ミカン畑に背を向けて、鈴宮ミカは歩く。 何処へと問われたら、彼女にも分からず。 何故かと問われたら、燃え広がる前に避難する為に。 ミカがミカン畑を後にして最初に考えたことは、体制を立て直すにはどう動くかについてだった。 彼女は先ほどキリエロイドに変身した分目青司に後れを取っている。 理由としては、手持ちの銃マイクロ・ウージーがキリエロイドに通じないという物理的な面と、青司が出した獄炎弾を見てトラウマを思い出した精神的な面がある。 このうち精神的な部分は彼女自身の問題で、一朝一夕では解決できない。 それを理解しているが、彼女はあえて今は考えないようにしている。 彼女が考えているのはもう一つの方、物理的な面だ。 手持ちの銃じゃ通じない、ならばもっと強力な武器を手に入れなければ。ではその為にどうするか。 その答えは既に出ている。 「他の参加者から殺して奪い取ること……」 それが最善だと彼女は理解していた。 だがここで別の問題が発生する。 一応言っておくと、彼女は別にその事に不満も躊躇も一切ない。 元々他の参加者も殺すつもりだったのだから当たり前である。 物理的な意味でも問題は無い。 彼女は辛い過去を持ち、それを無かった事にする為に殺し合いに乗れるある意味肝が据わっている少女だがそれ以外は普通である。 とはいえ彼女にはナオ・ヒューマに与えられた異能がある。 その異能はジョジョリオンに登場したスタンド、ビタミンC。 射程こそ指紋で作った結界内部という特殊なものの、その能力は強力だ。敵対すれば対処は容易ではない。 では何が問題かというと 「悪霊だけじゃ殺して回れない……」 ミカは気がはやっていた。 それはこれまでの行動でも明らかだ。 友好的に接してきた相手をだまし討ちでは無く問答無用に銃撃。 銃に慣れていないのだからもっと近づいてから撃てば確実に命中し、青司の命を奪うことが出来ただろう。 最も、これは気がはやるだけでなく、異能と支給品に恵まれたことにより油断していたという部分もあるが。 その油断が除かれた今でも、態勢を立て直したら打って出るつもりなのだから気がはやっていることは事実だ。 しかしこれに関して彼女に非があるとは言い難い。 彼女が殺し合いに乗ったのは、失った家族を取り戻しもう一度幸せになるためだ。 火事で両親を失い、両親の保険金の大半が親戚に奪われ、自殺未遂すら起こしている。 この殺し合いはそんな彼女に与えられた最後のチャンス。 戦略的にミスがあるといえば事実だが、心は抑えられない。 とはいえそんな事情は彼女以外に関係ない。 また知ったとしても参加者は考慮する義理はない。 その事に彼女はまだ気づかない。 「どうしよう……」 はやる気持ちと自身の現状に折り合いが付けられず悩むミカ。 しかしそんな彼女の前に建物が見える。 それは交番、本来ならば警察官が常に在中し、この恐怖の惨劇の中ではさぞ頼りになったことだろう。 しかしこの時間には殺し合いに参加している二人の警察官のいずれもこの場におらず、ここは会場の一施設でしかない。 その交番を見て彼女が思ったことは 「他の参加者がいるかもしれない……」 そして彼女は持っていたマイクロ・ウージーを構え、細心の注意を払いながら交番へ入って行った。 結論から言うなら、ミカの注意は無駄だった。 何故ならば、他の参加者はいなかったからだ。 ミカの期待と不安が肩すかしとなり、彼女は交番から出て行こうとする。 しかし出て行こうとした直後に彼女のお腹から可愛らしい音がした。 それを恥ずかしがりつつ彼女は食事をしようと考えた。 「何かあるかな……」 そう言って彼女は交番の中を探す。 ちなみにデイバッグにある食料に手を付けない理由は簡単。 いざという時の為に残しておいた方がいいと考えたからだ。 