宍月 左道

基本情報

  • キャラクター名:宍月 左道(ししづき さと)
  • 性別:女性

特殊能力『ジ・アダナス』

能力の対象になったものは生物非生物に関わらず、術者に対して嫌悪感、敵意、害意を覚える。
範囲対象は無限。対象を意識して個別に能力を付与するか、空間を指定することで範囲内に無差別に効果を及ぼすこともできる。
付与する敵意は自在に強弱を操ることが可能。
また、生物に対して肉体にだけ能力を付与、精神には付与しないといった器用な真似もできる。逆も可。

頑張れば世界も敵に回すことのできる超強力な能力。


キャラクター設定

妃芽薗高校一年生の女子。中学は公立の学校に通っていたが、他人に勧められて試験を受け、高校から入学した。
背が低く、髪はショート、身体の所々に痛ましい怪我の跡がある。見かけからはどちらかというとボーイッシュな印象も受ける。
人懐っこいが冷静で頼りになる所もあり、人を立てるのが上手い性格。少し怖がりだが、他人が傷つくのを見ると放って置けなくなる自己犠牲的な所がある。


他人からは上記のように評価されていて、実際それも間違いでは無い。
しかし左道の本質は他人との思い出だけを大切にする人間であり、場合によっては思い出を飾るためにその思い出の友達本人すらも切り捨てる。
左道からすればそれは当たり前のことであり、もはや悪意や敵意を抱く事なく思い出作りの邪魔になる人間を排除する特技すら身に付けている。(一部の先制カウンターや感情を読み取る能力が作動しづらい。)

一応思い出を作るという目的のためには自己犠牲的な所を見せるし、他人を褒めるし、楽しく談笑する。
そしてこの時、本人も本気で人を守ろうとしているし、楽しませようとしているし、自分も楽しんでいる。
あくまでも第一目的が思い出作りなだけで、友達も大事。

また、所属する集団内で、各々の人格や性格を直感的に把握し、その中での好感度を掌握する術を身に付けている。


身体能力
回避力と逃走能力、頑丈さは魔人平均より高め、他能力は低め。

プロローグ

妃芽薗高校への入学ははっきり言って失敗だった。
まさかこれ程に都合の悪い学校が第一志望に丁度良い学力圏に存在しているなんて。

宍月左道は寮の自室内で、頭を抱えながら忙しなく歩き回った。

中学の友達は皆、「どうせ高校は全員バラバラになるんだから、魔人能力の所為で怖がられる必要の無い妃芽薗を目指せば良いじゃない」と言っていた。
そう、私は自分の能力を「危害を受けた時に体内で毒物を生成する」能力だと喧伝されていて、自分でもそれを認めていたのだ。
魔人能力が封じられる学校? 冗談じゃない。

『危険な能力を持っているけど普通に接すれば全然そんな事はなく、むしろ良い子』。私の好むポジションを中学校3年間で手に入れるための策がまさか受験期で響くとは思わなかった。

もちろん、私は他人の心理や社会集団の分析を得意としているので妃芽薗で自分のポジションを作り出すのが難しいわけでは無い。
ただ、中高一貫校なだけあって、既に色々な所でグループは出来上がっているし、基本的にそこに混じるという選択肢しか無かったというのは残念だった。

中学では自分で好きなキャラクター性を持った子達を集めてグループを作ることができたから、そこの所が少し寂しく感じる。一人一人友達を作るという感覚がここには足りない。

左道はふと思い出すと、机の上に置いてあったアルバムを取り上げ、栞を差し込んであるページをめくった。
自分、そして仲の良かった親友達の集合写真。

普段遊ぶ時にも、遠出した時などは携帯やデジカメなどで集合写真を撮ることもあったが、やはりプロのカメラマンは腕が違う。
学校行事の文化祭の時に皆で集まって撮った写真は、あの頃の風景をこれ以上無いほどの超現実として眼前に映し出した。

