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 鬱蒼とした茂みを走り続ける、一人の走る男の姿がある。  走る男は、お世辞にも恵まれた体格とは言いがたい。  運動をしてないと想像するに難くない、だらしない体格。  センスもあまり感じられない、どこにでもあるファッション。  人によっては、嫌悪や侮蔑の対象の代表格たる姿をした男だ。  しかし、誰が思うだろうか。この身体を動かしているのは、  元々少女だった存在、しかも学園一の美女とまで評された存在など。  この身体の持ち主である大木潮の異能、ボディーチェンジによって身体を入れ替わった少女、  天草ゆたかはブッチャーマンとの戦いに敗れ、今もなお敗走の道をたどっていた。  ゆたかが逃げるまで潮が必死に時間稼ぎをしたお陰で、彼女は無事に逃亡に成功している。 「あ―――」  がむしゃらに走り続け、ゆたかは足を滑らせて派手に転ぶ。  運動不足の身体でがむしゃらに走り続ければ、体力の限界は転ぶに決まっている。  運動嫌いにより、典型的な肥満体となった潮の体躯は、元が小柄な彼女では不慣れなものだ。  元となるギニューも、孫悟空を乗っ取った時に戦闘力が本来のより、かなり低かったのと同じである。 「イタタ・・・・・・」  転びはしたものの、肥満体のお陰でいくらか衝撃は和らげた。  同時に、本来なら当たらないであろう部分までダメージがあるのだが。  顎をさすりながらゆたかは(肥満体においての)すばやい動きで身を起こし、背後を見やる。  こんな派手に転べば敵にとってはチャンスでしかなく、恐怖に染まった顔ですぐに見るが、背後は誰もいない。  ブッチャーマンの姿はないが・・・・・・同時に、自分の―――潮の姿もなかった。  あるはずがなくとも、まだ現実を受け入れられてないのだ。  自分の身体・・・・・・も確かにあるにはあるが、殆ど二の次である。  身体よりも、潮を見捨てて逃げ出したことが一番の後悔だ。  潮は最善だからした行為であり、レイジングハートもそう促した。  わかっている。だからこそ、こうやって逃げていたのだから。  だからと言って彼女は人の死を簡単に受け入れられる存在ではない。  魔法少女に憧れて、しかもあの高町なのはの魔法を得た言うのに、  一人の命を救うことも出来ず死なせてしまい、逆に助けられて。  彼女にとっての憧れた魔法少女とはまったく異なる、陰鬱で悲惨な結果。 「アアッ・・・・・・アアアアアッ!!  涙を流さずにいられるはずがない。可憐な少女の泣き声なんてものはなく、  事情を知らぬ者が見れば、いい年した大人の男が泣きじゃくる、見るに耐えない光景だ。  殺し合いの場であるこの状況では周囲の警戒も怠り、自分の居場所を教えるカモでしかない。 「ウッ・・・・・・」  泣き叫んでいると、聞こえてくるうめき声。  いや、本当は先ほどから呻いてはいたのだが、  ゆたかの声にかき消されて聞こえなかっただけだ。  声のした茂みを掻き分けると、そこに倒れているのは一人の老人。  アイドルの狂気を前にし、右目から光を失った男、レオパルド・ガーネットだ。 『ゆたか、どうしますか?』  汗ばんだ手の中にいるレイジングハートから、問いかけられる。  倒れる老人が、殺し合いに乗った側かどうかの判断は出来ない。  殺し合いに反対していた者達へと襲撃し、逆に致命傷を負わされて、  撤退して今に至っているのかもしれない以上、怪我は判断の基準にならず。  老人を前にゆたかは――― (助け、ないと。)  困ってる人は放っておけない。  優しい彼女には、選ぶことなど最初からなかった。  相手が乗っている可能性が完全に否定できないとしても。  潮を見捨てたように、一つでも後悔したくないから。  慣れない身体で大の大人を担ぐのに時間はかかるが、  なんとか担いで、とりあえず状態が見えにくい茂みから脱出。  傷の箇所は把握して背中の傷を見るべく、うつぶせに寝かせて傷を診る。  傷は決して深いものではなく、今すぐ命に関わる問題ではない。  とはいえ、見るからに痛々しい傷で、見てるだけで胸が痛く感じていた。 「レイジングハート、フィジカルヒールって・・・・・・」  ミッドチルダ式の魔法の一つにはフィジカルヒールと言う、  肉体的な負傷の治癒と言うシンプルな回復魔法が存在する。  レイジングハートに頼もうかと思ったものの、 「できないよね。なのはは一度もつかってないし。」  途中でゆたかも無理だと悟り、声が縮みながら項垂れる。  A’S以前でもクロノが使用しているが、作中でなのはが使用してる描写はない。  (ついでに言うと、フィジカルヒールの名前が判明したのはA’SのDVDの特典でもある)  ないものを異能として支給することはないだろうし、何より肉体の傷を治す魔法だ。  明らかに殺し合いを否定する者には有利であり、なおかつ殺し合いが進まなくなる。  異能を与えるに当たってこちらの性分も理解しているであろう主催者が、  都合よく使用したことがない異能、それも回復魔法をくれるはずがない。  もっともヒューマは一つだけ、参加者に支給した異能の能力を理解してないし、  制限や使い捨てはあれども、回復出来る異能やアイテムに関しても、支給してくれている。  無論、こんなことを考える時点で彼女の支給品でどうにかできるものもなく。  正確にはあったと言うべきか。彼女がこうして動けたのは、潮が仙豆を食べたお陰だ。  あんなものが二つも三つもあったら、所持者が圧倒的有利なので仕方ないが、あれは一つしか支給されてなかった。 「と、なると―――すみません。」  残る可能性は一つ、倒れている老人の支給品だ。  瀕死の人間のデイバッグを漁るなど、端から見れば危険人物そのものだが、  かといってこの傷を放っておくのは、彼女としては出来ない行為でもある。  人気もないので誤解もないと思い、聞こえてはいないだろうが謝罪してから、デイバッグを漁る。 (あった!)  望んでいた物―――避難の際に用いる医療キットを発見し、  中に入っている包帯テープを手に、今度は老人の上着を脱がす。  老人とは言うが、アクションシーンをやるにあたって身体は資本だ。  若者に劣らぬぐらいの、健康的かつ引き締まった体つきをしている。  暗がりもあってか、誰だかわかってないゆたかは驚かされながら、包帯テープを巻く。  多少焦って無駄に使ったものの、さらしのように巻き終え、  右目も同じ要領に巻いて今度は仰向けに、老人のデイバッグを枕代わりにして寝かせる。  出来ることなら集落など民家のある場所で目指したかったが、現在地はD-8。  民家がある場所は周辺の地図には表記されてなく、先ほどでさえ運ぶのに苦労している。  万が一殺し合いに乗った参加者に出会ってしまえば、逃げることは困難を極めるだろう。  怪我人を背負って逃げれるほど恵まれた体躯でもない以上、動かないほうが得策だ。  ―――ああ、いい天気だ。  朝日に照らされながら、レオパルド・ガーネットは目を覚ます。  背伸びをしながらベッドから出て、目覚ましにコーヒーをすすり、朝食を摂る。  快晴の空の下、優雅に過ごせる朝食の時間。平和―――この言葉以外考えられない空間だ。  豪邸の一言に尽きる、一人ではもてあましそうな家で朝食を摂った後、  彼はすばやく身支度を整えて撮影現場へと向かう。 「ハロー! おまたせ~!」 「お、主役がきてくれましたよ!」 「これが終われば打ち上げしましょうか!」 「お、いいねぇ。でも君達、浮かれすぎて手を抜いちゃだめだよ?」 「浮かれてるように見えるのに、一番真摯なレオパルドさんに言われちゃ敵わないなぁ。」  