SS

応援SSの掲載ページです。

SS一覧(題名は、最初の一文かSSに付けられたタイトルを付けています)



『完全治癒、それが雄ミルク一番搾りくんの奇跡である。』

完全治癒、それが雄ミルク一番搾りくんの奇跡である。
雄ミルク一番搾りくんのイチモツと雄ミルクは万人に開かれている。
その奇跡を望む者ならばどんな人間だろうと雄ミルク一番搾りくんは拒まない。
しかし稀にその奇跡を独占し、邪な企みを画策する者もいる。

「ゲースゲスゲス、親分!雄ミルクの野郎を捕まえてきましたぜ」
雄ミルク一番搾りくん危機一髪!悪の集団に捕らえられてしまった。
悪の集団の親分は死に瀕していた。
丁寧に口淫すること自体は可能であろう。
しかし果たして雄ミルク一番搾りくんが達するまで体力が持つだろうか。

唐突だが「雄ミルク一番搾りくんはお尻が弱い」というまことしやかな噂がある。
      • 事実である。
雄ミルク一番搾りくんはお尻がとても弱い。
太く逞しい男の象徴で激しく突かれるとすぐに達してしまう。

「ゲースゲスゲス、親分!雄ミルクの野郎こんなイチモツを持っているのにお尻が弱いらしいですぜ
あっしが雄ミルクの野郎の尻を責めるんで親分は丁寧に口淫してくだせえ!」
悪の集団のボスが丁寧に口淫を始めると同時に手下は雄ミルク一番搾りくんの一番の急所を責めた。
ニュルリ
その瞬間、雄ミルク一番搾りくんは耐え難い快楽に襲われる。
くやしいいいでも感じちゃうううう状態である。

前と後ろからの責めに屈してしまう雄ミルク一番搾りくん。
雄ミルク一番搾りくんのイチモツからは大量の雄ミルクが一番搾られた。
「やったでやんす!これで親分も助かる!!」

しかし誤算があった。
雄ミルク一番搾りくんは口淫によって達したのではない。
手下の激しい突きによって達したのである。
雄ミルク一番搾りくんの能力である「雄ミルク☆一番搾り」は
愛情にも似た丁寧さで口淫されることにより雄ミルクに奇跡を宿す。
しかし、今回は敵意にも似た激しさで突かれたことにより奇跡とは反対の
「直死」が宿る雄ミルク☆一番搾り~闘殺天(ところてん※1)~となる。
直死が宿った雄ミルク一番搾りくんの雄ミルクを浴びてしまった親分と手下。
たちまち絶命した。

雄ミルク一番搾りくんはとても悲しんだ。
雄ミルク一番搾りくんのイチモツと雄ミルクは誰であろうと拒まない。
救えるはずだった命を救えなかったその自責の念から
また雄ミルク一番搾りくんは自らのイチモツと雄ミルクを万人に開く。

※1
男根による前立腺への刺激により達してしまうことを俗に「ところてん」と言います。

『応援ss2』

応援ss2

雄ミルク一番搾りくんは恋人がいたことがない。
雄ミルク一番搾りくんは自分が恋人と充実した生活を送るよりも、
苦しむあらゆる人を助けることを良しとする男だからだ。
無私、それが雄ミルク一番搾りくんの精神性である。

しかし雄ミルク一番搾りくんも年頃の男の子である。
恋人を作って愛のあるセックスをすることに憧れもある。
「いつか素敵なセックスがしたいな」
ふと独りごちる雄ミルク一番搾りくん。
しかしすぐに「世界中から苦しむ人を救った後だな」
とほほ笑んだ。


『「とうちゃーく、レッツ冥王星祭!」』

「とうちゃーく、レッツ冥王星祭!」
川崎エイラと名乗る幼女は午前9時半に無事に希望崎に到着した・モチロン冬服であrった。
(条件『冬服』クリアー!)

だが、平和だったのはここまで学園の門をくぐった一歩目で足元にぐにょんとした感触が。
「こんにちわ ぼく うんこすきー」
「ぎゃー!」
明らかにウンコ、見事なウンコだった。ウンコ界のイケメンなのは間違いないだろう。
「よし、さっそく自分では無理な条件一個達成」
エイラはその辺に落ちていた棒をうんこすきーに刺しアラレちゃん方式で装備する。
(条件『クソ野郎イケメン』達成!)
転んでもただでは起きないエイラだった。
「さあこの調子で人気コンテストまでになるべく多くの条件を達成するんだからねっ!」

つづく

『「う~冥王星様、冥王星様。右手にウンコ棒を持って学園祭を回っているエイラは』

「う~冥王星様、冥王星様。右手にウンコ棒を持って学園祭を回っているエイラは
どこにでもいる幼女。強いて違う所をあげるとすれば無性化して年齢査証してる事カナー。
名前は川崎エイラ(偽名)。そんな訳でエイラは噴水の前に来てるのです」
経歴詐称部分は聞こえない様に小声で呟きながらエイラは噴水前に到着。
冥王星祭の前にエイラは同行者を募集していたが、その相手がここで待っているのだ。
周囲を見渡すと一人の女子高生が声をかけて来た。
「起動せよ大地の杖(レヴァテイン)」
「ウホッいい詠唱」
(条件『詠唱』クリアー!)

詠唱と共に地面を隆起させた彼女は天球院ルト。
地属性研究会所属で、マイナーな地属性をなんとか目立たせようと色々手を出している。
ルトがエイラの同行者募集に乗ったのも、動画でのエイラ人気に乗っかろうとしての事だった。
「エイラちゃんよね?早速この学校を案内するからそこの岩を持って」
「はーい」
学校案内と関係あるんかいと思ったエイラだったが、魔人能力とはそういうものである。
時間も惜しいし疑問を口に出さず言われた通りに隆起した岩のてっぺん、杖っぽい部分に手を置く。
「降り注げ、星の涙」
「ほぎっ」
潰されたカエルの様な声をあげてエイラが消失した。
天球院ルトの魔人能力は岩の杖を第一宇宙速度で射出し標的に落とすというもの。
それを応用してエイラを空に飛ばし上空から希望崎を観測させようとしたのだ。
でもそんな使い方してエイラさん大丈夫なんですかね?

「・・・やっぱ無理があったかー」
射出から約一分後、岩の杖だけ戻の場所に戻って来た。そして噴水を挟んで反対側に落ちていくエイラらしき物体。
(条件『能力応用がかっこいい』クリアー!)
(条件『なんか手が届きそうで、絶対手を届かせてくれない女子』人命救助的な意味でクリアー!)
(条件『天体とか宇宙とか星とかの能力』クリアー!)
(条件『重力関係の能力』クリアー!)
(条件『隕石』厳密には違うけどオマケしてクリアー!)

エイラが生きてたらつづく

『【新春特別番組『夜魔口組・密着24時』ダイジェスト編】』

【新春特別番組『夜魔口組・密着24時』ダイジェスト編】

年の暮れ。それは一本の電話から始まった。
不死身組 組長、夜魔口不死身の怒声がオフィス一帯に雷鳴のごとく響き渡る。


「爆破予告だ。雲類鷲のヤロウ、事務所に爆弾仕掛けたと犯行予告かましてきやがった!」

「「「なんだって!!!」」」

「新年は冥府でお迎えしてください、うちの娘にもお年玉よろしくだとふざけやがって」

読めぬ意図。見つからない爆弾。迫るタイムリミット。
――
――
――――


そんな中、組唯一の頭脳派、夜魔口断頭の下した結論とは。
「―――お前、時限爆弾だろ」

がぴょーん。
そのアンサーに、ありえないリアクションを披露するくだんさん。

かかる疑惑。下着にかかる手。煽る周囲。
DVD!DVD!

くだんさん初ぬぎ&ビデオ主演決定か!?


「ちょ、ちょっと待ってくださいよ。先輩コイツはそんなやつじゃ…」

「いい機会じゃないか?工鬼。手前も筆おろししちまえ―童貞卒業か、おめでとう」
「おめでとう」
「おめでとう」
「おめでとう」

「おめでとう」沸きあがる周囲の温かい拍手。

夜魔口工鬼にも貞操の危機。共演決定か?


そして
『RASHAI!』

混迷する年越しに緊急エントリー
呼ばれてもいないのに電撃参戦する現れる謎の来訪者の正体とは!?

『神田・白蘭です。年越しラーメンお届けに来ました。』あっ出前ですか、お疲れ様です。


果たして、組の運命はいかに。年の瀬に、弊社はもクズになってしまうのか!?


”ラーメン大好き”くだんさん


なんか本編書かなくてもダイジェストでキャラ設定の伏線ほぼ消化したから
もう分かっただろ、このしょうもないオチが的アトモスフィア。


「全く世話しないな、年越しラーメン食べている暇もないぜ!(ずるずる)。
「といってるのに食べるんですね、兄貴…(ずるずる) むーこの味は!?」
「っておまえら緊張感なさs…んだとっ」

そして夜魔口工鬼・断頭、この二人の命運はいかにして尽きたのか、
冥界への旅たち。
”マイナスコミュの帝王”雲類鷲殻の仕掛けた爆弾”Another One Bites The Dust(地獄への道づれ)”が今さく裂する。


                         (本編は書かない)

『「めーおーせーさい?」』

「めーおーせーさい?」
ゆかりさんこと明水 紫(あけみず ゆかり)は友達が話題に出した単語を繰り返して発音する
「そう!希望崎学園毎年の恒例行事、冥王星祭だよゆかりちゃん、もしかして知らないの!?」
友達その1、アオちゃんこと青松 白砂(あおまつ はくさ)はそう問い詰める。
まるで知らない事が罪だとでも言わんばかりに詰め寄ってきて、ゆかりさんは少し戸惑う。
「ゆかりちゃんは転校してきたばかりだからねー。知らなくても仕方ないよー」
友達その2、ケイちゃんこと全景 佳景(ぜんけい かけい)がそうのんびりとフォローを入れてくれる。
「そうかもしれないけど!でも、あと数日で始まるのよ!普通知ってると思わない!?」
「ゆかりちゃんは転校してきたばっかりで、気が付かないくらい色々と忙しかったんだよー」
友達二人のそんな会話を聞いていたゆかりさんは、二人に問いかける。
「それで、その、めーおーせーさいって何なの?」
「学園祭だよゆかりちゃん!希望崎学園毎年の名物である学園祭!!冥王星を崇めるものなんだよ!」
「色んな屋台とかー、演劇とかー、冥王星に纏わる色んな催し物があるんだよー。人気者コンテストが一番の目玉かなー」
「へー、それは面白そうだね。ところで、めーおーせーって何?」
「知らない!」「知らないー」
今どきの若者は、準惑星に落ちぶれた冥王星のことなど知りもしなかった。
これが俗にいう、若者の天体離れの一部である。まぁ、残当な出来事だよね。
「でも、お祭りであることは確かだよ!ゆかりちゃん、一緒に楽しもうね!」
「そうだねー、色んなお店を見て回ろうねー」
アオちゃんもケイちゃんもとても楽しそうだったので、ゆかりさんもとても冥王星祭が楽しみになった
「でも、人気コンテストってどんな事をするの?」
だから、より詳しくお祭りの事を聞きたくなってしまったのは、きっと当然な流れだろう。
それが間違いだった。
「えっ!ゆかりちゃん、人気コンテストに興味あるの!?」
「えっと、興味あるって言うか、その、ちょっと気になって」
「ゆかりちゃんならー、可愛いしそこそこの知名度があるから結構いいところいけるんじゃないー」
ゆかりさんは、転校直後に起こしたちょっとした事件によって一躍時の人として一部で噂になっているのだった。
「えっ、いや、出たいわけでは……」
「大丈夫、ゆかりちゃんならいいところに行けるよ!僕も応援するから頑張って!」
アオちゃんはいい子だけれど、人の話を聞かないところがあるのがたまに傷である。
「えっと、だから……」
「まだコンテスト参加の締切前のはずだからー、急げば間に合うと思うよー。私、ちょうど参加申し込み用紙持ってるから上げるねー」
「あっ、ありがとう……うう……」
ゆかりさんは、積極的に来られると結構断れない性格だった。

かくして、コンテストに参加することになったゆかりさん。しかし、そこに新たな問題が立ちふさがった!
「……参加者結構多いなー。29人かー」
参加者一覧のリストを渡されて、ゆかりさんは困惑する。
当然だが、転校してきたばかりのゆかりさんには見知らぬ人ばかりだ。
「5つの部門に該当する人を、この中から選ばないといけないのか。ちょっと大変だな」
リストには簡単な自己紹介と、どうやって調べたのか全員の能力の説明が乗っていた。
だが、29人ともなると全員把握するだけで一苦労だ。
実際、リストを渡されて3日目になるが、まだ半数くらいしか把握できていなかった。
もっとも、それはゆかりさんの中の人の怠慢も大きく影響しているのだが。
「ああ、誰かが私の代わりに読んで紹介してくれたらな。そう、例えばラジオとか使って」
ゆかりさんはそう一人ごちる。しかし、世の中はそんなに甘くない。
ラジオ貴族は貴重なのだ。きっと、貴族として忙しく働いている。参加者把握のためだけにラジオをする暇など無いに決まっている。
それに、流石に一日ですべてをラジオで把握するのは難しいから二日はかかるとして、投票締め切りを考えると今夜か明日には始めなければきっと間に合わない。
だけど、ラジオをやろうという人はいまだに現れないのだ。だから、きっとこれは叶わない夢なのだろう。
―――それでも、とゆかりさんは思う。
「それでも、誰かが参加者把握ラジオをやってくれると嬉しいんだけどな」
一人だけでこうして寂しく参加者の紹介を読むよりも、皆でワイワイラジオで把握した方が絶対に楽しい。
そんな叶わぬ夢を見ながら、ゆかりさんはまた一人寂しく、参加者の把握のためにキャラリストを眺めていくのだった。

ゆかりさんによるキャラ把握ラジオ催促SS―――完

一行で分かるまとめ:誰かキャラ把握ラジオやらないかなー

『「久々津取次応援SS:GGと奇妙な学園第一部 ファントムライター」』

「久々津取次応援SS:GGと奇妙な学園第一部 ファントムライター」

「行くぞおおおおおおお!!!」
「「「MONKYYYYYY!!!!!!!」」」
「「「AKIKAAAAAAN!!!!!!!」」」

久々津取次は最強の亡霊さんを使役する魔人能力者である。今日の彼は冥王星祭を意識したアピール活動…の前に五里先生から頼まれた希望崎学園内のアキカン潰しにクラス一同で従事していた。
なお取次以外のクラスメイトは既に五里先生の魔人能力「大自然の審判」によりジャングルームに強制連行され野性ドーピング済み!
モンキー並みの知性低下と引き換えに、並大抵の魔人程度なら殴り倒し血を啜る超パワーを手にした恐るべき見習いチンパンジーの群れと化している!
(なお、この魔人能力を発動するには大自然をナメた行為にもれなく発行される「バナナカード」を二枚贈呈する必要がある。自然に敬意を払い、環境保護活動をすれば返却可能)
久々津の所持バナナカードは今朝の大寝坊で渡された一枚のみなので参加義務は無し!
しかし地域社会に貢献せずしてグランプリの座など尚更無し!と考えた彼は自らこのアキカン潰しに志願したのである。

各所でぶつかるアキカンとチンパンジー!割り箸とゴミ拾いトングの鍔迫り合い!響く金属音!
二つの軍勢が激しくぶつかり合う中、取次はひときわ大きいアキカンと対峙していた。
メカアキカン隊長だ!指揮系統を叩けばアキカン潰しも一気に楽になるよ!
「AKIIIII…まさか人の身でここまでやって来る者がいたとはな…どうだ?我がアキカン部隊の一員に」
「おねがい☆亡霊さんっ!」
(全力で/潰れろ!)
気にせず亡霊さん発砲!
「ふん、なんだそrぐわあああああああ!?」
アキカン隊長圧壊!取次をナメ腐った物にしてはもったいないくらいの末路ね!ざまあみろ!
「敵将!討ち取ったりぃ!!!皆で畳みかけるぞ!」
「「「AKIIIII!?!?!」」」
「「「WKYYYYY!!!!!」」」
かくしてアキカン潰しは終わった。
今回のアキカン拾いでバナナカードも返却した久々津取次に清き一票をおねがいします!
(筆者:亡霊さん)

『結論から言うとエイラは死んではいなかった。』

結論から言うとエイラは死んではいなかった。
人は第一宇宙速度で飛ばされると間違いなく死ぬが、第一宇宙速度が出るのは杖単体で飛ばした場合である。
エイラの重量と空気抵抗によってかなりの減速がされ、衛星軌道には乗らず北海道がチラ見できた程度の高度で済んだ。
その際北海道のラーメン館とかレーニン像を写メってしっかり最高難度のお題を回収したエイラだった。
やったぜ!
(条件『空中巨大建造物』クリアー!北海道は天空にあるのはダンゲロスの常識!)

