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◇  暁美ほむらは知っている。  世界は本当はこんなにも異常じゃない事を。 ◇ (全く、おかしなものね。訳の分からない世界にいたかと思えば、こんな所に呼び出されて……)  暁美ほむらは混乱する思考を纏めながら、そこに立っていた。  会場の南端に位置する海岸線。崖に打ち付ける波の音が奏でるハーモニー。  地表を照らす満月を見上げて、溜め息を零す。  i-Phon●にあった『参加者名簿』には鹿目まどかの名前があった。  彼女が守り抜きたい、守り抜かねばならない少女の名。  その名前が名簿にあった時点で彼女の選択するべき道は確定していた。 (まぁ、良いわ……私はまどかを守る、ただそれだけよ)  参加者の殺戮。  殺人に躊躇はあるが、彼女を守るためなら割り切ろう。  魔女を殺すためにではなく、人を殺すために。  喜んでこの引き金を引こう。 (あら、早速ね)  決意を固めた彼女の前に一人の男性が現れた。  銀色の短髪にサングラスを身に着けた男。  気味の悪い笑みを浮かべながら、ほむらに近付いてくる。 「どうもこんにばんは、お嬢さん」 「あら、こんばんは」  会話は、それだけだった。  甲高い空気の切り裂くような音が響き、男が吹き飛ぶ。  地面に倒れた男はそれきり動かなくなった。 (これで一人……案外早く片がつきそうね)  ほむらのした事は単純明快なものだ。  時間を止め、拳銃を撃つ。ただそれだけ。  知覚外からの銃撃を避けられる訳もなく、男は死亡した。  不思議なことなど何もない。ほむらにとっては全てが当然の事象だった。  ただ一つほむらの予想を超えるものがあるとするならば、 「―――残念でした♪」  彼女の知らぬ『異能』の存在。  声と同時に衝撃が走った。  視界が白く明滅し、意識が飛び掛ける。  何が起きた、などと冷静に思考する暇はない。  ただ、その場から離れようと渾身の力で地面を蹴り抜く。  魔法少女として強化された身体能力は、それだけで十数メートルからの距離を進ませた 「逃しませんよ。ホワイトトリック」  ほむらの背後、男は立ち上がっていた。  弾丸を喰らった筈の身体にはなぜか傷の一つとしてない。  男の左手から、ドリルのような形状の何かが伸びてくる。  電撃を纏ったそれは、一目で危険と分かった。 「くっ……!」  ダメージから回復しきらない今の状態では、とても回避できない。  ほむらは己の意識を総動員させて魔力を己が盾に集中させる。  時間停止の発動は―――寸でのところで間に合った。  目と鼻の先にある白色のドリル。あと数コンマでも遅ければ顔を貫かれていただろう。 (今は……!)  ほむらは男に背中を向けて、全力で走りだす。  今のコンディションで時間停止は長く持たない。  戦闘は不可能。  今のほむらに出来る選択は、逃亡の一手のみだった。 ◇ 「消えた……逃がしましたか」  残された男・無常矜持はさして悔しがる様子もなかった。  ホワイトトリックを再度分解し、元通りとなった左手で禁煙パイポを取り出し、口元へ運ぶ。 (アルター能力ではない異能……異界の能力者? それともまた別の何かでしょうか?)  先の少女が能力を使用した際、物質の分解と再構成は発生していなかった。  それはつまりアルター能力者ではないという事。 (それにしても凄まじい能力ですねぇ。由詑かなみのアルターを奪っていなければどうなっていた事か……)  無常の能力は他者のアルター能力を強制的に解除し、吸収するというもの。  吸収した能力は使用する事もでき、無常はその吸収した能力の一つ由詑かなみのアルターを使用していた。  相手の思考・感情・記憶を読むという能力。  この能力のおかげで無常はほむらの動きを読み、知覚外の攻撃を避けたのだ。 「中々に楽しめそうですねえ……」  無常の野心は強大なものである。  彼の心の根底に流れるものは、あらゆる意味で世界の頂点の立ちたいという歪んだ虚栄心。  