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「殺人鬼が虎と戦ってどうすんだ」(2018/07/18 (水) 11:06:54) の最新版変更点
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怪物(ひと)、道端ロクサーヌと人間(おに)、笹原卓の戦いは一進一退だった。
と言っても2人の実力が伯仲していた訳では無い。
怪物と化したロクサーヌの身体能力は、人間である卓より高くなっている。
だから真っ向勝負ならロクサーヌの勝ちは明白だ。
にも関わらず互角なのには理由がある。
1つはロクサーヌが自らの異能に慣れていないからだ。
異能、名状しがたい力は彼女に人間を超えた力を与えた。
だが彼女は殺人はおろか喧嘩すら縁遠い生活を送るモデルである。
そんな彼女にとって与えられた力を操るのは難しく、振り回されるのが精々である。
異能には魔法と空手のスキルを扱うことができる効果もあるが、彼女はそれを把握していない。
もしも把握していれば戦いを有利に出来たかもしれないが、現状彼女に出来るのは身体能力を生かした直接攻撃のみだ。
ならば対峙している殺人鬼、笹原卓が有利なのかと言われるとそんな事はない。
まず単純に、肉体スペックが上がっているロクサーヌとは対照的に卓の身体能力は一般的な男子高校生の平均だ。
そして異能は幻想殺し、右手で触れた異能を打ち消すという強力な物だがリーチが短いという欠点がある。
更に言うと、ロクサーヌの名状しがたい力の様に肉体を変化させる異能に対してどう作用するかも分からない。
触れただけで人間に戻るのか、触れられている間、その場所だけ人間になるのかが卓には想像出来ない。
にも関わらず武器は現状片手剣のみ、なので彼は慎重な戦いを強いられている。
だからこその互角、お互いに決め手に欠けるのが現状だ。
しかしその現状も、まるで薄氷のようにいつ壊れてもおかしくないものだ。
「ハァ……ハァ……」
交戦の中、卓は息を切らす。それでも隙を見せないように心掛けているが、疲労は明白だ。
対するロクサーヌは息を切らすことなく卓を睨んでいる。
単純な身体能力の差が、持久戦という状況で露呈している。
この現状を正しく認識している卓は、思わず頭を抱えたくなりながらも考える。
――現状やっべーぞこれ!?
このままじゃ間違いなく俺は負ける。死にはしないが生きてればいいって問題じゃない。
勝つ手段? ねえよんなもん。単純に力で負けてんだから。
よし逃げるか。いやどうやって?
待て、まだ俺にはこれがある。
そう考えて卓は自分が持つデイパックを見る。
そこにはまだ自分が調べていない支給品がある。
そしてそれを取り出す方法は、既に思いついている。
「外せば負けの一発勝負か……、こういうのも悪くねえな」
この卓の呟きが聞こえたのか、ロクサーヌは構えて警戒する。
最も、その構えも警戒も卓から見れば殺せるレベルに隙のあるものだったが。
「うおおおおおおおおおおおおおおお!!!」
そして卓は前触れもなく叫び、全力を込めて
「いっけええええええええええええええ!!!」
持っていた剣を投げ飛ばした。
「エ?」
ロクサーヌが驚きの声を上げ、注意を剣に向けた瞬間に卓はデイパックに手を入れ、最初に触れた物を引き出す。
何が出るのか分からない、だが卓は己の運を信じる。
――俺の運を舐めるな!
俺は艦○れで島風を建造出来たし、ア○レンならネ○テューヌコラボ全キャラ手に入れた。
いやこれ運の証明にならねえな!
でも殺し合いに乗る率100%の俺をナオ・ヒューマは多分優遇するだろ、主催者的に考えて!
だからいける、大丈夫だ!
半分以上自己暗示だが、とにかく卓は自分を奮起させながら引き出した。
引き出したもの、それは。
「バイク来たあああああああああああああああああああああああああ!!!」
バイクだった。
正式名称はマシンウィンガー、仮面ライダーウィザードの主人公操真晴人が乗るライダーマシンである。
最高速時速260キロと、ライダーマシンとしては低いがバイクとして見るなら十二分に速い。
最も、卓はそれに気付いておらずただのバイクとしか見ていない。
だがそれで今の卓には十分。
バイクを見た卓は迷いも無く飛び乗り、エンジン全開にして逃げ出した。
一方、卓をまんまと逃がしたロクサーヌ。
まさか剣を投げるとは思わなかった、今まで接近戦で戦っていたから。
まさか逃げるとは思わなかった、完全に殺す気で来ていると思っていたから。
いくつも理由が思い浮かぶが、ロクサーヌはそれらを振り払い次にやるべきことを決める。
「追いかけなくてハ!」
正直バイクに速度で追いつける気はしないが、それでもロクサーヌは卓を追いかける為走り出した。
まさかあんな隠し玉があったとハ、と驚きながら。
実際は隠し玉でも何でもなく、卓が半分くらいやけっぱちで賭けてたまたま勝っただけなのだが、ロクサーヌにそれを知るすべはない。
「でも、何デ……」
何で笹原さんは逃げるという選択肢を取れるのか、がロクサーヌには分からなかった。
笹原さんからすればこの場でロクサーヌを殺さなければ、自分が殺し合いに乗っていることが私を通じて広まりかねない筈なのに。
だからこそ絶対に私を殺すまで戦うと思っていた。
なのに現実は恐ろしい程迷いの無い逃走だ。
まるで殺し合いで優勝する為に人を殺すのではなく、人を殺す為に殺しているようだ。
そこまで考えて思い浮かぶのは、卓が少し前にしていたこの発言だ。
『笹原卓は殺人鬼である。だから殺したい、だから殺す』
これを私は本気だと捉えなかった、だがもし本気だと言うのなら――
「彼ハ、私ガ考えていたより遥かニ危険ナ存在カモしれませんネ」
だとすれば急がなければ、とロクサーヌは気持ちが逸る。
それでも卓には追いつけはしないだろう、向こうが止まらない限りは。
◆
虎、フレイスと人間、阿良愛の戦いはフレイスが圧倒的に優勢だった。
なぜかと言うのなら、やはり異能の差が大きい。
愛に与えられた異能、スパルタクスの宝具とスキルは彼女に強力な肉体を与えた。
ダメージを受けると身体に魔力が蓄積され、そのダメージも一定時間で自動回復するのだから肉弾戦ならまず負けることは無いだろう。
だが相手が悪い。
相手はライオンであるフレイス。いくらナイフ1本と格闘術で熊と渡り合える彼女でも、肉体面で言うなら間違いなくフレイスは人間である愛よりも上だ。
更にフレイスの異能はピカピカの実。
光となって光速移動や、レーザーの発射に攻撃を受け流すことが出来る強力な異能だ。
