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道端ロクサーヌ。 日本人の父とフランス人の母との間に産まれたハーフであり、プラチナブロンドのウェーブがかかった長髪に抜群のスタイルを持った美貌を持つ女。 テレビや雑誌を中心に幅広く活動し、日本ではその名を知らぬ者はいないとされるほどの超有名モデルである。 美貌だけでなく、自信に満ち溢れ、かつ礼節を重んじる実直な性格から彼女に憧れるファンは老若男女問わずに多い。 唯一、欠点があるとするならば他人が食べれる物を全く作れない料理の腕くらいであろう。 まさに彼女は現在のトップモデルに相応しい美しさと器を持ったレディと言えた。 そんな超有名モデルとうたわれるロクサーヌが目覚めたのは、沖木島のとある林の中であった。 「これハ……」 気品のあるベージュのトレンチコートにブーツ、闇夜でも輝くプラチナブロンドの髪。 コートごしの背中からでもわかるぐらいのスタイルの良さに誰でも目を惹かれるだろう。 だが、世間で知られているロクサーヌの姿で似ている部分はそこだけだった。 搾り出されたその声は辛うじて言葉としては聞き取れるものの、何か人間とは違う別の生き物の声のようだった。 手には人間を殺傷できそうなするどく尖った爪が生えており、これまた生き物の肉を容易く食い千切れそうな牙が口からはみ出ている。 不気味な真っ赤な瞳が顔の半分を覆うほどびっしりと覗き、肌も疫病にでもかかったかのような斑点や死体のような体色が目立つ。 プラチナブロンドの髪が生えた頭も、よく見ると角とも触手ともとれる何かが生えていた。 これらはあくまで露出している部分であり、服の下もおそらくは人間のそれとは違う物があるのであろう。 このような姿を持つ女性を人は美人とは言わないだろう。 名状しがたき異形……そういうべきだろう。 道端ロクサーヌがナオ=ヒューマに施された肉体改造は名状しがたき力……クトゥルフ神話をモチーフにした作品“SAVE”、その男性主人公であるウズラの持っていた“名状しがたき力”を与えられたのだ。 その結果、ロクサーヌは辛うじて人の形を保っている程度の異形と化した。 彼女自身も先の殺し合いの説明会場となっていたあの場で、肉体に違和感を感じていた。(それと二人の男女が殺された惨劇に気を取られた結果、レオポルドや時春などの有名人も殺し合いに招かれていたことに気づかなかったが) 違和感の正体を確かめるべく、手探りで自分の体を確かめる。 それでわかったことは自分の体から生えている爪や牙、人間の持ちえないもの全てが作り物ではないということだった。 「特殊メイク……ナンカじゃない。全部、直二生えてるものだ……」 自分が異形と化したことに衝撃を受けるロクサーヌ。 どうやってやったのか検討もつかないが、人間……それどころかどこの生き物かもわからない“何か”を移植されたところで、ヒューマがかなりの能力もしくは技術を持っていることがわかる。 夢かドッキリかと思いたいところだが、これは紛れもない現実で、実際に自分は異形と化しているのは間違いではないと肌でわかった。 ナオ=ヒューマの言っていた肉体改造は嘘ではない……転じて殺し合いをしろというのも嘘ではないだろう。 これでどこぞのテレビ局が仕掛けたドッキリ番組企画の線は消失した。 「…………クッ」 そして何よりも、母親と父親から与えられ、自分なりの努力と研究で育み磨いてきた美貌が、どこの誰ともしれない輩にグチャグチャにされて醜い姿にされたことにロクサーヌは怒りと悲しみを覚えた。 戻れるものならすぐにでも元の姿に戻りたかった。 そこへ脳裏に主催者の優勝すれば特典として元に戻すという言葉が反芻する。 仮に他者を殺して最後の一人になればロクサーヌはかつての美貌を取り戻せるだろう。 「……悪党二負けてたまるもんですか。 私ハ意地デモ殺し合い二乗りませんよ……」 しかし、ロクサーヌは強い女であった。 確かに元の姿に戻して欲しいとは強く願っている。 だからと言って元の姿に戻りたいがために殺し合いに乗ってしまったら、それこそ主催者の思うツボだろう。 ナオ=ヒューマはそれを見越してわざと美しさで食べているモデルである自分を異形にした可能性だってある。 望まぬ肉体改造を施したのは主催者であるのに、それで主催者に従って殺し合いに乗ったら悪党への泣き寝入りと何も変わらない。 自分のためだけに他者を犠牲にすることは浅ましいことだと思い、ロクサーヌはその実直さ故に、体は醜くなっても心までは醜女には成り下がる気はなかった。 (ナオ=ヒューマは優勝すれば元に戻せるとも言っていたということは、彼に元に戻せる手段があるということ。 ……優勝する必要なんてどこにもない。彼を捕まえて、元に戻れる方法を吐かせればいい!) ヒューマは参加者たる人々を拉致し、その全員に肉体改造を施した下手人だ。 ということは元に戻すこともできるということであり、本人もそれを口にしていた。 (最悪、この場で捕まえられなくとも、この殺し合いから脱出は目指そう。 後は警察に彼を逮捕してもらえばいい) ヒューマが会場である沖木島や自分や他の者の力を借りても捕まえられない場合は、真っ向から戦わずに逃げてしまうのも手だ。 ロクサーヌ自身は喧嘩の仕方もよくわからない素人であるし、他の人々も荒事が得意かどうかはわからない。 犠牲をなるべく出さないためにも島から脱出することを優先させるべきだろう。 