今はロストグラウンドでしか活動をしていないが、ゆくゆくは『ヘルサレズムロッド』で更なる未知の力を取り込もうと画策していた。  そんな最中で巻き込まれた殺し合い。自分を利用しようとしたあの老人は万死に値するが、状況的にはそう悪くはない。  アルター以外の異能の存在も確認できた。 (私はもっと強くなれる……いや、ならねばならない。ロストグラウンドを、ヘルサレズムロッドを、この世界を支配するには!)  気味の悪い笑い声をあげながら、無常矜持は決意する。  更なる高みへの到達。  己ならそれが出来ると信じて疑わず、強欲の男が進んでいく。 ◇  ほむらは駆けながら、思考していた。  後方の男が使用した謎の力。魔法少女のそれとはまた別種の異能。  ほむらは知っている。  彼女がループしてきた新たな時間軸では、様々な異常が世界を震撼させている事を。  イレギュラーなそれら事象をほむらは深く調べ上げていた。  人外の存在や人知を越えた魔導や技術が蔓延る『ヘルサレズムロッド』。  周辺のあらゆる物質を原子レベルで分解・再構成して生み出す特殊能力『アルター能力』。  男が先程の能力を使用した時、虹色の発光現象が確認できた。  あれは確か『アルター能力』の特徴だった筈だ。 (ふふっ……)  痛む身体を必死に動かしながら、それでもほむらの表情には笑みが浮かんでいた。  魔法少女とはまた別の異能の存在。しかもその力は、魔法少女すら凌駕する可能性を秘めている。  それはほむらにとって天の恵みのようなものであった。 (魔法少女の力では不可能かもしれない……でも、アルター能力なら……私の知らない異能の力なら!)  存在するかもしれないのだ。  どうやっても倒す事の出来なかった最強の魔女。  それを打倒するだけの異能が―――! (私は知らなければならない……アルター能力を、異能を、まどかを救うために!)  苦痛と歓喜をないまぜにした微笑みを浮かべながら、ほむらは決意する。  更なる高みへの到達。  必ず成し遂げなければいけないのだと己に言い聞かせながら、孤独な少女が進んでいく。
◇  暁美ほむらは知っている。  世界は本当はこんなにも異常じゃない事を。 ◇ (全く、おかしなものね。訳の分からない世界にいたかと思えば、こんな所に呼び出されて……)  暁美ほむらは混乱する思考を纏めながら、そこに立っていた。  会場の南端に位置する海岸線。崖に打ち付ける波の音が奏でるハーモニー。  地表を照らす満月を見上げて、溜め息を零す。  i-Phon●にあった『参加者名簿』には鹿目まどかの名前があった。  彼女が守り抜きたい、守り抜かねばならない少女の名。  その名前が名簿にあった時点で彼女の選択するべき道は確定していた。 (まぁ、良いわ……私はまどかを守る、ただそれだけよ)  参加者の殺戮。  殺人に躊躇はあるが、彼女を守るためなら割り切ろう。  魔女を殺すためにではなく、人を殺すために。  喜んでこの引き金を引こう。 (あら、早速ね)  決意を固めた彼女の前に一人の男性が現れた。  銀色の短髪にサングラスを身に着けた男。  気味の悪い笑みを浮かべながら、ほむらに近付いてくる。 「どうもこんにばんは、お嬢さん」 「こんばんは」  会話は、それだけだった。  甲高い空気の切り裂くような音が響き、男が吹き飛ぶ。  地面に倒れた男はそれきり動かなくなった。 (これで一人……案外早く片がつきそうね)  ほむらのした事は単純明快なものだ。  時間を止め、拳銃を撃つ。ただそれだけ。  知覚外からの銃撃を避けられる訳もなく、男は死亡した。  不思議なことなど何もない。ほむらにとっては全てが当然の事象だった。  ただ一つほむらの予想を超えるものがあるとするならば、 「―――残念でした♪」  彼女の知らぬ『異能』の存在。  声と同時に衝撃が走った。  視界が白く明滅し、意識が飛び掛ける。  何が起きた、などと冷静に思考する暇はない。  ただ、その場から離れようと渾身の力で地面を蹴り抜く。  魔法少女として強化された身体能力は、それだけで十数メートルからの距離を進ませた 「逃しませんよ。