小説フレームアームズ・ガール
第2話「グランザム帝国、強襲」
1.やり切れない思い
『我が国の秘密兵器、フレームアームズ・ガール・・・華々しい初陣!!』
『あのシオン・アルザードを撤退に追い込む大活躍!!』
『我が国の救世主と成り得るか!?』
オルテガ村でのシオンとスティレットの激闘の後の、翌日・・・どこの新聞記事も一面と社会面において、スティレットの活躍ぶりが大々的に紙面を独占してしまっていた。
また朝のテレビのニュース番組でも、どこの局でもスティレットの話題で持ち切り状態だ。
無理も無い。ルクセリオ公国騎士団のパワードスーツの圧倒的な性能の前に、敗走が続いていたルクセリオ公国軍との戦争において、久しぶりに華々しい勝利を挙げる事が出来たのだから。
記事やニュースではスティレットがシオンを圧倒しただの(実際には互角の死闘だった)、シオン隊が村人を虐殺しようとしただの(実際には催涙ガスで足止めしただけ)、事実無根のデマまで多数流されてしまっている始末なのだが・・・。
それでもスティレットがシオン隊を退けたというのは紛れもない真実であり、城下町のみに留まらずグランザム帝国全体が、今回の勝利に熱狂する騒ぎになってしまっていた。
だがそんな熱狂的な騒ぎとは裏腹に・・・騒ぎの張本人であるスティレットは怒りの形相で、城内で帝国兵の男性の胸倉を掴んで壁に叩き付けていた。
「どうして!?どうしてシルフィさんを殺したの!?どうして彼女を殺す必要があったの!?」
「しょ、少尉殿、おおおお願いですから落ち着いて下さい~(泣)!!」
「これが落ち着いていられるわけが無いでしょう!?私がオルテガ村に行っている間に、何でこんな事になってしまってるのよ!?」
「ひ、ひいいいいいいいい~(泣)!!」
スティレットの凄まじい気迫の前に、帝国兵の男性はただただ怯えるばかりだ。
相手が上官故に反論が出来ないというのもあるが、それ以上に年頃の少女らしからぬスティレットの怒気に完全に気圧されてしまっているのだ。
スティレットは帝国軍がスパイとして仕立てたラクティの、人質に取っていた妹・シルフィの世話役を担当していたのだが・・・今日の朝になって彼女の朝食を食堂まで取りに行った際、用済みになったシルフィが処刑されたという事を料理長から聞かされ、殺した張本人である彼に対して激怒しているのだ。
敵国の人間とはいえ、どうして無力な一般人を殺す必要があったのか・・・スティレットはやり切れない思いで一杯だった。
「リーズヴェルト少尉。もうそれ位にしておけ。お前の気持ちは分かるが、ロックウェル軍曹は皇帝陛下からの命令に従っただけの事だ。彼には何の責任も無い。」
「・・・オラトリオ大尉・・・!!」
そんなスティレットの、男性の胸倉を激しく掴む両手を優しく右手で包み込んだのは・・・フレームアームズ・ガール部隊隊長、アーキテクト・オラトリオだ。
スティレットとは歳が離れた年長者であり、軍人としても人間としても周囲からの尊敬を集めている、まさにシオン同様にグランザム帝国において英雄呼ばわりされている女性だ。
とても凛とした態度で、アーキテクトはスティレットを見据えている。
スティレットも上官からの命令には逆らえず、渋々ながらも男性の胸倉を離したのだった。
「たたたたた大尉殿・・・(泣)!!」
「私の直属の部下の無礼を詫びさせてくれ。軍曹。」
「いえいえいえいえいえいえ、そんな滅相もございませんっ(泣)!!」
「済まなかったな。もうお前は下がってよい。」
「ははははははははいいいいいいいいいいいいいいいっ(泣)!!」
なんかもう泣きそうな表情で、慌ててその場を走り去っていく男性。
そんな男性の無様な姿を、スティレットはとても苦々しい表情で睨み付けていた。
アーキテクトの言う通り、彼が皇帝からの命令に従っただけだというのは、スティレットとて頭の中では理解している。むしろ逆らってしまえば抗命罪にすら問われかねないのだ。軍人としては彼の行動は至極当然の事だと言えるだろう。
だがそれでもスティレットは納得が行かなかった。まさか皇帝であるヴィクターに反抗的な態度を取る訳にも行かず、やり場の無い怒りを彼にぶつけるしか無かったのだ。
そんなスティレットの様子を、周囲の者たちは怪訝な表情で一斉に見つめていたのだが。
「リーズヴェルト少尉。話がある。ちょっと来い。」
「ちょ、ちょっと、あの、大尉!?」
スティレットの右手を無理矢理引っ張り、アーキテクトはスティレットを無人の部屋へと連れて行く。
そして周囲に誰もいない事を確認したアーキテクトは静かに扉を閉めて、スティレットに対して苦言を呈したのだった。
「・・・リーズヴェルト少尉。お前も分かっていると思うが、お前は今やこの国の救世主なのだ。言動と行動にはくれぐれも気を配る事だ。どこにマスコミが潜んでいるか分からんからな。」
「そんな、私は救世主なんかじゃありません!!大体あの新聞の記事だって事実無根ばかり!!私がシオンさんを圧倒したとか書いてあるけど、何も知らないで勝手な事を・・・!!」
