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 市街地の一角にあるさびれた廃ビル。  その一室に、男はいた。  革張りの高級椅子に身を預け、暗闇を睨み続ける。 (殺し合い……バトルロワイアル……)  男は先程の出来事を思い出していた。  気付けば連れてこられていた謎の空間。  突如現れた小柄な老人。老人の語った狂気。  そして、この見知らぬ土地。自分のいる廃ビル……。 (3人の生還者……嘘は、ない……)  まるで冗談のような出来事。  ただ男には分かっていた。  全てが真実だという事が。  i-Phon●を開き、『参加者名簿』を見る。  つらつらと連なった数十の名前。  アイドル、スクールアイドル、大怪盗、歴史上の偉人……知った名前はいくつもあった。  小さく息を吐くと、男はi-Phon●から視線を外し、片手で顔を覆った。 「く、くく……」  指の隙間から、音が漏れる。  抑えきれない感情が声となって、喉を振るわせる。 (狂ってる……)  数十人の人間を拉致し、殺し合わせるという所業。  狂気。まさにそれを体現したかのような状況。  分かっている。分かっているのだ。  今の状況が如何に狂っていて、如何に異常であるかは。  頭で分かっていても、心は乖離していた。  全ての思考を凌駕して、感情が沸き上がる。   (だけど、どうしてだろ―――面白くて、たまらない)  楽しくて、楽しくて、仕方がない。  命懸けの状況が、死がすぐ隣り合わせにあるこの感覚。  全身が総毛立つ。  興奮のあまり鼻から垂れる血を拭おうともせず、男は笑う。 (……俺たちに殺し合いをさせ、最後に残った3人を生還させる……あの場にいた参加者たち……)  総勢37名の参加者達。  彼、もしくは彼女達が自分に向けてきた表情を、思い出す。 (まずは、ごちそうさま、だね)  恐怖するものもいた、警戒するものもいた、感心するものもいた、嘲笑するものもいた、驚愕するもの、心配するもの……。  あの場、あの瞬間に老人に対抗して、参加者全員の生の感情を得た。  貴重な情報。特に人間の観察を生業とする男にとっては最高の供物である。 (とりあえずは『白』の奴らと会いたいけど)  男は自分に向けられた感情から、参加者を『黒』と『白』に分けていた。  敵意、害意を感じたものを『黒』、それ以外を『白』として、協力できそうな参加者を区分する。   i-Phon●上の『参加者名簿』にあったメモ機能にも、分かる範囲で情報を記入する。 『白』 天海春香/如月千早/双海亜美/高坂穂乃花/南ことり/アルセーヌ・ルパン三世/梶隆臣/マルコ 『黒』 双海真美/園田海未/次元大介/石川五右衛門    名前が分かる範囲では上記のみ。あとは名前が分からない者ばかりだった。 (あと、あのおじいちゃんについてだけど……)  思考は更なる深淵へ進む。 (……あいつの視線はある人物に向けられる事が多かった……)  老人の視線。その先にいる事の多かった人物。  それは、 (ルパン、三世)  全世界を股にかけて活動をする世紀の大怪盗その人。  あらゆる場所から、あらゆるお宝を盗み出す。  その大々的な盗みは、もはや芸術とすら賞賛される事もある。 (ルパンに向けられていた感情は……)  その表情に会った機微を読み解く。  狂気という仮面を装ってはいたが、それすらも男にとっては判断材料の一つに過ぎない。 (……怒り。対するルパンには……驚愕……そして、殺意……?)  ルパン三世は好んで殺しをしないとされている。  弱者からは奪わず、必要以上に人を傷付けないという、義賊的な側面をもつという。  だが、老人を見るルパンの表情には殺意を感じた。  挑戦的な薄い笑みの下で、その感情は確かに息巻いていた。 (……直接会って、話をしたい所だね……)  暗闇を睨みながら、男は一旦思考を止めた。  デイバックの中から携帯食料を取りだして、齧る。 (梶ちゃん、マルコ……)  男を見る視線の中にあった、二人の知人の顔。  彼等は強い。  自分と共に過ごす中で様々な苦難とぶつかり、それでも付いてきてくれた。  きっとこの殺し合いの中でも……。 「さてと、行きますか」  味気の無い食料を水で流し込み、立ち上がる。  廃ビルを後にして、彼は踏み出す。  狂気が渦巻く殺し合いの場へと。  死と隣り合わせのゲームの中へ、男が行く。  その表情は、堪え切れぬ狂気に大きく歪んでいた。