スタッフと談笑して、緊張をほぐす。  本人は本当にただの雑談のつもりではあるのだが、  結果的にそうなって、よりいい物に仕上がる。  大スターでありながら、ユーモアで身近な存在。  それがレオパルド・ガーネットと言う男だ。  撮影はクライマックスの場面の撮影に入っていた。  アメリカンコミックのヒーローのように軽快な動きで進み、  この物語のレオパルドが勤める主人公と、因縁の相手が相対する場面だ。 「残るは、お前さん一人だ。一応聞くが、降参するつもりはないか?」  無駄に開けた、ビルの一室で窓際を眺めていた相手へと言葉を紡ぐ。  広々とした一室は彼のダンディな声がよく響き、残響が消えると相手が振り返る。  縦に赤と白に別れた仮面を被り、真っ黒なローブに身を包む相手は肯定も否定もない沈黙。  静寂は、ほんの数秒の出来事であるにも関わらず、緊張感を走らせるには十分な時間だ。  沈黙を貫きながら、相手は返答のつもりのように、その仮面をはずす。  仮面を外れる音が周囲に響き、それを放り投げ、素顔を白日の下へとさらした。 「お、お前は・・・・・・!?」  絶句。迫真の演技ともいえるレオパルドの表情。  見てはならないものを見たような恐怖に染まった色、例えるなら、青。  だが、これは演技ではない。本当の意味で彼は今の光景に絶句している。  相手の姿が、彼にとって忘れたくても忘れられない相手だからだ。  薄い紅色の長髪、右目に咲いている花。狂気にそまった表情で見る彼女の姿。  唐突に、レオパルドの右目から何かが零れる。何かを感じ、軽く触れてみる。  右目から零れていたのは、二人の髪の色のような、赤い液体―――血だ。  血を認識すると、突然右目の視界が不自然になる。右目の視界が半分ほどずれている。  彼女を捉えているが、彼女の右半分が、空間が切れたかのようにずれていた。  目の錯覚と思い、役を演じるのも忘れて右目をこすってもう一度見る。  再び目を開けば、彼女はいつの間にか距離を詰めており、手に握った剣で――― 「ウワアアアアアアアアアッ!?」 「ハァ、ハァ・・・・・・!!」  絶叫を森に響かせながら、レオパルドは目を覚ました。  気分は最悪だ。あんな夢を見て楽しいと言えるものは極少数だろう。  汗は噴き出し、青ざめた表情は風邪を引いたようにも見えてくる。  息を荒げながら辺りを見渡して、彼女の姿を探してしまう。  夜風にあたり、次第に落ち着きを取り戻し、状況を思い出した。  忘れてはいない。なぜ此処にいるのか、自分は何をしたのか、  そして―――狂気に染まったアイドルの姿を。 「夢、ではないんだな。」  右目に触れながら、レオパルドはつぶやく。  誰が手当てしたのかテープが巻かれ、一応止血は出来ている。  けれど、意識を失う寸前に理解している。もう右目は使い物にならない。  なにも映すことはない。あるとすれば、彼が望まぬ道、優勝による願望を成就させる力だけだろう。  右目一つのために人を殺すなど、今気力があったとしてもしようなどとは思わないが。 「あの、大丈夫ですか? 傷が痛かったりしますか?」  声が落ち着いたのを確認すると、ゆたかは茂みから姿を出して声をかける。  いきなりの絶叫に驚いて、彼女も近くの茂みへと逃げるように隠れていたのだ。  そのだらしない体躯と少々似合わない、非常に丁寧で綺麗な言葉遣い。  どこか違和感を感じるようなその姿をレオパルドが凝視していると、 「あ、殺し合いは乗ってません! といっても信用されるか怪しいですけど。」  ゆたかは凝視しているのを疑っているものだと思い、  両手を広げて敵意がないことを示しながら距離をとる。 「―――戦力的にも足手まといと判断できる傷を負ったこの老いぼれを、  わざわざ気遣っているんだ。君が乗った人とはおもわんさ。まずは、ありがとう。」  テレビのコメントや快夢との邂逅した時のような、  飄々とした態度は取らず、友人と話すようなどこか堅苦しく礼を言う。  取らないと言うよりは、『取れなかった』と言うべきだろうか。  怪人なんて目でもない恐怖を植えつけられたと言ってもいい彼に、  彼女を想起させるトリガーとなる行動を、無意識に避けていたからだ。 「よかった・・・・・・ところで、どこかで会いませんでしたか?」  会話は出来るようなので、ゆたかはホッと胸をなでおろす。  そして声と顔をあわせ、どこかで見覚えがあるような顔だと今になって気づく。 「恐らくテレビの画面越しだろうね。  こんな状態だが、ハリウッドでは何度も主演に出ていたんだよ。  レオパルド・ガーネットという名前ぐらいは知ってるんじゃあないかい?」 「あ、確かに言われてみれば・・・・・・すみません、気づかなくて。」  ゆたかはオタクだが、どちらかと言えば魔法少女のアニメが中心だ。  ハリウッドといえばハリーポッターと言ったものなら身近にはあったりはするが、  暗がりで顔の判断が完璧につかず、その↑包帯で右半分の顔は隠れている状態。  この状態で、彼がレオパルドとすぐ気づけるのは簡単なものではないだろう。  天草家と言う環境から、魔法少女以外も色々知ってはいるものの、  ハリウッドとなると知識は今の時間帯のように、余り明るくはなかった。 「暗い以上しかたないことだ。それで、君の名前を聞かせてくれないか?」 「そういえば名乗ってませんでしたね、私―――」  名乗ろうとした瞬間、言葉が詰まるゆたか。  詰まる理由はただ一つ。この状況、どう説明するべきかを。  身体は大木潮のものだが、意識は天草ゆたかであるこの状況。  一定時間に来る放送でどちらの名前が挙がるのかすら分からない中、  どちらで名乗るべきか。下手を打てば乗ってない人からでも疑われてしまう。 「・・・・・・どうしたんだね?」  名乗ろうとしてまだ名乗らないのでは、  レオパルドが訝るのも至極当然のこと。  時間は残されていない。ゆたかが選んだ選択肢は――― 「えーっと・・・・・・まず、説明しないといけないことがあります。」  正直に、真実を話すこと。  嘘を隠すのは下手ではないが、決して得意といえるわけでもない。、  異能がこの殺し合いにある現状、信じてもらえる可能性が高い事に賭ける。  と言うより、嘘を突き通し続ける自信がないだけなのだが。  自分と潮の邂逅の経緯、ブッチャーマンの邂逅、そして敗走を話す。 「と、言うわけなんですが、信じていただけますか?」  異能の存在で荒唐無稽な話にはなってはないが、  同時に、異能と言う言葉で惑わしにきていると思う可能性も否定は出来ない。  異能だから、と口々にしてしまえばどれが真実か分からなくなってしまう。  真偽の確認が困難なものを利用して、疑心暗鬼を狙う者もいるはずだ。  内心不安でしかないゆたかに対し、レオパルドの返答は――― 「あれか、日本で流行ってる映画。  君の、なんだったか、あれと似た状態だね。」  手をポンと叩くと、驚くほどに、すんなりと受け入れてくれた。  とは言うも、彼とて最初は多少ながらも疑っている部分はあった。  初対面の人間を、この状況下で簡単に信じきれるものは少ない。  特に最初にであったのがアレであれば、仕方のないことだ。  彼女(彼?)の言葉を信用したのは、俳優としての観察眼が理由にある。  ゆたかと騙る潮か、潮を騙るゆたかか、どちらでもない誰かか。  いずれにせよ、信じさせるにはそれ相応の演技力が当然必須だ。  知人に疑われては、どれだけ騙ったところで崩れてしまう策。  あらゆる役になりきった彼からすれば『相手は役になりきれてない』。  だが、その拙さは逆に騙そうとする人と思えず、信用を勝ち取ることになった。 