で、帰還中右手にウンコ棒持ったまま写メ確認した結果、杖から手を離してしまい落下ダメージを受ける事になったのだ。
やっちゃたぜ!

「死ぬ・・・このダメージはまずい・・・まだ半分ぐらい残っているのにこんな所で私は終わるの・・・?」
起き上がる事も出来ないまま力尽きようとしているエイラ。救いはないんですか!

「助けに来たよ!命の灯が消えかけているのは君かい!」
たすけきた。彼は雄ミルク一番搾りくん。波乱巻き起こる冥王星祭の犠牲者を一人でも救おうと活動していた。
彼の雄ミルクには死亡以外完全回復の効果があるぞ。
ちなみに後天的に発現した能力なので雄ミルク一番搾りくんには本名が別にあるはずだぞ!
(条件『一単語の二つ名』クリアー!雄ミルク一番搾りくんは一単語、いいね?)

「助・・・けて」
「大丈夫だよ!さあ僕の男根を丁寧にしゃぶって!僕の能力対象は男性限定だけど男の娘も多分オッケーさ!」
ずずいと目の前に魔人級イチモツ。見上げると体脂肪10パー未満と思われるバリバリカットの大男だった。
「背が高くて痩せてるのキタ!ほまりんさんのイラストに感謝!」
お題ゲットのチャンスを逃すエイラではない!最後の命を振り絞ってこの変態と絡まなかればという意志が生きる活力となる。
ちなみにこの男、見た目は強そうだが回復役に特化した術タイプだ。よっしゃあ。
(条件『術士特化タイプの男子』クリアー!)
(条件『二次元キャラ的な長身痩躯男子』クリアー!医学的見地から言って彼は痩せていると言って間違いない!)

「エイラいきまーす!ムブムブハブハブ」
さっきまで死を待つしかなかったとは思えない速度で男根をしゃぶる。たちまち雄ミルク一番搾りくんは絶頂に達した。
「うおー!この男の娘凄い上手だぁ!もう出すぞー!」
「あの、今更ですがエイラ無性なんですけど回復効果とか大丈夫なんでしょうか?」
「えっ」
「あ、ヤバッ、薬切れてオッパイ膨らんできた」
「ええー・・・」
どぴゅんどっぴゅん。
突然の無性カミングアウトからの女性化を見聞きした雄ミルク一番搾りくんはたちまち萎えてしまったが何とか射精は果たした。
果たして回復効果はどうなってしまうのか!?

「なにこれ、苦いししょっぱーい」
「すまない少女・・・でいいのかな?男子相手でないと雄ミルクは効果を発揮できんのだ。だが命は助かったて何より」
幸運にも回復効果は発動したが、服地効果である味の方が壊滅してしまった。
雄ミルク一番搾りくんの雄ミルクは能力による味付けがないと栄養素そのままの味でむっちゃしょっぱいのだ!
(条件『塩対応だけど嫌われてるわけじゃない』クリアー!)

「あ、ありがとうお兄ちゃん。エイラはもう元気です。それじゃねー!」
ムセイナールを口に放り込みながらsの場から逃げ去るエイラ。
元の身体に戻りそうだったエイラの正体を怪しむものは誰もいなかった。
幼女が変態に救われたらだいたいこんな感じで逃げるようなあ、そんな感想が場を支配していた。

つづく

『 注:このSSに登場するワキガ大帝・マッチョネスは、キャラクター説明文を読んで作者がイメージで書いたものです。』


 作成者の実像とかけ離れていたらすみません。

『サービス終了まであと一ヶ月のアイドル生活 第487話 腋臭! ~アンデラムオウダー~』

~~ 前回までのあらすじ ~~

 『Frontier』との年越し合同ライブ中に突如襲来したレジェンド電脳アイドル『Happy☆Child』の鳳凰の舞いを己の物とすることによって、遂に銀河ネットワーク中にその名を轟かせた『Saint☆Cross』。
 だがその一方、運営会社であるサンクチュアリの社長は彼女らへの課金を勝手に利用した一大プロジェクト、並行世界接続シムテム「パラダイム・ドライブ」の開発失敗による莫大な負債を負っていた。

 返済期限である1月末までに負債を返済できる目途が立たなければ、『Saint☆Cross』の運営サーバは差し押さえられてしまう。
 またしても消滅(デリート)まで残り一ヶ月の危機を背負った『Saint☆Cross』は新たなファン層を獲得すべく、「パラダイム・ドライブ」を利用しての並行世界への実体化を試みた!




 遥か彼方に冥王星の輪郭がはっきりと見える程、晴れ渡った青空が広がっていた。
 真冬とは思えぬぽかぽかとした陽気の中、希望崎学園文化祭実行委員長、冥王星祭主催者、冥王星ちゃんはその温かさにも負けぬ朗らかな笑顔で壇上に立っていた。

「みんなーっ! 今日は冥王星に来てくれてどうもありがとーっ!! こんなに天気も良くって、とっても嬉しいよーっ!!」

 明るく手を振りながら観客たちの拍手に答える冥王星ちゃん。
 冥王星ちゃん本人も含め、皆、今日のイベントの成功を既に確信しているかのように盛り上がっている。

「今日は色んな楽しい出し物がたくさんあるから、是非楽しんでってねっ! 更にっ! メインイベントである人気者コンテストでは、とっても私好みの素敵な魔人達がエントリーを……」

「やめなさい、能書きはいいのです」


 その時だった、突如として異臭を放ち、冥王星ちゃんの後ろに立つ黒い影があった!!

「な、何物っ!?」
「私ですよ。冥王星さん」

 一体どこに潜んでいたというのか。ぬっと、天を衝くような巨体が壇上の冥王星ちゃんの後ろにそびえ立って。
 全身覆うこれ筋肉の固まり。ノースリーブのタンクトップをはち切れんばかりに押し出さんとする大胸筋、男ならば誰でも憧れる上腕二頭筋、しなやかでたくましい動きを想起させる大腿四頭筋、まさに筋肉の理想形。漢の中の漢の姿がそこにあった。
 だが、その筋肉美を押しのけるかのように強調されているものがあった。漢のシンボルたる『ワキ毛』。タンクトップの肩口から大きく覗く草ボーボーの大密林であった。
 上半身裸ではなく、敢えてノースリーブを着込むのはこれが俺の雄の証だ!と主張するためだというのか。 『ワキ毛』こそ男の浪漫。魔人オリンピック、魔人体操金メダリストの外村にさえ俺は負けん!と主張するその男の魂の象徴であった。

「あ、あなたはっ……! ワキガ大帝・マッチョネス!」
「その通りだっ! 冥王星さんっ!」

 男の姿に驚き、飛び上がる冥王星ちゃん。
 だが二人は顔見知りのようであった。

「冥王星さん……私は貴方に怒っている……。一体どうしたというのですか。今回の貴方の『人気者コンテスト』の好みの傾向は……。あんな軟弱な幼女だのイケメンだの可愛い女の子だのを好みに挙げるとは……。去年までの貴方はそうでは無かった」
「う、うーん……そうだった……かな……?」
「そうですとも! 去年までの優勝者を思い出してみてください! 筋繊維断裂丸! フォンダンゴリラ! ダルマ籐吉! 隕鉄少女のユキ!竜剣のバルバロイ! サウナ室の守護神! 皆、雄の中の雄、忘れられない人達です」
「う、うーん、そんな人達がいた……ような……? いなかった……ような……?」

 意外にも紳士的な口調のマッチョネスであったが、冥王星ちゃんとの会話は微妙にかみ合わない。
 一体二人の間に何があったというのか、それを知る術は我々にはない。

「よろしい! ならば! 思い出させてあげましょう! 見なさいっ! 新春マッチョネス音頭!!」

 マッチョネスが壇上で「あ、そ~れ、ボンボン!」と逞しい筋肉の舞いを踊る。
 するとどうしたことか! 観客達が「き、筋肉だ~~~~」とメロメロになって魅了されていくではないか!

「ふっふっふ……これでこの祭の参加者達を皆、筋肉とワキガの虜にしてあげましょう!」

 勝ち誇るマッチョネス!! 嗚呼、このまま冥王星祭はワキガ大帝によって征服されてしまうのか!!?

「待ちなさいっ!!」

 その時だった。壇上を指さし、マッチョネスに挑む一人の少女の姿があった!!

「む、誰です……? 私の踊りに魅了されないとは……」
「私はっ……の星岡 レン! よく分かんないけど、イベントの前にこんな事するのはルール違反なんじゃないの!?」

 レンは元々電脳生命体であり、それが「パラダイム・ドライブ」によって無理やり実体化した存在である。
 そんあ彼女の電子頭脳にはどうやら新春マッチョネス音頭が効果を発揮しなかったようだ。

「生意気な……。貴方も可愛さだのなんだのを売りにしてやってきたアイドルですか……」
「わ、私は確かにアイドルだけど……可愛さだけで勝負しに来たわけじゃないよっ!!」

 マッチョネスはレンの素性を知らず、小賢しい可愛さで人気取りをする存在の例えとしてアイドルという言葉を持ち出しただけなのだが、そんなことは二人の知る由ではなかった。
 ボールを手に抱え、赤いユニフォーム姿の可憐な電脳アイドル・レンと、逞しいマッスルポーズを決め、壇上で筋肉とワキ毛を見せつけるワキガ大帝・マッチョネスが今、対峙する。

「ふんっ……ならば、これが避けられますか!? 喰らえっ!! ワキガッ!!ビィイ――ーム!!」

 マッチョネスが両腕を雄々しく広げ、そのワキ毛を惜しげもなく晒すと、そこから謎の光線が飛び出した!
 光線は放射状に広がり、四方八方へと拡散していく!!

 ドゴーン! バゴーン!

 ワキガ・ビームが会場中に飛び散り、その辺のコンクリートやら地面やらを粉砕し、爆音を巻き上げる!
 ……が、レンはボールを蹴りながら華麗なドリブル・テクニックでその光線の間を掻い潜る!!

「なんのっ!! これぐらいっ!! 私のアイドルとしての力ならっ!!」
「ほう……やりますね……。ならば、これはどうです? ワキガッ!!チェーン!!」

 マッチョネスが吼えると、そのワキ毛一本一本が伸びていき、レンの元へと迫った!!
 逃れようとするレンであったが、一本一本が触手の様にうねうねと伸び、執拗に迫る無数のワキ毛の群れの前に遂に捕えられてしまう!

「う、うわあっ……!!」
「ふ……これで終わりです……。食らいなさいっ!! ワキガッ!!ボンバァーーッ!!」

 ワキ毛に捕まったレンに向かい、マッチョネスが縮みゆくワキ毛と共に猛スピードで突っ込む!!
 迫る筋肉!! 迫る太い二の腕!!


ドゴオオオオオ……ッ!!


 猛烈な大爆発が空中で炸裂するイメージを、その場の誰もが抱いた。
 マッチョネスの脇が顔面に直撃したレンは、そのまま地面へと沈んだ。

「ぐ、ぐむううううう……、く、臭い……」

 電脳生命体にも五感はある。レンはむしろ仮想世界のエキスパートとして、通常より強く世界を認識するための機能としてより優れた感性を持たされている。
 哀れ、レンはバタンキュウとその場に仰向けに倒れ込んだ。

「見ましたか、ワキガの力……」

 マッチョネスはそんなレンを高らかに見下ろすのだった。

 レンの頭脳領域には未だに強烈に残るマッチョネスの雄臭と視界に映る眩しい太陽の姿だけが焼き付いていた。

「つ、辛い……、まだこんな辛いことが現実世界にはあるだなんで……」

 長いアイドル活動で数々の死闘を乗り越えたレンだったが、ワキガの猛烈な臭さというのは今だに未体験の領域だった。

「う、うう……今度こそ……もう駄目……かも……」

 眼を閉じ、消えそうになるレンであったが、そんな彼女の思考の中に響き渡る声があった。

「Believe, Len(信じろ、レン)……」

「この声は……」


 眼を見開き、手を伸ばしてみると、灼熱の太陽の中に見知った顔が浮かんだ。
 スポーツ刈りの坊主頭に、黒々としたマッチョネスにも劣らぬ雄の顔、
 レンの師の一人であるサッカー電脳生命体、カルロスであった。

「Believe Your Ball(ボールを信じろ)……. Ball is Our friend(ボールは、オレタチのトモダチ
)…….」

 太陽を背景に、親指をグッと立ててレンへ笑顔を送るカルロスの爽やかな姿がそこにはあった。

「カルロス……並行世界からでも私を見守ってくれているんだね……」

 もし彼女の仲間、『Saint☆Cross』の唯が傍にいたら「お前、カルロスは先週『Happy☆Child』の合掌でお前を庇って潰されて消えただろ」と突っ込んでいただろう。
 更に同じ『Saint☆Cross』のマリがいたなら、それに対し「まあ唯ちゃん、でもあの方36回ぐらい消滅(デリート)から復旧していますし……」と答えただろう。
 だがそんな声は今のレンには届かない。


「よぉーし! 私もボールの力を信じる!!」


 単純だが、信じる力を糧にして成長するのがレンの電脳体に与えられたポテンシャルである。
 今彼女の身体中に力が戻り、すっくと立ちあがった!!

「ほう、まだそんな力があるのですか……」

 己のワキガの匂いから立ち上がったレンに感心するマッチョネス。
 レンはそんなマッチョネスを指差し、高らかに宣言する。

「今度はこっちから行くよっ!! 電脳アイドルの力を見せてやる!!」

 叫ぶやいなや、レンは足元のボールをバーン!と蹴り上げ、更に自分も高々と跳躍! 空に輝く太陽へと向かっていく。
 つられてマッチョネスも天空を見上げる。

「むっ……何をするつもりですか……?」

 マッチョネスの視界に、丸い太陽の中心と重なったボールと、それへと向かい、上下逆さまになってしなやかに美脚を伸ばす、アイドルの姿が映った!!

(オーバーヘッドキック……!!)

 マッチョネスが思わず心で呟く。
 今、天空からアイドル必殺の一撃が繰り出されようとしていた……!!

「いけええええーーっ!! 死ぬ気★バーニング★メテオライトーーーーーーッ!!」

 レンのつま先が強烈な勢いでボールを蹴り出す!!
 打ち出されたボールはたちまち無数に分裂し、マッチョネスへと、地上へと降り注ぐ!!
 その姿、まさに太陽から飛来する無数の流星群……!!

「ぬうっ! い、いけません……!!」

 咄嗟に迎撃を考えるマッチョネスだったが、太陽の眩しさに目を取られ、有効なワキガ技を選べない!

「くっ……ワキガ・バリアアアーーーーー!!」

 慌ててワキガ臭を全開にした防御壁を展開することしかできなかった。

 ズゴーン!! ドガーン!! ズガガガガ……!!

