その始まりは喜劇 ◆LJGPFoTaW6


島津蒼太にとって世界とは常に暴力と共にあった。
別に彼自身はさほど暴力を振るうのは好きではない。
しかし彼の体の小ささと女顔、両目の色が違うという事実は否応無く排斥をもたらし、彼をそちらの道へ引きずり込んだ。

高校に上がるまで絡んでくる相手と繰り広げたいざこざの数は、百からはもう数えていない。

昔診察を受けた医師の話では何でも脳内分泌物やホルモンバランス、成長異常により幸運にも自分は人並みより少し上の力を振るえるそうだが、彼にとってはどうでもいい事だった。
人並み以上と言っても喧嘩番長と言うくらいだし、それなら普通の容姿の方が百倍は欲しいと思えた。

当然ながら蒼太に友達は少ない。
トラブルに巻き込むことを考えたら別段欲しいとも思わないが。
なんせ雪だるま式にトラブルは増え、ここ一年はヤクザ崩れの手合いと事を構え、銃を撃ったことだってあるのだ。
付き合う方も命がけと言うものだろう。
中学の頃は後藤万緒という腐れ縁の幼馴染がいたがそれも昔の話だ。

「お姉……」

そんな彼にも、顧みてくれる人は一人だけいる。
彼の姉、島津■■■。
いつだって彼女だけは蒼太の味方だった。

自分が死んだら、
もし誰かを殺したら、あの姉はどう思うだろうか?
多分泣くと思う。

「それは、やだな」

自分より強い彼女が泣くのは、見たくないと思った。
例えシチューを作って帰りを待ってくれていたとしても、泣かれたらしょっぱくなってしまうかもしれない。
出来る事なら、誰も殺すことなく帰りたい。
尤も、彼に与えられた最大の武器である”異能”ははずれも良い所だったが。
『腹話術』
射程距離と言う制約がある癖に、忘年会の一発芸位にしか使い道の無さそうな力。
こんなのでどうしろと言うのか。

「あのヒューマだかへちまだか、僕を生き残らせる気ないだろ……」

思わず毒づき、支給品である手の中の拳銃を弄る。
FNブローニング・ハイパワー。
幸いにも半年ほど前にヤクザの出来損ないのチンピラ相手にぶっ放した銃と一致していたが、どうにも超能力者相手に拳銃一丁で歯が立つ光景が浮かばない。
かませ犬が関の山だろう。

「ま、でも、なるようになるさ」

幾ら考えても現時点では出たとこ勝負にならざるを得ない。
もしかしたら本当にドッキリかもしれないし。
まずは一服しようとベルトに拳銃を刺し、非行少年らしく幸運にも没収を免れたタバコにライターで火をつけようとしたその時だった。

「ハーイ、そこの今にも道を踏み外しそうなチビッ子。タバコは後十年は早いですよー」

十年じゃあ無い。三年だ。
そう心中で呟きながら億劫に振り向く。
こんなことをのたまう人種は、教師か、或いは―――

「こんな変な催しの最中じゃなかったら補導しちゃいますからね?」

警察だろう。
どちらも蒼太の好きな人種では無い。

現れたのは頑丈そうなベストに身を包んだ若い女性。
茶がかった髪をサイドテール、快活そうな童顔、そしてぶ厚いベストの上からでも分かるくらい、そのバストは豊満であった。


ただの豊満でない。鍛え上げたインナーマッスルにしっかりと支えられた立派な胸部装甲。
見てわかる美人だったが、二頭筋や体幹の精悍さから同時にメスゴリラであることも伺える。

「何だ、ポリさんか」
「ポ、ポリって……」

淡白な応対をしてくる少年の態度に対し―――新人婦警、阿良愛は納得がいかなかった。
法の守り手たる警察と言う響きは、相手が非行に絶賛走っている少年とは言え、混迷した状況下では精神的支柱になると彼女は疑っていなかったのだが。
ぶっちゃけると頼られると思っていた。

「何か反応薄くないですか?ホ、ホラ警察手帳」
「いや別に疑っては無いけど、こういう時警察って大抵役に立たないし」
「ムム……!」

それがお約束と言うものだ。
事実、愛にもこの状況は何が何やらなので返す言葉も無い。
だがしかし、と愛は蒼太を見つめ言う。

「それでも!私はこの集団拉致と殺人を犯した『圧制者』の傲慢と強者の驕りを叩き潰してみせますよ!!」
「…………?」

愛のその言葉と表情に蒼太は僅かに眉を顰めた。
今までの人生経験上、危機に対する嗅覚には自信がある。
彼のそんな嗅覚は目の前の正義感に燃える女性の言葉の違和感を目ざとく嗅ぎ取っていた。
普通こういう時は、一般時の保護を第一に口にするべきではないか?
別にヒューマを打倒するという決意事態はおかしい物ではないが……
何にせよこの女性は早死にするタイプだ、間違いない。だって圧制者の下りの時の眼がヤバかった。
巻き添えを食わないよう、どうにか別れる方向に話を持っていこうと話を切り替える。

