プロローグ(鰐淵真琴)
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世界はキラキラと輝いていて
世界は希望に満ちている
だから、僕は
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前回までのあらすじ
不良グループとの対立を乗り越え再スタートを切った舞武高校魔人剣道部に突き付けられたのは廃部通告だった。
廃部撤回の為に魔人剣道近畿地区大会に出場した彼らは苦戦の連続を乗り越え、ついに辻斬高校の決勝戦に臨む。
副将戦、元不良の武田君に対して辻斬高校副主将の藤村が光り輝くビームを放った!
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(馬鹿な!そんな!)
藤村虎徹の目は驚愕に見開かれた。
眼前の男は満身創痍で立ち上がれる筈がない。
(痛みを感じねえのか!)
虎徹は辻斬高校でも屈指の実力者であり、ことビーム剣に限れば全国クラスの腕前がある。
3年前の魔人剣道ルール改定によるビーム解禁の恩恵を最も受けた一人であった。
その一撃を避けもせず防ぎもせず。
正面に受けて、武田は希望に満ちた笑顔で立ち上がる。
(くそ!無名校の雑魚がなんで倒れねえ!)
「頑張れ、武田くん!ビーム対策その1だ!」
対戦相手の主将からの爽やかな声援を受け武田の目が輝く。
(対策?やはり何か秘密が?)
「ビーム対策その1!」
武田が叫び走り出す。
「くうッ!」
藤村は動けない。
ビーム剣の欠点としてビームを放った後の硬直がある。
だが、受けきれぬ故の大出力ビームである。
一撃必倒は実戦剣術の基本理念だ。
何か理屈が無ければ。
「ビームを撃つと無防備になる!根性で耐えるべし!小手ェ!」
武田が吠える。
「なんだそりゃあ!なんの理屈にも…ガハッ?!」
虎徹の意識は激痛で途絶えた。
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「痛ェ!」
「無理をするな、虎徹。腕が折れている」
辻斬高校主将、村正は静かに告げた。
「畜生。何だ、あいつら」
「個人の実力は未熟。だが不屈捨て身の戦術は脅威だ」
村正は対戦相手を見つめる。
鰐淵真琴。
満身創痍の舞武にあって無傷の男。
輝くような笑顔、キラキラとした光を纏う少年。
「チームの中心は彼だ。故に油断は出来ん。慎重かつ全力が必要となるだろう」
「村正さん…」
「心配するな、虎徹。俺が負けると思うか?」
不安そうな虎徹に対して村正は微笑む。
「そんな事はねえけど」
「俺のフルプレートアーマー剣道は無敵だ」
瞬く間に村正大二郎の巨体を鉄の鎧が覆う、その総重量は1t。
圧倒的な防御力と剛力こそが彼の魔人能力『鉄人』だ。
「勝って全国に行こう」
金属音を響かせ鋼鉄の魔人が立ち上がった。
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両チームからの声援を受けて両雄が静かに向かい合う。
3mにも及ぶ村正の巨体に対して鰐淵の身長は半分ほど。
「君達が勝ち上がるとは思わなかった、見事だ」
村正は無駄口を好まず嘘の言えない男だ、心底感心したのだろう。
「君に敬意を。正々堂々と…」
「あの」
村正は温和な性格である。
会話を遮られても怒り出したりはしない。
でも少し、むっとしたかもしれない。
だが鉄仮面の奥の表情を窺い知る者は居ないのだ。
「一方的に話してしまった。すまない」
「いえ、全国に名が轟く村正さんに褒められるなんて光栄です」
「そうか」
「それで、村正さんにお願いがあるのですが」
「ふむ?手加減は出来ないぞ」
「いえ、手加減なんてとんでもないです。ははは」
一気に場が和やかな雰囲気に包まれる。
(勝負の場に在っても笑うか、見事だ)
うむうむと感心する村正くん。
「棄権してもらえませんか?」
「なんだと!?」
温和な村正も、この提案には怒らざるを得ない。
「馬鹿な事を、神聖な試合を…」
「いえ、これは前向きな提案なのです」
「前向き、だと」
「はい、近畿大会は2位まで全国出場できるのはご存知ですよね?」
「うむ」
「試合をすれば村正さんでも怪我をするかもしれません、僕はそれが心配です」
「俺が後れを取ると言うのか?」
「いえ、村正さんが強いのは承知です。ですが僕も簡単に負けるほど弱くはない」
「む、確かに」
舞武高校の捨て身の戦いによって辻斬剣道部もまた満身創痍なのは事実だ。
「目標は全国のはずです。怪我をするリスクを冒さないというのも建設的な考え方だとは思いませんか?」
「言われると。そうだな」
「ですよね?決着は全国大会でつけましょう!」
全国で決着。
魅力的な言葉だった。
男子高校生が地方大会でのライバルとの決着を全国大会でつけるというシチュエーションに魅力を感じるのは必然。
「了解した。決着は全国で!俺は前向きに棄権する!」
「お待ちしています!全国で!」
固い握手とともに魔人剣道近畿地区大会は舞武高校の勝利で幕を閉じた。
いつしか鉄仮面の奥の村正の目にもキラキラと希望の光が溢れていたのを見る者は居なかった。
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「廃部?何故ですか!」
魔人剣道部副主将、メガネちゃんこと真田明美は叫んだ。
「何故というとだねェ。怪我人が多すぎるからですよォ。そんな危険な部活をですねェ。認める訳にはいかないのでェ」
教頭の徳川がねちっこく正論を吐いた。
もっともな意見だ。
事実魔人剣道部は近畿大会で重傷者を2名出している。
「最近はですねェ。安全意識が重要でしてねェ。健全なスポーツでないとですねェ」
「わかりました」
「まこっちゃん?」
声をあげた鰐淵真琴に対してメガネちゃんは驚きの声をあげた。
「実績が足りないのですね、教頭先生」
「そういう話ではないのですがねェ」
「僕は『魔人闘宴劇』に出場します。優勝すれば学校のイメージも上がる。既にエントリー済みです」
「『魔人闘宴劇』ってTVでやってたアレ?でも、まこっちゃんだけにそんな事」
「皆は怪我を治さないといけないだろ?全国大会が待ってるんだから」
「まこっちゃん…」
「そういう話ではなくてですねェ」
「前向きに考えましょう、先生。僕が活躍すれば魔人剣道が危険でないと証明できますよね?」
「まあそういう事ならねェ。前向きに検討しますけれどねェ」
「約束ですよ先生」
「ええ。優勝すれば廃部は無しにしましょうねェ」
教頭の目にも希望の光が宿っていた。
(彼らなら、きっと危険な魔人剣道を変えられると信じますよォ)
「鰐淵くん。先生も応援していますよォ」
鰐淵真琴の魔人能力『幸福言語』は人の気持ちを前向きに変える能力である。
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世界にもっと輝きを広めよう
皆に希望を届けよう
だよね、姉さん