フレイスは未だ完全に使いこなせている訳では無いが、戦いの情勢が変わる訳では無い。
攻撃方法は物理しかない愛とは洒落にならない位相性が悪かった。
更に言うなら、愛が苦境に追い込まれている理由はもう1つある。
それは愛の異能、スパルタクスのスキルの1つ狂化にある。
この狂化の効果は、『常に最も困難な選択をする』と『圧制者を許さない』という風に思考するようになるものだ。
今の所このスキルの効果は微弱だが、それでも働いている。
だからこそ彼女は攻撃が効かない相手に、島津蒼太を逃がすという当初の目的を果たしてなお自分は逃げずに戦っているのだ。
『こんなん楽勝やんwww。
ワイの勝ちは決まりや。終わったらさっき逃げたチビ殺したろか、と思ったけどどこ行ったか分からんな。
まあええわ、どうせ皆殺しやし生きとったら殺したるわ』
そして全てを理解してはいないが、自分が有利だという事は理解しているフレイスは余裕の態度だった。
フレイスからすれば、自分の攻撃は届くのに相手の攻撃は避けられるワンサイドゲームにもほどがある状況だ。
それを理解していなかった時には攻撃を受けたりもしたが、裏を返せば理解すれば攻撃を受けることも無くなる。
懸念を上げるなら、愛が持つ回復能力位だ。しかしそれもフレイスからすれば多少鬱陶しい位しか思っていない。
つまる所、フレイスは調子に乗っていた。
流石にナオ=ヒューマ相手には簡単に勝てない、と思いつつもそれ以外は楽勝だと高を括っていた。
これはただのハンティングだと、そう思っていた。
『ん、なんや?』
さてどうやってこの人間を殺してやろうか、と考えていた所でフレイスは後ろから何らかの音が響いてくることに気付く。
それは故郷の島で幾度も聞いた音、故郷を蹂躙しようとした人間たちが出す無粋な音。
エンジン音だ。
フレイスは後ろを向き、何か、フレイスには分からないがバイクに乗った人間が自分に向かって一直線に走って来ているのを見た。
ここでフレイスは考える。
はっきり言って回避するのは造作もない、だがこの島で得た能力の練習になるのではないかと。
自分はまだこの力を完全に使いこなしているとは言えない。それでもナオ=ヒューマ以外は楽勝だろうが、ヒューマと戦う事も考えておきたかった。
だからこそフレイスは練習の為に、バイクが自分に当たる直前に透明化しバイクを回避することを選んだ。
それがミスとも知らずに。
「どけよおおおおおおおおおおお!」
人間が何か叫んでいるがうでもいい。
フレイスが透明化しバイクがフレイスをすり抜けて進んでいく。
しかし、人間の右手がフレイスに掛かった瞬間
『ぐわあああああああああああああああああ!!!』
「うわあああああああああああああああああ!!!」
透明化が解除され、バイクが体にめり込み、吹き飛ばされた。
それと同時に乗っていた人間も投げ出され、さっきまで戦っていた人間が受けとめたのだがフレイスはそれを感知しない。
そんな事より自分が今受けている激痛の方が問題だ。
バイクはもう1回透明化する事で体から取り除いたが今度は血が止まらない。
『死ぬんか!? ワイは死ぬんか!?
嫌や、死にたない!
死ぬわけにはいかへん!
ワイは人間共を殺さなあかん!
何か手は無いんか!?』
さっきまでの優勢が嘘のように掻き消えるフレイス。
必死になって足で傷口を抑えたり、無駄だと思いつつ周りを見て何か無いか探すフレイス。
すると、さっきまで何もなかったはずの場所に見たことの無いものが落ちていた。
まるで黒い石の様な、不思議な物体。
さらにその横には、なぜか虎にも読める文字で書かれた黒い石の説明書きがあった。
『魔石。使用すればHPを最大値の25%回復するアイテム』
それを見てフレイスは迷うことなく食べた。
どう使えばいいのか分からないが、とりあえず回復という事は体にいい筈。そんな考えで食べた。
それが功を奏したのか、フレイスの体の傷は塞がり血は止まる。
だが内部にダメージは残ったままだ。
『許さんであの人間……!
ワイが絶対にぶち殺したるからな……!!』
バイクに乗っていた人間に殺意を向けるフレイス。
治ったとはいえあそこまでの傷をつけた相手を許す選択肢は、フレイスには無い。
だが彼はもう少し考えるべきだった。
なぜ自分の前にさっきまで無かった石が落ちていたのかを、そうすれば気付けたかもしれない。
自分のデイパックから支給品が零れ落ちたことに。
自分の支給品が、いつの間にか1つ無くなっていることに。
◆
阿良愛は訳が分からなかった。
さっきまで虎と戦っていたと思ったら、いきなりバイクがやってきて虎にぶつかり運転手の少年がこっちに飛んできたので受け止めた。
1行で説明できるが、状況がジェットコースターだ。
「えっと……。あなた、名前は?」
とりあえず受け止めた少年を地面に降ろしながら尋ねる。
少年は、さっき身近にあった危険を感じていないかのように澱みなく答えた。
「笹原卓、ごく普通に高校生やってます」
「私は阿良愛、警察官です!」
「おお、それは有難いですね。
じゃあ早速なんですけど虎をなんとかしてくれませんか? さっきから殺気向けられまくってるんですよ。
いや洒落じゃなく」
「余裕ありますね笹原くん」
「まあ殺意向けられるのはこの殺し合いが初めてじゃないんで。野生動物に襲われるのは初めてですけどね」
どこでそんな経験をしたのか、と愛は聞きたくなったがその前に虎が2人の目の前に立ちはだかった。
虎の目は卓を睨んでおり、彼が言った殺気の下りは嘘でないと明確に示される。
「笹原くんは下がってください、ここが私が戦います」
「下がってたいのはやまやまですけどね……。
でも阿良さんはあの透明化に対する異能を持ってるんですか?」
「私の異能はおそらくですが回復能力なので透明化に対しては力になれません。
ですがこれでも熊殺しと言われたことがあります!」
「虎殺しになってくれませんか。愚地独歩になって頂けませんか!?」
「でも正直物理的な面ならともかく、あの透明化をされると私には成す術はありません。
ですが時間稼ぎ位なら……」
「いや、それなら俺も戦いましょう。
物理面はともかく、異能相手なら俺の立つ瀬もあります。
というか戦闘面で初めて俺異能使うわ、最初が自分の支給品の効果無効ってどういうことだよ」
卓の言葉にどういうつもりなのか、と愛は思う。
警察官である以上一般人を守るのは当たり前だ。
いくらこの殺し合いが異常事態だからと言って一般人を矢面に立たせるつもりは愛には無かった。
