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「ああ、また敗けたのか」  男は敗北を自覚する。  半世紀を掛け、己が持つすべてを賭け、敗北に次ぐ敗北の末に勝利を確信し―――だが、それすらも実は敗北だった。  あの怪物が動いているのだから、あの怪物が存在するのだから、それは勝ちではない。  負けだ。  何回目かの、何十回目かの、何百回目かの、敗北だ。 「そうか、敗けか」  男は、笑う。   敗北を目の当たりにして、己が全てを否定されて尚も、笑う。  勿論だ。  敗北の先にはあれがある。  男が待ち望む、男が大好きな、男が愛してやまないあれが。 「そうか、ならば一から始めよう」  何度も、何度も、何度も、何度もしてきたことだ。 「戦いを、争いを、闘争を、戦争を、」  何度も、何度も、何度も、何度も待ち望んできたものだ。 「―――一心不乱の大戦争を」  また心躍る戦争を、始めよう。 ◇ 「ああ、そうか」  男は立ちはだかる困難を理解する。  半世紀を掛け、己が持つすべてを賭け、敗北と勝利を繰り返し末に泰平の世を確信し―――だが、それすらも虚実だった。  あの男達が動いているのだから、あの男達が生きているのだから、それはまだ戦乱を意味するのだ。 「未だ、耐えるのみ……か」  男は、笑う。  困難を理解して、困難を自覚して、尚も笑う、  何年、何十年と耐え忍んできたのだ。  たったの数日の争乱などあってないようなものだ。 「これだから人の世と言うものは面白い」  戦乱の世の終わり、泰平の世の始まりは、すぐそこにあるのだから。 「忍び、耐えた先に見えるは―――我らが天下よ」  だから、再び雌伏の時へ。  男は熱き心を、静かに燃やす。 ◇  8キロ四方の殺し合い場。  中央にある鉄塔、その最上階にある狭い狭い部屋の中に、男達はいた。  二人は偶然としてそこで遭遇した。  一人は物珍しげにその天守閣を登り、一人は殺し合いの場を見下ろすために鉄塔を登った。  そして、一番の上のてっぺんにて彼等は出会う。  出会い、わずかに言葉を交わし、机を一つ挟んで向かい合った。 「あーかーど、か」 「そう、アーカードだ。」  入口から見て向かって左側。  丸々とした小柄な男は、語った。  己が宿敵の存在。  不死身で、無敵で、最強たる人外のもの。  小柄の男の行動指針は変わらない。  この化け物を殺す、それだけの為に彼の闘争はある。 「槍で刺され、鉄砲で撃たれ、尚も死なない存在か……俄かには信じられんな」 「事実なのだから信じる他はあるまい。実際に見てみるのが手っ取り早いが、その時には君は死んでいる」  向かって右側。  知的に整った顔立ちの男。  両の目の下にはタヌキのような隈がふちどられている。  隈の男は、小柄な男の話を淡々と聞いていた。 「死なぬ存在……ならば、お前はどうするつもりだ?」 「分からんさ。私の策は、半世紀もの時間を賭けて練り上げた唯一無二の策は、哀れに無惨に敗れ去ったらしいからな。  今の私には何もない。武器も、兵も、技術も、策も、何もかも持っていない」  問いに、小柄な男は両の手を挙げて答えた。 「それで勝てるのか?」 「勝つさ。勝つつもりがなければ、戦争は戦争たりえない」  そう、当然のように言い切る。  小柄な男の双眸にはどす黒い何かが渦巻いている。  その黒い輝きを見て、隈の男はわずかに微笑んだ。 「そういうもの、か」 「そういうもの、だ」  どちらからともなく、二人の男は笑い始めた。  半世紀の雌伏を経て勝利を掴んだ者と、半世紀の雌伏を経て敗北した者。  二人の声が交わり合う。 「あい分かった。同盟成立だ」 「協力感謝するよ。イエヤス殿」  隈の男は、小柄な男の瞳に見た。  己と同じ下剋上の光を。  弱者の立場から、強者の位にいるものを喰らい、這い上がる。  その暗い輝きを、見た。 「私は東へ向かおう」 「なら、私は西だな」 「明日の明朝にまた、此処で」 「ああ、戦果に期待するよ」  隅の男は東に。  小柄な男は西に。  それぞれが、アーカードを殺すために動く。  細かな方針など微塵もない。  参加者を見つけ、何かしらの情報を見つけ、開示しあう。  たったそれだけの拙い同盟。 「君の方は、オダノブナガとトヨトミヒデヨシだったな」 「そうだ。お二方に出会った時は、是非この天守閣へ連れてきて欲しい」  オダノブナガとトヨトミヒデヨシという人物との連絡。  隈の男が提示した同盟の報奨は、それだけだった。 「それでは、ショウサ殿」 「それでは、イエヤス殿」  それだけを残して、二人は別の出口へと向かっていった。  雌伏の時が、始まった―――。  

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