1 前史 (宇宙歴310年 - 宇宙歴527年)
宇宙歴473年、奴隷階級の青年
アーレ・ハイネセンはゴールデンバウム朝銀河帝国の極寒の
アルタイル星系からドライアイスの宇宙船で脱出する計画を立てた。宇宙船はアイディアのもととなった
少年から「イオン・ファゼカス」号と名付けられ、四〇万人とともに新天地を求めて旅立った。この旅路は後世「長征一万光年」と名付けられた。帝国の監視の目を避けつつ、途中で恒星間宇宙船八〇隻建造し、イゼルローン回廊へ進入した。
非常な難所であるイゼルローン回廊の突破は航路図を持たないハイネセン一行には大変困難な航海となり、当初いた四〇万人の人員も半分以下の一六万人となった。失われた人員の中には指導者ハイネセン自身も含まれている。作中では触れられていないが、回廊を超えた先で
ロスト・コロニーとは接触できなかったか、あるいは接触は非友好的な結果に終わったようであり、一行はハイネセンの友人
グエン・キム・ホアを新たな指導者に推戴してさらに奥地へと航海を続けている。
宇宙歴527年、半世紀に及ぶ過酷な航海の末、ついにグエン一行は
バーラト星系第四惑星
ハイネセンに安住の地を見出した。この年、ルドルフによって廃されていた宇宙暦を正式に復活させてバーラト星系共和国の建国を宣言した。
2 銀河帝国との接触以前 (宇宙歴527年 - 宇宙歴640年)
自由惑星同盟建国からゴールデンバウム朝銀河帝国との接触までの期間は四つに区切られる。それぞれ「建国期」、「拡大期」、「黄金時代」「嵐の時代」である。(54話)
建国以降のグエン・キム・ホア一行は歴史学上、
長征グループと呼称される。ただし、
グエン自身は長征グループの要職に就くことなく、後進に席を譲った。その後、名誉職にとどまった彼は対帝国防衛政策に重大な提言を与えている。これが
距離の防壁である。これにより、長征グループは帝国に備えることなく、足元を固めることに専念した。
その一環として長征グループは利害の一致した各星系共和国と多国間軍事同盟「自由惑星同盟」を締結するが、これは当時
サジタリウス腕にいくつかあった多国間同盟の一つに過ぎない。そして、
ロスト・コロニーとせめぎ合いながら、長征グループの拠点である
バーラト星系は「自由惑星同盟」内部での主導権を確立していった。なお、この当時は自由惑星同盟の最高評議会と各委員会は各加盟国間の調整機関にすぎず、
自由惑星同盟軍も各加盟国の軍隊から有事に臨時編成される連合軍でしかなかった。
長征グループは「自由惑星同盟」を多国間軍事同盟から経済共同体へと進化させ、各加盟国間の経済統合を達成した。この広大な自由貿易圏の形成に伴い、「自由惑星同盟」は急成長を遂げた。各地に散在するロスト・コロニーを加盟させたり、植民星を開拓したりしながら、
サジタリウス腕全域に勢力を広げるに至った。その結果、「自由惑星同盟」の性質にも変化が生じた。多国間共同体から事実上の恒星間国家への変質が生じたのである。各加盟国の軍隊で構成されていた
自由惑星同盟軍は、他の多国間同盟との争いの中で常備軍化していった。同盟の拡大に伴い、調整機関の最高評議会と各委員会は加盟国からの独立性を強め、事実上の中央政府と化した。
- 「黄金時代」(宇宙歴581年 - 宇宙歴615年)
「自由惑星同盟」は人類史上でも例を見ない高度経済成長期に突入した。銀河連邦の全盛期に匹敵する繁栄を謳歌した一方で、加盟間の利害対立が激しくなった。自由惑星同盟の宿痾ともいえる
星系ナショナリズムの激化はこの時期に端を発しているといえよう。労働者や学生の反政府運動が大規模化した時期でもある。
- 「嵐の時代」(宇宙歴616年 - 宇宙歴639年)
「自由惑星同盟」の内部対立は誰の目にも明らかになった。加盟国は一部の豊かな星系共和国と多数の貧しい星系共和国に二分された。貧しい星系共和国では過激化した
星系ナショナリズムが声高に唱えられ、地方分権を求める分権派、同盟体制の解体を求める分離派が台頭した。しかし、首星系バーラトを中心とする集権派は「自由惑星同盟」解体どころか分権化すら認めようとはしなかった。事実上の内戦に陥った
サジタリウス腕では
自由惑星同盟軍が動員され、分権派や分離派との激しい戦いが繰り広げられた。血で血を洗う抗争の末、同盟軍は力づくで同盟体制の解体を防いだ。皮肉にもこの同胞殺しで洗練された同盟軍がまもなく同盟市民を銀河帝国軍による征服の危機から救うことになる。
3 対帝国戦争以降 (宇宙歴640年 - 宇宙歴788年)
