プロローグ(空神 無虚)

キーボードを弾く音と、何故か麺類を啜る音と水が跳ねる連続音が密室内に木霊する。
部屋の在席人数は2名、頭のネジの外れた鬼畜上司や護衛のSPのような横槍なしの文字通り水入らずな空間。
片や、目の前の光景を珍妙そうに眺めながら文字を打つ、スーツに身を包んだ若い男。
そして、もう片や、ペペロンチーノを頬張りつつコサックダンスしながら和服姿のまま半身浴をしている大和撫子じみた幼女の姿がそこにはあった。


ていうか、ワタシだった。


『ねえ、なんでこの人はペペロン(ryしてるの?』

『あれはな、君が「面白い物が見てみたい」と言った結果……それこそが目の前の惨状なんだ』

送信されてきた閲覧注意動画に疑問譜を浮かべるカボチャのアイコンに対して眼前でペペロン乱舞している和装幼女を尻目にチャット相手に返答する亜門グループ若手社長。
確かなカオスがそこにはあった。

「そんで、ワタシが身体張って伝説のスレの奇行を再現してやった感想を聞こうか?」

パスタを食べ終えたワタシは目の前のPCに視線を向けてみると……



『モザイクかけて「3回見たら死ぬ画像」にでもすればいいんじゃない?』



ガシッ…カタカタ

『うるせー、ポンデリ○グでも頭に被ってタヒね^^』

『ポ○デライオンになっちゃう~♪』

『よし!ロリちゃん、この技を例の大会で使っちゃるか』

『おお!技名は《ポンデリン殺し》に決まりだ!』



「あの、そろそろ本題に入ってもいいかい?」

瞬間的に亜門氏のPCを奪い取り、画面越しに喧嘩を買いつつ愉快なチャット欄を展開しているとPCをかっさらわれた本人が声をかけてきた。イイトコなのに……




画面の前の皆さんこんばんは。超重要人物を巻き込んだ茶番に貴重な文字数を七百文字も浪費してしまった空神さんだよ!
何故、ワタシのような合法ロリが大手会社の社長と愉快に戯れたいるかというと、亜門氏は随分昔に上司にドナドナされた先のバーで出くわしたウチの組織のお得意様で、そのまま酔った勢いで互いにタメ口で話せる程に意気投合しちゃった訳だ。
しかも機密事項な筈のラプタさんまで紹介していただける気に入られっぷりと来たもんだ。
因みにワタシは転生してから3年が経つので22歳だから一応、居酒屋に入れる。

「そんな御偉いさんが、こんな夜中に護衛も追い出して魔人捜査官東京支部第零部隊所属の幼女の個室を舞台に二人っきりでの用があると?」


性的な意味で捉えた人間は今すぐに自分の人生を見つめ直すことをお勧めする。行きつけの頭の病院を紹介して差し上げましょう。空神さんはあの病院でもう四回も治療に成功しています。実績のある病院です。


「ああ、支部長から届いた例の千文字以内の資料を見ての通り、君は実に多くの謎に満ちたダークホース枠の参加者だから色々と気になってね。ラプタが欲するネタにもなるだろうし。」

千文字以内の資料とは確実に表側の設定紹介文だろう。

「これが何時ぞやのグロなんちゃら大会だったら面接の相手が麗しのお姫様になってたわけか。」チッ

隠すことの無い露骨な舌打ちが密室に響き渡る。
本大会も美少女の主催かと期待したら知り合いのオッサンだったよ!畜生め!

「はいはい、むさい男ですまなかったね。あとグロリアス・オリュンピアね。」

「長い横文字は文字数使いまくるから出来れば省略してね。」

「……SS5の時の空神君の活躍は聞いているよ。なんでも『会場の爆破を目的とする五千人の魔人軍団で構成されたテロ組織を相手に単騎で日帰り無双』ときたもんだ。流石は東京支部の【不死の羅刹】様だ。」

ああ、半年前の鬼畜任務か。あのときは敵軍の魔人の全員が戦闘系だったもんで、此方としても殺り易かったねぇ。
あと、その中学生が3秒で考えたようなアイタタタな二つ名は本人の目の前で言わないでいただきたい。

「そのせいで肝心の大会には参加し損ねたんで、次の大会に願いを託したって所かね。なんでも今回はラプタさんが優勝者の腹の内を満たしてくれるそうじゃないか。」

『ふふふ……願いを叶える権利が欲しくば主役の残骸を踏み抜いて我が眼前に辿り着いてみせてよ!』

今までの会話の内容は亜門氏の高速タイピングによって全てチャット越しに共有済みだと言わんばかりに反応するラプタさん。
そういえば、これは表側で説明出来なかった部分を補う為のアピールタイムだった。

「はいはい、文字数押してるから空神さんのアピールポイントでも並べて話そう。言いたいこと全部語ろう。」



表の補強
  • 転生前の世界と虚無感
  • 転生後の身体の変化
  • 虚無感の神格化
  • ア○レちゃん並の身体能力と両津勘○並の不死身度が合わさって最強に見える
  • それは刀というにはあまりにも大きすぎた


裏(ここ)での追記
  • 【虚無】の能力は表側の記述以外にも応用が効くこと
  • 転生後の初戦闘にて魔獣化した魔人に心臓を突き刺され頭を脊髄ごと引き抜かれて喰われた際に「マズっ」と言われてムカついたので即回復して殴り殺した……っていいう話を同僚達に聞かせた結果「グロマズアンパ○マン」という不名誉極まりない仇名を付けられたこと
  • ワタシ自身、幼女なのにも関わらず美少女好きのロリコンなので大会では可愛い女の子と当たりたいという願望
  • ロリとは、本選に参加出来ないと餓死する生物である
  • この大会では、ただ倒すだけでは勝ち進めず、投票によって選ばれた世界線が『正史』になる仕組みを知っているという驚きの新事実



こうして、ワタシは表側で書いた部分の補強、書き損ねた部分を簡潔に纏めて、それをシェヘラザードのように二人に語り聞かせた。
亜門氏は「謎を解明する筈が逆に謎が増えた」と腑に落ちない様子のまま帰って行ったが、密やかに知的な笑みを浮かべているのが視認できた。

「それにしても、二人ともワタシの口から『世界線』の件について語られた時は特に驚いた様子だったねぇ。まあ、何処で知ったかはまだ教えないけどさ。」

SPを連れて無駄に長い車の椅子に腰を下ろす亜門氏を尻目に、凶悪な笑みを浮かべて……







「願望器っていうのはな……自分のモノにならなきゃ意味がねぇんだよ」







最後の追記
本大会の優勝賞品に対して何者よりも深い執着を抱いていること




最終更新:2018年06月30日 23:22