もいつ炎に包まれるかわからないですし……」
「あ」

ツボミの手は震えていた。
それを見た英雄はツボミは自分に異能があるとわかってはいても殺し合いが怖いんだと考える。
ツボミとは既に縁を切った娘ではあるし、今さら父親ぶる意味もないとわかってはいる――それでも少しはカッコつけたくなったのか、本来の情けない男の姿を見せづらいと思ったのか、形だけでも大人の体を取ることにした。
具体的にはガッツ星人に変身し、ツボミの前を歩くようにする。

「河野さん……?」
『自分が他の施設に着くまで先導します。ツボミさんは自分の後ろについてきてください』
「ありがとう、河野さん」
『さあ、早くここから出ましょう』

死にたくないと願う英雄にとって自分が盾になることは本当は嫌であったが、ガッツ星人の防御力なら簡単には死なないだろうという自負と、今、ツボミに嫌われる行動を取ると後で居心地が悪くなるだろうという打算からの行動であった。
あくまで震える少女を慰めて点数を稼ぐような行為であり、善意からでは決してない、と英雄自身は思っている。

ちなみにツボミの手の震えは演技であり、庇護欲から自分から盾になってくれた男に対して、アイドルは黒いエクボを見せていたことを背を向けていたガッツ星人は知らない。
アイドルもまた、弾除けにしようとしている男が自分が探し求めた父であることを知らないのだった。

そして脱出を決意し、二人は施設の出口へ向かった。



しかし出口には待ち構えている男がいた
ツンとするような濃い血の匂いと同時にのそりと、力士のような巨体に血まみれの調理用のエプロン姿に豚のマスクを被っている男が現れた。
距離からして5mは離れていて薄暗い施設の中であったが、英雄にもツボミにも聞き覚えがあり、二人の思考と声がシンクロした。

「『ブッチャーマン!?』」

都市伝説とされていた危険な食人鬼が二人の前に現れ、一瞬でも驚愕させた。
その一瞬の隙をブッチャーマンが見逃すわけはなく、蠍の尾に似た尾赫を出し、勢いをつけて英雄の胸を突き刺した。


『ぐはあッ?!』
「河野さん!?」

幸い、予めガッツ星人に変身したことが功を成し、人間に比べれば硬い肉体に守られたことによって常人なら死に至るダメージも軽い出血で済み、床に尻餅をつくぐらいであった。

しかし……

『……う、うわああああああああ!?』
「!?」

突如、現れた殺人鬼と、明確な殺意を向けて放たれた一撃と痛み。
仮に変身してなければ確実に死んでいたという事実に英雄は混乱しパニックになってしまった。
それを見るツボミにとっては、叫ぶ英雄の様はテレビで見たUFOの中で慌てふためくガッツ星人そのものであった。
そして、叫んだ直後にガッツ星人こと英雄の姿はフッと消えてしまった。

「消えた……?」
「?」

突然霧の如く消えてしまった英雄の姿に何がなんだかわからなかったツボミ。
ブッチャーマンも首を傾げているところから彼がやったわけではないらしい。
しかし、ガッツ星人の特性をうろ覚えながらも知っているツボミは次の瞬間には呆れたエクボを浮かべていた。



「アッハッハッハ。なるほどねぇ! ……あのオッサン、自分だけ逃げやがった!」




ガッツ星人には瞬間移動能力があり、パニックに陥った英雄はそれを使って逃げたんだと悟る。
駒として利用するつもりが、自分の方が置いてかれるとはツボミも失笑を禁じ得なかった。
だが、そんな事情など知ったことかとブッチャーマンは尾赫を使ってツボミを突き刺そうとする。

「ヒィ!」

頭部にまっすぐ向かってきたソレをツボミは姿勢を低くして回避するも、表情からは先程までのエクボが消えて戦々恐々としていた。
ブッチャーマンは続けて尾赫で突き刺そうとするが、相手の運動神経が良いのか、ツボミは腰が引けつつも右へ左へ後ろへと尾赫を躱していく。

「まだ死にたくない、こないで……こないで……!」

だがツボミの精神も限界が来たのか、股の方から垂れ流した黄色い液体でパンツや靴下に靴と床を汚していた。
あまりの恐怖に失禁したようだ、とブッチャーマンは理解する。
少しは粘った方だが、所詮は血なまぐさいことに無縁な一般人。
失禁した以上は戦意は喪失しているだろうし、向かうから反撃をしてこないところからして自分に勝てるだけの支給品や異能は持ち合わせていないと彼は断定した。

