「絶望のU/夢見る少女じゃいられない」の編集履歴(バックアップ)一覧はこちら

絶望のU/夢見る少女じゃいられない」(2017/08/28 (月) 12:53:00) の最新版変更点

追加された行は緑色になります。

削除された行は赤色になります。

 夜の闇の中、殺し合いの会場である沖木島。  そこの東端であるD-10に二人の人間が居た。  一人は小学生位の身長の、栗色の髪をした下手なアイドル以上の美少女。  もう一人は眼鏡をかけているふとっちょの青年。  一見すると不釣り合いなこの二人も殺し合いの参加者。  少女の名前は天草ゆたか。  青年の名前は大木潮。  その二人は今 (どうしよう……)  猛烈に困っていた。  理由はゆたかの手に在る赤く小さな丸い宝石にある。  その宝石の名前はレイジングハート、アニメ魔法少女リリカルなのはシリーズに登場するデバイス、魔法の杖である。  これがゆたかのデイバッグの中にあったのだ。  二人は幸か不幸かアニメ鑑賞が、中でも潮は変身ヒロイン物が、ゆたかは魔法少女物が好きだった。  そのおかげで2人ともリリカルなのはを知っていたし、そのアニメの主人公を務める高町なのはのデバイスであるレイジングハートを知っていた。  そう、2人にとってレイジングハートとはアニメの中の物なのだが 『あの、ここはどこで貴方達は何者ですか?』  今ここに、現実の物として2人に話しかけてくる。  しかもアニメだと英語だったのにここでは日本語で。  だが2人が困っている理由は、創作の存在のはずの物が現実に現れている事では無く 『そしてなぜ、貴方達は私の事を御存じなのですか?』  2人がレイジングハートを知っている理由を、どう説明しようか考えているからだ。  天草ゆたかと大木潮の2人は殺し合いが始まってすぐ出会った。  最初こそお互いに警戒していた物のゆたかの人のいい性格と、2人が似たような趣味を持っていることからあっさり意気投合した。  そのまま2人で絶対に殺し合いに乗らない、と決意を固めまずは支給品を確認しようということになった。  そしてゆたかが最初に取り出しのがレイジングハートだった。  取り出したそれを見て2人は思わずこう言ってしまったのだ。 「えっ、レイジングハート?」  と。  そして今に至る。 『何か言っていただけないでしょうか』  どう説明しようかと考えてる2人、その間にもレイジングハートの疑心は膨れ上がるのが2人にはよく分かる。  レイジングハートからすれば見も知らない人間が自分の名前を呼ぶのだから。  この2人が管理局の人間なら納得はできるのだろうが、そうは見えないはずという自覚がある。 「とりあえず自己紹介をするね。  僕の名前は大木潮、こっちは天草ゆたかだ」 「は、はじめまして……」 『……はじめまして』  そんなレイジングハートの心情を全部では無いもののある程度察した二人は、とりあえず自己紹介をした。  その自己紹介にとりあえずレイジングハートは応じる。 「次に僕たちの今置かれている状況を説明するよ」  そして潮は自分達が殺し合いに巻き込まれたこと、レイジングハートはその殺し合いの為の支給品にされたことを説明した。 『成程、状況は把握しました。  ですが肝心なことを私は聞いていません』 「えっと、それは……」 「大木さん、説明しましょう」 「えっ!?」  ゆたかのある種諦めに近い発言に驚く潮。  その反応を見たゆたかの発言はこうだ。 「大丈夫です。レイジングハートはなんせあの高町なのはのデバイスですから、多分大丈夫です」 「理由になってないよそれは!?」  ゆたかの理由になっていない発言に思わずツッコむ潮。  しかし、代案があるのかと言われればそんなこともないので結局ゆたかに任せた。 「あのねレイジングハート、私たちが貴方を知っていた理由は――」  こうして、ゆたかはレイジングハートに魔法少女リリカルなのはというアニメについて説明した。  そしてとりあえず無印の説明、つまりPT事件の話が終わった後レイジングハートは言葉を途切れさせながらこう返答した。 『な、成程……。貴方達が私を知っている理由は理解しました。  しかしまさか、私達の行いがこの世界ではアニメになっていたとは……』  感心しているような口ぶりだが、声は震えている。  ショックなのだろう、とゆたかと潮は思う。  ギャグ時空の登場人物ではないのだ、自分がアニメの存在だと言われても平気な人間はいないだろう。レイジングハートは人間ではないが。  それでも、しばらくするとレイジングハートは持ち直し、ゆたかと潮にこう話した。 『正直ショックが無いとは言えません、しかし私達はあの世界に生きている。偽物でも作り物でもありません』 「そうだよ! レイジングハートは本物だよ!」 「あぁ良かった、一時はどうなるかと思った」  レイジングハートの言葉に賛同するゆたかと、安心する潮。  そんな2人を見てレイジングハートはこう切り出した。 『貴方達は信用できるみたいですね。それにゆたか、貴方には適性がある』 「えっ!? それって私にリンカーコアが!?」 「これがナオ・ヒューマの言ってた異能って所か……」  意外なタイミングで自身の異能が分かり喜ぶゆたか。  一方、レイジングハートは潮の言葉に疑問を覚える。 『異能とは?』 「なんか、この殺し合いの主催者が僕達にアニメやら漫画の能力を持たせたんだって」 『……ゆたかにリンカーコアを人為的に植え付けたと? そんなことが可能なのですか?』 「いや、僕に聞かれても分からない」 『申し訳ありません』 「いや気にしてないよ」 「レイジングハート!」  潮とレイジングハートが異能について話していると、ゆたかが唐突に割り込んできた。  そして話すことは潮にとっては予測できたものだ。 「私、変身してバリアジャケット着たい!」 『この殺し合いを壊すに置いて、私の力は有用だと判断します。 ……分かりました、変身させましょう』 「やった!」 「凄い無邪気に喜んでるなあ。 でも魔法少女の変身シーンが現実で見られるなんて僕もワクワクしてくるから、気持ちは分かるけどね」 『では早速始めましょうか』  レイジングハートの言葉にゆたかは頷き、潮から少し離れて準備する。  そしてゆたかはレイジングハートを構え、呪文を唱える。 『起動呪文はご存知でしょうか?』 「うん!」 『……なんというか、不思議な気分になりますね』 「いくよ。  