マチルダに関しては敵では無かった。記事に書いてあるようにスティレットの圧勝だった。
だがシオンは強かった。はっきり言ってスティレットは殺されるかもしれないと本気で思ったのだ。
何故かシオンが途中で頭痛を訴えて急に撤退したのが気になったのだが・・・それでもあのまま戦っていたら、スティレットとて無事では済まなかっただろう。
それでもそんな事情は、国民には・・・というかマスコミには関係無いのだ。
「事情はどうあれ、お前があのシオン・アルザードを退けたというのは紛れもない事実だ。」
「ですが・・・!!」
「だからこそお前は救世主として扱われているのだ。これまで我が軍がルクセリオ公国を相手に敗走を続けていたのだから、尚更な。」
半年前にパワードスーツを実戦投入したルクセリオ公国騎士団の前に、これまでグランザム帝国軍は敗走を繰り返し、苦境に立たされていた。
そんなルクセリオ公国騎士団の、しかも英雄とまで呼ばれていたシオンさえも退けた・・・この事実に国民が熱狂しない訳が無いのだ。
だからこそマスコミも売れる記事を作る為に、記事のネタになるスティレットを放っておく訳が無い・・・だから言動と行動には気を付けろと、アーキテクトは苦言を呈しているのだが。
「まあそれはそれとして・・・先日のお前の戦闘記録を見させて貰ったのだがな。あのマチルダとかいう新兵を何故殺さなかった?」
「それは・・・。」
「確かに中々の手練れだったが、それでもお前ならアルザード中尉の妨害が入る前に殺せたはずだ。なのに何故彼女をみすみす見逃すような真似をしたのだ?」
アーキテクトに睨まれたスティレットは、苦虫を噛み締めたような表情でうつむいてしまう。
先程の兵士の胸倉を掴んだ迫力が、今の彼女からは全く感じられなかった。
「・・・相手は最早丸腰でした。無抵抗の相手を殺すのは良くないと私は思いました。」
「彼女が何か武器を隠し持っていた可能性も否定出来いよな?」
「そ、それは・・・」
「それにアルザード中尉との交戦中に、何故お前は忍ばせていた伏兵を展開させなかった?あの状況ならまさに絶好の好機だったはずだ。」
「それは村の人たちを巻き込みたくなかったから・・・。」
「既に戦場は村の敷地外だった。」
「・・・・・。」
スティレットの言い訳を情け容赦なく次々と潰したアーキテクトは、すっかり落ち込んでしまったスティレットを見て、深く溜め息をついたのだった。
スティレットは、確かにグランザム帝国軍の中で最強の戦闘能力を誇る。
剣の腕は帝国軍最強、体術や銃火器の扱いも高いレベルにある。訓練での模擬戦でも一度も負けた事が無い程だ。
そんなスティレットだからこそ、彼女用にカスタマイズされた最新鋭のフレームアームを与えられたのだが・・・スティレットには軍人として致命的過ぎる弱点がある。それが今回の作戦において完全に露呈される結果となってしまった。
それはスティレットが、あまりにも優し過ぎる・・・人を殺せないという事だ。
マチルダをわざと殺さなかったり、撤退するシオンを追撃しなかったり、忍ばせていた伏兵を最後まで展開させなかったり。
シオンはともかくマチルダに関しては、殺す機会なんて幾らでもあったのに、それでもスティレットはマチルダを最後まで殺そうとしなかったのだ。軍人としては失格だと言わざるを得ない。
「リーズヴェルト少尉。お前は5年前、この戦争で両親を失ったそうだな。何故かその時の記憶が曖昧になっていて、路頭に迷っていた所を皇帝陛下に保護されたという事も聞いている。」
「・・・はい。」
「そしてお前は自ら皇帝陛下に志願し、士官学校で訓練を受け軍人となった・・・自分のような犠牲者を二度と出さないように、自分自身の手で人々を守りたいと。」
「・・・はい。」
「だが敵を討たねば、こちらが討たれる・・・お前の言う大切な人たちを到底守り切る事は出来ないぞ。」
こんな年頃の少女に敵を殺せなどと命じるのは、アーキテクトとて抵抗があるが・・・それでもそうさせなければ、いずれスティレット自身も戦火の中で命を落とす事になるだろう。
敵を討たねば、その敵は新たな武器を手に再び戦場に舞い戻る・・・だからこそ潰せる時に潰しておかないといけないのだ。
今回むざむざと逃がしたマチルダにしても、次に戦場で出会った時はさらに手強い相手になっているかもしれない。そしてマチルダの手によって同胞が殺される事にもなりかねないのだ。
アーキテクトはスティレットを怒鳴り散らしたりはしないが、それでもその言葉の1つ1つには無数の修羅場を潜り抜けてきた者としての重みと、スティレットに対しての愛情も込められていた。
それを分かっているからこそ、スティレットもアーキテクトに何も言い返せないでいるのだが。
「隊長、ステラが敵を殺せないなら、私と迅雷をサポートしてくれるだけでも充分ですよ。」
「そうそう。ステラの援護があるだけで、私もお姉ちゃんも安心して戦えますから。」
そこへ2人の少女が部屋の中に入ってきた。
