ヤン・ウェンリー(宇宙暦767年 - )は自由惑星同盟の軍人。原作登場人物である。男性。

1 外見

 見た目は軍人というより売れない学者のよう。見る人が見ればハンサムな青年。実年齢より2~3歳若く見える。猫背気味の姿勢、よれよれの軍服、黒い髪の毛はぼさぼさで、大学の新入生と言われたら信じてしまいそうな童顔はぼんやりした表情を浮かべている。

2 略歴

2-1 前世

 「不敗の魔術師」と謳われた名将。「銀河征服者」ラインハルト・フォン・ローエングラムが唯一勝てなかった相手。エル・ファシルから民間人三〇〇万人を脱出させたのを皮切りに、アスターテ会戦では全軍崩壊を防ぎ、難攻不落のイゼルローン要塞を一滴の血も流さずに陥落させ、アムリッツァ星域会戦でも敵中にあって最後まで友軍の撤退を組織的に援護し、救国軍事会議のクーデターをほぼ単独で鎮圧し、ガイエスブルク機動要塞を撃退し、カール・グスタフ・ケンプを戦死させ、第一次ランテマリオ会戦では帝国軍の後背を脅かし、その後は同盟全土を舞台に再三にわたって帝国軍艦隊に痛撃を与えてラインハルトを前線に引きずり出した上で、バーミリオン会戦においては総旗艦ブリュンヒルトを主砲の射程内にとらえるまで追い詰めるなど、獅子奮迅の戦いぶりを見せる。バーラトの和約後、ヘルムート・レンネンカンプ同盟駐在高等弁務官の圧力に屈したジョアン・レベロ最高評議会議長に命を狙われるとハイネセンを脱出。再びイゼルローン要塞を陥落させ、エル・ファシル革命政府と協力し、民主主義を守る為の戦いを始める。回廊の戦いでは帝国軍の圧倒的な大軍相手に奮戦し、アーダルベルト・フォン・ファーレンハイトカール・ロベルト・シュタインメッツを戦死させる。その後、ラインハルトから停戦と和平を勝ち取るが、地球教によって暗殺される。その死後、残党は配偶者であったフレデリカ・グリーンヒルを首席、被保護者であったユリアン・ミンツを司令官とし、イゼルローン共和政府を組織、ラインハルトに対する抗戦を続け、ついにバーラト星系での自治権を獲得する。

2-2 新版

 宇宙歴787年に士官学校戦略研究科を卒業。在学中、有害図書愛好会の一員としてマルコム・ワイドボーンら風紀委員会と抗争を繰り広げた。ジャン=ロベール・ラップアレックス・キャゼルヌダスティ・アッテンボローらの知己を得る。当時の校長、シドニー・シトレ宇宙軍中将は後々までヤンに期待をかけている。
 宇宙歴788年にエル・ファシル星系警備隊が帝国軍に敗れ、エル・ファシル星系が陥落の危機にさらされた際、警備隊司令アーサー・リンチ宇宙軍少将から民間人脱出の計画を立てるように命じられる。その後、リンチ少将を囮にする形で全ての民間人を脱出させることに成功する。階級は宇宙軍中尉。この時、エリヤ・フィリップス宇宙軍一等兵を従卒とする。この功績で事実上の二階級特進を受け、宇宙軍少佐となる。(2話)同年、恐らくではあるが、エコニア捕虜収容所参事官を務めていると思われる。(5話)
 宇宙歴794年の第六次イゼルローン要塞攻防戦時、遠征軍総司令部作戦副主任参謀を務める。この戦いまで作戦参謀として地道に功績を挙げていたらしい。階級は宇宙軍代将。士官学校787年度卒業生の中で三番目に早く代将の称号を獲得した。体育会系の気質を持つロボス・サークルとは波長が合わず、白眼視されていた。(24話)同じ戦いで幽霊艦隊対策の案を出すが、ヤンを嫌う副参謀長クレメンス・ドーソン宇宙軍少将が強硬に反対し、採用されなかった。その後、同攻防戦中盤にロボス・サークルと別質の頭脳に期待したラザール・ロボス宇宙軍大将から要塞攻略作戦案の提出を命じられ、一日で完成させる。この作戦はケンプやミッターマイヤー、ロイエンタールの善戦により失敗に終わった。だが、この一日で敵に与えた損害は、これまでの一週間の合計と等しく、遠征軍首脳を満足させるには十分であった。さらに作戦案の提出を命じられると、「少しでもスケジュールが狂ったら、即座に全軍撤退する」という条件で引き受けた。この作戦は要塞外壁への攻撃こそ成功したものの、大兵力がヤンの枷となり、またロボスの撤退決断が遅れたこともあり、トゥールハンマーの攻撃を受けることになってしまう。(28話)

