シガーレビュー(レビュアー:S)

TRINIDAD LA TOROVA LCDH
トリニダッド ラ・トローヴァ。
1本6500円。166㎜。喫煙時間105分。

  • トップ
意外と浅く広く伸びやかなナッティ&ローストで、しっとり過ぎるほどの淡い風合いが喫味全体に漂っている。
紫煙も心なしか薄命的で、華やかな白い花のニュアンスもfloralに相まって尋常でない優雅さが1stドローに現れている。

ニュアンスは感じ取られる順に、
①浅いナッティの芳醇な甘やかさ
②しっかり口腔に広がる密の濃いロースト
③喫味の芯を通るウッディネスの薫り
④まったりと舌の上に転がる樹木の膨よかな淡い渋味とほろ苦さ
⑤ミルクチョコレートのようなしっとり甘やかな風味
⑥喫味を静かに締める靄のような木の酸味
⑦鼻腔を抜ける紫煙には、おっとりとした性格の白い花のアロマ
…実に美しい、ホヨーのエピクーレNo.2を超えるシルキーさ・円やかさ・淡さ・甘やかさを持ったトップである。

レヒオスのような静謐な甘さと、チャーチル系の淑やかなフローラル&アロマ、モンテクリストのOpen系の軽やかさを湛えた見事な立ち上がりは、却ってこれがトリニダッドであることを良い意味で忘れさせてくれる。
少なくとも国内で一般的に手に入る4つのビトラは全て経験しているが、フンダドレスを凌駕する素晴らしいトップである。

  • トップ・ボトム
ややウッディの大らかな渋味と、花の酸味のニュアンスがそのステータスを高めるが、バランス的には依然として良好。
まろやかで甘やか→すっきり軽快な喫感になった、というくらい。
ただ、もしこの喫味のまま進むのであれば、ブランドがトリニダッドというだけに退屈には思えるので、ミドル以降の変化に注目したい。

  • プレ・ミドル
この辺りで甘味を持ったナッティさは消えてゆき、どちらかと言えば樹木土様のしっとり永く舌下に響くような低い甘味が現れてくる。
喫味的なプロフィールで言えば、この辺りは(やっぱり)ホヨーのエピクーレNo.2やショートチャーチルのトップに非常に近い。
少なくとも、トリニダッド的な濃厚さも重工さも今のところ感じられない。
すっきり、軽く、(樹木的に)甘く、余韻にやや渋味。
他のブランドでも十分感じられるという意味において、ここまでとりわけ優秀と言うほどではない。
あくまでこのブランドのlabelはトリニダッドだからだ。

  • ミドル
喫味の主体であるウッディネスに重ためのコクがやや孕まれるようになり、花のアロマが増して来る。
まだトリニダッドらしい、とは言い難いが、素晴らしい喫味のニュアンスの変遷を体感できる。
ニュアンスを順列的に並べる。

①(一度は控えめに感じられたがここで)ナッティな淡い甘さを湛えたロースト感
②しっとり湿度の浸潤した樹木土の大らかな渋やかさ
③土と草木のすっきり軽い酸味
④ここでウッディネスな若干濃いコクの風味
⑤紫煙に強く現れる烈火的な花のアロマ
⑥若木を焚べるような香ばしい酸味
⑦舌の上にしっとりと降り積もるドライフルーツの蜜のような甘味と酸味
⑧後味に舌の中央へ残るウッディ&ロースト
⑨渋味の中に若干の鞣し革、leather
⑩ビターチョコレートの花びらが余韻に舞う
…ニュアンス群は多層的。

喫味の大部分を甘味と渋味が占め、甘味は喫味を上品に和らげて蜜雨のようにしっとりとこれを纏め上げながら、木やleatherの渋味がそこをキュッと(ただ甘やかでたるんとしたダラシない喫味にならないように)風紀を正している、と言う印象。
味わいはレジェスのトップ〜ミドルに近寄ってきた。
強燃焼させると、ややエキス的な木の旨味を感じ取ることもできる。
やはり、この一本はトリニダッド、ということだ。

  • ミドル・ボトム
トリニダッドにしては、通常の4ビトラより旨味がやって来るタイミングは遅い。
だがもちろん、リングから3㎝離れた辺りで、それはしっかりとやって来る。
喫味の中心を、大樹を直に焚くような濃厚壮大な旨味の海が迸って来る。
しかしヴィジア的ではなく、フンダドレス的に若干の猶予を与えながら、しっとり、ゆるやかに旨味は喫味の全体に統合されてゆく。