「え、ええ、まあそういうことです。」  先ほどの潮との会話でもそんな話をしたのを思い出し、  苦笑気味にゆたかは言葉を返す。 「元女性となると、不便ではないのかい?」 「住めば都なんでしょうか。特には・・・・・・」  一先ず信用はされた。  こう言うと乗っているようには聞こえるが、  彼女の状況はこの殺し合いの参加者でもトップクラスに異質。  説明して理解される、と言うのは中々難しい。 「それで、レオパルドさんは誰か会えましたか?」  ブッチャーマンのような存在が他にいては危険だ。  情報とは、あるとないとではかなりの優劣が決まる。  特に、殺し合いに乗ってない人の区別が出来るのは大きい。  無論、撹乱する輩もいるかもしれないので厄介ではあるが。 「わた、し、は―――」  情報の共有と言う目的があったが、彼女はやらかしてしまった。  いや、こんなものを想定しろと言うほうが、無理な話ではある。  落ち着いた後は意思疎通が出来るぐらいに、落ち着いていたのだから。  だが、今の彼に過去を振り返らせればどうなるか、予想出来る筈がない。 「―――ウワアアアアアアアアッ!!」  答えようとしたレオパルドの突然の絶叫。  耳をつんざくような悲鳴に、ゆたかも耳を塞がざるを得ない。  右目を押さえ、叫ぶように茂みへと逃げ込む。  吐き気もこみ上げてたが、先ほども吐いたゆえに出すものなどなかった。  トラウマを持つ人はゆたかの周りでも存在はするが、  これほどのレベルの人は、一般的にまず目にすることはない。  突然の行動にゆたかは困惑して唖然としてしまうが、  この光景、と言うよりこういう症状の人に、多少覚えがあった。  兄が見ていた仮面ライダーの一つに、こんな状態の主人公がいた記憶がある。  敵に恐怖し、絶叫を上げた主人公を。 「え、えっと、大丈夫でしょうか・・・・・・」  彼女は学生で、医者を目指してるわけでもない。  こういう時にかけれる言葉なんてものは分からず、  ただ蹲るレオパルドを、心配そうに見て声をかけるだけだ。  聞こえているのか聞こえてないのか、言葉を返さず息を荒げるだけ。  先ほどの叫びは結構響いた。殺し合いに乗った参加者が来る可能性もある。  けれど、彼女は見捨てることはなく、彼が落ち着くのを近くで見守っていた。 「快、夢。」  あれから数分。  未だ息を荒げているが、言葉と受け取れるようなものが聞こえた。 「井上、快夢・・・・・・この名前を、知ってるかい?」  何とか顔を上げて、レオパルドが振り返りゆたかへと問いかける。  震えは止まっておらず、声も今の彼の状態と同じく、寒空の下にいるかのような震え声だ。  顔も青ざめていて、今にも死にそうに見えて、ゆたかも流石に少し引いていた。 「アイドルの井上快夢さん、ですか?」  言葉は理解できた。後はそれに関する言葉を返すだけ。 「―――彼女は、彼女は・・・・・・乗っている、人間だ。」  震えながら紡がれた言葉に、ゆたかの顔に驚嘆の表情が浮かぶ。  日本で有名なアイドルなので、レオパルドよりは身近な存在だ。  サブカルチャーのオタクである彼女でも名前は十分に知っており、  画面越しの存在ではあるのだが、それでも知った人物が乗っているのは、  余り喜ばしいことではない。 「何故乗ってるのか私には理解できなかった。  彼女のいう言葉の意味が、私には理解できない。  理解できたのは、今の彼女は狂っている―――恐ろしいッ・・・・・・!!」  思い出すだけでも傷口が開きそうな感覚に襲われ、  右目に手を当てて、うめき声と共に再びうずくまる。 「もしかして、その傷も・・・・・・」 「・・・・・・憧れた仮面ライダーに、なれたと言うのに、この結果さ。  ヒーローとは、こんなにも難しいことだと、私は思わなかった。」  何度も俳優としてヒーローを演じ続けた。  誰よりもヒーローというものを理解している、  とまではいかないかもしれないが、相応の理解はもっていた。  それでも、彼は憧れた存在になることはできない。  どれだけ演じようと、どれだけ賞を貰おうとも、  彼が受けた殺意と言うものは、究極のところ『演技』でしかない。  本当の殺意を目の当たりにし、彼はヒーローに憧れた夢から覚めた。  今の彼はヒーローに、仮面ライダーに変身することはできない。  故障とか破損ではない。単純に彼が変身を恐れると言う、精神的な問題だ。  変身しようとすれば彼女を思い出す。脚力を活かそうとすれば彼女から逃げたことを思い出す。  仮面ライダーとしての行動、一挙手一投足全てに彼女を想起させるトリガーとなってしまった。  今の彼には変身する行動すら、そのトラウマを想起させるトリガーになっている。  恐怖に屈したヒーローは変身すら出来ない。平成だが、彼の好きな仮面ライダーの一つにもあったことだ。 「・・・・・・私も、同じです。」  夢から覚めた老人に、ゆたかが言葉を返す。 「同じ?」 「私の異能、高町なのはって言う、あるアニメの魔法少女の力だったんです。  レオパルドさん同じで、憧れてた存在だったんですけど、さっき話した通り.....」  彼女も、また同じだ。  殺し合いに乗った狂人との戦いに挑むも、  憧れた魔法少女とは程遠い現実を突きつけられて。 「怖くて、怖くて仕方がないんです。また誰も助けられないかもしれなくて。」  潮のことを思い出し、ゆたかは涙を流す。  自分のせいで死なせてしまったのを、心優しい彼女は傷つかないはずがない。  ほんの数時間、世代も離れていたが、同じ魔法少女を好む同志。  こんな殺し合いで死なせていいような、悪い人間ではない。 「けど―――同時に、もう後悔したくないんです。  潮さんのように、また誰かを見捨てたくありません。」  だからこそ彼女は彼の死から、現実から目を背けない。  恐怖は未だ拭えない。今でさえブッチャーマンや快夢といった存在を前に、  自分は同じ過ちを繰り返してしまうのではないかと身体に震えが走る。  だが、それ以上に、これ以上犠牲者を増やしたくない。  ダークヒーローのような手を汚す覚悟はなくとも、  彼らのような存在を止めなければならない。 「私はこれから、仲間を探そうと思います。  ブッチャーマンを相手に、私だけじゃ太刀打ちできません。  レオパルドさん。一緒に戦ってください、とは言いません。  ただ、同じ考えの人を、立ち向かう人を探してもらえませんか?」  殺し合いを止める為の仲間は必要だ。  今やブッチャーマンの存在は、彼女にとって恐怖の象徴。  鍛えられた警察官でも修羅場を潜った軍人でもない、青春を送る女子高生なのだから当然だ。  加えて、未だ潮の身体に慣れない以上、あの時の練習通りに動けるか怪しくもある。  また、ブッチャーマンの異能は自分の制限もあいまって、上空への対処の手段も持つ。  全体的に彼女が有利になれない状況が多く、一人で勝つことはとても出来ない。  仲間を募ってブッチャーマンのような存在を止める。そのためには仲間がいる。  人を集めることなら傷があっても大丈夫なはずだと思い、彼の返答を待つ。 「・・・・・・人探し、か。  それぐらいなら、引き受けよう。」  あんなことがなければ躊躇うことなく、ともに戦う一歩を踏み出せただろう。  『OK! 君と共に戦おうではないか!』と、普段のノリならそれぐらい言えるはずなのに。  狂気に当てられた彼は、一歩を踏み出すことすら出来ない恐怖を、彼女によって植え付けられた。  変身なんてとても出来たものではない。いても異能すら使えない、ただの負傷者の人間だ。  一人で戦わんとする、彼女の足を引っ張るだけの同行者にはなりたくない。  