「あー、うん。そのベストは見たところ支給品か何か?」
「えぇ、防弾防刃の優れもの、らしいですよ。後ナイフが入ってました。
能力についてはよく解りません!きっとあの男の与太話でしょう!」

自信満々にゆさっ、と胸を張る愛。
成程彼女自身の戦闘能力を考えれば武器以上の当たりだろう。
だが、超能力者が跋扈しているかもしれないこの島でそれはどれほどの強みになるだろうか。
駄目だ。素の強さが逆にカモになる未来しか見えない。

「……そう、それじゃ聞きたいことも聞けたのでこれで」
「待ちなさい」

穏当に回れ右をしようとしていた蒼太の肩が掴まれる。めっちゃ痛い。
本当にゴリラもかくやの握力だった。

「何です?僕はポリさんの活躍を邪魔にならない場所で隠れながら期待させてもらおうと思ってるけど」
「そんな訳にはいきませんよ。一般人の『女の子』をこんなところに一人でブラブラさせたら警察官失格でしょう!」
「もしかして天然かポリさん…!」

他人には礼儀正しくと、姉の教えの言いつけから逸脱し、地金が出る。
確かに背も小さいし女顔、ハスキーボイスと役満だが、普通は気づくだろう。
少しカチンときた蒼太はあることを思いつく。
どうせ離れるつもりがないなら、彼女で自分の能力を試してみよう、と。

口に手を持っていき、響き渡らない程度に叫ぶ。

「「ピカチュウ!!!」」

言葉が紡がれると同時に肩の拘束が緩まり、するりと脱出。
まさか本当に成功すると思っていなかったので蒼太自身少し面食らった。

「……あれ?」

愛はさらに怪訝に思ったようで、棒立ちのままポカンとした表情を浮かべる。

「…ホントにできるんだ」
「ちょ、ちょっと。何かしましたか今?」
「え?うわちょっ」

驚いているところに愛の馬鹿力で引っ張られ、よろめく。
無論愛の方はそのままなら小揺るぎもしなかったが、先ほどと同じく蒼太は運悪く左手の甲で口を覆ってしまった。
丁度、腹話術を発動するときと同じように。

「「あっ」」

結果、腹話術の発動により彼女まで倒れこむ事となる。
効果が切れると同時にぐに、と愛は左手に奇妙な感触を覚えた。
丁度女性なら何の感触もしないであろう場所に。
具体的に言えば、蒼太の下半身に。
ついでに言うなら彼女は初心であった。

「―――――!??!!?」

…。
……。
…………。

顔を赤くしながら幽鬼のようにゆらりと立ち、ブツブツと何某か呟く愛を見て蒼太は青ざめる。

「圧制」
「え」

見下ろす愛の顔は笑っていた。
その笑みを見て、蒼太はさらに確信を深める。
ああやっぱり、この女性はとびきりの厄ネタだと――――――


その後、二十分ほど彼の生死をかけた追いかけっこが繰り広げられた。
スパルタクスの敏捷値が高かったら彼はここで死んでいたのは間違いない。



【一日目・1時00分/I-4】

【島津 蒼太@『腹話術』/ 魔王JUVENILE REMIX】
[状態]:全力逃走中
[装備]:FNブローニング・ハイパワー
[道具]:支給品一式、タバコ、ライター、不明支給品×2(確認済み)
[思考・行動]
基本方針:姉のもとへ帰る
1:助けて
2:助けろ
※ドッキリではないかと少し思っています。
※腹話術の制約、効果は把握済みですがリスクについては把握していません。

【阿良 愛@スパルタクスの宝具とスキル/Fate】
[状態]:追跡中(次の話にはもう終わっているだろう)
[装備]: 防弾防刃ベスト
[道具]:支給品一式、サバイバルナイフ
[思考・行動]
基本方針:圧制者を潰す。
1: 一般人を保護する。
2:圧制を許さない
※『今の所』狂化スキルの効果は微弱です。しかし圧制者が目の前に現れればその限りではありません。

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