転生を司る女神 プロローグSS
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<転生を司る女神 プロローグSS>
転生の間。神々の住まう天界の一画に位置しながら、数少ない下界との繋がりを持つ空間。
普段は厳かな空気が流れるその場所では今、二柱の神が対峙していた!
普段は厳かな空気が流れるその場所では今、二柱の神が対峙していた!
「いや無理です無理です!絶対無理!死ぬ!」
「そうは言ってもきみ、こればっかりはさぁ…」
「あーっ聞きたくないです!本当に無理ですから!お願いします神様!」
「きみも神でしょうが。…あのさ、別に意地悪で言ってるわけじゃないからね?
研修って言ってもほんの1年くらいだし」
研修って言ってもほんの1年くらいだし」
「やだーーー!!」
純白のローブを纏った細身の女性が、耳を塞ぎながらじたばたともがいている。
彼女こそがこの空間の主、『転生を司る女神』である。
彼女こそがこの空間の主、『転生を司る女神』である。
それを苦笑しながら見つめるのは、彼女の上司である『秩序を司る神』。
その身には女神のものより明らかに上等なローブを纏っている。
彼は子供のように駄々をこねる女神に辛抱強く付き合い、もうかれこれ5時間ほど説得を続けていた。
その身には女神のものより明らかに上等なローブを纏っている。
彼は子供のように駄々をこねる女神に辛抱強く付き合い、もうかれこれ5時間ほど説得を続けていた。
「まあそう身構えずにさ、軽い旅行気分で行ってきなよ。色々得るものもあるって」
「旅行!? 旅行気分で行けるわけないじゃないですか! 下界ですよ、下界!下々の世界と書いて下界!!」
女神は声を荒げて異議を唱えるが、『秩序を司る神』はまるで諦める様子を見せない。
「ほら、そういう変な偏見とかさ。そういうのが結構、仕事に影響するもんだよ。これを機に多少免疫つけた方がいいと思うなぁ」
「し、仕事は真面目にやってます!もう500年も転生を司ってるんですからね!」
「でもきみ、異世界救えたことないじゃない」
「うぐぉっ…!」
正論という暴力が、女神のみぞおちに突き刺さる。
確かに自分が転生させる人間は全然異世界を救ってくれないばかりか、たまに異世界を滅ぼす側にまわったりもするが、なんでそんなひどいこと平気で言えるんだろう。心とか無いんだろうか。
確かに自分が転生させる人間は全然異世界を救ってくれないばかりか、たまに異世界を滅ぼす側にまわったりもするが、なんでそんなひどいこと平気で言えるんだろう。心とか無いんだろうか。
「いやまあ、結局はその世界に住む人々の問題だからさ。全部きみの責任なんて思ってないけど…一回くらいは成功させないと。
上になにか聞かれたとき、僕も庇いきれないかもしれないよ」
上になにか聞かれたとき、僕も庇いきれないかもしれないよ」
ひゅっ、と声にならない悲鳴が喉から漏れ出た。
『秩序を司る神』はこう見えて天界でも指折りの実力者であり、それに相応しい地位についている。
その彼が明確に「上」と表す存在など、これはもうほとんど『最高神』を名指しにしているに等しい。
『秩序を司る神』はこう見えて天界でも指折りの実力者であり、それに相応しい地位についている。
その彼が明確に「上」と表す存在など、これはもうほとんど『最高神』を名指しにしているに等しい。
「わ、私、神様辞めさせられたりとか…? もっ、もしかして天界から追放…!?」
「へ?いや、流石にそんなことは…」
精々直接呼び出されて説教されるくらいじゃないかなぁ。
そう答えようとした『秩序を司る神』は、縮み上がった女神を見て不意に閃いた。
そう答えようとした『秩序を司る神』は、縮み上がった女神を見て不意に閃いた。
(これ、もしかしてチャンスじゃない?)