後は権力と武力を持った国家機関に任せる方が無難である。 最終的に元に戻れるならロクサーヌとしては文句はない。 (見ていなさい、ナオ=ヒューマ。 私は絶対に殺し合いには乗りません! あなたが望んでいるであろう化物になってやるものですか!) ロクサーヌはこうして主催に抗う決意を強く固めた。 (まず私がやるべきことは、殺し合いに乗っていない人々との合流……いくら生存がかかっているからって人殺しをやりたくない人々は必ずいるはず。 そして、殺し合いに乗ってしまった人は説得する……殺し合いが馬鹿げていることを教えなくては) 一先ず、殺し合いに乗っていない人々との合流を目指すロクサーヌ。 道中で殺し合いに乗った者が現れた場合は、説得してこちら側に引き入れるつもりだ。 ロクサーヌ自身は異形となっている自分の体になんらかの戦闘能力・異能があるのは薄々気づいているが、それでも暴力は振るいたくなかった。 例え敵対した相手を確実に殺せる異能であっても、暴力による解決は避けたいのである。 (ん? あれは……?) ふと、ロクサーヌはそう離れていない場所に一人の少女がいることを確認する。 その少女は外見的には非常に小柄で中学生……いや、見ようによっては小学生にも見えるくらい小さな少女であった。 「ナオ=ヒューマだかなんだか知らないけど! 殺し合いになんか乗ってやるもんですか!」 腰を巻き上げているだけのミニスカ制服、ルーズソックス 、短いツインテール、何より小中学生に間違えられそうなほど小柄な女子高校生、君島蛍は殺し合いを押し付けてきた主催者ナオ=ヒューマに対してひどく“憤慨”していた。 実際は子供っぽくプンスカプンスカしていたというべきだが、日曜の朝にプリキュアと仮面ライダーを見てたりしても大人らしさに拘る彼女のために“憤慨”と書かせてもらおう。 そして会場に転送されてから30分ほどは恐怖で泣いて怯えていたが、涙を流している内に恐怖は怒りに変わり、義憤になった。 なぜ自分がいきなり拉致されて望まぬ殺し合いを押し付けられなけらばならないのか。 自分だけではなく、他の人達も拐われて殺し合いを強制された者達に違いない。 自分が楽しみたいために人と人を殺し合わせようとするヒューマの非人道的な行いが蛍には許せなかった。 (絶対にこの首輪を外して、こんな島から出て行ってやるんだからね!) 蛍にはこの殺し合いをただ否定するだけではなく、脱出のための指針も考えていた。 禁止エリアに入るもしくは島の外に出ると自爆して参加者の命を奪う首輪。 これがある限り、参加者は主催には逆らえない。 殺し合いを打破もしくは脱出したいなら、全ての参加者の足枷になっている首輪を外す必要があると蛍は睨んだのだ。 これは期末テスト全校生徒197人中48位に入る程度に頭が良い彼女が導き出した答えであった。 「あの場にはちっちゃい子供や走るのも大変そうなおじいさんもいた。 立派なお姉さんとしてそういった他の人達も守ってやらなきゃ」 (そのためにも首輪を外せそうな道具を揃えて、機械に詳しそうな人を見つけないとね) 蛍はどこかで盗聴されている危険性も考慮して殺し合いを否定している以上のことは口に出さない。 首輪を外す手段を探していることがバレてしまえば、ヒューマから妨害され、最悪首輪を爆破して殺されると危惧していたからである。 ちなみに先に言った立派なお姉さんとして他の人を守りたいという言葉は真意を隠すためのカモフラージュではなく、心からの言葉である。 「……とは言ったものの、何か身を守る武器とかないと心細いね。 自分に与えられた異能っていうのもよくわからないし。 仮面ライダーやプリキュアに変身できるアイテムとかないかな……」 殺し合いに乗った人間も0ではないだろうし、武器もなしに島を彷徨うのは危険だと思った蛍はディパックを足元に下ろして支給品を確認した。 「……? なにこれ?」 中から一枚のメモが現れた。  ■ ■ ■ ☆指パッチンのやり方 正式名称 フィンガースナップ。 指をこすって鳴らす動きであり、親指と中指をこすりつけ、中指を親指の付け根に勢い良く打ち当てる事で、パッチンという音が鳴る。 パッチンという音は指をこすった摩擦音ではなく、空気を弾いている音。 原理は拍手など手をたたいて音を出すのとほぼ同じ、中指を親指の付け根部分に振り下ろした時に空気が振動し、それが音波として鳴っている。 勘違いされがちだが指のこすれ音ではなく、破裂音や振動音なのだ。 ○鳴らし方のコツ 使う指は親指と中指。 中指を軽く曲げ、親指を中指の第1間接の上のあたりに付ける。 そして薬指を親指の付け根に付ける。 親指と中指をこすり、中指は親指の付け根に振り下ろす。 この時、薬指は伸ばしておかないとうまく鳴らない。 また薬指と小指は手のひらにピタッとくっつけず、空洞を作るようにすること。 小指を握りこまない(くっつけすぎない)事がポイント。 この方法でたいていは鳴るが、鳴りが悪いようなら指をこする位置をずらすなどして工夫してみよう。  ■ ■ ■ 「……なんで指パッチンのやり方なんて書いた紙があるんだろ?」 ハズレ支給品か? などと思いながら呆れかえる蛍。 指パッチンなど皆でカラオケやパーティーで集まった時、使えてればそこそこの受けが狙えそうだが、殺し合いでは何に使えるというのか? ……などと思いつつ、蛍の右手の指は説明書き通りに指パッチンができる形になっていた。 指パッチンをしようとしたことに大した意味などない。 