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「くそっ、何だってんだよ、こいつはぁ!」

 今はなきニューヨーク市警の刑事ジョン・マクレーンは夜の市街地を走っていた。
 数十分前に聞こえた少女の悲鳴。ジョンは己の正義感に従い、悲鳴のした方角へ向かっていった。
 だが、市街地も入り組んでいて、どこがどこやら良く分からない。
 悲鳴も遠すぎてどこの通りから聞こえてきたもなのか、判断がつかなかったのだ。
 結局ジョンは迷ってしまい、それからずっと市街地を走り続けていることとなる。

「ひさかたぶり休日を潰しておいて、殺し合えだあ、あのサイコ野郎! 俺はジェーンと会う約束があったんだぞ!
 てめえのその二日酔い明けみてぇな気持ち悪い面、ぶっとばしやるから覚悟してやがれ、くそが!」

 理解不能な状況と、悲鳴をあげた人物が見つからない現状に苛立ちは最高潮に高まっていた。
 趣味でもないジョギングに勤しみながら、浮かんだ愚痴を片端から吐き出す。
 本来ならば今は久し振りのバカンスを満喫している筈だったのに。
 離婚で離れ離れとなった娘と会い、どこかで食事を楽しむ予定だったのに。
 どうして、俺はこんな見知らぬ土地で走っているのだ。
 もはや中年と差し掛かった身でこれだけの激走は身体に悪いの一言だが、足を止める訳にはいかない。
 誰かが助けを求めている状況のが分かっていて、彼が立ち止る事はない。
 彼は走り続ける。
 走り、走り、走り―――見た。

 血みどろの中で立ち尽くす一人の男の姿を。
 月光に照らされる男の顔は、ジョンにとってとても見覚えのあるものであった。






(ひでぇことをしやがる……あと5年もすりゃあ別嬪さんになっただろうによぉ)


 ルパン三世は血塗れの地面を、そこに転がる生首を見つめていた。
 その生首だけは余りに綺麗すぎた。おそらく犯人が見せ付る目的で、血などを拭き取ったのだろう。
 首はまだ年端もいかない少女のもの。
 整った顔立ち。生前はおそらく可憐な少女だったのだろう。
 それも今は恐怖と絶望に染まったまま、固まっていた。 
 優しく死体の目を閉じさせ、ルパン三世は黙祷をした。
 埋葬なりしてやりたい所だが、現状が現状だ。
 今はそれしかしてやれる事はなかった。

(まぁさか、あの野郎、まだ生きてやがったとはねえ)

 マモー。
 先程の場で殺し合いを宣言した老人。
 ルパンが殺した筈の、殺してやった筈の男であった。

(またクローンか? ……大元は殺した筈だけっどなあ)

 あいつは確かに生きて動いていた。
 前回と同様にふてぶてしく、薄気味悪い雰囲気で。
 名を騙った偽物とはとても思えなかった。
 あんな気持ち悪い雰囲気など、自分であっても真似できるかどうか。


「ま、考えてても仕方ねえか。まずは―――「まずは鉛弾で喰らっとくか、クソ野郎」 へえ?」


 背伸びして歩き出そうかとした矢先、後頭部に固い何かが突付けられた。
 ルパン三世は幾度となくそれを同じ様に突き付けられたことがある。
 銃口。
 それが後頭部に向けられていた。

「あらら、どちら様?」
「俺のことはどうでもいい。ルパン三世、てめぇの面は何度も見た事があるぜ」

 肩口から後ろを覗くと、そこにはスキンヘッドの中年オヤジが一人立っていた。
 拳銃の種類は、アメリカの警察で良く使用されているもの。
 アメリカの刑事か誰かかなのだろうか、何ともいかつい面構えである。

「俺にはタコ坊主の知り合いなんていないけどねえ」
「だぁってろ。盗人野郎が」

 存外、中年男は冷静であった。
 いや、上手く激情を押し殺しているといった方が良いか。
 息は荒く、視線は鋭い。両手の拳銃も銃口が震えている。
 おそらくは怒り。
 男が支配されている感情を、ルパン三世は僅かな観察で読み解いた。
 男は正義感に溢れた者なのだろう。
 ルパンに警戒をしながらも、ちらちらと視線が下を向く。
 視線の先には少女の死体。
 その目尻には僅かに涙すら浮かんで見えた。
 中年にもなるベテランの警察官が、人の死を見て涙する。
 そうは見ない光景だ。
 それでもボディチェックをする手は決して鈍らない。
 その手慣れた感じはやはり警察官なのだろう。
 相棒たるワルサーも没収され、男のベルトに挟まれてしまった。