 落下した死ぬ気★バーニング★メテオライトはマッチョネスを直撃し、先ほどのワキガ・ビームを上回る勢いでその辺のコンクリートやら地面やらを爆砕した。

「これでどうっ!?」

 すたっと地面に着地したレンはマッチョネスを見据える。

「ふ……み、見事……です……」

 そこには両手を広げて雄々しく仁王立ちするマッチョネスの姿があった。

「嘘っ!? 大して効いてない!?」
「いえ……貴方の筋肉は確かに私にも届きました……。ただのアイドルと見くびっていたようです」

 黒焦げになり、筋肉の鎧をむき出しにしながら、マッチョネスは笑顔でレンへと歩み寄る。

「アイドル、というのは皆こうなのですか? ならば私は大きく誤解していたようだ」
「う、うーん、皆こうかは分からないけど、でもとにかく始まる前から文句を言ってもしょうがないんじゃない? 私の経験でもあるけど、何事もやってみなきゃわからないっていうか……」

 神妙な面持ちで語るマッチョネスに対し、レンは真剣に自分の思考を説き伏せる。
 それを見てマッチョネスも何やら納得した様子で。

「そうですね。冥王星さんの好みの項目だけを見て、私も頭に血が昇っていました。実際には貴方のような逞しいアイドルや、これまでの冥王星祭のエントリー者や私に匹敵する雄々しき雄の固まりのような方がエントリーしているかもしれません」
「う、うん!そうかもね……! (ほ、本当にくるのかなあ、そんな人達……)」

 熱くレンと握手を交わした後、マッチョネスは「ま、それでも優勝は私がいただきますがね……! ハハハ!」と笑いながら去っていった。
 レンは「ほ、本当にこれ、純粋な人気投票コンテストになるんだよね……?」と漫然とした不安を覚えつつ、その姿を見送った。


 レンもまた、その後「さ~て、私も人気者コンテストの前に色々出店とか見ていこっかな~」とうきうきした気分で場を去ろうとしたが……。

「あの~すみません……」

 そんな彼女を冥王星ちゃんが呼び止めた。

「あ、冥王星ちゃん! 何? あ、お礼ならいいよ! 私も学外から飛び入り参加の身だし、何かできることはあるかなと思って飛び出しただけだから……」
「いえ、そうではなく……貴方とマッチョネスさんが破壊していった校舎とかの修繕費なんですが……」
「え……?」

 レンが辺りを見回すと、周囲のステージや、花壇、校舎の壁などが見るも無残に破壊されていた。

「実行委員長として、とりあえず半分ずつ、請求させていだたきますので……。後で請求書を送ります」
「あ、あはははは……。う、嘘~~~!?」



 こうしていきなり自分達の負債額を増やしてしまったレン。
 果たして消滅を免れることはできるのか!? それにはまず人気者コンテストに優勝して注目を集めるしかない!!


 了

『それは遠い昔の』

『それは遠い昔の』


新しい朝が来た、希望の朝らしいが寝不足の朝に夢も希望もあるはずもなく。
寝惚け眼をこすりながらコーヒーと食パンを同時に口の中に押し込み腹を満たす。

「おはよう、おばさん! エビちゃん起きてる?」

「波瀬ちゃんいつも迎えに来てもらって悪いわねー。笑美、あなたも早く着替えなさい」

パチンッ

外まで聞こえるように大きめに指を鳴らしもそもそと着替えを始める。
制服っていいよね、毎日同じ服でいいんだから。
そんなことを考えながら雑に着替えを済ませ玄関へと向かう。

「……行ってきまーす」「行ってきまーす!」

ハセちゃんに挨拶を被せられたおかげで私の声はかき消された。


私たちが住んでいる小さな港町から希望崎学園までは電車で1時間ほど。
地元の人間は漁師やらそれに関わる職業ばかりで乗客はほとんどいない。
途中で乗車する僅かな人たちも先頭車両に偏るので最後尾に乗るのはいつも私たちふたりだけだ。
そんな貸し切り状態の車内で何をしているかというと……

「ふーん、ふーん、ふふーん♪」

ハセちゃんの膝の上に座らされて長い髪をブラッシングされている。
降りるまでいじられっぱなしになるのだがもはや日課なので抵抗はしない。

「んー? これはまたシャンプーしに行かないとダメかなぁ」

ハセちゃんは鞄の中から大きめのポーチを取り出しウェットティッシュで髪を拭き始めた。
よく分からない化粧品が色々入っているあのポーチは『エビちゃん専用』らしい。
自分で使えばいいのにとは思うけどハセちゃんは今のままで十分綺麗なので必要ないのだろう。

「……また増えた?」

ちらりとポーチの中を覗いた感想が漏れた。

「えへへー、分かる? 前のヘアオイルはエビちゃんに合わないと思ってさー」

そう言いながらその新しいヘアオイルを両手に馴染ませ再び私の髪をいじりはじめる。
今日は柑橘系の香りが頭から離れなさそうだ。



学校に着けばハセちゃんから解放されて束の間の平穏を味わえる。
同じクラスなので一緒にいることには変わりないのだが机三個分の距離は大きい。
授業を受けて、休み時間に寝て、それを数回繰り返したのち昼食をとる。
揉め事は耳にするけど目にすることはほとんど無いいつも通りの日常。

普段まとわりついてくるハセちゃんも学校にいるときはクラスメイトといることが多い。
黙っていれば美人だし、口を開けば男子とも話が合うし、スポーツもできてどんな話題にもついて行けちゃう。
でもねハセちゃん、『甲殻戦士 クラスタシア』と『魔法少女 らぶりー☆ぱーぷる』は私たちの住んでる地域でしか放送されてないんだよ。

ただそんなハセちゃんにも欠点があって、何かと噛みついちゃうちょっと短気なところがある。
相手が誰であろうと自分が許せないと思ったらすぐ口撃するので風紀委員に目を付けられているほどだ。
口喧嘩から殴り合いに発展して風紀委員に止められて、怒られても笑いながら帰ってくる。
それを含めていつも通り、ただ今日はいつもより運が悪かった。

パチンッ

日が落ちた帰り道、私は少し強めに指を鳴らす。

「エビちゃん、気づいてる?」

その問いに私はもう一度指を鳴らす。

「……後ろに5人くらい。前にも3人、暗くて見えにくいけどいる」

ヘアバンドから垂れた2本の前髪が風に揺れる。
外灯も人通りもない場所、向こうはこのタイミングを狙っていたらしい。

「笑美、下がって」

普段と違う強い口調、私は静かにハセちゃんの後ろに隠れた。

「オラッ! コソコソしてねーで出て来いよ!」

突然の大声、先に仕掛けたのはハセちゃんだった。
その声に臆する様子もなくモヒカン頭の男が近づいてくる。

「勘がいいなぁ、糸引ぃ。一発ガツンとヤって終わらせるつもりだったんだがなぁ~?」

「その制服、あたしらと同じだろ? わざわざ遠くまでご苦労なこった」

「学園の近くだと面倒だからな、オレらはヤれる相手しか選ばねぇ」
「それをオマエは邪魔したんだよ! オレらのエモノを逃がしやがった!」

たぶん昼休みにハセちゃんと喧嘩していた相手だ。
カツアゲしてるやつを懲らしめたって話してたから向こうの逆恨みなんだろうけど。

「せこいことしてるてめぇらが悪いんだろうが」

ハセちゃんも当然退かない、相手に詰め寄ろうとしたその時

「「ヒャッハー!!」」

左右からモヒカンの仲間が飛び出し襲い掛かってきた。
だが喧嘩も強いハセちゃんは飛びかかってきたモヒカンを殴り飛ばす。
私も思わず助けに入ろうと駆け寄ろうとしたが後ろにも仲間がいたことを忘れていた。

「ハセちゃ・・・んぐ!」

羽交い絞めにされ口を押えられる。
必死に抵抗したが私の小さな体ではどうにもできない。

「笑美!? ふざけんな、笑美に手ぇ出すんじゃねぇ!!」

慌てて振り向いたハセちゃんを手にした武器で殴打するモヒカンたち。
それでも反撃しながら私に手を伸ばすハセちゃんの頭にトドメの一撃が入る。

「ハセちゃん!!」

ヘアバンドも取れ、制服も乱れたまま必死にハセちゃんを呼んだ。
しかしハセちゃんはピクリともせずモヒカンたちに殴る蹴るの暴行を受けている。

(いまの私にできることは何もない、ただ泣いて叫んでハセちゃんの名前を呼ぶだけ)

暴れるのをやめて全身の力を右手に込める。

(でも『これ』を使えばあいつらからハセちゃんを助けられるかもしれない)

腕が腫れ、手が充血して赤くなる、それでもなお力を込め指を構える。

(……ハセちゃんは私のこと嫌いにならないかな)

バチンッ

暗闇に響く破裂音。モヒカンたちの視線が後ろの小さな体に集まる。
少女を押さえていたはずのモヒカンは片腕がもげた状態で転がっていた。

「おい……なんだよそれ、オマエら魔人じゃねぇはずだろ」

視線の先にあるのは自身とほぼ同じ大きさの腕を掲げた姿。
まるで甲殻で覆った巨大な圧着ペンチのような真っ赤な腕。

「ま、待て、待ってくれ! 知らなかったんだよ、そんなのがあるなんて!」

ギチギチと音を立てて鋏を開いていく。

(やることは同じ、ただ指を鳴らすだけ)

違うのは私も加減が分からないこと、それに……
慌てふためくモヒカンたちの後ろで倒れているハセちゃんに視線を移す。

(加減をするつもりもない)

目一杯、鋏が開いた腕をライフル銃のようにゆっくりと構える。

「「うわぁぁぁぁぁぁぁああ!!」」

大玉の花火が地面で炸裂したかのような閃光と爆発音。
光が収まり静まり返ったその場に立っている者の姿はなかった。

いつも見る夢がある
体のあちこちが傷だらけで満身創痍のまま立ち尽くす私
その横に私と同じくらいぼろぼろになった女の子が倒れている
目の前では髪が地面につくくらい長い女性が笑顔で手を広げている

彼女は笑顔のままこう告げる
「マギに醒めた忘れられし子、我らの在るべき場所に」
不思議と懐かしい気持ちになる優しい声



体が揺れる感覚に気づき目を覚ます、いつの間にか眠っていたようだ。
いつも見ていたあの夢に続きがあるとは思わなかった。
小さくあくびをし、目を擦ろうとしたが腕が重くて上がらない。

「ん、エビちゃん起きた?」

よく見るとそこはハセちゃんの大きな背中、制服のあちこちがぼろぼろになっている。
怪我の心配をしたけど頑丈だからと笑ってごまかされた。
私が眠っている間のことを聞くと起きた時にはモヒカンたちはいなくなっていて私とハセちゃんのふたりしかいなかったらしい。
そこでふと自分の腕のことを思い出す。やや小さくなったとはいえまだ胴体ほどの大きさ、見た目は異形そのものだ。
この姿をハセちゃんに見られてしまったことに動揺し涙が溢れた。
お互い無言のまま時間が過ぎる、毎日歩いている帰宅路がとても長く感じた。

「昔もこんなことあったよね」

ハセちゃんがぽつりと呟いた。

「小学校1年? 2年生くらいだっけ。エビちゃんが腕の病気のことでいじめられててさ」

そんなことがあった気がする、赤く腫れた腕を隠すためにアームサポーターを着け始めたんだっけ。

「あたしはそれが我慢できなくて大暴れして、ほんとひどい目にあったよ」

笑い話にしているが10人以上の高学年相手に殴りかかり返り討ちにあった事件のことだ。
押し倒されたときに頭を強く打ち付けたハセちゃんが怪我をして大問題にもなった。

「あの時ね、体は動かなかったけど耳は聞こえてたんだ」

責任を押し付けあいながら逃げていった高学年生。
頭から血を流すハセちゃんと私の腕から逃げた同級生たち。
あんなに騒がしかった場所が私の泣き声だけが寂しく響く場所になった。
そして夢に出てくるあの女性に会った。

「エビちゃんと話してた人のことは難しくてよく覚えてないけど……エビちゃんの言葉なら今でも覚えてる」

残念ながら私は覚えていない、先ほどの夢も途切れてしまっている。
ふるふると首を横に振る。ハセちゃんは「そっかー」と気にせず話を続けた。

『ハセちゃんと一緒に居たい』

とてもシンプルな子供らしい答え、きっとあの時の私はあの女性の言葉の意味をよく分かっていなかったのだろう。
唯一、助けに来てくれた彼女と一緒に居たい、その一心で出た言葉。
それはハセちゃんも一緒だった、自分から逃げていく周りの人間の中でただひとり一緒にいてくれた人。

「だからね、あたしも決めたんだ。エビちゃんに何があっても一緒に居るって」

いつものように明るい言葉で言い切るハセちゃん。
あぁ、そうか……今まで当然のように思っていたことは全部私が望んだことなんだ。
また泣きそうになった私はハセちゃんの背中に顔をうずめる。

「……ハセちゃん」

「なーに?」

「……ごめんね」

「ぶぶー、違うでしょ、エビちゃん。」

「……ありがとう」

「んー、それだけかな?」

いじわるな質問だ、でも今ならちゃんと言える。

「……大好き」

「あたしも!」

これからは隠し事はしないようにしよう。
何でもふたりで笑える騒がしい毎日が続くように。



『それは遠い昔の』 終わり

『SS: Compressor thought "This whole world is brilliant!"』




むかし、むかし。
人類誕生よりも遥かむかし。
カンブリア大爆発よりも、もっとむかし。
エディアカラ紀と呼ばれる時代のこと。
この時代、生命にはまだ口と肛門の区別がなく、栄養源の摂取と排泄を兼用するただ一つの原口だけを持っていた。

そんな生物たちがたゆたう原始の海に、宇宙の彼方から一本の巨大な物体が降ってきた。
それは、巨大な有機物であった。
巨大な地球外有機物質は原始の海に溶け、地球上の海すべてを富栄養状態に汚染した。
極めて高い栄養価を持ったその物質は、生命の進化に決定的な変化をもたらす。
口と肛門を別個に持つ、効率的な消化器官を発達させる必要がなくなったのだ。
すなわち「うんころいど」の誕生である。



冥王星祭の会場に、巨大な魔本を背負う少女コンプレッサがやって来た。
もちろん、コンプレッサもキャラ説に「うんころいどではない」と書いてないので、他の参加者と同様にうんころいどである。
コンプレッサは、うんこが大好きだ。
うんこに充ち溢れたこの世界は、まるごと全て「すてきなもの」なのではないかと考えている。

冥王星は、うんこの星である。
全てのうんこが最終的に辿り着く場所である冥府を司る神プリットの名が与えられたのは、太陽系第九惑星として発見されたこの星がうんこで構成されていると考えられていたためだ。
しかし、冥王星は他の惑星とはあまりにも違うため、天文学者たちによるうんこでうんこを洗う長い議論の末に惑星ではなくなることになる。
新たに定義された天体分類「準恒星」への格上げである。
周知の通り、太陽の主成分はうんこであり、屁リウム核融合エネルギーで燃えている。
冥王星のような燃えていないうんこ天体を、準恒星と分類することになったのだ。
キャラ説には誤記で「準惑星」と書いてあるが、エリスも冥王星同様に準恒星であり、うんこ天体だ。

そんな冥王星を祝う祭なので、冥王星祭はうんこまみれのお祭りだ。
参加者は皆、思い思いにうんこを口から吐き、うんこ屋台でうんこカレーやうんこもんじゃ焼きを食べ、うんこパフォーマンスに黄色い声と茶色いうんこを飛ばし、うんこスポーツに興じる。
魔本の所有者にして「すてきなもの」の狩人であるコンプレッサも、普通の参加者と同じようにうんこを楽しみ、今やそのドレスは鮮やかな茶色に染まっていた。
ひとしきり祭りを堪能すると、コンプレッサは自食するために、祭りの喧騒から離れた路地裏に向かった。
大勢でうんこ交換するのも楽しいが、時には独り静かにうんこを吐き自分で食べるのも良いものだ。

路地裏で愁いを帯びて佇んでいた彼を、コンプレッサは最初ツチノコか何かだと思った。
それほどに彼は、他のうんことは違って威風堂々とした、見事な一本糞であったのだ。

「やあ、初めまして。うんころいどのお嬢さん」

一本糞が喋った。

「はじめまして。とてもすてきなお姿ですね。ひとくち、頂いてもよろしいでしょうか?」

コンプレッサは失礼かもしれないと思いつつも、そのように訊ねることを抑えられなかった。
彼があまりにも美味しそうなうんこだったからだ。
しかし、彼は首を横に振って答えた。