 宇宙歴795年には宇宙軍准将に昇進し、国防研究所戦史研究部長に登用される。一見すると島流しのように見える人事だが、実際は栄転である。戦史研究部の戦史研究は、国防政策や軍事戦略を策定する際の理論的根拠、教範を作成する際の最重要資料、軍学校の戦史教育などに用いられる。それゆえに戦史研究部長は、統合作戦本部や宇宙艦隊総司令部の副部長と同格とされる。将来の最高幹部候補が部長になる例も多い。(29話)同年には国防研究所が発行する『月刊国防研究』の最新号で『経済力と軍事費の均衡――地球統一政府の財政支出をめぐって』という論文を発表する。恐ろしく長い論文なので詳細は省くが、地球統一政府を例にあげて、「軍備の増強は経済発展と反比例の関係にある。過大な軍備は国家の滅亡を招く」と述べる。月刊国防研究が同盟軍人及び民間の軍事研究者に与える影響は大きく、軍拡論の歯止めになるらしい。(34話)同年の第四次ティアマト会戦に際して、マスコミに対して「前も勝ったから今回も勝てるなんて、虫が良すぎるんじゃないですかね」と答えたらしい。(36話)同年のリオ・コロラド事件に際し、マスコミに対して「リオ・コロラドには、一一二個の勲章じゃなくて、第五六一三任務隊の一五隻が必要だったんじゃないですかね」と皮肉った。(38話)
 宇宙歴796年にはエル・ファシル統合任務部隊エル・ファシル軍副司令官を務める。(38話)同年のゲベル・バルカルの戦いの後、エル・ファシル軍司令官代行を務める。エル・ファシル七月危機に際し、正確な判断と的確な用兵で海賊を撃退するが、敵の工作員を警戒し、治安出動を控えた結果、エル・ファシルに深刻な被害を出してしまう。これに対し、ジョアン・レベロ下院議員やサフィル・アブダラ宇宙軍代将から批判があった。世論はヤンを支持したものの、エーベルト・クリスチアン地上軍中佐の正式な査問会で自己批判を行った。なお、この戦いの功績で宇宙軍少将に昇進する。(47話)
 宇宙歴797年には統合作戦本部高等参事官を務めている。統合作戦本部長の最上級補佐官として重要事項の企画立案にあたる。正規艦隊の参謀長や副司令官より序列が低いため、一部マスコミは「閑職に追いやられた」と騒ぐが、実質的な影響力は下手な中将級ポストよりよほど大きい。シトレ元帥は指揮官でなく高級幕僚として使うつもりだと推測された。(51話)実際にはイゼルローン要塞奇襲攻撃を目的とした非公式任務部隊「イゼルローン攻略部隊」の司令官を務め、作戦を成功させる。これをきっかけに軍縮派が力を持ち、「ヤン・ウェンリーの春」と呼ばれる。同年4月に第一三艦隊が創設されると宇宙軍中将に昇進し、司令官に就任する。(52話)同年に帝国内戦が激化すると、ブラウンシュヴァイク派と手を結び、内戦終結後の無期限講和及び相互軍縮条約の締結を条件に、四個艦隊を派遣する槌と金床作戦を立てる。総司令官は宇宙艦隊副司令長官ウラディミール・ボロディン中将が内定する。が、「銀河人権救済協会」によるブラウンシュヴァイク公爵の肉声テープ公開、「全銀河亡命者会議」によるブラウンシュヴァイク領の実態告発を受け、案を取り下げた。(55話)