我、使命を受けし者なり。  契約のもと、その力を解き放て。  風は空に、星は天に、そして不屈の魂(こころ)はこの胸に。  この手に魔法を。  レイジングハート、セットアップ!」 「この呪文聞くの何年ぶりなんだろう」  無印第1話でしか使われなかった起動呪文をゆたかが唱えると、一瞬だけ光が放たれる。  そして光が収まると、ゆたかはバリアジャケットを装着していた。  その恰好は、本家本元の高町なのはと同じ服装だった。 「あ、変身って一瞬なんだ……」 「というか、一瞬じゃなかったら僕に全裸を見られたいってことになるよ。  僕も君もバリアジャケットつける時に全裸になるのは知ってるんだから」 「違いますよ! 人を露出狂みたいに言わないでください!!」 「言っておくけど、僕はいくら可愛いからって三次元の小学生に欲情する趣味は無いからね」 「私は小学生じゃなくて高校生です!」 「え?」 『それは事実ですか?』 「レイジングハートまで!?」  ゆたかが高校生だと明かされ、その場に微妙な空気が漂う。  これはゆたかが隠していた訳では無く、1人と1機が勝手に勘違いをしていただけなのだが。  その空気を払拭する様に、レイジングハートは潮にこう切り出す。 『ところで、あなたの異能はどのようなものですか?』 「あ、僕? 僕はこれだよ」  そう言って潮は右手を近くにあった木に向ける。 「はぁっ!」  そして叫ぶと、そこからビームのようなものが飛び出し木を揺らした。  その光景を見てレイジングハートは茫然としながらも、潮に問いかける。 『今の光弾は一体?』 「多分だけど、気弾だと思う」 「気弾って、ドラゴンボールのですか?」 「それそれ」 『……?』 「あまり深く考えない方がいいよ。簡単に言うなら体内にあるエネルギーみたいな感じで考えて置けばいいと思う」 『分かりました……』  正直納得しきれないレイジングハートを尻目に、ゆたかと潮は盛り上がる。 「凄いです! これでサイヤ人ばりの戦闘が出来るんですね!」 「いや気弾は出せるけど、肉体スペック何一つ変わってない」 「えぇ!?」 「でもそれだけじゃない。天草ちゃん変身解除してからちょっとこっち来て」 「あ、はい」  言われたとおりに変身解除をしてから潮の元へ向かうゆたか。 「それで私は何をすればいいんですか?」 「いやちょっとそこに立ってて、今からもう一つ能力を見せるから」 「はぁ……」  潮が何をしたいのかよく分からず生返事になってしまうゆたか。  しかしそれは次の言葉で覆った。 「チェンジ!!」 「えっ!?」  潮の言葉と共に身体からゆたかに向かって光が発せられ、それと同時にバチッという音がする。  そして光が収まると同時にゆたかが見た物は、自分自身だった。 「これは、まさか……。入れ替わってる!?」 「無理に『君○名は。』っぽくしなくてもいいと思うな、僕は」 「つまり大木さんの異能は、シルバーチャリオッツレクイエム!」 「いや違うよ、ギニューのボディチェンジだよ」  どこか発言がずれているゆたかにツッコミを入れ続ける潮。  一方、レイジングハートは体が入れ替わる異能だけでなく、別のことに驚いていた。 『リンカーコアが移動している……?』 「それってつまり……」 「異能が入れ替わってる!?」 「それはもういいよ」 「すみません、今のは素です」  ボディチェンジで体だけでなく異能まで入れ替わることに驚く2人。  しかし、驚きながらもゆたかは重要なことを潮に言った。 「あの、それはそれとして体返してください」 「え、もうちょっとだけ女の子の体を体験してみたいんだけど……」 「返してください」 「あ、はい」  目が本気でやばい、と潮は思いながら再びボディチェンジをし元の鞘に収めた。 ◆  そして時は午前1時を少し過ぎたところまで進む。 ◆  午前一時過ぎの沖木島D-10、そこでは天草ゆたかが魔法の練習をしていた。  いくら知識として知っていても、実際に使いこなせるかは別の話。  なので実際に使用してみたが、結果は上々。  高町なのはと同程度の能力がゆたかに備わっていることが分かった。  そしてレイジングハートにはカートリッジシステムが搭載されていなかった。  これはどういうことか聞くと、どうやらレイジングハートはPT事件は経験しているものの、その後の闇の書事件意向については知らなかった。  このことから、ゆたかはレイジングハートが無印終了後の時間から来ていると判断する。  そして大木潮はそれを後ろで見てるだけ。 「いやだって、原作でギニューが気功波撃ってるシーン1回くらいしかないからどんな技使えるかよく分からないし」 「どうしたんですかいきなり?」 「いや何でもないよ」  潮のよく分からない発言に疑問を抱きつつ、ゆたかは魔法の練習を続ける。  するとゆたかが潮に話しかける。 「大木さん、あっち見てください」 「何?」  ゆたかが指を指し、潮がその方向を向く。  そこには 「人が居ます」 「お、本当だ」 『慎重に行きましょう』  人影を見つけた2人と1機はその人影に向かって行く。  少しすると、その人影の風貌が良く見えた。  人影は2mほどの身長を持った人間だった。  顔には豚のマスク。  片手にはデイバッグ。  もう片方の手には血の付いた巨大な肉斬り包丁。  そして体にはエプロンを身に纏っていた。 「絶対殺し合いに乗ってるよあれ!」 『どう見ても危険人物ですね』 「待って下さい2人とも、人を見た目で判断するのは良くないです!」 「いや限度があるよ。あれで乗ってなかったら詐欺だよ、ク○サギ出張るよあれは!  というかあれ都市伝説のブッチャーマンじゃない!? 昔テレビで見たのあんな感じだった気がする!」 「なんか聞いたことはありますけど、本当に居たんですね……」  そんなことを話している間にも人影、ブッチャーマンはどんどん近づいてくる。  そしてブッチャーマンは持っている肉斬り包丁を容赦なくゆたかに降ろそうとする。 「危ない!」  咄嗟に潮は手から気弾をだし、ブッチャーマンに攻撃する。  ブッチャーマンは咄嗟に腕で防ぎ、その隙にゆたかは脱出に空へ逃げる。  しかし、ゆたかは空高い所へ行こうとするが高度5メートル程の場所で急に上昇が止まる。 「あ、あれ? 何で?」  ゆたかは止まった自分に疑問を抱きながらも上に行こうとするが、身体は一向に上がらない。  この場に居る誰もが知らないことだが、これはナオ・ヒューマの掛けた制限である。  