「一般人のあなたに矢面に立たせるわけにはいきません」
「んな事言ってる場合じゃないでしょうに……。
てかもう向かってきてんだよ!!」
卓の言葉通りに虎はこっちに向かってきていた。
それもただ走って来るだけじゃない、愛が卓が来る前に見た高速移動だ。
「気を付けてください!」
「分かってますって!」
卓に注意をしながら、前後左右を見張る愛。
自身の動体視力では追い切れない以上、出来るのは向かってきたときに迎撃する事のみ。
虎の足音が前後左右で響く。さっきと同じように凄まじいスピードで。
その音が幾分か続いた所で、紛れるかのように小さな音がした。
その音を愛は知っている。
それは石を飛ばした音だ。
そして狙いは
「笹原くん危ない!」
卓だった。
彼に向かって飛んできた石を愛は咄嗟に受け止めた。そしてその石を見て愛は驚愕する。
それ自体は普通の石だった。だが大きさが違う。
愛に飛んできたのは小石だった、恐らく石をぶつけても大した効果は無いと分かっていたから隙を作る為のものだろう。
だが卓に飛んできたのは大き目の石だ。頭にぶつければ大怪我は間違いのないような大きさの石だった。
これを見て分かる事は、この虎は頭が良いという事だ。
相手をよく見て、それに合わせて効果的な攻撃をする。
野生動物が持つ悪辣さでは無い気がするが、気にしている暇は無い。
「阿良さん後ろ!」
なぜなら虎が石が飛んできた方向とは反対から、愛目がけて飛びかかってきたのだから。
そして押し倒し、動けないようにし愛の頭を噛みちぎろうとする。
「私……!?」
笹原くんじゃないの!? という驚きが愛を支配する。
私を仕留める為に笹原くん狙いに見せたハッタリなのか、それとも邪魔になる私を先に倒したいだけなのか。
それを知るすべは愛には無い。
だがこれだけは分かる。
これはもう虎じゃない。
虎の形をして、野生の力を持っていてもこの周到さは野生動物のそれじゃない。
人間だ。知恵のある人間と同じだ。
性質が悪すぎる。
「畜生が!」
それを見て叫びながら右拳を構え、虎に向かって行く。
愛もまた拳を構え、虎に抵抗しようとする。
だが押さえつけられ上手く動くことが出来ない上に、透明化で無効にされるかもしれないという懸念もあったがそれでも目一杯殴り掛かる。
当然フレイスは透明化で対処しようとする。
「甘いんだよ!」
しかし卓が右拳で虎を殴った瞬間、透明化が解除され虎は殴り飛ばされる。
勿論人間が虎を殴った所で大したダメージを与えられるわけがない。
だが隙は生まれる。
その生まれた隙に、愛もまた殴り飛ばす。
卓と違い十分なダメージを与えて。
「よし!」
大きくのけぞった虎から這い出た愛は、卓を連れて距離を取る。
そしてある程度の距離を取った所で、お互い動くことなく睨みあっていた。
理由は簡単だ。
愛と卓は虎のスピードについて行けず、受け身にならざるを得ない為うかつに動けないから。
そして虎は卓が自分の異能をどうやってか無効にしていると理解し、うかつに近づけなかった。
膠着状態になる2人と1匹、ともすれば永遠すらありえそうなこの現状。
だがその状態は長くは続かなかった。
「見つけましたヨ、笹原サン!」
唐突に女性の声が聞こえた。
声がした方を愛が見ると、そこに居たのは異形だった。
人型ではあるものの、それは人の形をしているだけだ。
警察官として活動し、人の死体すら見たことのある愛でも見覚えの無い怪物。
そんな物が現れ、卓の名前を呼んでいる。
その事実に愛は思わず思考が止まった。
だが卓は思考の止まった愛から、持っているサバイバルナイフをひったくると、なんと虎へ向かって行った。
危ない、と愛は言おうとしたが虎もまた現れた異形に目を奪われていた。
というより、恐怖して動けなかったというのが正しいのだろうか。
野生では絶対に見る事の無い存在に、理解を越えた存在に虎は恐怖したのだ。
その隙を卓は容赦なく突く。
卓はナイフを振るい、虎を斬りつけようとする。
それに気付いた虎は咄嗟に後ろに退く。そのお蔭でナイフの直撃は避けた。
だが虎の片目を傷つけるには十分だった。
片目に傷を負い、咆哮する虎。
卓はすぐにナイフを構えながら、愛の元まで下がる。
しかし虎は愛達に向かってくる事無く、異形を一瞥して逃げ出した。
「助かった……」
「訳じゃありませんよ」
安心する卓と対照的に、未だ臨戦態勢を解かない愛。
それを見た卓は一言。
「ああ、大丈夫ですよ阿良さん。
見た目は怖いかもしれませんけどあの人殺し合いには乗ってませんから」
「本当ですか?」
「本当です」
その言葉を聞いて愛も戦闘態勢を解く。
短時間だが卓は信頼出来る人物だ、と愛は思っていた。
自身を狙う虎相手に、勇気を持って立ち向かえる人。
愛は卓をそんな風に思っていた。
だからこそ、卓がそう言うならあの異形も殺し合いに乗っていないと信じたのだ。
――なら何で一緒に居ないのか?
愛は一瞬そう思ったが、これまでの戦いで疲弊していたのか卓に寄りかかるように気を失った。
◆
完敗だった。
ぐうの音も出ない程の完敗だった。
『油断してもうた……。
これがヒューマのいうイノーって奴かと思って、調子乗ってもうた……』
透明化に高速移動、この2つがあれば楽勝だと高を括ったせいで負けた。
言い訳しようと思えばできるが、仮にも野生で生きてきたフレイス。それが意味の無いことくらいは分かる。
『何やあの人間のイノー、ワイが躱そうと思ってもいきなりそれをでけへんようにするやなんて。
もしかしてあの人間はイノーを使えへんようにするイノーを持っとるんか』
それでもただの肉弾戦なら負ける道理は無かった。
でも負けた、それはなぜか。
『ワイが弱いからや。
人間なんざ余裕やと思ってたワイが弱いからや』
人間は弱い。
銃や罠が無ければ人間なんて余裕で食べられるだけの存在になる。
だが人間は強い。
仲間を集めて道具を持って戦い、あの自然を破壊し恐ろしい勢いで自分の領土にしていった。
そして沢山の仲間を殺してきた。
『やったるわ。今までの傲慢はポイーでいくで。
そしてあのイノーを無効化するイノーを持った人間をぶち殺したるで。
でも疲れたンゴ、その前に少し休まなアカンわこれ』
そう思ったフレイスの前に現れたのは、H-6にある農協の建物。
勿論フレイスに人間の文字は読めないが、とにかく建物であることくらいは分かる。
『雨風しのぐには丁度ええな……。
人の気配もせえへんし、ここで一休みや』
そしてフレイスは農協に入り、体を寝かせて一休みする。
勿論寝る訳では無い、体を休めていても警戒はする。
『待っとれよ、人間共!