「いや、僕を食べてもらうわけにはいかない。僕の名は、うんこすきー―――――歪んだ歴史を糺し、正当なるうんこの世界を取り戻すために生まれた戦士だ」

「まあ、なんという畏れ多いことでしょう。わたくしはコンプレッサと申します。少しお話を伺ってもよろしいでしょうか?」


うんこすきーは、静かな口調でコンプレッサに語った。
この世界の真実を。
六億年前、準恒星「マキマキ」が地球に激突したことにより、生命とうんこの歴史が変わってしまったということを。
コンプレッサは、初めて聞く驚異の歴史に息を飲んだ。
しかし、魔本に手を当てて引き出した様々な知識に照らし合わせれば照らし合わせるほど、マキマキ衝突は疑う余地のない事実であると認めざるを得なかった。

「しかして、うんこすきー様はどのように歴史を変えようとお考えなのでしょう?」

「全ての――全てのうんころいどを討ち滅ぼす。それが、僕に与えられた使命なんだ―――――」

うんこすきーは決意に満ちた強い口調でそう言った。
それを聞いて、コンプレッサは腹立たしく思った。
世界はこんなに、うんこに充ち溢れているのに、なんて愚かしいのだろうと呆れてすらいた。

「ご立派なお考えですね。そのような戦いの果てに、どんな正しい世界に辿り着けると言うのでしょうか」

「正しい――うんこだ! うんこは口から吐くものじゃない。食べるものじゃない。尻の穴から出して、トイレに流すものなんだ!!」

トイレ、という耳慣れない言葉に、コンプレッサの心はざわついた。
そのようなものは、魔本の中をいくら探しても存在しない。
不安を感じたコンプレッサは、下着の中にそっと手を差し入れてお尻の間を指でなぞった。
大丈夫、お尻に穴なんて開いてない。
そして、コンプレッサは魔本にしばらく手を当てて考え、結論を得た。

「そもそも――――うんこは食べるものです。もし、うんこを食べずに全部捨ててしまったら、世界はどうなるのですか? 世界中のうんころいどは飢えに苦しみ、死んでゆくでしょう。飢えから逃れるために、動物をむごたらしく殺め、引き裂き、血にまみれた肉をむさぼる世界となるのです。そして――――そして――――嗚呼、数少ない食物を争い奪い合う戦争が起きるのです! うんこは――! うんここそは―――! わたくしたちの救いなのです!!」

コンプレッサは喋っているうちに興奮してゆき、その語気は徐々に強いものとなっていった。
それは、この世界とうんこを愛するがゆえの怒りであった。
争いのない平和なこの世界は、太陽と冥王星とマキマキ――うんこ天体が与えたもうた奇跡の世界だ。

もしそれがこの世界の本当の姿だったとしても。
コンプレッサの瞳のタンザナイト・ブルーが紫色に燃え上がり、うんこすきーのことを射竦める。
うんこを食べられない地獄のような世界なんて、絶対に認めるわけにはいかない!



コンプレッサは、心の底から思った。

この世界、まるごとすべてが「すてきなもの」だと。



コンプレッサの背負った魔本が、ごう、と大きな音を響かせて天高く舞い上がった。
山よりも、雲よりも、成層圏よりも高く魔本は猛スピードで上昇してゆく。
そして、空が暗くなった。
地球全てを挟み込めるだけの大きさとなった魔本が開き、太陽からの光を遮ったからだ。

そして、魔本が閉じてゆく。
コンプレッサを含む世界中のうんころいど達は聞いた。
自分たちが圧縮されて平面になる、ぱしゃり、という音を。


コンプレッサは、冥王星祭の喧騒を離れた路地裏に立っていた。
彼女の目の前には、大蛇のように太くて長い一本糞。
彼、うんこすきー以外には、周囲にうんこは見当たらない。
うんこは、トイレで独り静かにひっそりとするものだから。

「――――正しい世界に、戻った? その本が、生命の歴史を改竄したのか!?」

うんこすきーは、コンプレッサと彼女が背負った魔本のことを驚きに満ちた目で見て、言った。
魔本は、何事もなかったかのようにコンプレッサの元に戻ってきている。
最早うんころいどではないコンプレッサは、魔本に手を当てて収録した世界の記録を参照した。
正しい世界に戻ってから改めて考えると、吐き気を催す恐ろしい世界であった。
だが、ひとたび収録した「すてきなもの」を後になって削除することは、今のコンプレッサが持つアクセス権限ではできないのだ。

「ぶりりあんとわーるど自体を、『すてきなもの』と判断して収録いたしました。あの世界全ては、この本の中にあります」

コンプレッサは、うんこすきーに告げた。
それは、うんこすきーに与えられた使命の終わりを意味していた。
うんこすきーの使命は、コンプレッサと出会い、魔本を発動させる引き金になることだったのだ。

「良かった――――正しいうんこの歴史が取り戻せて、本当に良かった――――」

うんこすきーは、脱力して呟き、そして、コンプレッサに向けて深々と頭を下げた。

「――ありがとう」

礼を言い終わると、うんこすきーはコンプレッサに背を向け、歩き出した。
うんこすきーの寂しげな後ろ姿に、コンプレッサは不安を感じて呼び掛ける。

「うんこすきーさんは、これからどうされるのですか?」

「正しい世界に戻った今、僕は只のうんこさ。皆に嫌われる、臭くて醜い汚物なんだ――うんこは、うんこらしくトイレに流されて消える。それが正しい運命だよ。もっとも、僕ぐらい大きな一本糞は、トイレが詰まらないように何度にも分けて流さないといけないだろうけどね」

「そんなことは――そんなことは、ありません!」

「そんなことはない? 馬鹿なことを言うんじゃないよ。うんこは、この世界では不要な嫌われものだ。これが正しい在り方なんだから――そんな悲しそうな顔をしないでくれよ」

「そんなことはありません! 美味しい物を食べて、気持ちの良いお通じがある。そのどちらが欠けても、この世界は『すてきなもの』から遥かに遠ざかってしまうでしょう。うんこは――世界にとって大切な一部なのです!」

力強くうんこを肯定するコンプレッサの言葉に、うんこすきーは心が軽くなったのを感じた。
思えば自分の人生は、うんころいどを駆逐して世界を正常化させる使命のことばかり考えた人生であった。
トイレに流れるのは、もうしばらく自分らしい生き方を考えてからでも遅くないように思えた。

「――――人気者コンテストに、出ようと思う。もしかしたら君みたいに、うんこが大好きと言ってくれる人が、他にもいるかもしれないから」

「うんこが大好きとまでは言ってません――でも、それは良い考えだと思います。わたくしも、コンテストに出場いたしましょう」

「ふふふ、負けませんよ、お嬢さん。少なくとも、インパクト部門では僕が勝たせてもらいます」

「その意気です。うふふ、確かに、インパクトでは勝てる気がいたしませんね」

うんこすきーとコンプレッサは、明るく笑いあい、人気者コンテストでの再会を約束して別れた。
コンプレッサは、深く深呼吸して、この世界の綺麗な空気を胸一杯に吸い込んだ。
そして、本に収録した世界の記憶を、頭の中から全力で追い出した。
ぶりりあんとわーるどが、間違った世界だとは言い切れない。
だが、あの世界のことは一旦記憶から消し去らなければ、冥王星祭の屋台で売られている様々な「すてきなもの」を美味しく食べることはできないだろうから。

Fin

『肉体も回復し正体も隠し通したエイラだったが新たなピンチが発生していた。』

肉体も回復し正体も隠し通したエイラだったが新たなピンチが発生していた。

「人気コンテスト締め切りもうすぐじゃない。まだ条件コンプリートしてないのに・・・」

そう、コンテストという形式を取っているので投票や結果発表の時間も必要となる。
なので当然ながら参加締め切りはかなり早めに設定されていたのだ。

「まだ達成してないのは」
「『今はもういなくなってしまったお姉さん的存在』『めっちゃ百合百合してる』『『鎖が武器』」
「そうそう」
「『短剣シーフ的な戦闘タイプ』『モンク的な戦闘タイプ』『幼馴染』『髪とか束ねているイケメン男子』
『しっかりしている女の子』『年下のお姉ちゃん』、以上9個が未達成だよ。頑張ったね竜宮院くん」
「誰だてめえ」

声はすれども姿は見えず。エイラの目的も正体も条件も全て理解している謎の声は一体どこから・・・・。

「ここだよここ。右手の先に注目したまえ」

なんとウンコ棒の先に一匹の羽虫が止まっており、そいつから男の声が聞こえてくる。
普通の人間ならウワアアアア虫がシャベタアアアとなる所だがエイラはその虫の正体に気付いた。

「銀義羅銀博士・・・のモスキートロボ!あんた何してるんでsか」

虫の正体はエイラの知人。かつてNAHA研究所に所属していた変態学者銀義羅銀博士の作ったモスキートロボだった。
銀義羅銀博士!彼こそがエイラがエイラたる為に必要なお薬ムセイナールを開発した天才である。

「邪魔しないでください。私には時間がないんです」
「いやいや、手伝わせてくれよ。私の才能は理解しているだろう?」
「いえいえ、お断りさせてくださいな」

地属性の人や雄ミルクの人も受け入れたエイラだったが、銀義羅銀博士だけは全力でお断りする。
彼の発明はあらゆる面で規格外であり、実際エイラも現在進行形でお世話になっている。
だが、それを考慮しても彼の人間性はマイナスに振り切っている。彼の力を直接借りるともれなく死ぬ。
これを知らない奴はモグリとまで言われている。そしてエイラは実際に目にしきた。
アメリカ・日本・リューキューの天才が集まるNAHA研究所においてぶっちぎりの成果を出しながらも迷惑すぎてお帰り願われた存在を!

「頼みます。マジ困るんでお断りさせて下さい」

深々と頭を下げて関わらないでとお願いする。根拠のない自信に溢れ他人を見下してきたエイラがこんな態度を取る。
それこそが銀義羅銀博士がマジモンという何よりもの証明だった。

「うむっ!君がそこまで言うのなら私もこれ以上介入するのア辞めよう」
「本当?やったあ日本語が通じたー」
「だからまあ。すでにやってしまった分については勘弁してもらいたい!おっ、噂をすれば」

爆音と破壊音と轟音を鳴らしながら人型のナニカが近づいてくる。

「キャリキャリキャリ」

出店や校舎を貫通し最短ルートでエイラの方に近づいてくる。

「キャリ」

ビキニにパーカーの痴女だ。その手には鎖とナイフが握られている。

「博士、なんですかあの目つきヤバイのは!転校生ですか!?」
「安心したまえ。転校生ではない。私の遺伝子から作った娘的暗殺生物、エミネンスちゃんだ!
今は竜宮院くんの目標をコンプリートさせる為に協力するよう命令してある。さあレッツ百合百合!」
「鎖とナイフはその為ですか」
「そうだっ!」

博士は至れり尽くせり。

「命令のキャンセルとかは」
「できんっ!」

博士の辞書にキャンセルという文字はない。

エイラはエミネンスの歩いてきた破壊の跡を確認する。そして破壊規模からパワーでも理性でも銀義羅銀博士と大差ないと判断した。

「第一宇宙速度で空飛ぶ方がまだマシよ!逃げるしかねえー!」

エミネンスに背を向け、エイラはホルホースの如く綺麗なフォームで逃げ指す。向かう先は人気者コンテスト会場。
まだ目標を果たしてないが、これだけの要素を達成すればかなりの確率で優勝できるだろう。
そう自分に言い訳して会場にゴールイン。強者がある丸この場所ならばエミネンスも簡単には襲ってこないだろう。

「川崎エイラ、人気者コンテストに参加しまーす!」

エイラの話はこれでひとまずおしまい

『……』

……

遥か彼方の宇宙において、グランドモフは考えていた。

何を?もちろんモフについてである。

彼はモフの中のモフ、グランドモフ。その思考はモフにのみ消費される。

グランドモフは観測していた。遠い惑星に存在する一つのモフを。

その名は巨大熊猫。巨大なモフである。

そのモフはグランドモフをしてモフと言わざるを得ないほどモフであり、そしてあり得ないほどモフであった。

しかし、その中にひとつだけ疑問、謎があった。

それは、かのモフの体重である。

モフの体重は15t。これはインド象(モフではない)の2~3倍である。

しかし、それはおかしいのだ。

モフの体長は通常のパンダ(見かけはモフだがモフではない)のおよそ100倍。

だがその体重は通常パンダ(ノー・モフ)の100倍なのだ。

ここでモフならざる一般人はおかしいと感じないだろうが、グランドモフは違った。

グランドモフ曰く、体長が100倍ならばその体重は100万倍でなければおかしい。

なぜか?簡単に説明すると、体重は質量なので縦×横×高さであり、体長が100倍ならばその3つすべてに100を掛ける必要があるからだ。100の3乗だ。

説明が下手という意見は聞かないこととする。なぜならグランドモフは教師ではないからだ。

つまりかの巨大モフの適正体重は15万tであり、15tは誤表記、もしくは浅はかな投稿者が間違えたのであろう。

しかし、そうなるとまた一つ問題が浮上する。

それは……15万tもの貨物が入ったコンテナをヘリで運ぶのは不可能、ということだ。

一機のヘリで運べる貨物の重量はどう見積もっても20tが限度である。

悩ましい……一つのミスが次のミスを呼ぶ。これだから下調べはちゃんとしろというに。

かくなる上は巨大モフの体重は15tが正しいということにするほかあるまい。

しかしそうなると大きさの割に軽すぎることへの言い訳もとい理由付けをしなければ……

なんともはや、どうしたらいいのであろうか?

グランドモフは考え続けるのだった……


つづく

『夜道に格闘するものあり。』

 夜道に格闘するものあり。よだれを垂らして、女ににじり寄る。女は手首のない右腕で回転エレボーをかます。亡者の群れを一体ずつ撃破していく。
「セイ!」
 折橋千種の細く伸びる黒ずんだ脚が、ゾンビィの柔らかな頭を打ち砕いた。
 肩幅に体を開いて、構え、残心。呼吸を整え、吸血鬼の下僕どもの死体の山々が動かないことを、確認した。
 ひび割れた岩肌のような腕をおろし、息を深く吐いた。
「これで17体目……」
「こっちは11体倒しましたわ」
 折橋千種が振り向くと、そこには折橋千種がいた。彼女らしい、真っ黒の装束を身にまとっている、本来の折橋千種だ。
「まったく醜い……私が着せてあげたものはどうしたんですか?」
「邪魔くさいから脱いだよ」左手で首筋をぽりぽりかきながら、あっけらかんに千種(偽)が言う。「あんなん、着たくないもん」
 千種(真)は眩暈がするほど怒りを覚えた。
「そんな風に生きてられるか!」
「死んだように生きてどうなる!」
 二人の千種が、額をぶつけ、にらみ合い、対峙する。お互い、たかぶりすぎている。
 千種(真)が大きく手を振って、ビンタする。
 千種(偽)は屈んでかわし、肩の根元を抱いて、ひねる。そしてケツを蹴りとばす。
 痛みと怒りに顔を上気させ、奥歯噛み締めて振り向いた千種(真)は、思わずぽかんと口を開けてしまった。
 千種(偽)が服を破る。下着姿だ。まだ暗いとはいえ、ゾンビィ狩りを終える頃合いだ。朝は近い。
「バカ!汚いものを見せるな!」
「自分を汚いとか言うな!」
 襲ってきた千種(真)を、千種(偽)が抱きしめる。強く抱いてやる。千種(真)は肩を噛んでくる。それでも体は離さない。血がとろとろ流れ出て、浅黒い皮膚と白すぎる皮膚に赤がコントラストを作る。
 噛み、爪立て、頭をぶつけ、そして泣いた。千種(真)の衝動は収まり、その内的風景は焼け跡の寂しさだけが残った。

殺意のないものを殺したくなるのが千種の癖である。それは、太陽を嫌うものとして変身した松堂ニセ千種にも引き継がれている。
 優しく抱きしめていた腕はサブミッションに変わる。
「噛んだりしてんじゃねーよ吸血鬼かよ血ぃ出てんぞぶっ殺すぞ!」
「あだだだだ、やめ、やめ」
「やめてやるよ、このやろ」
 絡めていた腕を引き抜く際、千種(真)の黒装束を引き裂く。
「やめちまえ、そんなしみったれたカッコ」
「ちょっとは気に入ってるんですよ深窓の令嬢的な」
「自分で言うなタコ」

 二人の千種はそうして朝までじゃれあっていた。

『やっとキャラ把握が把握が終わったので、全キャラ感想です!』

やっとキャラ把握が把握が終わったので、全キャラ感想です!
あと、川崎エイラさんは、幕間に出演させていただいて、大変ありがとうございます! 銀義羅銀博士ろくでもねーし、エミちゃんは可愛い!