フレームアームズ・ガール部隊に所属する双子の姉妹の、姉の李轟雷(リ・ゴウライ)と妹の李迅雷(リ・ジンライ)だ。
元々は隣国のチャイナ王国出身なのだが、王族同士による権力争いに巻き込まれて両親を殺され、グランザム帝国に亡命したという経歴を持つ少女たちだ。
同じ年頃、そして同じような境遇の持ち主という事で、スティレットはこの2人とすぐに仲良くなったのだが。
「・・・轟雷少尉、それと迅雷少尉か。私たちの話を聞いていたのか。」
「さっきステラに声を掛けようとしたら、隊長がステラを拉致したのが見えちゃったんで。」
「拉致とは心外だな轟雷少尉。それで私たちの会話を盗み聞きか。」
「敵を殺すのは私と迅雷に任せておけばいいんですよ。ステラにまで無理に殺しをさせる必要は無い・・・だってステラは私たちと違って優しい子ですから。」
「その優しさが戦場では命取りになる事だってあるんだ。それはお前たちが一番良く分かっているはずだろう。醜い権力争いに巻き込まれて両親を失ったお前たちならな。」
「・・・分かっているからこそ・・・ステラにまで殺しをして欲しくないんですよ。」
皮肉を込めた笑みを浮かべながら、轟雷は自らの両手を見つめたのだった。
故郷のチャイナ王国で迅雷と共に、生き残る為に何人も人を殺してきた・・・この血で染まってしまった自らの手を。
刃物で人を刺した時の肉の感触、生々しい血の匂い、どんどん冷たくなっていく体温・・・轟雷も迅雷も、それを嫌という程味わってきた。アーキテクトに救われなければ、今頃この2人の心は壊れてしまっていてもおかしくなかったかもしれない。
だからこそ轟雷も迅雷も、スティレットにまでそんな苦しみを味合わせたくないのだ。
スティレットにはいつまでも、自分たちの心を癒してくれる優しい少女でいて欲しいから。
「・・・轟雷少尉。お前の言いたい事は分かった。だが戦場はそんなに甘くは・・・」
言いかけた所で、アーキテクトのスマートフォンの着信音が鳴り響いた。
「・・・私だ。どうした?」
『オラトリオ大尉、皇帝陛下がお呼びです。至急王室に来て下さい。今回のルクセリオ公国強襲作戦について、大尉に話があるとの事です。』
「了解した。すぐに行くと皇帝陛下に伝えておいてくれ。」
『はっ。』
着信を切ったアーキテクトはスマートフォンを懐にしまい、部屋の扉を開けたのだった。
「呼び出しを食らってしまったな。済まないがこの話はまた今度だ。」
「あの、オラトリオ大尉・・・。」
「どうせお前たち3人を、今度の作戦で使う目途が立ったとかいう話なのだろう。とにかく私は皇帝陛下の元に向かう。お前たちはいつも通り訓練に励んでおけ。」
「・・・了解しました。」
「・・・私がいないからと言って、サボるなよ?」
敬礼するスティレットたちに穏やかな笑みを見せながら、アーキテクトは急ぎ足でその場を後にしたのだった・・・。
2.マチルダとの夕食
翌日の夜・・・今日の訓練と任務を全て終えたシオンは、マチルダを連れて近くのファミレスに夕食を食べに来ていた。
マチルダのシオン隊への入隊祝いとして、シオンの奢りで夕食を振る舞う事になったのだ。
本来ならシオンが借りているアパートの部屋に連れて行って、シオンの手作りの料理を振る舞っても良かったのだが・・・というかオスカルやリックといった、他の男性隊員たちの入隊祝いの時は実際そうしたのだが。
それでも女性であるマチルダを2人きりで部屋に連れ込む所をマスコミに見られよう物なら、新聞や週刊誌の記事にある事ない事を書かれてしまい、マチルダや彼女の家族に迷惑をかける事にもなりかねない。だからこうしてファミレスで夕食を奢るという形になったのだ。
「今日は僕の奢りだから、遠慮せずに好きな物を頼んでいいよ。マチルダ。」
「じゃあ遠慮なくご馳走になりますね。シオン隊長。」
屈託の無い笑顔をシオンに見せたマチルダの元に、女子高生のバイトらしき少女がオーダーを聞きにやってきた。
シオンは好きな物を頼んでいいとは言ったが、それでもあまりに高価なメニューを頼むのは気が引けるという物だ。
それにシオンがそういう細かい事を気にしないタイプなのはマチルダも理解しているが、社会人としての節度、基本的な一般常識や礼儀作法、テーブルマナーという物もある。
なのでマチルダは高過ぎず安過ぎず、手ごろな価格のメニューを注文する事にした。
「すいません、この麦飯とろろ御膳をお願い出来ますか?」
「じゃあ僕は和風ハンバーグのAセットで。」
「かしこまりました。しばらくお待ちくださいませ。」
少女がタブレットに注文を入力すると、オンラインで繋がれた厨房のパソコンに、自動的に注文が入力されていく。
これにより口頭での注文伝達ミスを防ぐ事が出来るし、無駄な時間を省く事で仕事の効率を高める事が出来るという訳だ。
シオンは基本的に自炊するので、こういった飲食店には月に数回しか行かないのだが、本当にハイテクな世の中になった物だと心の底から関心していた。