ワイは必ず、お前らに勝つで!!』
そして宣戦布告。虎の言葉が人間に分かる訳は無いが、それでも宣言する。
これは狩りでは無いと。
これは殺し合いだと。
この瞬間、フレイスは真にゲームに乗ったのだ。
『にしても最後に見た奴、あれ人間なんか……?』
一抹の疑問を残して。
◆
道端ロクサーヌが見た物、それは虎と戦う殺人鬼。そして殺人鬼と一緒に居た少女。
少女は気を失い、殺人鬼に寄りかかっていた。
それを見たロクサーヌはすぐに殺人鬼、笹原卓の元へ向かう。
「その人ヲ放しナさい!」
「お断りします」
そう言って卓は少女の首に持っていたナイフを向ける。
「いささか月並みですが、動くとこの人の首をナイフで掻き切りますよ」
「あなたハ……! こんな事ヲして恥ずカシくないノですか!?」
「流石に罪悪感は感じてますけど……」
ロクサーヌの問いに答えながら、卓は少女を引きずりつつある場所へ向かう。
「でも捕まりたくないんでしょうがないですよね」
そう言って卓は少女を放す。
それを見たロクサーヌは少女の元へ向かおうとするが
「一歩でも動いてみろ、首は切れなくても頭にナイフを刺すくらいは楽勝だぞ」
卓の言葉で足を止める。
その光景を見ながら卓は目指していた場所に辿り着く。
それはバイク、が倒れている場所だった。
卓はナイフを持ちながらバイクを起こし、そして乗る。
乗ったと同時にナイフを投げ捨て、エンジンを掛けて走り出した。
「もう動いていいですよロクサーヌさん。
あとその人の介抱よろしくお願いしますね」
「待ちナサ……っ」
そう言って卓はロクサーヌが呼び止める間もなく去っていた。
ロクサーヌは少女の元へ行き、状態を確認する。
幸いなことに傷一つ付いていないようだ。
虎と戦い、更に殺人鬼の人質にされたにもかかわらず。
「良かっタデす……」
少女の状態に安心したロクサーヌは、卓が捨てたサバイバルナイフを拾いながらこう思う。
分からない、笹原サンの考えていることが何一つ分からない。
何で阿良さんは殺さなかったのだろうか。
虎と戦っていたから、それどころではなかったのか。
それとも、何か別の理由が……。
ロクサーヌには、殺人鬼の気持ちは分からない。
だがそれでいい、狂人の気持ちなど理解しない方が常人の為なのだから。
◆
殺人鬼はバイクに乗りながら呟く。
「疲れた……、まじダルい……」
だがあの状況で休むわけにはいかず、しょうがないから愛を人質にして逃げ出した。
阿良さんには悪いことをした、と思いつつも卓は次の事を考える。
「虎どうしよっかなー、もう虎優勝エンドでいいんじゃねえの?」
面倒くささの余り自身の生存すら投げ捨てた言動をする卓。
だがすぐに思い直す。
「いや駄目だ、虎に襲われて死ぬなんてただの獣害だ。
どうせ死ぬなら俺は殺人鬼らしく死にたい。高笑いしながら死にたい」
常人には理解不能の願望を掲げながら、卓は走る。
「でも今は休みたい」
常人みたいな願望を口にもしつつ。
【一日目・3時00分/H-6 農協】
【フレイス@ピカピカの実/ワンピース】
[状態]:頭部にダメージ(中)、肉体にダメージ(中)、疲労(小)、片目に傷、腹に傷跡
[装備]:なし
[道具]:基本支給品一式、不明支給品0~2(自力での確認不可)
[思考・行動]
基本方針:人間達を皆殺しにし、ナオ=ヒューマも殺して島に帰るンゴ
1:今は休むンゴ
2:あのイノーを無効化するイノーを持った人間(笹原卓)は絶対にぶち殺したる
3:人の巣(集落)、どないしよ?
4:優勝後にヒューマを殺すために、何か対策も考えとく
5:これがワイのイノーか……
6:あれ(道端ロクサーヌ)人間なんか……?
[備考]
※南の山山頂から見たことで会場の地形や建物の位置を大雑把に把握しました。
※自身の能力(イノー)についてはまだ完全に把握できていません。
またピカピカの実による攻撃透過などの詳しい能力制限に関しては後の書き手にお任せします。
※支給品の入っているディパックを自分で確認することができません。
食料のみ開始地点に配置されていました。
支給食料(新鮮な雉の死骸)×3はH-3のどこかに埋めてあります。
※強い衝撃を受けると、支給品がデイパックから零れ落ちる事があります。
フレイスはこの事に気付いていません。
※自身の支給品が1つ減ったことに気付いていません。
※人間(笹原卓)の異能を『イノーを無効化するイノー』だと思っています
【一日目・3時00分/H-5 草原】
【道端ロクサーヌ@名状しがたい力(ウズラ)/SAVE】
[状態]:怒り、困惑
[装備]:サバイバルナイフ
[道具]:基本支給品一式、不明支給品×1~3、君島蛍の持ち物(基本支給品一式、不明支給品×0~2、指パッチンのやり方を書いた紙)
[思考・行動]
基本方針:ナオ=ヒューマの打破、もしくは殺し合いからの脱出
1:この少女(阿良愛)を介抱する
2:笹原卓を止める、殺しはしない
3:殺し合いに乗っていない人々と合流
4:殺し合いに乗った人も可能であれば説得
5:すぐにでも元の姿には戻りたいが、そのために他人を犠牲にしない
6:何か顔を覆えるものが欲しい
[備考]
※自分の姿が異形のものになっていると確認しました。使える技そのものは把握しきっていません。
※君島蛍の能力が指パッチンで物を切断するものだと知りました
【阿良 愛@スパルタクスの宝具とスキル/Fate】
[状態]:魔力蓄積(小)、体力消耗(中)、疲労(大) 、気絶
[装備]: 防弾防刃ベスト
[道具]:支給品一式
[思考・行動]
基本方針:圧制者を潰す。
1:気絶中
2:虎を倒す。最悪、島津蒼太が逃げきるまで時間を稼ぐ。
3:一般人を保護する。
4:圧制を許さない
※『今の所』狂化スキルの効果は微弱です。しかし圧制者が目の前に現れればその限りではありません。
※宝具によって驚異的な再生能力を得ていますが、『頭部および心臓の大規模な破壊』『首輪爆破』には再生が働かず死亡します。
※ダメージと共に魔力が少しずつ蓄積していきます。最大値まで蓄積されると魔力の制御が出来なくなり、暴走状態に陥ります。
【笹原卓@幻想殺し/とある魔術の禁書目録】
[状態]:疲労(中)
[装備]:マシンウィンガー@仮面ライダーウィザード(運転中)
[道具]:基本支給品、不明支給品(0~1)
[思考・行動]
基本方針:楽しく気ままに人殺し
1:とりあえず今は逃げる
2:阿良さんには悪いことしたとは思うけど、休みたい
3:虎(フレイス)対策を考える
4:ロクサーヌさんも増田も後でいい
5:月宮のダーリンっぽい奴(赤毛のイケメン)はなるだけ殺さない
6:郷音ツボミに会ったら増田ユーリのことを聞いてみる
[備考]
※自身の異能について把握しました
※どこに向かうかは次の書き手氏にお任せします