ホワイトトリック」  ほむらの背後、男は立ち上がっていた。  弾丸を喰らった筈の身体にはなぜか傷の一つとしてない。  男の左手から、ドリルのような形状の何かが伸びてくる。  電撃を纏ったそれは、一目で危険と分かった。 「くっ……!」  ダメージから回復しきらない今の状態では、とても回避できない。  ほむらは己の意識を総動員させて魔力を盾に集中させる。  時間停止の発動は―――寸でのところで間に合った。  目と鼻の先にある白色のドリル。あと数コンマでも遅ければ顔を貫かれていただろう。 (今は……!)  ほむらは男に背中を向けて、全力で走りだす。  今のコンディションで時間停止は長く持たない。  戦闘は不可能。  今のほむらに出来る選択は、逃亡の一手のみだった。 ◇ 「消えた……逃がしましたか」  残された男・無常矜持はさして悔しがる様子もなかった。  ホワイトトリックを再度分解し、元通りとなった左手で禁煙パイポを取り出し、口元へ運ぶ。 (アルター能力ではない異能……異界の能力者? それともまた別の何かでしょうか?)  先の少女が能力を使用した際、物質の分解と再構成は発生していなかった。  それはつまりアルター能力者ではないという事。 (それにしても凄まじい能力ですねぇ。由詑かなみのアルターを奪っていなければどうなっていた事か……)  無常の能力は他者のアルター能力を強制的に解除し、吸収するというもの。  吸収した能力は使用する事もでき、無常はその吸収した能力の一つ由詑かなみのアルターを使用していた。  相手の思考・感情・記憶を読むという能力。  この能力のおかげで無常はほむらの動きを読み、知覚外の攻撃を避けたのだ。 「中々に楽しめそうですねえ……」  無常の野心は強大なものである。  彼の心の根底に流れるものは、あらゆる意味で世界の頂点の立ちたいという歪んだ虚栄心。  今はロストグラウンドでしか活動をしていないが、ゆくゆくは『ヘルサレズムロッド』で更なる未知の力を取り込もうと画策していた。  そんな最中で巻き込まれた殺し合い。自分を利用しようとしたあの老人は万死に値するが、状況的にはそう悪くはない。  アルター以外の異能の存在も確認できた。 (私はもっと強くなれる……いや、ならねばならない。ロストグラウンドを、ヘルサレズムロッドを、この世界を支配するには!)  気味の悪い笑い声をあげながら、無常矜持は決意する。  更なる高みへの到達。  己ならそれが出来ると信じて疑わず、強欲の男が進んでいく。 ◇  ほむらは駆けながら、思考していた。  後方の男が使用した謎の力。魔法少女のそれとはまた別種の異能。  ほむらは知っている。  彼女がループしてきた新たな時間軸では、様々な異常が世界を震撼させている事を。  イレギュラーなそれら事象をほむらは深く調べ上げていた。  人外の存在や人知を越えた魔導や技術が蔓延る『ヘルサレズムロッド』。  周辺のあらゆる物質を原子レベルで分解・再構成して生み出す特殊能力『アルター能力』。  男が先程の能力を使用した時、虹色の発光現象が確認できた。  あれは確か『アルター能力』の特徴だった筈だ。 (ふふっ……)  痛む身体を必死に動かしながら、それでもほむらの表情には笑みが浮かんでいた。  魔法少女とはまた別の異能の存在。しかもその力は、魔法少女すら凌駕する可能性を秘めている。  それはほむらにとって天の恵みのようなものであった。 (魔法少女の力では不可能かもしれない……でも、アルター能力なら……私の知らない異能の力なら!)  存在するかもしれないのだ。  どうやっても倒す事の出来なかった最強の魔女。  それを打倒するだけの異能が―――! (私は知らなければならない……アルター能力を、異能を、まどかを救うために!)  苦痛と歓喜をないまぜにした微笑みを浮かべながら、ほむらは決意する。  更なる高みへの到達。  必ず成し遂げなければいけないのだと己に言い聞かせながら、孤独な少女が進んでいく。

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