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魔王/キャスターは、失敗はしなかった。
過程だけを見れば、確かに彼女は失敗したように見える。

途中までは順調だった。
不和を蒔いた。
疑心を蒔いた。
対立の火種を蒔いた。
扇動、恐怖、あらゆる感情を操りながら立ち回り、やがて大きな崩壊に繋がる種を散りばめていった。
巧みに潜伏しつつ、ただの一度も自分へ疑いや感情の矛先が向かわないように、細心の注意を払って立ち回った。
彼女たちに刻まれた傷と根付く闇を燃料にし続け、ゲームの終盤、いよいよ魔王は動き出す。
工作と演出を重ね、事態を糸引き、いよいよあと一歩のところまで漕ぎ着けて……、

……最後の最後で下手を打った。
あれがキャスターの過失かどうかはともかくとして、彼女の筋書きは既の所で破られたのだ。
キャスターには、直接的な戦闘手段がほとんどない。
固有アイテムでぶっ叩くくらいはできるし、人間よりも身体能力は遥かに上だったが、自分以上の実力を持った相手を少なくとも二人敵に回した上で打ち勝つほどの強さを彼女は持っていなかった。
元凶、黒幕、真なる魔王――自分たちを追い詰め、あわや同士討ちによる全滅寸前まで追いやった存在。
そんな奴が無防備で転がっていたなら、どうなるかは火を見るよりも明らかだろう。

袋叩き。
私刑(リンチ)。
嬲り殺し。
浮かぶ単語はどれも元を辿れば同じような意味。

キャスターは、深く絶望した。
自分が勝利するための、最後の手段が目の前で潰えてしまった。
しかし、それでもキャスターは諦めなかった。諦められなかった。
だから行動した。精一杯の不敵な笑みを作って、逃れられない絶望の中に活路を拓いた。
たとえひとりの少女と、ひとりの魔法少女の終わりだとしても、彼女にとっては紛れもなく最後の希望だった。

キャスターは死んだ。
自らの手で、自殺した。
だからといって、キャスターが負けたわけではない。
彼女は最後の最後に、確かに勝った。
片手をなくして。
地の底へ這い蹲って。
ボロボロになりながら。
――それでも、彼女は勝ったのだ。




世界が終わると聞いてから、家の中はがらりと変わってしまった。
日々醜い争いに満ちていたニートたちの夢の城は、言葉にできないような怠惰な空気で満ちている。
今日は近くのパチンコ屋に新台が入荷する日だというのに、そんなこと誰も話題に出しすらしない。
普通なら至って健全な家庭の風景と片付けられそうなものだが、この松野家に限ってそれは異常事態だ。
松野家の六つ子たちは、世間様で言うところの〝クズ〟だ。
いい年をして実家でモラトリアムしているのもさることながら、その性根もなかなかに腐っている。
自他共に認める悪魔の六つ子。その彼らが……ここ数日間は特に、異常なほどの無気力状態にあった。

単に無気力というだけなら、人間なのだから珍しい話ではない。
季節外れの五月病として片付けられるし、ちょっとドタバタ騒ぎが起きればどうにかなる範疇である。
しかしもう、そんなドタバタ騒ぎが起こることはないのではないかと、松野チョロ松は思っていた。
何故ならこの地球は、あと百十時間と少しで消えてなくなる。
自分たちを乗せたまま、何十億年という時間があったことさえ嘘のように、死んでしまうという。

これまでにも、トンデモな出来事は色々あった。
風邪を引いた自分たちを、分裂した弟が体内へ潜り込んで治したり。
町のある博士が作ったものの影響で、猫がエスパーの力を手に入れてしまったり。
この何ヶ月かだけでも起きた事件はよりどりみどり。けれど、今回の事は確実に今までの出来事とは違うと分かる。
不条理(ギャグ)でも、急展開(ミラクル)でもどうにもできない……〝終わり〟というイベント。
気持ち悪いほどの安らぎに包まれて、文句ひとつこぼさずに〝終わり〟を待つ人々。
それは驚くべきことに、チョロ松の兄弟たちも例外ではなかった。
あの我欲の塊も、痛々しさの権化も、闇のオーラも、奇跡のバカも、ドライモンスターも……

皆が皆、奇妙なほど落ち着いていた。

そして薄ぼんやりとした時間を、誰も欠けずに過ごしている。
〝終わる〟ことを、恐れてすらいない。
その姿がチョロ松には、とても異常なものに見えた。
彼だけだ。彼だけが、世界の消滅という事態に焦燥感を抱いていた。