ただのその場のノリであった。 一回目、音が出ない。失敗。 二回目、強く指の擦れた音だけがする。失敗。 三回目、今度は指を擦る位置をずらして鳴らそうとする。 三度目の正直、蛍の指からパッチンという空気を弾く音が生まれた。 「え」 その瞬間、蛍は指パッチンをした右手から違和感を感じた。 何かが指先から強い空気の塊が放たれたのを確かに感じた。 そして次の瞬間、指パッチンの進行先の木が“真っ二つ”になってしまったのだ。 「嘘でしょ!?」 指パッチンと同時に木が二つに分かれる。 日常ではありえない光景に唖然となる蛍。 「いったいどうして……?」 最初はどうしてこうなったのかが理解できなかった。 指パッチンで木が割れる因果関係がわからなかった。 「いや、ひょっとして……!」 少しの間だけ思考停止していた蛍だったが、思い当たる節に気づき、メモを足元に置き、今度は二丁拳銃のように指パッチンの構えをした。 そして二つのパッチンというこ気味の良い音と共に、前方にあった二本の木が両断された。 続けて、今度は足元の草むらや手近な岩に向けて指パッチンをする。 草むらはバッサリと伐採され、岩も真っ二つになった。 そこで蛍は己に与えられた異能について理解した。 「間違いないよ。 指パッチンから真空波みたいなものを生み出して両断する……これが私の能力なんだ!」 君島蛍に与えられた能力はジャイアントロボに登場する悪役集団・BF団、その中でも幹部クラスに当たる十傑衆が一人、素晴らしきヒィッツカラルドの能力“一指全断”。 この能力を使いこなしていたヒィッツカラルドは、個人でありながら軍隊の基地に真正面から殴り込みをかけ、ロボット兵器を真っ二つにできるだけの能力を有していた。 蛍はジャイアントロボという作品を良く知らないが、この指パッチンが相当な凶器になりうることは容易に理解できた。 木や岩を容易に両断できるところからして、下手な銃器より威力があるだろう。 「すごい! この力があれば自分だけじゃなく他の人を守ることができるかも! でも与えられるならプリキュア変身が良かったけど!」 まるで魔法のような能力に関して恐れと同時に感動を覚える蛍。 この力を与えた主催者は許せないが、与えられた力は日常では決して手に入るものではない超能力であり、常人にできないことができることは純粋な楽しさと喜びを覚えていた。 そして調子に乗った彼女は適当な木に向けて指パッチンした。 「キゃアアアアああああ!!」 「!?」 木が真空波で縦に真っ二つになった直後だった。 女の叫び声(それにしては別の生き物っぽい声も混じっていた)が聞こえたのだ。 蛍は異能が与えられて調子に乗ったことで、自分以外にも参加者がいることを忘れていた。 間違っても人殺しはしたくない。それが殺し合いに乗ってない相手なら尚更だ。 「ご、ごめんなさい! だいじょうぶですか!?」 恐る恐る声をかける蛍。 誤って相手を真っ二つにしていたらと思うと、冷や汗がにじみ出てくる。 仮に生きていても殺し合いに乗っていたらと思うと緊張と焦りが心を覆う。 だが、相手を殺したケースも相手が殺し合いに乗っているケースも杞憂に終わった。 悲鳴を上げた大人の女、殺し合いに乗っていないロクサーヌは真っ二つになった木の隣の木から無傷で現れたのだから。 「大丈夫よ、ナントカネ…… そんなに警戒しないデください。こっちモ殺し合いニハ乗っていません」 「ホッ……」 「こちらコソごめんなさい。 ストーカーみたいにコソコソトしていたケド、それハあなたノ持つ異能ガどのようなものか、あなた自身ガ殺し合い二乗っているかどうかヲここカラ見極めていたの」 蛍は相手が生きていたことと殺し合いに乗っていないことにホッと胸をなで下ろした。 ロクサーヌもまた蛍は殺し合いに乗っていないことに安心を覚える。 さっきまでの蛍の殺し合いに乗らないといった発言を聞いてたこともあるが、指パッチンで物を分断するというあからさまに危険な能力を持っていながら、のこのこ現れた自分に攻撃してこないところから殺し合いに乗っていないのはほぼ確実だろう。 「ん、暗くて良く見えないな~」 「そうですか?」 「ちょっと近づいていいですかね」 蛍からでは闇夜によってロクサーヌの顔がほぼ見えなかったので近づいて相手の姿を確認しようとする。 「ちょっと待ってください! 先二隠さないと」 「え? それってどういう――」 「あ」 ロクサーヌは自分の顔や体が異形のものになっていることを思い出し、ディパックから何か顔を覆えるものを探す。 しかし、蛍はそれより早くロクサーヌに接近し……その姿に絶句した。 手にはおそろしい爪が生え、口からは殺戮の牙が生えている。 顔の約半分は真っ赤な瞳がブツブツと覆われて、こちらを不気味に凝視していた。 透き通るようなプラチナブロンドの髪からは角か触手かよくわからないものが生えていて、更に夜の闇がそれらのパーツの怖さを引き立てていた。 怪人……それもプリキュアや仮面ライダーに出てくるような少年少女がそこまで怖がらない程度に配慮されたデザインではなく、グロテスクそのものを絵に描いた姿がそこにはあった。 触れてはならない、知ってはならない、見てはならない宇宙的恐怖を凝縮したおぞましいものがそこにはあった。 そして。 「ふにゃああああああああああああああああああああああああああああ!!!!」 少女の悲鳴が林に響き渡った。 聞きようによっては可愛く聞こえなくもない悲鳴が林に響き渡った。 