風月 ペルル(ヴァントーズ・ペルル)

基本情報

  • キャラクター名:風月 ペルル(ヴァントーズ・ペルル)
  • 性別:女性

特殊能力『ペルルのキネマ』

“観客”と自分自身のいる空間の間に不可侵の銀幕(第四の壁)を下ろし、相互の干渉を防ぐ。
自身を中心とした空間を切り離しこの中だけなら現世へ干渉を行いうると言い換えることもできる。ちなみに外界と視認や会話も可能。

任意発動型の能力だが、彼女自身誰かに見られていないと世界に干渉できず、いずれは大元の映画の中に戻されてしまうという弱点を抱えている。
そのため孤独を恐れる心理もあって、ぺルルは仲間や家族の写真を手放さない。

キャラクター設定

キャラクター名:風月 ペルル
よみ:ゔぁんとーず ぺるる
性別:女性
体型:普通
学年:その他
部活:『カランドリエ』
委員:卒業アルバム制作委員
武器:思い出のアルバム
初期ステータス
攻撃力:15 防御力:2 体力:3 精神:5 FS(ギャランティー/枚):5
アビリティ:魅力[charisma]

幻の映画「ペルル・キネ(Perle Quinet)」その人。
父・映画監督「マクシム・キネ」と母「マリオン」の間に生を受けた一人娘。

二人から溺愛され何不自由なく育つが、存在感が奪われる奇病≪彼(か)は誰か≫に冒され、世界のすべてから忘れ去られる。

22歳没。死因は未だに明らかになっていない。
娘の死と同時に完成した記録映画は世に出ることなく、本人と共に忘れ去られた。


意志を持つ映画にして生前の「ペルル・キネ」のすべてを覚えている肉体なき魔人。

「ペルル・キネ」の中に彼女以外の人間は存在せず、倉庫の片隅で埃を被りながら孤独なひとり遊びを繰り返していた。

そこを発掘し、彼女を現実世界に連れ出したのが「カランドリエ」の実質的指揮を執る芽月リュドミラその人。

真珠のように零れ落ちんばかりの輝く瞳はそのままだが、経年劣化によって美しい体にはところどころノイズが走っており修復が進められている。

プロローグ

「すずが死んだ……? そう」
 赤、あお、きいろ、原色が散っている。真っ白なシーツを汚している。全身を弛緩させベッドに体ゆだねた女の汗というには透き通り過ぎていた。
 「カランドリエ」の一席を担う芽月リュドミラに「涙」を問うてはならない。
 絵画から生まれ出た水妖、それは若くして死んだ娘が変じたものとも人の心が生み出した慰みとも言われる。だが、人を誘う妖魔が本当にこの世にあるとするならば、見て微笑みを返すだけでいいのだろうか。

 リュドミラは寝姿から立ち姿に、胸を当てて考える。
 影の女王(アルジーヌ)からそう報告を受けた時、私の胸に去来したものはなんだっただろうか?
 失望? 自責? 安堵?

 どれも違う気がするし、どれでもある気もした。
 サビーネにお人形にされかけた命を救うという意味なら、あの場ではああするしかなかったと言えるし、単に一風変わったお人形に作り変えたとも言える。

 芽月リュドミラは己の愚かさにただ嘆息するのみだった。
 「カランドリエ」、その本分は部長、もしくは……副部長の手足となり、その代わりに命投げ出しても構わない部員を集めること――彼女はそう解釈している。
 私個人のために死んでもらっては、困るのだ。それでは彼女たちが浮かばれない。

 喉が渇いたので部費ゼロの中、みんなでお金を合わせて買ったミニ冷蔵庫から冷やした水を取り出す。
 そのまま口に運ぼうとしたところで電話がかかってきた。今時珍しい黒電話が電話マニアのせいで我が部室ではいまだに現役である。金持ちはなぜか余計なところで渋っていた。

 「もしもし。『カランドリエ』です」
 「あ、リューダ? 久しぶり。アマリーですよ」
 噂に出したわけではないが、図らずも当の本人だった。電話ボックスに住んでいる魔人「葡萄月アマリリス」、リュドミラの同志であり同じく部長信奉者、今は妃芽薗を離れて渉外に当たってもらっている。
 ソプラノボイスから変じてそろそろ背も伸びた頃だろうか。ガラガラと雑音が入っているのがうるさい。