これまでは武器や異能による反撃を警戒して尾赫一本による攻撃でチクチクと攻めていたブッチャーマンだったが、勝利を確信した殺人鬼はここで一気に攻勢に出る。
尾赫による攻撃はそのままに突進しつつ、尾赫を躱された時の策として二撃目に肉切り包丁による一撃を与える。
一辺に二度の攻撃ならば尻餅をついているツボミに躱すことなど不可能に近い。
それは人間を相手に狩りを続けてきたブッチャーマンなりの経験則であった。
そしてブッチャーマンは戦術を実行に移し、尾赫を放ちながらも包丁を構えてツボミに詰め寄る。
次の瞬間には多くのファンを魅了したツボミの顔は、グチャグチャの肉塊に成り果てるだろう。



……と思っていたブッチャーマンだったが。
尾赫がアイドルを襲わんとした瞬間、食人鬼は確かに見た。
ツボミの口角が確かに三日月状に釣り上がり、更に何かの言葉を口ずさんでいたことに。
その言葉は自分の走る音などにかき消されてよく聞こえなかった。

次の瞬間に一瞬の発光がツボミの身に起こり、姿をフリフリのアイドル衣装から戦闘的なスーツに変えていた。
ブッチャーマンの思考はそれを確認すると同時にツボミの口が再び動いているところを見た。
今度はしっかりと聞き取れた。

「絶対に…離さないこの繋いだ手は♪」

――目の前の少女は歌っている。なぜそこで“歌”?

そう思った瞬間がブッチャーマンの大きな隙となった。
放った尾赫は躱され、その直後に掴まれた挙句に人間とは思えぬ怪力で弾かれた。
自分よりは遥かにか細い少女の裏拳によって、尾赫にヒビが入る。

「こんなにほら暖かいんだ ヒトの作る温もりは♪」

すかさずブッチャーマンは振りかぶった包丁による一撃をお見舞いしようとするが、ツボミはこれが振り下ろされる前に手甲で防いだ。

「難しい言葉なんていらないよ♪」

渾身の力を込めた包丁を躱されたことによって絶対的な隙が生じてしまったブッチャーマンに対し、ツボミはガラ空きの腹に向けて回し蹴りを入れた。
ブッチャーマンは包丁から手を放した左腕の防御がギリギリで間に合い、蹴りをガードするも、その一撃は非常に重く、左腕の骨をボキリと折ってしまった。
仮に左腕を犠牲にしなければ、胴体に命中した蹴りが内臓を破裂させていた危険もあるかもしれない。

「――今わかる 共鳴する Brave mind♪」

左腕の骨折は流石に響いたのか、ブッチャーマンはたたらを踏んで後退。
これを勝機と思ったツボミは勝負をつけるべく、一気に間合いを詰め寄って再び回し蹴りを放つ。
ブッチャーマンは今度は折れてない右腕に持つ肉切り包丁で懐を守ろうとするも、蹴りはフェイントで当たることはなく引っ込められ、真打はガードされていない豚マスクの顔面にあった。

ツボミはKENGOのようにマスクをはぎ取って撃退しようなど考えていない。
空手由来の正拳突きで頭部の頭蓋を砕かんとしていた。
相手の両腕は塞がっており、どうやってもガードは不可能。
ツボミは勝利を確信する。

「!!」
「な?!」

しかし必殺と思われた正拳突きは防がれた。
ブッチャーマンはツボミが攻撃に移る前に尾赫を引っ込め、全く別の赫子を肩甲骨の辺りから出していた。
赫子の中で最も高度に優れた“甲赫”である。
盾として現れた歯のように硬い赫子がツボミの正拳突きを防いだのである。
ブッチャーマンの身を守らねばという防衛本能がきっかけで異能発動のスイッチが初めて入ったようだ。

「クッ……ぐっとぐっとみなぎっていく――♪」

ブッチャーマンの底知れぬ異能の力に驚きを隠せぬツボミは中断した歌を再び歌って追撃を加えようとするが、今度は盾となっていた甲赫が引っ込んで、左右から覆うように触手“鱗赫”が襲いかかる。

(この豚、いくつ異能があるの……!)