伊坂谷 御内儀
金髪ロングのお悩み解決居酒屋姐さん! 色々つまってるけど、個人的には金髪ロングがツボ。性格よくて金髪ロングの可愛いおねーちゃんがいる居酒屋とか行きたいです。
でも、ストレスで飲むのはやめた方がいいな。酒は楽しくが一番だからな。

一 厘
こねくりまわしにこねくりまわしたキャラクターという印象。おじいちゃんなのもまた良い。プロローグが面白いというか、ためになった。なるほどなー。
インパクトが凄く強くて、可愛いとか格好いいの枠には収まらんタイプのキャラって感じですね。

川崎エイラ
プロローグが好きです。普通に笑いました。
好み全部乗せ、誰かがやるとは思っていたけど、かなりレベル高いんじゃないでしょうか。応援しています!

うんこすきー
もう、このキャンペーンを根幹からなぎ倒そうという、気骨溢れるキャラクターですね。帰れお前。当然大好きです。最高。
こいつが存在することで、冥王星祭に参加するキャラ全員がうんころいどということになるのか……。なんというレイプ……。

巨大熊猫
めっちゃでかくて可愛いけど、惨劇の予感しかしませんね! パンダが可愛いのは当然であるので優勝候補と言えるでしょうし、プロローグも続くみたいなので期待。

コンプレッサ
あ、良い! この設定凄く好きです! 西洋人形っぽい外見もツボだし、終末を孕んだ能力も凄く好み。
プロローグも雰囲気出てていいですねえ。誰か、うんこすきーさんと出会うSS書いてあげて。

雄ミルク一番搾りくん
ある意味、うんこすきーさんよりも下品かつ最悪なキャラクターですね。もちろん大好きです。なんだこれ。
このキャンペーンにエロスを求める人は、ミルクくんと女性キャラの絡みをイラスト化すれば良いのでは。あと、応援SSめっちゃ早くてビックリしました。たぶん早漏だ。

久々津 取次
普通に好感度が高く、かつ文章がうまい。プロローグが良い出来でした。
亡霊ちゃんの献身的な姿が可愛いですね。久々津君は、それに劣らぬ魅力的な主人公気質。レベル高いです。

弔崎ヒツギ
冷たい雰囲気ながらに、能力が火属性というギャップが好きです。能力の効果も、回復系のカウンターということで、面白いと思います。外見に気を使ってない感じなのも好きですね。

天球院ルト
能力の意外性というか、落とすのが本番だけど前段も半端なく強いというのは、強キャラムーブとしては最高ですね。
包容力のあるお姉さん、好きです。

松堂弾三&折橋千種
あくが強くて、格好いいなあ。松堂さんの最悪っぷりエピソードが面白かったです。折橋さんも好き。ええ、火傷女子好きです。

明水 紫
あーっ、この子すごく良い。ふわふわとしたキャラクターもいいけど、何より狂気的な能力が好きです。人が無生物に変わるのは、非常に恐怖を感じますね。おそらく、ウルトラマンタロウのせいです。

弾正尹レオナ
多分、他のキャンペーンで初出なんですね。名字は聞いたことがあります。ぼさっ毛美人アサシンはある層に突き刺さると思いますし、私はある層です。可愛い。

金野 満男
明治時代ってのがこいつの肝ですね。すごくずっこくて面白い。能力も実に凝っていて、満男さん一人で世界のバランスを崩さないよう、よく考えられていますね。勢いとかではなく、正統派に良い能力です。

大房 泥土
すごく屈折してはいるものの、根底には「趣味と平穏な生活を両立したい」という、平凡な望みがあるのが良いですね。吉良吉影感がある。彼のコミュニケーションが、全て死体を作るためにあると思うと、プロローグもなんだか不穏ですね。良い。

辻岬 ヒスイ
最後の命令は、たぶんあれだろうなあー……という感じ。今は能力が使えないし、命令を断ることは出来ないんだものね。なるほどなあ。主張を強くしないところが、私は好きです。情緒のあるキャラ説が良い。

”ラーメン大好き”くだんさん
パロディやないかい。SS2はちょろっと見ただけですが、でも優勝者のこういう登場の仕方はなんかいいですよね。ただのパロディに収まらず、くだんちゃんもかなりポンコツで可愛い。「ア・リ・ガ・ト・ウ・ゴ・ザ・イ」がツボでした。なんと雑。

霜月 柊花
友人の存在が気になりますね。何者なんだ……? クールと、それでもちょっと目立ちたい気持ちのギャップが面白いですね。等身大に可愛い女の子だと思います。

星丘 レン
宣伝じゃねーか! と思って、カクヨムに飛んで、一話を読んでみたんですけど面白いですね。チェック漏れしてました。読み進めさせていただきます。宣伝成功!

ワキガ大帝・マッチョネス
めちゃめちゃ面白いです。完全に発送の勝利ですね。キャラクター名で掴まれて、キャラ説でやられっぱなしでした。面白さでは、今回のキャンペーンでピカイチです。第十八回の冥王星さんのコメントがツボ。

魔法少女ドリーミィ・スター
宣伝じゃねーか!その2。大丈夫です。面白いのは知ってます。物理書籍も買います。
プロローグも、完全な楽屋ネタですね。でも、古巣でこういうことをやってくれる作者様の姿勢……大好きです!

小筒 笑美
圧倒的あざとさ……! 見た目幼女のインドアグータラとか、層に突き刺さりますよね。層です。
こういう、グータラときびきびのコンビもまた良いですよね。二人でいるところをずっと見ていたい感じ。

エリス
準惑星繋がりで来た! これもまた、キャラ説がためになりますね。さりげなく能力がえげつないですけど。
準惑星という強烈な個性がありますが、その他は至って正統派。良い意味で、普通に可愛い子です。

夢追 中
こちらも既出のキャラと聞いてはおりますが、人間性は今回のキャラ説でも十分にわかりますね。前向きな姿勢が、すごく素敵だと思います。能力に至る経緯もすごく丁寧だし、かなり満足感のあるキャラクターですね。

ロプト・トラッドフェロー&ルディエ・トラッドフェロー
なるほど兄弟でくるとは予想外! ネーミングとかにセンスが爆発していますね。こういうの考えられる人は、ほんと尊敬します。この二人の物語をもっとみたいなあと思わせる魅力も、すごくありますね。

杲鳥 貴御
個人的にはプロローグ賞です。すごく面白かった! この、一般人レベルの波風の立ち方というか、どこか緩めの空気感が大好物です。杲鳥さんの能力も面白いし、本人の好感度も相まって、かなり好きなキャラですね。

夜魔口 魔弾
格好いいお姉さん! 格好良いお姉さんだ! 私、格好良いお姉さん大好きです! 絆の力で戦うヤクザ。いいですねー。ギャップ好きのニーズにもしっかり答える、キャラ説とプロローグ。この方も凄く好きです!

古巣多舌
タタンちゃんじゃないですかー。私は覚えていますよー。千夜ちゃんとのやり取りがかわいかった記憶。こういう、友情こそが特別な関係みたいな、そういう二人組に弱いです。貸し借りがほぼ帳消しとか、すごくぐいぐい来る。好きです。

WW.ジーン
男かい! まさかの展開ではありますが、冥王星祭に参加する流れとしては、非常に美しいですね。苦労人気質が見てとれて、好感度が高いです。平和な生活を送れるといいね。

『最終話:味方のあなたが月』

最終話:味方のあなたが月

【前回までのあらすじ】冥王星祭にもぐりこみ、当初のもくろみ通り惑星インストラクトを受けた松堂。ハプニングだらけの冥王星祭も終わり、松堂と折橋は長い夢から覚めようとしていた……。

「終わった祭り、醒めた夢、終わった恋……。どれも同じだ。腹立つほど澄んだ空気だ」
 建物が朝日に照らされ、おぼろげな影が、抱き合った二人を切り取る。
 松堂は全身銀色ラバースーツに身を包み、股間をもっこりさせ、頭のアンテナは宇宙の果てから七命星帝DJのモーニング・ラジオを受信し、頭皮をつたい脳内に響き、澄み切って聞こえている。冥王星祭の秘儀に参加した松堂には、宇宙の意志、星たちの叫びがよく理解できた。
「じゃあ、始めるか」
 松堂は抱きかかえた折橋をゆっくりと横たえた。彼女の眼や唇は閉じられ、もはや開くことはない。生命活動停止済み。死んだのだ。もはや松堂の望みはひとつ。折橋の夢を、自分も見る、そして、かなえることだけだった。
 太陽を嫌うものに変身。
 乾いた涙が残る松堂のほほは灰色に変色、したかと思うと同時に膨張。一瞬にして質量70000000000000000000tの超巨大存在に変身した。月だ。月は地球を砕き、砕かれたかけらはぶつかり合い、現れた月をも砕いて、ただよい、長い長い時間をかけて、そのほとんどは太陽へと吸い込まれ、燃えつくされた。

『「ン、グ、イグッ!!」』

「ン、グ、イグッ!!」
雄ミルク一番搾りくんのイチモツは遂に堪えられなくなって達した。
雄ミルク一番搾りくんは長年の夢であった恋人と愛のあるセックスをすることができた。

雄ミルク一番搾りくんの雄ミルクは搾る方法でその効果が変わる。
丁寧に口淫されると完全治癒、激しく突かれると即死の奇跡が宿る。
果たして愛あるセックスで激しく突かれたらどうなるのか。

      • 結果、何も奇跡は起きなかった。
雄ミルク一番搾りくんが恋人を作りセックスをするということは、
世界から病傷が消え、あらゆる人々が救われたということを指す。

愛は奇跡を起こさない。
しかし世界は笑顔に満ち、そのメシアは愛を得ることができた。

「あ゛ん゛!!ケツイキするぅ!!!」

『聖歌 雄のミルク』

聖歌 雄のミルク

雄のミルクはよいミルク
つよいぞー、うまいぞー

雄のミルクはよいミルク
つよいぞー、うまいぞー

飲もう♪飲もう♪雄のミルク
飲もう♪飲もう♪雄のミルク

シュヴィドゥバ、シュヴィドゥバ
シュヴィドゥバ、シュヴィドゥバー♪

みんなで飲もう雄のミルク、ヘイッ!

~生搾り雄ミルク教HPより~

『冥王星祭当日。』

冥王星祭当日。

目玉企画の人気者コンテストはいよいよ折り返しを迎えていた。
参加者達によるスペシャルアピールの連続で、会場のボルテージは既に最高潮に達している。
昂ぶる観客達は、それが一体の生物であるかのようにうねり、
今か今かと次なる刺激を待ち望んでいた。
真夏の砂浜よりもホットな空間が真冬の希望崎にはあった。

その一方で、コンテストの盛り上がりに反比例して心と体を凍てつかせる少女が一人。
舞台袖で青い顔をしてしゃがみ込むその少女はコンテストの参加者であり、
名を「霜月 柊花(しもつき しゅうか)」といった。

彼女は迫り来る自分のアピール順に対し、途方も無い圧力を感じていた。
1年生である彼女は、はじめて経験する冥王星祭を甘く見ていたのだ。

「学祭の数ある出し物の1つ。ちょっとした一発芸の披露会」という認識は、
集った観客の人数を見た時点でぐらりと音を立てて揺らぎ、
1人目のアピールを見た時点で完全に砕け散った。

――――ガチだ。あまりにガチ過ぎる!

元来目立ちたがりの気質がある魔人の中でも、
更に「我こそは!」と名乗り出るような猛者達のアピールポテンシャルを完全に読み違えていた。

「絵本の中から抜け出してきたような美幼女による、ハリウッドの上を行くマジック&スピリチュアルなトークショー」
「風紀委員会のエースによる炎と剣による美麗な演武と粛清の実演」「粛清されたうんちマンとちんちんマン」。
どのアピールも眩しく、華々しく、煌びやかで……。
コンテストが始まってから、たかだか数十分のうちで、
柊花は「可愛い!」の極地と「格好いい!」の極地、
そして「インパクトが凄い!」の極地を見せつけられ、完全に戦意を喪失していた。

――舞台の方から割れんばかりの歓声と悲鳴が聞こえてきた。

ああ、どうやらまた凄いアピールが行われているようだと、柊花は他人事のように考えた。
もうすぐ自分があの舞台に立たなければいけないことを考えると、もはや直視する気にもなれない。
ハァと漏れた溜息が、“ダイヤモンドダストとなってキラキラと光った。”

霜月柊花は「体をとても冷たくする」という能力を持つ。
今回のコンテストではその能力を応用して、「周囲にダイヤモンドダストを発生させ、
キラキラとしたエフェクトを纏い、イケメンにのみ許される首を痛めたポーズをとり、
少女漫画のヒーローの甘ったるい台詞を引用して囁く」という持ちネタを披露する予定だった。

この持ちネタは身内……というか、特定の“友人”にはバカ受けであり、
やる度に呼吸が乱れる程に笑ってくれるため、柊花としても少しだけ自信のあるネタであった。

ただ、今ここに至ってはもうその自信は霧散してしまっている。
とてもじゃないがこのネタが、これまでの披露された「格好いいアピール」に敵うとは思えない。

帰りたい。切に帰りたい。
3000円くらいなら払ってもいいから、帰らせて欲しい。

そのようなストレスを抱えながらも彼女が帰宅しないのは、
コンテストのプログラムにデカデカと

「エントリーNo.19 “絶対零度の王子(アブソリュート プリンス)” 霜月 柊花(1-A)」

……と、実名とクラスが載ってしまっているからだ。

ここで逃げ帰ってしまっては、今後の学園生活で後ろ指を指されることは必至だろう。
……まぁしかし、たとえ立派に舞台をやり遂げたとしても「アブソリュートプリンス()」の誹りは免れようが無いような気はするが。

ハァと、柊花はまたしてもダイヤモンドダストを吐いた。
何故このような状況に陥ってしまったのかと彼女は考える。



――あれは、いつのことだったか。
確か中間テストの後だったから11月の後半のいつかだったと思う。

「柊花ちゃんはコンテストに出ないの?」

「コンテスト?」

帰りの電車のそんな他愛のない会話が発端だった。
それから毎日のようにその話題は繰り返されるようになった。

「柊花ちゃんはマジでCOOLだから、絶対『格好いい部門』で優勝できるよ!
ねぇ出ようよー。思い切ってさ!」

「出ないよ。」

「え~~~なんで。
優勝したら校内のスターになれるんだよ?
それに芸能スカウトの人が見に来てるって噂もあるし、
もしかしたら本当のスターになれちゃうかも!」

「興味ない。」

「フーン!そーですか。
……では、切り口をかえまして。
優勝賞品の『冥王星ランド ペア招待券』はどうだ!
昼食付きでアトラクションは当然乗り放題! 
欲しいでしょ! 行きたいでしょ!
わたしは超行きたいので連れて行って下さい!
カバンとか持つのでぜひ!」

「…………。
…………興味、ない。」

「……あれ、なんか変な間があったけど、
もしかして遊園地好きだったりするの? 意外。」

「別に、ほんとに興味ないから。」

「フーン!じゃあさじゃあさ――」

――異様な熱意をもって私にコンテストへの出場を勧めて来る友人をあしらいながらも、
正直なところ悪い気はしていなかった。
単純に「格好いい!」と友人に言って貰えることが嬉しかったのだ。

ただ、それでもコンテストに出ることに対しては気恥ずかしさが先行し、
乗り気にはなれなかった。

ちやほやに報いたいという気持ちと、羞恥心を載せた天秤の傾きが逆転したのは、
友人が私の許可を得ずに、コンテストへ申し込みを行ったタイミングだった。

勝手に事を進められ、腹を立てた私は、
いつもよりキツく友人にコンテストへ参加しない意志を伝えた。
それに対して友人は“最悪の反応”を示した。

なんと彼女は、事も有ろうに自らの非常識な振る舞いを深く反省し、
しおらしく謝罪の言葉を述べた上で、早急に参加撤回の申請をしてくるというのだ。
そして、その時の彼女は、うっすらと涙を浮かべていた。
――これは、最悪中の最悪であった。

私の友人は殺人的に可愛い。
努めて客観的な事実だけを選んでも、
彼女の可愛いさを証明できる出来事を挙げるのに苦労はしない。

主観を混ぜていいのであれば、
そういった類の魔人能力なのではないかと疑ってしまうほどに、
彼女と相対すると、庇護欲と母性本能を激しくくすぐられる。

――いや、「くすぐられる」などという甘いものではない。
欲と本能にかかっている理性の塗膜を剥がされ、
むき出しになったそれらをデッキブラシで粗く擦りあげられるような、
そんな、抗いようのない衝動に駆られるのだ。

希望崎学園に入学してからというもの、友人の可愛さは日に日に増してきていて、
一時期は目をあわせることも、会話をすることも困難になったほどだ。
それでも、なんとか時間を共にすることで耐性をつけ、
“普段の彼女”が相手ならば、自然と接することができるようになった。

――だが!しかし!

