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「ああ、また敗けたのか」

 男は敗北を自覚する。
 半世紀を掛け、己が持つすべてを賭け、敗北に次ぐ敗北の末に勝利を確信し―――だが、それすらも実は敗北だった。
 あの怪物が動いているのだから、あの怪物が存在するのだから、それは勝ちではない。
 負けだ。
 何回目かの、何十回目かの、何百回目かの、敗北だ。

「そうか、敗けか」

 男は、笑う。 
 敗北を目の当たりにして、己が全てを否定されて尚も、笑う。
 勿論だ。
 敗北の先にはあれがある。
 男が待ち望む、男が大好きな、男が愛してやまないあれが。


「そうか、ならば一から始めよう」


 何度も、何度も、何度も、何度もしてきたことだ。


「戦いを、争いを、闘争を、戦争を、」



 何度も、何度も、何度も、何度も待ち望んできたものだ。



「―――一心不乱の大戦争を」



 また心躍る戦争を、始めよう。









「ああ、そうか」


 男は立ちはだかる困難を理解する。
 半世紀を掛け、己が持つすべてを賭け、敗北と勝利を繰り返し末に泰平の世を確信し―――だが、それすらも虚実だった。
 あの男達が動いているのだから、あの男達が生きているのだから、それはまだ戦乱を意味するのだ。


「未だ、耐えるのみ……か」


 男は、笑う。
 困難を理解して、困難を自覚して、尚も笑う、
 何年、何十年と耐え忍んできたのだ。
 たったの数日の争乱などあってないようなものだ。


「これだから人の世と言うものは面白い」



 戦乱の世の終わり、泰平の世の始まりは、すぐそこにあるのだから。


「忍び、耐えた先に見えるは―――我らが天下よ」



 だから、再び雌伏の時へ。
 男は熱き心を、静かに燃やす。









 8キロ四方の殺し合い場。
 中央にある鉄塔、その最上階にある狭い狭い部屋の中に、男達はいた。
 二人は偶然としてそこで遭遇した。
 一人は物珍しげにその天守閣を登り、一人は殺し合いの場を見下ろすために鉄塔を登った。
 そして、一番の上のてっぺんにて彼等は出会う。
 出会い、わずかに言葉を交わし、机を一つ挟んで向かい合った。


「あーかーど、か」
「そう、アーカードだ。」


 入口から見て向かって左側。
 丸々とした小柄な男は、語った。
 己が宿敵の存在。
 不死身で、無敵で、最強たる人外のもの。
 小柄の男の行動指針は変わらない。
 この化け物を殺す、それだけの為に彼の闘争はある。


「槍で刺され、鉄砲で撃たれ、尚も死なない存在か……俄かには信じられんな」
「事実なのだから信じる他はあるまい。実際に見てみるのが手っ取り早いが、その時には君は死んでいる」


 向かって右側。
 知的に整った顔立ちの男。
 両の目の下にはタヌキのような隈がふちどられている。
 隈の男は、小柄な男の話を淡々と聞いていた。


「死なぬ存在……ならば、お前はどうするつもりだ?」
「分からんさ。私の策は、半世紀もの時間を賭けて練り上げた唯一無二の策は、哀れに無惨に敗れ去ったらしいからな。
 今の私には何もない。武器も、兵も、技術も、策も、何もかも持っていない」


 問いに、小柄な男は両の手を挙げて答えた。


「それで勝てるのか?」
「勝つさ。勝つつもりがなければ、戦争は戦争たりえない」


 そう、当然のように言い切る。
 小柄な男の双眸にはどす黒い何かが渦巻いている。
 その黒い輝きを見て、隈の男はわずかに微笑んだ。


「そういうもの、か」
「そういうもの、だ」


 どちらからともなく、二人の男は笑い始めた。
 半世紀の雌伏を経て勝利を掴んだ者と、半世紀の雌伏を経て敗北した者。
 二人の声が交わり合う。


「あい分かった。同盟成立だ」
「協力感謝するよ。イエヤス殿」


 隈の男は、小柄な男の瞳に見た。
 己と同じ下剋上の光を。
 弱者の立場から、強者の位にいるものを喰らい、這い上がる。
 その暗い輝きを、見た。



「私は東へ向かおう」
「なら、私は西だな」
「明日の明朝にまた、此処で」
「ああ、戦果に期待するよ」



 隅の男は東に。
 小柄な男は西に。
 それぞれが、アーカードを殺すために動く。
 細かな方針など微塵もない。
 参加者を見つけ、何かしらの情報を見つけ、開示しあう。
 たったそれだけの拙い同盟。


「君の方は、オダノブナガとトヨトミヒデヨシだったな」
「そうだ。お二方に出会った時は、是非この天守閣へ連れてきて欲しい」



 オダノブナガとトヨトミヒデヨシという人物との連絡。
 隈の男が提示した同盟の報奨は、それだけだった。


「それでは、ショウサ殿」
「それでは、イエヤス殿」


 それだけを残して、二人は別の出口へと向かっていった。
 雌伏の時が、始まった―――。