ツボミは追撃を諦め、左右から来ていた鱗赫を腕で捌きながら後退。
広く間合いを取って仕切り直すことにし、ツボミは拳を、ブッチャーマンは包丁と鱗赫を構えて対峙する。



「やれやれ、油断を誘うために人前でオシッコまでしたというのにアドバンテージは腕一本か……人を殺すのって難しいね」

実はツボミが先ほど失禁したのは半分は不意打ちするための演技である。
「半分は」と言ったのは、ツボミがブッチャーマンに恐怖を憶えたこと事態は嘘ではなく、先にパニック状態に陥って逃げ出した英雄の件や、自分も殺人鬼に殺されて愛する父親に再開する前に見せしめになったジョーや椿のように物言わぬ肉塊になるのだと思うと怖くて仕方なかった。
しかしブッチャーマンが何度か攻撃を仕掛けてくる内に、彼女の中にある目的のために手段を選ばない計算高さや生き汚さ、そして戦う覚悟が蘇っていき、奇策を思いつかせたのである。
本人は演技には自身があり、極めつけに失禁したように見せかければ戦意を喪失したように見せかけて不意を突けるだろうと。
皮肉にも異能による反撃を恐れて半ば牽制的に尾赫による遠巻きからの攻撃に徹したことが仇になり、ブッチャーマンはツボミに戦意と作戦を立てる時間を与えてしまったのだ。
あと一歩、踏み込めればツボミはブッチャーマンを猛反撃の勢いで殺害できていたが、そこまでの強運を天は与えず、現れた盾である甲赫に邪魔をされてしまった。




ブッチャーマンは獲物であるツボミを見てこう思ったであろう。
この女は先に殺した二人とは格が明らかに違うと。
異能の強さの問題ではない。
人間的な意味での強さを目の前のオレンジの女は持っているのだ。
肉体的には見た目以上に鍛えられているようであり、そこらの一般人より遥かに手強い。
それだけでなく生き延びるために何でもしてくる……相手に勝つためならどんな卑劣な手段を使おうが、自分がどんなに恥ずかしい目に会おうが構わない外道の眼をしている。
あれは人の皮を被った猛獣、下手すれば自分の方がとって食われかねない相手であった。

だからこそ自分の手で殺して喰ってみたいと思った。
グッチャグッチャにして喰ってみたいと思った。
強敵の肉はきっと美味に違いないと、第六感が囁いているのだ。

左腕は折れているが、どういうわけか痛みが徐々に引いている。
再生でもしているのか?
なんとなくしばらく経てば動かせそうな気がする。
肉切り包丁は無事であり、折れた腕の代わりに赫子は使える。
戦闘の続行は可能だ。
向こうも強力な異能を持っているみたいだが、それはこちらも同じである。
特にこの狡猾な女を逃すと後で面倒なことになりそうな気がするのでここでなんとしても殺す。と。



ツボミは都市伝説の食人鬼についてこう思った。
空手を習っていた自分にだからわかるが、この男はさほど強くない。
確かに殺人鬼で恵まれた体躯からくる筋力は凄まじく、一般人にとっては歯が立たない相手だろう。
だがある程度訓練した人間で奇襲を受けるなどの不利な条件でなければ、制圧も簡単にできる。
肉切り包丁は殺傷力のある凶器だが、鎧(アームドギア)に身を包んでいる自分ならば危険性もだいぶ減っている。

問題なのは食人鬼に渡された異能の方である。
背面の赫子やマスクから覗く赤く輝く瞳から、ツボミは食人鬼がブームになった漫画作品“東京喰種”の異能を渡されていると断定している。
だが悲しきかな、シンフォギア同様に東京喰種に興味がなかったので作品のことをよく知らず、喰種や赫子の特性を知らないのだ。
少なくとも壁にクレーターを作った拳を凌ぐ程度の身体強化と、少し離れた場所を攻撃できる蠍の尾、硬い盾、ウネウネした無数の触手を出すぐらいはわかったが、まだあるかどうかもわからない。
そもそも自分の異能すら完全には把握したと言い難く、空手と歌を力にする異能がどこまでできるか、どこまで通用できるのかもわからない。

更にツボミには急がなくてはならない状況に立たされている。
E-8の火事が気がかりであり、今は大丈夫だろうがモタモタしていると火事がこの施設までやってきてしまう。
先に英雄との会話で懸念した通り、火災そのものの危険はもちろん、燃焼によって生じる有害ガスは歌うことで力を発揮するツボミには死活問題であった。
だが出入り口は食人鬼が立ちふさがっている。
窓をぶち割って逃げることも考えたが食人鬼の異能の全貌がわからない以上、背を向けた瞬間に殺される恐れがある。
生き残るためにすべきことは施設からの早急な脱出、そのための食人鬼の撃退もしくは殺害である。



