コンプレッサ


【 キャラクター名 】:コンプレッサ
【 性別 】:女性


特殊能力 『ジメンション』

「すてきなもの」をぎゅっと平べったくして、本に綴じ込む能力。
平べったくなった物は、厚みと重さがなくなるので、何枚でも本に綴じ込むことができる。
この能力による2次元化は可逆圧縮であり、理論上は一切の欠落なく元通りに復元可能。
ただし、コンプレッサ自身が持つ解凍能力は限定的で、元の物質に復元させることはできず情報しか取り出せない。


キャラクター設定

「すてきなもの」を探して世界中を旅している、西洋人形のような雰囲気の女の子。
長めの前髪から覗く瞳の色は、紫がかった深いタンザナイトブルー。
古めかしい装幀の大きな魔本を背負っていて、魔本には彼女が集めた「すてきなもの」がたくさん収められている。
彼女が心から「すてきだな」と思った時、魔本はひとりでに背中を離れて対象を挟み込み、収録する。

いつから彼女が旅をしているのかは、誰も知らない。
少なくとも、見た目通りに小学生程度の年齢でないことは確かだ。
真実は魔本の中にのみ存在する。
コンプレッサは、自らの過去と未来をすべて「すてきなもの」として収録してしまったのだ。

身体的な能力は外見どおりにか弱いものの、魔本から無限に近い知識を引き出せるため彼女を敵に回すのは賢明なことではない。
そして、彼女の未来は自分自身の能力によって封印されているがゆえに、老いることも死すこともない。

コンプレッサは、永い旅の中で見てきた。
たくさんの美しいものと、たくさんの醜いものを。
たくさんの楽しいものと、たくさんの悲しいものを。
たくさんの暖かいものと、たくさんの冷たいものを。

コンプレッサは、考えている。
もしかしたら、この世界は、それら全部をひっくるめて「すてきなもの」なのかもしれないと。

コンプレッサが、世界まるごとすべてを「すてきなもの」であると心の底から思うようになった時、彼女自身とこの世界は魔本に収録されて終焉を迎える。

「冥王星…祭?『すてきなもの』に会えそうな予感がします。ちょっと覗いてみることにいたしましょう」


プロローグ

1月としては珍しく、暖かな休日であった。
希望崎学園へと至る大きな橋梁は、平日以上の多くの人通りで賑わっている。
世界の三分の一である地下世界を統べる偉大なる王、冥王プルートーの星を崇め奉る祝祭が開かれるからだ。

学園へと向かう者たちは皆楽しげに浮かれた足取りで、橋の途中に立ち止まっている少女のことを気に留める者は多くない。
少女の装いは、現代日本には似つかわしくない古めかしいものであった。
中世欧州風のドレスを纏った小さな少女は、ランドセルのように大きな本を背負っている。
本の装丁もまた古めかしく、表紙にはヴォイニッチ手稿に似た謎めいた文字が並ぶ。

少女は、猫を見ていた。
キジトラの、普通の野良猫。
橋の欄干に乗って丸くなり、祭の喧騒など我関せずとばかりに泰平の昼寝を楽しんでいる。
欄干の向こう側に転がり落ちれば東京湾の冷たい海水。
だが、猫はそんなことは気にしない。
自分が欄干の上から落ちることなんて、ありえないと思っているのだ。
少女は、猫の様子をうっとりと眺め、穏やかな微笑みを浮かべている。

ぱしゃり、と音がした。

橋を歩く人々が、音のした方に目を向ける。
そこには、大きな本を手に持った少女がいた。
少女の手前の欄干には、何も乗っていない。
嗚呼、それではあの猫は、不運にも海中に転落してしまったのであろうか。

だが、少女の表情は穏やかで、春の日差しのような笑みを湛えながら手にした本を見ていた。
開かれた本のページには、丸まって昼寝をしている猫の姿が写真のように精密なタッチで描かれていた。
キジトラの、普通の野良猫。
本の中の猫は、自分の身に起きた出来事など我関せずとばかりに泰平の昼寝を楽しんでいる。

ひとしきり本の中の猫を眺めて満足すると、少女は本を閉じて再び背に負った。
そして、祭の会場を目指して歩きだす。

少女の名はコンプレッサ。
魔本の所有者であり、魔本に囚われたしもべである。
本名は、本人すらも覚えていない。
遠い昔に、魔本の中へ、検索キーと一緒に閉じ込めてしまったから。
コンプレッサは、過去と未来を持たぬ永遠の旅人にして「すてきなもの」の収集者。
果たして冥王星祭で、如何なる「すてきなもの」を見いだし、魔本に収録するのであろうか。

海風がそよぎ、少女の長い前髪をなびかせる。
前髪の裡から覗いた少女の瞳の色は、深淵の闇を湛えたタンザナイト・ブルー。
冥王星祭で出会えるであろう「すてきなもの」の予感に、青い瞳が妖しくきらめいていた。
最終更新:2017年01月12日 12:00