涙を溜め、許しを請う友人の姿は殺人的というか、もはや殺人鬼そのものだった。
殺人鬼に涙なんて凶器を握らせてはいけない。
それは最悪中の最悪だ。

「私、柊花ちゃんの格好良さを皆に知って欲しくて……そのことしか考えられなくなってた。
それで……こんな……。
一番……大切なのは、柊花ちゃんの気持ちなのにね……。
本当に、ごめんなさい。」

「あっ……! あのさ。」

「……?」

「やっぱり、私――」

【今現在、コンテストの発表順を待つ私はこの場からの逃避を強く願っている】
【軽率に参加してしまったことを猛烈に後悔している】

【だが】

【仮に今の私が時間を遡ってこの時の決断をもう一度出来るとしても】
【結局、出す結論は変わらないだろう】


「――気が変わった。出てもいいよ。」


私は、彼女に抗えない。



参加の経緯を回想した柊花は、少しだけ元気を取り戻していた。
結局は自分で選んだ道なのだ。
ならば、やる他はない。

そして彼女はふと、友人がこの舞台を見に来ていることを思い出した。
そんな大事なことを忘れるほどに追いつめられていたのかと自嘲した後、
舞台袖からそっと観客席の様子を覗いた

昨日友人は「絶対一番前の席をとって、絶対一番大きな声で応援するから!」と言っていた。
果たして、それは叶ったのだろうか。

会場の前列端から順に、小柄な友人を見落とさないよう観客の姿を一人一人認めていく。
そして、会場中央に慣れ親しんだ姿を見つけた柊花は、

「……あの子。……ばか。」

そうぽつりと呟き、俯いてくつくつと笑った。

彼女の友人は可哀想なくらい疲弊し、狼狽えていたのだ。
その瞳は舞台上の演目を捕らえておらず、左にうろうろ、右にちょろちょろと忙しなく動いている。
よく見れば体も小刻みに震えているし、頬が心なしかほっそりとしている。
また、トレードマークのリボンは心情に呼応するようにくたびれてしまっている。
アイメイクも少しぼやけている。また泣きそうになったに違いない。

柊花には、友人の気持ちが手に取るようにわかった。
彼女も自分と同じようにこの数十分を苦しみ抜いてきたのだろう。

このコンテストのレベルの高さは友人にとっても想定外のもので、
そこへ軽率に柊花を送り込んでしまったことを悔いていたに違いなかった。

ハァと、柊花は微笑を浮かべながら溜息をついた。
“外気に冷やされた温かな息が、白く染まる。”

もう羞恥に身を強張らせ、身体を冷たくしていた柊花はそこにはいなかった。
彼女の覚悟は決まっていた。

このコンテストが終わったら、友人と学祭をまわる予定だ。
その時にきっと友人はコンテストのことを気に病み、
ぐずぐずになりながら己が不明を謝ってくることだろう。

そんな友人に対する特効薬はひとつ。
「別に、大したことなかったけど」と、さらりと流してあげることだ。

その言葉が虚勢に見えないよう、まずはこの場で成功を収めておく必要があった。

“マジCOOLな柊花ちゃん”なら、きっとそうするし、それができる。
友人が信じた虚像を演じるべく、柊花は大きくのびをした。

気持ちは軽く、身体も軽かった。

■こぼれ話■
分岐:柊花の好みが偏っていた場合




――あれは、いつのことだったか。
確か中間テストの後だったから11月の後半のいつかだったと思う。

「柊花ちゃんはコンテストに出ないの?」

「コンテスト?」

帰りの電車のそんな他愛のない会話が発端だった。
それから毎日のようにその話題は繰り返されるようになった。

「柊花ちゃんはマジでCOOLだから、絶対『格好いい部門』で優勝できるよ!
ねぇ出ようよー。思い切ってさ!」

「出ないよ。」

「え~~~なんで。
優勝したら校内のスターになれるんだよ?
それに芸能スカウトの人が見に来てるって噂もあるし、
もしかしたら本当のスターになれちゃうかも!」

「興味ない。」

「フーン!そーですか。
……では、切り口をかえまして。
優勝賞品の『冥王星ランド ペア招待券』はどうだ!
昼食付きでアトラクションは当然乗り放題! 
欲しいでしょ! 行きたいでしょ!
わたしは超行きたいので連れて行って下さい!
カバンとか持つのでぜひ!」

「…………。
…………興味、ない。」

「……あれ、なんか変な間があったけど、
もしかして遊園地好きだったりするの? 意外。」

「別に、ほんとに興味ないから。」

「ほんとに~~~?」

「……冥王星ランドは休日に限らず慢性的に混んでるから、ファストパスの取得が必須なんだけど、
広い園内にアトラクションが散らばっている関係上、どれだけ計画を練って効率的にまわっても1日だけじゃ5か所が限界。
それに対して、あそこに行ったら絶対に乗らなければならないアトラクションが6つある。
この時点でキャパオーバーで、もう1日ではまわりきれない。
さらにたとえ断腸の思いで“カロンのベルトクルーズ”を諦めたとしても、時期が悪い。
年明けから映画のタイアップで新しいエリアができるから、更なる混雑が予想されている。
そうすると下手したら4か所、最悪3か所しかまわれない。
そうなったらもう……絶望だ。
カロンでさえ腸を切る思いだったのに、“フォボスのフィルハーマジック”や“ヘヴィ・オフィーリア・コースター”を切るとなったら……。
もう、内臓切除程度では表現しきれない痛みになる。
それを切るくらいならいっそ私の首をかき切って欲しい。
さらに……。そうだ、これは落ち着いて聞いて欲しんだけど、
私は――新しいエリアにも行ってみたいと考えている。
エリアはアトラクションじゃないからファストパスが通用しない。
どの程度待たされるかは、過去の事例から考えると、最長で半日……。
長い!あまりに長すぎる。
こんな状況で冥王星ランドに行ってもかえってストレスを溜めてしまうことは目に見えている。
……だから、総じて、興味ない」

「柊花ちゃん……」

「うん」

「冬休み、泊まりで冥王星ランド行こっか」

「……うん!」


~圧倒的fin~

『巨大熊猫は日本上陸後、急速に成長していた。』


巨大熊猫は日本上陸後、急速に成長していた。

当初15tだったその体重はいまや15万tにまで増加、15tとは幼体時の体重だったのだ。怪獣が成長したら体重10000倍になってもおかしくないよね!

そんなわけで、現在の巨大熊猫は体長体重ともに巨大怪獣に相応しいスケールになったのだ!

そして体重の増加は、それに伴るモフモフの増加を呼んだ。

冥王星祭会場は肥大化した大質量のモフモフに飲まれ、あらゆるものがモフに包まれ死んでいった。

しかし成長は止まらない。たった数時間で体重が10000倍になったのだ、このままのスピードで成長すれば1週間ほどで日本はモフに沈むだろう。

この事態を重く見た日本政府は『巨大不明生物モフモフ対策本部』、通称・巨モフ対を発足し問題解決に乗り出した。

……そして、それと時を同じくして、遠い宇宙の彼方ではモフの中のモフ・グランドモフによる最終作戦『地球モフ化計画』が発動されようとしていた……!


特 別 予 告 映 像


『 シ ン ・ モ フ ラ 』



制 作 ・ 総 監 督

モ フ 野 モ フ 明


  提 供

金 野 満 男



2017年1月公開予定


『今年も訪れた冥王星祭。』

今年も訪れた冥王星祭。
例年以上に盛り上がりを見せる会場の側。
二人の少女が花壇のふちに腰かけ、並んでいた。
互いの親しさが感じられる、肩の触れ合いそうな距離。
けれど互いに視線は合わさず。
年上と見える少女が笑い、何事かを語る。
隣に座る小柄な少女は、そっと頷く。
耳を傾けてみれば、それは過去の冥王星祭の想い出話であった。

「懐かしいな。3年前……私が1年の時はみんなで花火大会をしてね」
「うん」
「ただ花火を見るんじゃなくて、花火を自分たちで打ち上げたの!」
「うん」
「火の粉が降ってきて危なく火傷しそうになったりとか大変だったけど、楽しかったんだよ~。水星にも見せてあげたかったな~」
「……知ってるよ。初めて地球に来たばかりの頃だった」
「一昨年は季節外れの流しそうめんをやってね~あの時も色々……」
「うん、姉さんが地球に来た時だった」
「でも、やっぱり去年のトーナメントは圧巻だったなぁ。あの時は……」
「時間だから行かなくちゃ。またね、柊先輩」

小柄な少女が立ち上がった。
先輩と呼ばれた少女は、それでも笑顔で語り続けている。
立ち上がった少女は、虚空へ語り続ける先輩を見た。
小さく、白い手を胸の前で強く握り、ため息を一つ。
そのまま語り続ける先輩を残し、少女は会場へと足を向けた。
と、その時。

「やあ、冥王星ちゃんじゃないですか」

ニコニコと笑顔を咲かせた新たな少女が一人、
小柄な少女『冥王星ちゃん』へと声をかけた。

「どうも、大会の主賓様。夢追中、只今推参!」
「……」
「あちらに見えるは柊先輩ですね……」
「……」
「冥王星ちゃんも、思うところがありますか?」
「……」
「自分が望んだ未来で、こんなつもりじゃなかったと、もしや思っていますか?」
「……」
「……では私から、一言」
「……」
「花火大会をありがとうございます。流しそうめんをありがとうございます。貴方の行為で誰かは傷付くかもしれませんが、それでもあの日あの時、私は貴方のお陰で楽しませていただきました。だからどうか……より良き風の吹く未来を進まれますよう」

***

それはあったかもしれない過去。
それはありえたかもしれない未来。
冥王星の導きにより何かを喪った人と。
冥王星の煌きにより何かを得た人との。
そんな、きっと当事者にしか伝わらない。
ごくささやかな、物語。

「では、楽しく元気に行きましょう!」

『冥王星後夜祭~~after carnival~~』


『20××年、地球は滅亡の危機に晒されていた。』

20××年、地球は滅亡の危機に晒されていた。天は赤と銀の斑覆われ、大地は火を吹き、海水は干上がった。ここに6人の勇者が現れて元凶となる侵略者、地球外生命体を相手に三日三晩戦い続けた。

集まった勇者も最後の1人になった時、奇跡は起きた。侵略者達の乗り込んでいた飛行物体に小さな穴が空いたのだ。飛行物体に乗り込んでいた侵略者達に取って致命的だったのは、地球を渦巻く瘴気、否、中二力であった。

繊細な侵略者達は微かな中二力に対しても抵抗できず、飛行物体ごと海へ墜落した。飛行物体は何千もの数で大気圏を取り囲んでいた筈だった。しかし、一度墜落した飛行物体の乗組員は訳も分からず脱出しようとし、自らの乗っていた飛行物体の入り口を開けた後、瘴気満ちる大気に溶けた。
最後に残った勇者は敵の残した飛行物体に乗り込み、宇宙最新技術を魔人的な直感でコントロールし、見事敵全艦を墜落させたのであった。

ではこの戦争が世間一般の人々にどれだけ知られているかというと、ほぼ全く知られていない。
この闘いは基本的に雲上で行われ、落とされた飛行物体の多くは海に沈み、飛行物体の飛翔は目で追えない速さで行われていたので、そもそも知っているものは少ない。戦場自体は人の定住できないような海上を中心としていたので、それは問題無い。

しかし、この闘いで勇者に加勢した者、及びその家族知人に対しては、厳格な箝口令がしかれていた。
それは何故か、その理由を知った者は口をつぐみたくもなろう。最後の勇者はまだ中に乗組員のいる飛行物体一つを、1人の老人の元へと運んで行った。老人は、彼が知る中で一番の物知りだった。

勇者も実の所何が起きているのかは知らなかった。彼は危険が迫っていることのみを察知し、迎撃に向かったのだ。敵の乗り物に穴が開いたことも知らなければ、中二力が弱点であることも知らなかった。
直感にのみ従い、直感に従って闘い、直感で闘ったことによりただ1人生き残ったのが彼なのである。
彼は疲弊していた。あれだけ働いていた直感もその時にはもうだいぶ鈍っていた。

そして彼が戦果を見せに行った老人、これは独自に様々な学問の研究をしていたが、はっきり言ってダメな人間だった。深い智慧を持ち、優れた視座を持ち、使い切れない財産を持っていた。違法な薬剤、機材を持ち、人道倫理に反する手段を持ち、それらを可能にする権力を持っていた。
そして彼は、偉大な発見を前にした時に後先を考えるだけの堪え性など持っていなかった。

そして老人は宇宙からの来訪者を元に、2つの作品を完成させた。
1つ目は《辰鎧》、飛行物体の頑丈さと攻撃性能を元に、人間が身体に装着する形で使用するメカニックな防具兼武器である。鎧表面から発される電磁波は虹色の光を放ち、それを浴び続けた者は精神がM××星雲第三物理学に隷属するようになる。魔人能力も制御が聞かなくなり、肉体と精神の繋がりは失調する。防具としても一級品であり、鎧サイズに小型化したとはいえ、対物ライフルの銃撃程度なら、衝撃の全てを鎧の表面で吸収してしまうというおそるべき性能を持つ。また、通常の物理学で観測されるエネルギーに限らず、この鎧は中二力をも吸収する性質があり、魔人であっても傷をつけることは難しい。

2つ目は《ジェーン・カナリア 》、飛行物体内に残された地球外生物の細胞を利用して作り上げられた生命体である。彼ら生命体は人間と同じレベルの知性を持ち、人間と姿はそう変わらない。
では人間と全く同じ生物なのかといえば、そういうわけでは無い。彼女達ーーこの生物の姿は総て人間女性の肉体と相似しているーーは、中二力に敏感に反応し、魔人が一定範囲内に立ち入ると奇声を上げて錯乱状態に陥る。その繊細さは機械や魔人の域を超え、ただ魔人を発見しては排除する目的に特化している。錯乱した彼女達の叫び声はそれを聞いた人々の気分をざわつかせ、中二力の発信源を絶つという目的が共有される。つまるところ、彼女達は自動で魔人存在を感知しては周囲の生物の思想を統率して闘わせる兵器なのである。