 宇宙歴798年からの「神々の黄昏(ラグナロック)」作戦では第一統合軍集団所属、第一三艦隊司令官を務める。この作戦中、アムリッツァ星域会戦、「獣の檻」攻略戦、第一次ヴァルハラ会戦などで活躍、遠征軍が攻略した一七個の要塞のうち、五個を第一三艦隊単独で攻略し、三個を他艦隊と共同で攻略した。同年4月末、一連の功績により「大将待遇の宇宙軍中将」に昇進する。同年11月頃には統合作戦本部の立てたマニュアルに従ってほとんど損害を受けずにテロリストの死体の山を量産した。同時期には本国からの増援派遣に反対した。(62話)同年12月の解放区選挙では総司令部の通達を無視し、特定候補への便宜供与にあたる行為を具体的に禁じた。さらに公務員法を盾にとって候補者との面会を拒んだ。(63話)
 宇宙歴799年には宇宙軍大将に昇進する。また同時期、第一統合軍集団を分割し新設された第四統合軍集団司令官に就任する。同年のヴァルハラへの撤退作戦中にはガイエスブルク方面でブラウンシュヴァイク派ガイエスブルク方面軍と激戦を繰り広げる。二万隻を率いて後衛となり、数が多く活力に富んだ敵を良く防いだ。一割半ばという少ない損害で撤退した。(66話)また、第二次ヴァルハラ会戦前に引退の意向を示した。同会戦では同盟軍中央部の第七統合軍集団]]の左隣に布陣する。ミュッケンベルガー軍左翼と激戦を繰り広げる。敵を誘い出しては叩き、救援がやって来たら退くことを繰り返し、巧みに戦力を削いだ。猛進してくる敵を巧みにあしらう様は熟練した闘牛士を思わせた。同盟軍では唯一会戦を通じて優勢を保った。会戦後、ラインハルトを評し、
「戦いが完全に計算通りに進むことは無い。計算違いが起きた時に修正できるかどうかが分かれ目だ。ローエングラム大元帥は恐ろしい修正力を持っている」
とのコメントを載せた。

 このラグナロック戦役ヤン・ウェンリー一二星将を率いて戦ったことにより、その名声は絶大なものとなった。

 作戦後、統合作戦本部作戦担当次長となる。ジャン=ロベール・ラップダスティ・アッテンボローと合わせて「有害図書愛好会の三羽烏」と呼ばれている。軍縮計画策定の中心になり、ラグナロック戦役の戦訓、銀河情勢を踏まえた内容は、「新時代にふさわしい」との評価を得た。この年、『この先数十年の平和を目指して』という提言を行った。また、軍の過ちを暴くプロジェクトを主導した。(73話)ヴィンターシェンケ事件を調査したヴァルケの後ろ盾であった可能性が高い。

 宇宙歴801年4月、復員支援軍司令官に就任する。理由にはヨブ・トリューニヒトの「統合作戦本部長を一期やらせて引退させれば、三年で軍から追い出せる」という思惑がある。復員支援軍司令官就任の式典の次の日に元帥待遇の大将となる。(75話)
 同年10月、ルドルフ原理主義革命に際し、同盟軍の直接介入が必要だと提言した。理由を聞かれると、「帝国人であっても、人権侵害は見過ごせない」と答えた。(78話)
 同年10月末、一〇月クーデター民主政治再建会議のクーデター)が発生すると、再建会議議長ウラディミール・ボロディン宇宙軍大将から
「帝国との講和交渉を開始せよ。貴官にはあらゆる権限が与えられる。貴官が求めた支援はすべて与えられる。貴官の裁量は最大限に尊重される。最善と信じる方策を取るように。責任はすべて私が負う」
と「宇宙軍元帥」「同盟軍最高司令官首席代理」「国外総軍司令官」「帝国領駐在高等弁務官」の肩書きを与えられる。(80話)が、再建会議との敵対路線を選び、第八次イゼルローン要塞攻防戦で再建会議派のフランシスコ・メリダ宇宙軍中将が守るイゼルローン要塞を陥落させる。(82話)この功績によって「共和国の剣」と呼ばれることになる。(86話)
 同年12月、元帥に昇進する。
 宇宙歴802年にはイゼルローン総軍司令官に就任。第一三艦隊司令官も務めている。このころには原作と同じ「不敗の魔術師」と呼ばれている。第一三艦隊の隊務に関してはクリストファー・デッシュ宇宙軍大将に丸投げしている。同年、マルコ・ネグロポンティ国防委員長によってハイネセンに召喚される。第九次イゼルローン要塞攻防戦が発生すると、即応状態の四個艦隊を率いて援軍に向かう。(106話)同攻防戦では第二二方面軍配下の機雷戦部隊によって同盟軍に追撃の意図が無いことをアピールするために艦隊の前方に大量の機雷を設置し、ジークフリード・キルヒアイス帝国宇宙軍元帥に撤退を促した。(112話)同攻防戦の後、ハイネセン記念特別勲功大章を授与された。人々は国防委員会が迷惑料を払ったのだと噂した。(113話)