【マシンウィンガー@仮面ライダーウィザード】
操真晴人が乗るライダーマシン。
内部には多彩な魔法石が組み込まれているが燃料はガソリン。
最高時速は260km。
【魔石@真・女神転生Ⅲ-NOCTURNE】
使用すればHPを最大値の25%回復するアイテム。
本ロワでは悪魔に限らず参加者なら誰にでも使える。
※G-5のどこかに片手剣が放置されています。
|[[Bが知らせるもの/この夜に夢を見る暇は無い]]|時系列順||
|[[Bが知らせるもの/この夜に夢を見る暇は無い]]|投下順||
|[[Eye Of The Tiger]]|フレイス||
|[[さあここに築いて見せろ 天に届く死体(ヒト)の山を]]|道端ロクサーヌ||
|[[Eye Of The Tiger]]|阿良 愛||
|[[さあここに築いて見せろ 天に届く死体(ヒト)の山を]]|笹原卓||
怪物(ひと)、道端ロクサーヌと人間(おに)、笹原卓の戦いは一進一退だった。
と言っても2人の実力が伯仲していた訳では無い。
怪物と化したロクサーヌの身体能力は、人間である卓より高くなっている。
だから真っ向勝負ならロクサーヌの勝ちは明白だ。
にも関わらず互角なのには理由がある。
1つはロクサーヌが自らの異能に慣れていないからだ。
異能、名状しがたい力は彼女に人間を超えた力を与えた。
だが彼女は殺人はおろか喧嘩すら縁遠い生活を送るモデルである。
そんな彼女にとって与えられた力を操るのは難しく、振り回されるのが精々である。
異能には魔法と空手のスキルを扱うことができる効果もあるが、彼女はそれを把握していない。
もしも把握していれば戦いを有利に出来たかもしれないが、現状彼女に出来るのは身体能力を生かした直接攻撃のみだ。
ならば対峙している殺人鬼、笹原卓が有利なのかと言われるとそんな事はない。
まず単純に、肉体スペックが上がっているロクサーヌとは対照的に卓の身体能力は一般的な男子高校生の平均だ。
そして異能は幻想殺し、右手で触れた異能を打ち消すという強力な物だがリーチが短いという欠点がある。
更に言うと、ロクサーヌの名状しがたい力の様に肉体を変化させる異能に対してどう作用するかも分からない。
触れただけで人間に戻るのか、触れられている間、その場所だけ人間になるのかが卓には想像出来ない。
にも関わらず武器は現状片手剣のみ、なので彼は慎重な戦いを強いられている。
だからこその互角、お互いに決め手に欠けるのが現状だ。
しかしその現状も、まるで薄氷のようにいつ壊れてもおかしくないものだ。
「ハァ……ハァ……」
交戦の中、卓は息を切らす。それでも隙を見せないように心掛けているが、疲労は明白だ。
対するロクサーヌは息を切らすことなく卓を睨んでいる。
単純な身体能力の差が、持久戦という状況で露呈している。
この現状を正しく認識している卓は、思わず頭を抱えたくなりながらも考える。
――現状やっべーぞこれ!?
このままじゃ間違いなく俺は負ける。死にはしないが生きてればいいって問題じゃない。
勝つ手段? ねえよんなもん。単純に力で負けてんだから。
よし逃げるか。いやどうやって?
待て、まだ俺にはこれがある。
そう考えて卓は自分が持つデイパックを見る。
そこにはまだ自分が調べていない支給品がある。
そしてそれを取り出す方法は、既に思いついている。
「外せば負けの一発勝負か……、こういうのも悪くねえな」
この卓の呟きが聞こえたのか、ロクサーヌは構えて警戒する。
最も、その構えも警戒も卓から見れば殺せるレベルに隙のあるものだったが。
「うおおおおおおおおおおおおおおお!!!」
そして卓は前触れもなく叫び、全力を込めて
「いっけええええええええええええええ!!!」
持っていた剣を投げ飛ばした。
「エ?」
ロクサーヌが驚きの声を上げ、注意を剣に向けた瞬間に卓はデイパックに手を入れ、最初に触れた物を引き出す。
何が出るのか分からない、だが卓は己の運を信じる。
――俺の運を舐めるな!
俺は艦○れで島風を建造出来たし、ア○レンならネ○テューヌコラボ全キャラ手に入れた。
いやこれ運の証明にならねえな!
でも殺し合いに乗る率100%の俺をナオ・ヒューマは多分優遇するだろ、主催者的に考えて!
だからいける、大丈夫だ!
半分以上自己暗示だが、とにかく卓は自分を奮起させながら引き出した。
引き出したもの、それは。
「バイク来たあああああああああああああああああああああああああ!!!」
バイクだった。
正式名称はマシンウィンガー、仮面ライダーウィザードの主人公操真晴人が乗るライダーマシンである。
最高速時速260キロと、ライダーマシンとしては低いがバイクとして見るなら十二分に速い。
最も、卓はそれに気付いておらずただのバイクとしか見ていない。
だがそれで今の卓には十分。
バイクを見た卓は迷いも無く飛び乗り、エンジン全開にして逃げ出した。
一方、卓をまんまと逃がしたロクサーヌ。
まさか剣を投げるとは思わなかった、今まで接近戦で戦っていたから。
まさか逃げるとは思わなかった、完全に殺す気で来ていると思っていたから。
いくつも理由が思い浮かぶが、ロクサーヌはそれらを振り払い次にやるべきことを決める。
「追いかけなくてハ!」
正直バイクに速度で追いつける気はしないが、それでもロクサーヌは卓を追いかける為走り出した。
まさかあんな隠し玉があったとハ、と驚きながら。
実際は隠し玉でも何でもなく、卓が半分くらいやけっぱちで賭けてたまたま勝っただけなのだが、ロクサーヌにそれを知るすべはない。
「でも、何デ……」
何で笹原さんは逃げるという選択肢を取れるのか、がロクサーヌには分からなかった。
笹原さんからすればこの場でロクサーヌを殺さなければ、自分が殺し合いに乗っていることが私を通じて広まりかねない筈なのに。
だからこそ絶対に私を殺すまで戦うと思っていた。
なのに現実は恐ろしい程迷いの無い逃走だ。
まるで殺し合いで優勝する為に人を殺すのではなく、人を殺す為に殺しているようだ。
そこまで考えて思い浮かぶのは、卓が少し前にしていたこの発言だ。
『笹原卓は殺人鬼である。だから殺したい、だから殺す』
これを私は本気だと捉えなかった、だがもし本気だと言うのなら――
「彼ハ、私ガ考えていたより遥かニ危険ナ存在カモしれませんネ」
だとすれば急がなければ、とロクサーヌは気持ちが逸る。
それでも卓には追いつけはしないだろう、向こうが止まらない限りは。
◆
虎、フレイスと人間、阿良愛の戦いはフレイスが圧倒的に優勢だった。
なぜかと言うのなら、やはり異能の差が大きい。
愛に与えられた異能、スパルタクスの宝具とスキルは彼女に強力な肉体を与えた。