 「話は聞かせてもらったわ。わたしが次の『風月(ヴァントーズ)』を用意したから受け取ってね?」
 十二名の魔人からなる『革命暦(カランドリエ)』。欠員は速やかに補充されなくてはならない。
 風月は今年に入ってから「藤原京(ふじわらきょう)」の失踪によって長期に渡って補充不可能な状態に置かれていた。それが解消されたのがつい昨今、熱月雉鵠(テルミドール・じかん)の功績だった。

 「……どうしたの? まさか、適任者が見つかったとか? 流石……と、言いたいけど次の風月は『画廊(ガルリ)から出す手筈じゃなかった? 副部長と折り合いつけるの大変だったんですよ?」
 「いや……、何でもない。認識は共通だ。それで、誰が来るんだ? ココン? それともサリシャ? まさかヴァンって言わないよな? 女装してもらう羽目になる」
 胸騒ぎを隠せなかった、こういう時に限りアマリーは鈍感になる。

 「ペルルにやってもらうことにしたよ。――フランスの『画廊』も古巣なんだからたまにはリューダもみんなに顔を見せてやったら? ん、聞いてる? おい、おーい……」
 最悪だった。よりにもよってお前が来るのか。
 「ペルル……ね。あの子が、命がけの仕事だってわかってるのか気になるね。『風月』も四度目。――この頻度で入れ替わってもらっては困る」
 「通信状態が悪いのかな? あ、替わるよー」

 電話ボックスを押す音が途切れ、また現れた。キャニスター付きとはいえ、きっと重いだろう。
 はしゃいだ声が響く。もう三〇〇時間は観た声だ。
 「お久しぶりですわ。リュドミラ様、わたくしが参った暁にはあなた様をおひとりになどさせませんわよ!」
 年甲斐もなく、と言うのは野暮だろう。
 姿形だけを見れば私は十も半ばの小娘で、ペルルは若奥様だが、経過年齢だけでいうなら倍は違う。
 人間だったころから起算するにしても実質二十年も生きていないだろう。

 「今のタイミングか……。悪くないね」
 「リュドミラ様?」
 「まず、君には少々薄汚れたところに行ってもらうが勘弁してくれ。その代わり存分に暴れてくれ、ぶっ壊せ。邪魔者を排除したら鮫氷しゃちとコンタクトを取ること、必要以上の会話はいらない。手紙を渡すだけでいい」
 「わかりましたわ! それでその邪魔者というのは誰なんですの?」
 「リストは送るが、まだ不明瞭なところもあるからね。一人、二人……? いや、直接会って話そう」

 ああ、この無邪気な声は私には厳しい。
 よりにもよって鮫氷しゃち相手に、「死ね」と言っているようなものだ。
 電話ボックスを押す音はさらに激しくなる。うんしょよいしょ、そこまでして運ぶのかこいつらは。
 ブランコに乗ってはしゃいでいる小娘か、いつになっても、もういくつになることも出来なくなってその時間に留まり続ける、それが私たち「画廊」。
 部長に目を留めていただけなかったら、今もあそこにぶら下がっていただろう。
 私たちは死んでも生きなければならない。

 「最悪の場合は私も助けに行く。だから絶対に死ぬな。愛しているよ、ペルル……」
 テレ隠しだとでも思っただろうか? 電話を切り、聞こえないように、されど力ある言葉で言った。
 電話を切る瞬間、ガラガラ音が重なった。

 扉を開く音。
 そこには懐かしの電話ボックスと背が私を追い越したアマリーと顔を真っ赤にしたペルルが立っていた。続いて、私も顔が赤くなっていくのを感じていた。

 飛びつこうとする主演女優。だが、戸惑っているようだった。
 私が立場を分かつ無慈悲な銀幕に手をやると、スターは観客席に落とされる。いいや。
 走る、胸元で泣く、受け止める。今は同じ銀幕の住人として肉も骨もない電霊を全身で受け止めた。

 シャッター音が響く。
 電話ボックス越しにたった一人の観客がこの一瞬を切り取った。
 二人は泣いて、笑っていたという。



最終更新:2016年08月06日 16:51