日本人とイギリス人のハーフの少女、鏑木シリカにとって生きるとは地獄と同義だ。
 彼女にとって、己の人生は不幸しか無いのだから。

 5歳で両親を亡くしたシリカは、その後親戚をたらいまわしにされた。
 今から考えれば当然である、誰が好き好んで親のいない子供を引き取るのだ。
 だがそれは今だから分かる道理であって当時は知らなかった。
 親戚の誰からも冷遇され、自分はこの世界で必要とされていないのかとも思った。

 その後、紆余曲折の果てに遠縁の親戚を名乗る男に引き取られる。
 だがそこで待っていたのは虐待の日々だった。

 イギリス人の血が濃く出たのか、シリカは日本人離れした容姿をしている。
 幸か不幸か大抵の人間が見れば整った容姿をしているので、アイドルやモデルをやれば彼女は十分な評価を得る事が出来るだろう。

 しかしその親戚はその容姿を理由に暴力を振るってきた。
 殴る蹴るは当たり前。
 酷い時には熱湯を身体にかけることだってある。
 おかげで体は青痣に火傷の痕だらけになり、我慢する事だけが特技になった。

 勿論本音を言うならこんな状況さっさと抜け出したい。
 だがこの状況を人に話してどうなると言うのだろう。
 警察に通報すればすぐに警官がやってきて、あの親戚を逮捕してくれるのだろうか。
 そんなはずがない。いいとこ児童相談所止まりだろう。
 児童相談所にしたってすぐに虐待を止められるわけがない。
 児童相談所が虐待の事実を把握していながら止められず子供が死んだケースなどいくらでもある。

 冗談じゃない。自分がそのケースの一つになって死ぬなんて嫌だ。
 だからシリカは隠す。ボロボロのパーカーとズボン、そして厚着で自らの傷跡を隠す。
 そうしていれば死ぬことは無い、死ぬほどの暴行を加えられることは無い。

 とはいえストレスは溜まる。むしろこの生活でストレスが溜まらない方がおかしい。
 そこでこっそり始めたのが犬や猫の殺害だ。

 最初は軽くいじめるだけだった。
 明らかに小さい犬猫の子供を狙い、殴ったりして痛めつけるだけだった。
 しかしそれが徐々にエスカレートし、ついに猫を殺害してしまった。

 その時、シリカは幸せな気分になった。
 これまでの人生では味わえず、これからの人生でも味わうことは無いだろうと思っていた幸せを知った。
 その後、彼女は何匹も犬や猫を殺し続けた。
 しかし彼女は、殺すだけではだんだん物足りなくなっていった。
 そして考えたのが死体で遊ぶことだ。
 死体を切り刻んでオブジェにしたり、通っている学校の校庭の中心に磔にしたりもした。

 そして今日彼女が行ったのは特別製のオブジェ作り。
 猫と犬の死体をそれぞれ1つずつ用意する。
 そして両方の頭と前足を切り落とし、犬の死体には猫の頭と前足を付け、猫の死体には犬の頭と前足を付けたオブジェを作った。
 アンバラスだけどそのアンバランスさがいい感じになった、そんな感想を自作のオブジェに付けていたら


 ――いつの間にか殺し合いの会場に呼ばれていた。


 突然起きた空間移動、ナオ=ピューマの出現と告げた殺し合い、五十嵐椿と東ジョーの死、そして異能。
 短い時間の間に起きた様々な出来事に対し鏑木シリカが最初に考えた事は

「どうしよう……、オブジェ作ってたから服が血まみれになってる……」

 自身の服の事だった。
 とはいってもこれはシリカが潔癖症という事ではなく、自分が血まみれなことで殺し合いに乗っている風に思われることを考えての発言である。
 シリカは犬猫をストレス発散で殺すが、人間を殺したことは無い。
 なのに(殺し合いに乗る乗らないは別として)、殺し合いに乗っているかのように思われるのは不味い。

「そうだ、服を脱げば……。いや私パーカーとスボン脱いだら下着だけになっちゃう……」

 様々なことが起きたためか、普段なら絶対選ばないような選択肢が一瞬だけ頭によぎる。
 シリカは自身に支給されたデイバッグが足元にある事すら気づかず、オロオロとああでもないこうでもないと呟いている。
 分かりやすく言うなら、彼女はテンパっていた。

 しかし、彼女の思考の迷走は外部からの刺激により強制的に止まる。

「動くな」
「えっ!?」

 いきなり背後から男の声が聞こえ、背中に何かが突きつけられている感触がする。
 この状況で突きつけるものと言ったらもう銃しかありえない、とシリカは考える。
 そんな彼女の思考など知らぬとばかりに、男は言葉を続ける。