ダメージを受けると身体に魔力が蓄積され、そのダメージも一定時間で自動回復するのだから肉弾戦ならまず負けることは無いだろう。
だが相手が悪い。
相手はライオンであるフレイス。いくらナイフ1本と格闘術で熊と渡り合える彼女でも、肉体面で言うなら間違いなくフレイスは人間である愛よりも上だ。
更にフレイスの異能はピカピカの実。
光となって光速移動や、レーザーの発射に攻撃を受け流すことが出来る強力な異能だ。
フレイスは未だ完全に使いこなせている訳では無いが、戦いの情勢が変わる訳では無い。
攻撃方法は物理しかない愛とは洒落にならない位相性が悪かった。
更に言うなら、愛が苦境に追い込まれている理由はもう1つある。
それは愛の異能、スパルタクスのスキルの1つ狂化にある。
この狂化の効果は、『常に最も困難な選択をする』と『圧制者を許さない』という風に思考するようになるものだ。
今の所このスキルの効果は微弱だが、それでも働いている。
だからこそ彼女は攻撃が効かない相手に、島津蒼太を逃がすという当初の目的を果たしてなお自分は逃げずに戦っているのだ。
『こんなん楽勝やんwww。
ワイの勝ちは決まりや。終わったらさっき逃げたチビ殺したろか、と思ったけどどこ行ったか分からんな。
まあええわ、どうせ皆殺しやし生きとったら殺したるわ』
そして全てを理解してはいないが、自分が有利だという事は理解しているフレイスは余裕の態度だった。
フレイスからすれば、自分の攻撃は届くのに相手の攻撃は避けられるワンサイドゲームにもほどがある状況だ。
それを理解していなかった時には攻撃を受けたりもしたが、裏を返せば理解すれば攻撃を受けることも無くなる。
懸念を上げるなら、愛が持つ回復能力位だ。しかしそれもフレイスからすれば多少鬱陶しい位しか思っていない。
つまる所、フレイスは調子に乗っていた。
流石にナオ=ヒューマ相手には簡単に勝てない、と思いつつもそれ以外は楽勝だと高を括っていた。
これはただのハンティングだと、そう思っていた。
『ん、なんや?』
さてどうやってこの人間を殺してやろうか、と考えていた所でフレイスは後ろから何らかの音が響いてくることに気付く。
それは故郷の島で幾度も聞いた音、故郷を蹂躙しようとした人間たちが出す無粋な音。
エンジン音だ。
フレイスは後ろを向き、何か、フレイスには分からないがバイクに乗った人間が自分に向かって一直線に走って来ているのを見た。
ここでフレイスは考える。
はっきり言って回避するのは造作もない、だがこの島で得た能力の練習になるのではないかと。
自分はまだこの力を完全に使いこなしているとは言えない。それでもナオ=ヒューマ以外は楽勝だろうが、ヒューマと戦う事も考えておきたかった。
だからこそフレイスは練習の為に、バイクが自分に当たる直前に透明化しバイクを回避することを選んだ。
それがミスとも知らずに。
「どけよおおおおおおおおおおお!」
人間が何か叫んでいるがうでもいい。
フレイスが透明化しバイクがフレイスをすり抜けて進んでいく。
しかし、人間の右手がフレイスに掛かった瞬間
『ぐわあああああああああああああああああ!!!』
「うわあああああああああああああああああ!!!」
透明化が解除され、バイクが体にめり込み、吹き飛ばされた。
それと同時に乗っていた人間も投げ出され、さっきまで戦っていた人間が受けとめたのだがフレイスはそれを感知しない。
そんな事より自分が今受けている激痛の方が問題だ。
バイクはもう1回透明化する事で体から取り除いたが今度は血が止まらない。
『死ぬんか!? ワイは死ぬんか!?
嫌や、死にたない!
死ぬわけにはいかへん!
ワイは人間共を殺さなあかん!
何か手は無いんか!?』
さっきまでの優勢が嘘のように掻き消えるフレイス。
必死になって足で傷口を抑えたり、無駄だと思いつつ周りを見て何か無いか探すフレイス。
すると、さっきまで何もなかったはずの場所に見たことの無いものが落ちていた。
まるで黒い石の様な、不思議な物体。
さらにその横には、なぜか虎にも読める文字で書かれた黒い石の説明書きがあった。
『魔石。使用すればHPを最大値の25%回復するアイテム』
それを見てフレイスは迷うことなく食べた。
どう使えばいいのか分からないが、とりあえず回復という事は体にいい筈。そんな考えで食べた。
それが功を奏したのか、フレイスの体の傷は塞がり血は止まる。
だが内部にダメージは残ったままだ。
『許さんであの人間……!
ワイが絶対にぶち殺したるからな……!!』
バイクに乗っていた人間に殺意を向けるフレイス。
治ったとはいえあそこまでの傷をつけた相手を許す選択肢は、フレイスには無い。
だが彼はもう少し考えるべきだった。
なぜ自分の前にさっきまで無かった石が落ちていたのかを、そうすれば気付けたかもしれない。
自分のデイパックから支給品が零れ落ちたことに。
自分の支給品が、いつの間にか1つ無くなっていることに。
◆
阿良愛は訳が分からなかった。
さっきまで虎と戦っていたと思ったら、いきなりバイクがやってきて虎にぶつかり運転手の少年がこっちに飛んできたので受け止めた。
1行で説明できるが、状況がジェットコースターだ。
「えっと……。あなた、名前は?」
とりあえず受け止めた少年を地面に降ろしながら尋ねる。
少年は、さっき身近にあった危険を感じていないかのように澱みなく答えた。
「笹原卓、ごく普通に高校生やってます」
「私は阿良愛、警察官です!」
「おお、それは有難いですね。
じゃあ早速なんですけど虎をなんとかしてくれませんか? さっきから殺気向けられまくってるんですよ。
いや洒落じゃなく」
「余裕ありますね笹原くん」
「まあ殺意向けられるのはこの殺し合いが初めてじゃないんで。野生動物に襲われるのは初めてですけどね」
どこでそんな経験をしたのか、と愛は聞きたくなったがその前に虎が2人の目の前に立ちはだかった。
虎の目は卓を睨んでおり、彼が言った殺気の下りは嘘でないと明確に示される。
「笹原くんは下がってください、ここが私が戦います」
「下がってたいのはやまやまですけどね……。
でも阿良さんはあの透明化に対する異能を持ってるんですか?」
「私の異能はおそらくですが回復能力なので透明化に対しては力になれません。
ですがこれでも熊殺しと言われたことがあります!」
「虎殺しになってくれませんか。愚地独歩になって頂けませんか!?」
「でも正直物理的な面ならともかく、あの透明化をされると私には成す術はありません。
ですが時間稼ぎ位なら……」
「いや、それなら俺も戦いましょう。
物理面はともかく、異能相手なら俺の立つ瀬もあります。
というか戦闘面で初めて俺異能使うわ、最初が自分の支給品の効果無効ってどういうことだよ」
卓の言葉にどういうつもりなのか、と愛は思う。
