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7:19 天気 ××市 晴れ 湿度 △△% テロップ『貴方は、漫画「ハイスコアドール」を知っていますか?』 テロップ『漫画家、赤木水槽さん原作で週刊少年ガソガソで連載され、日本の若者のみならず、世界で大旋風を巻き起こしました!』 テロップ『そして、ハリウッドで実写化されたこの作品が、日本で世界一速く公開されます!』 テロップ『主演は。コムロテ・ツヤさん、レオパルド・ガーネットさん、アノルドー・ワルシュツガネーさんなど豪華俳優陣に加え』 テロップ『ボクシング世界チャンピオンのロック・パンサーと、同じく日本が誇るボクサー、アルマゲドンナオキさんがゲスト出演です!』 テロップ『実は、レオパルド・ガーネットさん、日本のある番組に憧れて俳優になったそうですが、それは本当なのでしょうか?』 テロップ『という訳で、私たち、『耳覚ましテレビ』クルーは、レッドカーペットを歩くレオパルド・ガーネットさんに突撃インタビューをしました!』 インタビュアー『レオパルドさん!どうもこんばんわ『耳覚ましテレビ』です!』 (ここでインタビュアーがマイクをレオパルドに向ける) レオパルド『おっ?マジで?日本に来た時は必ず見てるよ!マスコットも可愛いよね』 テロップ『噂通り、流暢すぎる日本語を披露!』 インタビュアー『レオパルドさん、噂によると、日本の特撮作品に憧れて俳優になったと聞いていますが、それは本当なのでしょうか?』 レオパルド『僕はね、仮面ライダーに憧れて、映画俳優になったと言っても過言じゃないよ。初めて観た時の衝撃は、今でも忘れられないね。……そうだな、あの時の衝撃を一言で表すなら、『ヤバい』、だね       仮面ライダーは、アメリカのMAVEL COMICよりも、クールだと思ってるよ。』 (ここで、映像を早回し) テロップ『レオパルド・ガーネットさん、その後もカメラの前で30分も特撮作品について語ってくれました、がなくなくカットさせていただきました(笑)』 インタビュアー『最後に、耳覚ましティーヴィーのポーズを取ってもらっていいですか?』 レオパルド『おお、いいよ!耳覚ましティーヴィー!』 (レオパルド、カメラに向かって指を指してポージング) (映像をスタジオに切り替え) 男性キャスター『いやぁ、日本の作品に憧れたっていう噂は本当だったんですね~』 女性キャスター『いつか、日本で特撮映画を撮りたいそうですよ!』 男性キャスター『はい、では次のニュースです。あの人気アイドルがグループを脱退です』 (ここでテロップを表示) (映像の切り替え) ☆ ☆ ☆   「おい、レオパルド、あの猿共のカメラの前で何を語ってたんだ?」 「俺の熱い思いだよ」 「はっ、ナード根性が染みついてるなぁ。どうせまた日本のトクサツについてだろ!?」 「ロック君、君みたいに人を殴るだけが職業のやつにはわからねぇだろうねぇ」 「俺に喧嘩売ってるのか?」 「こんな挑発に乗るなんて、つまらない男だな。いつか捕まるんじゃねぇのか?安い挑発に乗って、逆上して人を殺したりしてな」 「…………けっ」 「………………でもまぁ、君みたいな人生も、よかったのかもなぁ」 「…………どういう意味だ?」 「リングの上で、倒れてはいけないスリルとの隣り合わせ、後ろにはファンがいて、闘う自分に対して声を上げて応援する。君は、アメリカにとってのヒーローだろ?」 「映画俳優も同じような気がするんだが」 「スクリーンの中だけだ。俺はね、戦いの中に身を置いてみたいんだよ」 「おいおい、なんだよレオパルド、セレブの仲間入りを果たして、買えない物はないぐらい金を持ってるだろ?それなのに満たされないってか?」 「そうだよ。ロックくん。俺はね、映画俳優だ。最初から最後まで。理想と現実ってのは違う」 「………………」 「俳優になった時、俺の夢は、叶ったと思ったんだ。だけど、違った」 「………………」 「スクリーンの中では、ヒーローになれた。でもそれは映画の中だけだ。俺は映画の中では超能力を身に着けたり、天才科学者になったり、なんでもできた」 「…………確かに、お前は小さい時の俺の憧れだった。ガキの頃に見た子ども向けのアクション映画は、まだ覚えてるぜ」 「ありがとう。君みたいに、私に憧れる人は沢山いたさ。でも、俺は…………」 「…………本物のヒーローになりたかった、か」 「身体を動かし、クンフーや、超能力を使い、改造人間に変身し、悪を倒したかった」 「……夢物語もほどほどにしとけよ。62歳のクソジジイがいきなりスーパーヒーローになるなんて、ぜってえ無理だから」 「わかるさ。痛いほどわかる。理想と現実の違いってのは嫌になるほど見てきたさ。今回の映画も、嫌になるほど突き付けられた。俺は、スクリーンの中でしかヒーローになれないんだよ」 ☆ ☆ ☆ 駅前の喫煙所にはお兄さんやおじさん、化粧が濃い目のお姉さんがいて、ニコチン混じりの溜息を吐いている。 窓の外から見える風景は、何処にでもあるような風景だ。 サングラスを外して見る程の光景でもないし、日差しが眩しくて外す気にもなれない。 まるでマンガのような晴天だった。 ここは駅近くのカフェ。 亜希と一緒に見つけて以来、2人で入り浸る事が多かった。ケーキもラテも美味しいし、可愛いものが多い。 窓から見えるのは喫煙所のみで、眺めは少し良くないが、店長さんの計らいで、私たちはいつも一番奥の目立たない席に座らせて貰っている。 店長さんは優しそうなおじいさんだった。私たちがアイドルと読者モデルと知ると奥の席に案内してくれるようになった。 今日もおじいさんは『可愛い孫娘がいる気分だよ』と言いながら奥に案内してくれた。 私たちはおじいさんの笑顔に釣られて笑ってしまった。なんだかこっちも嬉しくなった気がした。 亜希がクレープを食べながらいつもの調子で喋り始めた。 「ねぇ、そういえばさ、今度映画見に行く約束したじゃん?アタシ、アレを見たいんだよね」 「あぁ、前に亜希が言ってたやつ?『ハイスコアドール』だっけ?」 「ううん、そっちじゃなくて『デッドプール』っていうやつ!……『ハイスコアドール』も面白いんだけど、あのボクサーの演技が微妙なんだよね」 「あぁ、やっぱり俳優じゃない人は映画出ちゃだめだね……。それで、『デッドプール』って確かアメコミのやつだっけ? 私そういうの詳しくないんだよなぁ」 「ただのヒーローものじゃないんだよ!」 「例えば何処らへんが?」 「なんと18禁」 「はい??」 「ヤバくない?」 「・・・・・・もしかしてHなやつ?」 亜希はクレープを吹き出した。汚い。汚いけど、許せた。 亜希はこういう話題には弱い。エッチ、という単語でさえこの調子だ。 見た目はギャルで遊んでそうに見えるが、人は見た目で判断しちゃいけないんだなぁ、なんて事を再認識した。 この様子を見ると更にからかいたくなるが、自分もこの話題には疎いのでやめておく。 「ち、ちがうよ!」 「亜希はウブだなぁ。エッチって言っただけなのに・・・ふふふ」 「アンタだってウブな癖に!」 私はアイスラテを飲みながら笑ってしまう。最近はアイドル活動が忙して、亜希となかなか会えなかった。 彼女の顔を見るだけで元気が出てくる。 「デッドプールはね、下品なの」 「下品? えーと、ウンチを投げたり・・・」 「そんなヒーローいてたまるか!あと、アイドルがそんな事言っちゃいけない!」 「冗談だよ。私はアイドルだからトイレにも行かないの知ってるでしょ?」 「それアイドルが言っちゃいけないセリフ!」 いつものやりとり。私がふざけて、亜希がツッコミをいれる。 亜希の前だからこそ、私は全てを曝け出す事が出来ていた。 私たち2人なら、きっと漫才師にもなれるだろう。私たちはそんな気がするぐらい2人で笑って過ごす時間が多かった。 「でも、すごいね。ヒーローなのに、下品って」 「今までもそういうヒーローは沢山いたんだよ。アンチヒーロー? っていうのかな?」 「ほら、アンパンマンに出てくるロールパンナちゃんも、敵になったり味方になったりするでしょ?」 「アンチヒーロー?」 私はは聞きなれない単語に少し興味を惹かれた。 持っていたカフェラテをテーブルに置いて、体を亜希の方に向けた。 「悪を倒す為に、目的を選ばなかったり、限りなく悪の方にいるんだけど、結果的に正しい事をしたりするヒーローのこと!ロールパンナちゃんはちょっと違うかもしれないけど・・・」 「あ!凄い前に亜希の家で見た『パニッシャー』って奴?」 「そう、それ!パニッシャーも自分の家族を奪われて、復讐のために色々悪い事してたよね」 亜希は、映画の話になると止まらない。 しかし彼女の話は分かりやすいので 右から左へ流れることはなかった。 