「ねえ、ブタさん」

再度の激突が始まる前に、ツボミは唐突にブッチャーマンに笑顔を向けて話しかけた。
次にツボミはビシッと、自分の股を指さした。

「アイドルの恥ずかしーところをあなたのために見せたんだから代金をしっかり払ってよね?」

変身の際に衣服は再構成されたが、尿はそのままなのか股の辺りはビショビショである。
それがどうした、と言いたげ(喋らないが)なブッチャーマンだったが、次の言葉を聞いて確かに彼は反応した。


「――お代は命でいいよ☆」


ツボミのエクボが一点、黒いスマイルを変わり、挑戦状を叩きつける。
ブッチャーマンはこの挑発に怒ったのか、引いたのか、それとも面白いと感じたのか、確かに赫子が揺らめいたのであった。



(全く、あのオッサンがいれば瞬間移動でこんな面倒くさいことにならなかったのになー
勝手にいなくなったせいで大変な目にあってるよ)

スマイルの裏で、ツボミの脳裏に逃げ出した英雄の顔が浮かぶ。
最初に会った時は懐かしい雰囲気でちょっとだけ好感を持っていたが、自分を置いて一人だけ逃げていったのでその好感も吹き飛んだ。

(まあ、いいや。人殺しに慣れるための良い機会が巡ってきたと前向きに考えよう。
……河野さん、次に会った時にすぐ殺るかはわからないけど、楽な死に方はさせないからね☆)

ガッツ星人に磔にされたウルトラセブンの如き姿の英雄のヴィジョンが浮かび、なるべく惨たらしく殺すことを決めたツボミ。
だがそれはブッチャーマンを対処した後でなければできないことなので、今は思考の片隅に置いておくことにした。


 ◆



ここはE-9エリア内の観光協会施設から十数m離れた場所の茂み。
そこに一体のガッツ星人がポツンと座っていた。


『しまった……ツボミを置いてきてしまった』


ブッチャーマンの奇襲によってパニックに陥った英雄は、逃げたいと念じたその時にガッツ星人の能力の一つである瞬間移動能力が発動し、若干の疲労と引き換えに自分だけ観光協会の外へとワープしてしまったのだ。

『戻るか……いや、だが……』

今から戻ればガッツ星人の力とツボミのシンフォギアの力でどうにかできるかもしれない。
だが動こうとする度にブッチャーマンに赫子で付けられた傷の痛みがズキズキし、血まみれで冷酷な恐ろしき食人鬼の姿がフラッシュバックするのだ。
彼が最低の女としている河野明代とは違うベクトルの、殺人鬼に狙われるという体験したことのない恐怖により、どうしても腰が竦んでしまう。
ガッツ星人の力があるとわかっていても、勝てる気がしなかった。

『落ち着くんだ自分、今の俺と彼女はなんの関係もない……この前まで忘れていた、もう娘でも何でもない子のハズだ。
どのみちもう、ブッチャーマンに殺されているかもしれないしな……』

臆病風に吹かれた英雄はそのように自分に言い聞かせる。
赤の他人で助からない相手と思い込めば、罪悪感はわかないと思ったからだ。
結果的に娘だった少女を見捨てて、否、囮にして逃げる形になってしまうが、それでも死にたくないのである。

そして英雄は震える体と竦んだ腰を可能な限り制して立ち上がり、観光協会から背を向ける。
それで走り出せば危険地帯を脱出した英雄はしばらくは延命できるであろう。


『…………』


しかし、英雄はできなかった。
彼の頭の中には幼少時と成長してつい先ほど再会したツボミのエクボが浮かんでいた。


――パパ、大好き
――ありがとうー! 河野さーん!