――終わりたくない。まだ死にたくない。

そんな当然の願いすら、今は異質なものとされてしまう。
試しに弟の一人に相談してみたら、案の定笑い飛ばされた。
そんなことを今更怖がっているのかと、そう言われた。

「……やっぱり、俺は……」

笑われれば、もちろんムカつく。
怖くないわと強がり混じりに返してしまったし、多分彼らへこの気持ちを相談することはないとも思う。
それでも……

「生きたい」

チョロ松は呟いて、ぐだぐだと時間を浪費している兄弟たちを見る。
五人の兄弟がいるということは、決して五人の仲間がいることとイコールじゃない。
むしろその真逆。五人の敵がいることを意味する。
それは服だったり、職業問題だったり、パチンコだったり、今川焼きの争奪戦だったり。
様々な場面で彼らは自分を邪魔立てしてきたが、それでも、やっぱり兄弟は兄弟だ。
みんな揃って平穏の中で死ぬなら、それは確かに一つの理想的な〝おしまい〟だろう。
だからこれは、単に松野チョロ松という異端者のわがままだった。

――終わりたくない。まだ生きていたい。

その為なら……覚悟は、できる。

「キャスターちゃん、俺、やっぱりやるよ。
 聖杯戦争……正直、上手くやれる自信はあまりないけどさ。やれるだけはやってみる」
「本当に、いいんですね」
「わがままだとは分かってる。でも、どうしても納得出来ないからね」

チョロ松は凡人だ。
他人を逸脱するような非凡な才能があれば、彼に限ってはとっくに定職に就けている。
松野兄弟の中でも良識派と言われるだけはあって、いざという時に非情になれるかも自分では分からない。
それでも、彼は戦うことにした。時限式のカラミティを避けるために、ジャンル違いの戦いに踏み入ることにした。
ただし、理由はそれだけではない。もう一つ、戦う理由がある。それは目の前の、小さな少女のためだった。

キャスター。魔術師のサーヴァント。真名を、「のっこちゃん」。
最初に彼女を見た時は、それは面食らった。
松野家の中にこんな年端もいかない女の子がいるという事実もそうだが、それ以上に、彼女はあまりに可憐だった。
彼女があと五歳ほど年を重ねていたなら、ひょっとすると自分は陥落していたかもしれないとさえ思う。

「それに……のっこちゃんの願い事も叶えてあげたいし」

チョロ松は聖杯戦争について聞いてから今に至るまで、どうするかを決めあぐねていた。
らしくもない兄弟たちの様子を眺めながら、あれこれと考える中、彼女の願いについても思い返した。
彼女の願いは、あまりにも切実なものだった。
英霊としてはごくささやかなものだが、彼女くらいの年頃の少女にはとても大事であろう願い。
彼女と話し、一緒にいる内に、チョロ松は何としてもその願いを叶えてあげたいと思うようになっていた。
世界の危機をどうにかしたい。それと同時に、キャスターの願いも叶えたい。
ここまで腹が決まったなら、もう迷う余地などどこにもありはしなかった。

「……チョロ松さん」
「大丈夫だって。いや、自信はないけど。
 さっきも言ったでしょ、やれるだけはやってみるからさ」
「……ありがとうございます」

さあ、大変なのはこれからだ。
いくら平穏の中にあるからといっても、あの兄弟たちに何かを勘付かれる事態だけは避けなくてはならない。
平静を装いつつ、聖杯戦争に精を出して行かなければならない。
きっと道は茨道だ。想像しているより、何倍も険しいに違いない。
それでも、自分がやらなければ、何もかもが終わってしまう。
この世界も、ひとりの女の子の幸せも。
チョロ松は覚悟を決めた。
キャスターへ、もう一度強く頷いてみせる。
キャスターは、小さく微笑んだ。

寂しそうに、笑っていた。


【マスター】
松野チョロ松@おそ松さん

【マスターとしての願い】
滅びを回避したい。
キャスターちゃんの願いも叶えてあげたい。

【能力・技能】
特になし。

【人物背景】
松野家に巣食う悪魔の六つ子の第三男。
六つ子の中では常識人に分類されるが、彼も他の兄弟の例に漏れずなかなかのクズい側面を持っている。
キャスターの宝具により、終焉の回避とは別に、彼女の願いを叶えることへも執心気味。