そしてシオンは『ルクセリオの英雄』と呼ばれているだけあって、ルクセリオ公国ではとても高い知名度を誇る。それに彼の人柄の良さや飾らない性格もあって、国民からの人気も高い。
それ故にシオンの姿を見かけた客の女子高生たちが、キャーキャー言いながらシオンにサインをねだったり、握手や記念撮影をお願いしたりしてきた。
苦笑いしながらそれに応えるシオンの姿を見て、本当にこの人はこの国の英雄なんだと、マチルダは改めて思い知らされる事になった。
「・・・それでマチルダ。今日で入隊して3日目になるけど、訓練や任務にはもう慣れたかい?」
「はい。でも私などまだまだ若輩者ですから。」
「そんな事は無いさ。今日の訓練の模擬戦でも大活躍だったじゃないか。」
「いえ、そんな・・・。」
提供された食事を食べながらシオンとマチルダは、他愛の無い雑談をしつつも笑顔を見せる。
謙遜するマチルダだったが、実際にシオンの言う通り、今日の模擬戦では新人らしからぬ大活躍を見せたのだ。
曲がりなりにも、士官学校をトップの成績で卒業しただけの事はある・・・先日の実戦でスティレットに敗れはしたものの、それを差し引いたとしても本当に充分過ぎる程の新戦力が加入した物だ。シオンは心の底からそう思ったのだった。
シオンに褒められたマチルダはとても嬉しそうな表情で、とろろをたっぷりとかけたご飯を美味しそうに口に運ぶ。
大和芋のネバネバと、麦飯のさっぱりとした風味が絶妙にマッチし、マチルダの口の中で絶妙なハーモニーを奏でる。
こういったネバネバした食べ物は苦手だと語るシオンに対し、軍人なんだから好き嫌いは駄目ですよと、笑顔で他愛無い会話をするマチルダだったのだが。
「・・・はぁ・・・。」
だが食事を終えたシオンはチラリと窓の方を見て、とてもウザそうに溜め息を漏らしたのだった。
それを見たマチルダはいきなりどうしたのかと、怪訝そうな表情を見せる。
「シオン隊長、一体どうなされたのですか?」
「さっきから窓側から僕への強烈な視線を感じたから、気になっていたんだけどさ。」
「そんな、シオン隊長は有名人なんですから、ここにいる方たちの注目を集めたとしても仕方が無いのでは?」
「いや、それもあるんだけど・・・あそこの席に座ってる彼女は多分マスコミだよ。」
「マ、マスコミ!?」
驚くマチルダだったが、確かに窓側の席に座っているスーツ姿の若い女性が、先程から食事をしながら不自然な視線をシオンたちに送っていた。
それに不自然に中途半端に開けた鞄の中身を、何故かシオンたちの方に向けている・・・中に隠しカメラを仕込んであるのがバレバレだ。
確かにシオンは『ルクセリオの英雄』と呼ばれている程の有名人だ。だからこそシオンのスキャンダルでも暴いて記事にしてやろうかと考えているのだろうが。
「あの様子だと、恐らく集音マイクも仕込んであるんだろうな。」
「た、大変ですね。シオン隊長・・・。」
「これもいつもの事だから慣れてるんだけどさ。君には悪いけど、僕への言動にはくれぐれも気を配ってくれないか?」
「りょ、了解しました・・・。」
「まあ普通に話す程度なら、別に問題無いとは思うよ。」
シオンはこれも有名税のような物なのだと完全に割り切っているし、自分が何を書かれようが特に気にもしていないのだが、それでもマチルダや彼女の家族にまで迷惑を掛けるわけにはいかないのだ。
何ともやり切れない気持ちになったシオンは、テーブルに据え付けられた呼び出しベルを鳴らして従業員を呼んだのだった。
「・・・お客様、追加のご注文でしょうか?」
「はい、バーボンをロックでお願いします。」
「かしこまりました。」
笑顔で席を去るバイトの少女だったのだが、マチルダは驚きを隠せないでいた。
「シオン隊長、お酒飲まれるんですか!?」
「明日は仕事が休みだからね。さすがにオスカルのようにガブ飲みはしないけどさ。あくまでも嗜(たしな)む程度だよ。」
「ちょっと意外です・・・隊長からはそんなイメージが全然沸かないので・・・。」
「ははは、よく言われるよ・・・だけど僕にだって酒に縋(すが)りたくなる時もあるんだよ。」
バイトの少女に差し出されたウイスキーと氷が入ったグラスを、シオンはゆっくりと口に含んだ。
ウイスキー特有の苦みと強いアルコールが、シオンの喉を刺激する。
「・・・ルクセリオの英雄か・・・皆は僕の事をそう呼んでくれるんだけど・・・僕にはたまにそれが重荷になる事もあるんだ。」
酒が入ったからなのか、シオンは突然マチルダに愚痴をこぼし始めたのだった。
マチルダはただ黙って、シオンの愚痴に耳を傾けている。
酒に縋りたくなる時もある・・・シオンだって1人の人間なのだ。中尉として、シオン隊という小隊を預かる隊長として、周囲からの期待を重圧に感じる事だってあるのだろう。
普段のシオンは、そんな弱みを周囲には全く見せないのだが・・・それでもせめてこういうプライベートな時間では、自分には気兼ねなく弱みを見せて欲しいと、マチルダは心の底からそう思う。