旅重 正香(たびしげ まさか)。
彼女の髪の毛は美しかった。
まるで濡れて冷えた鉄のような質感があって、長く伸ばされた髪の傍から覗く小さな耳も可愛らしかった。

麗しいその姿を懐かしんでいると、彼女に目をつけたあの日が思い出される。

ーーー

「ねえ、今日お金持ってきてくれるって言ったよね? 正香ちゃんは嘘つきなのかな。
あー私傷ついちゃったよ正香ちゃんが嘘ついたから私傷ついちゃったよー」

鍵が掛けられた屋上に用がある者は基本的におらず、休み時間中は絶対と言えるほど階段上の踊り場にも誰もこない。
正香はそこで複数人のクラスの女子に囲まれて震えていた。

リーダー格の女子は正香に比べて基礎の顔が整っているとも言い難かったが、アイプチで目を二重にしたり、髪に軽くパーマをかけたりなどして、どこかオシャレそうな雰囲気を醸し出していたのだ。

周囲を取り巻く者達も同じようなタイプの人間だったが、リーダー格よりもアイプチが下手だったり、髪型も似合っていなかったりだ。

「あーあ、どうしてもらおうかな〜。
あんまり簡単に嘘を吐かれて人間として悲しいわ〜
ま、取り敢えず今日はパンツ脱いでそれで授業受けなよ、嘘の罰だから。
男子も喜んでくれるよ?」

「やだ……やめてよ……」

正香は震えていて抵抗もできそうにない。取り巻きが正香を押さえつけ、リーダーが手を伸ばす。

「やめてって言ってるよ? 何やってるの?やめてあげなよ」

私、登場。

「あー、これ?罰ゲームだよ罰ゲーム。この子くすぐろうとしただけでこんな顔するから困るわマジで」
「嘘だ。パンツ脱がすって言ってたの聞こえてたよ」
「ああ、聞いてたの?ごめんごめんあれはジョークだから」
「お金がどうって言ってたのは?」
「!!  ……あれもジョークだし。みんな行こう?何か白けちゃったわ」

アイプチ達は退散していった。
私の横を通り過ぎる時に「調子乗んなよブス。てめえもタダじゃ置かねえからな」などと聞こえたが、魔人だと分かっている私を一般人のあいつらがどうタダじゃ置かないのか分からなかった。

「旅重さん、大丈夫? もう少し早く気付けたら良かった。ごめんね」

先程の会話の様子では今回は金を引き出されてはいないようだったが、正香がアイプチ達に呼び出されているのは何回か確認している。
もしかしたら既に金も取られているのかもしれない。

「宍月さん……あの、どうしてここに」
「声が聞こえたから来てみたの。ほら、私魔人だから普通の人より耳が良いのかもね。」
「…ありがとう」

正香は微笑んだ。
それを見て、彼女が思い出作りに相応しい人員であると確信し、私は彼女と話をしながら教室に戻ることにした。
実際は彼女が連れて行かれてすぐに階段下まで向かっていたので、それは少し悪かったと思った。

教室にはアイプチ達が既に居て、ドアを開けて入って来た私達に敵意の込められた視線を投げかけた。
私も魔人と言えど人間だし、自分の作りだした物で無い、純粋な悪意を向けつけられると少しゾッとする。
正香は怯えているようだったが、彼女の手を握って席まで連れて行き、授業始まりのチャイムが鳴るのを待った。

チャイムが鳴り、授業が始まる。
授業は国語、教師は魔人であるとして悪い意味で有名になった牛川先生だ。
アイプチ達の方を一瞥し、私はここで手を出しておこうと決めた。あいつらは普段は悪い所をひた隠しにしていて、クラスでもその悪事を知っている者は少ない。

魔人能力『ジ・アダナス』を発動。

アイプチ達は手に手にカッターナイフを持ち、授業中にも関わらず私の席へ飛びかかってくる。
一瞬、教室内の時間が止まった。
再び時間が動き出した時、私は腕で頭を守りながら、カッターナイフの攻撃に晒されていた。

うん、魔人である私もそれで急所を突かれ続ければ死ぬ。
説得力を増すために、わざと一撃を受けて血を出しておくことも忘れない。
痛くて声も出るが、仕方の無いことだ。

教師の牛川が一人を止める。そいつに付与した殺意を解除、そいつは抵抗を無くしてカッターを取り落とす。

もう一撃を受ける。次は背中だ。内臓や筋への損傷は出来るだけ受けたく無いが、少し病院に通う時期を延ばすのも悪くは無い。
誰にも気付かれないように正香を見ると、涙をこらえてこちらを見ていた。
その涙は、目の前の血飛沫への驚愕か、私を巻き込んだ罪悪感か。
とても良い。
調子に乗って更に一撃受けてしまった。