【方針】
どうにかしてうまく立ち回りたい




「ごめんなさい、チョロ松さん」

マスターには聞こえないように、キャスターは呟いた。
松野チョロ松は良識のある人間だが、しかし、本来勇者になれる人間ではない。
少女の幸せを叶えるためにと義憤に燃え、聖杯戦争へ名乗りを上げるような人物ではない。
だが彼が聖杯戦争に参ずると決めた理由には、確かにキャスターの願いを叶えたいという思いがあった。
彼らしくもない熱い感情の後押しが、そこには間違いなく存在していたのだ。
納得できずとも、彼は兄弟に同調し、穏やかに終末期を迎えようとする未来もあったかもしれない。
その未来を彼から奪い、戦いへ目を向けさせたのは、他でもないキャスター……のっこちゃんの宝具である。

戦えない彼女は、かつて魔王を演じなくてはならなくなった。
嫌だ嫌だと駄々を捏ねることは、のっこちゃんには許されなかった。
何故ならのっこちゃんは、許されないだけのことをしたからだ。
過去にのっこちゃんがしたことを白日の下に晒されれば、彼女は間違いなく、大好きな母のところへいられなくなる。
だからのっこちゃんは戦うしかなかった。戦えないのに、戦うしかなかった。

彼女の魔法/宝具は、「まわりの人の気分を変える」というものだ。
読んで字のごとく、人の感情を操作することができる。
のっこちゃんが悲しいと思えば、周りの人間も悲しくなり。
のっこちゃんが怒れば、周りの人間も怒り始め。
のっこちゃんが怖いと感じれば、周りの人間は恐怖で大パニックに陥る。
……のっこちゃんが熱く心を燃やせば、周りの人間の心も熱に浮かされる。

チョロ松を聖杯戦争に乗せたと言えば簡単だが、この魔法はそう単純なものではない。
下手に加減を誤れば、松野家の他の人間まで熱くなってしまう。
それを避けるため、慎重に機を見計らいながら、出来る時は確実にチョロ松の心に炎を生み出してやった。
結果、彼は半分は世界のため、半分はのっこちゃんのために聖杯戦争に乗ると決めたのだ。

非道の行いだとは分かっている。
けれどそれでも、のっこちゃんには押し通したいわがままがあった。
チョロ松が世界に反してまで貫こうとするわがままに比べればちっぽけだが、のっこちゃんには――「野々原紀子」にとっては、それと同じくらいに大切なわがままがあった。

のっこちゃんは、勝った。
ゲームには負けたが、勝負には勝った。
しかし、愛するお母さんのところへ帰ることはついにできなかった。
お母さんを置いて、のっこちゃんは遠いところに行くことになった。
残すものは残せたにしても、決して百点満点の結果ではなかった。


のっこちゃんが聖杯へ望むのは、ただひとつ。
お母さんと、また幸せに暮らしたい。
今度は魔王なんかになることなく、野々原紀子として、のっこちゃんとして、一緒にいたい。
そのために、のっこちゃんはもう一度魔王をやると決めた。

ここに、彼女の戦いはrestartする。


【クラス】
キャスター

【真名】
のっこちゃん@魔法少女育成計画restart

【パラメーター】
筋力:D 耐久力:E 敏捷:D 魔力:A 幸運:D 宝具:D

【属性】
中立・中庸

【クラススキル】
陣地作成:-
機能していない。

道具作成:-
機能していない。

【保有スキル】
魔法少女:B
人智を超えた存在、魔法少女である。
身体能力、五感、精神力などが等しく強化され、容姿と服装が固有のものへと変化。
更に食事や睡眠などの各種活動が不要になり、毒物やアルコールの影響を受けない。

自己保存:E
マスターが生存している限り、危機的状況から逃れやすくなる。
彼女の場合、集団戦において強い効果を発揮するが、一対一の状況では効き目が薄い。

気配遮断:D+
サーヴァントとしての気配を絶つ。隠密行動に適している。
ただし、自らが攻撃態勢に移ると気配遮断は解ける。

【宝具】
『まわりの人の気分を変えることができるよ』
ランク:D 種別:対人宝具 レンジ:1~100 最大捕捉:100
自分の気持ちを周囲へ伝播させる、魔法少女「のっこちゃん」の魔法が宝具となったもの。
人間のみでなく、精神あるものならば建物のようなものへも通用する。
キャスターが楽しい気分になれば周囲の面々も楽しくなり、逆に悲しい気分になれば周囲の面々もそれに釣られて悲しくなる。要するに、感情のコントロールが可能。
常時発動型の宝具であるため、自己の感情を制御できる人物でなければ使いこなすことは難しい魔法だが、彼女はその点も問題なく扱うことができる。
Cランク以上の対魔力スキルを持つ者には通用しないが、かと言ってキャスターの宝具が使用されていることを何の事前知識もなしに把握することは極めて困難。
また、心に闇や傷を抱える者へはより強い効き目を見せる。

【weapon】
モップ

【人物背景】
真なる魔王はここにあり