《辰鎧》と《ジェーン・カナリア》は現在、老人が何度も複製しては、秘密裏に売買が行われている。最後の勇者はこのことを知らずに没した。こうなることが分かっていれば、彼もここに飛行物体を運び込むようなことも無かったであろう。


「キエエエエエ!」「キエエエエエ!!」「ブチ殺して! あいつをブチ殺して下さい!!!」「殺します! 警官だけど殺します!!」「「「私達は一般人ですがそれに賛成です!!」」」


奇声を上げる女達も警官も、その他一般人も、血走った目をあらぬ方向へ向け、涎を垂らしながら同一の方向へ向かいフラフラと歩いていく。その先にいるのは杲鳥貴御、犯罪者集団を壊滅させるために冒険をする青年である。
「なんだかゾンビ映画みたいで気持ち悪い…… 一度戻った方がうわッ!」

貴御の背後で大きな音がした。それと同時に前方向からも爆発音が鳴り響く…… 訂正する。先に音がしたのは貴御から見て正面の方向、警官の持つ拳銃から、背後から聞こえたのは、ガラス窓の割れる音だった。

『なるほど、これが《ジェーン・カナリア》…… 厄介な警備員だな。一般人に紛れ込んでいるのか』

貴御の脳内に声が響いた。貴御の仲間の中でも、特に言葉遣いのおかしい女子の声だ。そろそろ呼称が長いのも面倒臭くなってきたので、彼女は以降地の文では毒舌先輩と呼ぶことにする。

『よし、敵の戦力は読めてきた。ではそのまま右後ろの路地に入れ、目的地までのナビゲートはこちらで行う』
(それって先程ここまで来た時に使った道ではないですか! 私がここまで来た意味はあるのですか!?)
貴御は警官が銃弾を詰め直し、一般人が武器を拾っているのを確認し、それらを素早く写真に収めると、狭い路地へと飛び込んだ。

『怪しい心理反応を示す生物がそこにいたので偵察に行かせたまでだ。現在の読心範囲は貴様の半径10m程度だからな、貴様が動かなければ確認はできなかった』
(でも相手は銃を撃って来ましたよ? 危ないじゃないですか! )
『なに、貴様の能力があれば何度でも生き返ることができるであろう。気にする必要はない』
(外道!!)
『馬鹿、作戦会議で反対しなかった貴様が悪い。どうせこちら作戦本部には、貴様の寝姿を収めたアルバムが一冊分残されている。写真が足りなくなった場合は、こちらへ移動させる。心配せず指示に従え』
(寝姿って……)
『我々の総意だ。これを決めたのは会議後ではあるが、貴様とて人前でアルバム一冊分も自撮りする姿を晒したくはあるまい』
(んん…… どうでしょう)

思った以上に知らない場所で痴態を晒していた貴御であったが、寡黙な先輩の探し物特化能力と最も年長で思慮深い仲間(以降遠隔氏と呼ぶ)の遠隔視、毒舌先輩のテレパシーは、思った以上にスムーズなナビゲートを可能にしていた。

『おっと、敵本拠地に向かうには避けられない位置に《ジェーン・カナリア》が固まっているな。敵組織に関する記憶は持っていないようだが、人為的に決まった場所を徘徊するよう刷り込まれている。』
(それじゃあ一回帰りますか?)
『ハハハ、阿呆が。突っ込む以外に無いだろう。早くしろ、我々は期待しているのだぞ』
(いくら突っ込んで行っても、捕まえられたらいつまで経っても敵本拠地にはたどり着けませんよ?)
『分かっている。だから貴様には奴らの無力化も行ってもらう。無論我々からも支援はしよう。さあ、指示に従って突っ込め阿呆』
(分かりました、分かりましたので一度静かして下さい、お願いします。馬鹿とか阿呆とかって言葉がなんだかいちいち胸に刺さって辛いです!)
『繊細な奴め。言葉が胸に刺さるのは、身に覚えがあるからだろう。』

貴御はもう返事はしなかった。どうせこちらから何か言えば、何かしら毒舌で絡まれるのである。集中して返事もできないという体でしばらくは無視を決めることにした。

『貴様が何を考えて返事をしないのかも、こちらは把握しているのだが…… まあ良い。《ジェーン・カナリア》は、その道路の先にいる、赤いポーチを抱えて電話する女、高校の制服を着て本を読んでいる小娘、一見ゆるキャラっぽい女だ。速やかにそいつらを無力化し、遠くに見えるここらで一番大きいオフィスビルへ乗り込め。敵組織の本陣はその中にある』

貴御はカメラを構え、《ジェーン・カナリア》達をそれぞれ写真に収めると、横断歩道を渡った。
「キエエエエエ!」「キエエエエエ!!」「あの人魔人です!!! 捕まえて下さい!!」
思っていたよりも反応が早い。貴御は少し驚いた。先程の《ジェーン・カナリア》よりも、ずっと索敵範囲が広い。これでは、害意の無い魔人が近くを通行しただけでも反応してしまうだろう。
更に後ろからは、貴御を追い続けていた《ジェーン・カナリア》、警官、武器を持った一般人が迫ってくる。

「ハハハハハハ!!! キーン!!どうした、不思議に思っているのかクソ魔人風情が。お前らのような厨二病でキーン!!低脳な奴らには、何故《ジェーン・カナリア》の力の及ぶキーン!!射程が伸びているかもキーン!!分かるまい! ハハハハハハ!!!」

どこからか、大きな声が鳴り響く。キーンという音は、拡声器などでお馴染みのアレだ。

『丁度近くにある希望崎学園で、大きなイベントがある。大方近所の魔人の多くはそちらに行ったのだろう。そしてこの声には覚えがある。忘れかけていたが思い出した。こいつは私達をセミナーに誘い込んだ張本人の声だ!!』

毒舌先輩の指摘で貴御も思い出した。確かに、この声は最初に声をかけてきた人物の声に似ている。しかし、以前はこのように人を馬鹿にするような口調では無かった。一体彼にどのような変化があったというのであろう。

「そうだな! キーン!! いくら愚かな魔人とキーン!! 言えども、何も知らずに死ぬのは可哀想だからな! 冥土の土産にお前達が一番知りたいだろうことキーン!! だけを教えてやる。何故お前達の襲撃に対してここキーン!!までしっかり警備をつけているかということだキーン!!」

どこからか聞こえてくる声は何かの説明を始めたが、貴御の頭には毒舌先輩の説明ばかりが鳴り響いていた。もう無視を続けられる勢いではない。

『杲鳥、貴様はそこまで興味も持たず調べてもいなかっただろうから今教える。奴らの前身、すでに中心人物が逮捕されて消滅した犯罪集団は、魔人差別団体と結託して資金を得ていた。いや、思想的には飲み込まれていたといっても間違いでは無いようだ。もともと魔人殲滅装置である《ジェーン・カナリア》を、あの犯罪集団が裏ルートを駆使して差別団体に売りつけていた。一介の差別団体にそのような交易ルートは持てなかったからな。
まあ、最初は金稼ぎの為の関係に過ぎなかったんだろうが、トップが魔人差別思想に染まってからは酷いことになってる。一般人を特殊なセミナーで魔人に変えては、捨て駒として戦場に送り込むというのは貴様も知っているだろう。
他にもセミナー受講生をクスリ漬けにして金も払えない程の借金苦に陥らせ、犯罪行為も辞さないという状態に追い詰めて魔人のイメージダウンに繋げたりもしている。』

(初めて知ることが色々ありました、ありがとうございます。ところであちらの方も何か説明しているようですが……)

『いや、敵がこちらの襲撃を予測していた理由については察しがついているから聞く必要は無い。恐らく、この前私が持ちかけられた、暴力団の抗争に参加するかどうかという連絡の後、次に取引を持ちかける時のために、反応を伺っていたのだ。そして私が出かけた先は、例のセミナーを受けた仲間の住処。そこに私以外の仲間もそこに集まっていることが分かれば、そのまま大人しく取引に応じることは無いどころか、力を合わせて反乱してくることは十分予想できる。

という推理をしている風に装ったみたが、そもそも敵が我々の作戦本部まで尾行してきていることは読心で分かっていたし、警戒していることも分かっていた。後はそれに気づいていないフリをして、裏をかくだけだ』

拡声器の向こうの声は自分達の作戦の完璧さを讃えて酔っていたので、貴御が脳内会話をしていることにも気付けてはいない。《ジェーン・カナリア》とその支配下の者達は、不気味な程の沈黙を続け、黙って拡声器の声を聞いている。どうやらあの拡声器の声には、《ジェーン・カナリア》の中二力への過敏性を抑える効果があるようだ。

(作戦会議でそこまで話してたんですか?)

『いや、貴様が寝た後に皆に教えて、より完璧な作戦を練った。どうせ聞いていても分からない貴様が参加する必要も無かったしな』

(それは、そうですけど…… あ、敵はなんでこちらの本拠地が分かっていても、直接襲撃してこなかったんですか?)

『それを説明するのは簡単なことだ。《ジェーン・カナリア》を魔人差別団体が用いる理由は、単に魔人を殲滅するためでは無い。彼女達の攻撃に抵抗し、支配下の一般人達も怪我や死傷を負うことになれば、《ジェーン・カナリア》の存在を知らない者達はどう思うだろうな。魔人が乱暴を行なって人を殺し、その行いに憤慨した一般人達によって命を奪われたということになった、とかそんなものだろう。
つまり、奴らは魔人の社会での立場を危うくするのに我々を利用しようとしていたという訳だ』

(ああ、先輩が奴らの動きに気がついていないフリをしていたのは、そういう意図があるのに気付いていたという訳ですね)

『まあそうだ。お、そろそろ演説が終わるな。よし杲鳥、貴様は暴力を使わずに《ジェーン・カナリア》達に抵抗しろよ。奴らの思い通りになるのは癪だからな』

(そもそも私は暴力とか嫌いですし、振るうつもりもないですけどね)

『ほお、ではどうするつもりだ』

「こうします!!」

最後の返事は口に出した。貴御は持っていたアルバムを1冊取り出し、目当ての写真が入っているページに指を差し込んだ。次の瞬間、貴御を取り囲んでいた《ジェーン・カナリア》たちに異変が起こった。より正確に言えば、彼女たちの着ていた服に異変が起こった。彼女たちの服は突如ボロボロになり、風に吹かれて塵のようになって飛んで行ってしまったのだ。彼女たち、という表現には、当然警官や武器を持った一般人も含まれている。

「キエエエエエ///」「あの人エッチです! 変態です!!」「私は警官だが、イケナイ趣味に目覚めてしまったようだ///」「「「私達は一般人ですが、普通に恥ずかしいです!!」」」

拡声器の音声が止んだ。何が起こっているのか理解するのに時間がかかっているようだ。一方、貴御の元には毒舌先輩の短い疑問符が届いていた。

『何をやっているんだ貴様は』
(襲いかかってくる人達の衣装を複雑なパーツに分けて、過去に存在した場所に戻しました。つまり服をバラバラにしました!)
『何の意味があってそんなことをした?』
(えっ? いや、皆ポロリが怖くて動けないかなあ、と。)
『あいつら普通に動いてるぞ? 今にも貴様に攻撃しようという勢いだが……』
(ええっ!? 何で? 何で皆動けるの? ポロリ怖くないの!?)
『やはり阿呆だな貴様……』

「キエエエエエ!変態! 犯罪者!」「この人強姦魔!!」「私は警官だが、乱暴するつもりでしょう!?」「「「私たちは一般人だけど、地面を這えば色々隠しやすいことに気が付きました!!」」」

「本当に何がしたいのが分からないが、万策尽きキーン!! たようだな、ハコドリウズミ。キーン!! そろそろ死んでもらおう。お前が死んだら、次はお前のキーン!! 仲間達が集まる作戦本部に猛攻をかけて処理する。さらばだハキーン!! ハハハハハキーン!!!」

(ええっ! 蘇生用のアルバムが置いてある作戦本部まで攻められたら、私本当に死んじゃうじゃないですか! どうしましょう!)

『いや、分かったもう良い。貴様のポロリ作戦に乗ろうという奴が出てきた。こいつがどうにかしてくれるだろう……』

ボロボロの衣装を身につけた《ジェーン・カナリア》の奴隷達は、獣のように身をくねらせ、銃や武器を構えて貴御へと襲いかかる。その動きは一切のポロリを恐れていない動きだ。あわや貴御の命は失われたかと思われたその瞬間、ジェーンカナリアの身体は一回り大きくなり、警官や一般人達の身体は丸みと膨らみを得た。この豊胸の勢いで警官の銃の照準はずれ、一般人達は武器を取り落とした。

そう、これこそが貴御の仲間の1人が持つ性転換能力である。この能力の使い手は時折理性を失ったような行動発言を見せるが、この能力も少しテンションのおかしい時に身につけたものである。何とこの魔人能力、肉体以上に精神に効果が及ぶ。これが副次効果なのか、むしろ能力の主効果といって良いのかもしれないが、とにかくこの能力を浴びた者は、自分の性別を猛烈に意識するようになる。

「キエエエエエ! 男なのに女子高生の制服着ちゃってる、それもボロボロの///」「私、いや俺、ナイスガイです!こんな布は筋肉の邪魔です!!」「私は警官だが、素晴らしい体験をさせて貰った。このままスニーキングと洒落込もう、アデュー!!!」「「「一般人の私達はこの先どうやって生きていけば良いの!? 地面を這っても膨らみが隠しきれないんですけど!!」」」

『……貴様が衣装を破壊していたおかげで、敵の無力化に成功したようだな。今のは性転換野郎が遠隔氏の能力を通して作戦本部からそこまで直接能力を使った結果だ』

毒舌先輩が貴御に語りかけている間に、拡声器の声も事態を確認したようだった。慌てた声が聞こえてくる。

「くっ、正面玄関前の《ジェーン・カナリア》キーン!! が無力化されたか! キーン!! しかしまだ終わらん、我々には《辰鎧》があ」

キーーーーン!!

拡声器が一瞬強力な雑音を発し、そこからは何も聞こえなくなった。

『良くやった杲鳥。敵は壊滅したぞ』
(えっ、私まだ敵本陣へは踏み込んでいませんが)
『貴様は囮だからな』
(ええっ!?)
『私達の中でも最強の一件セラミック製っぽい仲間(惑星破壊能力者)ともう一人のテレパシー使い(副音声、字幕表示能力)がこっそり忍び込んで制圧したからな。良くわからんが、対魔人用に発明されたらしい《辰鎧》なる兵器もふつうに破壊したらしい。とにかくあのセラミックっぽい仲間は凄い奴だ。
杲鳥、貴様もあれぐらいやって見せろ』
(いやいや、あの材質がセラミックっぽい人、副音声と字幕が無いと意思疎通が出来ない不思議な方ですし、魔人になる前から謎のビームや能力を身につけていたじゃないですか! 無理ですよ真似なんて!!)