それは彼の気遣いと同時に、また彼女に会いたくないと言う恐怖からきていた。  彼女と同行すれば、快夢にまた出会ってしまう可能性が、彼を震え上がらせる。 「私は、西へ向かうつもりだが、君は北と南どっちだね?」  西へ向かうとは落ち着いた口調で言うが、  どちらかといえば西へ『逃げたい』が本音だ。  東から逃げた彼に、彼女がいる方角へ行きたいなどとは思わない。 「南へ向かおうと思います。人が多いと思いますから。」  ブッチャーマンがもし動くのならば、きっと集落に向かってると推測できる。  ただの一度しか自分の存在を公に出すことはなかった、その用意周到さ。  間違いなく人並み以上の知性はある。となれば、人が集まる場所を狙うは当然。  先に到着して人を避難させれば、仲間を増やしつつブッチャーマンから助けられる。 「いいよね、レイジングハート。」 『先手を打つ、確かに大事ですね。北も余り人が行くとはいいがたいですし。』  北は人が落ち合うについては不向きか、人が向かいそうな場所が少ない。  ミカン畑や農家が密集してる以上、食料目当てに向かう人は多いはずだ。 「わかった、私は西へ、ミスゆたかは南へ。  落ち合う場所は・・・・・・F-5が、いいだろうね。」 「何もない場所、ですね。」  地図を見ると、F-5は地図上の表記はほぼない。  辛うじて、E-2から続く舗装された道が僅かにエリアの隅にある程度だ。  集合場所ならば、やはり目立つ場所、二人の移動ルートから纏めると、  井戸の家があるE-4辺りの方が適しているとも思えたが、二人の考えは違う。  ゆたかが南下する理由はブッチャーマンが向かう可能性が高く、先回りしたいから。  誰かが来るということは、殺し合いに乗った参加者も多く近づく可能性が高い。  故に集まるなら、何もない場所の方が合流しやすいというのが二人の考えだ。  しかもF-5は舗装された道があるといっても、僅かにあるだけで獣道に近い。  わざわざ舗装された道を歩かない参加者は限られ、先に到着していれば地の利もある。  無論、この場所に誰も来ないとは言い切れないが、来る確率は低いほうだ。  一応ではあるが北西に井戸の家を目印にはなるのも、一つの利点ではある。 「後は時間ですね。第一回放送辺りに落ち合いますか?」 「そうだね、もしも禁止エリアに指定された場合に備えて、  G-4はその際のも集合場所ということにしておこう。  放送から一時間待っても集合しなかったら、待たずに行動、でいいかね?」 「はい、分かりました。」  若干レオパルドに任せきりではあったものの、  行動方針や、いざと言う時の対処も纏まった。  頼れる人がいないかと思われた状況の打開の一歩に、  ゆたかの顔はほころぶ。 「色々ありがとうございます。」  行動方針が決まり、別れる寸前。  ゆたかは頭を深々と下げ、礼を言う。 「気にしないでくれ。もう私には、  これしか出来ないのだから・・・・・・ではミスゆたか、また会おう。」 「はい、また会いましょう。」  レオパルドは西へ、ゆたかは南へとその足を進め、歩き出す。  まだ始まったばかりで終わらない、このバトルロワイアルの打破のため。  レオパルドとゆたか、ヒーローと魔法少女と言う変身系の代表の異能を手にした二人。  どちらもその存在に憧れて、そして夢とはかけ離れた現実を前にして、共に敗北した者達。  創作物、テレビ、演技と言う多数の壁を越えた現実の存在は、年も趣味も関係なく二人を絶望に落とした。  ゆたかは立ち直ったかに見えるが・・・・・・実際の所、レオパルドとそんなに状況は変わってはいない。  ブッチャーマンよりも先に集落へ向かうという名目は確かにあるが、言い換えればブッチャーマンに会いたくないのだ。  人数が足りないとか、レオパルドとの約束の優先とか合理的な問題ではない、彼女の精神的な問題である。  PTSDには至らないが、彼女がブッチャーマンと再び邂逅したそのとき、彼女は平静を保っていられるのか。  一方で、レオパルドはヒーローとして完全に折れたわけでもなかった。  確かに本来のノリに戻れず、変身すら間々ならない、完全に精神をへし折られた男だ。  だが、戦うことを諦めない限り、その者はヒーローの資格は失いはしない。  とある漫画では主人公とは、ヒーローの資格とはそう表現されていた。  彼はどんな形であろうとも、殺し合いを始めたヒューマに対抗しようと殺し合いを否定した。  戦わずして仲間を探すのは逃げだと思いつつも、彼もまたヒーローの資格を失ってはいないのだ。  敗北を知った、傷だらけのヒーローと魔法少女。  親以上に離れた年代二人の正義の味方は、その恐怖を克服できるか。  彼らの歩みだした道でそれが出来るかは、まだわからない。 【1日目 三時以降 D-8】 【天草ゆたか@ミッドチルダ式の魔法/魔法少女リリカルなのはシリーズ】 [状態]:ブッチャーマンに対する恐怖、後悔、魔力消費(中)、大木潮の肉体 [装備]:レイジングハート@魔法少女リリカルなのはシリーズ [道具]:基本支給品、不明支給品0~2(確認済み、傷を治せる道具ではない) [思考・行動] 基本方針:殺し合いを打破する 1:大木さんの分も、戦わないと 2:でも、ブッチャマンは・・・・・・ 3:ブッチャーマンよりも先に集落へ向かい、参加者を探したい 4:第一回放送を目安に南下。E-5かG-4でレオパルドさんと合流 [備考] ※自分の異能を把握しました ※レイジングハートの参戦時期は無印終了後、A‘s開始前です  その為カートリッジシステムは搭載されていません ※制限により5メートル以上の高さは飛べません  (制限だとは何となく把握してるかもしれません) ※ブッチャーマンの異能を鱗赫の赫子だけだと思っています ※レオパルドほどではなくとも、ブッチャーマンを前に落ち着いていられるかは怪しいです ※南へ進みます。徒歩か、飛んでいくか、低空していくかは後続の書き手にお任せします ※まだ潮の肉体になれていません 【レオパルド・ガーネット@仮面ライダーV3への変身/仮面ライダーSPIRITS】 [状態]気絶、右目失明(応急処置済み)、背中から出血(応急処置済み)、疲労(大) 変身解除中 PTSD [装備]変身ベルト [道具]基本支給品、不明支給品(0~1)、医療キット(包帯テープ五割減) [思考・行動] 基本方針:快夢は怖いが、できるだけのことはしたい 1:快夢が怖い 2:変身は・・・・・・できない 3:西へ向かい、参加者を探す 4:第一回放送を目安に、E-5かG-4でミスゆたかと合流 ※医療キットの具体的な中身については、後続の書き手にお任せします ※西へ向かいますが、北西かそのまま西は後続の方にお任せします ※故障ではなく、精神的な問題で変身することが出来ません  具体的に言えば、仮面ライダーWのテラー・ドーパントを前にした翔太郎です 支給品説明 医療キット@現実 避難時などに用いる、比較的コンパクトなタイプの医療キット 医療目当てなので武器として頼れるものは余りないが、 包帯テープを拘束の変わりに用いたり、なんだかんだで応用可能 肝心の医療としては、避難時の応急処置が主で、此方も心もとない ゆたかが慣れなかったがため、包帯テープは必要以上に消費している 何が入ってるかは後続の方にお任せします |[[セトの花嫁]]|時系列順|| |[[ロクでなし成人男性達と壊れた少女]]|投下順|[[図書館についたぞ]]| |[[絶望のU/夢見る少女じゃいられない]]|天草ゆたか|| |[[「夢をあきらめて現実を生きます」]]|レオパルド・ガーネット||