「ど、どうしたの?!」 悲鳴を上げた少女に驚くロクサーヌ。 もちろん、悲鳴を上げた理由は自分の醜い顔を見たからだと予想はつくが、いくらなんでも目の前の少女は怖がり過ぎていた。 顔を見られれば怖がられるはわかっていたが、それでもロクサーヌの想定の範疇を超えていた。 それもその筈、この君島蛍という少女はホラー映画のポスターを見てしまっただけでその日の夜は母親と一緒に寝るほどのホラー嫌い。 ポスターよりも遥かにホラーなロクサーヌの今の顔を見て震え上がらないわけがなかった。 そしてこの蛍の恐怖心が一つの悲劇を招く。 「お、オバケ! こないでーッ!!!」 「うわッ!」 パニックになり、正気を失った蛍はロクサーヌが殺し合いに乗っていないのも忘れて彼女に向けて指パッチンから真空波を放った。 ロクサーヌは直感と体の柔軟さと運に助けられ、体を捻って真空波は回避する。 外れた真空波はさっきまでロクサーヌが隠れていた木を上下に分断させて葉の生い茂った上半分がゴトリと地面に落ちた。 「落ち着いて! さっきモ言ったケド私ハ殺し合いニハ!」 「なんで、なんで出ないの!?」 どうにか蛍を落ち着かせようとするロクサーヌだったが、蛍は構わずに指パッチンでオバケ(ロクサーヌ)を倒そうとする。 しかしパニックで指パッチンが上手く行かず、音も真空波も出ない。 「う、うわあああああああああああああ~ん!」 「待ちなさい、ッテ早い!?」 指パッチンが出きないと悟った蛍は泣きながら猛ダッシュでロクサーヌの下から逃げ出した。 その足の早さは字で起こすとピューッという擬音が聞こえそうなくらいであり、ロクサーヌが呆気にとられている内に見失いかけるほどであった。 「ああ、なんてこと……ある程度ハ予測できたトハイエ、あそこマデ怖がるなんて」 意図してやったわけではないとはいえ、蛍を怖がらせてパニック状態してしまった。 他者との接触前に顔を隠すなどの対処を怠った自分の落ち度であるとロクサーヌは反省し落胆する。 「あれ? これハ?」 落胆して視線を地面に向けたロクサーヌだったが、そこには一つのディパックがポツンと鎮座していることに気づいた。 あれはロクサーヌから逃げ出した少女・蛍に支給されたディパックであった。 逃げる際にパニックになったことで自分の支給品の回収も忘れて置いていったに違いない。 「あの子……自分ノ持ち物ヲ忘れていってる!?」 これはまずい、とロクサーヌは思った。 いちおう彼女は指パッチンで何でも切断する能力は持っているとはいえ、能力を完全には使いこなしていない様子だった。 殺し合いに乗った者が彷徨いているかもしらない以上、小さな子供が丸腰のままで島を歩き回るのは危険であった。 ディパックには食料や地図と言ったサバイバルに必要なツールも入っている、無くすと生き残るために不利になるのである。 「急いで追わなくては!」 ディパックを早急に彼女に渡す必要があるだろうと思い、ロクサーヌはまだ辛うじて視界からは消えていない名も知らぬ少女を追いかけることにした。 落し物を届ける親切なロクサーヌと、そうとは知らずに逃げる怖がり少女の蛍。 その様はさながら童謡の“森のくまさん”と言ったところだ。 大きな違いは森の熊が生物的恐怖を人に抱かせるなら、ロクサーヌは宇宙的恐怖を纏っていることであろう。 【一日目・1時00分/・G-4 林】 ※一部の木が君島蛍の異能によって真っ二つにされています 【道端ロクサーヌ@名状しがたい力(ウズラ)/SAVE】 [状態]:健康 [装備]:なし [道具]:基本支給品一式、不明支給品×1~3、君島蛍の持ち物(基本支給品一式、不明支給品×0~2、指パッチンのやり方を書いた紙) [思考・行動] 基本方針:ナオ=ヒューマの打破、もしくは殺し合いからの脱出 0:あの子(君島蛍)を追いかけなくては…… 1:殺し合いに乗っていない人々と合流 2:殺し合いに乗った人も可能であれば説得 3:すぐにでも元の姿には戻りたいが、そのために他人を犠牲にしない  4:何か顔を覆えるものが欲しい [備考] ※自分の姿が異形のものになっていると確認しました。使える技そのものは把握しきっていません。 ※君島蛍の能力が指パッチンで物を切断するものだと知りました 【君島蛍@一指全断@ジャイアントロボ /素晴らしきヒィッツカラルド】 [状態]:SAN値減少(小)、一時的なパニック [装備]:なし [道具]:なし [思考・行動] 基本方針:殺し合いに乗らない 0:今はひたすらオバケ(道端ロクサーヌ)から逃げる 1:首輪を外せそうな道具や技術を持っている人を探す 2:立派なお姉さんとして、他の人を守りたい 3:でもオバケは怖い! 怖いったら怖いの! [備考] ※自分に与えられた異能の使い方を把握しました  制限により時空までは切れませんが、命と引き換えに核攻撃級の攻撃をも断つことができます ※パニックで支給品を置いてきたことに気づいていません ※どの方向に逃げたのかは次の書き手氏にお任せします |[[都市伝説B/絶対自分至上主義]]|時系列順|[[諦めは心の養生なのか]]| |[[都市伝説B/絶対自分至上主義]]|投下順|[[諦めは心の養生なのか]]| |&color(blue){GAME START}|道端ロクサーヌ|| |&color(blue){GAME START}|君島蛍||
