シガーレビュー(レビュアー:S)

COHIBA Lanceros
コイーバ ランセロ。
1本3970円。192㎜。喫煙時間100分。


トップ。
濃厚なナッティ&ローストの中に、ウッディネスな渋やかさがしっとりと口腔に響く1stドロー。
きめ細やかなニュアンス群が舌の上に降りてくる。
喫味のニュアンスは感じ取られる順列で、

①深く焙煎を掛けたナッティ&ローストの濃厚なコクと香ばしさ、甘味
②静やかにやって来るナッツの香りと酸味
③たっぷりと肥沃な湿度を吸った大樹のウッディネス
④透き通った淡い湿土の渋味と酸味
⑤ドライプルーンの煮えたような苦味とコク
⑥改めて、鮮度の保たれたナッツの甘さ
⑦花弁が展くように薫るナッティ&ウッディネスのフローラル
⑧やや渋めに響くたっぷりとした樹木と土のボリューミーな味わい
⑨喫味を締める白檀香木のように荘厳なfragranceと心地よい酸味
⑩余韻として舌先と口腔内膜にしっとりと残るナッツの香ばしさ、そのほろ苦み

…トップの印象としては「主軸はナッティ&ウッディネスで、しっとりながら濃厚。
甘味と苦味と酸味のバランスが美しく、お互いを高め合う役割を担っている。
ライトながら、既に今後の喫味の偉大さを孕んでいる点では侮れないトップ」という感じ。
ラギートNo.1というこのビトラの場合、口径が小さいためトップでもやはり喫味は自然強くなる。
このランセロも同様ではあるものの、透き通ったナッツの鮮烈な共鳴、ウッディと果実の中間の甘酸っぱさは、非常に取っつきやすい。

  • トップ・ボトム
その他のニュアンスとしては、喫味深くに漂う淡やかなレザーウッド、樹木皮脂のシルキーな風合い、天然草木に炎を近づける時の青い燻り、エスプレッソのように凝縮されたナッツの馥郁さ、Brilliantな若土の高い浸潤たるアーシーさ。
印象としては、コイーバと言うブランドのあの特徴的で重厚な喫味よりも、朝に合う、アップマンやエルレイデルムンド系の、濃厚でありながら口腔に清々しい余韻を残す喫味の印象であり、つまりコイーバ感は強くはない。
しっとり、ナッツの香ばしさとコクを堪能しながら、ゆったりとしたウッディネスに浸れるトップ部分である。

ここまで「優しい」コイーバには出会ったことはなかった。


  • プレ・ミドル
やや木の渋味が強くなって来る。
ちゃっかりナッティさも、小花の風に揺れるような幽玄なフローラルも湛えながら、しっかりとウッディな渋味と酸味は効いている。
おそらく強喫煙でペッパー感も感じられる程度の、強かさを見せ始める。
ただ、これまでに僕が吸ったマヒコスシグロⅢにあったような「旨味をぐっと思わせるような純度の高い喫味」はなく、どちらかと言えば非常に軽快で、絹漉しの香ばしさと酸味に、この身を満たしているような感覚に陥る。
決して他のブランド類と比較して「軽い」と言うわけでは決してないが、これがコイーバの名を冠することに不思議さを覚えるほど、ブランドプロフィールが異なっていることは明らかである。

  • ミドル
依然として喫味は極めてシルキーで、抵抗なく口腔に快適なナッティ&ウッディネスの香ばしさとほろ苦さ、花の甘さをもたらしてくれる。
嗜む者をこの葉巻自体が選んでいるような、控えめで慎重な喫味の眼差し。
決して強い主張はないものの、バランスは非常に優れており弱点は今の所ない。
同じビトラのトリニダッド フンダドレスは、若干の「退屈さ」を感じさせる冗長な喫味があったが、フンダドレスにあった濃厚寄りの喫味でない分、このランセロは飽きがこない。
(アップマンに似通って)ウッディな渋味がやや永く口腔に滞留するため、浅く淹れた珈琲なんかと一緒に嗜みたくなる。

  • ミドル・ボトム
火を足すと、喫味に木の苦味と焚火の焦げに近い香ばしさが、豪奢に現れる。
これで1つのフルコースを味わっているような、序盤から少しずつ変遷のあるニュアンスの多層具合は、やはり絶品別格なところがある。
ニュアンスはこの時点で、感じ取られる順列で、

①濃厚ながら軽快なナッティ&ロースト
②次に、若木を根から焚くようなフレッシュネスな酸味が現れて、
③そこからウッディな渋味と苦味(astringency)が口腔に広がる
④それを改めるような、焙煎系の甘やかさ
⑤しっとりと永く口腔舌下に響く肥沃な樹木土の苦味
⑥甘やかなドライフルーツ様の甘酸っぱさ
⑦穏やかでquietlyな草木香とフローラル
⑧紫煙に漂う、透き通った花々の静かな揺らめき
⑨舌の中央に、ゆっくりと坐すシダー
⑩余韻に舌全体を包み込む若干濃密かつシルキーなウッディネス&ロースト