何故なら、空を自由自在に飛ばれてはワンサイドゲームになりかねないからだ。   勿論、5メートルという高さは空を飛べない相手なら有利なものだが、この殺し合いにはそれを逆転できるだけの要素は有り余っている。 「いやそれよりもこっち注意してお願いだから!」  ゆたかが何とか飛ぼうと苦心している間に、ブッチャーマンは狙いを潮に変更していた。  潮はブッチャーマンを近づけまいと連続で気功波を撃つが、ブッチャーマンは獣のような勘の鋭さででこれらを防御しながら潮に近づいていく。  それを見た潮は慌ててゆたかに助けを求めた。 「エクセリオンシュート!」  助けの声を聴いたゆたかは発生の速い魔法でブッチャーマンに攻撃する。  ブッチャーマンはこの声を聴いて攻撃を止め、回避しようと動く。  しかしエクセリオンシュートは自動追尾、多少動いた所で回避できるはずも無く全弾命中。  ブッチャーマンに大したダメージは無いものの、怯んで動きを止め、2人の様子を見ている。  その隙にゆたかは潮の元へ降り、作戦会議をする。 「……どうします?」 「どうしますって言われても……。  一応聞いておくけど、ブッチャーマンを殺すなんて真似はしたくないよね?」 「当然です! 魔法少女が人殺しなんてありえません!」 「そういうと思ったよ……。まあ僕も人殺しなんてごめんだけど」 『そうなると、気絶させたうえで拘束という形が理想ですね』 「まずは僕の気弾で動きを止める。  そこからバインドからのディバインシューターが妥当かな」 「勿論、私の魔法は非殺傷設定ですよね?」 「当然」  こうして、殺人を忌避する2人と1機の作戦会議は終わった。  そして行動を開始する。 「はぁっ!」  まずは潮が気功波で攻撃する。  それをブッチャーマンは機敏な動きで回避。 「だだだだだだだだだだっ!」  それを見た潮は気弾による攻撃を切り替え、連続攻撃する。  その様は、ドラゴンボールの世界で悟空がベジータの技と評する連続エネルギー波によく似ていた。  この連続攻撃で、ブッチャーマンは一時的であるものの動きを止める。 「今だ!」 「はい!」  動きを止めたブッチャーマンを見てゆたかはレストリクトロック、高町なのはが使うバインドタイプの魔法を行使する。  それにより光の輪がブッチャーマンの両手両足を拘束し、決定的に動きを止めた。 「よし、上手くいった!」  動きが止まったブッチャーマンを見て喜ぶ潮。  その潮を尻目にゆたかは空を飛び、レイジングハートを構える。 『Divine Buster』  レイジンハートのシステム音の後、空に巨大な魔法陣が現れ、魔力が収束していく。  それを見ている潮、それを行使しているゆたかは思った。  これで終わりだ、と。  勿論まだ殺し合いは始まったばかりだけど、ブッチャーマンの様な相手を拘束出来るだけの力があるのが分かれば、殺し合いを破綻させるのは難しくないかもしれない、と。  そう思うのも無理はない。  ここまでの戦いだけを見れば、それは間違いじゃないかもしれない。  だが彼らには罪がある。  どうしようもない罪がある。  無知という、罪がある。 「あ、あぁ……!」  その光景を、天草ゆたかは理解できなかった。 『忘れていました……。  ゆたかや潮に異能があるように、彼にも異能があることを……!』  その光景を、レイジングハートは理解した。  言葉にするならこうだ。  拘束していたブッチャーマンの腰回りから触手のようなものが現れ、潮を近くに置いてあった彼のデイバッグ諸共吹き飛ばしたのだ。  そんなことを想定していなかった潮はまともに攻撃を喰らい、地面に倒れ伏す。 「が、はぁ……っ!」  潮は思う。  ヤバイ、これはヤバイ。多分肋骨折れてる。超痛い。  漫画とかだったら大したことないように扱われる肋骨骨折だけど、実際になるとマジでヤバイ。  よくこんな怪我して戦えるな漫画の主人公は! 流石ヒーローだよ。根本から何かおかしいよ!  こっちは痛くてまともに動けやしないってのに! 「大木さん!」  一方、ゆたかは倒れ伏した潮を見て思わずディバインバスターの準備を解除し、潮の元へ向かう。  だがそんな隙をブッチャーマンは見逃さない。  ブッチャーマンは触手を伸ばし、ゆたかの足を掴む。  そして地面に叩きつけた。 「うわっ!」  バリアジャケットを装着していたこと、咄嗟に防御魔法を使ったことでダメージは無い。  だがこれで、さっきまであった優位は完全に失われることとなった。 『大丈夫ですか、ゆたか!?』 「う、うん……。私は大丈夫……」  レイジングハートの心配な声に返事しながらゆたかは思う。  腰回りから生えている触手、これってまさか……。 「喰種の赫子……? 確か主人公が持ってた……」  ゆたかはブッチャーマンの異能を理解した。  東京喰種に出てくる喰種、その喰種の体から発生する捕食器官の赫子の一つ鱗赫、それがブッチャーマンの持つ異能だとゆたかは理解した。 「大木さ、んぐっ!」  ゆたかはブッチャーマンの異能を把握し、潮に伝えようとする。  しかしブッチャーマンはゆたかが話すよりも先に首に触手を回し、締めると同時に口の中に触手を突っ込む。  これによりゆたかは声を出すことが出来なくなった。  それを見た潮は拙いと思う。  このままだと天草ちゃんは殺される、だけど僕にはどうすることも……。  その時潮は気づいた、僕の前に自分のデイパッグがあることに。  そしてその口から、小さな緑色の豆が出ていることに。  枝豆にも見えるが少し違うその豆は―― 「仙、豆か……?」  仙豆。  ドラゴンボールに登場するアイテムの一つで、1粒食べれば10日は何も食べなくて済むほど腹が膨らみ、更にどんな重症でも一瞬で治す回復アイテムである。  それが本当に仙豆か潮には分からない。  だが少しでも希望があるのなら、それに掛ける。  その思いで痛みを堪えながら必死に手を伸ばし、仙豆を掴みそして食べる。 「な、治った……!?」  どうやら本当に仙豆だったらしく、潮の肋骨骨折は完治した。  だが治ったからといってゆたかを助けられるかは別の問題だ。 「ボディチェンジだ、それしかない」  潮は口の中で小さく作戦を呟く。  潮は自分に与えられている異能で、自分とブッチャーマンの体を入れ替えることにした。  これなら天草ちゃんを触手から解放できるし、あの巨体ならかなりの腕力を持っているから有利に動けるはずだ。  