道端ロクサーヌ。 日本人の父とフランス人の母との間に産まれたハーフであり、プラチナブロンドのウェーブがかかった長髪に抜群のスタイルを持った美貌を持つ女。 テレビや雑誌を中心に幅広く活動し、日本ではその名を知らぬ者はいないとされるほどの超有名モデルである。 美貌だけでなく、自信に満ち溢れ、かつ礼節を重んじる実直な性格から彼女に憧れるファンは老若男女問わずに多い。 唯一、欠点があるとするならば他人が食べれる物を全く作れない料理の腕くらいであろう。 まさに彼女は現在のトップモデルに相応しい美しさと器を持ったレディと言えた。 そんな超有名モデルとうたわれるロクサーヌが目覚めたのは、沖木島のとある林の中であった。 「これハ……」 気品のあるベージュのトレンチコートにブーツ、闇夜でも輝くプラチナブロンドの髪。 コートごしの背中からでもわかるぐらいのスタイルの良さに誰でも目を惹かれるだろう。 だが、世間で知られているロクサーヌの姿で似ている部分はそこだけだった。 搾り出されたその声は辛うじて言葉としては聞き取れるものの、何か人間とは違う別の生き物の声のようだった。 手には人間を殺傷できそうなするどく尖った爪が生えており、これまた生き物の肉を容易く食い千切れそうな牙が口からはみ出ている。 不気味な真っ赤な瞳が顔の半分を覆うほどびっしりと覗き、肌も疫病にでもかかったかのような斑点や死体のような体色が目立つ。 プラチナブロンドの髪が生えた頭も、よく見ると角とも触手ともとれる何かが生えていた。 これらはあくまで露出している部分であり、服の下もおそらくは人間のそれとは違う物があるのであろう。 このような姿を持つ女性を人は美人とは言わないだろう。 名状しがたき異形……そういうべきだろう。 道端ロクサーヌがナオ=ヒューマに施された肉体改造は名状しがたき力……クトゥルフ神話をモチーフにした作品“SAVE”、その男性主人公であるウズラの持っていた“名状しがたき力”を与えられたのだ。 その結果、ロクサーヌは辛うじて人の形を保っている程度の異形と化した。 彼女自身も先の殺し合いの説明会場となっていたあの場で、肉体に違和感を感じていた。(それと二人の男女が殺された惨劇に気を取られた結果、レオポルドや時春などの有名人も殺し合いに招かれていたことに気づかなかったが) 違和感の正体を確かめるべく、手探りで自分の体を確かめる。 それでわかったことは自分の体から生えている爪や牙、人間の持ちえないもの全てが作り物ではないということだった。 「特殊メイク……ナンカじゃない。全部、直二生えてるものだ……」 自分が異形と化したことに衝撃を受けるロクサーヌ。 どうやってやったのか検討もつかないが、人間……それどころかどこの生き物かもわからない“何か”を移植されたところで、ヒューマがかなりの能力もしくは技術を持っていることがわかる。 夢かドッキリかと思いたいところだが、これは紛れもない現実で、実際に自分は異形と化しているのは間違いではないと肌でわかった。 ナオ=ヒューマの言っていた肉体改造は嘘ではない……転じて殺し合いをしろというのも嘘ではないだろう。 これでどこぞのテレビ局が仕掛けたドッキリ番組企画の線は消失した。 「…………クッ」 そして何よりも、母親と父親から与えられ、自分なりの努力と研究で育み磨いてきた美貌が、どこの誰ともしれない輩にグチャグチャにされて醜い姿にされたことにロクサーヌは怒りと悲しみを覚えた。 戻れるものならすぐにでも元の姿に戻りたかった。 そこへ脳裏に主催者の優勝すれば特典として元に戻すという言葉が反芻する。 仮に他者を殺して最後の一人になればロクサーヌはかつての美貌を取り戻せるだろう。 「……悪党二負けてたまるもんですか。 私ハ意地デモ殺し合い二乗りませんよ……」 しかし、ロクサーヌは強い女であった。 確かに元の姿に戻して欲しいとは強く願っている。 だからと言って元の姿に戻りたいがために殺し合いに乗ってしまったら、それこそ主催者の思うツボだろう。 ナオ=ヒューマはそれを見越してわざと美しさで食べているモデルである自分を異形にした可能性だってある。 望まぬ肉体改造を施したのは主催者であるのに、それで主催者に従って殺し合いに乗ったら悪党への泣き寝入りと何も変わらない。 自分のためだけに他者を犠牲にすることは浅ましいことだと思い、ロクサーヌはその実直さ故に、体は醜くなっても心までは醜女には成り下がる気はなかった。 (ナオ=ヒューマは優勝すれば元に戻せるとも言っていたということは、彼に元に戻せる手段があるということ。 ……優勝する必要なんてどこにもない。彼を捕まえて、元に戻れる方法を吐かせればいい!) ヒューマは参加者たる人々を拉致し、その全員に肉体改造を施した下手人だ。 ということは元に戻すこともできるということであり、本人もそれを口にしていた。 (最悪、この場で捕まえられなくとも、この殺し合いから脱出は目指そう。 後は警察に彼を逮捕してもらえばいい) ヒューマが会場である沖木島や自分や他の者の力を借りても捕まえられない場合は、真っ向から戦わずに逃げてしまうのも手だ。 ロクサーヌ自身は喧嘩の仕方もよくわからない素人であるし、他の人々も荒事が得意かどうかはわからない。 犠牲をなるべく出さないためにも島から脱出することを優先させるべきだろう。 後は権力と武力を持った国家機関に任せる方が無難である。 最終的に元に戻れるならロクサーヌとしては文句はない。 (見ていなさい、ナオ=ヒューマ。 私は絶対に殺し合いには乗りません! あなたが望んでいるであろう化物になってやるものですか!) ロクサーヌはこうして主催に抗う決意を強く固めた。 (まず私がやるべきことは、殺し合いに乗っていない人々との合流……いくら生存がかかっているからって人殺しをやりたくない人々は必ずいるはず。 そして、殺し合いに乗ってしまった人は説得する……殺し合いが馬鹿げていることを教えなくては) 一先ず、殺し合いに乗っていない人々との合流を目指すロクサーヌ。 道中で殺し合いに乗った者が現れた場合は、説得してこちら側に引き入れるつもりだ。 ロクサーヌ自身は異形となっている自分の体になんらかの戦闘能力・異能があるのは薄々気づいているが、それでも暴力は振るいたくなかった。 例え敵対した相手を確実に殺せる異能であっても、暴力による解決は避けたいのである。 (ん? あれは……?) ふと、ロクサーヌはそう離れていない場所に一人の少女がいることを確認する。 その少女は外見的には非常に小柄で中学生……いや、見ようによっては小学生にも見えるくらい小さな少女であった。 「ナオ=ヒューマだかなんだか知らないけど! 殺し合いになんか乗ってやるもんですか!」 腰を巻き上げているだけのミニスカ制服、ルーズソックス 、短いツインテール、何より小中学生に間違えられそうなほど小柄な女子高校生、君島蛍は殺し合いを押し付けてきた主催者ナオ=ヒューマに対してひどく“憤慨”していた。 実際は子供っぽくプンスカプンスカしていたというべきだが、日曜の朝にプリキュアと仮面ライダーを見てたりしても大人らしさに拘る彼女のために“憤慨”と書かせてもらおう。 そして会場に転送されてから30分ほどは恐怖で泣いて怯えていたが、涙を流している内に恐怖は怒りに変わり、義憤になった。 なぜ自分がいきなり拉致されて望まぬ殺し合いを押し付けられなけらばならないのか。 自分だけではなく、他の人達も拐われて殺し合いを強制された者達に違いない。 自分が楽しみたいために人と人を殺し合わせようとするヒューマの非人道的な行いが蛍には許せなかった。 (絶対にこの首輪を外して、こんな島から出て行ってやるんだからね!) 蛍にはこの殺し合いをただ否定するだけではなく、脱出のための指針も考えていた。 禁止エリアに入るもしくは島の外に出ると自爆して参加者の命を奪う首輪。 これがある限り、参加者は主催には逆らえない。 殺し合いを打破もしくは脱出したいなら、全ての参加者の足枷になっている首輪を外す必要があると蛍は睨んだのだ。 これは期末テスト全校生徒197人中48位に入る程度に頭が良い彼女が導き出した答えであった。 「あの場にはちっちゃい子供や走るのも大変そうなおじいさんもいた。 立派なお姉さんとしてそういった他の人達も守ってやらなきゃ」 (そのためにも首輪を外せそうな道具を揃えて、機械に詳しそうな人を見つけないとね) 蛍はどこかで盗聴されている危険性も考慮して殺し合いを否定している以上のことは口に出さない。 首輪を外す手段を探していることがバレてしまえば、ヒューマから妨害され、最悪首輪を爆破して殺されると危惧していたからである。 ちなみに先に言った立派なお姉さんとして他の人を守りたいという言葉は真意を隠すためのカモフラージュではなく、心からの言葉である。 「……とは言ったものの、何か身を守る武器とかないと心細いね。 自分に与えられた異能っていうのもよくわからないし。 仮面ライダーやプリキュアに変身できるアイテムとかないかな……」 殺し合いに乗った人間も0ではないだろうし、武器もなしに島を彷徨うのは危険だと思った蛍はディパックを足元に下ろして支給品を確認した。 「……? なにこれ?」 中から一枚のメモが現れた。  ■ ■ ■ ☆指パッチンのやり方 正式名称 フィンガースナップ。 指をこすって鳴らす動きであり、親指と中指をこすりつけ、中指を親指の付け根に勢い良く打ち当てる事で、パッチンという音が鳴る。 パッチンという音は指をこすった摩擦音ではなく、空気を弾いている音。 原理は拍手など手をたたいて音を出すのとほぼ同じ、中指を親指の付け根部分に振り下ろした時に空気が振動し、それが音波として鳴っている。 勘違いされがちだが指のこすれ音ではなく、破裂音や振動音なのだ。 ○鳴らし方のコツ 使う指は親指と中指。 中指を軽く曲げ、親指を中指の第1間接の上のあたりに付ける。 そして薬指を親指の付け根に付ける。 親指と中指をこすり、中指は親指の付け根に振り下ろす。 この時、薬指は伸ばしておかないとうまく鳴らない。 また薬指と小指は手のひらにピタッとくっつけず、空洞を作るようにすること。 小指を握りこまない(くっつけすぎない)事がポイント。 この方法でたいていは鳴るが、鳴りが悪いようなら指をこする位置をずらすなどして工夫してみよう。  ■ ■ ■ 「……なんで指パッチンのやり方なんて書いた紙があるんだろ?」 ハズレ支給品か? などと思いながら呆れかえる蛍。 指パッチンなど皆でカラオケやパーティーで集まった時、使えてればそこそこの受けが狙えそうだが、殺し合いでは何に使えるというのか? ……などと思いつつ、蛍の右手の指は説明書き通りに指パッチンができる形になっていた。 指パッチンをしようとしたことに大した意味などない。 ただのその場のノリであった。 一回目、音が出ない。失敗。 二回目、強く指の擦れた音だけがする。失敗。 三回目、今度は指を擦る位置をずらして鳴らそうとする。 