「でも、デッドプールは今までのアンチヒーローとは違うんだよ!昨日調べたんだけど、本当に凄いの!」 「ただのヒーローじゃない、アンチヒーローなのに、今までのアンチヒーローとは違う?」 「第四の壁、って知ってる?」 「第四の壁?」 「快夢は、演劇とか見る?」 「ステージ側に立った事なら何回かあるけど」 ヒーロー物の話をしていた筈なのに、急に演劇の話になった事に対して私は疑問を抱いた。 亜希は私がステージ側に立つ人間だったという再認識すると少し変な顔をしたが、すぐに話を続けた。 「演劇中に快夢はお客さんに話しかけたりした?」 「そんなことしたら監督に凄く怒られそう」 「だよね!普通はそんな事を絶対しちゃいけない。ステージと客席には透明な壁があるんだよ」 アイドル研究生時代に、勉強として何回か演劇をしたが『透明な壁』を意識した事は一度もなかった。 「その壁を第四の壁、って言うんだけど。この壁があるからこそ、演者は客席を認識できない。でも、デッドプールは第四の壁を破壊できるんだよ!」 「……つまり、どういうこと?」 第四の壁、の破壊? どういうことか、意味がわからなくなってきた。私が理解できていない事を察した亜希は口を紡いだ。 「例えばさ、アニメが始まる前に主人公が『テレビを見る時は、部屋を明るくして離れて見てね』って言うじゃん。アニメのキャラが演者、私たち視聴者は、お客さんだとすると・・・」 「・・・・・・あぁ!そういうことか!」 演者側から客席側への干渉。それは演劇では絶対にあってはいけない事。 アニメのキャラが私たちに注意喚起する事は、本来なら絶対にあってはならない事だった訳か。今までそれが当たり前の風景だったから、少しだけ衝撃を受けた。 「デッドプールはね、私たちが見えるの。原作は見た事ないけど、漫画だと読者にバンバン話しかけてくるんだって!もう本当に映画が楽しみ!」 「私も少し興味出てきたなぁそれ。一緒に見に行こうよ」 「でもね、快夢。一つ問題点があるの。・・・・・・18禁だから、私達見れない」 しっかりとオチが付いた所で、亜希はクレープを食べ終えた。亜希の話は、長い。マシンガントークだ。 でも彼女の話は興味を惹かれた。 第四の壁、か。 「今日は天気がいいなー!雲ひとつない青空!そして飛行機!飛行機雲!こんにゃろー!せっかくの雲ひとつない青空が!」 「たった今、雲ができちゃったね・・・ねぇ、亜希」 「ん?なーに?」 「もし、私たちの世界が、そのデッドプールの映画みたいに、演劇のステージ側の様に、誰かに見られてる創作物だったらどうする?」 私は、こういう例えばの話が好きだった。 アメリカに移住したら、イケメンの彼氏が出来たら、宇宙人がやってきたら、戦争になってミサイルが飛んできたら・・・・・・ 同じメンバーのツボミちゃんとユーリちゃんにもよくこういった話をするが、亜希の答えが一番面白い事が多い。 私は今日もなんとなく、そんな話を彼女に聞いた。 「この世界が映画みたいに創作物だったら、ってこと?」 「うん。私達の事を大勢のお客さんが見てると仮定すると、だよ」 「うーん・・・このスーパーモデルの亜希ちゃんにそんな難しい質問をしないでよーーー!」 いつもの調子の亜希は、ニコニコしながら答えた。 そして突然、真面目な顔になった・・・・・・気がした。 「・・・・・・もし、私の人生が、誰かの創作だったら、私はね……」 亜希は背伸びをしながら自慢気に答えた。 ##################読み込みエラーが発生しました########################### ☆ ☆ ☆ 私の人生は、私の人生ではなく、誰かの創作物だった。 ハリウッドの超大作でもなく、週刊少年ジャンプで連載している人気漫画でもなく、芥川賞作家が書いた小説でもなく、青春活劇テレビドラマでもなかった。 漫画、アニメの二次創作だった。 「・・・・・・」 疲れて眠っていたらしい。何だか懐かしい夢を見た。 まだアイドルとして駆け出しの時で、メンバー三人がお互いを良く知らなくて、あの女の悪事も知らなかった頃の事だ。 「・・・・・・あの時の亜希は、なんて言っていたんだろう」 思い出せなかった。覚えていない、という訳ではなく、記憶を奪われた様な感覚だった。 『版権異能授与バトロワ。この物語の題名さ』 ずっと、ずっと頭の中であの言葉がぐるぐると回っている。 あの時の亜希のセリフも、創作物だと考えるとしたらどうでもいいか。 「みんな殺そう。早く殺そう。この物語を終わりにしよう」 体についていた血は、乾いてた。なんだか体が軽い気がする。 体は軽いが、嫌な気分だった。私がこうやって呟いた言葉も、『奴等』は楽しんで見ている事を考えると胸が締め付けられそうになった。 目指すはバッドエンディング。全員殺そう。 私の人生なんて意味なかったのだから、 全員、殺そう。 ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ 時は少し遡る。そこには欝蒼とした繁みがあった。成人男性の背丈程の草花達は人ひとりを隠すのにうってつけだろう。   「うっそでしょ。マジで?俺V3になれるの?めちゃくちゃ夢叶ったじゃん。あぁ、あと40歳ぐらい若かったらかっこよく変身できるのに。俺もう62だぜ?  62才でライダーに変身していいの?60代以上でライダーになっていいのは、藤岡さんだけなのに、俺本当に変身していいの?」   ハリウッド在住のハリウッドスター、レオパルド・ガーネットは長すぎる独り言と一緒にため息をついた。 純アメリカ人による流暢すぎる日本語はどこかおかしかった。まるで日本の男子学生、女子学生が話す日本語の様に崩れていた。 現在進行形で日本文化(特に特撮)に触れているからだろう。彼の日本語の流暢さは、日本人はもう誰も驚かないぐらい有名になってしまっていた。 彼は、興奮していた。まるで新しい玩具を手に入れた子どものように、声を挙げながら喜んでいた。 彼の腰に巻いてあったのは、特撮番組、仮面ライダーV3のベルトだった。 玩具にしか見えないそれは、本物だった。デザインは昭和チックで、色は少しくすんでいる。 粘土細工の様で、頑張れば手作りできそうな見た目ではあるが、触るとひんやりと冷たく、そして重厚である。   「どうしよっかなー、本当に変身していいかなー。・・・・・やっちゃおっか!」   彼には、その玩具にしか見えない物を「本物」だと確信していた。 なぜ、彼がそれを「本物」だと認識できたのかは、本人しか知らない。 「へ え え え え え え ん ん ん、し い い い い ん ん ん ! ! ! !」   彼は手を天に翳し、そしてぐるりと回す。月明りだけがその様子をジッと見ていた。 聞こえるのは風の音と彼の声だけである。 「ぶ い す り や あ あ あ あ あ あ あ あ あ ! ! ! !と お ぉ ぉ ぉ ぉ ぉ っ っ っ っ っ っ ! ! !」 ベルトからけたたましい音が聞こえ、そして彼の身体が光り輝いた。 そして、そこには仮面ライダーV3が立っていた。   「うっひょ~~~!!本当に変身できちゃったよ!!」   仮面ライダーV3。 それは日本の漫画家、石ノ森 章太郎原作の「仮面ライダーシリーズ」の第二作目である。 仮面ライダーV3は昭和48年に放映された作品である。前作の勢いを引き継ぎながらも変身ヒーローブームを牽引したと言われる作品である。 レオパルドはこのV3がライダーシリーズの中で一番のお気に入りだった。   「V3なぁ、最高だよな。昭和ライダーの中で一番最高だと思う。シナリオを熱い展開が多いしな」 繁みの中で仮面ライダーV3が体を動かし、跳ねている。その様子はヒーローに成りきっている2歳児の様だ。 レオパルドは独り言をぶつぶつ言いながら、繁みから飛び出した。   「……波の音に、潮の匂い。海が近いのかな?」   彼は、仮面ライダーV3という「非現実」的な存在に変身しながらも、この突拍子もない出来事を「現実」として受け入れてしまっていた。 仮面ライダーV3は勿論、仮面ライダーというものは、漫画、もしくは特撮作品であり、スクリーンの向こう側にしか存在しない。 彼は十分それを承知している。 「…………非現実っぽいけどでも、このベルトを触ると、『本物』って分かっちゃうんだよなぁ」   理屈ではない、何か。どうみても玩具にしか見えないそれを触った彼は、ベルトを『本物』だと認識し、そして変身して見せた。 仮面ライダーV3の熱狂的ファンだからベルトを本物だと感じたのか。 それとも、長年の俳優経験から、映画の小道具との違いを感じたのか。 それは、わからない。 とにかく、彼はベルトを本物だと認識し、そして変身して見せた。仮面ライダーV3に、変身して見せた!   