 鬱蒼とした茂みを走り続ける、一人の走る男の姿がある。  走る男は、お世辞にも恵まれた体格とは言いがたい。  運動をしてないと想像するに難くない、だらしない体格。  センスもあまり感じられない、どこにでもあるファッション。  人によっては、嫌悪や侮蔑の対象の代表格たる姿をした男だ。  しかし、誰が思うだろうか。この身体を動かしているのは、  元々少女だった存在、しかも学園一の美女とまで評された存在など。  この身体の持ち主である大木潮の異能、ボディーチェンジによって身体を入れ替わった少女、  天草ゆたかはブッチャーマンとの戦いに敗れ、今もなお敗走の道をたどっていた。  ゆたかが逃げるまで潮が必死に時間稼ぎをしたお陰で、彼女は無事に逃亡に成功している。 「あ―――」  がむしゃらに走り続け、ゆたかは足を滑らせて派手に転ぶ。  運動不足の身体でがむしゃらに走り続ければ、体力の限界は転ぶに決まっている。  運動嫌いにより、典型的な肥満体となった潮の体躯は、元が小柄な彼女では不慣れなものだ。  元となるギニューも、孫悟空を乗っ取った時に戦闘力が本来のより、かなり低かったのと同じである。 「イタタ・・・・・・」  転びはしたものの、肥満体のお陰でいくらか衝撃は和らげた。  同時に、本来なら当たらないであろう部分までダメージがあるのだが。  顎をさすりながらゆたかは(肥満体においての)すばやい動きで身を起こし、背後を見やる。  こんな派手に転べば敵にとってはチャンスでしかなく、恐怖に染まった顔ですぐに見るが、背後は誰もいない。  ブッチャーマンの姿はないが・・・・・・同時に、自分の―――潮の姿もなかった。  あるはずがなくとも、まだ現実を受け入れられてないのだ。  自分の身体・・・・・・も確かにあるにはあるが、殆ど二の次である。  身体よりも、潮を見捨てて逃げ出したことが一番の後悔だ。  潮は最善だからした行為であり、レイジングハートもそう促した。  わかっている。だからこそ、こうやって逃げていたのだから。  だからと言って彼女は人の死を簡単に受け入れられる存在ではない。  魔法少女に憧れて、しかもあの高町なのはの魔法を得た言うのに、  一人の命を救うことも出来ず死なせてしまい、逆に助けられて。  彼女にとっての憧れた魔法少女とはまったく異なる、陰鬱で悲惨な結果。 「アアッ・・・・・・アアアアアッ!!  涙を流さずにいられるはずがない。可憐な少女の泣き声なんてものはなく、  事情を知らぬ者が見れば、いい年した大人の男が泣きじゃくる、見るに耐えない光景だ。  殺し合いの場であるこの状況では周囲の警戒も怠り、自分の居場所を教えるカモでしかない。 「ウッ・・・・・・」  泣き叫んでいると、聞こえてくるうめき声。  いや、本当は先ほどから呻いてはいたのだが、  ゆたかの声にかき消されて聞こえなかっただけだ。  声のした茂みを掻き分けると、そこに倒れているのは一人の老人。  アイドルの狂気を前にし、右目から光を失った男、レオパルド・ガーネットだ。 『ゆたか、どうしますか?』  汗ばんだ手の中にいるレイジングハートから、問いかけられる。  倒れる老人が、殺し合いに乗った側かどうかの判断は出来ない。  殺し合いに反対していた者達へと襲撃し、逆に致命傷を負わされて、  撤退して今に至っているのかもしれない以上、怪我は判断の基準にならず。  老人を前にゆたかは――― (助け、ないと。)  困ってる人は放っておけない。  優しい彼女には、選ぶことなど最初からなかった。  相手が乗っている可能性が完全に否定できないとしても。  潮を見捨てたように、一つでも後悔したくないから。  慣れない身体で大の大人を担ぐのに時間はかかるが、  なんとか担いで、とりあえず状態が見えにくい茂みから脱出。  傷の箇所は把握して背中の傷を見るべく、うつぶせに寝かせて傷を診る。  傷は決して深いものではなく、今すぐ命に関わる問題ではない。  とはいえ、見るからに痛々しい傷で、見てるだけで胸が痛く感じていた。 「レイジングハート、フィジカルヒールって・・・・・・」  ミッドチルダ式の魔法の一つにはフィジカルヒールと言う、  肉体的な負傷の治癒と言うシンプルな回復魔法が存在する。  レイジングハートに頼もうかと思ったものの、 「できないよね。なのはは一度もつかってないし。」  途中でゆたかも無理だと悟り、声が縮みながら項垂れる。  A’S以前でもクロノが使用しているが、作中でなのはが使用してる描写はない。  (ついでに言うと、フィジカルヒールの名前が判明したのはA’SのDVDの特典でもある)  ないものを異能として支給することはないだろうし、何より肉体の傷を治す魔法だ。  明らかに殺し合いを否定する者には有利であり、なおかつ殺し合いが進まなくなる。  異能を与えるに当たってこちらの性分も理解しているであろう主催者が、  都合よく使用したことがない異能、それも回復魔法をくれるはずがない。  もっともヒューマは一つだけ、参加者に支給した異能の能力を理解してないし、  制限や使い捨てはあれども、回復出来る異能やアイテムに関しても、支給してくれている。  無論、こんなことを考える時点で彼女の支給品でどうにかできるものもなく。  正確にはあったと言うべきか。彼女がこうして動けたのは、潮が仙豆を食べたお陰だ。  あんなものが二つも三つもあったら、所持者が圧倒的有利なので仕方ないが、あれは一つしか支給されてなかった。 「と、なると―――すみません。」  残る可能性は一つ、倒れている老人の支給品だ。  瀕死の人間のデイバッグを漁るなど、端から見れば危険人物そのものだが、  かといってこの傷を放っておくのは、彼女としては出来ない行為でもある。  人気もないので誤解もないと思い、聞こえてはいないだろうが謝罪してから、デイバッグを漁る。 (あった!)  望んでいた物―――避難の際に用いる医療キットを発見し、  中に入っている包帯テープを手に、今度は老人の上着を脱がす。  老人とは言うが、アクションシーンをやるにあたって身体は資本だ。  若者に劣らぬぐらいの、健康的かつ引き締まった体つきをしている。  暗がりもあってか、誰だかわかってないゆたかは驚かされながら、包帯テープを巻く。  多少焦って無駄に使ったものの、さらしのように巻き終え、  右目も同じ要領に巻いて今度は仰向けに、老人のデイバッグを枕代わりにして寝かせる。  出来ることなら集落など民家のある場所で目指したかったが、現在地はD-8。  民家がある場所は周辺の地図には表記されてなく、先ほどでさえ運ぶのに苦労している。  万が一殺し合いに乗った参加者に出会ってしまえば、逃げることは困難を極めるだろう。  怪我人を背負って逃げれるほど恵まれた体躯でもない以上、動かないほうが得策だ。  ―――ああ、いい天気だ。  朝日に照らされながら、レオパルド・ガーネットは目を覚ます。  背伸びをしながらベッドから出て、目覚ましにコーヒーをすすり、朝食を摂る。  快晴の空の下、優雅に過ごせる朝食の時間。平和―――この言葉以外考えられない空間だ。  豪邸の一言に尽きる、一人ではもてあましそうな家で朝食を摂った後、  彼はすばやく身支度を整えて撮影現場へと向かう。 「ハロー! おまたせ~!」 「お、主役がきてくれましたよ!」 「これが終われば打ち上げしましょうか!」 「お、いいねぇ。でも君達、浮かれすぎて手を抜いちゃだめだよ?」 「浮かれてるように見えるのに、一番真摯なレオパルドさんに言われちゃ敵わないなぁ。」  スタッフと談笑して、緊張をほぐす。  本人は本当にただの雑談のつもりではあるのだが、  結果的にそうなって、よりいい物に仕上がる。  