「勘違いしてもらっちゃあ困るけどよ、足元の仏さんは俺じゃないぜ」
「……分かってるよ。おめぇは無駄な殺しはしねえってしつこく聞かされた。一から十まで信じる訳じゃねえがな」
「あら、とっつあんの知り合い? 結構顔広いねえ、あの男も」


 弁明は思いのほか容易く受け入れられた。
 見た目に反して頭のきれる男であった。このぎりぎりの状況で判断を誤る事をしない。
 ボディチェックの後、男は前方に回り込む。

「てめぇ、この死体の犯人を知ってるか?」
「知らないね。俺が来た時にはこの有様だ」
「……そうか」

 再度、男の視線が下を向く。
 その生首を見て、唇が強く噛まれる。

「イカレ野郎が……!」

 吐き捨てるように、呟いた。
 男は銃口を下ろし、ルパンを正面から睨み付ける。


「協力しろ、ルパン三世」
「……へえ」


 その一言に、ルパンの口に目が見開かれる。
 予想外の言葉であった。
 警察官である男が、この状況でまさかノータイムで犯罪者に……それも天下の大怪盗たるルパン三世に協力を請うとは。

「このクソみたいな状況だ。おれには行動しかできねえ。敵をぶちのめしとっ捕まえて、豚箱に送る。それだけだ。
 だが、お前は違うだろう? 天下の大怪盗よ」

 男は最善手を打とうとしているのだ。
 この異質な状況で、知識も力も足りない自身ができる最大限のことを。
 厄介事になれている、ルパン三世をしてそう思うわせる凄味を男は有していた。


「嫌って言ったら?」
「ここで鉛弾撃ちこまれるか、手錠付けて殺し合いの場に放置されるか選べ」
「どっちも勘弁してもらいたいねえ。分かったよ。そこまで言われちゃ仕方ない」

 溜め息交りに、ルパンは提案を受けた。
 警察官との協力。まさか彼の宿敵である銭型以外の警官と協力する日が来るとは思いもしなかった。

「おれはジョン・マクレーンだ。礼はいわねえぞ、ルパン三世」
「はいはい、タコ坊主にお礼なんて言われても嬉しかねえよ」

 ぶっきらぼうに言いながら、男は何かを取り出した。
 それはついさっきルパンから没収したワルサーP38であった。

「良いのかよ? 返して」
「おれよか上手く扱うだろうが。だが、おれや一般市民に向けた日にゃあ、分かってるだろうな」
「了解、了解。おー、こわ」

 ワルサーをホルスターへ仕舞うルパン。
 奇妙なことになったものだと思いながら、ルパンは肩を落とす。




「う、うああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!」



 その時、絶叫が轟いた。
 ルパンと男はほぼ同じタイミングで振り返る。
 そこには男がいた。
 眼鏡をかけた優男。その表情は絶望に染まり、その視線はルパン達の足元に向けられている。


「あ、亜美……亜美、亜美ぃぃぃ!! あ、ああ、ああああああああああああああああああぁぁぁぁぁ!!」


 ルパン達は既に視界に入っていなかった。
 血塗れの地面に近付くや否や、その生首を見て、声を迸らせる。
 知り合い、なのだろう。
 ジョンもルパンも、その男の様子に沈痛な面持ちを浮かべた。
 声を掛ける事はできなかった。
 ただ嘆き、悲しむ男の姿を、警官と怪盗が見下ろしていた。

 ルパン三世も、ジョン・マクレーンも、経験上男が次にどう行動するかは分かっていた。
 分かっていたが、放置していく訳にもいかない。
 だから、見守る。
 全てを予想し、いつでも動けるように身構えながら、男を見守っていた。

「あんたらが……」

 絶叫が止み、男がポツリと言葉を零す。
 ルパンとジョンはいち早く動いていた。

「あんたらが亜美を―――!!!」

 男が両手に握っている拳銃を二人へ向ける。
 その瞬間、ルパンは男の首筋へ手刀を、ジョンは男の拳銃へ蹴りを飛ばす。
 二人の攻撃に反応できる訳もなく、眼鏡の男はそのまま意識を失った。

「クソったれ……」

 殺し合いの凄惨さを目の当たりにし、ジョンが痛ましげに吐き捨てた。