「安心したまえ、いくつかする質問に正直に答えてくれれば殺しはしない」
「は、はい」

 殺す気がない、その言葉の真偽はシリカには分からないが彼女は素直に返事するしかない。
 シリカの返事を聞き、男は質問を始める。

「まず一つ目の質問だ、君の名前は?」
「……鏑木シリカです」
「鏑木シリカか。ではミス鏑木、次の質問だが君の異能は?」
「わ、分かりません。改造したなんてあのナオ=ヒューマは言ってましたけど全然実感わきませんし」
「デイバッグは?」
「……まだ見てません」
「そうか、なかなか迂闊だな君は。まあいい、次に聞くがその服についている血は何だ?」

 来た! とシリカは思う。
 この状況で自分の服が血まみれな理由を聞かない訳がない、だけどそれは想定内。
 質問に答えながら言い訳も考えてある、ちょっと苦しいけど。
 シリカはこれが通用するかどうか不安を覚えるものの、それを隠して答える。

「こ、これは野良の犬と猫の血です」
「それが何故君の服に?」
「この殺し合いに呼ばれる前に、怪我をしていた犬と猫を動物病院に連れて行こうとして抱きかかえていたんです。だからその時に付いたんだと思います」

 どうだ、これで大丈夫か。そうシリカは思った。
 しかし現実はそこまで甘くはない。

「嘘だな」

 男はシリカの発言を一言で切り捨てた。
 シリカは動揺しそうになるものの懸命に隠しながら男に問う。

「……何で、嘘だと思うんですか?」
「簡単なことだ。私はこうして君の背後から脅す前に少し君の事を観察をしていた。
 そして君は服の心配しかしなかった。いや正確に言うなら服が血まみれで、自分が危険な存在だと思われるのでないかという心配しかしていなかった。
 おかしいじゃないか。君が本当に怪我をしていた動物を病院へ連れて行くような優しい少女なら、まずは抱きかかえているはずの犬と猫の心配をするのではないか?」
「それは……」

 甘かった、急場しのぎでどうにかなる相手じゃなかった。
 じゃあどうする。今からでも本当のことを話す?
 ありえない。犬と猫の死体でオブジェ作ってましたなんて言えるわけがない。

 そんなシリカの葛藤を知る由もない男の話は続く。

「私は言った、正直に言えば殺しはしないと。だが君は嘘をついた」
「ま、待って下さい! これはその……」
「ふむ、ならばもう一度だけチャンスをあげよう。その服の血は何だ?」

 言うしかない、とシリカは思った。
 後ろにいる男は頭が良くて観察眼もある、嘘の通じる相手じゃない。
 それに本当の事を言ったとしてもやったのは犬と猫を殺しただけだ。
 印象は悪いかもしれないけど、そこまで重罪じゃないはず。

「こ、これは殺した犬と猫の返り血です」
「成程、君が嘘をついた理由は分かった。だが何故犬と猫を殺した?」
「……ストレス発散です」
「なんだ、食べるためではないのか」
「え?」

 男の口から余りにも予想外の台詞が飛び出し、思わず困惑し間抜けな声を出すシリカ。
 そしてシリカは現状も忘れ男に質問をする。

「あの、食べるって……?」
「ふむ、知らないのか? 世界だと一般的ではないが中国などでは犬や猫を食べる文化はあるぞ」
「そ、そうなんですか……」
「そうだ」

 シリカはこう思った、何で私社会の勉強をしているんだろう? と。
 そんな微妙な空気の中男の尋問は続く。

「じゃあ最後の質問だ、君は殺し合いに乗るか?」

 普通に考えれば乗らない、これ以外の答えは無いだろう。
 だがシリカが出した答えは別のものだった。

「分かりません……」
「ほう?」
「叶えてほしい願いならあります。だけど私に人を殺せるかが分かりません。
 死んでほしい人はいます、殺してしまおうと思ったこともあります。ですが結局殺せないままでした。
 そんな私に全く見知らぬ他人を殺すなんて……」
「……最後の質問と言ったな、あれは嘘だ」
「へ?」
「君の願いは何だ?」

 それはシリカにとって一番つらい質問だった。
 だがここまで来たら全部正直に話すしかない、そもそも嘘をつける状況じゃない。
 シリカは話す。震えながら、苦しみながら。

「……私は子供のころ、両親を亡くしました」
「それで?」
「……それで私は親戚をたらいまわしにされて、遠縁の親戚に引き取られました。
 だけど、その親戚は私の容姿を理由に暴力を振るってきました、今もです」
「その親戚を消し去ることが君の願いか」
「違います。その親戚が消えても私は他の親戚をたらいまわしにされるだけです。
 ……私の願いは幸せになることです。その親戚がどうなろうとどうでもいいですけど、私だけは幸せになりたいです」
「成程分かった」

 そう言って男は今まで突きつけていた物を背中から放す。
 それが分かったシリカは思わず振り返る。そしてシリカは驚愕する。
 男は金髪、青い瞳をした外国人だった。それはいい、問題は彼が持っているものだ。