3 能力

 前世において、「不敗の魔術師」と呼ばれ、その名の通り敗北したことは一度もない。
 士官学校の卒業席次はそこそこだが、数学はトップクラスだったらしい。
 ラグナロック作戦では前線には出ていないものの、別働隊を使って制宙権を握る戦略を立てた。スペース・レギュレーション概念を彼ほど巧みに用いた者はいない。一世紀半にわたって主流を占めた殲滅戦理論は、彼によって完全に過去のものとなった。防御戦術は芸術の域に達している。
 宇宙歴802年4月時点で、リン・パオ元帥やアッシュビー元帥といった過去の英雄たちをしのぐ軍人としての名声を手にしている。(97話)

4 性格

 ヤンと同期のレスリー・ブラッドジョー曰く、「あんなに常識のある奴はいなかったんと違うか」とのこと。強烈な政治不信を持っている。紅茶入りブランデーと読書を何よりも愛する。学者肌で内向的、反骨精神が強く、嫌々軍人をやっている。ヤンより移民保護や難民受け入れにも熱心な提督はいない。

 対立する立場のマルコム・ワイドボーン曰く、
「あいつははみ出し者に寛容なだけだぞ」
「ヤンはマジョリティでない奴に寛容なだけさ。それって寛容なのか? 俺だってマジョリティには寛容だぞ」
「ヤンはマイノリティの論理をマジョリティに押し付けてるんだ。俺は戦争に反対する奴を見ると嫌な顔をする。ヤンは戦争に賛成する奴を見ると嫌な顔をする。どこが違うんだ? やってることは同じじゃないか? マジョリティがやったら不寛容で、マイノリティがやったら寛容なのか?」
「ヤンなんてただの原理主義者だ。体制や権威を批判することが絶対正義だと思ってる。戦争に反対することが絶対正義だと思ってる。個人の権利と自由はすべてに優先すべきだと思ってる。違う考えを認める気はひとかけらもない。ルドルフがリベラリストだったら、ヤンみたいになるんだろうよ」
とこき下ろしている。

「私もヤン元帥は信念の人だと思っていますよ。自分の正義を疑わない。自分の正義に反することはできない。違う考えを認めない。彼ほど信念が強い人は見たことがありません」
「彼が嫌っているのは、言葉じゃなくて、それを口にする人なんだと思いますよ。自分は信念に命を賭けている。だからこそ、覚悟もないのに信念を口にする人が許せない」
「ヤン元帥は厄介な人ですが、それを補って余りある美点があります。市民の生命を守ることが、民主国家の使命だと本気で信じています。そして、どんな時でも市民の生命を最優先します。非難されることが分かっていても、不利になることがわかっていても、彼は市民の生命を守ろうとするでしょう」
「私は彼の狂信を信頼します。我々を滅ぼさなくても、彼は目的を達成できる。我々が市民を守る側に立つ限り、彼は我々を嫌うことはできても、排除することはできない。だからこそ、安心して対立できます」
と評している。

 エリヤ・フィリップスの考察によると
 ヤン・ウェンリーは束縛を好まない。部下を職場に縛り付けたくないから、残業をなくした。部下を規則で縛りたくないから、行儀の悪さを大目に見た。

 ヤン・ウェンリーは自由意思を尊重する。人間は自由に生きるべきだと考える。人間は自由に選択するべきだと考える。国家や指導者のためではなく、自分自身のために戦ってほしいと願う。

 ヤン・ウェンリーは効率主義者だ。可能な限り手間とコストを省いた。苦労して完全勝利するより、楽に判定勝ちする方を選んだ。精神主義や家族主義を切り捨てた。市民や政治家を満足させるためのサービスを削った。凡人が大事にするものは、天才の目から見ると無駄でしかない。

 ヤン・ウェンリーは他人にどう見られるかを気にしない。それゆえに軍隊らしさを演出するための装飾を削った。軍人らしい身なり、細々とした規則、市民受けするパフォーマンスなど不要だ。市民や政治家の心証を良くする暇があったら、部下を休ませる。

 ヤン・ウェンリーは他人の生き方に干渉しない。努力したいなら努力すればいい。怠けたいなら怠ければいい。働き者だろうが、怠け者だろうが、手持ちの駒は有効に使う。

 レポートと戦記の記述はおおむね一致している。おそらく、ヤン・ウェンリーの実像は、戦記とそれほどかけ離れていない。
ということらしい。


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最終更新:2021年04月15日 00:11