プロローグ(Windows93マン)
Windows93。それはかの偉人ビル・ゲイツが世に送り出した早すぎるシンギュラリティとも言える製品であり、現在に至るまで数度のバージョンアップを重ね、実に20年以上に渡り第一線で世界中から愛され続けている、まさに世界の至宝としか言いようがないOSだ。
皆知ってるね。
さて今日は、このWindows93の活用方法を皆に……。
何?
そうだ。Windows93だよ。知らないのか?
そんなことはないはずだ。そんなことはないはずだよ。ちょっとそこの君のパソコン、そう、それだよ。それ起動させてごらん。
見せてみて。ほら出てきた。これでよし。ほらそこに、Windows93って書いてあるじゃないか。
何?
今画面にマジックで書いた文字を消せだって? 僕はそんなことはしてないよ。僕はそんなことはしてない。何を言ってるんだ。言いがかりもよしてくれ。
どうも君はわかっていないようだな。どうも君は全然わかっていないようだ。
そうだな。
まずは君、これを着たまえよ。
何?
今僕がどこからそのTシャツを出しただって?
どうも君はやっぱりわかっていないようだな。そんなことはWindows93にとってはどうでもいいことなんだよ。僕にだってそんなことわからないが、とにかくそんなことは極めてどうでもいいことなんだよ。
君もわかる必要があるんだ。Windows93を。
それは全世界の義務なんだ。
それは全世界の義務なんだよ。
■ ■ ■
Windows93マンにとっては、金も栄誉もどうでもいいことだった。『どんな願いも一つだけ叶える』という権利……それだけが彼の望みだった。
もちろんそれを使って叶えたいことといえば、『全世界にWindows93の存在を認めさせること』である。
彼の思うWindows93が、彼の思っている通りのものであるのか。彼の願いが叶ったとき、世界はどうなるのか。それは誰も知らない。ビル・ゲイツですら、わからないだろう。
Windows93マンはヴァージニア州の自宅の安フラットを出て、大通りを歩き出した。着ているのはもちろんWindows93Tシャツ。ボトムスはジーンズ。履いているのは安スニーカー。腰のウェストポーチの中には、日本行きのチケットが入っていた。
彼を見送る老若男女の集団も、皆着ているのはWindows93Tシャツ。その中にはディスプレイに油性マジックで『Windows93』と書かれたノートパソコンを掲げる、若い男の姿もあったのであった。
最終更新:2018年06月30日 13:54