…ミドルを総合してもやはりコイーバらしい濃厚さや重工的なエキスチック・ニュアンスは感じられない。
ただ上品なほど絢爛で、しなやかに咲くニュアンスの小さな花々が目の前にゆっくり広がってゆく。
このミドル・ボトムに来てもなお甘く、ひと吸いのその刹那に、苦味→酸味→甘味→アロマ→渋味→余韻に甘味、という流麗さを確かに感じ取る。

ニュアンスは多層的だが、目を瞑って景色を見せてくれたフンダドレスほどの爛々とした個性は却って感じ取りにくい。


  • プレ・ラスト~ラスト・ボトム
リングまで2㎝程度、ここでコイーバがやって来る。
味わいは突然しっとり軽やかな感覚から、どっしり濃厚さの炸裂するあのコイーバが、なんとここで顕現する。
コイーバが苦手な方が吸ってもきっと思う、「おお、これを待っていた!」と。
ニュアンス群を順列に並べてみるが、これまでとの落差に驚く。

①まず、魚介系等の非常に濃厚な旨味のエキスが、出汁を口に含むように満々と広がる
②ややあって、ウッディ&ローストの香ばしさ(この度合いもこれまでを1-10で3とすれば一気に7まで跳ね上がる)
③ナッツを炙るようなダイレクトなロースト
④ドライプルーンの強い甘味
⑤しっとり厚いレザー、甘い鞣し革
⑥優しくしなやかに乱れるウッディの渋味
⑦舌の底にビリビリと痺れる黒胡椒のペッパー感
⑧喫味の奥に、爛々と咲く南国の花々
⑨轟轟と地を揺らす樹木焚炎の豪奢さ、その苦味と渋やかさが延々と口腔内膜に残る
⑩余韻にたっぷり横溢する樹木土の旨味

…つい唾液が溢れるほどのウッディネスな旨味の爆弾が口内で炸裂するが、これはリング近くでやっとやって来る分、(苦手な旨味であっても)「待ってました」と言わざるを得ない。
これだけのロングビトラであれば、間違いなく「喫味の変遷の具合」は評価ポイントの1つになりうるが、その点で言えば実にお見事。
素晴らしい【変貌ぶり】で、この一本はやはり完全なるコイーバである証明を見せてくれる。
一気にパンドラの匣を開けたように、様々な秘められしニュアンス、まだ見ぬ天稟の光景を眩ゆい程の光線を散らしている。

…古屋敷の廊下に敷かれたボルドーのSilk carpet、古の調度品が秘める神々しい煌めき、彼岸に装立する歴史の英雄のStatue、暁に赤く染まる街の総て、甘やかな言葉が翔び交う金色の社交場、木樽から初めて解注されるMaturedのコニャック、奥深い森林に炎を灯して身を悶えさせるその大樹連、詩的に永劫鳴り響く時報の鐘の音…
荘厳の裡に魅せる輪廻的な美しさ、朽ちて尚より一層の輝きを解き放つ光景。
それらが必ずこの一本を味わう者の瞼の裏に現れることだろう。


さて、この一本を総合する。

比較としてはやはりトリニダッドのフンダドレスになるが、その一本よりは遥かに優れている。
それは以下の点において、である。


【1】コイーバのブランドプロフィールである重厚な喫味のニュアンス群を、ラスト近くギリギリまで秘匿した「仕掛け」の優雅さ
 ※フンダドレスはミドル部分ですぐそれと知れるプロフィールが現れる

【2】ブランドプロフィール以前のトップ〜ミドル・ボトムまでのニュアンス群のステータス・バランスが秀でている
 ※フンダドレスもこれは同様

【3】ラストの喫味はマヒコス等のコイーバの格別なプロフィールを満々と示している
 ※フンダドレスのラストはあくまで「コロニアレス」であり「ヴィジア」ではなかった

【4】この喫味の変遷は決して「ランセロ」でしか味わうことができない
 ※フンダドレスは(以前述べた通り)コロニアレスを時間的に引き伸ばしたものだ

ゆえに、このランセロはコイーバの中で特異な一本でありながら、同ビトラで少なくともこの優雅で幽玄見事な喫味の化け方をするものは、恐らくもって「ない」と思われる。


つまり、ランセロの喫味は簡単に言えばトップ~ミドル・ボトムにかけて「思わせぶり」ながらも「バランスに非常に秀でた(それだけで完成している)」ニュアンス群で構成されており、それでなお、ラストからは「あのコイーバ」が絢爛豪奢にやって来る。

それは、トリニダッド フンダドレスにあった「あ、もうトリニダッドだな」感もなければ「うーん、これは他のビトラでも換えが効く」感も決してない。

このコイーバ ランセロだからこその味わいの見事さが、ここにある。
だからこそ、素晴らしい。


正直ここまでコイーバを賞賛することになるとは思わなかった。
少なくともこのランセロは、超一級品であるし、まるで貴族が嗜むに相応しい一本である。


吸う機会がもしあれば、コイーバだからと敬遠しては一生後悔することになる。

是非、豪奢の海に溺れていただきたい。

コイーバの真価を心が知ることになるだろう。

残り2㎝で終了する。