己の確実な生存か、娘だった少女の笑顔を選ぶか。
英雄のガッツ星人の大きな頭の中では葛藤が渦巻いていた……




【一日目・2時30分/E-9 観光協会】

【ブッチャーマン@喰種の肉体と赫子/東京喰種】 
[状態]:ダメージ(中)、疲労(小)、左腕骨折(再生中)、血まみれ
[装備]:巨大な肉斬り包丁
[道具]:基本支給品、不明支給品0~2(確認済み) 
[思考・行動] 
基本方針:優勝して食事に困らない生活を手に入れる 
0:目の前の女(ツボミ)を殺す
1:殺し合いを有利に進めるために夜明けまで集落を探索する
2:逃げた男共(ゆたか・英雄)は取り敢えず後回し
[備考] 
※自分の異能をある程度理解しました。鱗赫、尾赫、甲赫ができることは認識し、他にもまだあると思っています。
※大木潮と天草ゆたかが入れ替わったことを認識していません
※KENGOが大嘘憑きで生き返ったことを知りません。遺体はまだ灯台の中にあると思っています
※天草ゆたかの遺体は損壊した状態でD-10に放置されています。また、彼女のデイパック(不明支給品0~2)は遺体から離れた場所に埋められました。


【郷音 ツボミ@立花響(ガングニール)/戦姫絶唱シンフォギア】 
[状態]:健康、変身中、股が尿で濡れている
[装備]:ガングニールのギアペンダント 
[道具]:支給品一式(飲み水残り70%)、ギア歌唱曲一式が収録されたCD、イヤホン付きCDラジカセ
[思考・行動]
基本方針:生きてパパと会うために優勝する。 
0:ブッチャーマンから逃亡もしくは撃退、可能なら殺害したい 
1:ブッチャーマンを対処したら蜜柑畑の火事から逃れるために施設から離れる
2:英雄はなるべく惨たらしく殺したい。いつ殺すかは状況を見て考える
※実父が失踪したのは小学生の頃です。 
母親が実父の写真を全て消却していること、実父とは時折しか会えなかったことから顔は殆ど覚えていません。 
※英雄に無意識に懐かしさを感じていますが、実父とは気付いていません。
※自分に与えられた異能を理解しました。
 また支給された譜面から「撃槍・ガングニール」の歌詞を暗記しました。
※ガングニールのロック解除は「立花響」限定であり、見た目や拳を主軸に戦う点は固定です。
 現状の姿は原作一期(無印)においての立花響の姿ですが、ツボミの精神的成長・変化に応じて二期(G)・三期(GX)・四期(AXS)の形態に変化し、戦闘力が上がっていきます。
※幼少時に父親である諸星茂(=河野英雄)とウルトラセブン39話~40話を視聴したことがあるため、ガッツ星人も知っていますが細かい部分はうろ覚えです
 

【一日目・2時30分/E-9 観光協会 外部】

【河野 英雄@ガッツ星人/ウルトラシリーズ】 
[状態]:胸部にダメージ(中)、疲労(小)、困惑、変身中
[装備]: 
[道具]:支給品一式、不明支給品(0~3、確認済) 
[思考・行動] 
基本方針:とりあえず死にたくない。 
0:ブッチャーマンから逃亡するか、ツボミを助けにいくべきか……
1:ツボミとの関係は黙っておく。 
2:磔になりたいという無意識の願望。 
3:テレポートを使えばブッチャーマンからは逃げられるが、その場合はツボミが……
※郷音ツボミの実父です。彼女の母親とは「諸星 茂(モロボシ シゲル)」という偽名で関係を持っていました。 
英雄本人もツボミが娘であると何となく気付いていますが、面倒なので黙っています。
※変身中はガッツ星人の能力であるテレポート、分身などが使えますが、いずれも体力を消費し、テレポートは短距離(20m以内)での移動に制限されています。
 巨大化は不可。


【支給品解説】

【ギア歌唱曲一式の収録されたCD@現実?】
戦姫絶唱シンフォギアにおいて登場人物である立花響が劇中で歌う歌を収録したCD。
シンフォギア装者は歌わないと戦闘力を発揮できないので、覚える必要がある。
収録された歌は「撃槍・ガングニール」「私ト云ウ 音響キ ソノ先ニ」「正義を信じて、握り締めて」「 Rainbow Flower」「限界突破 G-beat」「リトルミラクル ?Grip it tight?」


|[[「夢をあきらめて現実を生きます」]]|時系列順||
|[[秩序・狂と混沌たち]]|投下順|[[あの素晴らしい愛をもう一度]]|

|[[絶望のU/夢見る少女じゃいられない]]|ブッチャーマン||
|[[LOVE DELUXE]]|郷音 ツボミ||
|[[LOVE DELUXE]]|河野 英雄||