作戦ともいえないような代物だったが、今の自分はやられて立ち上がれないと思われているはずだ。なら不意は撃てる。 「いくぞ」  そう言って潮は可能な限り素早く立ち上がり 「チェンジ!」  と叫んだ。  だがその動きはとても素早いと言えるものでは無かった。  何故なら潮はふとっちょで、素早く起き上れる体型じゃなかったから。  だが不意は付けた、と潮は思ったがそれは甘い。  ブッチャーマンは触手を動かし、ゆたかを盾にした。  決して驚かなかった訳では無い。だがブッチャーマンは、その驚きに思考を止めることなく最善の手を打ったのだ。  そしてボディチェンジにより、潮とゆたかは体を入れ替えた。 ◆  ゆたかは前触れもなくいきなり首絞めから解放され、自分に何が起きたのかが分からなかった。  だがその疑問は目の前の光景を見たことで解消される。  そこにはバリアジャケットは解除されたものの、相も変わらず触手に首を絞められている天草ゆたかの姿があるのだから。 「ボディチェンジ……」  ゆたかは自分が入れ替わったことを瞬時に理解する。  しかしレイジングハートが手に無い以上出来ることはない、と思った瞬間。  レイジングハートが飛んできた。  勿論自立飛行したのではない、ゆたかの体になった潮が投げたのだ。  ゆたかはレイジングハートに言う。 「レイジングハート、変身を――」 『逃げてください、ゆたか』  再び変身して戦おうとするゆたか、しかしレイジングハートが告げたのは残酷な指示だった。 「逃げるって、どうして……!」 『今の我々では勝つ術はありません、バインドも通用せず大技を当てることも出来ない』 「だからって……!」 『今のブッチャーマンは変身が解けたことでバインドが解除されています。  それに潮を見てください』  言われたとおりにゆたかは潮を見る。  すると潮は目くばせで、『早く逃げろ』と言っているような気がした。 『決断してくださいゆたか、あなたは逃げねばならない。  潮の為に、ブッチャーマンを倒す為に。そして殺し合いを打破する為に』 「そんな……」  ゆたかは困っている人を放っておくことが出来ない優しさを持っている。  だがその優しさのせいで死ぬことを潮もレイジングハートも望んでいない。 「う、うわああああああああああああああああああああああああああ!!」  だからこそゆたかは逃げ出した。  本当は一緒に戦いたい気持ちを胸に秘めつつもそれを堪えて。 「ごめんなさい、大木さんごめんなさい……!」 『申し訳ありません。ゆたか、潮……』  逃げ出しながらも謝る1人と1機。  それがどんな感情が理由で謝っているのか分からないままに。 ◆  逃げ出したゆたかとレイジングハートを見て潮は思う。  良かった、逃げてくれて本当に良かった。  その為に死にかけの身体で気弾撃ってたんだから。  そう、潮はブッチャーマンに向かって気弾を撃つことで今まで足止めをしていたのだ。  だからこそ今までブッチャーマンは動かなかった。  だがそれを行う体力はもう残っていない。後は殺されるだけだ。 「あ、あぁ……」  声にもならない言葉を漏らしながら潮は涙を流す。  死にたくないな……。  まだ見ていないアニメが一杯あったのに。  久しぶりにマジカルエミを見返したかったのに。  またユーリちゃんにコスプレさせたかったのに。  でも。  天草ちゃんと仲良くなれた。  魔法少女の変身シーンをリアルで見れた。  そして今、二次元に出てきてもおかしくないような美少女に僕はなった。  なら僕の最期は、決して全てが悪いものじゃない。  その思考を最後に、潮はブッチャーマンに首を折られ息絶えた。 &color(red){【大木潮@ギニューの能力 死亡 】} &color(red){【残り43人】}  そしてブッチャーマンは思案する。  このまま当初の予定通り集落に向かうか、それとも逃げた男を追いかけるか。  そして選んだのは―― 【一日目・2時00分/D-10】 【天草ゆたか@ミッドチルダ式の魔法/魔法少女リリカルなのはシリーズ】 [状態]:恐怖、後悔、魔力消費(中)、大木潮の肉体 [装備]:レイジングハート@魔法少女リリカルなのはシリーズ [道具]:基本支給品、不明支給品0~2 [思考・行動] 基本方針:殺し合いを打破する 1:とりあえず今は逃げる 2:大木さん……、私は…… [備考] ※自分の異能を把握しました ※レイジングハートの参戦時期は無印終了後、A`s開始前です。 その為カートリッジシステムは搭載されていません ※制限により5メートル以上の高さは飛べません ※集落がある方向には逃げていません。どの方向に逃げたかは後の書き手にお任せします ※ブッチャーマンの異能を鱗赫の赫子だけだと思っています 【ブッチャーマン@喰種の肉体と赫子/東京喰種】 [状態]:ダメージ(小) [装備]:巨大な肉斬り包丁 [道具]:基本支給品、不明支給品0~2(確認済み) [思考・行動] 基本方針:優勝して食事に困らない生活を手に入れる 1:人の多そうな集落に向かうか 、それともあの男(天草ゆたか)を追いかけるか―― [備考] ※自分の異能をある程度理解しました。どの程度理解したかは後の書き手にお任せします ※大木潮と天草ゆたかが入れ替わったことを認識していません ※D-10に大木潮(天草ゆたかの肉体)の遺体が放置されています。 ブッチャーマンが天草ゆたかのデイパック(不明支給品0~2)を回収したかどうかは後の書き手にお任せします。 【レイジングハート@魔法少女リリカルなのはシリーズ】 魔法少女リリカルなのはシリーズ1期から3期までの主人公、高町なのはが持つインテリジェントデバイス。 待機時は赤い球体の宝石状、戦闘時には赤い宝玉が先端にある杖状の姿になる。 また自立思考をし、喋る。 本来なら英語で喋るが、このロワでは日本語で喋る。 参戦時期は無印終了後、A`s開始前。 【仙豆@ドラゴンボール】 見た目は小さな緑色の豆。 だが1粒食べれば10日は持ち、更に大けがを負っても一瞬で回復するという代物。 |[[Eye Of The Tiger]]|時系列順|[[知人への一歩]]| |[[Eye Of The Tiger]]|投下順|[[知人への一歩]]| |[[都市伝説B/絶対自分至上主義]]|ブッチャーマン|| |&color(blue){GAME START}|天草 ゆたか|| |&color(blue){GAME START}|大木 潮|&color(red){GAME OVER}|