大スターでありながら、ユーモアで身近な存在。  それがレオパルド・ガーネットと言う男だ。  撮影はクライマックスの場面の撮影に入っていた。  アメリカンコミックのヒーローのように軽快な動きで進み、  この物語のレオパルドが勤める主人公と、因縁の相手が相対する場面だ。 「残るは、お前さん一人だ。一応聞くが、降参するつもりはないか?」  無駄に開けた、ビルの一室で窓際を眺めていた相手へと言葉を紡ぐ。  広々とした一室は彼のダンディな声がよく響き、残響が消えると相手が振り返る。  縦に赤と白に別れた仮面を被り、真っ黒なローブに身を包む相手は肯定も否定もない沈黙。  静寂は、ほんの数秒の出来事であるにも関わらず、緊張感を走らせるには十分な時間だ。  沈黙を貫きながら、相手は返答のつもりのように、その仮面をはずす。  仮面を外れる音が周囲に響き、それを放り投げ、素顔を白日の下へとさらした。 「お、お前は・・・・・・!?」  絶句。迫真の演技ともいえるレオパルドの表情。  見てはならないものを見たような恐怖に染まった色、例えるなら、青。  だが、これは演技ではない。本当の意味で彼は今の光景に絶句している。  相手の姿が、彼にとって忘れたくても忘れられない相手だからだ。  薄い紅色の長髪、右目に咲いている花。狂気にそまった表情で見る彼女の姿。  唐突に、レオパルドの右目から何かが零れる。何かを感じ、軽く触れてみる。  右目から零れていたのは、二人の髪の色のような、赤い液体―――血だ。  血を認識すると、突然右目の視界が不自然になる。右目の視界が半分ほどずれている。  彼女を捉えているが、彼女の右半分が、空間が切れたかのようにずれていた。  目の錯覚と思い、役を演じるのも忘れて右目をこすってもう一度見る。  再び目を開けば、彼女はいつの間にか距離を詰めており、手に握った剣で――― 「ウワアアアアアアアアアッ!?」 「ハァ、ハァ・・・・・・!!」  絶叫を森に響かせながら、レオパルドは目を覚ました。  気分は最悪だ。あんな夢を見て楽しいと言えるものは極少数だろう。  汗は噴き出し、青ざめた表情は風邪を引いたようにも見えてくる。  息を荒げながら辺りを見渡して、彼女の姿を探してしまう。  夜風にあたり、次第に落ち着きを取り戻し、状況を思い出した。  忘れてはいない。なぜ此処にいるのか、自分は何をしたのか、  そして―――狂気に染まったアイドルの姿を。 「夢、ではないんだな。」  右目に触れながら、レオパルドはつぶやく。  誰が手当てしたのかテープが巻かれ、一応止血は出来ている。  けれど、意識を失う寸前に理解している。もう右目は使い物にならない。  なにも映すことはない。あるとすれば、彼が望まぬ道、優勝による願望を成就させる力だけだろう。  右目一つのために人を殺すなど、今気力があったとしてもしようなどとは思わないが。 「あの、大丈夫ですか? 傷が痛かったりしますか?」  声が落ち着いたのを確認すると、ゆたかは茂みから姿を出して声をかける。  いきなりの絶叫に驚いて、彼女も近くの茂みへと逃げるように隠れていたのだ。  そのだらしない体躯と少々似合わない、非常に丁寧で綺麗な言葉遣い。  どこか違和感を感じるようなその姿をレオパルドが凝視していると、 「あ、殺し合いは乗ってません! といっても信用されるか怪しいですけど。」  ゆたかは凝視しているのを疑っているものだと思い、  両手を広げて敵意がないことを示しながら距離をとる。 「―――戦力的にも足手まといと判断できる傷を負ったこの老いぼれを、  わざわざ気遣っているんだ。君が乗った人とはおもわんさ。まずは、ありがとう。」  テレビのコメントや快夢との邂逅した時のような、  飄々とした態度は取らず、友人と話すようなどこか堅苦しく礼を言う。  取らないと言うよりは、『取れなかった』と言うべきだろうか。  怪人なんて目でもない恐怖を植えつけられたと言ってもいい彼に、  彼女を想起させるトリガーとなる行動を、無意識に避けていたからだ。 「よかった・・・・・・ところで、どこかで会いませんでしたか?」  会話は出来るようなので、ゆたかはホッと胸をなでおろす。  そして声と顔をあわせ、どこかで見覚えがあるような顔だと今になって気づく。 「恐らくテレビの画面越しだろうね。  こんな状態だが、ハリウッドでは何度も主演に出ていたんだよ。  レオパルド・ガーネットという名前ぐらいは知ってるんじゃあないかい?」 「あ、確かに言われてみれば・・・・・・すみません、気づかなくて。」  ゆたかはオタクだが、どちらかと言えば魔法少女のアニメが中心だ。  ハリウッドといえばハリーポッターと言ったものなら身近にはあったりはするが、  暗がりで顔の判断が完璧につかず、その↑包帯で右半分の顔は隠れている状態。  この状態で、彼がレオパルドとすぐ気づけるのは簡単なものではないだろう。  天草家と言う環境から、魔法少女以外も色々知ってはいるものの、  ハリウッドとなると知識は今の時間帯のように、余り明るくはなかった。 「暗い以上しかたないことだ。それで、君の名前を聞かせてくれないか?」 「そういえば名乗ってませんでしたね、私―――」  名乗ろうとした瞬間、言葉が詰まるゆたか。  詰まる理由はただ一つ。この状況、どう説明するべきかを。  身体は大木潮のものだが、意識は天草ゆたかであるこの状況。  一定時間に来る放送でどちらの名前が挙がるのかすら分からない中、  どちらで名乗るべきか。下手を打てば乗ってない人からでも疑われてしまう。 「・・・・・・どうしたんだね?」  名乗ろうとしてまだ名乗らないのでは、  レオパルドが訝るのも至極当然のこと。  時間は残されていない。ゆたかが選んだ選択肢は――― 「えーっと・・・・・・まず、説明しないといけないことがあります。」  正直に、真実を話すこと。  嘘を隠すのは下手ではないが、決して得意といえるわけでもない。、  異能がこの殺し合いにある現状、信じてもらえる可能性が高い事に賭ける。  と言うより、嘘を突き通し続ける自信がないだけなのだが。  自分と潮の邂逅の経緯、ブッチャーマンの邂逅、そして敗走を話す。 「と、言うわけなんですが、信じていただけますか?」  異能の存在で荒唐無稽な話にはなってはないが、  同時に、異能と言う言葉で惑わしにきていると思う可能性も否定は出来ない。  異能だから、と口々にしてしまえばどれが真実か分からなくなってしまう。  真偽の確認が困難なものを利用して、疑心暗鬼を狙う者もいるはずだ。  内心不安でしかないゆたかに対し、レオパルドの返答は――― 「あれか、日本で流行ってる映画。  君の、なんだったか、あれと似た状態だね。」  手をポンと叩くと、驚くほどに、すんなりと受け入れてくれた。  とは言うも、彼とて最初は多少ながらも疑っている部分はあった。  初対面の人間を、この状況下で簡単に信じきれるものは少ない。  特に最初にであったのがアレであれば、仕方のないことだ。  彼女(彼?)の言葉を信用したのは、俳優としての観察眼が理由にある。  ゆたかと騙る潮か、潮を騙るゆたかか、どちらでもない誰かか。  いずれにせよ、信じさせるにはそれ相応の演技力が当然必須だ。  知人に疑われては、どれだけ騙ったところで崩れてしまう策。  あらゆる役になりきった彼からすれば『相手は役になりきれてない』。  だが、その拙さは逆に騙そうとする人と思えず、信用を勝ち取ることになった。 「え、ええ、まあそういうことです。」  先ほどの潮との会話でもそんな話をしたのを思い出し、  苦笑気味にゆたかは言葉を返す。 