 市街地の一角にあるさびれた廃ビル。  その一室に、男はいた。  革張りの高級椅子に身を預け、暗闇を睨み続ける。 (殺し合い……バトルロワイアル……)  男は先程の出来事を思い出していた。  気付けば連れてこられていた謎の空間。  突如現れた小柄な老人。老人の語った狂気。  そして、この見知らぬ土地。自分のいる廃ビル……。 (3人の生還者……嘘は、ない……)  まるで冗談のような出来事。  ただ男には分かっていた。  全てが真実だという事が。  i-Phon●を開き、『参加者名簿』を見る。  つらつらと連なった数十の名前。  アイドル、スクールアイドル、大怪盗、歴史上の偉人……知った名前はいくつもあった。  小さく息を吐くと、男はi-Phon●から視線を外し、片手で顔を覆った。 「く、くく……」  指の隙間から、音が漏れる。  抑えきれない感情が声となって、喉を振るわせる。 (狂ってる……)  数十人の人間を拉致し、殺し合わせるという所業。  狂気。まさにそれを体現したかのような状況。  分かっている。分かっているのだ。  今の状況が如何に狂っていて、如何に異常であるかは。  頭で分かっていても、心は乖離していた。  全ての思考を凌駕して、感情が沸き上がる。   (だけど、どうしてだろ―――面白くて、たまらない)  楽しくて、楽しくて、仕方がない。  命懸けの状況が、死がすぐ隣り合わせにあるこの感覚。  全身が総毛立つ。  興奮のあまり鼻から垂れる血を拭おうともせず、男は笑う。 (……俺たちに殺し合いをさせ、最後に残った3人を生還させる……あの場にいた参加者たち……)  総勢37名の参加者達。  彼、もしくは彼女達が自分に向けてきた表情を、思い出す。 (まずは、ごちそうさま、だね)  恐怖するものもいた、警戒するものもいた、感心するものもいた、嘲笑するものもいた、驚愕するもの、心配するもの……。  あの場、あの瞬間に老人に対抗して、参加者全員の生の感情を得た。  貴重な情報。特に人間の観察を生業とする男にとっては最高の供物である。 (とりあえずは『白』の奴らと会いたいけど)  男は自分に向けられた感情から、参加者を『黒』と『白』に分けていた。  敵意、害意を感じたものを『黒』、それ以外を『白』として、協力できそうな参加者を区分する。   i-Phon●上の『参加者名簿』にあったメモ機能にも、分かる範囲で情報を記入する。 『白』 天海春香/如月千早/双海亜美/高坂穂乃花/南ことり/アルセーヌ・ルパン三世/石川五右衛門/梶隆臣/マルコ 『黒』 双海真美/園田海未/次元大介    名前が分かる範囲では上記のみ。あとは名前が分からない者ばかりだった。 (あと、あのおじいちゃんについてだけど……)  思考は更なる深淵へ進む。 (……あいつの視線はある人物に向けられる事が多かった……)  老人の視線。その先にいる事の多かった人物。  それは、 (ルパン、三世)  全世界を股にかけて活動をする世紀の大怪盗その人。  あらゆる場所から、あらゆるお宝を盗み出す。  その大々的な盗みは、もはや芸術とすら賞賛される事もある。 (ルパンに向けられていた感情は……)  その表情に会った機微を読み解く。  狂気という仮面を装ってはいたが、それすらも男にとっては判断材料の一つに過ぎない。 (……怒り。対するルパンには……驚愕……そして、殺意……?)  ルパン三世は好んで殺しをしないとされている。  弱者からは奪わず、必要以上に人を傷付けないという、義賊的な側面をもつという。  だが、老人を見るルパンの表情には殺意を感じた。  挑戦的な薄い笑みの下で、その感情は確かに息巻いていた。 (……直接会って、話をしたい所だね……)  暗闇を睨みながら、男は一旦思考を止めた。  デイバックの中から携帯食料を取りだして、齧る。 (梶ちゃん、マルコ……)  男を見る視線の中にあった、二人の知人の顔。  彼等は強い。  自分と共に過ごす中で様々な苦難とぶつかり、それでも付いてきてくれた。  きっとこの殺し合いの中でも……。 「さてと、行きますか」  味気の無い食料を水で流し込み、立ち上がる。  廃ビルを後にして、彼は踏み出す。  狂気が渦巻く殺し合いの場へと。  死と隣り合わせのゲームの中へ、男が行く。  その表情は、堪え切れぬ狂気に大きく歪んでいた。

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