警察官である以上一般人を守るのは当たり前だ。
いくらこの殺し合いが異常事態だからと言って一般人を矢面に立たせるつもりは愛には無かった。
「一般人のあなたに矢面に立たせるわけにはいきません」
「んな事言ってる場合じゃないでしょうに……。
てかもう向かってきてんだよ!!」
卓の言葉通りに虎はこっちに向かってきていた。
それもただ走って来るだけじゃない、愛が卓が来る前に見た高速移動だ。
「気を付けてください!」
「分かってますって!」
卓に注意をしながら、前後左右を見張る愛。
自身の動体視力では追い切れない以上、出来るのは向かってきたときに迎撃する事のみ。
虎の足音が前後左右で響く。さっきと同じように凄まじいスピードで。
その音が幾分か続いた所で、紛れるかのように小さな音がした。
その音を愛は知っている。
それは石を飛ばした音だ。
そして狙いは
「笹原くん危ない!」
卓だった。
彼に向かって飛んできた石を愛は咄嗟に受け止めた。そしてその石を見て愛は驚愕する。
それ自体は普通の石だった。だが大きさが違う。
愛に飛んできたのは小石だった、恐らく石をぶつけても大した効果は無いと分かっていたから隙を作る為のものだろう。
だが卓に飛んできたのは大き目の石だ。頭にぶつければ大怪我は間違いのないような大きさの石だった。
これを見て分かる事は、この虎は頭が良いという事だ。
相手をよく見て、それに合わせて効果的な攻撃をする。
野生動物が持つ悪辣さでは無い気がするが、気にしている暇は無い。
「阿良さん後ろ!」
なぜなら虎が石が飛んできた方向とは反対から、愛目がけて飛びかかってきたのだから。
そして押し倒し、動けないようにし愛の頭を噛みちぎろうとする。
「私……!?」
笹原くんじゃないの!? という驚きが愛を支配する。
私を仕留める為に笹原くん狙いに見せたハッタリなのか、それとも邪魔になる私を先に倒したいだけなのか。
それを知るすべは愛には無い。
だがこれだけは分かる。
これはもう虎じゃない。
虎の形をして、野生の力を持っていてもこの周到さは野生動物のそれじゃない。
人間だ。知恵のある人間と同じだ。
性質が悪すぎる。
「畜生が!」
それを見て叫びながら右拳を構え、虎に向かって行く。
愛もまた拳を構え、虎に抵抗しようとする。
だが押さえつけられ上手く動くことが出来ない上に、透明化で無効にされるかもしれないという懸念もあったがそれでも目一杯殴り掛かる。
当然フレイスは透明化で対処しようとする。
「甘いんだよ!」
しかし卓が右拳で虎を殴った瞬間、透明化が解除され虎は殴り飛ばされる。
勿論人間が虎を殴った所で大したダメージを与えられるわけがない。
だが隙は生まれる。
その生まれた隙に、愛もまた殴り飛ばす。
卓と違い十分なダメージを与えて。
「よし!」
大きくのけぞった虎から這い出た愛は、卓を連れて距離を取る。
そしてある程度の距離を取った所で、お互い動くことなく睨みあっていた。
理由は簡単だ。
愛と卓は虎のスピードについて行けず、受け身にならざるを得ない為うかつに動けないから。
そして虎は卓が自分の異能をどうやってか無効にしていると理解し、うかつに近づけなかった。
膠着状態になる2人と1匹、ともすれば永遠すらありえそうなこの現状。
だがその状態は長くは続かなかった。
「見つけましたヨ、笹原サン!」
唐突に女性の声が聞こえた。
声がした方を愛が見ると、そこに居たのは異形だった。
人型ではあるものの、それは人の形をしているだけだ。
警察官として活動し、人の死体すら見たことのある愛でも見覚えの無い怪物。
そんな物が現れ、卓の名前を呼んでいる。
その事実に愛は思わず思考が止まった。
だが卓は思考の止まった愛から、持っているサバイバルナイフをひったくると、なんと虎へ向かって行った。
危ない、と愛は言おうとしたが虎もまた現れた異形に目を奪われていた。
というより、恐怖して動けなかったというのが正しいのだろうか。
野生では絶対に見る事の無い存在に、理解を越えた存在に虎は恐怖したのだ。
その隙を卓は容赦なく突く。
卓はナイフを振るい、虎を斬りつけようとする。
それに気付いた虎は咄嗟に後ろに退く。そのお蔭でナイフの直撃は避けた。
だが虎の片目を傷つけるには十分だった。
片目に傷を負い、咆哮する虎。
卓はすぐにナイフを構えながら、愛の元まで下がる。
しかし虎は愛達に向かってくる事無く、異形を一瞥して逃げ出した。
「助かった……」
「訳じゃありませんよ」
安心する卓と対照的に、未だ臨戦態勢を解かない愛。
それを見た卓は一言。
「ああ、大丈夫ですよ阿良さん。
見た目は怖いかもしれませんけどあの人殺し合いには乗ってませんから」
「本当ですか?」
「本当です」
その言葉を聞いて愛も戦闘態勢を解く。
短時間だが卓は信頼出来る人物だ、と愛は思っていた。
自身を狙う虎相手に、勇気を持って立ち向かえる人。
愛は卓をそんな風に思っていた。
だからこそ、卓がそう言うならあの異形も殺し合いに乗っていないと信じたのだ。
――なら何で一緒に居ないのか?
愛は一瞬そう思ったが、これまでの戦いで疲弊していたのか卓に寄りかかるように気を失った。
◆
完敗だった。
ぐうの音も出ない程の完敗だった。
『油断してもうた……。
これがヒューマのいうイノーって奴かと思って、調子乗ってもうた……』
透明化に高速移動、この2つがあれば楽勝だと高を括ったせいで負けた。
言い訳しようと思えばできるが、仮にも野生で生きてきたフレイス。それが意味の無いことくらいは分かる。
『何やあの人間のイノー、ワイが躱そうと思ってもいきなりそれをでけへんようにするやなんて。
もしかしてあの人間はイノーを使えへんようにするイノーを持っとるんか』
それでもただの肉弾戦なら負ける道理は無かった。
でも負けた、それはなぜか。
『ワイが弱いからや。
人間なんざ余裕やと思ってたワイが弱いからや』
人間は弱い。
銃や罠が無ければ人間なんて余裕で食べられるだけの存在になる。
だが人間は強い。
仲間を集めて道具を持って戦い、あの自然を破壊し恐ろしい勢いで自分の領土にしていった。
そして沢山の仲間を殺してきた。
『やったるわ。今までの傲慢はポイーでいくで。
そしてあのイノーを無効化するイノーを持った人間をぶち殺したるで。
でも疲れたンゴ、その前に少し休まなアカンわこれ』
そう思ったフレイスの前に現れたのは、H-6にある農協の建物。
勿論フレイスに人間の文字は読めないが、とにかく建物であることくらいは分かる。
『雨風しのぐには丁度ええな……。
人の気配もせえへんし、ここで一休みや』
そしてフレイスは農協に入り、体を寝かせて一休みする。
勿論寝る訳では無い、体を休めていても警戒はする。
『待っとれよ、人間共!