「元女性となると、不便ではないのかい?」 「住めば都なんでしょうか。特には・・・・・・」  一先ず信用はされた。  こう言うと乗っているようには聞こえるが、  彼女の状況はこの殺し合いの参加者でもトップクラスに異質。  説明して理解される、と言うのは中々難しい。 「それで、レオパルドさんは誰か会えましたか?」  ブッチャーマンのような存在が他にいては危険だ。  情報とは、あるとないとではかなりの優劣が決まる。  特に、殺し合いに乗ってない人の区別が出来るのは大きい。  無論、撹乱する輩もいるかもしれないので厄介ではあるが。 「わた、し、は―――」  情報の共有と言う目的があったが、彼女はやらかしてしまった。  いや、こんなものを想定しろと言うほうが、無理な話ではある。  落ち着いた後は意思疎通が出来るぐらいに、落ち着いていたのだから。  だが、今の彼に過去を振り返らせればどうなるか、予想出来る筈がない。 「―――ウワアアアアアアアアッ!!」  答えようとしたレオパルドの突然の絶叫。  耳をつんざくような悲鳴に、ゆたかも耳を塞がざるを得ない。  右目を押さえ、叫ぶように茂みへと逃げ込む。  吐き気もこみ上げてたが、先ほども吐いたゆえに出すものなどなかった。  トラウマを持つ人はゆたかの周りでも存在はするが、  これほどのレベルの人は、一般的にまず目にすることはない。  突然の行動にゆたかは困惑して唖然としてしまうが、  この光景、と言うよりこういう症状の人に、多少覚えがあった。  兄が見ていた仮面ライダーの一つに、こんな状態の主人公がいた記憶がある。  敵に恐怖し、絶叫を上げた主人公を。 「え、えっと、大丈夫でしょうか・・・・・・」  彼女は学生で、医者を目指してるわけでもない。  こういう時にかけれる言葉なんてものは分からず、  ただ蹲るレオパルドを、心配そうに見て声をかけるだけだ。  聞こえているのか聞こえてないのか、言葉を返さず息を荒げるだけ。  先ほどの叫びは結構響いた。殺し合いに乗った参加者が来る可能性もある。  けれど、彼女は見捨てることはなく、彼が落ち着くのを近くで見守っていた。 「快、夢。」  あれから数分。  未だ息を荒げているが、言葉と受け取れるようなものが聞こえた。 「井上、快夢・・・・・・この名前を、知ってるかい?」  何とか顔を上げて、レオパルドが振り返りゆたかへと問いかける。  震えは止まっておらず、声も今の彼の状態と同じく、寒空の下にいるかのような震え声だ。  顔も青ざめていて、今にも死にそうに見えて、ゆたかも流石に少し引いていた。 「アイドルの井上快夢さん、ですか?」  言葉は理解できた。後はそれに関する言葉を返すだけ。 「―――彼女は、彼女は・・・・・・乗っている、人間だ。」  震えながら紡がれた言葉に、ゆたかの顔に驚嘆の表情が浮かぶ。  日本で有名なアイドルなので、レオパルドよりは身近な存在だ。  サブカルチャーのオタクである彼女でも名前は十分に知っており、  画面越しの存在ではあるのだが、それでも知った人物が乗っているのは、  余り喜ばしいことではない。 「何故乗ってるのか私には理解できなかった。  彼女のいう言葉の意味が、私には理解できない。  理解できたのは、今の彼女は狂っている―――恐ろしいッ・・・・・・!!」  思い出すだけでも傷口が開きそうな感覚に襲われ、  右目に手を当てて、うめき声と共に再びうずくまる。 「もしかして、その傷も・・・・・・」 「・・・・・・憧れた仮面ライダーに、なれたと言うのに、この結果さ。  ヒーローとは、こんなにも難しいことだと、私は思わなかった。」  何度も俳優としてヒーローを演じ続けた。  誰よりもヒーローというものを理解している、  とまではいかないかもしれないが、相応の理解はもっていた。  それでも、彼は憧れた存在になることはできない。  どれだけ演じようと、どれだけ賞を貰おうとも、  彼が受けた殺意と言うものは、究極のところ『演技』でしかない。  本当の殺意を目の当たりにし、彼はヒーローに憧れた夢から覚めた。  今の彼はヒーローに、仮面ライダーに変身することはできない。  故障とか破損ではない。単純に彼が変身を恐れると言う、精神的な問題だ。  変身しようとすれば彼女を思い出す。脚力を活かそうとすれば彼女から逃げたことを思い出す。  仮面ライダーとしての行動、一挙手一投足全てに彼女を想起させるトリガーとなってしまった。  今の彼には変身する行動すら、そのトラウマを想起させるトリガーになっている。  恐怖に屈したヒーローは変身すら出来ない。平成だが、彼の好きな仮面ライダーの一つにもあったことだ。 「・・・・・・私も、同じです。」  夢から覚めた老人に、ゆたかが言葉を返す。 「同じ?」 「私の異能、高町なのはって言う、あるアニメの魔法少女の力だったんです。  レオパルドさん同じで、憧れてた存在だったんですけど、さっき話した通り.....」  彼女も、また同じだ。  殺し合いに乗った狂人との戦いに挑むも、  憧れた魔法少女とは程遠い現実を突きつけられて。 「怖くて、怖くて仕方がないんです。また誰も助けられないかもしれなくて。」  潮のことを思い出し、ゆたかは涙を流す。  自分のせいで死なせてしまったのを、心優しい彼女は傷つかないはずがない。  ほんの数時間、世代も離れていたが、同じ魔法少女を好む同志。  こんな殺し合いで死なせていいような、悪い人間ではない。 「けど―――同時に、もう後悔したくないんです。  潮さんのように、また誰かを見捨てたくありません。」  だからこそ彼女は彼の死から、現実から目を背けない。  恐怖は未だ拭えない。今でさえブッチャーマンや快夢といった存在を前に、  自分は同じ過ちを繰り返してしまうのではないかと身体に震えが走る。  だが、それ以上に、これ以上犠牲者を増やしたくない。  ダークヒーローのような手を汚す覚悟はなくとも、  彼らのような存在を止めなければならない。 「私はこれから、仲間を探そうと思います。  ブッチャーマンを相手に、私だけじゃ太刀打ちできません。  レオパルドさん。一緒に戦ってください、とは言いません。  ただ、同じ考えの人を、立ち向かう人を探してもらえませんか?」  殺し合いを止める為の仲間は必要だ。  今やブッチャーマンの存在は、彼女にとって恐怖の象徴。  鍛えられた警察官でも修羅場を潜った軍人でもない、青春を送る女子高生なのだから当然だ。  加えて、未だ潮の身体に慣れない以上、あの時の練習通りに動けるか怪しくもある。  また、ブッチャーマンの異能は自分の制限もあいまって、上空への対処の手段も持つ。  全体的に彼女が有利になれない状況が多く、一人で勝つことはとても出来ない。  仲間を募ってブッチャーマンのような存在を止める。そのためには仲間がいる。  人を集めることなら傷があっても大丈夫なはずだと思い、彼の返答を待つ。 「・・・・・・人探し、か。  それぐらいなら、引き受けよう。」  あんなことがなければ躊躇うことなく、ともに戦う一歩を踏み出せただろう。  『OK! 君と共に戦おうではないか!』と、普段のノリならそれぐらい言えるはずなのに。  狂気に当てられた彼は、一歩を踏み出すことすら出来ない恐怖を、彼女によって植え付けられた。  変身なんてとても出来たものではない。いても異能すら使えない、ただの負傷者の人間だ。  一人で戦わんとする、彼女の足を引っ張るだけの同行者にはなりたくない。  それは彼の気遣いと同時に、また彼女に会いたくないと言う恐怖からきていた。  