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春香さん!本物ですよ、本物!」(2016/02/15 (月) 16:10:07) の最新版変更点

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「え、えっと、これって……?」  気付けばアイドル・天海春香は暗い住宅街に立っていた。  ちらほらと灯る街灯と空に光る満月のおかげで周囲はそれなりに明るい。 「ド、ドッキリ、ですよね……あはは」  周りに人の気配はないが、どこかにはテレビのスタッフが隠れているのだろう。  そう、その筈だ。そうでなくてはおかしい。 「も、もー! 人が悪いドッキリですねぇ! 私だから良いようなものを~」  空笑いを飛ばすも返事はなかった。  仮にもアイドルの放つ台詞でもなかったのだが、ツッコんでくれる者もいない。  痛いばかりの静寂が春香を包む。 「あはは……わあー! い、いつのまにかデイバックを持っていたぞ、私~!  な、中身はなんだろうなあ。え~と……」  何処かにあるであろうカメラを意識してか、大袈裟な動作でデイバックを漁っていく。  出てきたのは全ての参加者に支給されているiPhon●であった。 「iPhon●、しかも●Sですよ、●S! わぁー、最新機種じゃないですか! あ、他の皆も参加させられてるんだ~!  って、これでどうやって殺し合いなんてすれば良いんですか!!」  空元気のノリツッコミをしつつ、更にデイバックを漁っていく。  反応が返ってこないのはもう気にしない事にしていた。  ドッキリであるならば、やり通す。既に春香はアイドルとしてのスイッチをonにしていた。 「あ! まだ何かありますね、これは―――」  そして、彼女は黒光りする何かを取り出した。  ずっしりと重く、手に吸い付くような感触。  形状には見覚えがあった。ドラマや映画の中でレプリカなら扱った事もある。  それは、 「け、拳銃……?」  そう、拳銃であった。  現在の状況からすると余りに趣味の悪い道具であった。  ぞっと血の気が引いていくのが分かる。  身体が思わず震えてしまう。 「あ、はは……す、すごーい! 良くできたレプリカですね、これ!」  飛び出しそうになる悲鳴を呑み込んで、営業用の台詞を何とか絞り出す。  この拳銃が本物な訳がない。そんな筈がないのだ。  だって、これはドッキリなのだから。さっきの出来事も今いる出来事も全部、全部、全部。  そうでなくてはおかしい、そうでなくてはいけない。   「よ、よーし、これで私もばんばんやっちゃいますよ~!」  これはドッキリ、これはドッキリ、これはドッキリ。  春香は己に言い聞かせながら、歩き出す。  だが、恐怖に震える両脚は普段通りに動いてくれなかった。 「う、うわわ……!」  もつれる足。傾く身体。  どんがらがっしゃーん、と芸人顔負けの見事な転倒をかます。  忘れてはいけない事だが、今の彼女の手中には拳銃がある。  レプリカなどではない、正真正銘の本物。  つまり、そんなものを持った状態で下手に転倒などしてしまえば……、  ドカン!!  炸裂音が響き渡った。  春香の手中で拳銃が暴発した。 「きゃぁっ!?」「のわぁっ!?」  発射された弾丸は奇跡的に春香を傷付ける事はなかった。  代わりに、別のものへと命中した。  春香の声を聞いて近付いてきた男に。  もっと言えば派手に着飾った装飾の一つに。  その後光のように伸びる兜へ、これまた奇跡的に、命中した。 「おわわ、種子島ぁっ!?」  ふっとぶ兜。衝撃に揺れる頭。  それでも意識を飛ばさなかったのは、彼もまた兵の一人だからか、戦場での気絶が何を意味するのか理解しているからか。  男は身を低くして、衝撃の来た方向を、春香のいる方向を見る。 「え……え……?」  春香は呆然としていた。  衝撃の走った拳銃。何かが発射されるような感覚と、通りがかりの人の兜を吹き飛ばした威力。 「おい、そこの娘! 何をする、んじゃ……」  すごい剣幕で男がまくし立てるが、春香には届かない。  男もまた春香に近付くにつれ、押し黙ってしまう。  春香の手元を見詰めて、目を大きく見開く。 