「うん、まあ、分からないけどね。うん。前例は無いけど、万が一ってことはあるからね。何事にも。
そうなる前にさ、本気で考えてみてくれないかな。…例の、下界研修について」
そうなる前にさ、本気で考えてみてくれないかな。…例の、下界研修について」
下界研修。それは古くから存在する、神々の試練の一種である。
決められた期間を下界で過ごし、実際の体験を持って己が管理する世界を知覚する。
天界の神々がともすれば自らと切り離して捉えがちな下界とそこに住まう人々について、改めて考えさせるのが目的の試練なのだ。
決められた期間を下界で過ごし、実際の体験を持って己が管理する世界を知覚する。
天界の神々がともすれば自らと切り離して捉えがちな下界とそこに住まう人々について、改めて考えさせるのが目的の試練なのだ。
「ぬ、ぬぬぬぅ…っ!」
前髪で隠れた女神の瞳に、本気の葛藤が宿る。
追放はされたくない。でも下界は臭くて汚そうなので行きたくない。
ていうか、転生の間から出たくない。あと5000年くらいここにいたい。
追放はされたくない。でも下界は臭くて汚そうなので行きたくない。
ていうか、転生の間から出たくない。あと5000年くらいここにいたい。
理想と現実の狭間で揺れ動く彼女の瞳をまっすぐ見据えて、『秩序を司る神』が畳み掛けてくる。
「大丈夫だって。僕もたまに下界行くんだけど、中々愉快なとこだよあっちは。
運良く異世界救ってくれそうな人材が見つかれば万々歳だし、そうじゃなくても何かを変えるきっかけにはなると思う。
ね、どうか決心してくれないかな」
運良く異世界救ってくれそうな人材が見つかれば万々歳だし、そうじゃなくても何かを変えるきっかけにはなると思う。
ね、どうか決心してくれないかな」
そう言って少し申し訳なさそうにこちらを見つめる上司の顔を、直視したらもう終わりだ。
実際のところ、女神にも分かっている。もはや自分の負けは目前だと。
実際のところ、女神にも分かっている。もはや自分の負けは目前だと。
普段から割と…いや相当自分を甘やかしてくれている『秩序を司る神』が、今回は全然折れてくれない。ていうか転生の間から帰ってくれない。
これは多分、マジで断れないやつなんだ。
500年間頑張って引きこもってきたけど、遂に日の光の下に晒されるときが来てしまったんだ。
500年間頑張って引きこもってきたけど、遂に日の光の下に晒されるときが来てしまったんだ。
でもいやだ。下界怖い。天界にずっといたい。でも最高神も怖い。
でも…でも…
でも…でも…
「…どうかな」
「…………………………下界、行きます」
『転生を司る女神』。
若干引きこもり体質だが、基本的には真面目な気質で善なる神。
常に前髪で目元が隠れ、どこを見てるのかよく分からない。
若干引きこもり体質だが、基本的には真面目な気質で善なる神。
常に前髪で目元が隠れ、どこを見てるのかよく分からない。
…そんな彼女は、いつも前髪の奥の瞳をまっすぐ見つめてくる上司に、嫌われるのも怖かった。
☆
──半年後!
「す、すごいっ…これ、すごい美味しい…!」
全国的に有名なとあるラーメン屋に、感激と共に箸を進める細身の女性が一人!
見る者に微笑ましい印象を与えるほど屈託の無い笑顔で、勢い良く麺をすすっていく!
見る者に微笑ましい印象を与えるほど屈託の無い笑顔で、勢い良く麺をすすっていく!
そんな彼女に、隣から声がかけられた。
「あの、これよかったら使ってください」
「へっ!?あ、どうもすいません!」
慌てて声のする方を見れば、隣に座る女性客が微笑みながらヘアピンを差し出している。
恐らく自分が麺をすする度に邪魔な前髪を手で払っていたのを見て、親切心を働かせてくれたのだ。
恐らく自分が麺をすする度に邪魔な前髪を手で払っていたのを見て、親切心を働かせてくれたのだ。
お礼を言うと共にさっそく前髪を留めながら、彼女は思う。
(ごはんは美味しいし、親切な人がたくさんいる…。下界って…下界って…)
溢れる想いに身を任せ、目に涙さえ浮かべながら麺をすする!
時折絡まるもやしも美味!チャーシューも味がよく染みている!
時折絡まるもやしも美味!チャーシューも味がよく染みている!
(下界って!下界って!)
遂にはスープの最後の一滴まで胃に流し込み、静かに丼を置いて口を開いた。
「下界って…最高~~~!!」
『転生を司る女神』。
若干引きこもり体質だが、基本的には真面目な気質で善なる神。
常に前髪で目元が隠れ、どこを見てるのかよく分からない。
若干引きこもり体質だが、基本的には真面目な気質で善なる神。
常に前髪で目元が隠れ、どこを見てるのかよく分からない。
最近は…下界研修、エンジョイ中!!
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