彼女と同行すれば、快夢にまた出会ってしまう可能性が、彼を震え上がらせる。 「私は、西へ向かうつもりだが、君は北と南どっちだね?」  西へ向かうとは落ち着いた口調で言うが、  どちらかといえば西へ『逃げたい』が本音だ。  東から逃げた彼に、彼女がいる方角へ行きたいなどとは思わない。 「南へ向かおうと思います。人が多いと思いますから。」  ブッチャーマンがもし動くのならば、きっと集落に向かってると推測できる。  ただの一度しか自分の存在を公に出すことはなかった、その用意周到さ。  間違いなく人並み以上の知性はある。となれば、人が集まる場所を狙うは当然。  先に到着して人を避難させれば、仲間を増やしつつブッチャーマンから助けられる。 「いいよね、レイジングハート。」 『先手を打つ、確かに大事ですね。北も余り人が行くとはいいがたいですし。』  北は人が落ち合うについては不向きか、人が向かいそうな場所が少ない。  ミカン畑や農家が密集してる以上、食料目当てに向かう人は多いはずだ。 「わかった、私は西へ、ミスゆたかは南へ。  落ち合う場所は・・・・・・F-5が、いいだろうね。」 「何もない場所、ですね。」  地図を見ると、F-5は地図上の表記はほぼない。  辛うじて、E-2から続く舗装された道が僅かにエリアの隅にある程度だ。  集合場所ならば、やはり目立つ場所、二人の移動ルートから纏めると、  井戸の家があるE-4辺りの方が適しているとも思えたが、二人の考えは違う。  ゆたかが南下する理由はブッチャーマンが向かう可能性が高く、先回りしたいから。  誰かが来るということは、殺し合いに乗った参加者も多く近づく可能性が高い。  故に集まるなら、何もない場所の方が合流しやすいというのが二人の考えだ。  しかもF-5は舗装された道があるといっても、僅かにあるだけで獣道に近い。  わざわざ舗装された道を歩かない参加者は限られ、先に到着していれば地の利もある。  無論、この場所に誰も来ないとは言い切れないが、来る確率は低いほうだ。  一応ではあるが北西に井戸の家を目印にはなるのも、一つの利点ではある。 「後は時間ですね。第一回放送辺りに落ち合いますか?」 「そうだね、もしも禁止エリアに指定された場合に備えて、  G-4はその際のも集合場所ということにしておこう。  放送から一時間待っても集合しなかったら、待たずに行動、でいいかね?」 「はい、分かりました。」  若干レオパルドに任せきりではあったものの、  行動方針や、いざと言う時の対処も纏まった。  頼れる人がいないかと思われた状況の打開の一歩に、  ゆたかの顔はほころぶ。 「色々ありがとうございます。」  行動方針が決まり、別れる寸前。  ゆたかは頭を深々と下げ、礼を言う。 「気にしないでくれ。もう私には、  これしか出来ないのだから・・・・・・ではミスゆたか、また会おう。」 「はい、また会いましょう。」  レオパルドは西へ、ゆたかは南へとその足を進め、歩き出す。  まだ始まったばかりで終わらない、このバトルロワイアルの打破のため。  レオパルドとゆたか、ヒーローと魔法少女と言う変身系の代表の異能を手にした二人。  どちらもその存在に憧れて、そして夢とはかけ離れた現実を前にして、共に敗北した者達。  創作物、テレビ、演技と言う多数の壁を越えた現実の存在は、年も趣味も関係なく二人を絶望に落とした。  ゆたかは立ち直ったかに見えるが・・・・・・実際の所、レオパルドとそんなに状況は変わってはいない。  ブッチャーマンよりも先に集落へ向かうという名目は確かにあるが、言い換えればブッチャーマンに会いたくないのだ。  人数が足りないとか、レオパルドとの約束の優先とか合理的な問題ではない、彼女の精神的な問題である。  PTSDには至らないが、彼女がブッチャーマンと再び邂逅したそのとき、彼女は平静を保っていられるのか。  一方で、レオパルドはヒーローとして完全に折れたわけでもなかった。  確かに本来のノリに戻れず、変身すら間々ならない、完全に精神をへし折られた男だ。  だが、戦うことを諦めない限り、その者はヒーローの資格は失いはしない。  とある漫画では主人公とは、ヒーローの資格とはそう表現されていた。  彼はどんな形であろうとも、殺し合いを始めたヒューマに対抗しようと殺し合いを否定した。  戦わずして仲間を探すのは逃げだと思いつつも、彼もまたヒーローの資格を失ってはいないのだ。  敗北を知った、傷だらけのヒーローと魔法少女。  親以上に離れた年代二人の正義の味方は、その恐怖を克服できるか。  彼らの歩みだした道でそれが出来るかは、まだわからない。 【1日目 三時以降 D-8】 【天草ゆたか@ミッドチルダ式の魔法/魔法少女リリカルなのはシリーズ】 [状態]:ブッチャーマンに対する恐怖、後悔、魔力消費(中)、大木潮の肉体 [装備]:レイジングハート@魔法少女リリカルなのはシリーズ [道具]:基本支給品、不明支給品0~2(確認済み、傷を治せる道具ではない) [思考・行動] 基本方針:殺し合いを打破する 1:大木さんの分も、戦わないと 2:でも、ブッチャマンは・・・・・・ 3:ブッチャーマンよりも先に集落へ向かい、参加者を探したい 4:第一回放送を目安に南下。E-5かG-4でレオパルドさんと合流 [備考] ※自分の異能を把握しました ※レイジングハートの参戦時期は無印終了後、A‘s開始前です  その為カートリッジシステムは搭載されていません ※制限により5メートル以上の高さは飛べません  (制限だとは何となく把握してるかもしれません) ※ブッチャーマンの異能を鱗赫の赫子だけだと思っています ※レオパルドほどではなくとも、ブッチャーマンを前に落ち着いていられるかは怪しいです ※南へ進みます。徒歩か、飛んでいくか、低空していくかは後続の書き手にお任せします ※まだ潮の肉体になれていません 【レオパルド・ガーネット@仮面ライダーV3への変身/仮面ライダーSPIRITS】 [状態]気絶、右目失明(応急処置済み)、背中から出血(応急処置済み)、疲労(大) 変身解除中 PTSD [装備]変身ベルト [道具]基本支給品、不明支給品(0~1)、医療キット(包帯テープ五割減) [思考・行動] 基本方針:快夢は怖いが、できるだけのことはしたい 1:快夢が怖い 2:変身は・・・・・・できない 3:西へ向かい、参加者を探す 4:第一回放送を目安に、E-5かG-4でミスゆたかと合流 ※医療キットの具体的な中身については、後続の書き手にお任せします ※西へ向かいますが、北西かそのまま西は後続の方にお任せします ※故障ではなく、精神的な問題で変身することが出来ません  具体的に言えば、仮面ライダーWのテラー・ドーパントを前にした翔太郎です 支給品説明 医療キット@現実 避難時などに用いる、比較的コンパクトなタイプの医療キット 医療目当てなので武器として頼れるものは余りないが、 包帯テープを拘束の変わりに用いたり、なんだかんだで応用可能 肝心の医療としては、避難時の応急処置が主で、此方も心もとない ゆたかが慣れなかったがため、包帯テープは必要以上に消費している 何が入ってるかは後続の方にお任せします |[[セトの花嫁]]|時系列順|[[Bが知らせるもの/この夜に夢を見る暇は無い]]| |[[ロクでなし成人男性達と壊れた少女]]|投下順|[[図書館についたぞ]]| |[[絶望のU/夢見る少女じゃいられない]]|天草ゆたか|| |[[「夢をあきらめて現実を生きます」]]|レオパルド・ガーネット||

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