 夜の闇の中、殺し合いの会場である沖木島。  そこの東端であるD-10に二人の人間が居た。  一人は小学生位の身長の、栗色の髪をした下手なアイドル以上の美少女。  もう一人は眼鏡をかけているふとっちょの青年。  一見すると不釣り合いなこの二人も殺し合いの参加者。  少女の名前は天草ゆたか。  青年の名前は大木潮。  その二人は今 (どうしよう……)  猛烈に困っていた。  理由はゆたかの手に在る赤く小さな丸い宝石にある。  その宝石の名前はレイジングハート、アニメ魔法少女リリカルなのはシリーズに登場するデバイス、魔法の杖である。  これがゆたかのデイバッグの中にあったのだ。  二人は幸か不幸かアニメ鑑賞が、中でも潮は変身ヒロイン物が、ゆたかは魔法少女物が好きだった。  そのおかげで2人ともリリカルなのはを知っていたし、そのアニメの主人公を務める高町なのはのデバイスであるレイジングハートを知っていた。  そう、2人にとってレイジングハートとはアニメの中の物なのだが 『あの、ここはどこで貴方達は何者ですか?』  今ここに、現実の物として2人に話しかけてくる。  しかもアニメだと英語だったのにここでは日本語で。  だが2人が困っている理由は、創作の存在のはずの物が現実に現れている事では無く 『そしてなぜ、貴方達は私の事を御存じなのですか?』  2人がレイジングハートを知っている理由を、どう説明しようか考えているからだ。  天草ゆたかと大木潮の2人は殺し合いが始まってすぐ出会った。  最初こそお互いに警戒していた物のゆたかの人のいい性格と、2人が似たような趣味を持っていることからあっさり意気投合した。  そのまま2人で絶対に殺し合いに乗らない、と決意を固めまずは支給品を確認しようということになった。  そしてゆたかが最初に取り出しのがレイジングハートだった。  取り出したそれを見て2人は思わずこう言ってしまったのだ。 「えっ、レイジングハート?」  と。  そして今に至る。 『何か言っていただけないでしょうか』  どう説明しようかと考えてる2人、その間にもレイジングハートの疑心は膨れ上がるのが2人にはよく分かる。  レイジングハートからすれば見も知らない人間が自分の名前を呼ぶのだから。  この2人が管理局の人間なら納得はできるのだろうが、そうは見えないはずという自覚がある。 「とりあえず自己紹介をするね。  僕の名前は大木潮、こっちは天草ゆたかだ」 「は、はじめまして……」 『……はじめまして』  そんなレイジングハートの心情を全部では無いもののある程度察した二人は、とりあえず自己紹介をした。  その自己紹介にとりあえずレイジングハートは応じる。 「次に僕たちの今置かれている状況を説明するよ」  そして潮は自分達が殺し合いに巻き込まれたこと、レイジングハートはその殺し合いの為の支給品にされたことを説明した。 『成程、状況は把握しました。  ですが肝心なことを私は聞いていません』 「えっと、それは……」 「大木さん、説明しましょう」 「えっ!?」  ゆたかのある種諦めに近い発言に驚く潮。  その反応を見たゆたかの発言はこうだ。 「大丈夫です。レイジングハートはなんせあの高町なのはのデバイスですから、多分大丈夫です」 「理由になってないよそれは!?」  ゆたかの理由になっていない発言に思わずツッコむ潮。  しかし、代案があるのかと言われればそんなこともないので結局ゆたかに任せた。 「あのねレイジングハート、私たちが貴方を知っていた理由は――」  こうして、ゆたかはレイジングハートに魔法少女リリカルなのはというアニメについて説明した。  そしてとりあえず無印の説明、つまりPT事件の話が終わった後レイジングハートは言葉を途切れさせながらこう返答した。 『な、成程……。貴方達が私を知っている理由は理解しました。  しかしまさか、私達の行いがこの世界ではアニメになっていたとは……』  感心しているような口ぶりだが、声は震えている。  ショックなのだろう、とゆたかと潮は思う。  ギャグ時空の登場人物ではないのだ、自分がアニメの存在だと言われても平気な人間はいないだろう。レイジングハートは人間ではないが。  それでも、しばらくするとレイジングハートは持ち直し、ゆたかと潮にこう話した。 『正直ショックが無いとは言えません、しかし私達はあの世界に生きている。偽物でも作り物でもありません』 「そうだよ! レイジングハートは本物だよ!」 「あぁ良かった、一時はどうなるかと思った」  レイジングハートの言葉に賛同するゆたかと、安心する潮。  そんな2人を見てレイジングハートはこう切り出した。 『貴方達は信用できるみたいですね。それにゆたか、貴方には適性がある』 「えっ!? それって私にリンカーコアが!?」 「これがナオ・ヒューマの言ってた異能って所か……」  意外なタイミングで自身の異能が分かり喜ぶゆたか。  一方、レイジングハートは潮の言葉に疑問を覚える。 『異能とは?』 「なんか、この殺し合いの主催者が僕達にアニメやら漫画の能力を持たせたんだって」 『……ゆたかにリンカーコアを人為的に植え付けたと? そんなことが可能なのですか?』 「いや、僕に聞かれても分からない」 『申し訳ありません』 「いや気にしてないよ」 「レイジングハート!」  潮とレイジングハートが異能について話していると、ゆたかが唐突に割り込んできた。  そして話すことは潮にとっては予測できたものだ。 「私、変身してバリアジャケット着たい!」 『この殺し合いを壊すに置いて、私の力は有用だと判断します。 ……分かりました、変身させましょう』 「やった!」 「凄い無邪気に喜んでるなあ。 でも魔法少女の変身シーンが現実で見られるなんて僕もワクワクしてくるから、気持ちは分かるけどね」 『では早速始めましょうか』  レイジングハートの言葉にゆたかは頷き、潮から少し離れて準備する。  そしてゆたかはレイジングハートを構え、呪文を唱える。 『起動呪文はご存知でしょうか?』 「うん!」 『……なんというか、不思議な気分になりますね』 「いくよ。  我、使命を受けし者なり。  契約のもと、その力を解き放て。  風は空に、星は天に、そして不屈の魂(こころ)はこの胸に。  この手に魔法を。  レイジングハート、セットアップ!」 