ゴールデンバウム朝銀河帝国との接触以降の期間は六つに区切られる。それぞれ「全面戦争時代」、「第一次冷戦期」、「デタント期」、「熱戦期」、「第二次冷戦期」、「防衛戦争期」である。(54話)
- 「全面戦争時代」(宇宙歴640年 - 宇宙歴668年)
宇宙歴640年2月、哨戒任務中の銀河帝国軍の小部隊との遭遇戦という形でゴールデンバウム朝銀河帝国との接触が生じた。現在まで続く長い戦争の始まりである。
同年7月、自由惑星同盟を征服すべく侵攻してきた銀河帝国遠征軍を
ダゴン星域会戦にて壊滅させることに成功した。帝国という強大な外敵に対抗するため、同盟領内で猛威を振るった
星系ナショナリズムの激化は沈静化していった。
その後、銀河帝国は名君
マクシミリアン=ヨーゼフ二世が外征を控えたため、帝国軍侵攻の脅威は遠のいた。この間、自由惑星同盟軍は帝国領辺境に相次いで出兵し、数十億の帝国臣民を亡命者として連れ帰った。(52話)また、帝国からの自発的な亡命者も同盟に流入した。
宇宙歴668年、
晴眼帝のあとを継いだ
コルネリアス一世は入念な準備を整えたうえで、自由惑星同盟領への親征を実施した。(
コルネリアス一世の大親征)ダゴンの勝利に驕る自由惑星同盟軍はティアマト星域とドーリア星域で大敗した。帝国軍は同盟首星ハイネセンから三光年の距離まで迫り、自由惑星同盟は存亡の危機に陥る。(45話)しかし、留守中の帝都オーディンにてクーデターが発生し、帝国軍はあと一歩のところで撤退した。自由惑星同盟は首の皮一枚で危機を乗り越えた。
- 「第一次冷戦期」(宇宙歴669年 - 宇宙歴682年)
コルネリアス一世の大親征を乗り越えた自由惑星同盟はゴールデンバウム朝銀河帝国との全面戦争の危険を痛感せざるを得なかった。同盟の国是からして帝国との妥協はできないが、共倒れを防ぐための措置が求められた。一方、帝国でも親征失敗による財政の立て直しに奔走する
コルネリアス一世が同様の思案をしていた。この両者の思惑が一致したところに
レオポルド・ラープが
フェザーン回廊に自治領を創設するプランを帝国に持ち込んだ。同盟、帝国ともに彼が同盟と帝国の共倒れを狙う勢力のエージェントであることを承知の上でこの提案を受け入れた。勢力均衡のための第三勢力は本質的に両国と相容れない存在こそが望ましい。一方に飲み込まれては機能しないからである。
宇宙歴682年、こうして銀河帝国自治領フェザーンは成立した。
フェザーン自治領成立に同盟側から協力した最高評議会議
スペンサーはこの時代の人物である。(54話)
- 「デタント期」(宇宙歴683年 - 宇宙歴707年)
フェザーン自治領成立により、全面戦争の危機は遠のき、回廊周辺以外は安全になった。対帝国戦争はイゼルローン回廊周辺の戦場に限定された。この典型例が宇宙歴696年
シャンダルーア星域会戦である。
宇宙歴706年銀河帝国に
マンフレート二世が即位した。幼少期に政争を逃れて自由惑星同盟に亡命し、リベラルな空気の中で育てられた異例の経歴を持つ彼は自由惑星同盟との関係改善を図った。戦争の完全停戦や対等外交が両国の交渉の議題に登り、同盟の国論は二分した。帝国との講和に反対する勢力は宇宙歴707年
建軍記念日事件を起こした。地上総軍を中心とする勢力が決起し、クーデターを起こしたのである。
宇宙歴707年、この講和の機運もマンフレート二世が暗殺されたことで収束した。
亡命帝暗殺後、再びイゼルローン回廊周辺をめぐって対帝国戦争が激化した。この時代で有名な戦闘は宇宙歴728年
フォルセティ星域会戦である。そして、まもなくファイアザード星域会戦]]を皮切りに自由惑星同盟軍が帝国軍を圧倒する時代が始まる。一個艦隊単位の戦略的奇襲として名高いドラゴニア星域会戦はその一例である。しかし、
第二次ティアマト会戦で終わりを告げた。
- 「第二次冷戦期」(宇宙歴746年 - 宇宙歴763年)
イゼルローン要塞の完成により、銀河帝国は自由惑星同盟と接する辺境宙域に恒常的に大兵力を配置することが可能となった。一方の、自由惑星同盟は国境地帯からからはるか遠方の
エルゴン星系惑星
シャンプールに二個分艦隊を配置するのがやっとである。このため、同盟軍は圧倒的に不利な状況に置かれた。この苦境を打開すべく実施された四度にわたるイゼルローン出兵はすべて失敗に終わった。
宇宙歴767年、
第一艦隊がハイネセンポリスを三日間占拠した。(
ハイネセン六月危機)首都防衛軍の活躍により、この事態は収拾された。(77話)
宇宙歴769年、「
七六九年の衝撃」発生。反戦政党
反戦市民連合結成のきっかけとなった。
最終更新:2021年09月04日 23:52