プロローグ(海原 信)

『キミに叶えたい願いはあるか?』

コンビニでお菓子を買って、さて帰ろうと思ったらケータイが震えたので見ると、妙なメールが来ていた。なぜかそのまま無視する気にもなれなくて、指を走らせる。

『どんな願いでも?』

送信。そしてすぐに返信が来た。

『願いを増やす等の類は通らない』

少し考えてみる。叶えたい、願い。

『願いを検知。健闘を祈る』

いやいや。なんだそれ。突然願いはなんだと聞いてきて、その願いも聞かずに勝手に祈られても、ね。性格わるっ。

怪訝な目で僕を見て、コンビニに入っていく人がいた。もしかしなくても邪魔だな?どうしようと思った時に、公園が目に入った。ちょっと落ち着きたくて公園へ足を向ける。その公園は今にしては珍しくジャングルジムとか地球儀の骨みたいな回るやつとかが置いてある。

「……懐かしいな」
「ゲッヘッヘッ………懐かしんでる間に死ね!!」

突然の声。叫んだ男の指の5メートル上に、黒い物体が浮かんでいるのが見えた。半分にされたタイヤだ。なんだそれ。男の人差し指が僕に向いた。タイヤが飛来する。手に持ったコンビニ袋を気にしつつ、なんとか躱した。

「ヘッ、3分はもってくれよォ〜???」

男は不良に見える。男が両手で持ち上げるような動きをする。公園の遊具という遊具が小刻みに揺れだした。

「なんだそれ」
「はぁ?どうしてってオメー、魔人だろ?参加枠だよ。参加枠。だからよォ〜オレの力で潰れろや!!」

遊具が次々と浮き上がる。僕は走った。鉄棒、ブランコ、ペンギン型滑り台が僕の走った後に次々と突き刺さる。魔人。参加枠。どちらも知らない。とにかく命が危ない。走る。

「あァ!?だったらぶっ刺され!!」

振り返ると、硬質な音ともにバラバラになっていくジャングルジムが見えた。何十本もの鉄の棒が僕を向いた。逃げなきゃ、と思った。再び走ろうとした。衝撃。そして、自分の腹から生える、それを見た。

「手間ァ取らせやがって。これで五人目だから枠もらえるよなァ……?」

右肩から倒れる。人生終了な感じ、かな。血が流れてるのが見える。えー、こんなんで死ぬのか。僕。それはちょっと嫌なんだけどなぁ。どうせならお菓子に埋もれて死ぬのがいい。なんかヤバい奴に絡まれたせいで死ぬとか、あんまり過ぎないかな。なんか悪いことしたっけ。

コンビニ袋の中身がそこらに散らばっている。手を放してしまっていたらしい。食べたかったお菓子が地面に転がっていた。目が合った。笑顔で、お菓子を手にしていて、『おいしくて つよくなる』

ビスコだった。

強くなりたい。そう思う。本当にそう思う。自分をこんなにしたあの男を一発でいいからぶん殴ってやりたい。ゆっくりと足音が近付いてくる。

死ぬ前にせめてビスコを食べようと手を伸ばす。掴んだ。でも、袋をやぶく余裕は無くて、もういいやと外袋のまま口に放り込む。噛んで、飲み込んだ。

体の隅から隅まで、何かが駆け巡るような感覚。

「死ねやオラァァァァァァァァ!!」

男は鉄の棒を振り上げて、僕を殺そうとする。が、止まった。止めていた。しかも片手で。なんだこれ。男も不思議そうな顔をした。たぶん僕もこんな顔をしている。そしてもう片方の手が空いてることに僕は気付いて、男の胴体がガラ空きだったので殴ってみる。

「えい」
「ぐげっぼるぶはっ!?」

謎の言語を伴って、男は公園の端まで飛んでった。男を吹き飛ばした拳を見た。指はしっかり五本あって、普通の人間のものだった。ちょっと安心。したところでポケットで振動。メールだ。

『予選通過おめでとうございます。追って連絡致しますので、本戦開始までお待ちください』

今の襲撃はなにかの予選だったらしく、しかも本戦行きが決まったらしい。戦、と付いてるからには闘うんだろう。なんのために?と思ったけど、その説明もおいおいあるに違いない。とりあえず今はそれでいいやと思った。

やってやった、という感情が全身に広がっている。ねっころがってしまいたい気分だったけれど、ここで自分の体が貫通されていたことを思い出した。でもなんか今の僕は強いので、引っこ抜いても大丈夫な気がした。

「えい」

引っこ抜いて、安心して、僕はそこに寝た。




最終更新:2018年06月30日 22:50