「この呪文聞くの何年ぶりなんだろう」  無印第1話でしか使われなかった起動呪文をゆたかが唱えると、一瞬だけ光が放たれる。  そして光が収まると、ゆたかはバリアジャケットを装着していた。  その恰好は、本家本元の高町なのはと同じ服装だった。 「あ、変身って一瞬なんだ……」 「というか、一瞬じゃなかったら僕に全裸を見られたいってことになるよ。  僕も君もバリアジャケットつける時に全裸になるのは知ってるんだから」 「違いますよ! 人を露出狂みたいに言わないでください!!」 「言っておくけど、僕はいくら可愛いからって三次元の小学生に欲情する趣味は無いからね」 「私は小学生じゃなくて高校生です!」 「え?」 『それは事実ですか?』 「レイジングハートまで!?」  ゆたかが高校生だと明かされ、その場に微妙な空気が漂う。  これはゆたかが隠していた訳では無く、1人と1機が勝手に勘違いをしていただけなのだが。  その空気を払拭する様に、レイジングハートは潮にこう切り出す。 『ところで、あなたの異能はどのようなものですか?』 「あ、僕? 僕はこれだよ」  そう言って潮は右手を近くにあった木に向ける。 「はぁっ!」  そして叫ぶと、そこからビームのようなものが飛び出し木を揺らした。  その光景を見てレイジングハートは茫然としながらも、潮に問いかける。 『今の光弾は一体?』 「多分だけど、気弾だと思う」 「気弾って、ドラゴンボールのですか?」 「それそれ」 『……?』 「あまり深く考えない方がいいよ。簡単に言うなら体内にあるエネルギーみたいな感じで考えて置けばいいと思う」 『分かりました……』  正直納得しきれないレイジングハートを尻目に、ゆたかと潮は盛り上がる。 「凄いです! これでサイヤ人ばりの戦闘が出来るんですね!」 「いや気弾は出せるけど、肉体スペック何一つ変わってない」 「えぇ!?」 「でもそれだけじゃない。天草ちゃん変身解除してからちょっとこっち来て」 「あ、はい」  言われたとおりに変身解除をしてから潮の元へ向かうゆたか。 「それで私は何をすればいいんですか?」 「いやちょっとそこに立ってて、今からもう一つ能力を見せるから」 「はぁ……」  潮が何をしたいのかよく分からず生返事になってしまうゆたか。  しかしそれは次の言葉で覆った。 「チェンジ!!」 「えっ!?」  潮の言葉と共に身体からゆたかに向かって光が発せられ、それと同時にバチッという音がする。  そして光が収まると同時にゆたかが見た物は、自分自身だった。 「これは、まさか……。入れ替わってる!?」 「無理に『君○名は。』っぽくしなくてもいいと思うな、僕は」 「つまり大木さんの異能は、シルバーチャリオッツレクイエム!」 「いや違うよ、ギニューのボディチェンジだよ」  どこか発言がずれているゆたかにツッコミを入れ続ける潮。  一方、レイジングハートは体が入れ替わる異能だけでなく、別のことに驚いていた。 『リンカーコアが移動している……?』 「それってつまり……」 「異能が入れ替わってる!?」 「それはもういいよ」 「すみません、今のは素です」  ボディチェンジで体だけでなく異能まで入れ替わることに驚く2人。  しかし、驚きながらもゆたかは重要なことを潮に言った。 「あの、それはそれとして体返してください」 「え、もうちょっとだけ女の子の体を体験してみたいんだけど……」 「返してください」 「あ、はい」  目が本気でやばい、と潮は思いながら再びボディチェンジをし元の鞘に収めた。 ◆  そして時は午前1時を少し過ぎたところまで進む。 ◆  午前一時過ぎの沖木島D-10、そこでは天草ゆたかが魔法の練習をしていた。  いくら知識として知っていても、実際に使いこなせるかは別の話。  なので実際に使用してみたが、結果は上々。  高町なのはと同程度の能力がゆたかに備わっていることが分かった。  そしてレイジングハートにはカートリッジシステムが搭載されていなかった。  これはどういうことか聞くと、どうやらレイジングハートはPT事件は経験しているものの、その後の闇の書事件意向については知らなかった。  このことから、ゆたかはレイジングハートが無印終了後の時間から来ていると判断する。  そして大木潮はそれを後ろで見てるだけ。 「いやだって、原作でギニューが気功波撃ってるシーン1回くらいしかないからどんな技使えるかよく分からないし」 「どうしたんですかいきなり?」 「いや何でもないよ」  潮のよく分からない発言に疑問を抱きつつ、ゆたかは魔法の練習を続ける。  するとゆたかが潮に話しかける。 「大木さん、あっち見てください」 「何?」  ゆたかが指を指し、潮がその方向を向く。  そこには 「人が居ます」 「お、本当だ」 『慎重に行きましょう』  人影を見つけた2人と1機はその人影に向かって行く。  少しすると、その人影の風貌が良く見えた。  人影は2mほどの身長を持った人間だった。  顔には豚のマスク。  片手にはデイバッグ。  もう片方の手には血の付いた巨大な肉斬り包丁。  そして体にはエプロンを身に纏っていた。 「絶対殺し合いに乗ってるよあれ!」 『どう見ても危険人物ですね』 「待って下さい2人とも、人を見た目で判断するのは良くないです!」 「いや限度があるよ。あれで乗ってなかったら詐欺だよ、ク○サギ出張るよあれは!  というかあれ都市伝説のブッチャーマンじゃない!? 昔テレビで見たのあんな感じだった気がする!」 「なんか聞いたことはありますけど、本当に居たんですね……」  そんなことを話している間にも人影、ブッチャーマンはどんどん近づいてくる。  そしてブッチャーマンは持っている肉斬り包丁を容赦なくゆたかに降ろそうとする。 「危ない!」  咄嗟に潮は手から気弾をだし、ブッチャーマンに攻撃する。  ブッチャーマンは咄嗟に腕で防ぎ、その隙にゆたかは脱出に空へ逃げる。  しかし、ゆたかは空高い所へ行こうとするが高度5メートル程の場所で急に上昇が止まる。 「あ、あれ? 何で?」  ゆたかは止まった自分に疑問を抱きながらも上に行こうとするが、身体は一向に上がらない。  この場に居る誰もが知らないことだが、これはナオ・ヒューマの掛けた制限である。  何故なら、空を自由自在に飛ばれてはワンサイドゲームになりかねないからだ。   勿論、5メートルという高さは空を飛べない相手なら有利なものだが、この殺し合いにはそれを逆転できるだけの要素は有り余っている。 