気兼ねなく弱みを見せられる相手が1人でもいないと、シオンだって心が休まらないだろう。マチルダはシオンにとって、そんな存在でありたいのだ。
「だって僕は、何よりも守りたかった大切な人を、守る事が出来なかったから・・・。」
「・・・・・。」
「僕にはアルテナという妻がいたんだけど・・・1年前に娘の出産の為に、近隣の村の病院で静養させていたんだ。だけど突然帝国軍が襲撃してきて、村が帝国軍の爆撃に巻き込まれて・・・アルテナも、産まれたばかりのセリスも死んでしまった。」
その件に関してはマチルダも、任官式の時にジークハルトから聞かされていた。
そしてジークハルトから頼まれたのだ。シオンを支えてやって欲しいと。シオンの事を頼むと。
「当時僕はまだ少尉で、アルフレッド隊の隊員だった。そして僕たちは村の防衛任務から外され、城下町の防衛を任されたんだ。僕が私情に流されるといけないからという理由でね。」
「・・・・・。」
「今思えば村への爆撃は、城下町の守りを手薄にさせるための陽動だったんだろう・・・僕は隊長に命じられるまま、迫りくる帝国軍の本隊から城下町を何とか守り切ったけど・・・村の防衛を任されていたミカエル隊は敵を全滅させる事に拘り過ぎて、村人の避難誘導を疎かにしてしまった。」
「・・・・・。」
「その結果が、村人の大量虐殺・・・村を襲った帝国軍は全滅したけど、ミカエル隊も死傷者を何人も出して、隊長だったミカエル中尉も戦死して・・・駆けつけた僕も生き残った村人たちから酷い罵声を浴びせられたよ。」
過ぎ去ってしまった時は、もう戻らない。どうあがいても妻も娘も生き返らない。
それでもシオンは思うのだ。もしあの時、自分が村の防衛を任されていたら・・・と。
あの時こうしていれば良かったのでは・・・もっと上手くやれる方法があったのでは・・・こういう仕事をしていると、シオンは本当に後悔ばかりだ。
それでも後悔を引きずってばかりもいられない。後悔という経験を次に活かさないといけない。
今のシオンは中尉として、シオン隊の皆の命を預かる隊長という立場にあるのだから。
そんな決意を改めて胸に抱いたシオンだったのだが・・・突然マチルダが店員を呼んだ。
「すいません、ビールをグラスで一杯お願いします。」
「はい、かしこまりました。」
「・・・って、マチルダ、無理して僕に付き合わなくてもいいんだぞ?」
「いえ、私にも付き合わせて下さい。シオン隊長が背負っている苦しみを、少しでも和らげたいから・・・それにシオン隊長ばかり私に愚痴ってばかりでずるいです。今から私の愚痴にも付き合って頂きますからね?」
とても意地悪そうな笑みを浮かべながら、マチルダはシオンにそう告げたのだった。
確かにルクセリオ公国では、18歳になった時点で成人だと認められる。
ナナミの生まれ故郷であるジャパネス王国のように、20歳にならないと飲酒が出来ないような国もあるのだが、この国では18歳で飲酒が認められるのだ。
マチルダは先月18歳になったばかりだし、まあ明日は休みだし、ビール1杯くらいなら大丈夫だろう・・・多分・・・シオンはそんな事を考えていたのだが。
「・・・苦い。」
差し出されたグラスを口に含んだマチルダは、正直な感想をシオンに漏らしたのだった。
「こんなに苦い飲み物を、どうしてオスカル少尉はあんなに美味しそうにガブ飲み出来るんでしょうかね・・・?」
「・・・君にもいずれ、分かる時が来るさ。」
苦笑いしながらマチルダにそう呟いたシオンは、何気なく鞄からタブレットを取り出したのだった。
画面に映し出されたのは、先日のオルテガ村での戦闘記録・・・シオンとスティレットが上空でビームサーベルをぶつけ合っている画像データだ。
「それにしても彼女・・・リーズヴェルト少尉と言ったかな・・・なんか気になるんだよな。」
「・・・・・。」
「何故か彼女と剣を交える内に、妙に懐かしい気持ちになったんだけど・・・僕は彼女とは初対面のはずなのに・・・いや・・・初対面・・・なんだよな・・・?」
「・・・・・。」
「君にも指摘されたんだけど、何故僕は彼女の事をステラなんて呼ん・・・で・・・?」
言いかけたシオンだったが、その時だ。
「・・・ひっく。」
マチルダが物凄く座った目で、シオンの事を睨み付けていたのだった・・・。
いきなりの出来事に、シオンは思わずタジタジになってしまう。
「・・・あの・・・マチルダ・・・さん(汗)?」
「シオン隊長~~~~、さっきから目の前の私を無視して~~~~何で彼女の話ばかり~~~~するんですか~~~~~~~!?失礼じゃないですか~~~~~!?」
「あの、いや、それは・・・その・・・(汗)。」
マチルダは、べろんべろんに酔っぱらっていた・・・。
まさかそんな、ビールを一口飲んだだけで!?予想外の事態に戸惑いを隠せないシオンだったが、なんか窓側の席にいるマスコミの女性が物凄い笑顔でこちらを見つめていた。
それを見たシオンは、物凄く焦った表情になったのだが・・・。
(やばいやばいやばい、こんな所を記事にでもされたら~~~~!!)