「……で、やる事は勿論、『悪を滅ぼす』、だろうね。仮面ライダーならそうするし……」   レオパルド・ガーネットとしても、そうする事は変わらない。 東ジョーが殺された時の、あの血の匂いは、本物だった。 映画で使うような小道具の絵の具の匂いではない。噎せかえるような嫌な臭いだ。   『さっそくだがお前達には最後の一人になるまで殺し合いをしてもらう』   ナオ=ヒューマ、奴は顔色を変えずにそんな事を言った。言いのけた。 あれは、演技ではない。俳優の自分だから分かったことだ。 こんな事、許されてはいけない。 悪は、倒さなければならない。 正義は勝たなければいけない。 「……昔、こんな映画があった気がするなぁ。あの七原だったか、伊藤だったか、夜神だったか……名前忘れたけど、あの俳優が主演してたやつ。なんだったっけなぁ」   …………『バトルロワイアル』、だ。思いだした。 確か、あれは日本によく似た国で戦闘実験だったか、プログラム、だったか、中学生が政府によって殺し合いをさせられる作品ではなかっただろうか。 あまりの衝撃作で、日本国内で少し問題になった覚えがある。カルト的人気で漫画にもなっていた筈だ。 あれも、最後にはデスゲームから脱出する事ができた筈だ。 「……まぁあれはあんまり良い感じの終わり方じゃなかったな。まぁデスゲーム物の作品にはよくある感じか」   そんな事を言いながら、足を前に進めた。月明りが仮面ライダーV3を照らした。 彼は少しだけ肌寒さを感じた気がした。でもそれは気のせいだったのかもしれない。   悪は滅ぼさなけれならない。 正義は勝たなければならない。 それは、俳優の彼にとって、作品に求める美学だった。作品に求める美学は、いつしか彼の生き方にも影響するようになった。 「……大切な事は、映画から学んだ。様々な作品から学んだ。そして『仮面ライダー』からも学んだ。だからこそ俺は、ナオ=ヒューマの事を許せねえわ。  お前は悪人だ。罪のない女子供も巻き込みやがって。だからお前を絶対に倒さなきゃなんねぇ」   彼はたった今、本当の意味で仮面ライダーV3になった。夢にまでみた仮面ライダーV3になった。 悪を滅ぼす為に仮面ライダーV3になった。正義の味方、仮面ライダーV3になった。 このどうしようもない、最悪な現実で、仮面ライダーV3になった。   「例え、仮面ライダーV3に変身できなくても、俺は、レオパルド・ガーネットとして、この殺し合いに対して、抵抗し、打破してやんよ」   だって、それが俺の生き方だから。 彼はそう呟きながら、また一歩、足を進めていく。 ……彼は一つ勘違いしていた事がある。彼が変身したのはテレビで放映していた『仮面ライダーV3』ではない。 月間マガジンZで連載されていた漫画『仮面ライダーSPIRITS』に登場する『仮面ライダーV3』の方だ。 微々たる問題ではあるが、原作と漫画では差異があるのだ。彼はその差異に気付く事ができるのだろうか。 そして、仮面ライダーV3の力を得た唯の映画俳優が、この殺し合いの中で、本当に正義のヒーローになる事ができるのだろうか。     ☆ ☆ ☆   「お嬢ちゃん、こんばんわ。星空に満月。そしてそれを美しく移す海の水面。まるで君のようだね。これで血がついてなければシンデレラと同じぐらい美しいと思うんだけど」 「……………………………」 「なんで無視するの?完全無視は人としてよくないと思うよ。それで、そこで亡くなってるお爺さんは君が殺したの?そうだとしたらやばいなー」 「……静かにしてください」   レオパルドは、歩いていると草原にたどり着いた。この状況でなければコーヒーでも入れてこの眺めを楽しみたかったが、それは叶わない事だ。 老人の死体がそこにあったからだ。酷い有様だ。状況をよく見ようと近づいた時に、彼女が背後から現れたのだ。   「…………見たことあると思ったんだけどさ、『ごーね』の快夢ちゃんだよね?」 月明りに照らされた彼女を見て驚いた。人気アイドルグループの一人が血まみれでそこに立っているからだ。 目には花が咲いているように見える(眼帯だろうか?) そして彼女の手には同じように血がついた剣が握られていた。 「…………そういう貴方は、レオパルド・ガーネット」 「ワーオ!声で分かるなんて凄いじゃーん。噂通り、耳が良いみたいだね。努力の賜物ってステキ☆」 「………………………」 「ちょっとちょっと、また無視か。悲しい気持ちになるからやめてほしいんだけど」   快夢はショートソードを構えた。 さて、なぜレオパルド・ガーネットが仮面ライダーのコスプレをして私の目の前に現れたのだろうか。 あの時、ナオ=ヒューマの説明があった時に私の他に集められていたが、ハリウッドスターであるレオパルド・ガーネットがいた事に気づかなかったとは…… ……いや、しょうがないことだろう。私はあの時気が動転していた。 「……剣を構えたって事は、この馬鹿げた殺し合いに乗った、って事でいいのかなぁ?俺は、マジで強いからやめとけって」 「仮面ライダーのコスプレした映画俳優が、ただのアイドルより本当に強いのか、試してみますか?」 「ひゅー♪やってみようぜ!ぜってー俺の方が強いから!」   快夢は剣を構えた。V3は拳を構えた。 快夢はなんだか心が躍った気がした。 「(……なんか不思議な気分。体が軽い気がする)」 思えば、剣を構える前から体が軽い気がする。 ……もしかしてこれが私に授けられた『異能』なのだろうか? 自分の目から咲いた花が少しだけ熱くなった気がした。   「君の目に咲いてる花が、異能か何かかい?」 「もし、そうだったとしても、答えませんよ」   先に動いたのは、快夢だった。 地面を蹴り、宙に浮いた。 それをレオパルドは知覚するのにコンマ数秒かかった。もしV3に変身していなければ、快夢が飛び上がった事さえ気づかなかっただろう。 「(おいおいおいおい!!ただのアイドルじゃねえのかよ!異能ってのはおっかねぇ!)」 仮面の下でレオパルドは苦笑いをした。冷たい汗が頬を伝った。 しかしそれに驚いたのはレオパルドだけではなかった。   「(うそでしょ!?私は、今、目の前の敵に向かって走り出しただけなのに!!)」   まるで、自分の身体が自分の物ではない気がした。 …………いや。   「………あはは」   思わず、笑みがこぼれた。 違う。私の身体は、最初から私の物ではないじゃないか。 私の身体は、私の人生は、最初から私の物ではない。 「私の、人生は、誰かの物だったんだよ。だからこうやって体が軽くなるもの、不思議な事じゃない」   快夢は、そのまま空中で剣をレオパルドの頭に向かって振り下ろした。 それをレオパルドは間一髪で避けた。 地面に降り立った快夢は、もう一撃をレオパルドに向かって振り回す。 それを間一髪でレオパルドは避ける。V3に変身した為、身体能力が向上しているのだ。 普通の60代だったら、それを避ける事は叶わないだろう。 レオパルドは、しっかりと避ける事が出来ていた。しかし……   「本当に殺す気かよ!?勘弁してくれ!!!」   仮面ライダーV3に変身した事により、快夢の攻撃は楽々避ける事は出来ている。 だが彼は、攻撃をしなかった。それはなぜか?   「(やべぇ、本当に殺される!!予定としては『オレツエー!』ってなる筈だったのに!)」   彼は、怖かった。ただのアイドルが軽々と剣を振り回し、人間とは思えないようなスピードで、自分に襲い掛かるからだ。 変身もしていないのに、まるで仮面ライダーのように、彼女は強かった。 ……結論から言えば、この勝負に快夢は勝ち目はない。勝てる筈がなかった。 体格、体力は、レオパルドの方が上である。 異能によって強化された体だとしても、仮面ライダーV3には勝てないだろう。 それでも、彼は怖かった。血まみれの剣を振り回し、笑いながら殺そうとしてくるアイドルが、どうしようもなく怖かった。 彼女の攻撃は、一度もレオパルドに当たらない。仮面ライダーV3という強大な力の前では、絶対に当たらない。 彼女がウタウタイモードを発動しない限りは無理だろう。 一撃、また一撃と、彼女はレオパルドに剣を降ろす。それを全て避けるレオパルド。   「(むっ、むりだ!勝てない!に、にげなきゃっ!)」 彼は、絶対に勝てる戦いを「勝てない」と思い込んでしまっていた。 もしこの場にレオパルドではなく、仮面ライダーV3の主人公の風見志郎がいたのであれば、臆することなく彼女に立ち向かい、勝利をもぎ取ることだろう。   「あはは、なんで避けるの?死ねば、楽になるのに。私達を玩具にしか思ってない人から、私達を見世物にしている人から、解放されるのに!」 「お前は何を言っているんだ!?!?本当に殺す気か!?」   この人のさっきまでの威勢はどうしたのだろう。彼が逃げ惑う姿を見ていると、たまらなく面白くなった。 彼は素早く体を動かし、私の攻撃を華麗に避ける。私は一度も攻撃を当てる事ができなかった。 でも私はなぜか、彼に勝てるという確信があった。   「ひっ」 「死ねば、助かるよ。さっき殺した善養寺さんだって、全てから解放されたんだから」 「カ、カルト宗教にでも入信してるのかよ!?」 「あははは」   こいつは、狂ってる。レオパルドは寒気がした。 薬でもキメているのではないか?それともそういう異能か?頭がおかしくなる異能? それでこいつは、その異能のせいで妄言を垂れ流しながら、人間とは思えない速さで剣を振り回しているのか? 冗談じゃねぇ!俺は、仮面ライダーV3に変身できた。この力は、この異能は、俺を変えてくれたんだ! スクリーンの中でしかヒーローになれなかった。 でも、今は、憧れの仮面ライダーV3に変身できた。それなのに、それなのに、それなのに!   「アハハハ。早く死ねばいいのに」 俺の目の前にいる敵は、仮面ライダーに出てくるショッカー戦闘員よりも、デストロン首領よりも、アポロガイストよりも、凶悪で、極悪で、最悪だ。 逃げなければいけない。こいつには、勝てない。こいつには、絶対に勝てない。 「ひぃぃぃぃぃぃいぃ」   思わず、声がでた。自分の喉から出てきた声なのかさえ、自分にはわからなかった。 カッコ悪い。仮面ライダーV3に変身できたのに、俺は、カッコ悪い。 一つの悪さえ倒せない。 俺は、やはり、ただの映画俳優で、 「スクリーンの中でしか、ヒーローになれねぇのかよ…………」 鮮血が舞った。 ☆ ☆ ☆       「はっはっはっはっ」   走る。走る。走る。走る。頭から血を流しながら、彼は走った。無我夢中に、森の奥に体を隠すように、彼は走った。   「うっ…………おええええええ」   びちゃびちゃびちゃと音が鳴る。昨日食べた物が消化されていないのが、嫌でも確認することができた。 いったい俺はどこまで走ってきたんだろう。 酷く眠たい。腹が痛い。喉も胃酸でやられたようで不快だ。 右目は、見えない。あの狂った女にやられたからだ。   「はぁ、はぁ、はぁ、はぁ」   カッコ悪い。俺は、カッコ悪い。なんてカッコ悪いんだ 仮面ライダーV3の力を、必殺技を一度も使うことなく、俺は負けてしまった。 それどころか、知らない誰か、知らない何かに助けられた。 だからこそ俺は、あの女から逃げ切る事が出来たのだ。 あれは、自分がよく知るヒーローだった。 …………俺を助けたのは、仮面ライダーだった。   「…………夢は、やっぱり、夢だったみてぇだ。畜生、畜生、ちくしょう、ちく、しょう」   俺は地面にぶっ倒れた。なぁに、少し休むだけさ。少しだけ眠るだけ、少しだけ寝させてくれ。ここまで逃げれば、大丈夫さ。 俺、明日撮影なんだけど、目が見えなきゃ満足がいく作品がとれねぇなぁ。 また夢をあきらめて、現実を生きなければいけないのか。 悲しいな。   【1日目 2時30分 D-8の何処かの繁み】 【レオパルド・ガーネット@仮面ライダーV3への変身/仮面ライダーSPIRITS】 [状態]気絶、右目失明、背中から出血中、疲労(大) 変身解除中 PTSD [装備]変身ベルト [道具]基本支給品、不明支給品(0~2、確認済み) [思考・行動] 1:快夢から逃げる 2:快夢が怖い   ☆ ☆ ☆   快夢は苛々していた。邪魔が入った。せっかくもう一人殺せそうな所だったのに。 剣を一度レオパルドに振り下ろす事ができた。だが、彼は倒れなかった。彼の変身が解除されただけだった。 私は、もう一度そこに剣を振り下ろした。彼は叫びながら身体を捻った。 私は鮮血を浴びた。それでも彼は生きていた。 私はもう一度、振り下ろした。しかし、それは当たらなかった。 私の剣を掴んだ奴がいた。 なんという馬鹿力だろう。私は剣を動かす事ができなかった。   「あなた、いったい誰?」 「儂か!儂の名は、」 私はようやくそいつの正体に気が付いた。 またか、と心の底で思ってしまった。   「仮面ライダーだ!儂は貴様の様な童子(わっぱ)が殺し合いに乗るのが、どうしても納得できん!儂は、貴様をここで止める!」 「はぁ……」   もはや溜息しかでない。 奴は私の剣から手を放す。 「じゃあ、やってみてよ。私は、この物語を終わらせる為に、絶対に貴方を殺す」 「やってみせい!井上 快夢よ!儂は、強いぞ!」   ……有名税をこんな場所でも取られてしまうとは思わなかった。あんなに努力して成ったアイドルなのに、今はその存在が鬱陶しくて仕方がない。 もしかしたらこの会場にいる全員が私の名前を知っているのではないのだろうか? 「……あー、馬鹿らしい。私が積み上げた努力も全部作られたものだった事に対して苛々もするよ」 「貴様の努力は本物だった。儂はわかる!その努力を無駄にするんじゃない!ここで人を殺したら、もう戻れんぞ!」 「もう手遅れだよ。あはははっ」   私は、目の前にいる仮面ライダーに剣を向けた。 目の前の仮面ライダーも私に対して構えた。 闘いがまた始まる。   ☆ ☆ ☆ 「あっははははっ!」 「な、なんで笑うの!?」 「そんな恥ずかしい事、私は絶対に言えないよ」   亜希が言った事に対して、私はつい笑ってしまった。彼女は顔を真っ赤にしながら私に怒る。 彼女は、本当に恥ずかしかったようで、耳まで赤くしながら机に伏してしまった。   「でも、亜希らしいな。私は、絶対にそんな事思えないよ」 「それは褒めてんの!?それとも馬鹿にしてるの!?」 「両方」   亜希が顔を更に真っ赤にしながら怒っていると、店長さんがコーヒーのお代わりを持ってきてくれた。 二人はいつも楽しそうだねぇ、と言いながら私達を微笑ましそうに見ながら、またカウンターの裏で新聞を広げていた。   「で、快夢だったらどうするの?」 「『ハイスコアドール』が見たい」 「何でこの話の流れでなぜ映画の話題に戻したと思うの!?」 「冗談だよ……もしのこの世界が創作だとしたら、か。私だったら、怒っちゃうと思うな」 「えぇ、なんで怒るの?」 「だってさ、私が今まで積み上げてきた人生や努力が全部、作り話だったら嫌じゃない?私の人生がもし誰かの創作だったら、作者を一発殴って、自分の人生を取り返して、私の人生を、私だけの人生をもう一度歩ませて貰いたいな」 「…………あははははっ!」 「あー!笑ったな!」 「私とおんなじぐらい恥ずかしい事言ってるよ快夢!めっちゃウケるんだけど」 「もう!笑わないでよ!」 私たちが、笑い合っている様子をカウンターの奥から嬉しそうに店長さんが見ていた。 私もなんだか楽しい気分だった。こんな夢みたいな時間がずっと続けばいいな、って思った。 ☆ ☆ ☆   天草 時春は、絶望していた。憤っていた。悲しんでいた、心配していた。目の前の敵に対して『救いたい』と思っていた。自分の娘と同じぐらいの歳の子が、人を殺す事がとてつもなく悲しかった。 この殺し合いに対して様々な感情を向けていた。 絶対に止めなければいけない。 あの場には自分の子ども達もいた筈だ。守らなければならない。 最愛の人と一緒に残した最後の形見だ。絶対に失ってはならない。失いたくない。   儂は、絶対に負けぬ。   彼の信念は、決して折れる物ではない。 レオパルドの様に、漠然とした考えでヒーローになりたいわけではない。 彼は、愛するべき人の為にヒーローになった。   【1日目 2時30分 A-7 海辺の草原】 【井上 快夢@ゼロ(ウタウタイ)/DRAG-ON-DRAGOON3】 [状態]発狂 右目に災厄の花 返り血 第四の壁を破壊できているように『演じている』 [装備]ショートソード [道具]支給品一式、不明支給品(0~2) [思考・行動] 基本方針:全部殺して、終わらせる。 1:郷音ツボミは殺す 2:レオパルドは殺す 3:目の前の仮面ライダーは殺す ※ブラッドゲージの蓄積度は45%です。100%になるとウタウタイモードを発動可能です。  他者を攻撃or自らが傷つくと蓄積していきます。   【天草 時春@仮面ライダーダークキバへの変身/仮面ライダーキバ】 [状態]健康 ダークキバに変身中 [装備]変身ベルト&フエッスル [道具]支給品一式、不明支給品(0~2) [思考・行動] 基本方針:殺し合いの打破 1:井上 快夢の打破 2:先程逃げた男を保護 3:子どもたちを保護 |[[女三人寄れば姦しい]]|時系列順|| |[[女三人寄れば姦しい]]|投下順|| |&color(blue){GAME START}|レオパルド・ガーネット|| |[[命短し、走れよ乙女よ。]]|井上 快夢|| |&color(blue){GAME START}|天草 時春||
7:19 天気 ××市 晴れ 湿度 △△% テロップ『貴方は、漫画「ハイスコアドール」を知っていますか?』 テロップ『漫画家、赤木水槽さん原作で週刊少年ガソガソで連載され、日本の若者のみならず、世界で大旋風を巻き起こしました!』 テロップ『そして、ハリウッドで実写化されたこの作品が、日本で世界一速く公開されます!』 テロップ『主演は。コムロテ・ツヤさん、レオパルド・ガーネットさん、アノルドー・ワルシュツガネーさんなど豪華俳優陣に加え』 テロップ『ボクシング世界チャンピオンのロック・パンサーと、同じく日本が誇るボクサー、アルマゲドンナオキさんがゲスト出演です!』 テロップ『実は、レオパルド・ガーネットさん、日本のある番組に憧れて俳優になったそうですが、それは本当なのでしょうか?』 テロップ『という訳で、私たち、『耳覚ましテレビ』クルーは、レッドカーペットを歩くレオパルド・ガーネットさんに突撃インタビューをしました!』 インタビュアー『レオパルドさん!どうもこんばんわ『耳覚ましテレビ』です!』 (ここでインタビュアーがマイクをレオパルドに向ける) レオパルド『おっ?マジで?日本に来た時は必ず見てるよ!マスコットも可愛いよね』 テロップ『噂通り、流暢すぎる日本語を披露!』 インタビュアー『レオパルドさん、噂によると、日本の特撮作品に憧れて俳優になったと聞いていますが、それは本当なのでしょうか?』 レオパルド『僕はね、仮面ライダーに憧れて、映画俳優になったと言っても過言じゃないよ。初めて観た時の衝撃は、今でも忘れられないね。……そうだな、あの時の衝撃を一言で表すなら、『ヤバい』、だね       仮面ライダーは、アメリカのMAVEL COMICよりも、クールだと思ってるよ。』 (ここで、映像を早回し) テロップ『レオパルド・ガーネットさん、その後もカメラの前で30分も特撮作品について語ってくれました、がなくなくカットさせていただきました(笑)』 インタビュアー『最後に、耳覚ましティーヴィーのポーズを取ってもらっていいですか?』 レオパルド『おお、いいよ!耳覚ましティーヴィー!』 (レオパルド、カメラに向かって指を指してポージング) (映像をスタジオに切り替え) 男性キャスター『いやぁ、日本の作品に憧れたっていう噂は本当だったんですね~』 女性キャスター『いつか、日本で特撮映画を撮りたいそうですよ!』 男性キャスター『はい、では次のニュースです。あの人気アイドルがグループを脱退です』 (ここでテロップを表示) (映像の切り替え) ☆ ☆ ☆   「おい、レオパルド、あの猿共のカメラの前で何を語ってたんだ?」 「俺の熱い思いだよ」 「はっ、ナード根性が染みついてるなぁ。どうせまた日本のトクサツについてだろ!?」 「ロック君、君みたいに人を殴るだけが職業のやつにはわからねぇだろうねぇ」 「俺に喧嘩売ってるのか?」 「こんな挑発に乗るなんて、つまらない男だな。いつか捕まるんじゃねぇのか?安い挑発に乗って、逆上して人を殺したりしてな」 「…………けっ」 「………………でもまぁ、君みたいな人生も、よかったのかもなぁ」 「…………どういう意味だ?」 「リングの上で、倒れてはいけないスリルとの隣り合わせ、後ろにはファンがいて、闘う自分に対して声を上げて応援する。君は、アメリカにとってのヒーローだろ?」 「映画俳優も同じような気がするんだが」 「スクリーンの中だけだ。俺はね、戦いの中に身を置いてみたいんだよ」 「おいおい、なんだよレオパルド、セレブの仲間入りを果たして、買えない物はないぐらい金を持ってるだろ?それなのに満たされないってか?」 「そうだよ。ロックくん。俺はね、映画俳優だ。最初から最後まで。理想と現実ってのは違う」 「………………」 「俳優になった時、俺の夢は、叶ったと思ったんだ。だけど、違った」 「………………」 「スクリーンの中では、ヒーローになれた。でもそれは映画の中だけだ。俺は映画の中では超能力を身に着けたり、天才科学者になったり、なんでもできた」 「…………確かに、お前は小さい時の俺の憧れだった。ガキの頃に見た子ども向けのアクション映画は、まだ覚えてるぜ」 「ありがとう。君みたいに、私に憧れる人は沢山いたさ。でも、俺は…………」 「…………本物のヒーローになりたかった、か」 「身体を動かし、クンフーや、超能力を使い、改造人間に変身し、悪を倒したかった」 「……夢物語もほどほどにしとけよ。62歳のクソジジイがいきなりスーパーヒーローになるなんて、ぜってえ無理だから」 「わかるさ。痛いほどわかる。理想と現実の違いってのは嫌になるほど見てきたさ。今回の映画も、嫌になるほど突き付けられた。俺は、スクリーンの中でしかヒーローになれないんだよ」 ☆ ☆ ☆ 駅前の喫煙所にはお兄さんやおじさん、化粧が濃い目のお姉さんがいて、ニコチン混じりの溜息を吐いている。 窓の外から見える風景は、何処にでもあるような風景だ。 サングラスを外して見る程の光景でもないし、日差しが眩しくて外す気にもなれない。 まるでマンガのような晴天だった。 ここは駅近くのカフェ。 亜希と一緒に見つけて以来、2人で入り浸る事が多かった。ケーキもラテも美味しいし、可愛いものが多い。 窓から見えるのは喫煙所のみで、眺めは少し良くないが、店長さんの計らいで、私たちはいつも一番奥の目立たない席に座らせて貰っている。 店長さんは優しそうなおじいさんだった。私たちがアイドルと読者モデルと知ると奥の席に案内してくれるようになった。 今日もおじいさんは『可愛い孫娘がいる気分だよ』と言いながら奥に案内してくれた。 私たちはおじいさんの笑顔に釣られて笑ってしまった。なんだかこっちも嬉しくなった気がした。 亜希がクレープを食べながらいつもの調子で喋り始めた。 「ねぇ、そういえばさ、今度映画見に行く約束したじゃん?アタシ、アレを見たいんだよね」 「あぁ、前に亜希が言ってたやつ?『ハイスコアドール』だっけ?」 「ううん、そっちじゃなくて『デッドプール』っていうやつ!……『ハイスコアドール』も面白いんだけど、あのボクサーの演技が微妙なんだよね」 「あぁ、やっぱり俳優じゃない人は映画出ちゃだめだね……。それで、『デッドプール』って確かアメコミのやつだっけ? 私そういうの詳しくないんだよなぁ」 「ただのヒーローものじゃないんだよ!」 「例えば何処らへんが?」 「なんと18禁」 「はい??」 「ヤバくない?」 「・・・・・・もしかしてHなやつ?」 亜希はクレープを吹き出した。汚い。汚いけど、許せた。 亜希はこういう話題には弱い。エッチ、という単語でさえこの調子だ。 見た目はギャルで遊んでそうに見えるが、人は見た目で判断しちゃいけないんだなぁ、なんて事を再認識した。 この様子を見ると更にからかいたくなるが、自分もこの話題には疎いのでやめておく。 「ち、ちがうよ!」 「亜希はウブだなぁ。エッチって言っただけなのに・・・ふふふ」 「アンタだってウブな癖に!」 私はアイスラテを飲みながら笑ってしまう。最近はアイドル活動が忙して、亜希となかなか会えなかった。 彼女の顔を見るだけで元気が出てくる。 「デッドプールはね、下品なの」 「下品? えーと、ウンチを投げたり・・・」 「そんなヒーローいてたまるか!あと、アイドルがそんな事言っちゃいけない!」 「冗談だよ。私はアイドルだからトイレにも行かないの知ってるでしょ?」 「それアイドルが言っちゃいけないセリフ!」 いつものやりとり。私がふざけて、亜希がツッコミをいれる。 亜希の前だからこそ、私は全てを曝け出す事が出来ていた。 私たち2人なら、きっと漫才師にもなれるだろう。私たちはそんな気がするぐらい2人で笑って過ごす時間が多かった。 「でも、すごいね。ヒーローなのに、下品って」 「今までもそういうヒーローは沢山いたんだよ。アンチヒーロー? っていうのかな?」 「ほら、アンパンマンに出てくるロールパンナちゃんも、敵になったり味方になったりするでしょ?」 「アンチヒーロー?」 私はは聞きなれない単語に少し興味を惹かれた。 持っていたカフェラテをテーブルに置いて、体を亜希の方に向けた。 「悪を倒す為に、目的を選ばなかったり、限りなく悪の方にいるんだけど、結果的に正しい事をしたりするヒーローのこと!ロールパンナちゃんはちょっと違うかもしれないけど・・・」 「あ!凄い前に亜希の家で見た『パニッシャー』って奴?」 「そう、それ!パニッシャーも自分の家族を奪われて、復讐のために色々悪い事してたよね」 亜希は、映画の話になると止まらない。 しかし彼女の話は分かりやすいので 右から左へ流れることはなかった。 「でも、デッドプールは今までのアンチヒーローとは違うんだよ!昨日調べたんだけど、本当に凄いの!」 「ただのヒーローじゃない、アンチヒーローなのに、今までのアンチヒーローとは違う?」 「第四の壁、って知ってる?」 「第四の壁?」 「快夢は、演劇とか見る?」 「ステージ側に立った事なら何回かあるけど」 ヒーロー物の話をしていた筈なのに、急に演劇の話になった事に対して私は疑問を抱いた。 亜希は私がステージ側に立つ人間だったという再認識すると少し変な顔をしたが、すぐに話を続けた。 「演劇中に快夢はお客さんに話しかけたりした?」 「そんなことしたら監督に凄く怒られそう」 「だよね!普通はそんな事を絶対しちゃいけない。ステージと客席には透明な壁があるんだよ」 アイドル研究生時代に、勉強として何回か演劇をしたが『透明な壁』を意識した事は一度もなかった。 「その壁を第四の壁、って言うんだけど。この壁があるからこそ、演者は客席を認識できない。でも、デッドプールは第四の壁を破壊できるんだよ!」 「……つまり、どういうこと?」 第四の壁、の破壊? どういうことか、意味がわからなくなってきた。私が理解できていない事を察した亜希は口を紡いだ。 「例えばさ、アニメが始まる前に主人公が『テレビを見る時は、部屋を明るくして離れて見てね』って言うじゃん。アニメのキャラが演者、私たち視聴者は、お客さんだとすると・・・」 「・・・・・・あぁ!そういうことか!」 演者側から客席側への干渉。それは演劇では絶対にあってはいけない事。 アニメのキャラが私たちに注意喚起する事は、本来なら絶対にあってはならない事だった訳か。今までそれが当たり前の風景だったから、少しだけ衝撃を受けた。 「デッドプールはね、私たちが見えるの。原作は見た事ないけど、漫画だと読者にバンバン話しかけてくるんだって!もう本当に映画が楽しみ!」 「私も少し興味出てきたなぁそれ。一緒に見に行こうよ」 「でもね、快夢。一つ問題点があるの。・・・・・・18禁だから、私達見れない」 しっかりとオチが付いた所で、亜希はクレープを食べ終えた。亜希の話は、長い。マシンガントークだ。 でも彼女の話は興味を惹かれた。 第四の壁、か。 「今日は天気がいいなー!雲ひとつない青空!そして飛行機!飛行機雲!こんにゃろー!せっかくの雲ひとつない青空が!」 「たった今、雲ができちゃったね・・・ねぇ、亜希」 「ん?なーに?」 「もし、私たちの世界が、そのデッドプールの映画みたいに、演劇のステージ側の様に、誰かに見られてる創作物だったらどうする?」 私は、こういう例えばの話が好きだった。 アメリカに移住したら、イケメンの彼氏が出来たら、宇宙人がやってきたら、戦争になってミサイルが飛んできたら・・・・・・ 同じメンバーのツボミちゃんとユーリちゃんにもよくこういった話をするが、亜希の答えが一番面白い事が多い。 私は今日もなんとなく、そんな話を彼女に聞いた。 「この世界が映画みたいに創作物だったら、ってこと?」 「うん。私達の事を大勢のお客さんが見てると仮定すると、だよ」 「うーん・・・このスーパーモデルの亜希ちゃんにそんな難しい質問をしないでよーーー!」 いつもの調子の亜希は、ニコニコしながら答えた。 そして突然、真面目な顔になった・・・・・・気がした。 「・・・・・・もし、私の人生が、誰かの創作だったら、私はね……」 亜希は背伸びをしながら自慢気に答えた。 ##################読み込みエラーが発生しました########################### ☆ ☆ ☆ 私の人生は、私の人生ではなく、誰かの創作物だった。 ハリウッドの超大作でもなく、週刊少年ジャンプで連載している人気漫画でもなく、芥川賞作家が書いた小説でもなく、青春活劇テレビドラマでもなかった。 漫画、アニメの二次創作だった。 「・・・・・・」 疲れて眠っていたらしい。何だか懐かしい夢を見た。 まだアイドルとして駆け出しの時で、メンバー三人がお互いを良く知らなくて、あの女の悪事も知らなかった頃の事だ。 「・・・・・・あの時の亜希は、なんて言っていたんだろう」 思い出せなかった。覚えていない、という訳ではなく、記憶を奪われた様な感覚だった。 『版権異能授与バトロワ。この物語の題名さ』 ずっと、ずっと頭の中であの言葉がぐるぐると回っている。 あの時の亜希のセリフも、創作物だと考えるとしたらどうでもいいか。 「みんな殺そう。早く殺そう。この物語を終わりにしよう」 体についていた血は、乾いてた。なんだか体が軽い気がする。 体は軽いが、嫌な気分だった。私がこうやって呟いた言葉も、『奴等』は楽しんで見ている事を考えると胸が締め付けられそうになった。 目指すはバッドエンディング。全員殺そう。 私の人生なんて意味なかったのだから、 全員、殺そう。 ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ 時は少し遡る。そこには欝蒼とした繁みがあった。成人男性の背丈程の草花達は人ひとりを隠すのにうってつけだろう。   「うっそでしょ。マジで?俺V3になれるの?めちゃくちゃ夢叶ったじゃん。あぁ、あと40歳ぐらい若かったらかっこよく変身できるのに。俺もう62だぜ?  62才でライダーに変身していいの?60代以上でライダーになっていいのは、藤岡さんだけなのに、俺本当に変身していいの?」   ハリウッド在住のハリウッドスター、レオパルド・ガーネットは長すぎる独り言と一緒にため息をついた。 純アメリカ人による流暢すぎる日本語はどこかおかしかった。まるで日本の男子学生、女子学生が話す日本語の様に崩れていた。 現在進行形で日本文化(特に特撮)に触れているからだろう。彼の日本語の流暢さは、日本人はもう誰も驚かないぐらい有名になってしまっていた。 彼は、興奮していた。まるで新しい玩具を手に入れた子どものように、声を挙げながら喜んでいた。 彼の腰に巻いてあったのは、特撮番組、仮面ライダーV3のベルトだった。 玩具にしか見えないそれは、本物だった。デザインは昭和チックで、色は少しくすんでいる。 粘土細工の様で、頑張れば手作りできそうな見た目ではあるが、触るとひんやりと冷たく、そして重厚である。   「どうしよっかなー、本当に変身していいかなー。・・・・・やっちゃおっか!」   彼には、その玩具にしか見えない物を「本物」だと確信していた。 なぜ、彼がそれを「本物」だと認識できたのかは、本人しか知らない。 「へ え え え え え え ん ん ん、し い い い い ん ん ん ! ! ! !」   彼は手を天に翳し、そしてぐるりと回す。月明りだけがその様子をジッと見ていた。 聞こえるのは風の音と彼の声だけである。 「ぶ い す り や あ あ あ あ あ あ あ あ あ ! ! ! !と お ぉ ぉ ぉ ぉ ぉ っ っ っ っ っ っ ! ! !」 ベルトからけたたましい音が聞こえ、そして彼の身体が光り輝いた。 そして、そこには仮面ライダーV3が立っていた。   「うっひょ~~~!!本当に変身できちゃったよ!!」   仮面ライダーV3。 それは日本の漫画家、石ノ森 章太郎原作の「仮面ライダーシリーズ」の第二作目である。 仮面ライダーV3は昭和48年に放映された作品である。前作の勢いを引き継ぎながらも変身ヒーローブームを牽引したと言われる作品である。 レオパルドはこのV3がライダーシリーズの中で一番のお気に入りだった。   「V3なぁ、最高だよな。昭和ライダーの中で一番最高だと思う。シナリオを熱い展開が多いしな」 繁みの中で仮面ライダーV3が体を動かし、跳ねている。その様子はヒーローに成りきっている2歳児の様だ。 レオパルドは独り言をぶつぶつ言いながら、繁みから飛び出した。   「……波の音に、潮の匂い。海が近いのかな?」   彼は、仮面ライダーV3という「非現実」的な存在に変身しながらも、この突拍子もない出来事を「現実」として受け入れてしまっていた。 仮面ライダーV3は勿論、仮面ライダーというものは、漫画、もしくは特撮作品であり、スクリーンの向こう側にしか存在しない。 彼は十分それを承知している。 「…………非現実っぽいけどでも、このベルトを触ると、『本物』って分かっちゃうんだよなぁ」   理屈ではない、何か。どうみても玩具にしか見えないそれを触った彼は、ベルトを『本物』だと認識し、そして変身して見せた。 仮面ライダーV3の熱狂的ファンだからベルトを本物だと感じたのか。 それとも、長年の俳優経験から、映画の小道具との違いを感じたのか。 それは、わからない。 とにかく、彼はベルトを本物だと認識し、そして変身して見せた。仮面ライダーV3に、変身して見せた!   「……で、やる事は勿論、『悪を滅ぼす』、だろうね。仮面ライダーならそうするし……」   レオパルド・ガーネットとしても、そうする事は変わらない。 東ジョーが殺された時の、あの血の匂いは、本物だった。 映画で使うような小道具の絵の具の匂いではない。噎せかえるような嫌な臭いだ。   『さっそくだがお前達には最後の一人になるまで殺し合いをしてもらう』   ナオ=ヒューマ、奴は顔色を変えずにそんな事を言った。言いのけた。 あれは、演技ではない。俳優の自分だから分かったことだ。 こんな事、許されてはいけない。 悪は、倒さなければならない。 正義は勝たなければいけない。 「……昔、こんな映画があった気がするなぁ。あの七原だったか、伊藤だったか、夜神だったか……名前忘れたけど、あの俳優が主演してたやつ。なんだったっけなぁ」   …………『バトルロワイアル』、だ。思いだした。 確か、あれは日本によく似た国で戦闘実験だったか、プログラム、だったか、中学生が政府によって殺し合いをさせられる作品ではなかっただろうか。 あまりの衝撃作で、日本国内で少し問題になった覚えがある。カルト的人気で漫画にもなっていた筈だ。 あれも、最後にはデスゲームから脱出する事ができた筈だ。 「……まぁあれはあんまり良い感じの終わり方じゃなかったな。まぁデスゲーム物の作品にはよくある感じか」   そんな事を言いながら、足を前に進めた。月明りが仮面ライダーV3を照らした。 彼は少しだけ肌寒さを感じた気がした。でもそれは気のせいだったのかもしれない。   悪は滅ぼさなけれならない。 正義は勝たなければならない。 それは、俳優の彼にとって、作品に求める美学だった。作品に求める美学は、いつしか彼の生き方にも影響するようになった。 「……大切な事は、映画から学んだ。様々な作品から学んだ。そして『仮面ライダー』からも学んだ。だからこそ俺は、ナオ=ヒューマの事を許せねえわ。  お前は悪人だ。罪のない女子供も巻き込みやがって。だからお前を絶対に倒さなきゃなんねぇ」   彼はたった今、本当の意味で仮面ライダーV3になった。夢にまでみた仮面ライダーV3になった。 悪を滅ぼす為に仮面ライダーV3になった。正義の味方、仮面ライダーV3になった。 このどうしようもない、最悪な現実で、仮面ライダーV3になった。   「例え、仮面ライダーV3に変身できなくても、俺は、レオパルド・ガーネットとして、この殺し合いに対して、抵抗し、打破してやんよ」   だって、それが俺の生き方だから。 彼はそう呟きながら、また一歩、足を進めていく。 ……彼は一つ勘違いしていた事がある。彼が変身したのはテレビで放映していた『仮面ライダーV3』ではない。 月間マガジンZで連載されていた漫画『仮面ライダーSPIRITS』に登場する『仮面ライダーV3』の方だ。 微々たる問題ではあるが、原作と漫画では差異があるのだ。彼はその差異に気付く事ができるのだろうか。 そして、仮面ライダーV3の力を得た唯の映画俳優が、この殺し合いの中で、本当に正義のヒーローになる事ができるのだろうか。     ☆ ☆ ☆   「お嬢ちゃん、こんばんわ。星空に満月。そしてそれを美しく移す海の水面。まるで君のようだね。これで血がついてなければシンデレラと同じぐらい美しいと思うんだけど」 「……………………………」 「なんで無視するの?完全無視は人としてよくないと思うよ。それで、そこで亡くなってるお爺さんは君が殺したの?そうだとしたらやばいなー」 「……静かにしてください」   レオパルドは、歩いていると草原にたどり着いた。この状況でなければコーヒーでも入れてこの眺めを楽しみたかったが、それは叶わない事だ。 老人の死体がそこにあったからだ。酷い有様だ。状況をよく見ようと近づいた時に、彼女が背後から現れたのだ。   「…………見たことあると思ったんだけどさ、『ごーね』の快夢ちゃんだよね?」 月明りに照らされた彼女を見て驚いた。人気アイドルグループの一人が血まみれでそこに立っているからだ。 目には花が咲いているように見える(眼帯だろうか?) そして彼女の手には同じように血がついた剣が握られていた。 「…………そういう貴方は、レオパルド・ガーネット」 「ワーオ!声で分かるなんて凄いじゃーん。噂通り、耳が良いみたいだね。努力の賜物ってステキ☆」 「………………………」 「ちょっとちょっと、また無視か。悲しい気持ちになるからやめてほしいんだけど」   快夢はショートソードを構えた。 さて、なぜレオパルド・ガーネットが仮面ライダーのコスプレをして私の目の前に現れたのだろうか。 あの時、ナオ=ヒューマの説明があった時に私の他に集められていたが、ハリウッドスターであるレオパルド・ガーネットがいた事に気づかなかったとは…… ……いや、しょうがないことだろう。私はあの時気が動転していた。 「……剣を構えたって事は、この馬鹿げた殺し合いに乗った、って事でいいのかなぁ?俺は、マジで強いからやめとけって」 「仮面ライダーのコスプレした映画俳優が、ただのアイドルより本当に強いのか、試してみますか?」 「ひゅー♪やってみようぜ!ぜってー俺の方が強いから!」   快夢は剣を構えた。V3は拳を構えた。 快夢はなんだか心が躍った気がした。 「(……なんか不思議な気分。体が軽い気がする)」 思えば、剣を構える前から体が軽い気がする。 ……もしかしてこれが私に授けられた『異能』なのだろうか? 自分の目から咲いた花が少しだけ熱くなった気がした。   「君の目に咲いてる花が、異能か何かかい?」 「もし、そうだったとしても、答えませんよ」   先に動いたのは、快夢だった。 地面を蹴り、宙に浮いた。 それをレオパルドは知覚するのにコンマ数秒かかった。もしV3に変身していなければ、快夢が飛び上がった事さえ気づかなかっただろう。 「(おいおいおいおい!!ただのアイドルじゃねえのかよ!異能ってのはおっかねぇ!)」 仮面の下でレオパルドは苦笑いをした。冷たい汗が頬を伝った。 しかしそれに驚いたのはレオパルドだけではなかった。   「(うそでしょ!?私は、今、目の前の敵に向かって走り出しただけなのに!!)」   まるで、自分の身体が自分の物ではない気がした。 …………いや。   「………あはは」   思わず、笑みがこぼれた。 違う。私の身体は、最初から私の物ではないじゃないか。 私の身体は、私の人生は、最初から私の物ではない。 「私の、人生は、誰かの物だったんだよ。だからこうやって体が軽くなるもの、不思議な事じゃない」   快夢は、そのまま空中で剣をレオパルドの頭に向かって振り下ろした。 それをレオパルドは間一髪で避けた。 地面に降り立った快夢は、もう一撃をレオパルドに向かって振り回す。 それを間一髪でレオパルドは避ける。V3に変身した為、身体能力が向上しているのだ。 普通の60代だったら、それを避ける事は叶わないだろう。 レオパルドは、しっかりと避ける事が出来ていた。しかし……   「本当に殺す気かよ!?勘弁してくれ!!!」   仮面ライダーV3に変身した事により、快夢の攻撃は楽々避ける事は出来ている。 だが彼は、攻撃をしなかった。それはなぜか?   「(やべぇ、本当に殺される!!予定としては『オレツエー!』ってなる筈だったのに!)」   彼は、怖かった。ただのアイドルが軽々と剣を振り回し、人間とは思えないようなスピードで、自分に襲い掛かるからだ。 変身もしていないのに、まるで仮面ライダーのように、彼女は強かった。 ……結論から言えば、この勝負に快夢は勝ち目はない。勝てる筈がなかった。 体格、体力は、レオパルドの方が上である。 異能によって強化された体だとしても、仮面ライダーV3には勝てないだろう。 それでも、彼は怖かった。血まみれの剣を振り回し、笑いながら殺そうとしてくるアイドルが、どうしようもなく怖かった。 彼女の攻撃は、一度もレオパルドに当たらない。仮面ライダーV3という強大な力の前では、絶対に当たらない。 彼女がウタウタイモードを発動しない限りは無理だろう。 一撃、また一撃と、彼女はレオパルドに剣を降ろす。それを全て避けるレオパルド。   「(むっ、むりだ!勝てない!に、にげなきゃっ!)」 彼は、絶対に勝てる戦いを「勝てない」と思い込んでしまっていた。 もしこの場にレオパルドではなく、仮面ライダーV3の主人公の風見志郎がいたのであれば、臆することなく彼女に立ち向かい、勝利をもぎ取ることだろう。   「あはは、なんで避けるの?死ねば、楽になるのに。私達を玩具にしか思ってない人から、私達を見世物にしている人から、解放されるのに!」 「お前は何を言っているんだ!?!?本当に殺す気か!?」   この人のさっきまでの威勢はどうしたのだろう。彼が逃げ惑う姿を見ていると、たまらなく面白くなった。 彼は素早く体を動かし、私の攻撃を華麗に避ける。私は一度も攻撃を当てる事ができなかった。 でも私はなぜか、彼に勝てるという確信があった。   「ひっ」 「死ねば、助かるよ。さっき殺した善養寺さんだって、全てから解放されたんだから」 「カ、カルト宗教にでも入信してるのかよ!?」 「あははは」   こいつは、狂ってる。レオパルドは寒気がした。 薬でもキメているのではないか?それともそういう異能か?頭がおかしくなる異能? それでこいつは、その異能のせいで妄言を垂れ流しながら、人間とは思えない速さで剣を振り回しているのか? 冗談じゃねぇ!俺は、仮面ライダーV3に変身できた。この力は、この異能は、俺を変えてくれたんだ! スクリーンの中でしかヒーローになれなかった。 でも、今は、憧れの仮面ライダーV3に変身できた。それなのに、それなのに、それなのに!   「アハハハ。早く死ねばいいのに」 俺の目の前にいる敵は、仮面ライダーに出てくるショッカー戦闘員よりも、デストロン首領よりも、アポロガイストよりも、凶悪で、極悪で、最悪だ。 逃げなければいけない。こいつには、勝てない。こいつには、絶対に勝てない。 「ひぃぃぃぃぃぃいぃ」   思わず、声がでた。自分の喉から出てきた声なのかさえ、自分にはわからなかった。 カッコ悪い。仮面ライダーV3に変身できたのに、俺は、カッコ悪い。 一つの悪さえ倒せない。 俺は、やはり、ただの映画俳優で、 「スクリーンの中でしか、ヒーローになれねぇのかよ…………」 鮮血が舞った。 ☆ ☆ ☆       「はっはっはっはっ」   走る。走る。走る。走る。頭から血を流しながら、彼は走った。無我夢中に、森の奥に体を隠すように、彼は走った。   「うっ…………おええええええ」   びちゃびちゃびちゃと音が鳴る。昨日食べた物が消化されていないのが、嫌でも確認することができた。 いったい俺はどこまで走ってきたんだろう。 酷く眠たい。腹が痛い。喉も胃酸でやられたようで不快だ。 右目は、見えない。あの狂った女にやられたからだ。   「はぁ、はぁ、はぁ、はぁ」   カッコ悪い。俺は、カッコ悪い。なんてカッコ悪いんだ 仮面ライダーV3の力を、必殺技を一度も使うことなく、俺は負けてしまった。 それどころか、知らない誰か、知らない何かに助けられた。 だからこそ俺は、あの女から逃げ切る事が出来たのだ。 あれは、自分がよく知るヒーローだった。 …………俺を助けたのは、仮面ライダーだった。   「…………夢は、やっぱり、夢だったみてぇだ。畜生、畜生、ちくしょう、ちく、しょう」   俺は地面にぶっ倒れた。なぁに、少し休むだけさ。少しだけ眠るだけ、少しだけ寝させてくれ。ここまで逃げれば、大丈夫さ。 俺、明日撮影なんだけど、目が見えなきゃ満足がいく作品がとれねぇなぁ。 また夢をあきらめて、現実を生きなければいけないのか。 悲しいな。   【1日目 2時30分 D-8の何処かの繁み】 【レオパルド・ガーネット@仮面ライダーV3への変身/仮面ライダーSPIRITS】 [状態]気絶、右目失明、背中から出血中、疲労(大) 変身解除中 PTSD [装備]変身ベルト [道具]基本支給品、不明支給品(0~2、確認済み) [思考・行動] 1:快夢から逃げる 2:快夢が怖い   ☆ ☆ ☆   快夢は苛々していた。邪魔が入った。せっかくもう一人殺せそうな所だったのに。 剣を一度レオパルドに振り下ろす事ができた。だが、彼は倒れなかった。彼の変身が解除されただけだった。 私は、もう一度そこに剣を振り下ろした。彼は叫びながら身体を捻った。 私は鮮血を浴びた。それでも彼は生きていた。 私はもう一度、振り下ろした。しかし、それは当たらなかった。 私の剣を掴んだ奴がいた。 なんという馬鹿力だろう。私は剣を動かす事ができなかった。   「あなた、いったい誰?」 「儂か!儂の名は、」 私はようやくそいつの正体に気が付いた。 またか、と心の底で思ってしまった。   「仮面ライダーだ!儂は貴様の様な童子(わっぱ)が殺し合いに乗るのが、どうしても納得できん!儂は、貴様をここで止める!」 「はぁ……」   もはや溜息しかでない。 奴は私の剣から手を放す。 「じゃあ、やってみてよ。私は、この物語を終わらせる為に、絶対に貴方を殺す」 「やってみせい!井上 快夢よ!儂は、強いぞ!」   ……有名税をこんな場所でも取られてしまうとは思わなかった。あんなに努力して成ったアイドルなのに、今はその存在が鬱陶しくて仕方がない。 もしかしたらこの会場にいる全員が私の名前を知っているのではないのだろうか? 「……あー、馬鹿らしい。私が積み上げた努力も全部作られたものだった事に対して苛々もするよ」 「貴様の努力は本物だった。儂はわかる!その努力を無駄にするんじゃない!ここで人を殺したら、もう戻れんぞ!」 「もう手遅れだよ。あはははっ」   私は、目の前にいる仮面ライダーに剣を向けた。 目の前の仮面ライダーも私に対して構えた。 闘いがまた始まる。   ☆ ☆ ☆ 「あっははははっ!」 「な、なんで笑うの!?」 「そんな恥ずかしい事、私は絶対に言えないよ」   亜希が言った事に対して、私はつい笑ってしまった。彼女は顔を真っ赤にしながら私に怒る。 彼女は、本当に恥ずかしかったようで、耳まで赤くしながら机に伏してしまった。   「でも、亜希らしいな。私は、絶対にそんな事思えないよ」 「それは褒めてんの!?それとも馬鹿にしてるの!?」 「両方」   亜希が顔を更に真っ赤にしながら怒っていると、店長さんがコーヒーのお代わりを持ってきてくれた。 二人はいつも楽しそうだねぇ、と言いながら私達を微笑ましそうに見ながら、またカウンターの裏で新聞を広げていた。   「で、快夢だったらどうするの?」 「『ハイスコアドール』が見たい」 「何でこの話の流れでなぜ映画の話題に戻したと思うの!?」 「冗談だよ……もしのこの世界が創作だとしたら、か。私だったら、怒っちゃうと思うな」 「えぇ、なんで怒るの?」 「だってさ、私が今まで積み上げてきた人生や努力が全部、作り話だったら嫌じゃない?私の人生がもし誰かの創作だったら、作者を一発殴って、自分の人生を取り返して、私の人生を、私だけの人生をもう一度歩ませて貰いたいな」 「…………あははははっ!」 「あー!笑ったな!」 「私とおんなじぐらい恥ずかしい事言ってるよ快夢!めっちゃウケるんだけど」 「もう!笑わないでよ!」 私たちが、笑い合っている様子をカウンターの奥から嬉しそうに店長さんが見ていた。 私もなんだか楽しい気分だった。こんな夢みたいな時間がずっと続けばいいな、って思った。 ☆ ☆ ☆   天草 時春は、絶望していた。憤っていた。悲しんでいた、心配していた。目の前の敵に対して『救いたい』と思っていた。自分の娘と同じぐらいの歳の子が、人を殺す事がとてつもなく悲しかった。 この殺し合いに対して様々な感情を向けていた。 絶対に止めなければいけない。 あの場には自分の子ども達もいた筈だ。守らなければならない。 最愛の人と一緒に残した最後の形見だ。絶対に失ってはならない。失いたくない。   儂は、絶対に負けぬ。   彼の信念は、決して折れる物ではない。 レオパルドの様に、漠然とした考えでヒーローになりたいわけではない。 彼は、愛するべき人の為にヒーローになった。   【1日目 2時30分 A-7 海辺の草原】 【井上 快夢@ゼロ(ウタウタイ)/DRAG-ON-DRAGOON3】 [状態]発狂 右目に災厄の花 返り血 第四の壁を破壊できているように『演じている』 [装備]ショートソード [道具]支給品一式、不明支給品(0~2) [思考・行動] 基本方針:全部殺して、終わらせる。 1:郷音ツボミは殺す 2:レオパルドは殺す 3:目の前の仮面ライダーは殺す ※ブラッドゲージの蓄積度は45%です。100%になるとウタウタイモードを発動可能です。  他者を攻撃or自らが傷つくと蓄積していきます。   【天草 時春@仮面ライダーダークキバへの変身/仮面ライダーキバ】 [状態]健康 ダークキバに変身中 [装備]変身ベルト&フエッスル [道具]支給品一式、不明支給品(0~2) [思考・行動] 基本方針:殺し合いの打破 1:井上 快夢の打破 2:先程逃げた男を保護 3:子どもたちを保護 |[[]]|時系列順|| |[[女三人寄れば姦しい]]|投下順|[[対ちょっぴり怖い資産家]]| |&color(blue){GAME START}|レオパルド・ガーネット|| |[[命短し、走れよ乙女よ。]]|井上 快夢|| |&color(blue){GAME START}|天草 時春||

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