「いやそれよりもこっち注意してお願いだから!」  ゆたかが何とか飛ぼうと苦心している間に、ブッチャーマンは狙いを潮に変更していた。  潮はブッチャーマンを近づけまいと連続で気功波を撃つが、ブッチャーマンは獣のような勘の鋭さででこれらを防御しながら潮に近づいていく。  それを見た潮は慌ててゆたかに助けを求めた。 「エクセリオンシュート!」  助けの声を聴いたゆたかは発生の速い魔法でブッチャーマンに攻撃する。  ブッチャーマンはこの声を聴いて攻撃を止め、回避しようと動く。  しかしエクセリオンシュートは自動追尾、多少動いた所で回避できるはずも無く全弾命中。  ブッチャーマンに大したダメージは無いものの、怯んで動きを止め、2人の様子を見ている。  その隙にゆたかは潮の元へ降り、作戦会議をする。 「……どうします?」 「どうしますって言われても……。  一応聞いておくけど、ブッチャーマンを殺すなんて真似はしたくないよね?」 「当然です! 魔法少女が人殺しなんてありえません!」 「そういうと思ったよ……。まあ僕も人殺しなんてごめんだけど」 『そうなると、気絶させたうえで拘束という形が理想ですね』 「まずは僕の気弾で動きを止める。  そこからバインドからのディバインシューターが妥当かな」 「勿論、私の魔法は非殺傷設定ですよね?」 「当然」  こうして、殺人を忌避する2人と1機の作戦会議は終わった。  そして行動を開始する。 「はぁっ!」  まずは潮が気功波で攻撃する。  それをブッチャーマンは機敏な動きで回避。 「だだだだだだだだだだっ!」  それを見た潮は気弾による攻撃を切り替え、連続攻撃する。  その様は、ドラゴンボールの世界で悟空がベジータの技と評する連続エネルギー波によく似ていた。  この連続攻撃で、ブッチャーマンは一時的であるものの動きを止める。 「今だ!」 「はい!」  動きを止めたブッチャーマンを見てゆたかはレストリクトロック、高町なのはが使うバインドタイプの魔法を行使する。  それにより光の輪がブッチャーマンの両手両足を拘束し、決定的に動きを止めた。 「よし、上手くいった!」  動きが止まったブッチャーマンを見て喜ぶ潮。  その潮を尻目にゆたかは空を飛び、レイジングハートを構える。 『Divine Buster』  レイジンハートのシステム音の後、空に巨大な魔法陣が現れ、魔力が収束していく。  それを見ている潮、それを行使しているゆたかは思った。  これで終わりだ、と。  勿論まだ殺し合いは始まったばかりだけど、ブッチャーマンの様な相手を拘束出来るだけの力があるのが分かれば、殺し合いを破綻させるのは難しくないかもしれない、と。  そう思うのも無理はない。  ここまでの戦いだけを見れば、それは間違いじゃないかもしれない。  だが彼らには罪がある。  どうしようもない罪がある。  無知という、罪がある。 「あ、あぁ……!」  その光景を、天草ゆたかは理解できなかった。 『忘れていました……。  ゆたかや潮に異能があるように、彼にも異能があることを……!』  その光景を、レイジングハートは理解した。  言葉にするならこうだ。  拘束していたブッチャーマンの腰回りから触手のようなものが現れ、潮を近くに置いてあった彼のデイバッグ諸共吹き飛ばしたのだ。  そんなことを想定していなかった潮はまともに攻撃を喰らい、地面に倒れ伏す。 「が、はぁ……っ!」  潮は思う。  ヤバイ、これはヤバイ。多分肋骨折れてる。超痛い。  漫画とかだったら大したことないように扱われる肋骨骨折だけど、実際になるとマジでヤバイ。  よくこんな怪我して戦えるな漫画の主人公は! 流石ヒーローだよ。根本から何かおかしいよ!  こっちは痛くてまともに動けやしないってのに! 「大木さん!」  一方、ゆたかは倒れ伏した潮を見て思わずディバインバスターの準備を解除し、潮の元へ向かう。  だがそんな隙をブッチャーマンは見逃さない。  ブッチャーマンは触手を伸ばし、ゆたかの足を掴む。  そして地面に叩きつけた。 「うわっ!」  バリアジャケットを装着していたこと、咄嗟に防御魔法を使ったことでダメージは無い。  だがこれで、さっきまであった優位は完全に失われることとなった。 『大丈夫ですか、ゆたか!?』 「う、うん……。私は大丈夫……」  レイジングハートの心配な声に返事しながらゆたかは思う。  腰回りから生えている触手、これってまさか……。 「喰種の赫子……? 確か主人公が持ってた……」  ゆたかはブッチャーマンの異能を理解した。  東京喰種に出てくる喰種、その喰種の体から発生する捕食器官の赫子の一つ鱗赫、それがブッチャーマンの持つ異能だとゆたかは理解した。 「大木さ、んぐっ!」  ゆたかはブッチャーマンの異能を把握し、潮に伝えようとする。  しかしブッチャーマンはゆたかが話すよりも先に首に触手を回し、締めると同時に口の中に触手を突っ込む。  これによりゆたかは声を出すことが出来なくなった。  それを見た潮は拙いと思う。  このままだと天草ちゃんは殺される、だけど僕にはどうすることも……。  その時潮は気づいた、僕の前に自分のデイパッグがあることに。  そしてその口から、小さな緑色の豆が出ていることに。  枝豆にも見えるが少し違うその豆は―― 「仙、豆か……?」  仙豆。  ドラゴンボールに登場するアイテムの一つで、1粒食べれば10日は何も食べなくて済むほど腹が膨らみ、更にどんな重症でも一瞬で治す回復アイテムである。  それが本当に仙豆か潮には分からない。  だが少しでも希望があるのなら、それに掛ける。  その思いで痛みを堪えながら必死に手を伸ばし、仙豆を掴みそして食べる。 「な、治った……!?」  どうやら本当に仙豆だったらしく、潮の肋骨骨折は完治した。  だが治ったからといってゆたかを助けられるかは別の問題だ。 「ボディチェンジだ、それしかない」  潮は口の中で小さく作戦を呟く。  潮は自分に与えられている異能で、自分とブッチャーマンの体を入れ替えることにした。  これなら天草ちゃんを触手から解放できるし、あの巨体ならかなりの腕力を持っているから有利に動けるはずだ。  作戦ともいえないような代物だったが、今の自分はやられて立ち上がれないと思われているはずだ。なら不意は撃てる。 「いくぞ」  そう言って潮は可能な限り素早く立ち上がり 「チェンジ!」  