「シオン隊長~~~!!・・・こらーーーーーっ!!シオンーーーーーーー!!」
「はいいいいいいいいいいいいいいいいっ(汗)!?」
シオン=中尉。
マチルダ=上等兵。
「何で私と会話してる時に、あの女の人の方を見てるのよぉーーーーーーーっ!?」
「いや、その、だから彼女はマスコミ・・・(泣)。」
「ちゃんと私の目を見て話しなさいよーーーーっ!!ヘタレなの貴方はーーーーーっ!?」
「あ、あの・・・(泣)。」
「大体シオンもさぁ~、もう24歳なんだからぁ~、いい大人なんだからぁ~、いい加減新しい奥さんを見つけてぇ、身を固めるべきなんじゃないかと私は思うんだけど~っ!!」
「う・・・うん・・・それは陛下からも散々口煩く言われてるんだけどね・・・(泣)。」
すっかりべろんべろんに酔っぱらってしまったマチルダは目に涙を浮かべながら、公衆の面前でとんでもない事を口走ってしまったのだった。
「だったら私がシオンの新しいお嫁さんになってあげるわよっ!!」
「・・・はああああああああああああああああああ(泣)!?」
突然の爆弾発言に周囲の客たちは一斉に騒ぎ出し、中には携帯電話やスマートフォンを取り出し、ツィッターや2ちゃんねるで実況する者たちまで現れる始末だ。
マスコミの女性も最早コソコソと隠れる事さえもせず、物凄い笑顔で堂々とボイスレコーダーをシオンたちに向けていたのだった・・・。
「私がアルテナさんの代わりになってあげるわよ!!そうすればシオンも寂しくないでしょ!?」
「あ、あの・・・(泣)。」
「子供は何人欲しい!?でも子供を作るならシオンが今借りてる部屋じゃ手狭だから、もっと広い部屋を借りるか、思い切って一軒家でも建てる!?今のシオンの年収なら楽勝でしょ!?」
「そ、その・・・(泣)。」
「私じゃ・・・私じゃアルテナさんの代わりとして物足りないかもしれないけど・・・貴方を精一杯愛してあげるからぁ!!うわあああああああああああああああああん(泣)!!」
散々シオンに対して泣き喚いた挙句、泣きながら机に突っ伏したマチルダは・・・そのまま静かな寝息を立ててしまったのだった・・・。
「・・・寝たあああああああああああああああああ(泣)!?」
「・・・すー・・・すー・・・うーん・・・シオン・・・。」
「どどどどどどどどどどどうしよう・・・(泣)。」
このままマチルダを自分のアパートの部屋や、マチルダが住んでいる軍の女子寮に連れて行った所で、シオンがマチルダの寝込みを襲ったとか、事実無根の変な記事を書かれてしまうだけだ。
まあ今の時点で、もう既に変な記事を書かれてしまうだけの状況になってしまっているのだが。
「・・・うーん・・・こうなったら・・・仕方が無いな。」
仕方が無いのでシオンは、マチルダを彼女の実家に連れて行く事にしたのだった。
これなら何かあってもマチルダの家族が証人になってくれるだろうし、元々いずれ挨拶しに行く予定だったし、丁度いい。
清算を済ませたシオンは、たまたま近くを通りかかったタクシーを呼び、すっかり眠ってしまったマチルダと一緒にタクシーに乗り込んだのだった。
3.実家での騒動
シオンとマチルダを乗せたタクシーが城下町の正門を抜けて、すぐ近くにあるサファテ村へと向かっていく。
マチルダの実家はこのサファテ村にポツンと存在する、のどかな一軒家だ。
マチルダの話だと父親が専業農家なのだそうで、敷地内には野菜がたわわに実ったビニールハウスや畑が数多く存在していた。
数多くの建物がひしめき合う都会の城下町とは一転して、このサファテ村はとても静かで平和そうな村だ。
そしてシオンたちルクセリオ公国騎士団が日夜頑張っているからこそ、この村の平和も守られているのだ。
ピンポーン。
すっかり寝込んでしまったマチルダを背中に背負いながら、シオンはマチルダの実家の呼び出しベルを鳴らす。
それからしばらくして慌ただしい足音と共に、玄関の扉が勢いよく開け放たれた。
「は~い、どちら様・・・って、あらあらあら!?」
玄関を開けたマチルダの母親が、苦笑いをするシオンと彼におんぶされているマチルダを見て、とても驚いた表情を見せる。
「あの、こんな夜分に突然申し訳ありません。娘さんの上官のシオン・アルザードという者なのですが・・・。」
「シオンさん!?あらあらまあまあ、いつも娘が大変お世話になっております!!」