決して日常から遠く離れたこんな時まで今のみじめな生活のような食事をしたくないからじゃない、と彼女は思っている。 実際は後者の方が大きくウェイトを占めているのに。 「あったけど、これって……」 そうこうしている間にミカは食料を見つけた。 それは大量のカップラーメン、なんて事の無い普通のインスタント食品だ。 「……」 ミカはそれを黙って見つめる。 別に食べるのが嫌なわけではない、彼女がラーメンを嫌ったことなど一度も無い。 問題はこの部屋にポットが無く、火を起こすにはガスコンロを使うしかない点だ。 「火……」 そう、ミカは火をつける事が怖かった。 ミカン畑で向けられた獄炎弾と違い、自分に牙をむけることは無いだろうコンロの火が恐ろしかった。 別に普段からコンロの火を怖がっている訳では無い。 ただ、今火を見るとさっき見た獄炎弾、ひいては火事の記憶がフラッシュバックしそうになると彼女は感じていた。 「火は大嫌いだ……、だけどパニックを起こすようなことはもう駄目だ……」 そう言ってミカは鍋と水を用意した後、火を付けようとすると手が震える。 駄目だ、こんな事じゃ駄目だ。そんな思いばかりがつのる。 その思いを貫く為に彼女はコンロに手をかけて、火をつけた。 「……大丈夫、何も問題ない」 ミカは鍋に火を掛ける様子を、否火をただ見続ける。 さっきまでに震えを嘘にしたいから。 そんなことが出来るのかは彼女にすら分からないのに。 「もう大丈夫、次あの化物と戦っても無様に逃げたりしない……!」 その言葉が本当かどうか、確かめる術は誰も持っていない。 その後、ラーメンを食べ終わったミカはこれからどうするかを考えた。 そして出した結論はこうだ。 「やっぱり待ち伏せしかない……!」 ミカは殺して回ることを一旦止め、籠城を選んだ。 本音を言うなら今すぐにでも動き回りたい。 だが、この殺し合いには40人以上の参加者が居る。それを女子高生1人の体力で、殺して回ることは武器が十全であっても出来るのか。 答えは決まっている、不可能だ。 そうでなくても体力を使う場面はきっと来る、ならばなるだけ体を休める方向で考えなければ。 「じれったくても我慢しなきゃ……。 強く持たなきゃいけない。体だけじゃなくて心も……! だけど我慢するのは態勢が整うまでの間だけ……!!」 一刻も早く両親と再会したい、だけど急ぎ過ぎて死ぬわけにはいかない。 二律背反の気持ちを抱えながら、彼女は歩き出す。 「まずはこの交番を指紋の結界で囲まなきゃ」 自分が今成すべき事を。 自分が望む過去の為に。 【一日目・2時00分/G-8 交番】 【鈴宮ミカ@ビタミンC/田最環@ジョジョリオン】 [状態]:疲労(小)、精神疲労(小) [装備]:マイクロ・ウージー(8/32) [道具]:基本支給品一式、不明支給品×0~2(本人確認済み) [思考・行動] 基本方針:優勝して家族との幸せな日々を取り戻す 1:交番の中で待ち伏せし参加者を殺すことで、支給品を手に入れて態勢を立て直す 2:態勢が立て直り次第、積極的に他の参加者を襲撃する 3:火は大嫌いだ……! だけどもう、パニックになんてなりはしない……!! [備考] ※自分の異能(スタンドの作った指紋による結界に触れた生物を柔らかくする)を自覚しました ※分目青司の異能の一部(キリエロイドへの変身、獄炎弾)を知りました ※G-8 交番はビタミンCの指紋の結界の範囲になりました。 ※交番の中には大量のカップラーメンが置いてあります |[[秩序・狂と混沌たち]]|時系列順|[[ギャルと見るはじめての異能]]| |[[ブラックアイドル地獄変]]|投下順|[[ギャルと見るはじめての異能]]| |[[ケロイド]]|鈴宮ミカ||