三度目の正直、蛍の指からパッチンという空気を弾く音が生まれた。 「え」 その瞬間、蛍は指パッチンをした右手から違和感を感じた。 何かが指先から強い空気の塊が放たれたのを確かに感じた。 そして次の瞬間、指パッチンの進行先の木が“真っ二つ”になってしまったのだ。 「嘘でしょ!?」 指パッチンと同時に木が二つに分かれる。 日常ではありえない光景に唖然となる蛍。 「いったいどうして……?」 最初はどうしてこうなったのかが理解できなかった。 指パッチンで木が割れる因果関係がわからなかった。 「いや、ひょっとして……!」 少しの間だけ思考停止していた蛍だったが、思い当たる節に気づき、メモを足元に置き、今度は二丁拳銃のように指パッチンの構えをした。 そして二つのパッチンというこ気味の良い音と共に、前方にあった二本の木が両断された。 続けて、今度は足元の草むらや手近な岩に向けて指パッチンをする。 草むらはバッサリと伐採され、岩も真っ二つになった。 そこで蛍は己に与えられた異能について理解した。 「間違いないよ。 指パッチンから真空波みたいなものを生み出して両断する……これが私の能力なんだ!」 君島蛍に与えられた能力はジャイアントロボに登場する悪役集団・BF団、その中でも幹部クラスに当たる十傑衆が一人、素晴らしきヒィッツカラルドの能力“一指全断”。 この能力を使いこなしていたヒィッツカラルドは、個人でありながら軍隊の基地に真正面から殴り込みをかけ、ロボット兵器を真っ二つにできるだけの能力を有していた。 蛍はジャイアントロボという作品を良く知らないが、この指パッチンが相当な凶器になりうることは容易に理解できた。 木や岩を容易に両断できるところからして、下手な銃器より威力があるだろう。 「すごい! この力があれば自分だけじゃなく他の人を守ることができるかも! でも与えられるならプリキュア変身が良かったけど!」 まるで魔法のような能力に関して恐れと同時に感動を覚える蛍。 この力を与えた主催者は許せないが、与えられた力は日常では決して手に入るものではない超能力であり、常人にできないことができることは純粋な楽しさと喜びを覚えていた。 そして調子に乗った彼女は適当な木に向けて指パッチンした。 「キゃアアアアああああ!!」 「!?」 木が真空波で縦に真っ二つになった直後だった。 女の叫び声(それにしては別の生き物っぽい声も混じっていた)が聞こえたのだ。 蛍は異能が与えられて調子に乗ったことで、自分以外にも参加者がいることを忘れていた。 間違っても人殺しはしたくない。それが殺し合いに乗ってない相手なら尚更だ。 「ご、ごめんなさい! だいじょうぶですか!?」 恐る恐る声をかける蛍。 誤って相手を真っ二つにしていたらと思うと、冷や汗がにじみ出てくる。 仮に生きていても殺し合いに乗っていたらと思うと緊張と焦りが心を覆う。 だが、相手を殺したケースも相手が殺し合いに乗っているケースも杞憂に終わった。 悲鳴を上げた大人の女、殺し合いに乗っていないロクサーヌは真っ二つになった木の隣の木から無傷で現れたのだから。 「大丈夫よ、ナントカネ…… そんなに警戒しないデください。こっちモ殺し合いニハ乗っていません」 「ホッ……」 「こちらコソごめんなさい。 ストーカーみたいにコソコソトしていたケド、それハあなたノ持つ異能ガどのようなものか、あなた自身ガ殺し合い二乗っているかどうかヲここカラ見極めていたの」 蛍は相手が生きていたことと殺し合いに乗っていないことにホッと胸をなで下ろした。 ロクサーヌもまた蛍は殺し合いに乗っていないことに安心を覚える。 さっきまでの蛍の殺し合いに乗らないといった発言を聞いてたこともあるが、指パッチンで物を分断するというあからさまに危険な能力を持っていながら、のこのこ現れた自分に攻撃してこないところから殺し合いに乗っていないのはほぼ確実だろう。 「ん、暗くて良く見えないな~」 「そうですか?」 「ちょっと近づいていいですかね」 蛍からでは闇夜によってロクサーヌの顔がほぼ見えなかったので近づいて相手の姿を確認しようとする。 「ちょっと待ってください! 先二隠さないと」 「え? それってどういう――」 「あ」 ロクサーヌは自分の顔や体が異形のものになっていることを思い出し、ディパックから何か顔を覆えるものを探す。 しかし、蛍はそれより早くロクサーヌに接近し……その姿に絶句した。 手にはおそろしい爪が生え、口からは殺戮の牙が生えている。 顔の約半分は真っ赤な瞳がブツブツと覆われて、こちらを不気味に凝視していた。 透き通るようなプラチナブロンドの髪からは角か触手かよくわからないものが生えていて、更に夜の闇がそれらのパーツの怖さを引き立てていた。 怪人……それもプリキュアや仮面ライダーに出てくるような少年少女がそこまで怖がらない程度に配慮されたデザインではなく、グロテスクそのものを絵に描いた姿がそこにはあった。 触れてはならない、知ってはならない、見てはならない宇宙的恐怖を凝縮したおぞましいものがそこにはあった。 そして。 「ふにゃああああああああああああああああああああああああああああ!!!!」 少女の悲鳴が林に響き渡った。 聞きようによっては可愛く聞こえなくもない悲鳴が林に響き渡った。 「ど、どうしたの?!」 悲鳴を上げた少女に驚くロクサーヌ。 もちろん、悲鳴を上げた理由は自分の醜い顔を見たからだと予想はつくが、いくらなんでも目の前の少女は怖がり過ぎていた。 