と叫んだ。  だがその動きはとても素早いと言えるものでは無かった。  何故なら潮はふとっちょで、素早く起き上れる体型じゃなかったから。  だが不意は付けた、と潮は思ったがそれは甘い。  ブッチャーマンは触手を動かし、ゆたかを盾にした。  決して驚かなかった訳では無い。だがブッチャーマンは、その驚きに思考を止めることなく最善の手を打ったのだ。  そしてボディチェンジにより、潮とゆたかは体を入れ替えた。 ◆  ゆたかは前触れもなくいきなり首絞めから解放され、自分に何が起きたのかが分からなかった。  だがその疑問は目の前の光景を見たことで解消される。  そこにはバリアジャケットは解除されたものの、相も変わらず触手に首を絞められている天草ゆたかの姿があるのだから。 「ボディチェンジ……」  ゆたかは自分が入れ替わったことを瞬時に理解する。  しかしレイジングハートが手に無い以上出来ることはない、と思った瞬間。  レイジングハートが飛んできた。  勿論自立飛行したのではない、ゆたかの体になった潮が投げたのだ。  ゆたかはレイジングハートに言う。 「レイジングハート、変身を――」 『逃げてください、ゆたか』  再び変身して戦おうとするゆたか、しかしレイジングハートが告げたのは残酷な指示だった。 「逃げるって、どうして……!」 『今の我々では勝つ術はありません、バインドも通用せず大技を当てることも出来ない』 「だからって……!」 『今のブッチャーマンは変身が解けたことでバインドが解除されています。  それに潮を見てください』  言われたとおりにゆたかは潮を見る。  すると潮は目くばせで、『早く逃げろ』と言っているような気がした。 『決断してくださいゆたか、あなたは逃げねばならない。  潮の為に、ブッチャーマンを倒す為に。そして殺し合いを打破する為に』 「そんな……」  ゆたかは困っている人を放っておくことが出来ない優しさを持っている。  だがその優しさのせいで死ぬことを潮もレイジングハートも望んでいない。 「う、うわああああああああああああああああああああああああああ!!」  だからこそゆたかは逃げ出した。  本当は一緒に戦いたい気持ちを胸に秘めつつもそれを堪えて。 「ごめんなさい、大木さんごめんなさい……!」 『申し訳ありません。ゆたか、潮……』  逃げ出しながらも謝る1人と1機。  それがどんな感情が理由で謝っているのか分からないままに。 ◆  逃げ出したゆたかとレイジングハートを見て潮は思う。  良かった、逃げてくれて本当に良かった。  その為に死にかけの身体で気弾撃ってたんだから。  そう、潮はブッチャーマンに向かって気弾を撃つことで今まで足止めをしていたのだ。  だからこそ今までブッチャーマンは動かなかった。  だがそれを行う体力はもう残っていない。後は殺されるだけだ。 「あ、あぁ……」  声にもならない言葉を漏らしながら潮は涙を流す。  死にたくないな……。  まだ見ていないアニメが一杯あったのに。  久しぶりにマジカルエミを見返したかったのに。  またユーリちゃんにコスプレさせたかったのに。  でも。  天草ちゃんと仲良くなれた。  魔法少女の変身シーンをリアルで見れた。  そして今、二次元に出てきてもおかしくないような美少女に僕はなった。  なら僕の最期は、決して全てが悪いものじゃない。  その思考を最後に、潮はブッチャーマンに首を折られ息絶えた。 &color(red){【大木潮@ギニューの能力 死亡 】} &color(red){【残り43人】}  そしてブッチャーマンは思案する。  このまま当初の予定通り集落に向かうか、それとも逃げた男を追いかけるか。  そして選んだのは―― 【一日目・2時00分/D-10】 【天草ゆたか@ミッドチルダ式の魔法/魔法少女リリカルなのはシリーズ】 [状態]:恐怖、後悔、魔力消費(中)、大木潮の肉体 [装備]:レイジングハート@魔法少女リリカルなのはシリーズ [道具]:基本支給品、不明支給品0~2 [思考・行動] 基本方針:殺し合いを打破する 1:とりあえず今は逃げる 2:大木さん……、私は…… [備考] ※自分の異能を把握しました ※レイジングハートの参戦時期は無印終了後、A`s開始前です。 その為カートリッジシステムは搭載されていません ※制限により5メートル以上の高さは飛べません ※集落がある方向には逃げていません。どの方向に逃げたかは後の書き手にお任せします ※ブッチャーマンの異能を鱗赫の赫子だけだと思っています 【ブッチャーマン@喰種の肉体と赫子/東京喰種】 [状態]:ダメージ(小) [装備]:巨大な肉斬り包丁 [道具]:基本支給品、不明支給品0~2(確認済み) [思考・行動] 基本方針:優勝して食事に困らない生活を手に入れる 1:人の多そうな集落に向かうか 、それともあの男(天草ゆたか)を追いかけるか―― [備考] ※自分の異能をある程度理解しました。どの程度理解したかは後の書き手にお任せします ※大木潮と天草ゆたかが入れ替わったことを認識していません ※D-10に大木潮(天草ゆたかの肉体)の遺体が放置されています。 ブッチャーマンが天草ゆたかのデイパック(不明支給品0~2)を回収したかどうかは後の書き手にお任せします。 【レイジングハート@魔法少女リリカルなのはシリーズ】 魔法少女リリカルなのはシリーズ1期から3期までの主人公、高町なのはが持つインテリジェントデバイス。 待機時は赤い球体の宝石状、戦闘時には赤い宝玉が先端にある杖状の姿になる。 また自立思考をし、喋る。 本来なら英語で喋るが、このロワでは日本語で喋る。 参戦時期は無印終了後、A`s開始前。 【仙豆@ドラゴンボール】 見た目は小さな緑色の豆。 だが1粒食べれば10日は持ち、更に大けがを負っても一瞬で回復するという代物。 |[[Eye Of The Tiger]]|時系列順|[[知人への一歩]]| |[[Eye Of The Tiger]]|投下順|[[知人への一歩]]| |[[都市伝説B/絶対自分至上主義]]|ブッチャーマン|[[ブラックアイドル地獄変]]| |&color(blue){GAME START}|天草 ゆたか|| |&color(blue){GAME START}|大木 潮|&color(red){GAME OVER}|

表示オプション

横に並べて表示:
変化行の前後のみ表示: