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セトの花嫁」(2018/01/03 (水) 12:36:00) の最新版変更点

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J-4の砂浜を移動していた、そう、万緒、舞とジャックフロストによる三人と一匹は、図書館へ向かうまでの間にまた一人の仲間が増えることになった。 いや、一人の仲間というより一匹の仲魔が増えることになった。 ジャックフロストの提案により、全員の生存率を高めるため、新たに仲魔を増やすことにしたのだ。 「“ピクシー”!」 万緒が天に右手をかざすと、少女たちの近くに稲妻が落ち、そこから新たなる仲魔が現れた。 悪魔が小さな羽をトンボのようにバタつかせて宙に浮きながら、赤い瞳で周囲を見回す。 「あれあれ? ここはどこかしら……って、ちょっと、頬ずりしないでよ!」 「妖精っていうから可愛らしいの想像したけど」 「むっちゃ可愛いやん! まるでリインフォースや」 「万緒~、私にも抱かせて!」 「……やれやれ、またこのパターンかホ」 召喚したピクシーは妖精の名前のとおりに、手のひらに乗りそうな小さな少女に羽虫の羽と尖った耳を持った愛くるしい姿をしており、カワイイもの好きな女の子ならまず反応する姿をしていた。 召喚した直後にさっそくピクシーを愛でる三人の少女、弄ばれてバタバタするピクシー。 その端で経験のあるジャックフロストはため息をついていた。 「ねえ、ジャックフロスト! 悪魔ってこんなに可愛いのばっかりなの?」 「んなわけねえホ。ダツエバとか見たらおまえら卒倒するホ」 「だ、誰かアタシに状況を教えて~~~!」 すっかり悪魔への恐怖心が薄れてしまっている万緒にジャックフロストは呆れるように言葉を返す。 ついでに状況についていけずに混乱しているピクシーに、現状を説明しておいた。 「ふぅ~ん、じゃあこの人修羅が死んだら契約しているアタシたちも死ぬのね?」 「まあ、そういうことになるホ。 マオは殺し合いに乗る気はないみたいだからオイラたちは殺し合いからの脱出を目指すことになるホね」 「ボルテクス界に帰るにはそれしかないかぁ」 「ボルテクス界って何?」 「オイラたちの住んでいた世界のことだホ」 ジャックフロストによってだいたいの状況を理解したピクシーは、にこやかに笑って万緒に手を差し出した。 握手のつもりらしい。 「わかったわ。私は妖精ピクシー。 ボルテクス界に帰るためにマオたちに協力するね」 「ありがとう!」 「今後ともよろしく、ってね」 万緒は笑顔で小さな仲魔の手を握り、殺し合いを生き抜くための仲間として握手を交わした。 「――というわけでピクシーにはオイラたちより前に先行して偵察することをみんなに提案するホ」 「え? ピクシーだけを前に出すの?」 「ピクシー自体が対して強くないと自分で言ってるけど、大丈夫なんかそれ?」 一頻りまとまった後にジャックフロストは三人に提案するが、力の弱いピクシーを一匹で先に行かせて大丈夫か、それよりも全員で固まって動いた方がいいのではないか、というのが万緒とそうの感想だった。 しかし、サバゲー知識のある舞とボルテクス界でそれなりの修羅場を体験しているであろう悪魔の意見は違った。 「なるほど、ピクシーは確かに力は弱そうだけど、その代わり飛べるし小さな体を持っている。 だから敵に発見され難いし、万が一は飛んで逃げられる」 「私たちで勝てそうにない異能を持っている奴がいたり、危険な罠があったらマオたちに知らせられるしね」 「まさにピクシーは生きたドローンね」 「ヒーホー、ドローンがなんなのかわからないけど、オイラが言いたいこととだいたい合ってる気がするホ」 飛行能力と小さな体を持つピクシーなら殺し合いに乗った人物に発見されにくく危険を知らせることができる。 不意打ちや罠によるリスクも減らせるだろう。 集団行動で戦場を練り歩くには斥候の大切さは必要なのだ。 「そんなことしなくてもみんなで固まって動いた方が良いんやない? ……ピクシーも危ないやろうし」 「甘いよそうちゃん! そんなんじゃ突然のアンブッシュを喰らった時に全滅するわよ」 「どんな猛者でもハマで先手を打たれたらあっさり沈むホ」 「あの……アンブッシュとかハマとかいきなり言われてもさっぱりわからへんのやけど!?」 専門用語を言われて混乱するそう。 その横で万緒はピクシーに問いかける。 「ピクシーは大丈夫なの? 一人だけ離れて前を行くのは危なすぎない?」 神妙な面持ちの万緒に対して、ピクシーは飄々と答える。 「べっつに~。ボルテクス界じゃその程度の危険は日常茶飯事だよ。 それに……」 「それに?」 「アタシ自身、決して強い悪魔じゃないけど、マオたち三人に比べれば戦いなれているつもりだよ。 襲いかかってくる悪い奴はサクッと殺しちゃうね」 「う……」 ピクシーのあどけない顔に似合わない、敵対者ならば殺せる瞳と言葉にそうは怖気を覚えた。 このピクシーやジャックフロストは味方であるからまだ良いが、もし状況が違ったら生き延びるために自分たちに襲いかかってきてもおかしくないのだ。 ボルテクス界がどういうところかまだわからないが、少なくとも争いのない日常で生きてきた自分たちはまず体験しない、ヨハネスブルクのような無法地帯ではないかと万緒は思う。 生き延びるためなら敵対者を殺せる。 そう言った点ではどんなに見た目は可愛くても、やはり悪魔なのだと。 それを理解した上で万緒はジャックフロストの提案に賛同し、ピクシーに指示を出す。 「わかったわ……ジャックフロストの言ったとおり、ピクシーは先導をお願い」 「ピクシー、危のうなったらすぐ引き返してや」 「私たちがすぐに駆けつけるからね」 「へーき、へーき。アタシはそう易易と死なないよ」 少女たち三人の心配をよそに、ピクシーは一行から離れて偵察行動を開始する。 一行の目となった妖精はいかほどのアドバンテージを与えるのだろうか? 同時刻、J-4の最寄りのエリアであるI-4の草原。 ここでは命をかけた鬼ごっこが繰り広げられていた。 「待ちやがれ!! カモホモ野郎!」 「待つわけ無いだろ、それに僕は男色家じゃない」 追われるは幼くなってしまった弥生を抱えて走る少年、蒼太。 追うは支給品の鎌を片手にオタノシミの邪魔をした蒼太に向ける幼女姦淫人面獣心の藤崎。 その二人は一定の距離を保ちつつ追走劇を繰り広げている。 肉体的に優れている蒼太は幼女となった弥生を抱える分には、走力はさほど減衰しない。 だが、追跡者である藤崎を撃退して距離を引き離す手段がない。 (銃や異能を使って追い払うか……? いや、相手の異能がよくわからない。不用意な攻撃は危険だ) 先程は与えられた異能である「腹話術」を使って弥生を救い出すことができたが、それは相手に異能を使わせなかった不意打ちによるものであり、真正面からかち合った場合は敵の能力いかんによっては制約の多すぎる腹話術など簡単に足蹴にされるだろう。 ならば銃を使って戦うことも考えたが、これもまた相手の異能が愛のように傷を再生する能力や銃弾を跳ね返すバリアなどだったら効果は薄い。 ただ少なくとも藤崎が銃や異能で攻撃してこないところからして、遠距離武器や異能の使用には一定の距離に接近する必要があることはわかった。 それを踏まえて撃退するための行動にでなくては、いくら体力に優れる蒼太といえどいずれは疲弊し、追いつかれてしまうだろう。 (せめて逃走に使えそうな支給品はないか?) 藤崎を確実に巻くことができそうな手段をディパックの中に求める蒼太。 残念ながら蒼太の支給品はイグナイトモジュールという特定の参加者を強化できるらしい宝石と、警察や警備員が持っていそうな警棒だけである。 シンフォギア装者のために作られたイグナイトモジュールで蒼太の異能が強化できるわけがなく、警棒で戦おうにも藤崎の異能の射程に入ったら意味がない。 なので、蒼太が開けたディパックは保護対象である弥生である。 「ごめん! ちょっと借りるよ!」 弥生から支給品を漁っていいという許可はもらっていないが、彼女は相変わらず恐怖と混乱で動けなくなっており、非常時なので仕方ないと割り切って蒼太は使えるものを探すことにした。 煙を撒く発炎筒や火事を起こす火炎瓶でも入っていれば藤崎から逃げ切れるかもしれないと希望を持って、ディパックを漁った。 「…………これ、使えるか?」 結果、ディパックの中から「使えそうなもの」が出てきた。 蒼太はさっと該当の支給品を流し読みして、これを如何様に使うかを考える。 なるべく早く、有効的に使える方法を考える。 「うわ!!?」 「キャッ!?」 その時である。 幼女だと思っていた弥生が突然大きくなり、蒼太と同い年ぐらいの少女……本来の女子高生の姿に戻り、合わせて体重も年齢相応に戻る。 そうなった場合、軽いと思って持ち運んでいたものが突然重くなった時、大半の人間はどのような対応を取るか? 答えはバランスを崩しての転倒である。 いくら蒼太といえ、普通は体験しない出来事に体が慣れてないために転倒することになった。 弥生もまた地面に転がり、持っていた拳銃が地面に落ちる。 「まさか……アイツの能力は……!」 そこまできて漸く、蒼太は藤崎の異能を理解する。 抱えていた弥生がやたらブカブカの服を着ている時点で気づくべくだった。 藤崎が相手を幼くしたり、戻すか老いさせる能力なのだと。 それがわかった時には蒼太は藤崎の射程圏内である、影の中へと入ってしまい、弥生ともども三歳くらいの幼児になってしまった。 「ま、まずい、ガハッ!」 弥生とともに取り落とした拳銃を拾いに行こうとするが、その前に蒼太の腹に強烈な蹴りが入る。 軽くなった蒼太の体が数メートルほど飛んで地面にぶつかった。 「へへ、昔ジョジョを読んでいた時に思ってたんだ。 この『セト神』、ただ幼くするだけじゃなくて一定のタイミングで能力を解除する有用な使い方もできるんじゃないかってなあ~!」 藤崎は悪神の名を持つスタンド『セト神』をあえて解除して、蒼太の意表を突く使い方を思いつき、実行したのだ。 結果としては藤崎の思惑通りになり、蒼太に追いつくのみならず、幼児化させて戦闘力を極限まで奪うまでに至った。 「このまま、受精卵に戻して殺すこともできんだろうが、それじゃ面白くねえ。 殺すついでに俺と弥生ちゃんとのオタノシミを妨害したことを泣いて後悔する様をおがんでやる!」 藤崎は舌なめずりをしながら拳銃を拾って銃口を蒼太に向ける。 自分の異能と性癖が知れ渡ると優勝するにしろ脱出を目指すにしろ、今後が生き延びづらくなるとの焦りから蒼太を殺すことが彼の決定事項である。 藤崎はロリコンなれど本来は快楽殺人鬼ではないのだが、自分にとっては夢と言えた異能を手に入れたことでハイになっており、弥生とのまぐわいを邪魔されたことによる独善的な怒りは殺意へと変わっていた。 大きな力と夢を手に入れてしまってイカれた男に人を殺すことにためらいはない。 蒼太もまた抵抗しようとするが、持っていた拳銃ブローニング・ハイパワーも藤崎の手の中である。 しかも、今までの追跡劇で蒼太が藤崎の能力が一定以上近づかないと使えないことに気づいたことと同じく、藤崎も蒼太の能力が近づかないと使えないことに気づく。 よって、腹話術による反撃を恐れて鎌で切りつけようとはせず一定の距離を保って拳銃での射殺を試みる。 仮に腹話術の射程に入っていたとしても先にセト神の力で受精卵にまで若返らせられて殺害するだろう。 「や、やだ…こないで……」 弥生もまた恐慌状態のためにまともに戦うことはできない。 「待っててね、弥生ちゃん。後で俺が女にしてあげるから」 悪魔のスマイルを弥生に向けながら勝利を確信する藤崎。 万事休すとなったのか蒼太は手元にあった弥生のディパックの中身を藤崎に向けて投げつける。 それはペンやコンパス、一冊の参加者名簿といった参加者共通の支給品だった。 しかし、三歳児まで落ちた腕力故に大した勢いも出ずにそれらは藤崎の足元近くに落ちただけで精一杯であった。 どちらにせよ藤崎に直撃しても大した打撃にはならないだろう。 「これが抵抗のつもりか?」 蒼太の抵抗を嘲笑うは藤崎。 その藤崎は蒼太に向けて銃の照星を合わせる。 さて、腕か足……どこから吹き飛ばしてやろうか、とサディスティックな考えがよぎっている。 そんな時であった。 普通ならあるはずのない出来事が起きる。 「――え?」 突如、足元に投げ込まれた参加者名簿が手榴弾のように爆発し炎上、そして藤崎の両足を粉々に吹き飛ばしたのだ。 足を付け根から失った藤崎が吹き飛ばされて後方へ飛んで地面に落ちる。 同時に大ダメージを受けてスタンドを制御する力を一瞬でも失ったためか、蒼太と弥生は三歳児から元の高校生の姿へと戻った。 ここでタネを明かそう。 蒼太が投げ込んだのはペンやコンパス、参加者名簿といった基本支給品だけではなかった。 NARUTOに登場する手榴弾代わりの物品、起爆札があり、これを爆破したのだ。 しかし投げ込む瞬間にそんな怪しい札があれば警戒して避けてしまうだろう。 そこで蒼太は名簿のページにしおりを入れるように、起爆札を挟み込んだ。 そして全員が共通で持っている上に殺傷力のない普遍的な支給品を投げることで無駄な悪あがきをしているように見せかけて警戒心を薄れさせた。 先ほど藤崎は蒼太の異能を喰らっていたため、物体に殺傷力を加える異能ではないと知っていた故にこれらの物品に対する油断が生まれていた。 結果的に藤崎は地雷を踏んだ人間と同じような悲劇を味わう羽目になる。 「あひィ、あひィ、あひ、うおおおおおおおおおお!! おおおおおおれェェェェェのォォォォォ あしィィィィがァァァァァ~~~!!」 一瞬で両足を失った耐え難い激痛に藤崎は悲鳴をあげてのたうち回る。 両足は血が噴き出しており、傷口は骨と脂身と肉が見えている惨憺たるものであった。 「形勢逆転だな」 「て、てめえ」 「させない、拳銃と支給品は全部没収させてもらう」 「あ……」 元の姿に戻った蒼太が藤崎に迫る。 藤崎は拳銃で蒼太を射殺しようとするが、それより早く蒼太は腹話術と使って藤崎の意識を奪い、操って拳銃と支給品を奪わせた。 「この野郎……」 「ふん」 武器を失ったのなら異能だと藤崎はセト神たる影を再展開させるが、蒼太はこれを躱してブローニングハイパワーから発射されたパラべラム弾が藤崎の左耳に大穴を開けて、再びスタンドが引っ込ませる。 「あひィ!」 「直感だがだいたいわかった。 アンタの異能はその影を踏むか、影を交わらせると発動するんだろ?」 周辺は起爆札による爆発の残滓によって僅かであるが火が移り、明かりがついていた。 これにより藤崎のスタンドの影に気づくことができたのだ。 その影は少なくとも目や嘴らしきものがついているので人のものではない。 そこからこの怪しい影が藤崎の力の源であると気づいた。 ちなみにスタンドは本来はスタンド使いにしか見えないが、バランス調整のためか制限で誰でも見ることができる。 それでも夜間であれば闇の中にある影の見極めは困難であったが、起爆札さえ爆破させなければ、そもそも蒼太を幼くする段階で変なこだわりを持たずに一気に胎児にでもしてしまえば起爆札を使わせずに殺害はできたハズだ。 全ては藤崎の慢心が招いた結果である。 「初見だと強いが、タネさえわかれば余裕……少なくともアンタの異能より、この銃の方が早いね」 「このクソカスがあああああ!」 蒼太の言うとおり、藤崎がスタンド攻撃をするよりは引き金を引く方が早く、両足を失ってしまった藤崎では銃弾を避けることもできない。 チェックメイトである。 (……とはいえ、お姉のためにも人殺しはしたくない。 両足を失った以上は一人で移動はできまい、この殺し合いで誰かに依存しないとこいつは生きていけない。 優勝への望みも絶たれたハズだ。 だが、こいつは反省の色も見せずに僕への闘志も薄れていない……どうするべきか) 戦いにおいて優位に立った蒼太であるが、やはり人殺しへの抵抗はあった。 しかし藤崎の殺意は薄れておらず、仮にそうでなくとも弥生もいるのに殺し合いが終わるまで足のない奴の面倒を見るのは骨が折れる。 見捨てていけば殺し合いに乗った誰かが殺してくれるかもしれないが、少々後味が悪い。 次に見つけた何も知らない参加者に対して藤崎が襲いかからないとも限らないからだ。 どう処断を下すべきか、考えあぐねてきた。 そこへ一匹の妖精が飛んできた。 「ちょっとそこの人間ー! なにしてんのー?!」 「妖精!?」 「空飛ぶ幼女!?」 羽虫かと思いきや、日常でお目にかかれるハズのない小さな存在にギョッとする蒼太と藤崎。 察するに妖精を操れるなどの誰かの異能であろうか? 今さっきの爆発音や銃声に引き寄せられたらしい。 これに対して驚いた蒼太であったが、すぐにこれはチャンスであるとも考える。 相手が殺し合いに乗っていなければ、殺し合いに乗じて弥生をレイプしようとした藤崎を数の差で抑え込んで抵抗できないようにすることもでき、藤崎も優勝を諦めるだろう。 そう考えた蒼太は妖精に声をかけようとする。 「ちょうど良かった、僕は「騙されるな! そいつは殺し合いに乗ってる!!」……なっ!?」 その時である。 蒼太の声を覆いかぶせるように、大声で藤崎はピクシーに呼びかけたのだ。嘘の情報を。 「ま、待て僕は……「助けてくれ! このままじゃ殺されてしまう!!」 蒼太の声をシャットアウトするように、より大きな声で訴えかける藤崎。 加害者が被害者ぶり、被害者を加害者に見せかけるために。 そして、藤崎を聞いたピクシーは。 「なるほどね~。 殺し合いに乗っている上に、女の子に乱暴たんだ~」 「違う!」 ピクシーの視点では両足と支給品を失った満身創痍の藤崎と、銃を構えて相手を殺そうとしているように見える蒼太。 そして蒼太の後ろには乱暴されと思われるぐらい衣がはだけている弥生がいた。 事前の状況を知らなければ、蒼太の方が冷酷な殺人鬼に見えるだろう。 ピクシーの無邪気さの中に殺気が混ざる。 彼女は完全に騙されたのだ。 してやられたと思う蒼太。 それに内心でほくそ笑むは藤崎である。 「女の子に乱暴するやつは死んじゃえば~? ジオ!!」 蒼太を危険人物だとみなしたピクシーの行動は早かった。 小さな両手を蒼太のいる方向へ向けると、蒼太の直上から稲妻が落ちる。 電撃魔法『ジオ』だ。 「くっ……」 反応が間に合い、危険を察知した蒼太は後ろへ飛んで寸でで躱す。 蒼太のように身体能力と反射神経に優れたものでなければ避けることなどできなかった。 そして、肉体的に優れる蒼太でもジオが直撃すれば瀕死の重傷……最悪そのまま死亡するだけの威力がジオにはあった。 「むぅー、避けられちゃった。次は外さないよ!」 (説得は無理か……! だがお姉のためにこんなところで死ぬわけにも!) 一度見てわかったが雷撃のスピードはかなりのものであり、次に撃たれたら避けられないと悟る蒼太。 しかもピクシーがやってきた方面から何人かの人間がやってくる気配がする。 戦うにしても数の差、そして集団戦には向かない腹話術では不利である。 気が立っているピクシーに説得は困難であり、このままだと袋叩きにされてしまう。 そうなれば藤崎の思うツボだ。 弥生を証人にする手もあるが、恐慌状態である現状でまともな証言は望み薄だ。 逆に藤崎の標的にされてしまう。 説得も戦闘も無理だと判断した蒼太は弥生とともにこの場は逃げることを選択する。 立ちふさがる壁としてピクシーがいたが、彼女が攻勢(プレスターン)が回ってくる前に行動に出た。 蒼太は起爆札を貼り付けた警棒を投擲する。 「どこ見て投げてるの?」 投擲先はピクシー……ではなく、彼女より数m上。 ただの暴投か、とピクシーは思ったがそれは誤りであった。 「え?」 蒼太が狙ったのはピクシーの直上にあるいくつもの木の枝。 そこにガサリと葉っぱをかき分け警棒が侵入すると起爆札が爆発し、いくつもの葉や枝が上から落ちてきて、それらにのしかかられたホバリング中の彼女を墜落させた。 「いったぁーーーい!」 「ごめん」 墜落したピクシーに謝りつつ、彼女が動けなくなった隙に弥生の手を引っ張る蒼太。 「あ、あの……」 「来るんだ!」 弥生を置いていくと藤崎が彼女やピクシーの持ち主である参加者たちに何をするかわからないので、今は共に逃げることを選択する。 弥生は未だに藤崎に対する恐怖心が抜けておらず、少なくとも味方ではある蒼太についていくしかなかった。 二人が逃げる方向は危険な藤崎や虎であるフレイスとは逆方向である西側である。 「あいつ……逃がさないんだから!」 ピクシーもただ黙っているだけでなく、葉や枝をかき分けて頭と両腕が自由になったところで遠のいていく蒼太の背中に向けてジオを放とうとする。 「やめてピクシー!」 「待つホ、ピクシー!」 それを止めたのは遅れて現場にやってきたジャックフロストだった。 「どうして止めるの?」 「今魔法を使ったら後ろの人間まで死ぬホ」 「……あの子は人質ってわけね」 蒼太に向けて電撃を当てることは不可能ではなかったが、その場合彼と手を握っている弥生にも通電してダメージを与えてしまう。 弥生は体のいい人質……にピクシーには見えた。 「ピクシー大丈夫!?」 「悪い奴はどこや?」 「ひいひい、待って……二人共足早すぎ」 ジャックフロストに続いて、万緒、そう。 さらに遅れて舞が草むらの中から現れる。 特に悪魔の契約主である万緒は急いで葉と枝に埋もれたピクシーを救助する。 その頃には殺し合いに乗ったと思われる少年と人質の少女はだいぶ離れていた。 「あれが殺し合いに乗っていた人?」 「早く追わんと!」 「ダメよ! どんな装備や異能を持っているかわからないのに深追いすべきじゃないわ。それに……」 殺し合いに乗った者を追いかけようとした万緒とそうを、彼女らよりは冷静であった舞は止める。 それだけでなく、舞の目線の先には両足を失いあちこり火傷だらけの藤崎がいた。 合わせて万緒とそうの目線も藤崎に向く。 「ひっ!」 「うっ……」 「こんな……ひどい」 「助けて、死にたくない……!」 藤崎の痛みに悶える姿と怪我は生々しく、そうは思わず目をそらし、舞は吐き気を覚えながら涙目になる。 万緒は不思議と吐き気も涙も出なかったが、藤崎が可哀想だと思った。 同時に自分たちにほど近い場所で殺し合いが行われたことに、三人の少女はショックを受けた。 先程までの能天気なピクニック気分など、もうない。 「と、とにかく処置しなきゃ……傷口を消毒して、止血しないと」 舞は哀れな犠牲者である藤崎を助けるために支給品にちょうど良い医療品がないかディパックを探す。 しかし、その前にピクシーが待ったをかける。 「待って! 私は回復魔法のディアが使えるよ。繰り返して使えば足も戻るかも」 「回復魔法ですって!」 ディアは傷を癒せる魔法だ。 回復効果自体はさほどでもないが、傷口を塞いで止血するだけなら十分であろう。 さらに何度かかければ失った足も戻ってくるらしい。 「でもディアでこの人間の失った足まで戻ってくるまでやったら、アタシの魔力も対して多くないからスッカラカンになっちゃうね」 「オイラとしては反対だホ。魔力を回復するアテもないのに攻撃手段であるジオや別の機会にいざ傷を治したい時にディアができなくなるホ」 仮に藤崎が足を取り戻すまでディアをかけたら、今後魔力を補充できる手段ができるまで魔法が使えなくなる危険があるので、ピクシーは許可を求めていたのだ。 ……だが怪我の痛みにあえぐ藤崎を見て、少女たちは見捨てることはもちろん、布で縛る程度の簡単な処置で済ますこともできなかった。 彼に対してその苦痛をとってあげたいという気持ちが強くなる。 また止血だけしても彼は逃げる足もないので再び殺し合いに乗った者に狙われた時に殺される危険がある。 彼を守りながら戦うにしても万が一、というころもある。 「お願い万緒。この人に魔法を使ってあげて」 「ピクシーが魔法を使えなくなったら私が代わりの役目をするから、お願いや……」 涙目になって万緒に懇願する舞、そう。 仲魔に対する決定権は万緒が握っているが、彼女自身もまた二人と同じ気持ちであった。 「もちろん、私も二人と同じ気持ちだよ。ジャックフロストもいいよね?」 「……まあ、マオの決定なら従うホ」 「ピクシー、あの人を助けて」 「りょか~い! ディア!」 人修羅たる万緒の指示を受けてピクシーが藤崎に向けて魔法を放つ。 それは破壊の力であるジオとは反対の癒しの力。 「痛みが…足の痛みが消えていく……」 藤崎が幾度かの光に包まれ、かけられる度にその顔から苦しみが消えて安らかなものになり、最後は穴の空いた左耳も無くなった両足も元通りになった。 「ふぅ~、つかれたー」 「ありがとうピクシー、休んでて」 だいぶ疲れた様子のピクシーは手近な木の枝に腰をかける。 本当に魔力を使い切ったようだ。 一方ジャックフロストは起爆札で燃えた木々や木の葉が延焼して燃え広がるのを防ぐために火が小さい内に足で踏むなどして消火していた。 炎や煙で他の殺し合いに乗った者に居場所がバレてしまうのを防ぐための処置である。 「ありがとう、本当にありがとう! もうダメかと思っていた!」 藤崎は少女たちの前で土下座をするように怪我を治してもらったことを感謝した。 その感謝の言葉を聞いて少女たちもまた自分たちの決断に誤りはなかったと思うのだった。 無論、それは偽りの感謝であったが。 藤崎は治らないハズの怪我を治してもらったこと自体は嬉しいが、少女たちへの感謝の気持ちなどない。 (ええい、そうちゃんとピクシーはまだ良いが、胸に脂肪をくっつけた刺青黒豚とゴキブリみたいな髪をしたもやしBBAが邪魔だな……いやセト神で幼女にすれば楽しめそうか?) あるのは性欲のはけ口と彼女らをいかに利用できるかだけであった。 土下座で隠した顔にはあからさまに悪い顔があった。 (無警戒のこいつらにセト神を使えば、全員幼女にできるが、今はまだ我慢だ。 こいつらを騙して利用してあのガキを殺し! 弥生ちゃんを手に入れてやる! ロリレイプハーレムはそれからだ!) 藤崎は少女たちを無力な幼女にして犯す前に、彼女らを騙して蒼太を殺すつもりなのだ。 単純計算で四人+悪魔二匹の異能を相手どることになるのでいくら蒼太でも勝てないだろうという見通しだ。 もちろん追跡の際に弥生から自分の正体が万緒たちにばれる危険はあるが、その時は万緒らを胎児にでも戻して完全に無力化し、蒼太や弥生に従わないと殺すように脅すだけだ。 (まずはここが正念場だ……待ってやがれよ、あの激痛の仕返しに必ず殺してやるからな!) 藤崎の心の中には幼女を犯す欲望と、蒼太に足を一度奪われた逆恨みだけが渦巻いていた。 なるべく自然を装うために、もう少し間を空けてから嘘を吹き込むつもりである。 そんなことを露とも知らずに万緒はチラリと、蒼太の逃げていった方向を見る。 二人はもうほとんど見えない距離、I-3の辺りまで逃げていた。 (殺し合いに乗った恐ろしい人がいる……戦うのは怖いけど、そうちゃんや舞ちゃんのためにもいざという時は……) 万緒は震える手を抑え、拳を握って戦う覚悟を決める。 まさか善意から助けた男こそ悪神の落し子のような者で、殺し合いに乗っていると思っている者が幼馴染であることも知らずに。 【一日目・3時00分/I-3 草原】 【島津 蒼太@『腹話術』/ 魔王JUVENILE REMIX】 [状態]:疲労(大)、腹部にダメージ(中)、顔に返り血 [装備]:FNブローニング・ハイパワー(12/13)、起爆札×3@NARUTO [道具]:支給品一式、食料と水、地図、タバコ、ライター、イグナイトモジュール@戦姫絶唱シンフォギア      小型の鎌、首輪探知機、双眼鏡 [思考・行動] 基本方針:姉のもとへ帰る 1:弥生を連れてどこかへ逃げる。 2:阿良のために助けを呼びたいが…… 3:あのペド(藤崎)を最大限に警戒。ペドを助けた人たちが奴に騙されてなければいいが…… ※腹話術の制約、効果は把握済みですがリスクについては把握していません。 ※藤崎が影に入った相手を幼くする能力を持っていることを把握しました。 【成沢 弥生@呪腕のハサンの能力と技術/Fate/stay night】 [状態]:恐怖(大)、混乱、服があちこちはだけている [装備]:『妄想心音』、クナイ複数本 [道具]:支給品一式、不明支給品×1(確認済み) [思考・行動] 基本方針:正義の忍者として戦う? 0:とにかく彼(蒼太)と一緒に逃げる 1:いやだ 2:こわい。 ※右腕が呪腕化しています。普段は布で覆われています。 ※気配遮断スキルは機能しますが、オリジナルよりある程度劣化しています。 【一日目・3時00分/I-4 草原】 【藤崎直哉@セト神/ジョジョの奇妙な冒険 Part3 スターダストクルセイダース】 [状態]:健康、蒼太への復讐心、素足 [装備]:なし [道具]:なし [思考・行動] 基本方針:幼女に乱暴したい。ロリハーレム! 1:ガキ(蒼太)を追って殺す。そのために万緒たちを騙して利用する 2:目論見がバレたら、スタンドを使って万緒たちを脅す 3:殺し合い?そんなの後回しだ馬鹿! 4:最終的に万緒、そう、舞、弥生、ピクシーをまとめて犯す ※セト神による若返りの効果が解除される条件は以下の通りです。いずれか一つでも満たせば解除されます。 直哉が能力を維持できなくなる程の大きなダメージや物理的衝撃を受ける 直哉が気絶する 直哉から1エリア分以上離れる また、原作とは異なり幼児化によって記憶が当時の状態に戻ることも無いようです。 支給された異能力を除く本人の技能や能力等は原作通り若返った年齢の状態に依存します。 【八神そう@マイティ・ソー/マーベルコミックス】 [状態]:精神疲労(中)、変身中 [装備]:ムジョルニア@マイティ・ソー [道具]:支給品一式、不明支給品0~2、障碍者用杖 [思考・行動] 基本方針:殺し合いには乗らない 0:図書館に行く前に助けた人(藤崎)から事情を聞く 1:図書館はひとまず後回し 2:万緒お姉さんと舞お姉さん、藤崎お兄さんを守る 3:はやてのように戦えるのが理想だけど…… ※マイティ・ソーに変身できることを知りました。マーベル映画知識より、映画で使用した技は概ね使用できます。また変身中は右足の障碍が治ります。 ※サブカル好きがこうじて、人修羅のことも知っていますが、シリーズのゲームは未プレイなため大雑把な内容しか知りません。(主人公が悪魔でありながら悪魔を召喚して戦う程度) ※NARUTOについてはうろ覚えです 【後藤万緒@人修羅/真・女神転生Ⅲ-NOCTURNE】 [状態]:精神疲労(小) [装備]:マロガレ@真・女神転生Ⅲ-NOCTURNE [道具]:支給品一式、仲魔召喚に関するメモ [召喚中]:妖精 ジャックフロスト(健康) 妖精 ピクシー(魔力枯渇) [思考・行動] 基本方針:殺し合いには乗らない、元の体に戻りたい 0:図書館に行く前に助けた人(藤崎)から事情を聞く 1:そうちゃんと舞を守る 2:殺し合いに乗った人(蒼太)を警戒 2:図書館はひとまず後回し 3:この体、直るのかな? ※悪魔召喚能力があることに気づきました。 ※八神そうから大雑把な人修羅の知識を知りました。 ※八神そうの足の障害に気づいてません ※殺し合いに乗っていると思っている男が幼馴染の蒼太だと気づいていません ※悪魔召喚については以下のルールがあります。  ○最大で召喚できる仲魔は三体まで、真・女神転生Ⅲに出てくる悪魔のみ召喚可能  ○後藤万緒が死亡すると仲魔も数時間以内に消滅する  ○仲魔に召喚条件あり。召喚できる仲魔については次の書き手氏にお任せします。   ・妖精 ジャックフロスト、妖精 ピクシー(条件なし)   ・???(第一回放送まで生き延びる)   ・???(第三回放送まで生き延びる)   ・???(第五回放送まで生き延びる)   ・???(参加者を一人殺害する)   ・???(参加者を二人殺害する)   ・???(参加者を三人殺害する) ※仲魔の魔力は時間経過では回復できません  回復には魔力を補給できる支給品が必要になります 【萩原舞@干柿鬼鮫の忍術/NARUTO】 [状態]:疲労(小)、精神疲労(小) [装備]:F2000R(25/30)@とある魔術の禁書目録 [道具]:基本支給品、不明支給品(0~2) [思考・行動] 基本方針:殺し合いには乗らない 0:図書館に行く前に助けた人(藤崎)から事情を聞く 1:異能はあんまり使わないようにしよう 2:このアサルトライフルも漫画やゲームのものなのかな? 3:図書館はひとまず後回し 【支給品紹介】 【イグナイトモジュール@戦姫絶唱シンフォギア】  シンフォギア装者の暴走のメカニズムを解析されて作られた宝石状のモジュール。  装者はこれを使うことで暴走状態と同等の戦闘力を、理性を保ったまま使用できる。  ただしセーフティとして使用制限時間(999カウント)が存在し、0になるとギアが強制的に解除される。  またニグレド→アルベド→ルベドと段階的に力を引き出すことで、カウントが高速で消費される。  使用すると見た目が刺々しい黒を貴重とした悪役みたいな姿になる。  この殺し合いで装者は郷音ツボミしかいないので、実質ツボミ専用強化アイテム。  また、この装備自体にかけられた制限としてカウントがゼロになると再使用不可。 【起爆札@NARUTO】  使用すると爆発する御札。作中描写を見る限り手榴弾程度の爆発力がある。  爆発の原理は不明(原作で解説されていない)だが、ここでは一定以上の衝撃を与えると起爆するものとする。  元は五枚組で支給。 【妖精 ピクシー@真・女神転生Ⅲ-NOCTURNE】  万緒の召喚した仲魔。非常に小さな可愛らしい妖精。  悪魔としては低レベルだが多くのメガテンシリーズで一番最初に仲魔になる。  ディア(回復)、ジオ(電撃)、ラクンダ(防御力減退)、ポズムディ(毒治療)、羽ばたき(風攻撃)などの魔法が使用できるが、魔力(MP)が少ないのですぐ枯渇する。  合体で誕生したわけではないのでメギドラオンを使えたりはしない。 ||時系列順|| |[[ギャルと見るはじめての異能]]|投下順|| |[[Eye Of The Tiger]]|島津蒼太|| |[[Eye Of The Tiger]]|成沢弥生|| |[[Eye Of The Tiger]]|藤崎直哉|| |[[女三人寄れば姦しい]]|八神そう|| |[[女三人寄れば姦しい]]|後藤万緒|| |[[女三人寄れば姦しい]]|萩原舞||
J-4の砂浜を移動していた、そう、万緒、舞とジャックフロストによる三人と一匹は、図書館へ向かうまでの間にまた一人の仲間が増えることになった。 いや、一人の仲間というより一匹の仲魔が増えることになった。 ジャックフロストの提案により、全員の生存率を高めるため、新たに仲魔を増やすことにしたのだ。 「“ピクシー”!」 万緒が天に右手をかざすと、少女たちの近くに稲妻が落ち、そこから新たなる仲魔が現れた。 悪魔が小さな羽をトンボのようにバタつかせて宙に浮きながら、赤い瞳で周囲を見回す。 「あれあれ? ここはどこかしら……って、ちょっと、頬ずりしないでよ!」 「妖精っていうから可愛らしいの想像したけど」 「むっちゃ可愛いやん! まるでリインフォースや」 「万緒~、私にも抱かせて!」 「……やれやれ、またこのパターンかホ」 召喚したピクシーは妖精の名前のとおりに、手のひらに乗りそうな小さな少女に羽虫の羽と尖った耳を持った愛くるしい姿をしており、カワイイもの好きな女の子ならまず反応する姿をしていた。 召喚した直後にさっそくピクシーを愛でる三人の少女、弄ばれてバタバタするピクシー。 その端で経験のあるジャックフロストはため息をついていた。 「ねえ、ジャックフロスト! 悪魔ってこんなに可愛いのばっかりなの?」 「んなわけねえホ。ダツエバとか見たらおまえら卒倒するホ」 「だ、誰かアタシに状況を教えて~~~!」 すっかり悪魔への恐怖心が薄れてしまっている万緒にジャックフロストは呆れるように言葉を返す。 ついでに状況についていけずに混乱しているピクシーに、現状を説明しておいた。 「ふぅ~ん、じゃあこの人修羅が死んだら契約しているアタシたちも死ぬのね?」 「まあ、そういうことになるホ。 マオは殺し合いに乗る気はないみたいだからオイラたちは殺し合いからの脱出を目指すことになるホね」 「ボルテクス界に帰るにはそれしかないかぁ」 「ボルテクス界って何?」 「オイラたちの住んでいた世界のことだホ」 ジャックフロストによってだいたいの状況を理解したピクシーは、にこやかに笑って万緒に手を差し出した。 握手のつもりらしい。 「わかったわ。私は妖精ピクシー。 ボルテクス界に帰るためにマオたちに協力するね」 「ありがとう!」 「今後ともよろしく、ってね」 万緒は笑顔で小さな仲魔の手を握り、殺し合いを生き抜くための仲間として握手を交わした。 「――というわけでピクシーにはオイラたちより前に先行して偵察することをみんなに提案するホ」 「え? ピクシーだけを前に出すの?」 「ピクシー自体が対して強くないと自分で言ってるけど、大丈夫なんかそれ?」 一頻りまとまった後にジャックフロストは三人に提案するが、力の弱いピクシーを一匹で先に行かせて大丈夫か、それよりも全員で固まって動いた方がいいのではないか、というのが万緒とそうの感想だった。 しかし、サバゲー知識のある舞とボルテクス界でそれなりの修羅場を体験しているであろう悪魔の意見は違った。 「なるほど、ピクシーは確かに力は弱そうだけど、その代わり飛べるし小さな体を持っている。 だから敵に発見され難いし、万が一は飛んで逃げられる」 「私たちで勝てそうにない異能を持っている奴がいたり、危険な罠があったらマオたちに知らせられるしね」 「まさにピクシーは生きたドローンね」 「ヒーホー、ドローンがなんなのかわからないけど、オイラが言いたいこととだいたい合ってる気がするホ」 飛行能力と小さな体を持つピクシーなら殺し合いに乗った人物に発見されにくく危険を知らせることができる。 不意打ちや罠によるリスクも減らせるだろう。 集団行動で戦場を練り歩くには斥候の大切さは必要なのだ。 「そんなことしなくてもみんなで固まって動いた方が良いんやない? ……ピクシーも危ないやろうし」 「甘いよそうちゃん! そんなんじゃ突然のアンブッシュを喰らった時に全滅するわよ」 「どんな猛者でもハマで先手を打たれたらあっさり沈むホ」 「あの……アンブッシュとかハマとかいきなり言われてもさっぱりわからへんのやけど!?」 専門用語を言われて混乱するそう。 その横で万緒はピクシーに問いかける。 「ピクシーは大丈夫なの? 一人だけ離れて前を行くのは危なすぎない?」 神妙な面持ちの万緒に対して、ピクシーは飄々と答える。 「べっつに~。ボルテクス界じゃその程度の危険は日常茶飯事だよ。 それに……」 「それに?」 「アタシ自身、決して強い悪魔じゃないけど、マオたち三人に比べれば戦いなれているつもりだよ。 襲いかかってくる悪い奴はサクッと殺しちゃうね」 「う……」 ピクシーのあどけない顔に似合わない、敵対者ならば殺せる瞳と言葉にそうは怖気を覚えた。 このピクシーやジャックフロストは味方であるからまだ良いが、もし状況が違ったら生き延びるために自分たちに襲いかかってきてもおかしくないのだ。 ボルテクス界がどういうところかまだわからないが、少なくとも争いのない日常で生きてきた自分たちはまず体験しない、ヨハネスブルクのような無法地帯ではないかと万緒は思う。 生き延びるためなら敵対者を殺せる。 そう言った点ではどんなに見た目は可愛くても、やはり悪魔なのだと。 それを理解した上で万緒はジャックフロストの提案に賛同し、ピクシーに指示を出す。 「わかったわ……ジャックフロストの言ったとおり、ピクシーは先導をお願い」 「ピクシー、危のうなったらすぐ引き返してや」 「私たちがすぐに駆けつけるからね」 「へーき、へーき。アタシはそう易易と死なないよ」 少女たち三人の心配をよそに、ピクシーは一行から離れて偵察行動を開始する。 一行の目となった妖精はいかほどのアドバンテージを与えるのだろうか? 同時刻、J-4の最寄りのエリアであるI-4の草原。 ここでは命をかけた鬼ごっこが繰り広げられていた。 「待ちやがれ!! カモホモ野郎!」 「待つわけ無いだろ、それに僕は男色家じゃない」 追われるは幼くなってしまった弥生を抱えて走る少年、蒼太。 追うは支給品の鎌を片手にオタノシミの邪魔をした蒼太に向ける幼女姦淫人面獣心の藤崎。 その二人は一定の距離を保ちつつ追走劇を繰り広げている。 肉体的に優れている蒼太は幼女となった弥生を抱える分には、走力はさほど減衰しない。 だが、追跡者である藤崎を撃退して距離を引き離す手段がない。 (銃や異能を使って追い払うか……? いや、相手の異能がよくわからない。不用意な攻撃は危険だ) 先程は与えられた異能である「腹話術」を使って弥生を救い出すことができたが、それは相手に異能を使わせなかった不意打ちによるものであり、真正面からかち合った場合は敵の能力いかんによっては制約の多すぎる腹話術など簡単に足蹴にされるだろう。 ならば銃を使って戦うことも考えたが、これもまた相手の異能が愛のように傷を再生する能力や銃弾を跳ね返すバリアなどだったら効果は薄い。 ただ少なくとも藤崎が銃や異能で攻撃してこないところからして、遠距離武器や異能の使用には一定の距離に接近する必要があることはわかった。 それを踏まえて撃退するための行動にでなくては、いくら体力に優れる蒼太といえどいずれは疲弊し、追いつかれてしまうだろう。 (せめて逃走に使えそうな支給品はないか?) 藤崎を確実に巻くことができそうな手段をディパックの中に求める蒼太。 残念ながら蒼太の支給品はイグナイトモジュールという特定の参加者を強化できるらしい宝石と、警察や警備員が持っていそうな警棒だけである。 シンフォギア装者のために作られたイグナイトモジュールで蒼太の異能が強化できるわけがなく、警棒で戦おうにも藤崎の異能の射程に入ったら意味がない。 なので、蒼太が開けたディパックは保護対象である弥生である。 「ごめん! ちょっと借りるよ!」 弥生から支給品を漁っていいという許可はもらっていないが、彼女は相変わらず恐怖と混乱で動けなくなっており、非常時なので仕方ないと割り切って蒼太は使えるものを探すことにした。 煙を撒く発炎筒や火事を起こす火炎瓶でも入っていれば藤崎から逃げ切れるかもしれないと希望を持って、ディパックを漁った。 「…………これ、使えるか?」 結果、ディパックの中から「使えそうなもの」が出てきた。 蒼太はさっと該当の支給品を流し読みして、これを如何様に使うかを考える。 なるべく早く、有効的に使える方法を考える。 「うわ!!?」 「キャッ!?」 その時である。 幼女だと思っていた弥生が突然大きくなり、蒼太と同い年ぐらいの少女……本来の女子高生の姿に戻り、合わせて体重も年齢相応に戻る。 そうなった場合、軽いと思って持ち運んでいたものが突然重くなった時、大半の人間はどのような対応を取るか? 答えはバランスを崩しての転倒である。 いくら蒼太といえ、普通は体験しない出来事に体が慣れてないために転倒することになった。 弥生もまた地面に転がり、持っていた拳銃が地面に落ちる。 「まさか……アイツの能力は……!」 そこまできて漸く、蒼太は藤崎の異能を理解する。 抱えていた弥生がやたらブカブカの服を着ている時点で気づくべくだった。 藤崎が相手を幼くしたり、戻すか老いさせる能力なのだと。 それがわかった時には蒼太は藤崎の射程圏内である、影の中へと入ってしまい、弥生ともども三歳くらいの幼児になってしまった。 「ま、まずい、ガハッ!」 弥生とともに取り落とした拳銃を拾いに行こうとするが、その前に蒼太の腹に強烈な蹴りが入る。 軽くなった蒼太の体が数メートルほど飛んで地面にぶつかった。 「へへ、昔ジョジョを読んでいた時に思ってたんだ。 この『セト神』、ただ幼くするだけじゃなくて一定のタイミングで能力を解除する有用な使い方もできるんじゃないかってなあ~!」 藤崎は悪神の名を持つスタンド『セト神』をあえて解除して、蒼太の意表を突く使い方を思いつき、実行したのだ。 結果としては藤崎の思惑通りになり、蒼太に追いつくのみならず、幼児化させて戦闘力を極限まで奪うまでに至った。 「このまま、受精卵に戻して殺すこともできんだろうが、それじゃ面白くねえ。 殺すついでに俺と弥生ちゃんとのオタノシミを妨害したことを泣いて後悔する様をおがんでやる!」 藤崎は舌なめずりをしながら拳銃を拾って銃口を蒼太に向ける。 自分の異能と性癖が知れ渡ると優勝するにしろ脱出を目指すにしろ、今後が生き延びづらくなるとの焦りから蒼太を殺すことが彼の決定事項である。 藤崎はロリコンなれど本来は快楽殺人鬼ではないのだが、自分にとっては夢と言えた異能を手に入れたことでハイになっており、弥生とのまぐわいを邪魔されたことによる独善的な怒りは殺意へと変わっていた。 大きな力と夢を手に入れてしまってイカれた男に人を殺すことにためらいはない。 蒼太もまた抵抗しようとするが、持っていた拳銃ブローニング・ハイパワーも藤崎の手の中である。 しかも、今までの追跡劇で蒼太が藤崎の能力が一定以上近づかないと使えないことに気づいたことと同じく、藤崎も蒼太の能力が近づかないと使えないことに気づく。 よって、腹話術による反撃を恐れて鎌で切りつけようとはせず一定の距離を保って拳銃での射殺を試みる。 仮に腹話術の射程に入っていたとしても先にセト神の力で受精卵にまで若返らせられて殺害するだろう。 「や、やだ…こないで……」 弥生もまた恐慌状態のためにまともに戦うことはできない。 「待っててね、弥生ちゃん。後で俺が女にしてあげるから」 悪魔のスマイルを弥生に向けながら勝利を確信する藤崎。 万事休すとなったのか蒼太は手元にあった弥生のディパックの中身を藤崎に向けて投げつける。 それはペンやコンパス、一冊の参加者名簿といった参加者共通の支給品だった。 しかし、三歳児まで落ちた腕力故に大した勢いも出ずにそれらは藤崎の足元近くに落ちただけで精一杯であった。 どちらにせよ藤崎に直撃しても大した打撃にはならないだろう。 「これが抵抗のつもりか?」 蒼太の抵抗を嘲笑うは藤崎。 その藤崎は蒼太に向けて銃の照星を合わせる。 さて、腕か足……どこから吹き飛ばしてやろうか、とサディスティックな考えがよぎっている。 そんな時であった。 普通ならあるはずのない出来事が起きる。 「――え?」 突如、足元に投げ込まれた参加者名簿が手榴弾のように爆発し炎上、そして藤崎の両足を粉々に吹き飛ばしたのだ。 足を付け根から失った藤崎が吹き飛ばされて後方へ飛んで地面に落ちる。 同時に大ダメージを受けてスタンドを制御する力を一瞬でも失ったためか、蒼太と弥生は三歳児から元の高校生の姿へと戻った。 ここでタネを明かそう。 蒼太が投げ込んだのはペンやコンパス、参加者名簿といった基本支給品だけではなかった。 NARUTOに登場する手榴弾代わりの物品、起爆札があり、これを爆破したのだ。 しかし投げ込む瞬間にそんな怪しい札があれば警戒して避けてしまうだろう。 そこで蒼太は名簿のページにしおりを入れるように、起爆札を挟み込んだ。 そして全員が共通で持っている上に殺傷力のない普遍的な支給品を投げることで無駄な悪あがきをしているように見せかけて警戒心を薄れさせた。 先ほど藤崎は蒼太の異能を喰らっていたため、物体に殺傷力を加える異能ではないと知っていた故にこれらの物品に対する油断が生まれていた。 結果的に藤崎は地雷を踏んだ人間と同じような悲劇を味わう羽目になる。 「あひィ、あひィ、あひ、うおおおおおおおおおお!! おおおおおおれェェェェェのォォォォォ あしィィィィがァァァァァ~~~!!」 一瞬で両足を失った耐え難い激痛に藤崎は悲鳴をあげてのたうち回る。 両足は血が噴き出しており、傷口は骨と脂身と肉が見えている惨憺たるものであった。 「形勢逆転だな」 「て、てめえ」 「させない、拳銃と支給品は全部没収させてもらう」 「あ……」 元の姿に戻った蒼太が藤崎に迫る。 藤崎は拳銃で蒼太を射殺しようとするが、それより早く蒼太は腹話術と使って藤崎の意識を奪い、操って拳銃と支給品を奪わせた。 「この野郎……」 「ふん」 武器を失ったのなら異能だと藤崎はセト神たる影を再展開させるが、蒼太はこれを躱してブローニングハイパワーから発射されたパラべラム弾が藤崎の左耳に大穴を開けて、再びスタンドが引っ込ませる。 「あひィ!」 「直感だがだいたいわかった。 アンタの異能はその影を踏むか、影を交わらせると発動するんだろ?」 周辺は起爆札による爆発の残滓によって僅かであるが火が移り、明かりがついていた。 これにより藤崎のスタンドの影に気づくことができたのだ。 その影は少なくとも目や嘴らしきものがついているので人のものではない。 そこからこの怪しい影が藤崎の力の源であると気づいた。 ちなみにスタンドは本来はスタンド使いにしか見えないが、バランス調整のためか制限で誰でも見ることができる。 それでも夜間であれば闇の中にある影の見極めは困難であったが、起爆札さえ爆破させなければ、そもそも蒼太を幼くする段階で変なこだわりを持たずに一気に胎児にでもしてしまえば起爆札を使わせずに殺害はできたハズだ。 全ては藤崎の慢心が招いた結果である。 「初見だと強いが、タネさえわかれば余裕……少なくともアンタの異能より、この銃の方が早いね」 「このクソカスがあああああ!」 蒼太の言うとおり、藤崎がスタンド攻撃をするよりは引き金を引く方が早く、両足を失ってしまった藤崎では銃弾を避けることもできない。 チェックメイトである。 (……とはいえ、お姉のためにも人殺しはしたくない。 両足を失った以上は一人で移動はできまい、この殺し合いで誰かに依存しないとこいつは生きていけない。 優勝への望みも絶たれたハズだ。 だが、こいつは反省の色も見せずに僕への闘志も薄れていない……どうするべきか) 戦いにおいて優位に立った蒼太であるが、やはり人殺しへの抵抗はあった。 しかし藤崎の殺意は薄れておらず、仮にそうでなくとも弥生もいるのに殺し合いが終わるまで足のない奴の面倒を見るのは骨が折れる。 見捨てていけば殺し合いに乗った誰かが殺してくれるかもしれないが、少々後味が悪い。 次に見つけた何も知らない参加者に対して藤崎が襲いかからないとも限らないからだ。 どう処断を下すべきか、考えあぐねてきた。 そこへ一匹の妖精が飛んできた。 「ちょっとそこの人間ー! なにしてんのー?!」 「妖精!?」 「空飛ぶ幼女!?」 羽虫かと思いきや、日常でお目にかかれるハズのない小さな存在にギョッとする蒼太と藤崎。 察するに妖精を操れるなどの誰かの異能であろうか? 今さっきの爆発音や銃声に引き寄せられたらしい。 これに対して驚いた蒼太であったが、すぐにこれはチャンスであるとも考える。 相手が殺し合いに乗っていなければ、殺し合いに乗じて弥生をレイプしようとした藤崎を数の差で抑え込んで抵抗できないようにすることもでき、藤崎も優勝を諦めるだろう。 そう考えた蒼太は妖精に声をかけようとする。 「ちょうど良かった、僕は「騙されるな! そいつは殺し合いに乗ってる!!」……なっ!?」 その時である。 蒼太の声を覆いかぶせるように、大声で藤崎はピクシーに呼びかけたのだ。嘘の情報を。 「ま、待て僕は……「助けてくれ! このままじゃ殺されてしまう!!」 蒼太の声をシャットアウトするように、より大きな声で訴えかける藤崎。 加害者が被害者ぶり、被害者を加害者に見せかけるために。 そして、藤崎を聞いたピクシーは。 「なるほどね~。 殺し合いに乗っている上に、女の子に乱暴たんだ~」 「違う!」 ピクシーの視点では両足と支給品を失った満身創痍の藤崎と、銃を構えて相手を殺そうとしているように見える蒼太。 そして蒼太の後ろには乱暴されと思われるぐらい衣がはだけている弥生がいた。 事前の状況を知らなければ、蒼太の方が冷酷な殺人鬼に見えるだろう。 ピクシーの無邪気さの中に殺気が混ざる。 彼女は完全に騙されたのだ。 してやられたと思う蒼太。 それに内心でほくそ笑むは藤崎である。 「女の子に乱暴するやつは死んじゃえば~? ジオ!!」 蒼太を危険人物だとみなしたピクシーの行動は早かった。 小さな両手を蒼太のいる方向へ向けると、蒼太の直上から稲妻が落ちる。 電撃魔法『ジオ』だ。 「くっ……」 反応が間に合い、危険を察知した蒼太は後ろへ飛んで寸でで躱す。 蒼太のように身体能力と反射神経に優れたものでなければ避けることなどできなかった。 そして、肉体的に優れる蒼太でもジオが直撃すれば瀕死の重傷……最悪そのまま死亡するだけの威力がジオにはあった。 「むぅー、避けられちゃった。次は外さないよ!」 (説得は無理か……! だがお姉のためにこんなところで死ぬわけにも!) 一度見てわかったが雷撃のスピードはかなりのものであり、次に撃たれたら避けられないと悟る蒼太。 しかもピクシーがやってきた方面から何人かの人間がやってくる気配がする。 戦うにしても数の差、そして集団戦には向かない腹話術では不利である。 気が立っているピクシーに説得は困難であり、このままだと袋叩きにされてしまう。 そうなれば藤崎の思うツボだ。 弥生を証人にする手もあるが、恐慌状態である現状でまともな証言は望み薄だ。 逆に藤崎の標的にされてしまう。 説得も戦闘も無理だと判断した蒼太は弥生とともにこの場は逃げることを選択する。 立ちふさがる壁としてピクシーがいたが、彼女が攻勢(プレスターン)が回ってくる前に行動に出た。 蒼太は起爆札を貼り付けた警棒を投擲する。 「どこ見て投げてるの?」 投擲先はピクシー……ではなく、彼女より数m上。 ただの暴投か、とピクシーは思ったがそれは誤りであった。 「え?」 蒼太が狙ったのはピクシーの直上にあるいくつもの木の枝。 そこにガサリと葉っぱをかき分け警棒が侵入すると起爆札が爆発し、いくつもの葉や枝が上から落ちてきて、それらにのしかかられたホバリング中の彼女を墜落させた。 「いったぁーーーい!」 「ごめん」 墜落したピクシーに謝りつつ、彼女が動けなくなった隙に弥生の手を引っ張る蒼太。 「あ、あの……」 「来るんだ!」 弥生を置いていくと藤崎が彼女やピクシーの持ち主である参加者たちに何をするかわからないので、今は共に逃げることを選択する。 弥生は未だに藤崎に対する恐怖心が抜けておらず、少なくとも味方ではある蒼太についていくしかなかった。 二人が逃げる方向は危険な藤崎や虎であるフレイスとは逆方向である西側である。 「あいつ……逃がさないんだから!」 ピクシーもただ黙っているだけでなく、葉や枝をかき分けて頭と両腕が自由になったところで遠のいていく蒼太の背中に向けてジオを放とうとする。 「やめてピクシー!」 「待つホ、ピクシー!」 それを止めたのは遅れて現場にやってきたジャックフロストだった。 「どうして止めるの?」 「今魔法を使ったら後ろの人間まで死ぬホ」 「……あの子は人質ってわけね」 蒼太に向けて電撃を当てることは不可能ではなかったが、その場合彼と手を握っている弥生にも通電してダメージを与えてしまう。 弥生は体のいい人質……にピクシーには見えた。 「ピクシー大丈夫!?」 「悪い奴はどこや?」 「ひいひい、待って……二人共足早すぎ」 ジャックフロストに続いて、万緒、そう。 さらに遅れて舞が草むらの中から現れる。 特に悪魔の契約主である万緒は急いで葉と枝に埋もれたピクシーを救助する。 その頃には殺し合いに乗ったと思われる少年と人質の少女はだいぶ離れていた。 「あれが殺し合いに乗っていた人?」 「早く追わんと!」 「ダメよ! どんな装備や異能を持っているかわからないのに深追いすべきじゃないわ。それに……」 殺し合いに乗った者を追いかけようとした万緒とそうを、彼女らよりは冷静であった舞は止める。 それだけでなく、舞の目線の先には両足を失いあちこり火傷だらけの藤崎がいた。 合わせて万緒とそうの目線も藤崎に向く。 「ひっ!」 「うっ……」 「こんな……ひどい」 「助けて、死にたくない……!」 藤崎の痛みに悶える姿と怪我は生々しく、そうは思わず目をそらし、舞は吐き気を覚えながら涙目になる。 万緒は不思議と吐き気も涙も出なかったが、藤崎が可哀想だと思った。 同時に自分たちにほど近い場所で殺し合いが行われたことに、三人の少女はショックを受けた。 先程までの能天気なピクニック気分など、もうない。 「と、とにかく処置しなきゃ……傷口を消毒して、止血しないと」 舞は哀れな犠牲者である藤崎を助けるために支給品にちょうど良い医療品がないかディパックを探す。 しかし、その前にピクシーが待ったをかける。 「待って! 私は回復魔法のディアが使えるよ。繰り返して使えば足も戻るかも」 「回復魔法ですって!」 ディアは傷を癒せる魔法だ。 回復効果自体はさほどでもないが、傷口を塞いで止血するだけなら十分であろう。 さらに何度かかければ失った足も戻ってくるらしい。 「でもディアでこの人間の失った足まで戻ってくるまでやったら、アタシの魔力も対して多くないからスッカラカンになっちゃうね」 「オイラとしては反対だホ。魔力を回復するアテもないのに攻撃手段であるジオや別の機会にいざ傷を治したい時にディアができなくなるホ」 仮に藤崎が足を取り戻すまでディアをかけたら、今後魔力を補充できる手段ができるまで魔法が使えなくなる危険があるので、ピクシーは許可を求めていたのだ。 ……だが怪我の痛みにあえぐ藤崎を見て、少女たちは見捨てることはもちろん、布で縛る程度の簡単な処置で済ますこともできなかった。 彼に対してその苦痛をとってあげたいという気持ちが強くなる。 また止血だけしても彼は逃げる足もないので再び殺し合いに乗った者に狙われた時に殺される危険がある。 彼を守りながら戦うにしても万が一、というころもある。 「お願い万緒。この人に魔法を使ってあげて」 「ピクシーが魔法を使えなくなったら私が代わりの役目をするから、お願いや……」 涙目になって万緒に懇願する舞、そう。 仲魔に対する決定権は万緒が握っているが、彼女自身もまた二人と同じ気持ちであった。 「もちろん、私も二人と同じ気持ちだよ。ジャックフロストもいいよね?」 「……まあ、マオの決定なら従うホ」 「ピクシー、あの人を助けて」 「りょか~い! ディア!」 人修羅たる万緒の指示を受けてピクシーが藤崎に向けて魔法を放つ。 それは破壊の力であるジオとは反対の癒しの力。 「痛みが…足の痛みが消えていく……」 藤崎が幾度かの光に包まれ、かけられる度にその顔から苦しみが消えて安らかなものになり、最後は穴の空いた左耳も無くなった両足も元通りになった。 「ふぅ~、つかれたー」 「ありがとうピクシー、休んでて」 だいぶ疲れた様子のピクシーは手近な木の枝に腰をかける。 本当に魔力を使い切ったようだ。 一方ジャックフロストは起爆札で燃えた木々や木の葉が延焼して燃え広がるのを防ぐために火が小さい内に足で踏むなどして消火していた。 炎や煙で他の殺し合いに乗った者に居場所がバレてしまうのを防ぐための処置である。 「ありがとう、本当にありがとう! もうダメかと思っていた!」 藤崎は少女たちの前で土下座をするように怪我を治してもらったことを感謝した。 その感謝の言葉を聞いて少女たちもまた自分たちの決断に誤りはなかったと思うのだった。 無論、それは偽りの感謝であったが。 藤崎は治らないハズの怪我を治してもらったこと自体は嬉しいが、少女たちへの感謝の気持ちなどない。 (ええい、そうちゃんとピクシーはまだ良いが、胸に脂肪をくっつけた刺青黒豚とゴキブリみたいな髪をしたもやしBBAが邪魔だな……いやセト神で幼女にすれば楽しめそうか?) あるのは性欲のはけ口と彼女らをいかに利用できるかだけであった。 土下座で隠した顔にはあからさまに悪い顔があった。 (無警戒のこいつらにセト神を使えば、全員幼女にできるが、今はまだ我慢だ。 こいつらを騙して利用してあのガキを殺し! 弥生ちゃんを手に入れてやる! ロリレイプハーレムはそれからだ!) 藤崎は少女たちを無力な幼女にして犯す前に、彼女らを騙して蒼太を殺すつもりなのだ。 単純計算で四人+悪魔二匹の異能を相手どることになるのでいくら蒼太でも勝てないだろうという見通しだ。 もちろん追跡の際に弥生から自分の正体が万緒たちにばれる危険はあるが、その時は万緒らを胎児にでも戻して完全に無力化し、蒼太や弥生に従わないと殺すように脅すだけだ。 (まずはここが正念場だ……待ってやがれよ、あの激痛の仕返しに必ず殺してやるからな!) 藤崎の心の中には幼女を犯す欲望と、蒼太に足を一度奪われた逆恨みだけが渦巻いていた。 なるべく自然を装うために、もう少し間を空けてから嘘を吹き込むつもりである。 そんなことを露とも知らずに万緒はチラリと、蒼太の逃げていった方向を見る。 二人はもうほとんど見えない距離、I-3の辺りまで逃げていた。 (殺し合いに乗った恐ろしい人がいる……戦うのは怖いけど、そうちゃんや舞ちゃんのためにもいざという時は……) 万緒は震える手を抑え、拳を握って戦う覚悟を決める。 まさか善意から助けた男こそ悪神の落し子のような者で、殺し合いに乗っていると思っている者が幼馴染であることも知らずに。 【一日目・3時00分/I-3 草原】 【島津 蒼太@『腹話術』/ 魔王JUVENILE REMIX】 [状態]:疲労(大)、腹部にダメージ(中)、顔に返り血 [装備]:FNブローニング・ハイパワー(12/13)、起爆札×3@NARUTO [道具]:支給品一式、食料と水、地図、タバコ、ライター、イグナイトモジュール@戦姫絶唱シンフォギア      小型の鎌、首輪探知機、双眼鏡 [思考・行動] 基本方針:姉のもとへ帰る 1:弥生を連れてどこかへ逃げる。 2:阿良のために助けを呼びたいが…… 3:あのペド(藤崎)を最大限に警戒。ペドを助けた人たちが奴に騙されてなければいいが…… ※腹話術の制約、効果は把握済みですがリスクについては把握していません。 ※藤崎が影に入った相手を幼くする能力を持っていることを把握しました。 【成沢 弥生@呪腕のハサンの能力と技術/Fate/stay night】 [状態]:恐怖(大)、混乱、服があちこちはだけている [装備]:『妄想心音』、クナイ複数本 [道具]:支給品一式、不明支給品×1(確認済み) [思考・行動] 基本方針:正義の忍者として戦う? 0:とにかく彼(蒼太)と一緒に逃げる 1:いやだ 2:こわい。 ※右腕が呪腕化しています。普段は布で覆われています。 ※気配遮断スキルは機能しますが、オリジナルよりある程度劣化しています。 【一日目・3時00分/I-4 草原】 【藤崎直哉@セト神/ジョジョの奇妙な冒険 Part3 スターダストクルセイダース】 [状態]:健康、蒼太への復讐心、素足 [装備]:なし [道具]:なし [思考・行動] 基本方針:幼女に乱暴したい。ロリハーレム! 1:ガキ(蒼太)を追って殺す。そのために万緒たちを騙して利用する 2:目論見がバレたら、スタンドを使って万緒たちを脅す 3:殺し合い?そんなの後回しだ馬鹿! 4:最終的に万緒、そう、舞、弥生、ピクシーをまとめて犯す ※セト神による若返りの効果が解除される条件は以下の通りです。いずれか一つでも満たせば解除されます。 直哉が能力を維持できなくなる程の大きなダメージや物理的衝撃を受ける 直哉が気絶する 直哉から1エリア分以上離れる また、原作とは異なり幼児化によって記憶が当時の状態に戻ることも無いようです。 支給された異能力を除く本人の技能や能力等は原作通り若返った年齢の状態に依存します。 【八神そう@マイティ・ソー/マーベルコミックス】 [状態]:精神疲労(中)、変身中 [装備]:ムジョルニア@マイティ・ソー [道具]:支給品一式、不明支給品0~2、障碍者用杖 [思考・行動] 基本方針:殺し合いには乗らない 0:図書館に行く前に助けた人(藤崎)から事情を聞く 1:図書館はひとまず後回し 2:万緒お姉さんと舞お姉さん、藤崎お兄さんを守る 3:はやてのように戦えるのが理想だけど…… ※マイティ・ソーに変身できることを知りました。マーベル映画知識より、映画で使用した技は概ね使用できます。また変身中は右足の障碍が治ります。 ※サブカル好きがこうじて、人修羅のことも知っていますが、シリーズのゲームは未プレイなため大雑把な内容しか知りません。(主人公が悪魔でありながら悪魔を召喚して戦う程度) ※NARUTOについてはうろ覚えです 【後藤万緒@人修羅/真・女神転生Ⅲ-NOCTURNE】 [状態]:精神疲労(小) [装備]:マロガレ@真・女神転生Ⅲ-NOCTURNE [道具]:支給品一式、仲魔召喚に関するメモ [召喚中]:妖精 ジャックフロスト(健康) 妖精 ピクシー(魔力枯渇) [思考・行動] 基本方針:殺し合いには乗らない、元の体に戻りたい 0:図書館に行く前に助けた人(藤崎)から事情を聞く 1:そうちゃんと舞を守る 2:殺し合いに乗った人(蒼太)を警戒 2:図書館はひとまず後回し 3:この体、直るのかな? ※悪魔召喚能力があることに気づきました。 ※八神そうから大雑把な人修羅の知識を知りました。 ※八神そうの足の障害に気づいてません ※殺し合いに乗っていると思っている男が幼馴染の蒼太だと気づいていません ※悪魔召喚については以下のルールがあります。  ○最大で召喚できる仲魔は三体まで、真・女神転生Ⅲに出てくる悪魔のみ召喚可能  ○後藤万緒が死亡すると仲魔も数時間以内に消滅する  ○仲魔に召喚条件あり。召喚できる仲魔については次の書き手氏にお任せします。   ・妖精 ジャックフロスト、妖精 ピクシー(条件なし)   ・???(第一回放送まで生き延びる)   ・???(第三回放送まで生き延びる)   ・???(第五回放送まで生き延びる)   ・???(参加者を一人殺害する)   ・???(参加者を二人殺害する)   ・???(参加者を三人殺害する) ※仲魔の魔力は時間経過では回復できません  回復には魔力を補給できる支給品が必要になります 【萩原舞@干柿鬼鮫の忍術/NARUTO】 [状態]:疲労(小)、精神疲労(小) [装備]:F2000R(25/30)@とある魔術の禁書目録 [道具]:基本支給品、不明支給品(0~2) [思考・行動] 基本方針:殺し合いには乗らない 0:図書館に行く前に助けた人(藤崎)から事情を聞く 1:異能はあんまり使わないようにしよう 2:このアサルトライフルも漫画やゲームのものなのかな? 3:図書館はひとまず後回し 【支給品紹介】 【イグナイトモジュール@戦姫絶唱シンフォギア】  シンフォギア装者の暴走のメカニズムを解析されて作られた宝石状のモジュール。  装者はこれを使うことで暴走状態と同等の戦闘力を、理性を保ったまま使用できる。  ただしセーフティとして使用制限時間(999カウント)が存在し、0になるとギアが強制的に解除される。  またニグレド→アルベド→ルベドと段階的に力を引き出すことで、カウントが高速で消費される。  使用すると見た目が刺々しい黒を貴重とした悪役みたいな姿になる。  この殺し合いで装者は郷音ツボミしかいないので、実質ツボミ専用強化アイテム。  また、この装備自体にかけられた制限としてカウントがゼロになると再使用不可。 【起爆札@NARUTO】  使用すると爆発する御札。作中描写を見る限り手榴弾程度の爆発力がある。  爆発の原理は不明(原作で解説されていない)だが、ここでは一定以上の衝撃を与えると起爆するものとする。  元は五枚組で支給。 【妖精 ピクシー@真・女神転生Ⅲ-NOCTURNE】  万緒の召喚した仲魔。非常に小さな可愛らしい妖精。  悪魔としては低レベルだが多くのメガテンシリーズで一番最初に仲魔になる。  ディア(回復)、ジオ(電撃)、ラクンダ(防御力減退)、ポズムディ(毒治療)、羽ばたき(風攻撃)などの魔法が使用できるが、魔力(MP)が少ないのですぐ枯渇する。  合体で誕生したわけではないのでメギドラオンを使えたりはしない。 ||時系列順|| |[[ギャルと見るはじめての異能]]|投下順|[[ロクでなし成人男性達と壊れた少女]]| |[[Eye Of The Tiger]]|島津蒼太|| |[[Eye Of The Tiger]]|成沢弥生|| |[[Eye Of The Tiger]]|藤崎直哉|| |[[女三人寄れば姦しい]]|八神そう|| |[[女三人寄れば姦しい]]|後藤万緒|| |[[女三人寄れば姦しい]]|萩原舞||

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