顔を見られれば怖がられるはわかっていたが、それでもロクサーヌの想定の範疇を超えていた。 それもその筈、この君島蛍という少女はホラー映画のポスターを見てしまっただけでその日の夜は母親と一緒に寝るほどのホラー嫌い。 ポスターよりも遥かにホラーなロクサーヌの今の顔を見て震え上がらないわけがなかった。 そしてこの蛍の恐怖心が一つの悲劇を招く。 「お、オバケ! こないでーッ!!!」 「うわッ!」 パニックになり、正気を失った蛍はロクサーヌが殺し合いに乗っていないのも忘れて彼女に向けて指パッチンから真空波を放った。 ロクサーヌは直感と体の柔軟さと運に助けられ、体を捻って真空波は回避する。 外れた真空波はさっきまでロクサーヌが隠れていた木を上下に分断させて葉の生い茂った上半分がゴトリと地面に落ちた。 「落ち着いて! さっきモ言ったケド私ハ殺し合いニハ!」 「なんで、なんで出ないの!?」 どうにか蛍を落ち着かせようとするロクサーヌだったが、蛍は構わずに指パッチンでオバケ(ロクサーヌ)を倒そうとする。 しかしパニックで指パッチンが上手く行かず、音も真空波も出ない。 「う、うわあああああああああああああ~ん!」 「待ちなさい、ッテ早い!?」 指パッチンが出きないと悟った蛍は泣きながら猛ダッシュでロクサーヌの下から逃げ出した。 その足の早さは字で起こすとピューッという擬音が聞こえそうなくらいであり、ロクサーヌが呆気にとられている内に見失いかけるほどであった。 「ああ、なんてこと……ある程度ハ予測できたトハイエ、あそこマデ怖がるなんて」 意図してやったわけではないとはいえ、蛍を怖がらせてパニック状態してしまった。 他者との接触前に顔を隠すなどの対処を怠った自分の落ち度であるとロクサーヌは反省し落胆する。 「あれ? これハ?」 落胆して視線を地面に向けたロクサーヌだったが、そこには一つのディパックがポツンと鎮座していることに気づいた。 あれはロクサーヌから逃げ出した少女・蛍に支給されたディパックであった。 逃げる際にパニックになったことで自分の支給品の回収も忘れて置いていったに違いない。 「あの子……自分ノ持ち物ヲ忘れていってる!?」 これはまずい、とロクサーヌは思った。 いちおう彼女は指パッチンで何でも切断する能力は持っているとはいえ、能力を完全には使いこなしていない様子だった。 殺し合いに乗った者が彷徨いているかもしらない以上、小さな子供が丸腰のままで島を歩き回るのは危険であった。 ディパックには食料や地図と言ったサバイバルに必要なツールも入っている、無くすと生き残るために不利になるのである。 「急いで追わなくては!」 ディパックを早急に彼女に渡す必要があるだろうと思い、ロクサーヌはまだ辛うじて視界からは消えていない名も知らぬ少女を追いかけることにした。 落し物を届ける親切なロクサーヌと、そうとは知らずに逃げる怖がり少女の蛍。 その様はさながら童謡の“森のくまさん”と言ったところだ。 大きな違いは森の熊が生物的恐怖を人に抱かせるなら、ロクサーヌは宇宙的恐怖を纏っていることであろう。 【一日目・1時00分/・G-4 林】 ※一部の木が君島蛍の異能によって真っ二つにされています 【道端ロクサーヌ@名状しがたい力(ウズラ)/SAVE】 [状態]:健康 [装備]:なし [道具]:基本支給品一式、不明支給品×1~3、君島蛍の持ち物(基本支給品一式、不明支給品×0~2、指パッチンのやり方を書いた紙) [思考・行動] 基本方針:ナオ=ヒューマの打破、もしくは殺し合いからの脱出 0:あの子(君島蛍)を追いかけなくては…… 1:殺し合いに乗っていない人々と合流 2:殺し合いに乗った人も可能であれば説得 3:すぐにでも元の姿には戻りたいが、そのために他人を犠牲にしない  4:何か顔を覆えるものが欲しい [備考] ※自分の姿が異形のものになっていると確認しました。使える技そのものは把握しきっていません。 ※君島蛍の能力が指パッチンで物を切断するものだと知りました 【君島蛍@一指全断@ジャイアントロボ /素晴らしきヒィッツカラルド】 [状態]:SAN値減少(小)、一時的なパニック [装備]:なし [道具]:なし [思考・行動] 基本方針:殺し合いに乗らない 0:今はひたすらオバケ(道端ロクサーヌ)から逃げる 1:首輪を外せそうな道具や技術を持っている人を探す 2:立派なお姉さんとして、他の人を守りたい 3:でもオバケは怖い! 怖いったら怖いの! [備考] ※自分に与えられた異能の使い方を把握しました  制限により時空までは切れませんが、命と引き換えに核攻撃級の攻撃をも断つことができます ※パニックで支給品を置いてきたことに気づいていません ※どの方向に逃げたのかは次の書き手氏にお任せします |[[都市伝説B/絶対自分至上主義]]|時系列順|[[諦めは心の養生なのか]]| |[[都市伝説B/絶対自分至上主義]]|投下順|[[諦めは心の養生なのか]]| |&color(blue){GAME START}|道端ロクサーヌ|[[さあここに築いて見せろ 天に届く死体(ヒト)の山を]]| |&color(blue){GAME START}|君島蛍|[[さあここに築いて見せろ 天に届く死体(ヒト)の山を]]|

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