「あ、あの……わた、私……」  改めて春香は理解する。  自分のした事を、自分のしてしまった事を。  拳銃……。これは、まさか。 「娘! そ、その手元のそれは……」 「ち、違うんです! 私そんなつもりじゃなくて、こ、これも偽物だと……!」  まさか……本物?  本物を、撃ってしまった? 人に向けて……。  私は、私は―――、 「―――そんな事はどうでも良い!」  え? 「それ、それを俺にくれないかっ!?」  男は目をぎらぎらに輝かせながら、そう言った。 ◇ 「はぁ、豊臣秀吉さん、ですか……」 「だぁかぁら、そう言っとるだろうが! 本物じゃって!」  数分後、春香は訝しげな眼で男を見詰めていた。  それもその筈で、男の名乗りが嘘か冗談のようなものだったからだ。  豊臣秀吉。日本で知らぬ者のいない名前。  だが、彼が生きていたのは400年以上前の事であり、今更目の前で生きて動いている筈などない。 「こうも信じてもらえんとは、田舎娘というのは性質が悪いのお……」 「い、田舎って、私これだって関東に住んでるんですよ!」 「関東なぞ田舎も田舎だろうが! 京や大阪で俺にそんな口聞いたら切腹もんじゃぞ!」  ならば男が嘘を吐いているか、本当に自分が豊臣秀吉だと思い込んでいるかのどちらだが……。  確かに男が身に着けてる装備は煌びやかで、何だか戦国時代っぽい雰囲気も醸し出している。 (う~ん……でも何か真新しいっていうか、昔からある鎧や兜って感じはしないんだけど……)  猿顔っぽい容姿も秀吉っぽい要素ではあるが、逆にあまり猿顔すぎて何か怪しい。 (あ、もしかして……芸人さん?)  今の状況はやっぱりドッキリで、目の前の人もドッキリに巻き込まれた芸人さん。  そう考えると説明はつくかもしれない。  本物の拳銃に撃たれたにしては芸人……秀吉さんのリアクションも薄いし、転んで撃った弾が偶然通りかかった人に当たるなんて仕込みでもなければ有り得ない筈だ。  発砲したような感覚はあったけど、空砲と実弾の違いなんて自分には分かりっこないし、多分空砲だったのだろう。   (ふむふむ……それなら筋は通るね!)  うんうんと一人頷きながら、春香は合点する。  ドッキリと分かれば怖いものはない。  出来るだけテレビ映えするように振舞うだけだ。 「分かりました。信じます!」 「! おお! 信じてくれるか! ならその種子島を俺に―――」 「でも、この拳銃をあげるかどうかは別の話です!」 「な、なにぃぃっ!?」  秀吉さんが欲しがっているのは、この拳銃だった。  ドッキリを有利に進めるためか、戦国時代からすればずっと未来の兵器だから欲しがっている(という設定)のかは分からない。 (でも、そう簡単には行きません! ドッキリなら私だって頑張らないと!)  春香がズビシと秀吉を指さし、堂々と言う。   「条件を付けます! 私をこの殺し合いから生還させる事! それが第一条件です!」 「む、むぐう……だが、まあそれなら良いだろう。お前と俺以外を倒してしまえば……」 「何を言ってるんですか! 他の765プロメンバーも生還させるに決まってるじゃないですか! それが第二条件です!」 「なむご? そ、それは仲間のことか? じゃが、生還させるのは3人までと……」 「え、できないんですか?」 「そ、そういう決まりのようだし……」 「えぇ!? 日本を平定し、戦国時代を終わらせた秀吉さんが! 天下統一を成し遂げた秀吉さんが!! そんな事もできないんですかぁ!!?」 「むおお!??」  バラエティというのは困難な事に面白おかしく立ち向かうからこそ、見ている人が楽しめるのだ。  出来るだけ無理難題を吹っ掛け、盛り上げなければいけない。 (視聴者の皆さん、フリですよ! フリ!)  それに、その方が芸人さん的にも美味しい筈だ。  パーフェウト。まさに完璧な立ち回りだ。 「わ、分かった! やってやれない事はない! やってやろうじゃないか!」 「その意気ですよ、秀吉さん!」 「おうよ、日輪の輝きを見せてやるぜ!」  夜天に拳を突き上げ、秀吉さんが叫ぶ。  それにつられて私も手を突き出した。  絶対に盛り上がる番組にしてみせる、私達は二人で誓い合った―――。

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