ここまで吸い進めてきた印象としては、実に美しく上品を極めたトリニダッドの一本であり、フンダドレスのように繊細緻密に縫い込まれたニュアンスの糸で、さらに上質な織物を編み出した印象を受ける。
つまり、このビトラにはフンダドレスの上位互換的な地位を感じ取る。
具体的には、トップで実に耽美なまでの甘やかさを湛えてシルキーの極致を体現している点と、この重厚明媚な旨味を最大限滞留させておいて、ラストに向け正に大輪の花弁を広げるように展開させるブレンドの妙。
あくまで、他のトリニダッドでは決して愉しむことのできない貴賓な性格、上質なプロフィールがこの一本に備わっている。

  • プレ・ラスト
フンダドレスが僕に以前「美しい象牙の首飾り、山の根から垣間見る日輪の壮絶な輝き、旅情的で序詩的な花園の夜明けの光景」を見せてくれたが、トローヴァの景色はもう少し大人しい、静謐に包まれた光景を見せる。
それは例えば、正装の紳士淑女が手を取り合って踊る社交場を描いた印象派の絵画、森の奥で微笑みながら花を摘む少女の後ろ姿、花束を後ろ手に隠して待つ白眉の青年、朝靄の下で風に揺れる葡萄畑、古家の天井で巣を作る美しい青い鳥。
それはきっと、旨味の中にトップの甘味の密やかなニュアンスの残滓を感じるためだ。

  • ラスト〜ラスト・ボトム
ニュアンス群を纏めておく。

①樹木土のnaturalな渋味と苦味
②①を淑やかに宥める蜜のようなInnocent
③大樹の皮脂を焚くような柔らかで芳醇な旨味の海
④Primary(原色的で鮮やか)な花々のひしめき合うフローラル&アロマ
⑤靄のように口腔に訪れる深いウッディネス
⑥透明度の高い天然の草木香
⑦ドライフルーツのまったりとした甘味
⑧再びウッディネスフルな重厚かつ繊細な旨味が喫味のニュアンスを包み込み、
⑨温かい紫煙の内で漂う樹木の甘味
⑩余韻に、舌の奥で青藍に輝き続ける旨味のエキス的な豊潤
…ニュアンスはまだ追える。
ドライアプリコット、熟成を経たPomegranate−liquor(柘榴酒)、甘味を湛えた若々しいシダーウッド、発酵蔵に横たわる穀物の叢、飴色に光る軟らかなレザー、萌ゆる若草を焚く鮮紅なアロマ&サワー、花の蜜とシナモン、黒い林檎の朽塊、熟れて落ちた琵琶の実、味底には万華鏡のように乱れる山吹色の花ざかり。

ニュアンスは実に多層的であり、少なくとも、僕の経験した葉巻の中では最多であることは間違いない。
奥の奥にもニュアンスが見事に隠されている。
それらを探すだけでもこのラストは実に多様に面白い。


この一本は、僕の中ではまず、トリニダッドの傑作であることは疑いようがない。
優れているのは以下の4つの点に於いてである。

【1】まずトップからミドルにかけての甘やかさ、シルキー、円やかな喫感は、それを謂わば生業にする他のブランドを凌駕して余りある素晴らしさであり、トリニダッドの新しい一面を垣間見る美しさであった点
【2】トリニダッドの特性である「ミドルで既にやって来る旨味」の時勢を巧みに遅効させて、そこまでの喫味の(ニュアンス的)変遷を大いに楽しませてくれた点
【3】ラストではしっかりとブランドプロフィールである旨味の海を体現していた点
【4】極ラストでのニュアンス群は多層を極め、吸う者を飽きさせず、実に耽美な世界へと誘う蠱惑的な味わいが花開いた点

…と、いうことで、明らかにトリニダッドの通常の4ビトラと比較しても、あのフンダドレスを比較対象にしても、明らかにトローヴァの方が優れている。
コロニアレスがトリニダッドの真価などではない、まだまだ底の知れない喫味で味わう者を驚嘆、感銘させる一本である。


なお、この一本はあくまで別格として扱わないと、普段のトリニダッドでは物足りなくなるので、注意されたい。

また、トリニダッドを好まれる方にとってこの一本は驚異に値する、間違いない。

堪能した、絶品である。
残り2.5㎝で終了。