「木の棒……!?」

 そう、男が持ち今まで突きつけていたのは拳銃などではなくただの棒だった。
 その事について男は申し訳なさそうに謝る。

「女性を騙した挙句、脅して質問責めにした事は謝罪しよう。
 私の名前はトーマス・ベイカー、資産家だ。そして詫びの印に私の異能も見せよう」

 そう言ってトーマスは木の棒を自分の口に向ける。
 そして彼はその棒を食べ始めた。

「それが、異能……!?」
「そうだ、これが私の異能。何でも食べる事が出来る能力だ。それだけではない気もするが、一先ずこれが私の異能だ」

 明確に見せられた異能に驚くシリカ。
 そして同時に疑問を覚える。彼は謝罪だと言っているが何故自分に手札をさらしたのだろうか、正直ああされてもしょうがないはずなのに。
 そんな思いが顔に出ていたのか、トーマスはその心中の疑問に答える。

「これは私の謝罪であると同時に誠意だ」
「誠意、ですか?」
「そうだ誠意だ。私はこの殺し合いに反逆し、ナオ=ヒューマを倒そうと思っている。その為に君の手が欲しい」
「でも私は……」

 殺し合いに乗るかもしれない、そう続けようとした所で思わずシリカは言葉を詰まらせる。
 何故ならトーマスは強い眼でシリカを見ていたから、それも力づくで従えようという嫌な目でなく、必ず殺し合いに乗せないようにするという強い意志を秘めて。

「もしも君が私に力を貸してくれるのならば、私は必ず君に報いると誓おう」
「……具体的に何をしてくれるんですか?」
「君を虐待する親戚を消し、私が君を引き取ろう」
「……」

 トーマスの言葉があまりにも予想外過ぎたせいか思わずフリーズするシリカ。
 そんなシリカを気にすることもなく、トーマスは話を続ける。

「私は資産家だから金の心配はいらないし、人を痛めつける趣味は無い。
 信用ならないというなら誓約書も書こう。今は紙がないから後でという事になるが」
「何でそこまで……」
「ふむ」

 シリカの疑問にトーマスは一瞬ためらいつつもこう言った。

「私はこの殺し合いの中で人肉を食べたいと思っている。そして君はそういう事を気にする人間ではないだろう?
 ああ心配する事は無い、食べるのは殺し合いに乗っている参加者にするとも」
「……人肉って食べられるんですか?」

 本当は色々言いたいことがあったが、シリカは我慢した。我慢は得意だ。
 そしてそんな内心を知るはずもなく、トーマスは得意げに話す。

「シリアルキラーと呼ばれる人種が人肉を食べたという話は多くある。
 それに1920年代のドイツでは、フリッツ・ハールマンという殺人鬼が人肉の肉屋をやっていたという記録もある。無論買い手は知らなかっただろうがね。
 おいしいのかは分からないが、少なくとも食べられないほど不味い程のものではないのだろう」
「そうですか」

 倫理観とかは気にしないのだろうか、シリカはそう思ったがやっぱり我慢して言わない事にした。
 迂闊なことを言って食べる対象が自分になるのはごめんだし、自分にそれを言う資格があるか怪しい。

「ミス鏑木も食べるかい?」
「遠慮しておきます」

 こればっかりはシリカも即答した。
 その返答に対しトーマスは特に何も思わず

「そうか。まあ食べたくなったらいつでも言うといい」

 それより今後の事だが、とトーマスは後ろにつけシリカに自分たちの行動方針を話す。

「まずは君の着替えと誓約書を書くための紙を探す。
 私の支給品には着替えになるようなものは無かった、君はどうだ」
「あ、はい。今調べます」

 そう言ってシリカは調べたが、着替えとなりそうなものは無かった。
 それを見てトーマスは呟く。

「……前途多難だな」
「……ごめんなさい」


【一日目・1時00分/G-2】

【トーマス・ベイカー@バクバクの実/ワンピース】
[状態]:健康
[装備]:
[道具]:基本支給品、不明支給品1~3(確認済み、着替えになりそうなものは無し)
[思考・行動]
基本方針:ナオ=ヒューマを倒し殺し合いから脱出する
1:まずはミス鏑木の着替えと誓約書を書くための紙を探す
2:食べた事の無い物を食べたがらないとは、変わっているなミス鏑木は
[備考]
※自身の異能を『何でも食べる事が出来る能力』と認識していますが、それだけではないと考えています。
ただし、確信はしておらず食べる以外の能力は分かっていません。

【鏑木シリカ@キャスター(ジル・ド・レェ)の宝具・スキル/Fate/】
[状態]:健康、血まみれ
[装備]:
[道具]:基本支給品、螺湮城教本、不明支給品0~2(確認済み、着替えになりそうなものは無し)
[思考・行動]
基本方針:死にたくない。生きて幸せになりたい
1:この人(トーマス・ベイカー)に付いていく。
2:人肉を食べるのは、ちょっと……


LOVE DELUXE 時系列順 セイギトアクイ
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GAME START トーマス・ベイカー 対ちょっぴり怖い資産家
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