貴御が毒舌先輩と脳内問答しながら半裸の《ジェーン・カナリア》達から距離を開いていると、空から丁度材質がセラミックっぽい仲間が飛び降りてきた。副音声使いをお姫様抱っこしての登場である。

「××××××××(副音声・字幕:壊滅させた敵本陣については、警察に通報してあります。それとじつは皆さんに話しておかなくてはいけないことがあります)」
「えっ、今言わなくてはいけないことですか? とりあえずここを離れませんか?」
「××××××××(ここで話す必要があります)」

セラミック氏は副音声使いを地面に下ろすと、語り始めた。要約すると、彼の正体は宇宙人であり、地球に来たばかりの頃の彼はまだ母親の胎内で指をしゃぶるような赤ん坊であったらしい。
彼の親を含む宇宙人達は飛行物体でクルージング中に、海賊的精神を発揮して地球侵略を始めた。最初は優勢を誇った宇宙人達であったが、数人の地球の魔人の抵抗により苦手な中二力が飛行物体内に侵入し、その殆どは海に沈ん、だ。
セラミック氏の両親は咄嗟に海から出ようと飛行物体の窓を開けたが、そこから侵入した中二力により消滅した。しかし、セラミック氏だけは母親が消滅している最中に、中二力への耐性を獲得してなんとか生き延びたのだ。

セラミック氏は飛行物体が海面より下に浮かんでいることを幸いに、そこを住処として生活を送っていたらしい。ビームで魚を捕ったり、船内の資料で自主的に勉強するような日々が続き、彼はある時、自分の両親とその仲間は宇宙人の中でも野蛮な行為に及んでいたことを知った。
そして、彼らが侵略しようとした地球の価値を、今度は自分自身で測りなおすことを決めたという。

「××××××××(私は、発声器官と人間としての教育が足りていないという問題上、会話が成立しないという問題を抱えていましたが、それでも間近で地球上の文明を観測して拡声器の向こうの声は自分達の作戦の完璧さを讃えて酔っていたので、貴御が脳内会話をしていることにも気付けてはいない。《ジェーン・カナリア》とその支配下の者達は、不気味な程の沈黙を続け、黙って拡声器の声を聞いている。どうやらあの拡声器の声には、《ジェーン・カナリア》の中二力への過敏性を抑える効果があるようだ。ました)」

セラミック氏は続けた。

「××××××××(偶然不思議なセミナーにおいて、副音声使いさんに会えたことで、なんとか言語能力を補うこともできました。こりがたいことです)」

副音声使いは顔を赤くしている。彼女がセラミック氏に惚れているのは、仲間内でもセラミック氏本人以外には周知の事実であった。

「××××××××(しかし、私は知ってしまった。地球人の誰かが、私と同じ種族である人々を元に、兵器を開発していることを。私はその事実が本当であることをたった今確認しました)」

セラミック氏は、蹲る《ジェーン・カナリア》の元に近づくと、その頬を指で拭った。すると驚くべきことに、《ジェーン・カナリア》の皮膚の下に、無機質でセラミック状の物が現れたのだ。

「××××××××(やはり私と同じ種族の生物が改造されたもののようです。哀れな。無理矢理望まぬ働きと殺戮を押し付けられているのですね、酷いことです。)」

セラミック氏は顔を顰めると、周囲で茫然とする《ジェーン・カナリア》全員を抱き上げて肩に乗せた。彼は物凄く体格が良いのだ。

「××××××××(私は一度、自分達が本来生まれるべきであった星に帰ろうと思います。飛行物体はこっそり秘密の場所に隠してあるのでね。彼女達も地球より住み心地は良いでしょうから連れて行きましょう。まだ何人もの被害者が残っている筈なので、彼女達も探して連れて行きます)」

副音声使いがイヤイヤ行かないで、とセラミック氏に縋り付いたが、セラミック氏は優しく彼女の頭を撫でるだけだった。

「××××××××(それでは、私は行きます。皆さんお元気で)」

セラミック氏は超脚力ジャンプで空の向こうへ飛んで行った。副音声使いは彼を追って走って行った。

『宇宙人が身近にいたことには驚いたが、これで大体片付いたな』
(読心で分からなかったんですか?)
『アイツからは謎の言語しか読み取れなかった。今思えば宇宙語だったんだな。』
(はあ、そうなんですか……)
『あ、そうだ。私達は今祝勝会ということで飲んでるから、部屋がうるさくなるかもしれない。未成年のお前はその辺でブラブラしてた方が良いかもな』
(ジュースでいいから参加させて下さいよ!!)
『いや、危険だ。何しろこちらにはお前の寝姿でアルバムを一冊埋める輩がいる。まあ、性転換野郎のことであって私のことではないが、そんな奴が酒に酔った状況を考えてみろ。何されるか分からんぞ?』
(ええ……)
『まあ、今日はセラミックっぽい奴も副音声使いもどこにいるか分からないし、正式な祝勝会は少なくとも副音声使いも来れる時にしておいた方が良い』
(はあ…… まあ分かりました)
『おっと、希望崎学園でイベントを開催していると言っていたな。すぐ近くではないか。寄ってみればいい』
(え? あ、希望崎学園の人? え、もうすぐイベント終わりそうだけど参加するなら早く? いや参加しなくても……あっ引っ張らないで服が伸びる! え?これが人気投票の会場? なんか絶対おかしいのがいるようんこって……クサイクサイ………雄ミルク君!?…………… あっ近づかないで………やめろ…………来るな……来ないで…………)

テレパシーはここで途切れている……

『まあいいか…… 飲もう!!』

終わり

『もしマッチョネスが「浜村渚の計算ノート」の登場人物なら、折り紙テロリストに殺人折り紙「斬千代」で殺されていた』

『もしマッチョネスが「浜村渚の計算ノート」の登場人物なら、折り紙テロリストに殺人折り紙「斬千代」で殺されていた』

数学がなんの役に立つのか。
マッチョネスが問うたとき、一厘はいくつか例をあげた。

たとえば折り紙は数学の範囲である。
NHK Eテレの「スーパープレゼンテーション」でも、計算折り紙という分野が紹介されている。

人工衛星のソーラーパネルには、簡単に展開・収納できるミウラ折りが使われている。
また、血管や気管を内側から広げる医療器具ステントや、自動車の乗員を保護するためのエアバッグなど、小さく折りたため、簡単に広がる折り方が使われている。

他にも例をあげると、疫学は統計学が多用されている。

十八世紀の海軍軍医ジェームズ・リントは、壊血病に苦しむ船員を複数のグループに分け、リンゴ酒・酢・ナツメグなど、それぞれのグループに異なる投与をおこなった。
その結果、オレンジやレモンなどの柑橘類が顕著な回復を示し、治療薬として使われるようになった。
壊血病の原因がビタミンCの不足と同定されたのは、二十世紀になってからである。

十九世紀のハンガリー出身の産科医イグナツ・ゼンメルワイスは、当時の産院で猛威を振るっていた産褥熱に対し、医師の手洗いと消毒を義務づけることで、その死亡率を大きく減らした。
彼は、遺体解剖をおこなった医師と、おこなわなかった助産師で、出産を介助したときの死亡率を比べた。
その結果、死亡率の高さの原因は、解剖をおこなった医師の手をとおして引き起こされたとゼンメルワイスは考えた。
この当時、まだ細菌は発見されていなかった。

十九世紀のロンドンの麻酔科医ジョン・スノーは、テムズ川から取水している水道会社の水がコレラの原因であることを突き止めた。
彼はどの水道会社から給水を受けているか一軒一軒たずね、上流から取水していた水道会社は下流と比べ、死亡率が低いことに気がついた。


厘のていねいな説明に、マッチョネスは無礼をわびた。
厘は、非を認めるマッチョネスのすなおさに感心した。
そして、数学が適切に使われない場合も紹介した。

厘はグラフを見せた。
小学生を対象にした、足の大きさと算数の成績のグラフだ。
マッチョネスには、足が大きいほど成績がよいように見えた。

本当に足の大きさと成績に関係があるのだろうか。
厘はそう問うた。

マッチョネスは、年齢が真の原因ではないかと答えた。
小学生は成長期だから年齢によって、足の大きさは違う。
異なる学年で同じ問題を出せば、高学年のほうが成績がよい。

厘は、年齢の影響を補正した結果を見せた。
足の大きさと成績に明らかな相関関係は見えなかった。
マッチョネスの考えは当たりだった。

このように、統計は注意深く使わないと、まちがった結論をみちびきだしてしまう。
たとえば、正門でアンケートをとれば、正門を通らない人の意見を集められない。
インターネットを使ってアンケートをとれば、ネットを使わない人の意見を集められない。
郵送やネットで回答する場合と比べ、直接対面や電話で聞き取りをした場合は、回答者が見栄をはりがちなため、異なる結果になりやすい。
現代では固定電話に加入していない家庭も多いため、市外局番を固定し、ランダムな電話番号で調査すること自体、偏りの原因になりうる。
こういったサンプルの偏りやデータへの影響を考慮する必要がある。


足の大きさと算数の成績の例では、年齢というわかりやすい原因があった。
だが、なにか未知の原因によって、結論がゆがめられる恐れはないだろうか。
未知のなにかが結論を左右されないよう、ランダムにサンプルを選ぶのはどうだろうか。
新薬の実験なら、新薬を投与されるグループと偽薬を投与されるグループに被験者をランダムに分け、薬を投与する実験者も新薬か偽薬かわからない状態にするのだ。
投与する側もされる側も、本当の薬か偽の薬かわからないため、期待に応えようと結果を偽ったり、好ましいほうに結果を誘導したりできなくなるはずだ。
しかし、偶然サンプルに偏りができてしまうことはありえる。
サンプルの数を増やせば、偏りができてしまう恐れは減らせるが、それでも百パーセント正しい結論は得られない。

結論がまちがっている確率が何パーセントなら、その結論を信頼できるだろうか。
それは分野や人によって異なるだろう。
五パーセントで充分な場合もあれば、一パーセントでも不充分な場合もある。

データの区切り方も、その人の価値観や判断に左右されるところである。
たとえば、ある病気の発症率を年齢を十歳ごとに区切って調べたところ、二十代で発症率が顕著に高かったとしよう。
この場合、二十代の人の保険料が高くなるといった影響が考えられる。
だが、十九歳と二十歳・二十九歳と三十歳の境目は、論理的な必然性がない。
人が勝手に決めた線引きだ。
もし、九歳ごとや十一歳ごとに区切っていたら、二十歳や二十九歳の保険料は高くならずに済んだかもしれない。

統計で得られた結果を公表することが問題の原因となる場合もある。
たとえば、選挙に対する世論調査で、政党Xが支持率がもっとも高かったとしよう。
その結果を報道すれば、勝ち馬に乗りたい者はXに投票するかもしれない。
また、弱い立場に同情する者は、もともとXに投票するつもりだったのを変えるかもしれない。
このように報道内容が結果を左右する現象はアナウンス効果と呼ばれている。
特に、勝ち馬に乗る場合をバンドワゴン効果、判官びいきの場合をアンダードッグ効果と呼ぶ。

数学は恥ではないし、役に立つが、使い方には気をつける必要があるのだ。

マッチョネスは勉強になったと感謝を伝え、その場を立ち去った。

『compressing condensed milk』

『compressing condensed milk』

コンプレッサがすてきなものに会いたいと伝えたとき、一厘はミルクくんの名をあげた。

ミルクくんの能力は、相手の協力が必要なため、助かる意志のある者しか救うことができない。
ミルクくんは、その人自身が助かりたいと思うよう、人との接し方を学んでいた。

世の中には、自傷や自殺を試みる者がいる。
ミルクくんによると、そういう人はいくつかの種類に分けられるそうだ。

ひとつは幻覚や妄想によるものだ。
たとえば、腕の中に虫が這っていると固く信じている患者が、虫を取り出すために腕を傷つける場合や、自分が生きていることを含め、なにもかも信じられない患者が、自分が生きていることを確かめるために自傷する場合があげられる。

幻覚や妄想をともなわない場合は、本当に自殺したい場合と関心を引きたい場合がある。
ミルクくんが会った患者は、リストカットをするとテンションがあがり、ストレスから解放されると答えたそうだ。
その患者は、自分の行為がほめられたものではないと分かっており、やめるための努力もしてきたが、リストカットに勝る解消法を見つけられなかったそうだ。
彼にとって、リストカットは晩酌のようなものらしい。

こういった大業を断行した自己陶酔感を、専門用語でカタルシスというそうだ。
ミルクくんによると、受傷後にすっきりして清々しいのは一般的らしい。
一見すると精神状態が改善したように見えるが、患者を取り巻く環境は本質的に変わっていないため、適切な対応をしなければ元に戻るそうだ。

逆に受傷後の受け答えが淡々としていたり、表情がほとんど変わらない場合はあぶないそうだ。
人が生きていくうえで必要な感覚や身体管理能力がいちじるしく低下しているため、傷の程度を把握するのが難しく、その後の予測が立てられないらしい。


では、自傷や自殺を試みる者にどのような対応が望ましいのだろうか。
ミルクくんによれば、自らの価値で相手を説得したり、患者自身を非難したり、否定したりすることはしてはならないことだそうだ。
安易な激励もやめたほうがいいらしい。
そんなことをすると、患者をより孤独にし、自殺の再発率を高めてしまう。
自殺に成功すれば、のこされた家族も担当した看護師も深く傷つくことになる。

望ましい対応とは、ミルクくんによるとTALKだそうだ。
TALKとは、誠実な態度で話しかける(Tell)、自傷や自殺についてはっきりとたずねる(Ask)、相手の訴えに傾聴する(Listen)、安全を確保する(Keep Safe)の頭文字だ。
ミルクくんは、自分の立場ではなく、患者の立場で真剣に相手の行動を理解しようと努めていることを、厘に伝えた。

厘はミルクくんを、忍耐強さと人を助けたいという心からの欲求をもった立派な人だと感心した。
しかし、ミルクくんは自分を罪人だと思っていると述べた。

仮に、住所がないため、公的な支援を受けられないホームレスに住まいを与えるとする。
十人分の住居を用意し、入居者をつのったところ、百人の応募があった。
そのとき、誰を住居に済ませたらいいのだろうか。
もし自分が選ばなかった十一人目が死んだら、どうするのだろうか。
人助けとは十一人目の死を覚悟することだと、ミルクくんは述べた。

コンプレッサは厘の回答に満足したのか、ミルクくんを探し始めた。

『宣伝アイドルの宣伝』

『宣伝アイドルの宣伝』

夢追中が取材内容をパソコンで記事にまとめる際、Microsoft IMEの誤変換が多いことを悩んでいた。

ジャストシステムの広告に出演することになった星丘レンは、ここぞとばかりにスポンサーの商品「一太郎2017 プレミアム」をすすめた。

「一太郎2017」に付属している「ATOK 2017」は、快適な日本語入力・変換を実現する日本語入力システムだ。
"Advanced Technology Of Kana-Kanji transfer"の頭文字をとってエイトックと読む。

雰囲気と入力したいとき、ふんいきではなく、ふいんきとタイプしてしまったことはないだろうか。
ATOKは、誤りがちな文章表現、誤用や誤読、敬語もチェックし、入力中に校正してくれる。

日本語入力をオンにしわすれ、アルファベットで入力しても、ATOKは入力した文字列から、「日本語変換したかったのではないか?」と判断し、操作ガイダンスを提示する。
さらに、「表現モード」で選べる方言も多数用意されており、それぞれの地域特有の言い回しを、スムーズに変換できる。

そのうえ、「一太郎2017 プレミアム」には、現代日本語の拠りどころとなる国語辞典「岩波国語辞典 for ATOK」、正しい/間違いが一目で分かる「明鏡ことわざ成句使い方辞典 for ATOK」、豊富な用例を収録した四字熟語辞典「大修館四字熟語辞典 for ATOK」などが付属する。

別売りの「共同通信社 記者ハンドブック辞書 第13版 for ATOK」を組み合わせることで、日本語入力はさらに進化する。
この辞書は、報道各社や企業の広報部門で原稿作成の指標とされる「記者ハンドブック 第13版 新聞用字用語集」に準拠したATOKの変換辞書だ。
入力した言葉が一般的でなかったり、適切ではない場合、ガイドラインに沿って表記の書き換え候補を提示する。

「一太郎2017 プレミアム」には、音声読み上げソフト「詠太7」も付属されている。
書いた文を読み上げることで、文章の流れを確認するのは、物書きにとって一般的な行為だ。
特に他人に読んでもらうと効果的である。
秘書のいない物書きにとって、「詠太7」は必需品といえる。
「詠太7」には、日本語のMISAKI/SAYAKA/SHOWと、アメリカ英語のJULIEの、計四人の話者が搭載されている。
一太郎の文書校正機能と連携し、校正結果の指摘個所だけを順次読み上げたり、指摘個所を含む文章だけをピックアップして読み上げたりなど、効果的な校正作業が実現できる。

夢追中は星丘レンに感謝を述べると、ジャストシステム直営ECサイト「Just MyShop」にアクセスした。
最終更新:2017年01月15日 17:59