「それでですね、実は・・・。」
事情を聞いたマチルダの母親が、快くシオンを家の中に迎え入れたのだった。
「ああもう、本当に娘がご迷惑をお掛けしてしまってごめんなさいね!!さあさあ、遠慮せずに中に入って頂戴!!」
「は、はい、失礼します・・・。」
なんか先程のマスコミが、物凄い笑顔で物陰からカメラを回していた。
本人は隠れてるつもりなのだろうが、シオンには完全にバレバレだ。
(ま、まだ追いかけてきてる・・・いい加減しつこ過ぎるだろ・・・。)
「あんた、シオンさん!!シオン・アルザードさんが来たわよ!!」
「何ぃ!?お前の命を救ったっていう、あの坊主がか!?一体こんな時間に何の用件だ!?」
「ビールを一口飲んで酔っぱらっちゃったマチルダを、ここに連れてきてくれたの!!」
「はぁ!?ビール一口で酔っぱらっただぁ!?何だあいつも情けねえ女だなぁ!!まあいい、とにかくシオンをここに連れて来い!!」
取り敢えずマチルダを応接室のソファに寝かせたシオンは、マチルダの母親に呼ばれて居間にやってきたのだった。
居間にいたのは、いかにもサバサバした雰囲気の、ビールを飲んでいるマチルダの父親。
「おう坊主。イメルダから聞いたぞ。娘が粗相して迷惑かけちまったようだな。」
「い、いえ、そんな・・・。」
「まあそんな所にいつまでも突っ立ってないで、そこに座れや。」
「は、はい、失礼します・・・。」
何でだろう。別に悪いことは何もしてないのに、シオンはなんか凄くいたたまれない気持ちになってしまったのだった。
用意された座布団の上に、正座しようとしたシオンだったのだが。
「何でぇ何でぇ、お前キンタマついてんのか?男のくせに正座なんかしてんじゃねえよ。」
「す、すいません・・・。」
何故か怒られたシオンは正座を解いたのだった。
「自己紹介がまだだったな。俺はマチルダの父親のガイウス・アレン。こいつは俺の妻のイメルダ・アレンだ。」
「僕はルクセリオ公国騎士団シオン隊隊長、シオン・アルザード中尉です。」
「お前にはマチルダが世話になってるし、俺の妻の命を救ってくれた恩義もある。歓迎してやるから、これから暇な時はいつでも遊びに来いや。」
「は、はぁ・・・。」
「それにしてもお前、軍人のくせに線が細ぇなぁ。ちゃんと飯食ってんのか?」
ガイウスはまるでシオンの事を物色するかのように、ジロジロと睨み付けている。
その鋭い視線に、思わずタジタジになってしまったシオンだったのだが。
成る程、確かに線は細いが筋肉の質は良い。曲がりなりにも軍人なだけの事はある。
それに見た目はヘタレそうな優男だが、何気ない動作の1つ1つにも全く隙が無い。
ガイウスは苦笑いをするシオンの身体を見て、思わず感心したのだった。
「何何?お父さん一体何の騒ぎなの・・・って、あああああああ!!」
「おうミハル。お前も知ってるだろ。こいつがマチルダの上官のシオン・アルザードだ。」
「シオンさん!?嘘!?何でうちに来てるの!?」
「ビールを一口飲んだだけで酔っ払っちまったマチルダを、ここに連れて来てくれたんだよ。」
シオンの事を興味深そうに見つめているのは、とても元気一杯の年頃の少女だ。
「私、ミハル・アレンって言います。お姉ちゃんがいつもお世話になってます。」
「ああ、君がマチルダの妹さんなのか。君の事はマチルダから聞いているよ。」
「城下町の女子高に通ってる高校1年生です。これからよろしくお願いしますね、シオンさん。」
ミハルはニヤニヤしながらシオンの隣に座り、ジロジロとシオンの事を見つめている。
いきなりのミハルの行動に、シオンは戸惑いを隠せないでいた。
そんなシオンにイメルダが玄米茶を差し出してくれたのだが、ミハルが物色するかのようにシオンの事を見つめ続けるもんだから、とても落ち着いて飲めやしない。
玄米茶の香ばしい香りが、シオンの口の中を包み込んだのだが・・・今のシオンにはそれを味わうだけの余裕が全然無かった。
「・・・うーん・・・私・・・今まで一体何を・・・」
そんな居間でのシオンたちの騒ぎで目を覚ましたのか、ソファの上で寝かされていたマチルダが、何が何だか分からないといった表情で起き上がったのだった。
何というか、頭の中がズキズキする。ビールを一口飲んでからの記憶が全然無い。
今の自分が置かれている状況を、マチルダはしばらく理解出来ていなかったのだが。