教室が混然としていく中で、生徒の二人が動いた。
その二人が殴り、蹴り、骨を折り、カッターを持ったアイプチを気絶させていく。
二人とも私の友達で、思い出作りの材料だ。
学級委員長の草加と、若干ヤンキーのヤヤモ、既にいくつかのイベントでフラグを回収し、二人との親密度は親友を越えている。
二人の連携攻撃が炸裂!
アイプチ軍団の数が次々と減っていく。

ふと見ると、リーダー格が私に迫ってくる。それ以外のアイプチは全員取り押さえられ、これで最後らしい。
わざわざ一般人一人からの攻撃を受ける必要も無いので、私は自らの腕を流れる血を少し爪に塗り、彼女の皮膚の表面を裂いた。
リーダー格の毛細血管から私の血液が吸収されていく。

リーダー格は、全身に発疹を現し、ガクガクと膝を震わせ、過呼吸を起こすと倒れた。

「私アレルギー」によるアナフィラキシーショックだ。
私の能力にはこのような使い方があり、これを毒によるものだと周囲に説明するのは簡単な事だった。
このように公衆の面前で使う時は基本的に正当防衛を演じるし、そうで無い時は検死による死因はアレルギーという以上は分からない。

正香が私の元へ駆けつけてくる。
「ごめんなさい」を繰り返す。
他の友人2人も私の元へ駆けつけ、他の生徒達は遠くからことを見守っていた。

「大丈夫か?」「怪我を見せて下さい。あっこれは酷いです…」「取り敢えず保健室に行くから肩に掴まりな」「よっこいしょ」
「二人ともありがとう」
「気にすんなよ」「委員長、いいえ友達として当然の事です」
この二人はリーダー格が倒れたことも正当防衛、仕方の無い事と言って、むしろ慰めてさえくれるだろう。
それは私にとって至福の瞬間だ。

もしもあの時に、私を襲った者の命が失われていたとしても。


私はその後保健室で手当てを受け、それだけでは処置が不十分だというので病院に行く事になった。
狙い通り、これで正香も私を忘れる事が出来なくなるだろう。
罪悪感やショックで眠れなくなるかもしれない。
その後私がまた優しく話しかけ、少しずつ気を許していくのには、どれほど時間がかかるだろう。

病院までの道筋で、私はそれを楽しみにしていた。

ーーー

そんな正香も、高校はアメリカの「MAJIDE YABAI SENIOR HIGH SCHOOL」を受験し、無事合格した。
なんだか頭が良さそうな名前には見えないが、多くの才人を生み出している学校との話だ。
有名なビッチの養成校であるという風の噂も耳に入ったが、気のせいだろう。

正香の学力は高い方だったが、まさかアメリカの高校に入学するとは思わなかった。
思わなかったから、親友達の中でも一番都内から遠くの高校に行くと思われていた草加を残虐死に追い込み、悲劇の遊園地事件を演出してしまったのだ。
早まったことをしてしまったのは反省しなくてはいけない。

卒業以来、ヤヤモとはメールや電話での交流は続いているが、あちらもバイトや部活が忙しいらしく、少しずつ交流に使う事の出来る時間も減ってきている。
草加の事件が後を引き、私との会話で思い出してしまうとも言っていた。

本当に早まったことを反省しなくてはいけない。


妃芽薗の生活は、正直楽では無い。
百合気質が土壌としてあるために、普通の友情も育みづらい。
魔人能力で仮想敵を作ることもできないので、強引にイベントを起こすのも難しい。
それでも、中学での思い出の数々を読み直していれば、私は今日も頑張ろうと思えるのだ。

ーーー

そう思っていたのに。
左道は気が付いたら変な廃学校にいた。
色々不思議な少女に説明を受けたが、意味が分からない。
だが、転校生というのはイベント性の溢れる魅力溢れる存在だ。
上手く行けば、新たなアルバムがいくつも増える。

宍月左道は、ここで戦うことを決めた。




最終更新:2016年07月23日 01:12