ワイは必ず、お前らに勝つで!!』
そして宣戦布告。虎の言葉が人間に分かる訳は無いが、それでも宣言する。
これは狩りでは無いと。
これは殺し合いだと。
この瞬間、フレイスは真にゲームに乗ったのだ。
『にしても最後に見た奴、あれ人間なんか……?』
一抹の疑問を残して。
◆
道端ロクサーヌが見た物、それは虎と戦う殺人鬼。そして殺人鬼と一緒に居た少女。
少女は気を失い、殺人鬼に寄りかかっていた。
それを見たロクサーヌはすぐに殺人鬼、笹原卓の元へ向かう。
「その人ヲ放しナさい!」
「お断りします」
そう言って卓は少女の首に持っていたナイフを向ける。
「いささか月並みですが、動くとこの人の首をナイフで掻き切りますよ」
「あなたハ……! こんな事ヲして恥ずカシくないノですか!?」
「流石に罪悪感は感じてますけど……」
ロクサーヌの問いに答えながら、卓は少女を引きずりつつある場所へ向かう。
「でも捕まりたくないんでしょうがないですよね」
そう言って卓は少女を放す。
それを見たロクサーヌは少女の元へ向かおうとするが
「一歩でも動いてみろ、首は切れなくても頭にナイフを刺すくらいは楽勝だぞ」
卓の言葉で足を止める。
その光景を見ながら卓は目指していた場所に辿り着く。
それはバイク、が倒れている場所だった。
卓はナイフを持ちながらバイクを起こし、そして乗る。
乗ったと同時にナイフを投げ捨て、エンジンを掛けて走り出した。
「もう動いていいですよロクサーヌさん。
あとその人の介抱よろしくお願いしますね」
「待ちナサ……っ」
そう言って卓はロクサーヌが呼び止める間もなく去っていた。
ロクサーヌは少女の元へ行き、状態を確認する。
幸いなことに傷一つ付いていないようだ。
虎と戦い、更に殺人鬼の人質にされたにもかかわらず。
「良かっタデす……」
少女の状態に安心したロクサーヌは、卓が捨てたサバイバルナイフを拾いながらこう思う。
分からない、笹原サンの考えていることが何一つ分からない。
何で阿良さんは殺さなかったのだろうか。
虎と戦っていたから、それどころではなかったのか。
それとも、何か別の理由が……。
ロクサーヌには、殺人鬼の気持ちは分からない。
だがそれでいい、狂人の気持ちなど理解しない方が常人の為なのだから。
◆
殺人鬼はバイクに乗りながら呟く。
「疲れた……、まじダルい……」
だがあの状況で休むわけにはいかず、しょうがないから愛を人質にして逃げ出した。
阿良さんには悪いことをした、と思いつつも卓は次の事を考える。
「虎どうしよっかなー、もう虎優勝エンドでいいんじゃねえの?」
面倒くささの余り自身の生存すら投げ捨てた言動をする卓。
だがすぐに思い直す。
「いや駄目だ、虎に襲われて死ぬなんてただの獣害だ。
どうせ死ぬなら俺は殺人鬼らしく死にたい。高笑いしながら死にたい」
常人には理解不能の願望を掲げながら、卓は走る。
「でも今は休みたい」
常人みたいな願望を口にもしつつ。
【一日目・3時00分/H-6 農協】
【フレイス@ピカピカの実/ワンピース】
[状態]:頭部にダメージ(中)、肉体にダメージ(中)、疲労(小)、片目に傷、腹に傷跡
[装備]:なし
[道具]:基本支給品一式、不明支給品0~2(自力での確認不可)
[思考・行動]
基本方針:人間達を皆殺しにし、ナオ=ヒューマも殺して島に帰るンゴ
1:今は休むンゴ
2:あのイノーを無効化するイノーを持った人間(笹原卓)は絶対にぶち殺したる
3:人の巣(集落)、どないしよ?
4:優勝後にヒューマを殺すために、何か対策も考えとく
5:これがワイのイノーか……
6:あれ(道端ロクサーヌ)人間なんか……?
[備考]
※南の山山頂から見たことで会場の地形や建物の位置を大雑把に把握しました。
※自身の能力(イノー)についてはまだ完全に把握できていません。
またピカピカの実による攻撃透過などの詳しい能力制限に関しては後の書き手にお任せします。
※支給品の入っているディパックを自分で確認することができません。
食料のみ開始地点に配置されていました。
支給食料(新鮮な雉の死骸)×3はH-3のどこかに埋めてあります。
※強い衝撃を受けると、支給品がデイパックから零れ落ちる事があります。
フレイスはこの事に気付いていません。
※自身の支給品が1つ減ったことに気付いていません。
※人間(笹原卓)の異能を『イノーを無効化するイノー』だと思っています
【一日目・3時00分/H-5 草原】
【道端ロクサーヌ@名状しがたい力(ウズラ)/SAVE】
[状態]:怒り、困惑
[装備]:サバイバルナイフ
[道具]:基本支給品一式、不明支給品×1~3、君島蛍の持ち物(基本支給品一式、不明支給品×0~2、指パッチンのやり方を書いた紙)
[思考・行動]
基本方針:ナオ=ヒューマの打破、もしくは殺し合いからの脱出
1:この少女(阿良愛)を介抱する
2:笹原卓を止める、殺しはしない
3:殺し合いに乗っていない人々と合流
4:殺し合いに乗った人も可能であれば説得
5:すぐにでも元の姿には戻りたいが、そのために他人を犠牲にしない
6:何か顔を覆えるものが欲しい
[備考]
※自分の姿が異形のものになっていると確認しました。使える技そのものは把握しきっていません。
※君島蛍の能力が指パッチンで物を切断するものだと知りました
【阿良 愛@スパルタクスの宝具とスキル/Fate】
[状態]:魔力蓄積(小)、体力消耗(中)、疲労(大) 、気絶
[装備]: 防弾防刃ベスト
[道具]:支給品一式
[思考・行動]
基本方針:圧制者を潰す。
1:気絶中
2:虎を倒す。最悪、島津蒼太が逃げきるまで時間を稼ぐ。
3:一般人を保護する。
4:圧制を許さない
※『今の所』狂化スキルの効果は微弱です。しかし圧制者が目の前に現れればその限りではありません。
※宝具によって驚異的な再生能力を得ていますが、『頭部および心臓の大規模な破壊』『首輪爆破』には再生が働かず死亡します。
※ダメージと共に魔力が少しずつ蓄積していきます。最大値まで蓄積されると魔力の制御が出来なくなり、暴走状態に陥ります。
【笹原卓@幻想殺し/とある魔術の禁書目録】
[状態]:疲労(中)
[装備]:マシンウィンガー@仮面ライダーウィザード(運転中)
[道具]:基本支給品、不明支給品(0~1)
[思考・行動]
基本方針:楽しく気ままに人殺し
1:とりあえず今は逃げる
2:阿良さんには悪いことしたとは思うけど、休みたい
3:虎(フレイス)対策を考える
4:ロクサーヌさんも増田も後でいい
5:月宮のダーリンっぽい奴(赤毛のイケメン)はなるだけ殺さない
6:郷音ツボミに会ったら増田ユーリのことを聞いてみる
[備考]
※自身の異能について把握しました
※どこに向かうかは次の書き手氏にお任せします
【マシンウィンガー@仮面ライダーウィザード】
操真晴人が乗るライダーマシン。
内部には多彩な魔法石が組み込まれているが燃料はガソリン。
最高時速は260km。
【魔石@真・女神転生Ⅲ-NOCTURNE】
使用すればHPを最大値の25%回復するアイテム。
本ロワでは悪魔に限らず参加者なら誰にでも使える。
※G-5のどこかに片手剣が放置されています。
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