「・・・何で!?何で私、実家にいるの!?」
見覚えのある周囲の景色に、マチルダは思わず仰天して立ち上がったのだった。
慌てて居間にやってきたマチルダが目撃したのは、すっかりミハルに懐かれてしまったシオンの姿だった。
苦笑いするシオンの左腕を両腕でしっかりと抱き締め、身体を密着させて離さない。
何というか、ミハルの豊満な胸がシオンの左腕に当たっていた。
「ちょっとミハル、貴方一体シオン隊長に何やってんのよ!?」
「あ、お姉ちゃんやっと起きた。」
「いや、て言うか、何でシオン隊長がここにいるんですか!?」
シオンに事情を説明されたマチルダは、とても申し訳無さそうに深々と頭を下げたのだった・・・。
「シオン隊長、本当に申し訳ありませんでした!!私を介抱して頂いただけでなく、まさか実家にまで連れて行って下さったなんて・・・!!」
「いやいやいやマチルダ、そんなに頭を下げなくてもいいから!!」
「それで私、シオン隊長に何か失礼な事を言いませんでした!?」
「べべべべべべべべべ別に何も言ってないよ(汗)!?」
「・・・言ったんですね!?私、シオン隊長に何かとんでもない事を言ってしまったんですね!?あれだけシオン隊長に言動に気を付けろって言われてたのに、私ったら・・・!!」
マチルダにはビールを一口飲んでからの記憶が全く無いのだが、シオンの慌てふためいた態度を見る限り、何かとんでもない事を口走ってしまった事だけは確かなようだ。
顔を赤らめたマチルダは、とても恥ずかしそうに両手で顔を押さえたのだった。
シオンもシオンで、マチルダがあの時の事を覚えていなかった事で内心ホッとしたのだが。
(あ~、でも近い内に週刊誌で記事にされるんだろうなあ・・・その時はどうしよう・・・。)
本当に困り果ててしまったシオンなのだった。
「・・・シオン。マチルダ。もう夜遅いから、お前らは今日はここに泊まってけ。」
「お、お父さん、いきなり何を言い出すのよ!?」
「何言ってやがる。お前ら明日は休みだってシオンが言ってたから、別にいいだろ。」
「そ、それはそうなんだけど・・・。」
まさか実家とはいえ、シオン隊長と一つ屋根の下で寝泊まりを・・・!?それを考えるとマチルダは急に恥ずかしくなったのだが、ミハルがとても嬉しそうにシオンの首に両手を回したのだった。
「やったあ!!ねえシオンさん、私と一緒に寝よ!?」
「ミハルあんた、何馬鹿な事考えてるのよ!?」
「だって部屋が空いてないんだもん。だったら別にいいじゃない。」
「大体シオン隊長だって困ってるでしょ!?いい加減シオン隊長から離れなさいよぉっ!!」
「え~?シオンさん、全然困ってるように見えないんだけど~?」
「少しは嫌がって下さいシオン隊長ーーーーーーー(激怒)!!」
何故かシオンはマチルダに怒られたのだった。
ただマチルダを実家に連れてきただけなのに、一体全体どうしてこうなった・・・シオンはもう苦笑いするしかなかった。
「ぼ、僕はそこのソファで寝させて貰うよ。それなら・・・。」
「何言ってるんですか!?軍人なんですから体調管理をしっかりしないと駄目ですよ!!ソファで寝るなんて絶対駄目です!!」
「そ、それはそうなんだけど・・・。」
「だったらシオン隊長は私の部屋のベッドで寝て下さい!!ミハルは私と一緒のベッドで寝るのよ!?いいわね!?」
マチルダにそう告げられたミハルはシオンから離れて、何故かいきなりマチルダに抱き着いた。
いきなりの出来事に戸惑いを隠せないマチルダだったのだが・・・次の瞬間ミハルはニヤニヤしながら、とんでもない事を口走ったのだった。
「え?何何?お姉ちゃん、私とエッチしたいの?レズプレイしたいの?」
「はああああああああ!?何考えてるのよあんたは!?そんな訳無いでしょ!?」
「え~?だってお姉ちゃん、私と一緒のベッドで寝るって言ったじゃん。」
「それは部屋が足りないから、私とあんたが一緒のベッドで寝た方がいいんじゃないのっていう話をしただけあって、そもそも何で私があんたとそんな事を・・・っ!?」
顔を赤らめたシオンを見て、マチルダは物凄く恥ずかしくなってしまったのだった・・・。
「ミハルの言う事を本気にしないで下さいよ!!シオン隊長ーーーーーー(激怒)!!」
最終更新:2016年08月13日 07:43